2014年9月4日木曜日

教育の格差

過日、子どもの貧困対策大綱が閣議決定されました。しかし、中身のない不十分な内容との論調が多く、政策の実効性に疑問が投げかけられています。

日本では今、家庭の経済状態により享受し得る教育の格差が生まれています。教育の機会均等を損ねる大変深刻な問題です。教育は、「社会保障」でもあり「安全保障」でもあります。

国民的な課題として真摯に取り組まなければなりませんね。

関連記事をまとめてご紹介します。


「子どもの貧困 教育の機会を均等に」(2014-08-24 毎日新聞)


子どもの貧困率が年々悪化し、国民生活基礎調査では2012年に16.3%と過去最悪を更新した。経済協力開発機構(OECD)やユニセフの調査でも日本の子どもの貧困率は高い部類に属する。政府は必要な政策をまとめた大綱を近く閣議決定するが、現状を放置することは許されない。どのような家庭環境に生まれた子にも未来への機会が開かれている社会にしたい。

子どもの貧困率とは、平均的な年収の半分を下回る世帯で暮らす17歳以下の子の割合を指す。食べ物や着る物がないという絶対的貧困率とは異なるが、教育機会や文化的体験の格差が著しく、実質的に子どもの成長に大きなハンディとなることが問題視され、重要な政策課題として先進国で取り組まれている。

貧困率が高いのは一人親世帯で、その大半は母子世帯である。賃金水準の低い非正規雇用の親が多く、保育所不足もあって働く時間も制限されている。就労につなげることで貧困から脱する政策を取る国が多い中、日本は仕事をすることが貧困解消にならない特殊な状況が指摘されている。非正規雇用の抜本改革が迫られている。

もともと日本の社会保障政策は年金や介護など高齢層に支出が集中しており、児童手当など家庭関係への支出が諸外国に比べても極端に少ない。今回の消費増税でようやく消費税の使途に「子育て」が加えられたが、これまでは税や保険による所得再分配の効果は母子家庭にはむしろマイナスの状態だった。

大学や大学院の高等教育について給付型の奨学金が充実し、授業料が無料あるいは低額の先進国は多いが、日本は高等教育を受ける子への公的支援がほとんどない。授業料が高く、進学率は親の収入に強く影響される。奨学金も返済型がほとんどで、卒業後に返済に苦しむ人が多い。


英国のように貧困率の数値目標を示して改善に成功した国もあるが、現金給付をしないと直接の効果が乏しく、財源不足のため政府内には慎重な意見が強い。それならば、高校や大学の進学率の数値目標を示してはどうか。貧困家庭の子どもの進学率は一般に比べて著しく低い。高校や大学・大学院の授業料の無償化や給付型の奨学金を拡充して、進学意欲があり努力する子を支援するのである。

財源には相続税や高収入層の年金給付の一部を充てるべきだとの意見もある。孫の教育資金を一括贈与すると贈与税が一部非課税になる制度には多数の利用者が集まっている。直接血のつながりがなくても孫世代の教育機会の均等について考えてはどうだろう。貧困家庭の子どもが進学できない社会に未来はない。


子供の貧困大綱を閣議決定(2014年8月.29日 産経新聞)

政府は29日の閣議で、貧しい家庭の子供の教育や生活を支援するため、「子供の貧困対策に関する大綱」を決定した。親から子への「貧困の連鎖」の解消を目指し、小中高校に配置する社会福祉士らの増員、無利子奨学金の充実などを盛り込んだ。親に対する就業支援や、高校を卒業していない保護者の高卒認定試験合格支援も打ち出している。

厚生労働省の調査では、平均的な所得の半分未満の世帯で暮らす18歳未満の子供の割合を示す「子供の貧困率」は、平成24年時点で過去最悪の16・3%。大綱は「貧困が世代を超えて連鎖することのないよう、必要な環境整備と教育の機会均等を図る対策は極めて重要だ」と指摘した。

主な取り組みとして、学校に配置する社会福祉士などの専門家(スクールソーシャルワーカー)を現在の1500人から1万人に増員し、教員OBらによる無料学習支援を受けることができる中学校を700校から5千校に増やす。

教育費負担の軽減に関しては、大学生向けの無利子奨学金の充実や、奨学金の返済月額を所得に応じて軽減する制度を検討する。また、3~5歳の幼児教育の無償化を「財源を確保しながら段階的に進める」とした。

さらに、ひとり親家庭の保護者の13・8%が最終学歴が中学卒であるというデータから、親の「学び直し」の支援が就業拡大につながるとみて、高卒認定試験合格のための通信教育費などを一部支給する。

一方、大学生と専門学校生を対象にした返済義務のない「給付型奨学金」創設は、財源確保のめどが立たないため見送った。

政府は施策の効果検証や経済情勢の変化を踏まえ、大綱を約5年ごとに見直す。



すべての子供が、親の経済状況に関わりなく、将来を切り開いていける社会を実現したい。

政府が、子供の貧困対策の具体的内容を定めた大綱を閣議決定した。1月に施行された「子どもの貧困対策法」に基づき、今後5年間の重点施策を示したものだ。

日本の子供の貧困率は、2012年に過去最悪の16・3%に達した。所得が標準的な水準の半分に満たない世帯で暮らす子供の割合で、ほぼ6人に1人にあたる。先進国の中では高い水準だ。

貧困家庭の子供は、成長した後、自らも経済的に困窮しやすい。大綱が「貧困の連鎖」の解消を基本理念としたのは妥当である。

特に力点を置いたのが、教育の支援だ。無利子奨学金やボランティアによる学習支援の拡充などを挙げた。学校を支援の窓口と位置づけ、福祉機関とのつなぎ役となるスクールソーシャルワーカーを大幅に増員する。

実態を把握するための指標として、生活保護世帯の子供の進学率や就職率など25項目を選び、対策の効果の検証に用いる。

既存の施策が多く、目新しさには乏しいものの、政府が初めて総合的な対策を策定した意義は小さくない。国と自治体が連携し、着実に実施する必要がある。

子供の貧困を巡っては、進学を断念したり、修学旅行や部活動に参加できなかったりするケースが目立つ。3食を満足に食べられない、必要な医療を受けられないといった深刻な例もある。

とりわけ苦境にあるのが、ひとり親世帯で、貧困率は54・6%に上る。その大半は母子家庭だ。

シングルマザーの8割は働いているが、なかなか貧困から抜け出せない。子供がいると正社員になりにくく、低賃金の非正規雇用で働く人が多いためだ。母子世帯の就労による年収は、平均181万円にとどまる。

親の所得アップは欠かせない。大綱に盛り込まれたシングルマザーなどへの就労支援を一層、充実させることが求められよう。非正規雇用の処遇改善はもちろん、正社員への転換促進など、雇用全体の見直しも必要だ。

大綱では、子供の貧困に関わる数値目標を設定しなかった。対策の実効性を高めるうえで、今後の検討課題だろう。

貧困のため、子供が能力を発揮する機会を奪われるようでは、日本の将来にとって損失だ。貧困の解消は、社会全体で取り組まねばならない問題である。


子ども貧困大綱 改善の数値目標を示せ(2014年9月1日 東京新聞)

あまりの中身のなさにがくぜんとする。閣議決定された子どもの貧困対策大綱には、当事者らが強く求めていた施策の多くが盛り込まれなかった。せめて貧困率削減の数値目標くらいは示せ。

一日の主な栄養源は学校の給食のみ。貧しさから進学をあきらめざるを得ない。そんな子どもたちが少なくない現状だ。

平均的な所得の半分(年百二十二万円)を下回る世帯で暮らす子どもの割合である「子どもの貧困率」は二〇一二年、16・3%と過去最高だった。ひとり親世帯での貧困率は54・6%。ともに先進国の中で最悪の水準だ。

大綱は「子どもの将来が生まれ育った環境で左右されることのないよう、必要な環境整備と教育の機会均等を図る」とうたう。立派な理念は並ぶが、具体的な施策は既存の事業をまとめただけだ。

大綱の策定を義務付けた子どもの貧困対策推進法は昨年六月、全会一致で成立した。与野党超えた全党が、喫緊に取り組まなければならない課題という認識を共有したのではなかったのか。

当事者や有識者が参加する政府の検討会は四回開かれた。当事者らが求めていたのは、貧困率削減の数値目標の設定のほか、ひとり親世帯への児童扶養手当、遺族年金の支給期間の延長や増額、返済の必要のない給付型奨学金の充実などだった。

政府は、貧困率のデータには、資産などが勘案されておらず、実態を反映していない、などの理由で数値目標の導入を見送った。児童扶養手当や給付型奨学金の拡充は財源確保の問題に加え、「施策の効果をよく検討しなければいけない」として退けた。

経済的に苦しい家庭の子どもに給食費や学用品代を補助する「就学援助」は、生活保護が引き下げられたことに連動し、一四年度、七十余の自治体が支給対象の所得基準を下げた。子どもの貧困対策に逆行している。

「私が死んで保険金でももらった方が、子どもはお金の心配をすることなく大学に行ける」。民間支援団体のアンケートに、栃木県に住む四十代シングルマザーはつづった。

英国では、一九九九年、当時のブレア首相が、子どもの貧困撲滅を打ち出した。数値目標を掲げて、多くの施策を打った結果、貧困率の削減に成功した。

日本の政府は熱意に欠ける。政治主導で最優先に取り組むべき課題だ。


時論公論 「子どもの貧困をなくすために」(2014年08月30日 NHK解説委員室)

子どもの貧困対策の基本方針となる大綱が、きのう、閣議決定されました。ただ、6人に1人の子どもが貧困に苦しんでいる厳しい現実に立ち向かうには、示された対策では不十分です。その理由も含めて、今夜は、貧困対策の課題について考えます。

まずは、こちらをご覧ください。これは、日本の子どもの貧困率の推移です。

厚生労働省によると、子どもの貧困率は、おととしは16.3%となり、過去最悪を更新しました。

この16.3%という数字ですが、国民の平均的な所得の半分に満たない世帯で暮らしている17歳以下の子どもが全国で300万人あまり、6人1人の割合でいることを示しています。

数字ではイメージが湧かないかもしれませんが、貧困世帯にいる子どもたちは、子どもなら、あって当然と思われているモノが無かったり、経験する機会を奪われたりして様々な不利益を受けています。

例えば、いま学校では、給食費や学用品代、それに、修学旅行費を支払うことができない家庭が増えています。そうした費用を市町村が肩代わりして支給する「就学援助」を受けている小・中学生は155万人(平成24年度)に増え、15年で2倍になりました。

また、文部科学省が去年、小・中学生を対象に行った全国学力テストの結果を分析したところ、親の所得が低い子どもに比べて、所得が高く、学習塾など学校以外の教育費の支出が多い家庭の子どもほど、成績が良いことが明らかになりました。親の収入によって子どもの学力にも差が出ているのです。

こうした子どもの貧困の状態が深刻なのが「ひとり親世帯」です。
働いて得られる年収が、平均で180万円ほどしかない母子世帯など、ひとり親世帯では、貧困率が54.6%と半数を超え、2人に1人の子どもが貧困状態にあります。これは、先進国の中では最悪の水準です。

ひとり親世帯が増えていることに加えて、賃金が低い、「非正規労働者」が増え、はたらく親の所得が減っていることが子どもの貧困率を押し上げています。

こうした貧困世帯の子どもは、塾に通いたくても、通えないなど学習面で不利な状況に置かれ、学力不足で高校進学を諦める生徒や、進学しても授業について行けずに中退する生徒が数多くいます。

貧困が学力の低下をもたらし、そのことが進学や就職にも不利に働いて、大人になったとき、生まれ育った家庭と同じように経済的に困窮する。そうした親から子への貧困の連鎖を断ち切るため、
国の責務で対策を進めようと「子どもの貧困対策法」がつくられました。

法律ができたことには大きな意義があると思いますが、大綱で示された対策の中身をみますと、これでは、不十分だと言わざるを得ません。

その理由を子どもへの支援と親への支援の2つの点から述べたいと思います。

まずは、子どもへの支援のあり方です。

生活保護世帯の子どもたちに無料で勉強を教える学習支援の取り組みが、いま各地で広がろうとしています。

厚生労働省の補助事業を活用して自治体やNPOなどが行っていますが、埼玉県では、4年前から中学3年生を対象にした学習教室を開いて成果をあげています。

元教員などの支援員が家庭を訪問して不登校の生徒にも参加を呼び掛け、去年は、対象者の4割にあたる300人あまりが教室に通いました。教えているのは大学生のボランティアたちで、およそ600人が登録してマンツーマンで指導しています。

この取り組みを始める前、埼玉県の生活保護世帯の高校進学率は90%を下回っていましたが、学習教室で学んだ生徒の進学率は、この春は98%にまで上がりました。

大綱では、こうした学習支援を対策の柱と位置付け、対象を、生活保護を受けていない貧困世帯の子どもにも広げて、来年度から新たな制度としてスタートさせるとしています。

しかし、新たな制度では、国の補助が2分の1に減らされることになりました。これまでのように国が全額を負担することに財務省が難色を示したためです。

自治体などの関係者からは、予算を削られたうえ、対象者が増えることになれば、学習教室を続けることが難しくなると戸惑いの声が聞かれます。

そして、もうひとつの対策の柱としているのが、文部科学省の「スクールソーシャルワーカー」の活用です。

スクールソーシャルワーカーは、社会福祉士などの資格を持つ福祉の専門家で、心のケアを行うスクールカウンセラーとは異なります。

いじめや不登校などの問題を抱えている子どもや、親からの虐待が疑われる子どもなどについて、
校長から依頼を受けて家庭の状況を調査し、児童相談所や警察とも協力して解決策を考えます。

そして、家庭の貧困が問題の背景にある場合には、経済状況を改善するため、ハローワークと連携して親に仕事を紹介したり、生活保護の申請を手伝ったりしているケースもあります。

このように、学校を拠点として家庭への支援を広げていこうと、大綱では、現在、全国でおよそ1000人いるスクールソーシャルワーカーを来年度から5年で、10倍の1万人に増やす方針が打ち出されました。

ただ、こちらも、国の補助は3分の1しかなく、また、社会福祉士など専門の資格を持つ人材が限られることから、自治体の中には、これ以上増やすのは難しいという声があります。

財政状況が厳しいのは国も自治体も同じです。しかし、国が新たな対策を打ち出すのであれば、自治体が取り組みやすいように必要な財源は確保すべきです。

また、貧困世帯の学習支援を行う厚生労働省。スクールソーシャルワークで貧困世帯を支援しようという文部科学省とも、体制づくりは、それぞれの自治体に任せるとしていますが、そうした消極的な姿勢では対策は進まないと思います。

取り組みが進んでいない自治体には職員や専門家を派遣して、対策の必要性や成功している事例を説明するなど、国が主体的に体制を整えるべきではないでしょうか。

2つ目の課題は、親への支援のあり方です。

当然のことながら、子どもの貧困は、親の収入が増えるなどして生活が安定しなければ根本的な解決にはつながりません。

しかし、大綱には、経済支援の新たな対策はほとんど盛り込まれませんでした。

大綱をつくる過程では、有識者や貧困問題に取り組むNPOなどを集めて開かれた検討会で、児童手当やひとり親世帯に支給される児童扶養手当の拡充。給食費などの費用の無償化。それに、低所得者に対する社会保険料や税の負担の軽減などが話し合われましたが、こうした重要な課題が先送りにされたのです。

日本は、他の先進諸国に比べて、所得が低い人でも社会保険料や税の負担が大きく、一方で、子育て世帯の負担を減らすための社会保障の給付が少ないといった低所得者対策が不十分なことが子どもの貧困を深刻化させています。

ですから、低所得者層への経済支援に力を入れない限り、子どもの貧困問題は解決しないのです。

この問題を解決するために、例えば、子どもの2人に1人以上が貧困とされ、最も厳しい状況に置かれている「母子世帯」の貧困率の改善に、まずは、重点的に予算を配分するなど、限られた財源の中でも優先順位をつけて対策を進めてはどうでしょうか。

子どもの貧困問題は、ただ単に経済的に苦しいといった問題ではなく、不登校や学力低下、虐待など子どもの成長にマイナスの影響を与えます。

そうした問題を放置することは、将来の社会保障の担い手や労働力を失うことにもつながり、社会にとっても大きな損失です。

政府には、実効性のある政策を改めて検討してほしいと思います。そして、私たち社会も、身近な問題として、子どもの貧困に目を向けなければならないと思います。

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