2014年11月30日日曜日

国立大運営費交付金配分ルールの見直しなど(2)

前回ご紹介した、財政制度等審議会財政制度分科会(2014-10-27開催)の議事録が公表されていますので、高等教育関係を抜粋してご紹介します。


財政制度等審議会 財政制度分科会議事録(高等教育関係抜粋)


井藤主計官

22ページでございますけれども、大学改革に関しまして、これは大きな前提といたしまして、18歳人口、子供の数ということでございますが、これが減ってございます。例えば、平成元年からこの間を見ると、半分近く減少しているということでございまして、今後も、18歳人口であれば18年先の人口までほぼ決まっている状況でございます。

それで、23ページですが、この間、国立大学の入学定員というのは、基本的に減らしておりません。その上に、大学院の定員を伸ばしてきているという状況でございます。こうした中で、いろいろと国立大学にはリソースが投入されているのですけれども、十分に社会に対して求められる機能というか、成果を還元しているかというと、必ずしも十分ではないのではないかなという声が常に聞かれているところでございます。

25ページにつきましては、この春もお出ししたので割愛させていただきますけれども、26ページでございますが、例えば、近年、地方創生ということで、地方の大学は大事だという議論がかなりいろいろなところから出されているわけですけれども、例えば、地方の大学について見ますと、多くの大学が、その設置されている地域を出身とする入学者の割合が同地域を就職先とする卒業者の割合を上回って、流出超過となってございます。こうした中で、地域の人材供給機能を十分に果たしているのかといった問題もあるのではないかということでございます。

それで、29ページに行っていただきまして、国立大学というのは、近年、参考資料にありますけれども、事業規模が、研究費を中心に非常に膨らんでございます。運営費交付金が若干減って厳しいという声もあるのですけれども、諸外国の大学や研究機関では、資産運用や民間からの受託収入、研究収入等、多様な資金の調達が行われてございます。活性化していると言われている大学は、このような多様な財源を確保しているということで、このような努力もより一層必要なのではないかということでございます。

30ページでございますが、現在の国立大学法人の運営費交付金の配分というのが、重点化に結びついていないのではないかという問題意識でございます。まず現行の仕組みでございますが、一番上の右側に、特別経費がございまして、これが1割程度。残りの大部分は一般経費ということで、教員・学生数等に応じまして各大学に配分されてございます。このように教員・学生数等に応じて配分するということでございますので、各学部等におきましても、教員・学生が固定的にいるわけですから、学長が特段のリーダーシップを発揮する場合を除いて、学内の重点化や再配分に関するインセンティブがなかなか進まないと。ましてや、大学間の再編や統合に向けたインセンティブも働きにくい状況だろうと考えられます。それで、一番下なのですが、文部科学省についても、この辺は問題だというご認識を持たれてございまして、運営費交付金の額の3~4割は、改革とリンクさせるとおっしゃっているのですけれども、必ずしもその姿が見えていないというのが実情だと思います。

次の31ページでございますが、実効性のある大学改革を進めるためには、予算のメリハリにより各大学の改革に向けた取組を促すことが必要ではないかということで、財務省案として考えてみたということでございますが、基本的には、一般運営費交付金につきまして、基盤経費と改革経費に区分して、改革経費については、学長のリーダーシップを発揮できないかということで、その大学について、法人としての全体のマネジメントをやっていく考えで運営していただけないかということでございます。

また、32ページの特別経費でございますけれども、これにつきましては、現状では特別経費の対象期間、3年なり5年なりということが終われば、そこで終わりということなのでございますけれども、そうしたことでは、なかなか重要な課題に対して、その後も取り組むことができませんから、こういったものの配分について、後年度以降の基盤的な配分にも勘案するといったことも必要ではないかということでございます。

また、33ページが、先ほどの改革経費でございますが、ここの配分についてはメリハリをつけることが必要なのではないかと。その方向ですが、各大学が目指す機能強化の方向ごとに評価基準を設定しまして、事前に決められた評価基準に基づいて、2年程度ごとに大学の取組を客観的に評価して、配分に反映するといったことが必要ではないかということでございます。評価基準については、例えば、世界最高の教育拠点であれば、論文数で研究成果ということでしょうし、地域活性化の中核的な拠点を目指す大学群であれば、地域にいかに貢献したかといったことが指標になるのではないかということでございます。

34ページでございますが、国立大学授業料の設定は、現状、文部科学省令におきまして標準額は規定されており、各大学はその2割増まで自由に設定できることになってございますが、基本的にほとんどその増額はなされてございません。

多様な財源の一つということでもありますけれども、34ページの右下ですけれども、質の高い教育の提供を行って、それに見合う授業料の設定をする。こういったことで生み出した財源を、経済的に困難な学生に還元するとか、よりよい教育環境の整備に充てるといったことも必要ではないかということでございます。

35ページについては、今申し上げたことをまとめさせていただいてございます。

次に、37ページ、科学技術関係予算でございますが、平成元年度との比較で約3倍増と、社会保障関係費も超える大きな伸びをしてございます。

38ページでございますが、これは論文という1つの側面のものでございますが、こうした中で、総論文数は、それに応じて伸びたものの、論文の質につながっているわけではないということは指摘されてございます。

39ページでございますが、我が国の財政事情を考えれば、今後量的拡大を続けるというのは、科学技術予算についても難しい状況でございまして、質の向上がその課題だろうと考えてございます。質の向上のためには、そのために効果の高いアプローチをすることが必要だと考えてございまして、例えば近年大きく伸びている分野融合領域ですとか、また国際共同研究、こういった分野に「選択と集中」を進める必要があるのではないか。

あと、40ページはやや各論でございますけれども、競争的資金等で先生方、高額の研究設備を買われることがありますけれども、これはやっぱり一人の研究者、研究室が独占するというようなことになりますと、全体として効率的ではありませんので、高額の研究設備については、共用化を促進することが研究費の効率的支出にもつながるし、研究インフラの整備にもつながるのではないかということでございます。

41ページでございますけれども、近年、競争的資金の制度数が非常に増えて、多様化が進んでございます。そうした中で、各制度の趣旨や違いが必ずしも明確でないといった問題が指摘されてございまして、こうした点については重複を排除しつつ、制度間の連携強化・統合化を推進する必要があるのではないかということでございます。

42、43ページは、やや細かい点なので、割愛させてもらいまして、44ページをご覧ください。理化学研究所につきましては、今回、研究不正の問題が起きまして、そのガバナンスの在り方をめぐって大きく議論されているところでございますが、右の改革案にありますように、その資源配分については、PDCAサイクルを徹底して、ガバナンスを一層強化する必要があるのではないかということでございます。また、理研の予算執行につきましては、研究の備品とか、そういったものにつきまして、一括購入等も行われていなかったということがございますので、こういったことはぜひ徹底して、予算の縮減にも努めていただきたいと。それで、こうした点については、理研だけでなくて、その他の研究開発法人についても、ぜひやっていただきたいと。

45ページなのですけれども、事業の「選択と集中」をやらなければいけないということでございまして、産業化、特に技術化を出口とする事業、こういったものにつきましては、新陳代謝を図り、例えば2年ごとに評価して、プロジェクト数を絞り込むといったことも必要なのではないかと。

あと、46ページでございますが、今年は特に地域活性化の観点から、地域の事業がいろいろ要求されているわけでございますが、地域拠点事業につきましては、過去累次に渡って展開されてきたことを踏まえれば、これまでの課題を総括した上で、本当に効果的なものについてやっていく必要があるのではないかということでございます。

47ページにつきましては、大規模プロジェクトも最初はいいのですが、後年度、非常に大きな予算が必要となって、予算硬直化を招く原因となります。一定以上の大規模プロジェクトにつきましては、当初の要求の段階におきまして、プロジェクトを通した負担の在り方について、財源調達の考え方を整理していく必要があるのではないかということです。

質 疑

田中弥生 (独)大学評価・学位授与機構教授、日本NPO学会会長

国立大学に関しては、これは31ページから33ページに、関係者から見ると、実はかなりドラスティックな提案がなされているのですけれども、この点について、これをどう理解するのかということを1点申し上げたいと思います。

まず、大学の類型に応じて、基礎的な資金である運営費交付金の分配を傾斜配分しろということなのですけれども、そもそもこの類型が何を意味するのかということなのですが、日本の大学の制度を鑑みますと、大体アメリカよりは欧州の大学制度を規範にして作られていると思います。では、欧州ではどうなっているかと言いますと、あまり知られていないのですが、そもそも大学の中に学位を授与できる大学とそうでない大学、学位授与権があっても、博士号を出す大学とそうでない大学が、かなり明確に線引き化されていて、その中での各種評価が行われているということです。これは何を意味するかと言えば、投じた公的資金を効率的に使うというだけではなく、出されている学位の質、信用をきちんと担保するために、このような線引きがなされていると私は理解しています。

翻って、日本の大学はどうであるかということは、もう井藤主計官が指摘されているところでありますし、確かに日本の大学は800ほどありますけれども、そこら辺の役割機能が曖昧になり、そこで出されている学位の質についても問われ始めているところだと思います。このような状況に対して、文科省も手をこまねいて見ているわけではなく、機能分化という言葉を使って、この数年間政策を講じてきましたが、その成果が見えないだろうというのが、今日のご指摘であります。ですから、財務省としては、その考えにのっとって予算を配分するやり方で、この改革を加速化してはどうかというのが、これが今日のメッセージであろうと思いますし、私は基本的にこの考え方に同意をするところがあります。

ただし、疑問点を2点挙げたいと思います。

1点目は、この大学の役割分担を明確にするという問題は、国立大学の問題だけではなく、800ある国公私立大学全部に及んで議論をしないと、達成しないのではないかということです。

そして、2点目、この運営費交付金の配分を世界研究拠点型と全国型と地域型、この3類型に応じて傾斜配分をしようというのが基本的なアイデアではないかと思うのですが、そもそも運営費交付金とは、ほとんどが人件費で占められています。それを考えると、単純に先の3類型順に傾斜配分するにはいかないだろうと思います。

例えば、2番目にある全国型の大学の評価基準を見ますと、教育に重点が置かれています。教育は、外部資金が取りにくくて、人的リソースを投入しなければいけない性格を有しますので、運営費交付金のようなものでカバーしなければいけないかもしれないし、逆に、世界的な研究拠点を目指すところは、外部資金が取りやすいのではないかと思います。そのように、かなり中身を詰めて配分を考えなければいけないと思います。

さらに、こういった配分を考えるときには、教員のエフォート、つまり各教員が研究と教育と社会貢献のいずれにどのぐらいの時間とコストを使っているのかということを明確にしていかないと、この先の3類型に基づく、運営費傾斜配分のための算定式は、なかなか成立しないのではないかと思います。

土居丈朗 慶應義塾大学経済学部教授

先般、独法通則法が改正されまして、国立研究開発法人制度が設けられたということで、私も行政改革推進会議の議員をさせていただく中で、この国立研究開発法人のガバナンスについて、非常にいろいろと議論させていただき、強化をするべきだということを申し上げてきて、1つの成果が出たと思います。ただ、主計官からもご説明があったように、理研の例もあり、ガバナンスの強化と言いながら、必ずしも十分でないというのが、私の今の認識であります。

ガバナンスの強化ということは当然として、それ以上に、もう少し研究機関としての在り方自体にもメスを入れなければいけないと。大学には、確かに学問の自由があるということだと思いますが、こうして税金が投じられている国立研究開発法人に対しては、そんな自由がどしどしと認められていると思うべきではないと。確かに、研究者はいろいろ機関を動けますから、大学に所属したり、研究開発法人に属したりということはあるのかもしれませんけれども、やはり大学とは性質は違うと思います。研究開発法人には、理事長を筆頭にして国家的なミッションが与えられて、そのミッションに応える研究しかできないという位に、きちんと統制をとってもらわないと、研究機関としての体をなさないと思います。そのような意味では、単なるガバナンスの強化ではとどまらず、国家の意思としての研究をできる研究者を集めて、成果を上げていただくという規律が必要だと思います。

鳥原光憲 東京ガス(株)取締役相談役

科学技術イノベーションの推進を通じて、地方を再生・創生することが、非常に重要な課題でありますが、そのためには、地域の産業界と地元の大学、研究機関、地方自治体などが連携して、地域の潜在力を結集し、競争力の強化や地域発の新しい産業の集積をつくり出していくことが重要であると思います。イノベーションを実現する新たな制度としては、平成26年度予算において、産学官の連携により基礎研究から実用化・事業化といった出口までを見据えた研究開発等を推進する、府省横断型のSIP、戦略的イノベーション創造プログラムが創設されております。本プログラムについて、地方の再生・創生の観点から、地域経済を牽引する中堅・中小企業が制度を利用できるように、中堅・中小企業を核とした事業枠を創設することなどを検討していただきたいと思います。

大宮英明 三菱重工業(株)取締役会長

科学技術なのですけれども、日本のイノベーション力が低下していると言われております。これは研究をして、その後、開発をして、最終的に良いものであれば事業化するというわけでありますが、この事業化に至るところで失敗している事例が非常に多いです。ここはいわゆる「ダーウィンの海」とか「死の谷」ということ言われていまして、ここへお金だけではないと思うのですけれども、うまく支援できると、日本の科学技術力を中心としたものが事業に結びついていくのではないかと思います。

葛西敬之 東海旅客鉄道(株)代表取締役名誉会長

大学の方ですが、大学院の定員増というのは教育の密度を引き延ばしているだけではないかという感じがいたします。

資金の多様化の話も出ておりましたが、テーマを決めて研究する分野と基礎研究としてやる分野とを分けたほうがいいのであって、テーマとして研究する分は、国家目標に資する継続的な対象テーマをきちんと決めることが大事ですし、企業からの寄附は、そんなに長期ではないけれども、対象がはっきりしていて、一定の期間内に結果が出るものを選ぶべきであると思います。その際に、資料では、ガバナンスを強くするために評価をきちんとするということを言っていますが、評価をするために、結果として、大学の教員、研究者は、余計なことに時間を取られてしまいますから、それは結果で判断するのがよいのではないでしょうか。企業からのお金は、企業が結果で判断するでしょうし、国家としてのテーマは、安全保障とか、そのようなものも含めるべきだと思いますが、長期持続的に国家目標が達成されるかどうかで見るべきなのであって、そんなガバナンスを強くするのは、やたらに事務作業をふやすだけですので、やらないほうがいいと思います。

井堀利宏 東京大学大学院経済学研究科教授

高等教育で評価の話が出たのですけれども、高等教育の評価は、確かに論文数でもできますが、これはなかなか難しい。最先端のことをやっていますから。むしろ評価で相対的に客観性が保たれるのは、先ほど佐藤委員もおっしゃっていた学力テスト。義務教育の場合は、達成すべきものは決まっているわけですから、それをどの程度達成できたのかわかります。評価システムをもう少し義務教育に入れて、そこで財政的なインセンティブで義務教育の質をきちんと担保してもらうような、そのような制度を入れたほうがいい。義務教育だけ統廃合で、高等教育だけ評価システムだけではなくて、両方をうまく組み合わせて、それぞれ取り組んでいただきたいと思います。

十河ひろ美 (株)ハースト婦人画報社ヴァンサンカン&リシェス編集部編集長

大変わかりやすい資料、内容で、勉強になりました。改めて、教育は、言うまでもなく大切なものであって、曲がり角に来ているなと痛感しております。教育の質を、もう一度重点的に見直していく必要があるのではないかということと、それに合わせた予算のメリハリが今後重要になってくると。そして、私が1つ気になりましたのが、個性重視というところをもっと強化していくべきではないかというところです。資料の26ページに、国立大学が例として出ておりまして、関東圏以外は全て学生たちが流出しているという事実、これはやはり地方の活性化にも多少なりとも影響していると思いますし、その一方で、資料の24ページに、総合大学がまだ都道府県に1校あるということで、こちらも再検討していくところに来ているかなと思っております。やはり地方活性化、あるいは、とにかく日本は均質化がずっと言われておりますけれども、もっと特化した個性のある学生たちを増やしていくことも重要ですし、必ずしも偏差値教育が正解ではなくて、もっとスペシャリストを育てていくことが、今後の国力に関わってくるのではないかと。ポジティブに専門職を増やしていくことが大切ではないかと思った次第です。

遠藤典子 東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員

大学の件につきましては、また大宮委員がおっしゃった「死の谷」の問題なのですが、29ページに、ちょうどフラウンホーファーのドイツの研究機関の事例が挙げられていまして、実は産構審の産業技術環境部会のほうでディスカッションさせていただいた、まさにこれがテーマでして、フラウンホーファーの研究者の方々は、いくら競争資金を持ってこれたかによって、その業績が評価されるということで、まさしく今、理研の工学部版の産総研が、それに向かって組織改革をしているところです。33ページの改革の様々なモデルケースとして、国公立大学を分けてあり、論文の数で評価される先生方もあっていいとは思うのですが、いくら企業からお金を取ってきて、受託研究の質を上げていくのかというところもある種の評価軸になるのではないかなと思います。それが遠くは運営費交付金を減らしていくといった、1つの取組になるのではないかなと考えます。先ほど土居委員が、様々なところの研究機関や大学を行きつつあるということだったのですが、企業も含めて、そのような人材の流動化が進めば、そういった評価軸も出てくるのではないかと思いました。