2014年6月14日土曜日

教職協働とキャリアギャップ

桜美林大学大学院・大学アドミニストレーション研究科教授の山本眞一さんが書かれた教職協働と職員のキャリアパス」(文部科学教育通信 No341 2014-06-09)をご紹介します。


教職協働の難しさ

先月末、愛媛大学で開催された「次世代リーダi養成プログラム」において、3時間の講義を行った。私はここ数年、このプログラムの講義に関わっているが、受講する職員の意欲が極めて高いことに感心させられる。このプログラムは、四国地区の4つの国立大学をコアとし、それぞれの県内の高等教育機関を含め33校からなるネットワークを形成して「学生の豊かな学びと成長を支援する、実践的力量をもった高等教育のプロフェッショナルを四国から輩出する」ことを目的とするSPOD(四国地区大学教職員能力開発ネットワーク)が行う活動の一環である。平成20年に発足し、現在ではFD、SDに関わるさまざまな活動を幅広く行っている。詳しくは、このネットワークのホームページがあるのでご覧いただきたい。

私は、「時代の激変と大学の将来」と題した高等教育政策論の講義を通じて、大学の役割の重要性を述べ、また大学職員の自覚と能力開発の必要性に触れた。その際にいくつかの質疑応答があったが、その中で「教職協働は重要だとあちこちで言われているが、われわれ職員は教育・研究を本務としているわけではないので、どのようにして教員たちの活動に関わるべきかを教えてほしい」という趣旨の質問があった。私は、この質問が職員のこれからの役割の在り方そのものに関係する重要な質問だ、と直感的に思ったので、「職員は教育・研究そのものに関わるものではないが、そのことと密接に関連する仕事はいろいろあるので、それに職員が関わることによって、教員とともに大学をより良くしていくように努力すべき」という意味の応答をした。

考えてみれば、法人化以前において、職員は職員、教員は教員の世界があって、とりわけ国立大学において、職員は公務員制度の下で、他省庁でいえば国の出先・・・機関の事務を執り行う職場という性格が強かった。他方で、教員は教育公務員特例法に手厚く守られつつ、教授会によって管理されるアカデミックな組織体の一員であって、彼らの目から見れば、職員は彼らの活動を支える事務員、あるいは彼らの活動を監視する行政官としか映っていなかったのかもしれない。規則通りに事を運ぼうとする職員と創意工夫を生かしたい、あるいは好きなように振舞おうとする教員との不毛な対立の素地はその辺りにあった。

法人化後、大学は教員だけの世界ではなく、職員も巻き込んだ一種の運命共同体になった。非公務員化の中で、職員も大学という組織の一員となり、外部から来る「異動官職」の管理職もかつてに比べると減り、その代わり内部登用で課長や部長に昇進する職員も目につくようになってきた。職員の活躍の可能性が大きく開かれた点は、法人化による正の側面の代表例であろう。

キャリアパスの差を考える

しかしながら、いきなり教職協働と言われてもなかなかすぐには進まないであろうし、あるいは前述の質問のように教員と同じ立場で教育・研究に関わるわけにもいかないだろう。現に私が3年前に行った全国実態調査によっても、職員の大多数が教務系業務の教職協働を望んでいるのに対し、教員の4割はこのことに積極的ではない。逆に教員の多くが総務系業務こそ教職協働で、という意見であるのに対し、職員はそうは思っていない。このような意識のギャップは、業務の性質による差異であろうかと思うが、それならばどのような点で業務の性質に差異があるのであろうか。

おそらく、一つ一つの業務にはそれほどの差異はあるまい。たとえ教務系の業務であっても、それは教育・研究そのものではなく、大学が学生に対して、あるいは社会に対して行うサービスとして捉えるべきものであるから。私が思うに、その意識のギャップは教育・研究の業務を行うプロとしてのキャリアの差にこそ求められるのではないだろうか。図表(略)をご覧いただきたい。国立大学における教員と職員の典型的なキャリアパスを示してみた。教員にとって20代は大学院およびボスドクとしての訓練の期間である。近年それが30代前半にまで伸びつつあるが、30代半ばまでには概ね将来につながる大学教員としてのポストに就くであろう。40代には准教授、50代は教授というのが一般的で、その中から幾人かは部局長や副学長・理事などの管理職について意思決定に関わるであろう。

一方、職員の方は、高卒の場合は18歳まで、大卒の場合でも概ね20代前半には訓練期間は終わり、大学に就職して実務に就く。後は研修や自己学修によるオンザジョブ・トレーニングである。また意思決定に関われる管理職に到達するまで、相当の年限を要し、一部の者が50代で管理職に登用されるのが実態である。なお、38歳で課長職、40代半ばで部長職という従来の異動官職はこれと異なるキャリアパスであるが、それは別である。

このことから分かるのは、教員と職員とは職務内容が異なることはもちろんであるが、職務を遂行するための基礎的訓練期間が、前者では学士課程から博士課程そしてその後に至る10年間以上に及ぶのに対し、後者の場合は大卒でもその訓練期間は4年間であること、前者は委員会や教授会などを通じて40代には意思決定プロセスに参画しうる立場になるのに対して、後者の場合は立場到達が遅く、しかも一部の者に限定されることである。

問題解決の有能人材を目指す

教職協働を目標共有して行う両者の共同作業であると解するならば、前述の差異を少し近づけてみる努力が必要である。これが教員と職員とめ対等な関係を支える大きなバックグランドになるであろう。例えば、職員の訓練に大学院在学というオプションを積極的に取り入れ、在職期間の比較的早いうちに、できうれば30歳前後に基礎的かつ集中的な訓練期聞をとることも一考であり、また、内部登用によって管理職に引き上げる年齢も、これまでの異動官職の例にならって、適任者はうんと早く実現することも有効ではないか。

それが直ちには困難であるとしても、以下の3つのことは現実的な解としては有効であろう。ぜひお考えいただきたい。

  1. 学長や理事、部局長のブレーンとしての職員を目指す。意思決定の権限は役員や管理職にあることを認め、彼らの意思決定を助ける知恵袋として知識と腕を磨くことである。
  2. 専門職として、教育・研究活動の円滑化に資するような仕事をする。例えば、地域貢献、政策対応、国際交流や知財処理などの専門的実務に優れた能力を発揮できるような職員を目指すことである。ただし、職員数が限られることから、いわゆる単能的な専門職は難しいかもしれない。
  3. 問題解決の有能人材として、あらゆる部署において、懸案を解決に導ける企画分析能力と実行力を身につけること。これは、前述2.よりは広い概念の専門職であり、かつ実際には1.のような立場で仕事ができる職員である。