2015年2月23日月曜日

経済成長と大学改革

関係者の皆様は既にご案内のとおり、現在、政府の産業競争力会議 新陳代謝・イノベーションWGでは、大学改革・イノベーションに関する検討が精力的に行われています。

国立大学法人においては、第三期中期目標・中期計画(平成28年度から6年間)に向けた新たな制度設計が、政府全体でどのような考え方のもとに構築されようとしているのか注視しておかなければなりません。

これまでの議論に用いられた会議資料を抜粋してご紹介します。(下線は拙者)



1 大学改革・イノベーションの議論の必要性

2014年10月10日に開催された第3回実行実現点検会合(大学改革及びイノベーション)において、「日本再興戦略」改訂2014に盛り込まれた大学改革に関する施策については、国立大学改革プラン(2013年11月)に掲げられた強み・特色を生かした国立大学法人の機能強化の議論の中で全体設計が行われるべきと指摘したところである。 

既に文部科学省においては、国立大学改革プランに沿って改革が鋭意進められているところではあるが、平成28年度が国立大学法人の第3期中期目標期間がスタートする節目の年となること、本年4月に甘利経済財政担当大臣のイニシアティブで「我が国のイノベーション・ナショナルシステムの改革戦略」が取りまとめられ、イノベーションの観点からの改革が強力に進められている時期に符合することからも、大学の機能強化については、こうした文脈をも踏まえ、イノベーションや地域活性化の観点など幅広い視点に立って改めて踏み込んだ検討を行うことが有意義であると考えられる。こうした認識に立って、第3回実行実現点検会合では、とりわけ文部科学省に対し、大学改革については、国立大学法人関係者や卓越した研究者、産業界や地域社会の関係者などの声を聴きつつ、大胆な改革構想をまとめ、来年度の法改正をも視野に入れて、来年央までに結論を得るべきと指摘したところである。

こうした指摘・会合での議論を踏まえ、甘利大臣からは、国立大学法人については、イノベーション・ナショナルシステムの構築に向け、「大学改革第2章」として、異次元の政策を講じるべく踏み込んだ議論を行うべきであり、WGに場を移して検討を行うべきとの指示が出された。

以上の経緯から、本WGでは、大学の機能強化をさらに強固に推し進めるために何が必要であるかを、法的措置の要否を含め、検討・議論することとする。・・・・・


イノベーションの観点からの大学改革の基本的な考え方」(平成26年12月17 日 産業競争力会議新陳代謝・イノベーションWG)


1 大学改革の趣旨

我が国のイノベーション・ナショナルシステムにおいては、投資額を見ても民間企業の果たす役割が大きいが、新興国の猛追から様々な分野で国際競争が熾烈になるなどの環境変化の中で、民間企業の研究開発投資がどちらかと言えば短期的に成果が見込める分野に集中的に投下される傾向が強くなっている。

一方大学は、iPS細胞を用いた再生医療の研究、新材料の創成によるパワーデバイスの開発など、中長期的に大きなイノベーションの成果につながることが期待できる豊富な種を有している。中長期の経済成長を持続的に実現する上で、これまで以上にこうした技術シーズを有する大学の知の創出機能の強化、イノベーション創出力の強化、人材育成機能の強化が求められており、大学改革のさらなる加速が経済成長を実現する上での鍵となる。

大学改革の基本的な考え方は、

① 改革を進める大学への重点支援を通して大学(大学間及び大学内)の競争を活性化することである。そのために、客観的な評価指標の導入による評価プロセスの透明性の向上と評価結果の資金配分への反映を行い、競争的環境の下で各大学の強み、特色、社会的役割を踏まえた機能強化を図ることとする。

② また、グローバル競争を勝ち抜くための制度整備を同時に進めることも重要である 。そのため、新たに、世界の研究大学と競争する特定研究大学(仮称)制度を創設し、日本の将来を担う優秀な人材を育成する卓越大学院卓越研究員制度を創設する。

2 大学の機能強化

国立大学が多様な役割を果たしていることを踏まえつつ、平成28年度からの第3期中期目標期間においては、地域活性化・特定分野重点支援拠点(大学)特定分野重点支援拠点(大学)世界最高水準の教育研究重点支援拠点(大学)といった類型を踏まえた新たな枠組みを設けた上で、予算措置や評価をそれぞれの固有の機能や役割を最大化する観点からきめ細かく行い、大学としての機能強化を図る。

このため、各国立大学は、第3期中期目標期間中において、重点的に取り組むためのいずれかの類型を選択する。

各大学は、自ら選択した類型ごとに、機能強化のための取組に応じて、重点支援を受ける。地域活性化・特定分野重点支援拠点型の類型については、改革の取組を行う大学に対して、より安定的な取組を推進できるよう支援する。特定分野重点支援拠点型の類型については、特定分野に重点を置いた研究力強化や人材育成のための優れた取組を行う大学を支援する。世界最高水準の教育研究重点支援拠点型の類型については、グローバル・スタンダードの下、世界水準の研究力強化や人材育成のための優れた取組を行う大学を支援する。

重点的な支援は、各大学の取組の状況や実績の評価の結果を運営費交付金の配分にも反映させる形で行う。その際、評価指標の設定を含めた評価の在り方(後述)等により、各類型で競争が促進されるようにする。

3 特定研究大学(仮称)

世界水準の教育研究機能を有する国立大学などで一定の条件を満たしているものを特定研究大学(仮称)とし、特例措置を講じて支援する制度を創設する 。特定研究大学制度を「今後 10 年間でグローバルランキングトップ100に10校以上入る」とのKPIを達成する上での1つのツールとし、世界の研究大学を意識した経営等を行う ことを促進する。

特定研究大学になることは中期目標期間の期中でも可能とする。

特定研究大学の条件として、学内ガバナンス、教育研究、学内評価のグローバル度等を勘案する (※)。例えば、
- 学内ガバナンスに関して、学長選考会議や経営協議会等への海外トップ研究大学経営陣(経験者を含む)等の参画の有無など。
- 教育研究に関して、外国人教員や外国人留学生が一定割合(数)以上、英語による学位コースの割合など。
- 学内評価に関して、グローバル評価(海外の研究大学等の関係者の参画による厳格な評価)の実施など。
(※)なお、上記の事項は、必要に応じて、特定研究大学以外の世界最高水準の教育研究を目指す大学についても、積極的な対応が求められるものである。

厳しい条件とする一方で、教育研究の自由度の拡大(大学院と学部の定員見直しなど、組織編成の設置手続きの弾力化、授業料設定の自由度の拡大(授業料減免を含む)等)、財務基盤の強化(余裕金運用対象範囲拡大、優秀な内外の学生確保のための支援(奨学金、RA経費等)等)などについて、競争的資金改革の動向をも踏まえて、インセンティブ を付与し、大学自らが競争力強化の取組を行うことを支援する。

加えて、グローバルに競争する世界水準の研究大学として格段の競争的環境が求められることから、競争的資金や寄付金を含め財源の多元化を図り運営費交付金への依存度を下げるなど財政構造の変革を図る。

また、特定研究大学は、卓越大学院を有し、卓越研究員 (いずれも後述)の制度を積極的に活用することが想定される。

4 客観的な評価指標の設定

評価指標は、大学の目標と、その目標実現のための具体的な取組との関係が明確になるように設定されるものとする。

評価指標の考え方は以下のとおりとするが、詳細の評価項目は引き続き検討を行う。その際、中長期の経済成長を実現する上で鍵となる大学の知・イノベーション創出機能、人材育成機能が的確に評価できる指標も検討する。
- 全国立大学共通の指標
- 地域活性化に係る指標
- 特定分野の教育研究に係る指標
- 世界水準の教育研究に係る指標
- その他大学独自に設ける指標 など

※全国立大学共通の指標の例-IRの活用状況、科研費等の競争的資金の獲得状況など

※地域活性化に係る指標の例-地域ニーズに応じた人材育成や地域連携の状況など

※特定分野の教育研究に係る指標-特定の分野の人材育成や研究の状況など

※世界水準の教育研究に係る指標-論文数、論文被引用数などの研究の状況や、留学生、外国人教員など、グローバル化の状況など

各大学の目標・評価指標の設定は、経営協議会等が実質的に関与しつつ、学長のリーダーシップの下で行われるものとする。目標・評価指標の設定の妥当性(目標達成の難易度、具体的な取組)については、事前又は事後に検証する。

5 評価の在り方

3つの類型ごとに評価を行うことができるような体制とすること等を検討する。

共通的な要素、3つの類型に応じた要素、大学自ら設定する要素に関して、予め評価の構成点を明らかにする等、評価手法の透明性を図る。その際、教育研究組織や分野を考慮し、メリハリのある評価が可能となる仕組みとする。なお、評価の公平性が担保されるような仕組みも検討する。

特定研究大学の評価に当たっては、評価のメンバーの中に、海外トップレベルの研究大学の関係者、あるいは、大学間の国際比較の分野での専門家、世界的に定評のある研究開発機関の関係者等を入れることを検討する。地域活性化や特定分野重点支援拠点については、評価のメンバーに産業界、自治体関係者を含むこと等を検討する。

欧州大学協会(EUE)では、歴史のある評価システムを構築しており、大学長経験者がチームとなって評価対象大学へ派遣され、フォローアップも含めたピアレビューやアドバイスを実施しており、そのような手法の活用も検討する。

評価は、大学ごとの強みや特色、課題などを明らかにし、3つの類型ごとに大学間の取組内容、状況の比較が可能となるよう、例えば、KPI の活用や他大学とのベンチマークなどを通じてきめ細かく行う。評価結果については、大学の魅力を「見える化」する観点から、評価指標を含め情報公開を徹底する。

6 評価結果の資源配分への反映

運営費交付金の各大学への配分について、取組状況、実績の評価と連動させる。その際、現在の大学改革促進係数を見直した新たな係数により捻出した財源を重点配分枠として、各大学の改革の取組状況等の評価に基づいて、以下の区分ごとに各大学に配分する。

(1)各大学の機能強化の方向性を踏まえた改革の取組状況に基づく配分(毎年度(又は一部複数年))
(2)大学のビジョンによる取組状況の評価に基づく配分(中期目標期間(6年)の評価及び中間評価(2~3年))

重点配分枠については、その一定割合を学長の裁量による資源再配分の経費として配分することを検討し、学内資源再配分における学長のリーダーシップ強化を促進する。

第3期中期目標期間を通じての各大学の改革の取組への配分及びその影響を受ける総額を、運営費交付金の3~4割とする。

7 競争的資金等との一体的改革

運営費交付金の配分の抜本的見直しについては、大学間の競争を活性化させ、各大学の強み・特色を踏まえた組織再編成や資源配分の最適化を図る改革を促すことを目的とするものである。運営費交付金1兆2千億のうち1兆円が人件費に充当されている現状で組織再編・資源配分の最適化は学長のリーダーシップを発揮する学長経費捻出等の上でも不可欠であるが、それと同時に、優れた研究者の支援の強化と優れた教育研究拠点の持続的な形成を促進することも今般の大学改革のもう一つの目的である。特に後者の観点に力点を置き、運営費交付金の改革と併せて、競争的資金等の外部資金の改革を一体的に進める。

競争的資金等の改革については、優れた研究者の支援を強化する観点 から、例えば、直接経費の使途として、米国同様に基盤的経費からの給与支給を一定期間(例えば9か月)に限定しつつ、厳格なエフォート管理を前提に、資金を獲得した研究者の人件費を一部支出することを認めることや、優れた研究成果を導出できる拠点の形成の観点 から、例えば、間接経費の改善・充実(例えば、30%ルールの競争的資金以外の外部資金への拡大等)(※)、格段の競争的環境における特定研究大学等の大学・研究機関の機能強化とガバナンスの確立など、研究成果最大化に資する間接経費の在り方の見直し等(マネジメントや研究力強化の観点からこれまで必ずしも十分な対応ができていない事項として、若手研究者や支援人材の確保若手研究者のスタートアップ経費留学生や外国人研究者の日常的なサポート予算で実施した研究活動の継続支援などの支援策の充実を含む)について検討する。

(※)現在、競争的資金ではない外部資金においては間接経費が措置されていないが、当該資金により大学等が研究を行う際には、その施設設備や研究者など、大学等の研究インフラを活用していることから、外部資金のうち一部を大学が研究インフラを維持・向上するための間接経費として競争的資金でない外部資金にも措置していくことを検討する必要がある。

また、関係府省の競争的資金等全体についても 、基礎から応用・実用段階に至るまでシームレスに研究が可能となるよう、例えば、異なる制度間の連続的な採択(研究期間の最終年度前年度に、次の段階の研究を対象とした異なる制度への申請を可能とする)、府省共通研究開発管理システム(e-Rad)をはじめとした各機関が有するデータベースの充実・拡充等について検討する。

なお、競争的資金等の改革を進める上で、競争的資金等を活用した研究開発が知・イノベーションの創出の観点からどのような成果を生み出しているのかについて評価・検証が行われることも重要である。

8 卓越大学院

グローバル競争に勝ち抜くため、世界水準の大学院学位プログラムと教育研究環境を整備することを目的として、卓越大学院の形成を促進する。卓越大学院は、複数の大学の連携、研究開発機関や企業等との連携・協力を促進することも視野に入れ、他大学、大学共同利用機関、研究開発法人、企業等の優れた研究者や学生が交流・結集する「人材交流・共同研究のハブ」の形成を目指す。

卓越大学院の形成は国立大学法人に限定しない。特出した分野を有する大学であれば国立、公立、私立を問わず申請が可能とする。また、各大学が強みを有する分野において形成するほか、ICTベースの文理融合分野等のこれまでの日本に存在しない分野においても形成する。分野の選定に当たっては、日本が世界で勝たなければならない分野での形成を積極的に進める観点をも踏まえ、産業界の意見も聴く仕組みとすることを検討する。

申請の要件としては、研究分野で一定の水準を満たしているほか(例えば、論文被引用数、外部資金獲得率等)、国内外に開かれた魅力ある教職員体制となっていること(例えば、教員の国際公募・年俸制への取組、企業や研究機関等とのクロスアポイントメントの取組、テニュアポストに占める若手教員率、URAの配置状況等)などを課すことを検討する。採択された大学院に対しては、世界水準の教職員の配置、国内外の優秀な学生の受入れ環境(給付型支援等)など、魅力的な教育研究環境の整備が進むよう、所要の支援や評価の在り方についても検討する。

他大学、大学共同利用機関、研究開発法人、企業等の研究者や学生が交流・結集して行う共同研究を円滑に推進する観点から、知財の取扱いに関するルールの整備についても検討を行う。なお、その前提として、イノベーション創出を促進する観点から、大学の機能をも踏まえた知財管理の在り方を整理し、知財戦略を策定・強化していくことも必要である。

9 卓越研究員

任期なしのテニュアポストの在籍者の年齢が高まる一方で、若手研究者が40歳代半ばまで、短期の任期付ポストに滞留しがちであることから、優秀な学生が不安定な研究職を目指さなくなっていることは、将来の日本の知・イノベーション創出力を考える上で大きな問題である。このような状況を改善し、研究職を若手にとって魅力あるキャリアパスにするため、卓越研究員制度を新たに創設する。

卓越研究員制度は、各研究機関に対して年俸制パーマネント職の導入を促すとともに、国全体での研究員の選定も視野に、長期雇用を保証する研究員を一定規模で確保するものである。例えば、通算 10 年など比較的長期間の任期付きの身分とし、大学や研究機関の人事制度改革と連動させ、無期雇用化をはかる。既存の人件費財源を最大限活用する(例えば、国立大学法人で定年退職する大学教授が運営してきた研究室の助教ポスト等を活用するとともに、競争的資金等の改革による直接経費等の使途の柔軟化や間接経費等の活用により、自立して研究室を主宰できるポジションにふさわしい給与を支給する魅力的なポストとする。研究機関や企業等とのクロスアポイントメントや混合給与も積極的に活用する。)。また、国による研究費等の支援も検討する。

その際、大学改革プランの中で、各大学は、卓越研究員の 任期終了後のテニュア化、上乗せ給与、研究資源配分の優遇などの条件を提示し、各大学が卓越研究員を競争して引き合うような制度とする。卓越大学院、特定研究大学をはじめ 地域活性化の支援拠点等を目指す 大学等の准教授ポスト、教授ポストに自らの意思で応募して就けることができるようにする。なお、卓越研究員が研究機関や企業等の職に就く事も可能とする。

卓越研究員の雇用が特定の大学に偏ることのないように制度設計上の工夫を図る。

卓越研究員には若手ポスドクを研究支援者としてつけること等により、大学の中では教授と対等な立場を付与するほか、独立した研究環境を保証し、自らの意志で自由に移動できるようにする。競争的資金等への応募も独立して行うことができるほか、大学の教授等とチームで研究を行うことももちろん排除されないようにする。

10 大学共同利用機関や附置研究所等の研究拠点

大学共同利用機関や附置研究所は学術研究ネットワークの要としての機能を有するが、大学改革における機能強化の方向性を踏まえ、第3期中期目標期間に向けて、例えば、大学の枠を超えた共同利用・共同研究の推進拠点、国際的な頭脳循環ハブとしての拠点などそれぞれの機関の意義やミッションの再定義を行う体制を構築し、我が国の大学全体の機能強化を図る研究拠点としての機能強化を図る。

また、大学共同利用機関や附置研究所の機能強化と併せ、研究開発法人を含めた産学官連携のネットワークの強化を進める。



本WGでは平成26年12月17日に「イノベーションの観点からの大学改革の基本的考え方」(以下、「基本的考え方」という。)をとりまとめたところであり、この「基本的考え方」では、大学の機能強化のために、予算措置や評価のための3つの新たな枠組を設けることを盛り込んだ。

国立大学関係者の中には、大学の機能強化に関して、「世界最高水準の教育研究の重点支援拠点」において支援を受ける大学のみが結果として厚遇されることになるのではないか、また、特に「地域活性化・特定分野重点支援拠点」の大学においては、長い研究上の蓄積や優秀な若手研究者による世界水準の研究活動を行うことができなくなるのではないかとの懸念が存在するように思われる。しかし、国立大学の機能強化は特定の大学のみを強化するために行うものではない86国立大学を大学の規模や財政構造等に応じていくつかの財政支援上のトラックに分け、真の切磋琢磨を可能とする競争的環境を醸成することを目的として行うのでなければ、個々の国立大学の機能や役割を最大化させることもできないし、我が国全体のイノベーションの源泉である大学が機能を発揮することはできない

その意味で3つの新たな枠組は、個々の国立大学のミッションの多様性を等しく重視しながら機能強化に向けた重点支援を行うためのものであり、「地域活性化・特定分野重点支援拠点」「特定分野重点支援拠点」において支援を受ける大学においても、それぞれの大学の固有のミッションを実現していくことを通じて、我が国のイノベーションを支える極めて重要な役割を担うことが期待されるものである。

なお、3つの枠組の選択は固定化されるべきものではなく、個々の大学の戦略や成果、財政構造などに基づくミッションの変化に応じて変更も可能と考えるべきである。

また、文部科学省においては、86国立大学長と丁寧な対話を重ね、上記のような懸念を払拭すること、また、それぞれの学長の機能強化のためのビジョンや戦略を実現するためには各大学の規模や財政構造等に応じたきめの細かい大学ファンディングシステムが不可欠であることを踏まえ、具体的な制度設計の検討をさらに深めることを求めたい。

1 「地域活性化・特定分野重点支援拠点」の大学の役割

昨年12月27日に閣議決定された「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」及び「総合戦略」は、人口減少の克服と地方創生の確実な実現を掲げ、地方における安定した雇用の創出、地方への新たな人の流れの創出、地域と地域の連携の強化等を政策目標に据えたところである。

今後、国の「長期ビジョン」及び「総合戦略」に基づき、各地方で5か年の「地方版総合戦略」が策定されることになるが、地域に存在する大学には、地域の特性に根ざしたイノベーションの創出拠点として、また、地域ニーズに対応した人材輩出の拠点として、さらには、地域間連携の結節点として、これまで以上に大きな役割が求められている 。

より具体的には、地域の抱える課題解決に貢献しているか(イノベーション)、地域のニーズに対応した人材を育成しているか(教育・人材育成)、強みを持つ分野の強化等を図る中で地域間或いは世界とのネットワーク構築を実現しているかなどの観点から、地域活性化の核 となることが期待されている(※)。
(※)具体的な評価指標の在り方については、現在文部科学省の検討会で検討が行われている。

同時に、強みを持つ分野については、多岐にわたる地球規模課題の解決に資する日本発イノベーションの多様性の一翼を担うべく、地域と大学の個性に基づき日本をリードする世界レベルの特色ある教育研究が推進されるべきである。グローバル化時代にあっては、そのことこそが新たな雇用創出をふくむ真の地域活性化をもたらすことに留意すべきである。

こうした役割を果たす際には、積極的なクロスアポイントメント制度の活用などを通じて、自治体、大学、研究機関(公設試を含む)、産業界との連携・協力を強化する ことが求められるが、その際の連携・協力は、地域内にとどまるべきではなく、むしろ、地域を越えた連携(海外との連携を含む)を視野に入れることが不可欠であると思われる(地域課題の解決のために地域外の知見の活用、地域資源の地域外への展開等の可能性も考えられる)。こうした取組の蓄積を通じて、地域のハブ機能の強化はもとより、強み・特色のある特定分野の全国的、世界的競争力の強化につながるものと考えられる。

地域活性化の核となることを積極的に進める大学に対しては、「基本的考え方」にも記載したように、運営費交付金の配分を含め より安定的な教育研究活動が推進できるようにするとともに、特色ある取組を行っている大学には重点的な支援が行われることが必要である 。そのためにも、評価指標については、地域活性化の拠点としての取組と強みを持つ分野をより強化する取組を区別して設定するとともに、評価も分けて行うべきである。

2 「特定分野重点支援拠点」の大学の役割

国立大学の中には、ある分野の教育・研究に特化した、或いは傑出することにそのミッションを有する大学も存在する。こうした大学については、その特化・傑出した分野に資源を重点的に配分し当該分野を強化することがその大学の特色の明確化につながり、ひいては大学の機能の最大化にもつながる 。特化・傑出した分野は、理工医系に限定されず、人文社会科学系なども当然含まれ、また、研究でなく、教育に強みを持つ場合も想定される。

「特定分野重点支援拠点」において支援を受ける大学については、強みを持つ分野で求心力を持つ 全国的な拠点になる役割 、或いは世界レベルでも注目される 世界的な拠点になる役割 も期待され、その役割を果たせるよう、積極的な取組を行っている大学には重点的な支援が行われることになる 。

なお、学問の分野間で研究成果の性質や標準的な成果量は大きく異なる。そこで各大学の機能強化に関する評価指標は、分野別の指標を設定するべきである 。また、評価指標の設定においては、大学の規模の相違も十分に考慮するなどして、各大学の特色と強みが活かされ、さらに強化されるような制度設計をすべきである。