2014年9月2日火曜日

手間暇を惜しんではいい人材を育成することはできない

ブログ「教授のひとりごと」から才能に水を 芽に光を」(2014年08月25日)をご紹介します。


日経新聞(8/20付け)の「春秋」欄にあった記事。
世界で1番バナナの輸出量が多い国はどこか。フィリピンではない。南米のエクアドルである。ガラパゴス島で有名なこの赤道直下の小さな国で、バナナ農業に一大革命を起こした日本人がいる。広さが東京ディズニーランド7個分の大農場を経営する田辺正裕さんだ。

父親に連れられ、高校生だった47年前に日本から移住した。麻の栽培からバナナへと手を広げたが、ある時「バナナは農産物ではなく工業製品になってしまった」と気づく。農薬や化学肥料をふんだんに使えば短期で成長し、大手企業がどんどん買い取っていく。でも誰がつくっても同じなら、農業の付加価値は先細りだ。

そこから孤独な戦いが始まった。茎や葉を発酵させて肥料を作り、ミミズを育てて土を豊かにする。コストは通常の2倍近くかかる。一緒にやろうと地元農家も誘ったが、手間のかかる農法に目を丸くするばかりで、誰もついて来なかった。そのバナナが日本で100円以上で売れている。1房ではなく1本の値段である。

たかがバナナ。されどバナナ。丁寧に育てれば、味と香りは格段に良くなる。買いたたかれず、高くても売れる人気商品となる。日焼けした田辺さんは仕事が楽しそうだ。田辺農園の成功は、1次産品の輸出に頼るエクアドル経済に一石を投じた。日本国内の農業はどうだろう。消費者を驚かせる経営の革新に期待したい。

日本のスーパーでは、まるで工業製品のように寸法が揃った野菜などが販売されていると感じる。それも一つ一つパックに詰められて。海外に行くと、野菜などは計り売りが多い(と思う)。実際にできる野菜などのサイズにはいろいろあるのが普通だ。規格に合わなくても、農薬などを使っていないとかなどの付加価値があれば、買いたい人はいるだろう。

もう一つ、同じ新聞の1面に「革新力グーグル」という記事もあった。

「本当に破壊的なイノベーションはトップダウンでは生まれない。どちらかというと農業に近い」。ブラウザー「クローム」などの開発を担当する副社長のライナス・アプソンは話す。

グーグル社員の4割近くがエンジニア。
「マネジメントの役割はよい土を作り、水と日光を十分に与える。よい芽が出たら見逃さずに伸ばすこと」。

無料の食堂からスポーツジムまで働きやすい職場作りにこだわる理由はそこにある。人材採用には今も徹底してこだわる。人事部門に届く履歴書は年間200万通以上。機械は使わず全て人が目を通す。最近は年5千人以上採用しているが、共同創業者で最高経営責任者(CEO)のラリー・ペイジとセルゲイ・プリンは今でも採用予定者一人一人を自分たちでチェックする。実力本位で年齢不問。最高齢は83歳のエンジニアだ。

実家は兼業農家だったので、農繁期には手伝いをしていた(正確には、させられていた)。いい米をつくるには、土作りが基本であるが、毎日、稲の状況を確認しなければならないし、それに応じて水量などの調整をすることが必要だ。台風がきたり、大雨が降ったりすると、田んぼの状態を確認をする必要もある。農業は本当に手間がかかる。そうしないと良い作物はできないのだ。

大学における教育でも、企業でのイノベーションでも、いい土(環境)をつくり、その環境で成長できるように水や日光を与えることが必要となる。教育の現場では、水や日光は、授業であり教員とのコミュニケーションとなろうか。多様性を持った人材を育成することは画一的な手法ではできない。教育も農業と一緒ではないか。手間暇を惜しんでは、いい人材を育成することはできない。