2015年1月15日木曜日

6人に1人

格差社会で育った子どもたち 上と下、2人の人生」(2015年1月13日朝日新聞)を抜粋してご紹介します。


■母からの虐待、施設を経て…孝典さんの場合

「僕たちは、すごく狭い世界にいた。今になって、よくわかります」。東洋大2年の久波(くば)孝典さん(21)は言う。

幼い頃、両親は互いに暴力をふるっていた。小2の時、父はマンションから飛び降りた。母は働かず、久波さんへの態度は、激しさを増す。何時までにドリルを終わらせないと食事抜き。できるわけのない課題を出され、できないと殴られ、首を絞められ、下着姿で家から出される。家出を繰り返すようになった。

小5の冬、母はビニールテープで輪を作り、天井からつるして言った。「死ねよ」。死んでもいいかと、ぶら下がった。気が付いたら、テープは切れていた。

それからすぐ、小平市の児童養護施設「二葉むさしが丘学園」に入った。天国だと思った。だって、自由に遊べる。ご飯も出る。

「俺ら税金で暮らしてるからなあ」。自分や施設の他の子が時々口にした言葉だ。学校の同級生を見て、普通は両親がいて、欲しい物をねだると買ってもらえるらしい、と知った。うらやましくはなかった。

できるわけがないから、最初から望むこともない。目の前にあるものを受け取るだけ。他の世界を知ろうとも思わない。受け身の姿勢が、自分と周りの子には共通していたように思う。「大学に行きたい」と言いつつ、何もしないまま高校を卒業し、18歳で施設を出た。

施設出身者を支援する「自立援助ホーム」に移って1年。コンビニのバイトで月収10万円の生活の中、知人から、あるコンテストを見に行こうと誘われた。「私はこんな夢に取り組んでいる」と発表し、魅力を競うというもの。新しい乗り物の開発、途上国の支援……。壇上の人々は、目を輝かせて熱く語っていた。

ふと「自分に足りないのは、これだ」と感じた。この人たちは「できるわけない」なんて考えていない。「できる」と信じている。

自分にも「できる」ことを探そうと、大学に行くことを決めた。働きながら通える夜間の学部に合格。施設出身者が受けられる給付型の奨学金を三つ受け、巣鴨で1人で暮らす。

久波さんは、お金の心配なく大学で学ぶ今を「恵まれている」と言う。友人の多くは、今も「恵まれない」まま。「恵まれた」世界を知らないまま。その差はなんだったのか。「運です」。短い答えだった。

■6人に1人の子どもが貧困

日本の子どもの貧困率(17歳以下)は、上がり続けている。

厚生労働省の調査では、2012年の子どもの貧困率は16.3%で、6人に1人。ひとり親世帯に限ると2人に1人だ。

子どもの教育格差の解消に取り組む公益社団法人「チャンス・フォー・チルドレン」(本部・兵庫県西宮市)の今井悠介代表(28)は「多くの人は『本当に6人に1人もいるのか』と実感を持てずにいる。子どもの貧困は見えにくい」と語る。

「百円均一」店や低価格ファッションがあるため、外見では経済的な差がわかりにくい。今井さんは「貧困層と富裕層で住む地域やコミュニティの分断が進んでいて、違う境遇の子に出会う機会が減っている。特に都市部は格差が大きいと感じる。東京は、地域ごとに貧困家庭と裕福な家庭が分かれて集中している印象だ」と指摘する。

貧困によって、子どもたちは、進学など多くの人には当たり前にある機会を奪われている。

ただ、時代によって多くの人にとって「当たり前にあるべきもの」は変わる。例えば、第2次世界大戦時は、多くの人が衣食住に困った。しかし今は、塾に通うのが当たり前で、都内の大学進学率は7割にもなる。その中で、自分の努力ではどうしようもない理由で進学や夢をあきらめるのは、子どもにとって精神的なストレスが大きい。

国立社会保障・人口問題研究所の阿部彩・社会保障応用分析研究部長らのチームは、2008年、市民1800人を対象に「現在の日本社会ですべての子どもに与えられるべきもの」に関する意識調査を実施した。

半数以上が「全ての子どもに絶対に与えられるべきである」と答えた項目は、全26項目のうち「朝ご飯」「医者に行く」「手作りの夕食」など8項目のみ。このほかは、半数以下だった。例えば、「短大・大学までの教育」42.8%、「誕生日のお祝い」35.8%、「子ども用の勉強机」21.4%、「親が必要と思った場合塾に行く」13.7%など。

1999年の英国の同様の調査では、「趣味やレジャー活動(90%)」「おもちゃ(84%)」といった教育に直接結びつかない項目でも、「必要である」との回答が多い。

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