2014年8月12日火曜日

金さえあれば学生が集められるシステム

井上久男さん(ジャーナリスト)が書かれた平安女学院大学、倒産寸前から再生で就職率100%達成 “大学のゴーン”が狙う次の一手」(2014-07-08 Business Journal)をご紹介します。


弱肉強食といった「強欲資本主義」の流れが私立大学の経営にまで及んできている。学生数が多い、規模の大きな大学が、巨額の入学検定料や学費収入を使って展開する過大な宣伝広告によってさらに学生をかき集め、それがさらなる入学検定料や学費の増大につながるといった好循環を生み出す。定員充足率が高く、資金が豊富にある大学ほど文部科学省の補助金が手厚く行きわたる制度に変更されており、なんのための補助金かという意義も問われそうだ。

その一方で、規模の小さな大学はまったく逆のパターンである、学生数の減少→収入減→宣伝できないことによる認知度低下→学生数減少(定員割れ)→補助金削減といった悪循環に陥っている。

少子化による学生数の減少というマクロ的な問題を抱えている中で、学生の奪い合いが起こり、資金力のある大学が施設の改良や宣伝面も含めたさまざまな戦略に取り組み、少ないパイを奪っていく流れは仕方ない面もある。さらにいえば、経営努力の足りない私学が淘汰されていくのも時代の流れであろう。

しかし、あまりにも今の流れは、都会にあるマンモス大学の「強者」だけしか生き残れない流れが加速しすぎている。経営努力をして特色ある教育も実施していながら、規模が小さく地方にあるというだけで、その存続が危ぶまれかねない私学が出始めているのだ。果たしてそれでよいのか。大学は、教育と経営の両方がわかる専門性の高い人材が運営していく「社会的共通資本」であり、決して市場の論理だけで淘汰されてよいものではないはずだ。優れた「松下村塾」的大学を潰してはならないのではないか。

こうした流れに対して問題提起するのが、京都市内に本拠を構える学校法人・平安女学院大学の山岡景一郎理事長兼学長だ。山岡氏は2003年に理事長に就任。経営破たん寸前だった同大学を、大胆なリストラと、教育を受ける立場から見てのカリキュラム改革や学部再編などを通じて見事再生させ、就職率の高い大学として評価を得てきた手腕がある。「私学業界のカルロス・ゴーン」と呼ぶ人さえおり、山岡氏から大学再生のノウハウを得ようとする私学経営者も増えている。公益財団法人・私学経営研究会が14年4月に発行した「私学経営」という雑誌には「常識破りから始める私学の賃金問題~平安女学院大学における人事政策~」と題する山岡氏の講演要旨が掲載、改革の詳細なプロセスが紹介されているが、まるで企業再生そのものを見ているようで興味深い。

ただ平安女学院もご多分に漏れず、弱小私学であり、現在はマンモス大学の狭間で学生数の獲得に苦しんでいる。山岡氏の経営手腕をもってしても、「厚い壁」となっている。そこで、山岡氏は、地方を含めて特色ある私学と連携し、「小規模大学連盟」を結成、文部科学省などに対して、マンモス大学優遇策の見直しなどを訴えていく動きに出ている。

そこで、山岡氏に、私学経営の現状や「小規模大学連盟」結成に動く狙いについて聞いた。

●働かない教員を退場させた平安女学院
平安女学院の理事長に就任して、どのような改革をされてきましたか?

山岡景一郎氏(以下、山岡)

私が就任した頃は巨額の財政赤字で潰れる寸前、いや実情は潰れていました。そんな状態でも違法な借金をして、京都市内でも断トツの高額な給与を教職員に払い続け、退職金も高水準でした。労働組合管理の経営だったといっても過言ではないでしょう。そして、教育も研究もろくにしていない教員が多くいました。そこに私はメスを入れたのです。

私は、不平だけ言って教育熱心でない教員には退場してもらいました。大学でいったん教員の身分を得られれば、不祥事でも起こさない限り、働かなくてもクビになることはありませんので、教員の大整理はこの世界にとって珍しいことです。だから日産のゴーン社長と対比されているのかもしれません。さらに、優れた人材を採用する権限が理事会になく、教授会が学問の自由を盾に教員の採用権を持っていました。これも覆しました。誰を採用するのかは学問・教育上だけではなく、大きな経営マターです。だから理事会が決定権を持つようにしました。

こうして財政改革、組織改革をしながら、大学の本分である教育改革に着手しました。その内容は、一言でいえば、特色ある教育の展開です。率直に申し上げて、平安女学院は偏差値の高い大学ではありません。しかし、誰もが東京大や京都大のように偏差値の高い大学に行けるわけではありません。うちの大学に来てくれた以上、立派な社会人になれるような素養を身に付ける教育を徹底しようと考えました。

立派な社会人とは、大企業に就職することだけではなく、立派な親になれる素養をもった人間だと私は思っています。うちは女子大学ですから、立派なお母さんになれる人材を育てたいと思っています。明るくて気配りができて、思いやりがあり、我慢強く、献身的な努力ができるような人材のイメージです。平安女学院では「貴品女性」という大学のブランドをイメージするような造語をつくり、そのような女性になるために、実学と教養教育を強化し、お茶やお花など文化や歴史を学ぶ講義も重視して展開しています。財政が厳しい中、旧有栖川宮邸を買い取り、そうした講義などに活用しています。

教養教育重視は、今の日本の大学教育で欠けている部分だと思います。平安女学院ではこうした教育を強化した結果、卒業生は積極性とコミュニケーション能力が高く、責任感も強い人材が多いと社会に評価され、それが就職率向上につながりました。現在の就職率は2年連続で100%です。


●税金使ったマンモス大学優遇に喝
-最近では「小規模大学連盟」の立ち上げ活動の中心となり、文部科学省などに対して、小規模大学の生き残り支援を訴えていますが、この活動の狙いはなんですか?

山岡

私学は経営陣と教職員が一体となって自助努力をして経営の安定化を図ることが大前提であるという考えに、変わりはありません。しかし最近の流れを見ていると、資金力が豊富なマンモス大学しか生き残れないような政策にあまりにも傾いており、率直に申し上げて、小規模大学を潰しにきていると感じます。個々の経営努力の範疇を超える課題だと感じており、果たして日本の大学教育の在り方はこれでいいのかという問題意識がありますので、活動していきたいと思っています。

私が感じている問題点をいくつか挙げましょう。マンモス大学は、複数学部を受験させることで、受験料収入が数十億円に上ります。その収入を使って新聞、雑誌、テレビなどのメディアに広告宣伝を打ち、学部を増やして学生をかき集めていますので、さらに受験料収入が上がります。小規模大学はそうした分野に資金を投入できないのが実情です。競争は大切ですが、実態は健全な競争ではなく、金さえあれば学生が集められるシステムになっていることに疑問を感じます。

文部科学省の各種審議会などのメンバーには、こうしたマンモス大学の教員や理事が就くので、小規模大学の実情が教育行政に伝わりにくくなっています。また、補助金政策も変わり、大学の教育などの特色を判断して交付される特別補助金が大きく減額され、その代わりに教員数・職員数・学生数に応じて配分される一般補助金が増えています。補助金の使用について大学側の裁量を広げていく狙いでしょうが、これだとマンモス大学がさらに有利になり、特色ある教育をしている小規模大学は完全に不利です。日本高等教育評価機構(JIHEE)という公益財団法人が大学のカリキュラムなどを審査していますが、その審査でもお茶やお花などの特色ある講義は評価の対象になっていないこともおかしいと思います。

前述しましたように資金力不足から学生獲得競争に負け、定員割れを起こすと、補助金を削減する動きも強化されています。一見、もっともらしい補助金政策に見えて、資金力の強いマンモス大学しか生き残れない政策を加速させているとしか私には映りません。産業界では、中小企業庁などが置かれ、大店法や中小企業分野調整法等があり、中小零細企業に対して保護・支援の政策的な配慮がなされていますが、大学にはそのような措置が取られていないことに疑問を感じます。

繰り返しますが、私学は自助努力が重要です。しかし、その自助努力を支援するのではなく、邪魔するような政策を国がしているのではないかと思う時さえあります。このままだと、街の八百屋さんや魚屋さんが廃業して、大手スーパーやコンビニエンスストアだけしか生き残れなくなったのと同様に、大学業界もマンモス大学だけになってしまいます。

-「小規模大学連盟」は、今後どのような活動をしていきますか?

山岡

巨額の宣伝広告費をバックにマンモス大学は学部を新設して定員を増大させていますが、その抑制を求めていきたいと思います。大規模大学の新学部設置については、大店法規制のように小規模大学の意見聴取を行う制度の設置なども提唱したい。また、マンモス大学の宣伝広告費の財源は受験料収入だけではなく、一部補助金も充当されています。税金を使ってマンモス大学が学生集めをしているわけであって、ここは国民の批判の対象になるでしょう。広告宣伝費の自主規制制度の設置も呼びかけたい。定員割れとなれば補助金を削減する傾斜配分政策も見直してもらい、経営努力をしながら特色ある教育をしている大学は、定員割れでも補助金を継続してもらうことも訴えていきたいです。

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