2014年12月28日日曜日

官僚組織に地方創生はできるのか

一等地にビルを構える官僚組織、地方活性化に自治体は必要か? 致命的に欠けている「経営」の概念」(2014-12-22JBPRESS)をご紹介します。


地方で最も建物が大きい組織とは

現在の日本の地方都市を概観すると、たいてい一番大きな建物が県庁や市役所で、一番大きな収入と支出をしている事業体も県庁か市役所であるという。当然、従業者が一番多いのも県庁か市役所であるという。

つまり、市民の下僕たる公務員が一番大きなビルで仕事をし、一番多くのお金を扱い、一番多く税金から給与をもらっているのである。こんなことで地方活性化なんてできるのか、と思うのは当然だろう。

そもそも民間企業が稼いだ利益の一部を税金として預かり、公共に費やすのが公務員の本来の仕事である。それが民間企業を差し置いて地方で最大の事業体であること自体、本末転倒ではないか。

筆者は地方活性化の主役は民間企業であると考えている。企業の利益向上が第一であり、次いで雇用増大となり、賃金の向上という循環になり、最後に公務員が税金を徴収し、それを公共のために効果的に配分するということではないか。それなのに、自治体が前面に出て一体何ができるというのであろう。

官との関わりが深い組織は衰退する

数年前に日本航空の経営破綻があった。負債総額は2兆円を超えていたらしい。なぜ、日本を代表する歴史ある航空会社が経営破綻したのか、当時は疑問を感じる人も多かったと思う。大きな理由として、労働組合が強く、年金を含めた人件費を柔軟に削減できなかったことが挙げられた。また、歴代の経営トップの放漫経営も理由に挙げられている。

しかし、根本的な原因は、官との関係が深い企業だったからであろう。官に依頼されて地方空港の不採算路線に飛行機を飛ばしたり、日本航空が参入するという条件で、地方空港を開設し、地域ぐるみで日本航空の関連企業と事業展開したりしてきた。

つまり、官に頼り頼られるという関係の下で、採算を守るという経営の大原則が忘れられてしまったのである。

こうしたケースは日本航空に始まったことではない。昔の国鉄、日本債権銀行、住宅金融専門会社といった官との関わりが深い組織は、すべて莫大な負債を抱えて整理された。また、自治体との関わりの深い産業と言われる規制産業は、大半が国際競争に遅れた産業であったり、赤字体質の産業であったりする。例えば農林水産業や水道事業、土木建設業、通信事業などある。

経営概念の欠落した自治体

自治体には経営の概念が乏しい。その自治体が主導的な立場で関わりを持つ民間企業は、「お上が守ってくれる」という錯覚に陥り、依存体質が生まれ、経営がおろそかになる。

そもそもなぜ自治体に経営の概念が乏しいのかを指摘しなければならない。その元凶になっているのは、以下の4点と考える。

  1. 国民の下僕という奉仕の精神ではなく、国民を支配するという特権階級意識が難関試験を突破したエリートに存在する。自動的に徴収される莫大な税金を自分たちの裁量で配分を決め、ある程度自由に使えるため、細かい採算など経営のことは考えなくともよいという意識に陥りやすい。
  2. 国や地方の難しい公務員採用試験を経て入った者は、国家に貢献してきた分、民間企業で高い報酬を受け取っている者と同等以上の報酬を受け取る権利があると考える。そこで特殊法人を温存し、そこへ天下りして高い報酬を取り戻そうとする。そのため、特殊法人や第3セクターと呼ばれるところは、経営が優先されず、大幅な人件費赤字となっている。
  3. 自治体会計が100年以上前の明治時代に誕生した制度のままで、その時の大陸(ドイツ)思想である「皇帝の代理を行う」という考えのために、経営が度外視されている。収支計算書だけのフロー会計で、資産表示する貸借対照表が義務化されていない(ストック会計がない)。そのため、経営分析や財務診断ができない。したがって正しい経営判断もできない。
  4. 人事賃金制度も100年以上前から年功序列型制度であり、人事考課制度も存在しない。こんな遅れた人事制度は民間企業ではあり得ない。この組織の人たちは退廃的となり、自己防衛的となる。なぜなら、一所懸命仕事をしても手抜きばかりの仕事であっても、公平に評価されることはなく、年功で勝手に給与が上がる仕組みだからである。そのため、昔の公務員は「遅れず、休まず、仕事せず」を守っていればだんだん偉くなれたと言われていた。これでは、経営に必要な効率性や迅速性など養われるはずがない。

こうしたことから「経済は一流だが政治は三流だ」とか「日本の企業の技術は高いが、国全体としての競争力は低い」などと言われるのである。

一人ひとりの能力を封じる官僚組織

日本企業の採用の特徴は「新卒一括採用」である。戦力としてはゼロに等しい新卒を一気に大量採用し、給料を払い、教育を施す。海外の企業は基本的に即戦力と思われる人を採用し、人材育成にそこまでの投資はしない。

昨今はこの新卒一括採用のデメリットが叫ばれているが、振り返ってみれば、大量の新卒の社員に手厚く教育を施し、長い目で戦力化するという文化が、戦後の日本経済をここまで成長させてきたのである。

それに対して、難しい入職試験に合格した優秀な人材を生かし切れない組織が官僚組織である。責任回避体質になりがちな減点主義、効率性を重視しない組織風土、能力評価のない人事制度などによって、一人ひとりの能力が発揮できない仕組みになっているのだ。

マックスウェーバーは官僚制組織こそが最も合理的な組織だと指摘した。しかし同時に問題の多い組織であるということも付け加えている。それは、民主主義が発達すればする程、より広範な人々に等質なサービスを提供するために官僚組織も発達するが、同時に「被支配者集団の平均化」をますます強め、官僚支配を専制的なものにしていくからだ。

ウェーバーは、大衆の官僚への不満が頂点に達した時、カリスマ願望が呼び起こされると予言した。日本においても、大衆の不満が頂点に達した時に、初めて公務員の解体が始まるのかもしれない。逆に言えば、その時にならないと劇的な改革は期待できないということだ。