2014年4月14日月曜日

進まぬ学術振興策の議論

「厳しさ増す学術研究環境」(2014年4月12日科学新聞)をご紹介します。


学術研究を取り巻く環境は年々厳しくなっており、このままでは多様な学術研究が衰退してしまうという危惧がある。そのため、科学技術・学術審議会学術分科会「学術の基本問題に関する特別委員会」は、3月から3回にわたって学術研究の振興策について議論を進めてきたが、基盤的な経費の充実が必要というばかりで、十分な打開策を見いだせないでいる。予算の拡充は必要だが、単に学術研究の重要性を主張するだけでなく、明確な自己改革や推進方策を提示することができなければ、納税する側の国民を納得させることは難しい。

学術研究は、研究者個人が自らの内在的な欲求に基づいて行う、真理を探究する知的創造活動である。いわゆる基礎研究や応用研究などといった分類ではなく、その動機によって規定されるため、非常に基礎的なものもあれば、応用研究・開発研究に分類されるものも含んでいる。多くの研究者が主張するように、人に言われてやるのではなく、自らが本当にやりたいと思う研究を実施することから、寝食を忘れて取り組むことができ、結果的に飛躍的な研究成果を生み出すことが多い。

一方、第3期科学技術基本計画(06~10年)の頃から、イノベーション創出が政府の科学技術政策の中心に据えられるようになり、それまでの国立大学法人化・国立研究機関の独法化による運営費交付金などの基盤的経費の削減に拍車をかけ、さらに競争的資金やプロジェクト研究予算の充実など、あらかじめ設定された目標・計画を実施する研究が拡充されてきた。

学術研究という観点からすれば、科学研究費補助金に応募できるようになる前の段階の研究が多様な発想の苗床となっていたが、基盤的経費が減り続けることで、そうした研究の土壌が先細り続けているのが現状である。

また、競争的資金やプロジェクト研究、大学改革補助金など、多様な資金を獲得しなければ研究室の運営が難しくなっているため、1つの研究室で何本もの申請書を書き、別々に区分経理しながら研究を実施し、それらの成果報告書を取りまとめるなど「1年中書類書きばかりしている」という嘆きの声が聞こえるような状況だ。

さらに、それらの申請書を審査するのも研究者であり、実質的な研究時間は年々減り続けている。

こうしたことから、多くの研究者が基盤的経費の拡充が必要だと主張しているが、財務当局などと話をすると「大学運営にも多くの無駄があるのではないか。それらを改善せずに予算を増やして欲しいといわれても難しい」という厳しい現実に直面する。

例えば、某大学には次世代DNAシーケンサーが何十台もあるが、それぞれ別々の研究室で個別に管理されており、効率的な運用がなされていない。それがために、大学院生やポスドクがテクニシャンとしての仕事をし、研究者となるための十分な教育を受けていない。さらに本来のテクニシャンの育成や雇用などの対応もできていない。

一方、熊本大学発生医科学研究所では、12年4月からリエゾンラボ研究推進施設がスタートした。バラバラだった研究機器を集約し、管理と技術支援を行うためのテクニシャンを間接経費で雇用している。研究機器の予約はネットで行え、テクニシャンによる支援や相談も行える。研究者やその卵達は研究に専念でき、また異なる研究室に所属する学生やポスドクが自然と交流できるため、共同研究が進みやすく、各研究室の運営がガラス張りになり、アカハラなども起きにくい。加えて、そうした共通機器が整備されていれば、新たに採用された若手研究者がすぐに研究を始められる。

これは、研究費が厳しい地方大学が工夫している好事例なのだが、欧米の大学や研究所では普通に行われていることである。

また、科研費は制度改正によって非常に使い勝手が良くなっているが、大学の内規によって縛られ、A大学では支出できるが、B大学では支出できないといったことが実際に起きている。人事制度についても、若手や女性が大切だといいながら、研究、教育、社会貢献のいずれでも、十分な実績のない教員の降格など行われることはほとんどないというのが実態だ。

科研費の申請数に応じて分科細目の採択数を決めるシステムは、無駄な応募を増やし、審査の負担を増大させ、さらに審査の質も低下させる。競争的資金の合算使用ができないことは、研究現場に無駄な機器や消耗品をもたらし、経理処理と手間を増大させている。

学術研究を実施する環境については、国の制度や予算の問題、大学の制度の問題、研究者の意識の問題など、様々な課題が潜在している。これらをどのように改善していくのか、真正面から捉え、その上で基盤的経費の充実を求めなければ、財政当局や国民を納得させることは難しい。

基本問題特別委員会では5月までに一定の取りまとめを行うという。それまでにどの程度、具体的な改革案を示すことができるのか、今後の議論を見守っていきたい。

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