2014年8月29日金曜日

大学図書館の使命

国立国会図書館が運営するサイト「カレントアウェアネス・ポータル」からMOOCを活用した図書館での大学レベルの学習機会の提供」(2014-08-28)をご紹介します。


MOOCとは、大規模公開オンライン講座の総称である。大学レベルの講義動画をウェブ上に公開することで、どこでも、誰でも、無料で受講できる。しかしまだ課題はある。無料とはいえ受講するにはコストがかかるのである。それは、ウェブに接続するコストや受講機材を手に入れるコスト、機材を使うスキルを習得するコストである。これらのコストが学びの障壁となっている。

この課題の解決には、図書館が受講環境を提供することが有効ではないか。誰もが自由に利用できる図書館(特に公共図書館)では、多くの場合、ウェブ上の情報を閲覧できるよう、インターネット回線や閲覧用のPCを提供している。そこでMOOCを提供すれば、ウェブに接続できない人も、PCを用意できない人も、大学レベルの講座を受講できる。また職員による機器操作支援も受けられる。しかも図書館には多くの資料がある。講義で疑問に思ったことをより深く学ぼうとしたときに、すぐに関連資料を手に入れられる。

アカデミック・リソース・ガイド株式会社は2014年7月、指宿市立指宿図書館(鹿児島県指宿市)とくまもと森都心プラザ図書館(熊本県熊本市)と共同で、両館においてMOOCの試験提供を開始した。指宿市には大学がない。同市の子どもは、高校卒業後、大学へ進学するためには地元を離れざるを得ない。大学を卒業して地元に帰ってきたとしても、学び続けることは困難である。子どもが安心して地元に帰ってくるためにも、学びの環境の整備が課題となっている。また県庁所在地である熊本市でも、東京や大阪などで開催されるようなセミナーは、移動にかかるコストなどが障壁となり、簡単には受講できない。このような教育の地域格差に直面する地方都市にこそ、MOOCが重要なのである。生涯学習の拠点となることを掲げ既に様々な企画を実施している両館にとって、MOOCの提供は大きな可能性を秘めたサービスである。

図書館で提供するMOOCのプラットフォームには、株式会社NTTドコモとNTTナレッジ・スクウェア株式会社が提供するgaccoを採用している。gaccoは、2013年に設立された一般社団法人日本オープンオンライン教育推進協議会(JMOOC)の公認を受けたプラットフォームである。ただし2014年2月に開始されたサービスのため、多くの講座は準備中であり、また閉講した講座は受講できないため、利用者が同時に受講できるのは1、2講座という状況であった。そこで今回の図書館での提供にあたっては、既に閉講になった講座も受講できるように特別に取り計らってもらっている。

MOOCの提供のため、館内にキハラ株式会社製の専用ブースを設置し、PCとタブレットを置いている。機器類を持たなかったり、操作が苦手であったりする人でも簡単に利用できるようにしたものである。ブースに座り、PCやタブレットに表示されているgaccoのサイトから好きな講座を選択すれば、すぐに受講できる。またブースがあることにより、オンラインサービスであっても存在が認知されやすい。実際、物珍しさから機器を操作してみる方も少なからずいるようである。

また、図書館資料と講座のつながりも意識している。図書館の書架とウェブ上の情報をつなぐサービス「カーリルタッチ」を利用して、書架のテーマに関連した講座をタブレットやスマートフォンからアクセスできるようにしている。gaccoを知らない利用者でも、書架の関連情報として、講座の情報が得られる。

試験提供の開始にあたり、7月15日にプラザ図書館で、16日に指宿図書館で、体験会を開催した。告知期間も短く平日開催でもあったが、行政関係者や図書館に関心の高い市民など、どちらも10名程度の参加があった。なかには、遠方から泊りがけでの参加もあった。イベントの様子は地元紙やテレビで取り上げられ、関心の高さがうかがえた。

8月10日(プラザ図書館)と16日(指宿図書館)には、gaccoの講座「オープンエデュケーションと未来の学び」(重田勝介・北海道大学准教授)に関連したセミナーを、喜多敏博・熊本大学教授を講師に開催した。MOOCの講座の受講を参加の条件としていないため「関連セミナー」と位置付けているが、講座受講者にとっては「反転学習」に近いものである。

図書館におけるMOOCの導入は、コンテンツを個人に提供することにとどまらず、反転学習や関連セミナー開催、受講者同士のコミュニケーション(MeetUp)の場を提供していくことにもつながる。今回開催した関連セミナーでは、小学生を含む15名から20名ほどの参加者が、MOOCの受講や図書館を活用してのMOOCの利用について意見交換を行った。

図書館はこれまで、書籍を中心に資料を提供してきた。しかし、昨今はウェブ上に動画で学びのコンテンツが提供されている。せっかくの学びのコンテンツを活用しない手はない。書籍に限定せず多様な情報コンテンツを組み合わせ、学びたい意欲を持つすべての人に届けてこそ、これからの情報社会の中で、情報を必要とする人へ必要な情報を提供する図書館の使命を果たせるのである。

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