2015年7月5日日曜日

国立大学長会議における文部科学大臣挨拶

来年度から始まる3回目の国立大学法人の中期目標期間を見据えた様々な動きが活発化しています。

6月8日には、次期中期目標・中期計画への反映が求められる「組織及び業務全般の見直しについて」と題する文書が文部科学省から発出されました。このうち、特に「教員養成系や人文社会系の組織見直し」については、報道で大きく取り上げられています。

また、6月15日には、次期中期目標期間における国立大学法人運営費交付金の在り方」に関する審議まとめがとりまとめられ、これを踏まえた「平成28年度の概算要求上の留意点等」が各法人に通知されました。

さらに、6月16日には、今後の国立大学の経営力の強化に資する方針として「国立大学経営力戦略」が文部科学省により示されました。

いずれも、近時、強力に進められている国立大学改革の具体化ですが、これまでにない大きな制度変更も含まれていることから、大学現場での関係者の理解が深まるには少々手間がかかりそうです。

さて、6月16日にこの時期恒例の「国立大学法人学長・大学共同利用機関法人機構長等会議」が開催されました。国立大学を取り巻く状況変化を中心に、文部科学大臣や関係局長が説明を行っています。

大臣挨拶」と「高等教育局長説明」のメモが関係者に共有されていますので、抜粋してご紹介します。


下村文部科学大臣挨拶

国立大学は、これまで、我が国の高等教育と学術研究の水準の向上と均衡ある発展のためにその役割を果たしてきた。

他方、社会は、急速な少子高齢化、グローバル化、新興国の台頭による競争激化などの急激な変化に直面している。社会が直面する変化と未来に対する不安とそれに伴う閉塞感を打破するためには、新たな価値を生み出す礎となる知と、それを担う人材が不可欠。そこで、国立大学には「社会変革のエンジン」としての役割が期待されている。

その「エンジン」となり得るためには、国立大学は、それぞれの特色を活かし、
  • 主体的な思考力や構想力、想定外の困難に処する判断力を育成するとともに、協調性と創造性を合わせ持つことができるような人材を育てる大学教育への質的転換
  • 国内外の経済需要や産業構造の変化、雇用ニーズを踏まえた、学術研究、技術、文化などを活かし、価値やイノベーションを創出する人材の育成
  • 18歳からの入学者だけを対象とするのではなく、新たな知の獲得や学び直しを目指す社会人の学びの機会の拡充
  • 融合分野・新領域の創出の基礎となる人文社会科学から自然科学までの幅広く多様な学術研究の継承・発展
  • 研究成果の実用化や起業家人材の育成など、イノベーションを生み出すアイデアや人材を支えることによる、新しい産業の発展への貢献
  • 雇用創出や地域経済活性化を進める地方創生への貢献
などの機能を強化していく必要がある。

国立大学改革に関しては、ミッションの再定義等を踏まえ、平成25年11月に国立大学改革プランを策定し、第3期中期目標期間に向けての改革を加速させる施策を進めてきた。また、平成26年6月に成立した大学ガバナンス改革法も平成27年4月に施行され、大学のガバナンス体制が整った。

各国立大学には、旧態依然の大学運営では、厳しい国際社会の中で勝ち残っていくことができない、また、地域社会が求める人材育成を行っていくことができないことを自覚し、危機感を持って改革に臨んでもらう必要がある。

国立大学経営力戦略

このため、学長がリーダーシップとマネジメント力を発揮し、組織全体をリードしていくことにより、学問の進展やイノベーションの創出に最大限貢献する組織へと転換していただきたい。また、既存の枠組みや手法等にとらわれない大胆な発想の転換の下、産業構造の変化や雇用ニーズに対応した新たな分野の開拓や人材育成などを含め、自己変革・新陳代謝を図っていただきたい。

今般、第3期中期目標期間において、国立大学が期待される役割を果たし、その「知の創出機能」を最大化させるために、「国立大学経営力戦略」を策定した。

国立大学の経営力を強化するため、各国立大学においては、
  • 教育研究組織や事業等の見直し、将来ビジョンに基づく教育研究の戦略的機能強化
  • 人事システム改革による若手が活躍する組織への転換
  • 外部資金の獲得等、財源の多元化による財務基盤の強化
を進める必要がある。

これを支援するため、国においては、
  • 基盤的経費である運営費交付金を確保しつつ、自己改革に取り組む大学に対するメリハリある重点支援
  • 各国立大学の機能強化の方向性に応じた取組をきめ細かく支援するため、運営費交付金への3つの重点支援の枠組みの新設
  • 財務基盤の強化を促進するための規制緩和
  • 未来の産業・社会を支えるフロンティア形成のための「特定研究大学(仮称)」「卓越大学院(仮称)」「卓越研究員(仮称)」の創設
を行う。また、これらの大学改革を後押しするため、研究成果の持続的創出のための競争的研究費改革も併せて進める。

高大接続

我が国は、生産年齢人口の急減、労働生産性の低迷、グローバル化・多極化の荒波に面する厳しい時代を迎えている。世の中の流れは予想よりもはるかに早く、将来は職業の在り方も様変わりしている可能性が高いと言われている。そうした変化の中で、これまでと同じ教育を続けているだけでは、これからの時代に通用する力を子供たちに育むことはできない。

我が国が成熟社会を迎え、知識量のみを問う「従来型の学力」ではますます通用性に乏しくなる中、現状の高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜では、知識の暗記・再生に偏りがちで、思考力・判断力・表現力や、主体性を持って多様な人々と協働する態度など、「真の学ぶ力」が十分に育成・評価されていない。

先を見通すことの難しい時代において、生涯を通じて不断に学び、考え、予想外の事態を乗り越えながら、自らの人生を切り拓き、より良い社会づくりに貢献していくことのできる人間を育てることが必要。

このような現状を、高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の改革による新しい仕組みによって克服し、子供たち一人ひとりが、高等学校教育を通じて様々な夢や目標を芽吹かせ、その実現に向けて努力した積み重ねを、大学入学者選抜においてしっかりと受け止めて評価し、大学教育や社会生活を通じて花開かせるようにする必要がある。これは高等学校、大学、そして社会へと、一貫して子供たちを育てていくための改革。

昨年12月の中央教育審議会の答申も踏まえ、
  1. 「真の学ぶ力」を育成する高等学校教育の改革、
  2. 高等学校までに培った力を更に向上・発展させ、社会に送り出すため、3つのポリシーの一体的な策定や、アクティブ・ラーニングへの質的転換などの「大学教育の改革」、
  3. その両者を接続するものとして、知識量だけでなく「真の学ぶ力」を多面的に評価する大学入学者選抜の改革、具体的には、各大学の個別選抜の改革、高等学校基礎学力テスト(仮称)、大学入学希望者学力評価テスト(仮称)の実施
を本年1月に策定・公表した「高大接続改革実行プラン」に基づき一体的に進める必要がある。

文部科学省では、現在、この高大接続改革実行プランを推進するための具体的な方策等について、「高大接続システム改革会議」において検討を行っており、この夏をめどに、中間的なまとめを、年末をめどに、最終報告の取りまとめを予定している。

この高大接続の改革は、ただ単に大学入学者選抜の見直しにとどまるものではない。社会の大きな変化を見据えて、高等学校教育、大学教育を一体として見直す改革である。各国立大学におかれては、このような新たな時代に対応し、3つのポリシーの下に、入学者選抜の改革と、大学教育の質の改革を、引き続き先頭に立って進めていただきたい。

また、各国立大学においてどのような改革に取り組むのか、それに対しどのような支援策があればそれを後押しできるのかなど、各国立大学からの提案もいただきながら、着実にこの改革を進めていきたい。

第3期中期目標・中期計画について

また、来年度から開始する第3期の中期目標・中期計画の策定に資するため、去る6月8日付けで「組織及び業務全般の見直しについて」を各法人に通知した。

この通知に関して、報道では、「教員養成系や人文社会系の組織見直し」が特に取り上げられているが、各学長におかれては、この通知の内容を、先ほど申し上げた大学経営や大学教育といった改革の大きな方向性の中で受け止めていただきたい。

即ち、文部科学省としては、教員養成系や人文社会系の学問が重要でないと考えているわけでも、リベラルアーツよりもすぐに役に立つ実学を重視すべきと申し上げているわけでもない。特にリベラル・アーツについては、変化の激しい時代の中で、社会が抱える課題を解決していくなどのために必要な教養を身に付ける新しい教育を行っていく必要があると考えている。

先ほど、高等学校、大学、社会へと一貫した高大接続の改革について申し上げたことと関連して、未だ答えのない課題に向き合う力、先の予想が困難な時代を生きる力を育成するためにはどういう大学教育を行い、学生をどう鍛えるか、そのための組織、特に教員養成系や人文社会系は今のままでよいのか、という観点から、徹底的な見直しを断行していただきたいと考えている。

各法人におかれては、この通知を踏まえ、教育研究、そして経営の質的向上を図るため、自らの強み・特色や高い到達目標等を明示した、戦略性の高い意欲的な中期目標・中期計画を設定していただきたい。

国旗掲揚・国歌斉唱について

本年4月に、国会において、入学式・卒業式における国旗掲揚・国家斉唱について議論があった。

国旗及び国歌に関する法律」が成立してから15年が経過した。国旗と国歌は、いずれの国においても、国家の象徴として扱われている。

小・中・高等学校においては、学習指導要領に基づき、我が国の国旗と国歌の意義を理解し、諸外国の国旗と国歌も含めてこれらを尊重する態度を身につけることができるようにするために、入学式・卒業式においても、国旗を掲揚し、国歌を斉唱するよう指導している。

一方、大学の入学式・卒業式における国旗や国歌の取扱いについては、御承知のとおり、各国立大学の自主的な判断に委ねられている。

国旗掲揚や国歌斉唱が長年の慣行により広く国民の間に定着していること、また、平成11年8月に「国旗及び国歌に関する法律」が施行されたことも踏まえ、各国立大学におかれては、入学式・卒業式における国旗と国歌の取扱いについて、適切にご判断いただくようお願いする。


(関連報道)

国立大学協会 総会で国の方針に懸念相次ぐ(2015年6月16日NHKニュース)(抄)

入試改革や、人文社会科学系の学部の廃止を含めた組織再編など文部科学省の方針に懸念の声が相次ぎました。

学長からは最近の文部科学省の方針に懸念の声が相次ぎ、大学入試センター試験を廃止して新たなテストを導入する入試改革について、「方法論が先行して文部科学省自体に将来像がなく改革の目標が見えない」という意見が出ていました。

また、「地域や産業界のニーズに合わせた人材育成が求められている」として、教員養成系や人文社会科学系の廃止や転換を含めた組織再編を求める方針に対しては、「大学教育は職業に直結させるものではなく知のレベルを高めることが目的だ」という批判の声が上がりました。

国立大学協会の会長に再任された東北大学の里見進学長は、「人文社会科学系を廃止する流れは少し問題があると思っている。『社会の役に立つ』人材育成の議論が近視眼的で短期の成果を挙げることに性急になりすぎていると危惧する。今すぐ役に立たなくても将来的に大きく展開できる人材育成も必要だ」と述べました。

また、下村文部科学大臣が国立大学の入学式などでの国旗と国歌の取り扱いについて適切な対応を取るよう求める考えを示していることに関しては「大学では表現や思想の自由は最も大切にすべきもので、それぞれの信条にのっとって各大学が対応すると思う。萎縮しないよう頑張っていきたい」と話しました。