2014年4月10日木曜日

原理原則を踏まえた大学改革

筑波大学大学研究センター長・ビジネスサイエンス系教授の吉武博通さんが書かれた高い組織能力を構築し、大学改革を根づかせる」(リクルートカレッジマネジメント185/Mar.-Apr.2014)をご紹介します。


大学改革の方向性と方法をあらためて問い直す

臨時教育審議会の提言を受けて大学審議会が設置された1987年や大学設置基準の大綱化が実施された1991年からほぼ四半世紀、大学は改革が必要と言われ続けてきた。特に、百年に一度の大改革といわれた国立大学法人化からの10年は、国公私立大学とも急き立てられるように改革の名の下での諸施策に取り組んでいるのが実情である。

しかしながら、経済界をはじめ社会は大学改革のさらなる加速を求め、それが政府の教育再生実行会議や産業競争力会議の提言となり、法令改正をもって大学ガバナンスの改革を促すなどの動きに繋がっている。

これらの主張や提言の中には表層的かつ一面的と思われる指摘も多く、さらに多面的かつ掘り下げた議論を行う必要があるが、それ以上に、このような形で改革という名の諸施策に取り組み続けることが大学の教育研究や経営の高度化に本当に繋がるのか、冷静に問い直してみる必要がある。

2014年1月からスタンフォード大学に兼務し、3年後には同大学に完全移籍する予定の中内啓光東京大学教授は、日本の研究現場の閉塞感こそがアメリカ行きの真の理由とし、2000年からの10年間で学術論文数が減少していること、国立大学の若手研究者が減少の一途を辿っていることを指摘している(『文藝春秋』2014年1月号 ,388-395頁)。同じような危機感を抱く研究者や大学トップは少なくない。近年の大学改革が研究力の強化に繋がっているのか、むしろ繁忙感や閉塞感だけが高まっているのではないか、データ分析を含めて厳しく検証する必要がある。

大学改革が教育面にもたらした効果の検証は、論文数などで一定の客観評価が可能な研究と違い、より難しいが、教育GPをはじめとする政策面での後押しもあり、多くの大学で種々の取り組みが展開されていることは確かである。それらが、大学や学部・研究科の一部に止まっていないか、学生にどのような教育成果をもたらしているか振り返ってみる必要がある。

舘昭桜美林大学教授はその著書『原理原則を踏まえた大学改革を』(東信堂 2013)において「この様に、大学改革は、行われていないわけではない。それどころか、過剰なほどに行われている。そして、さらに改革を行うという意図も示されている。しかし、それによって大学が新しい軌道に乗った、あるいは乗りつつあるという徴候はみえない」と厳しい認識を示している。

そうであるならば、改革の方向性や方法に誤りがなかったかを問い直してみる必要がある。そうしなければ名ばかりの改革に追われ続け、それに積極的に関わろうとする教職員は疲弊し、そうでない教職員との間の意識や貢献の格差が広がる一方になる。

組織能力はオペレーティング・システム

改革の方向性という点では、内部環境と外部環境を的確に把握したうえで、どのような大学を目指すのか、強みを伸ばし弱みを克服するために何を維持し、何を変えるべきか、といった戦略の明確化と共有が不可欠であるが、共同体的要素と経営体的要素を併せ持つ大学という組織でそれを行うことは容易ではない。

それ以上に難しく、工夫を要するのが改革の方法や手順である。ガバナンス改革、グローバル化、教育改革、入試改革、研究力強化、産学連携、地域連携など様々な課題に手をつけたものの、多くが中途半端な形で終わることを危惧する。これらの課題を方向づけ、具体的な成果に繋げられるだけの組織能力を構築することこそ、大学がいま最も優先的に取り組むべき改革ではなかろうか。

戦略もトップの構想力に委ねるだけでなく、高い能力を有した組織の中で創発的に生み出されることが望ましい。特に大学においては後者の方が現実的であり、実行にも繋がり易いと思われる。

本稿でいう組織能力とはコンピューターに例えるとオペレーティング・システム(OS)に相当し、その確かな基盤の上で、教育研究の質の向上や経営の効率化に向けた活動が展開されることになる。優れた製品やサービスを供給し、高い収益力を誇る企業の競争力の源泉はその組織能力にあると言われているが、そのことは大学にもあてはまる。旧いバージョンのOSに一見目新しいタイトルのアプリケーション・ソフトを次々に載せたとしても機能しない。

組織能力という概念は用いられる文脈によって異なる場合もあるが、本稿では「経営資源の蓄積と活用を通して組織的に価値を創出するための基盤的能力」としたうえで、最初に組織能力は何によってもたらされるかについて考えてみたい。

組織は構成員である人間の能力を引き出し、個々の活動を統合することによって目的を実現する手段であり体系である。従って、組織が有効かつ効率的に機能するためには、組織編成、権限関係、機能分担などの「構造」と、意思決定、部門間調整、情報伝達などの「プロセス」を適切に設計するとともに、構成員である「人材」を育成し、その能力を効果的に活用する必要がある。

そのうえで、「戦略」と「価値観」を共有することで、目的と目標の実現を目指すことになる。なお、ここでいう価値観は組織として重視すべき価値観であり、個々人の価値観の多様性が尊重されるべきであることは言うまでもない。

これら5つの要素のうち、本稿ではより基盤的な性格を有する「構造」、「プロセス」、「人材」の3要素を取り上げ、それぞれの課題と変革の視点を示しながら、改革が根づく土壌づくりのあり方を考えてみたい。

機能本位の発想に基づいて「構造」を組み替える

「構造」という観点から大学の組織を考えると種々の課題が見えてくる。法人と大学、大学と学部、学部と個々の教員、教員組織と職員組織など、全体を一つの組織と捉えられないような複雑さがある。役割や権限の曖昧さ、調整に要する時間と労力、戦略構築に資する企画機能の脆弱性などは、程度の違いこそあれ、多くの大学に共通する課題と考えられる。

このような問題を克服すべく構造の再構築を目指すことは改革の出発点であり、法令改正を含めた大学のガバナンス改革はこれを推進する好機である。

法人と大学、大学と学部、学部と個々の教員のそれぞれの関係を再構築するにあたり最初に行うべきは、個々の教員の研究者としての自律性の尊重を基本にしたうえで、法人、大学、学部、教員のそれぞれが果たす役割と責任を明確にすることである。次いで、それを担うために必要な機能と権限は何かを考え、それぞれに位置づけ、全体の構造を設計するという手順が必要である。

構造の再構築にあたり重視すべきもう一つのポイントは教員組織と職員組織の関係である。例えば、教授会や教員会議において、多くの場合、職員は正規の構成員でないが、招集通知の送付、出欠確認、資料準備、会議設営、陪席、議事録作成などを任される。若い頃ならば訓練機会として有益だろうが、長期間同じような立場に置かれると教員の指示に従うことが職員の責務との意識が染みついてくる。

これらの会議は教育組織としての意思決定の場でもあることが多い。教育は教員だけでは成り立たない。

職員の方が関連法規や設置基準、政策動向に精通していることが多く、職員を参加させることでより豊かな議論が展開される可能性は高いし、自身が議論に加わった会議ならば議事録も主体的かつ要領よくまとめることができる。

大学の主役は教員であり職員はその支援という意識はかつてほど強固でなくなりつつあるとしても、組織や運営は従来の枠組みのままという大学が多い。そのことが職員間の意識格差を広げ、職場活力の向上や意欲のある職員の成長を阻害する可能性がある。

また、大学や学部の戦略構想に係る業務に加え、教育改革、キャリア支援、国際交流、地域・社会連携などの仕事も拡大する一方である。その役割を教員と職員のどちらが担うのか、教職協働か、新たな職種を設けるのかといった議論は、教員組織と職員組織という二分法を前提とするから生じるものである。教員か職員かという職種本位の組織編成から、大学に必要な業務を最も効果的に実施し得る体制は何かという観点に基づく機能本位の組織編成に、考え方を大きく転換する必要がある。

そのうえで、それぞれの組織に適した人材を教員か職員かに関係なく配置すればよい。教員を配置する場合は、教育研究の負担を減らし、新たな業務での貢献を評価に反映する必要がある。このような経験を経た教員の中から大学マネジメントを担う人材が育つ可能性も高い。

「プロセス」に革新的な変化を起こせるか

次に、意思決定、業務処理、組織間調整、情報伝達など「プロセス」の再構築について考える。

意思決定プロセスのポイントは、合議事項と長の専決事項を明確に切り分け、可能な限り長の専決に委ねるとともに、長はより下位者に権限委譲するという方向で見直すことである。そのためには、会議の付議事項や長の権限事項の棚卸しが必要である。

専決化や権限委譲にあたり留意すべきは決定プロセスの可視化であり、どのような意思決定が行われたかをモニタリングできる仕組みを確保する必要がある。

業務処理については、廃止できる業務や簡素化できる業務を洗い出したうえで、必要な業務について標準化を進めなければならない。優れた業績を挙げ続ける企業に共通する要因の一つが標準化である。標準化を試みたものの成果に繋がらないのは、それが中途半端なレベルにとどまっているからであり、徹底できるかどうかが決め手と言われている。

本稿でいうプロセスに革新的な変化をもたらすために、ICT(情報通信技術)の活用は極めて重要な課題である。コンピューターの処理能力の飛躍的向上と機械学習能力の獲得・向上により、機械に置き換え可能な領域が急速に広がっている。データベースさえ整えれば意思決定や日常管理に必要な資料を短時間に作成することも可能になった。これらの技術の活用の度合いによって競争力や生産性に大きな差が生じる可能性がある。働き方や仕事の仕方も大きく変わるはずである。

ICTの高度利用を含めたプロセスの革新が実現できたならば、長期を見通したより高度な企画業務やグローバル化への対応など新たな課題に戦力を大胆にシフトすることができる。

私立大学の実情は十分に把握できていないが、国立大学に関する限り、法人化後10年が経過しても、業務プロセスや仕事の仕方において革新的な変化は起きていない。最先端の手法や事例を貪欲に学ぶ姿勢を持たなければならない。

組織を撹拌することで「人材」の力を引き出す

3つめの要素は「人材」である。ここでは職員を前提にその活用と育成のあり方について考えてみたい。

教育の質の高度化、きめ細やかな学生支援、グローバル化への対応などのコスト増が避けられないなか、職員人件費は一層抑制される可能性が高い。その一方で、職員が担う業務自体も高度化し、広範化しつつある。生産性の大幅な向上なしに両方の要請を満たすことはできない。

生産性の向上を図りつつ、新たな状況や課題に対応し得る人材をいかに育成するか、従来の枠組みにとらわれない大胆な発想の転換が必要である。

そのために必要なことは、職員に求める業務の広がりとその水準を明らかにすることであり、それと対をなす形で、現在の職員の能力と意識を把握することである。ここでいう能力とは3要素とされる知識、スキル、態度であり、意識とは働くことの目的、仕事や処遇への期待、職務適性に関する自身の認識などである。

そのうえで、前述の構造やプロセスの再構築と連動させながら、役職・処遇、業務付与、評価、人員配置、ジョブ・ローテーション、能力開発のあり方などを、自校の実情に合わせて総合的に検討する必要がある。

そのなかでも役職者が処遇に見合う働きをしているかを問い直すことは重要なポイントである。職場の活力や生産性、職員の成長は上位役職者のマネジメントに負うところが大きい。国公私立を合わせた1校当たり専任事務系職員数は100名程度に過ぎず、転勤の機会も限られることから、波風の立ちにくい年功序列的処遇を続けがちである。そのことが組織の硬直化や閉塞状態を招き、中堅・若手層の成長機会を狭めていないだろうか。

このような観点から、階層の圧縮、役割の明確化、厳正な選抜、優秀な人材の早期登用などを検討する必要がある。同時に、複線型人事制度や職能資格にウェートを置いた処遇制度など、部下を率いるか否かに拘らず、能力や貢献により処遇される仕組みの導入を検討すべきである。

組織を超えて課題解決を目指すプロジェクトチーム方式の積極的活用も、組織や人材育成のあり方を大きく変える可能性がある。大学は季節性の高い業務が多い。ピークに合わせて人を配置すれば、どこかで余裕が生じる。その余裕を予め見込んで、戦略・計画の策定、新たな制度やシステムの設計、重点課題の解決などにあたらせれば、企画部門等の人員を最小限に抑えることができる。異なるタイプのリーダーの下、様々な組織から集められた職員や教員と協働することで刺激を受けることもできるし、役職登用以前の人材にプロジェクトリーダーを経験させることで成長を促すこともできる。

人材育成の基本は職場実務を通じた教育訓練(OJT)であるが、それを補完する研修を学外の研修機会を含めて体系化し、計画的に実施することも重要である。

周到な戦略の下に、硬直化しがちな組織を撹拌し、新たな空気を取り入れ、埋もれる力を引き出すことで、今ある人的リソースを最大限に活用することができる。

先に取り上げた舘昭教授の著書のタイトルにある「原理原則」は教育研究や大学の本質に関わるものを指し、本稿のテーマとは異なるが、原理原則を踏まえて、方向性を見定め、中途半端に終わることなく、大学改革を推し進めていくためにも、基盤となる組織能力を高めておかなければならない。

組織能力を高めるためには、自分の組織がどのような状態にあるか、構成員の能力はどれだけ活かされ、どれだけ伸長の余地があるかを的確に把握することから始めなければならない。

上に立つ者に求められる大切な要素の一つに「聴くこと」があると言われている。現場の声を丁寧に拾い上げながら改革に取り組んでほしい。


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