2016年2月20日土曜日

国立大学は産業界の声を生かす努力を怠るなかれ

イノベーションの創出をもたらす産学連携は、近時、我が国の成長戦略を実現するための重要な政策課題の一つとして位置づけられ、文部科学省や経済産業省が様々な施策を強力に進めています。

このような中、国立大学に対する産業界からの期待と要請は益々大きくなってきており、もはや大学は、根本原理の追究一辺倒では、その使命を果たすことが困難な時代になりつつあります。

国立大学は、産業界との協働や連携を通じて、研究成果の社会実装を視野に入れた活動を積極的に進め、社会的・経済的課題の解決に貢献していくことが益々重要になってきます。

このたび、産業界の代表である日本経済団体連合会が「産学官連携による共同研究の強化に向けて~イノベーションを担う国立大学・研究開発法人への期待~」と題する提言を行いました。

この中に示された国立大学に対する手厳しい指摘と求める改善は、産業界の期待の表れとも言えます。

国立大学の研究者、とりわけ経営責任のある学長、理事は、自身の安定的身分や、血税によって賄われている高額な報酬に見合った仕事や責務を適切に果たしているかを改めて振り返るとともに、「社会の声」である提言の内容に真摯に耳を傾け、実効性のある行動に移す努力を怠ることのないようにする必要があります。

提言のうち、国立大学に関係の深い部分を抜粋してご紹介します。(本文中、「企業、国立大学、国立研究開発法人」が併記されている部分は、わかりやすくするために、機械的に「国立大学」に置き換えています)



産学官連携による共同研究の強化に向けて
~イノベーションを担う国立大学・研究開発法人への期待~

Ⅰ 産学官連携のあるべき姿

「産学官連携」の最大の役割は、優れた最先端技術の創出と社会実装(イノベーション)の有機的な連携。わが国における産学官連携は、その役割に対して、成果・活動の両面で低調

現在、産学連携を通じて創出された成果が社会実装(事業化)に繋がった割合は16%、その成果が事業の売上に大いに貢献した割合は6%。また、国立大学の研究資金における民間拠出割合はOECD平均4.9%%に対し2.4%に留まり、産学共同研究の1件あたりの金額平均は欧米諸国に大きく劣る231万円

現在の産学官連携による共同研究は、その金額規模等に示される通り、個々の研究者間での純粋な「研究活動」が多数。社会実装を加速する産学官連携を実現するには、活動の幅を一層拡大することが求められる。

「研究成果(知的財産等)の創出」に終始することなく、将来に向けて必要な研究活動・研究成果の探索(革新領域の探索)や社会実装に向けた具体的活動(革新領域の市場創造)など、基礎・応用といった様々な段階で課題やビジョンを産学官が共有し、共同研究を進めることが必要

また、「第4次産業革命」等に代表される経済社会構造の変革下、革新領域の創出に資する成果を創出するためには、企業において不足しがちな高い基礎研究力や人文系・理工系双方のアセットをもつ、国立大学の総合力を十分に活用した多様性ある研究活動が重要

「革新領域」の創出に向けては、将来のあるべき社会像等のビジョンを国立大学が共に探索・共有し、基礎・応用や人文系・理工系等の壁を越えて様々なリソースを結集させて行う「本格的な共同研究」を通じてイノベーションが加速することが重要

なお、経団連が本提言に先立ち実施した意識調査においても、分野横断的な知見が必要な都市・インフラ・交通等の分野や、脳科学・新素材開発等の長期的視野にもとづく基礎研究が重視される分野において、9割を超える企業より「本格的な共同研究」に期待しているとの意見

また、その役割としても「将来の基幹技術開発」といった、従来の「お付き合い」を超えた連携を望む声が多数。今はまさに、企業にとっても、革新領域の創出を見越した「本格的な共同研究」への期待がかつてなく高まっているタイミング

Ⅱ 国立大学に対する期待

1 「本格的な共同研究」実行に向けて、速やかな対応を要する点

(1)国立大学の本部(産学連携本部等)における、部局横断的な体制を構築し共同研究を推進する企画・マネジメント機能の確立

国立大学の「本部」が、組織内の各部局と連携し、企業に対して「本格的な共同研究」の企画と提案を行い、実行をサポートする体制の構築。および、「大学間の連携」等、組織を越えた連携を推進する渉外機能の確立

(2)資金の好循環に向けた管理業務の高度化・共同研究経費の見える化

国立大学の本部のリーダーシップ、全面的な支援により迅速な交渉・契約がなされる仕組みの確立。加えて「共同研究の経費」について、直接経費・間接経費等を問わずエビデンスに基づく「見える化」を行い、企業との交渉を行うスキームの構築

(3)知の好循環に向けた知的財産マネジメントの強化

硬直的な「知的財産管理(成果管理)」体制・ルールの改善。特に「不実施補償」(企業と大学等の共願特許を企業側が実施する際、共同研究相手(大学等)に対価を支払うこと)に関し、非独占的な自己実施において「不実施補償料を請求しない」ルール(産業技術総合研究所等が導入)をはじめとする、契約の柔軟化(各組織や分野の特性に応じた特許権取扱の類型化等)。なお、「本格的な共同研究」を妨げうる課題として、約8割の企業が「不実施補償」をはじめとする知的財産の活用に関する課題があると回答

(4)人材の好循環に向けたリスクマネジメントの確立・クロスアポイントメント(研究者等が、大学や公的研究機関、民間企業等の間で、それぞれと雇用契約関係を結び、各機関の責任の下で業務を行うことが可能となる仕組み)の拡大

研究者・教員・ポスドク・学生等の共同研究への参画に向けた「リスクマネジメント」のルール明確化。例えば、営業秘密管理の徹底、職務発明制度・技術移転に関するルール整備(法人間異動時、技術輸出管理、契約履行責任の明確化等)。また、これらのルール整備と並行した、企業とのクロスアポイントメント拡大に向けた国立大学内の環境整備(教員人件費の柔軟化等)

2 将来に向けた研究成果の最大化に向けて、改革を要する点

(1)資金の好循環に向けた財務構造改革・財務基盤強化

優れた研究成果創出には強固な財務基盤が不可欠。特に国立大学は、教員人件費が運営費交付金に過度に依存する点をはじめとする硬直的な財務構造を改め、将来に向けた財源の多様化、教育・研究の質を高める資金を自ら捻出・投資する構造への改革が重要。並行して、コスト効率の改善も重要。英国では、国立大学の枠を超えた「事務的サービス、インフラの共有化」「共同調達」等により3年間で13億8,000万ポンド(2,400億円)を削減しており、同様の努力が必要

(2)知の好循環に向けた高度な知的資産マネジメント・研究の「価値」に関するプロモーション

研究成果の高度な活用に向け、研究経営資源を効果的・効率的にマネジメントする人材・機能の強化が必要。特に、成果の好循環に向けた「研究の価値」に関するプロモーションは重要。例えば、研究成果の社会実装に向けたロードマップを含む情報発信、企業との日常的な連携関係構築(情報交換の場の充実化、客員研究員制度の拡充(MITでは、産業界の客員研究員が「学生証」を持ち、自由に講義等に参加))等

(3)人材の好循環に向けた研究者(教員)の人事評価制度改革

研究者・教員等のキャリアパス上、企業における経験が高い評価を受ける制度設計。加えて国立大学においては、産学連携・本格的な共同研究に携わる教員を高く評価し、当該教員の教育・研究に割くエフォートが他の教員とは異なることを許容し、一層の産学連携が進むような柔軟な人事評価システムの実現

(4)産学官連携に関する「価値」の再認識

基礎研究・応用研究を問わず、産業界との連携拡大に向けた意識変革の推進(トップによる方針提示等)


本格的な共同研究の拡大に向けて進めるべき取組みの全体像


Ⅲ 政府に求められる対応

第5期科学技術基本計画においては、「オープンイノベーションを推進する仕組みの強化」、「産学官のパートナーシップの拡大」等について、具体的な数値目標を含めた強化方針が盛り込まれた。

また、文部科学省が昨年7月に発表した「国立大学経営力戦略」においても、各国立大学が産学連携を加速するための改革に積極的に取組むよう示された。

産業界としては第一に、これらに基づき、国立大学が、自ら積極的な改革を進めることに期待

その上で、政府には「本格的な共同研究」を積極的に強化する主体に関して、共同研究の強化が財務基盤の弱体化や教育・研究の質の低下を招かないためのシステム改善と、産学官連携が加速する強力なインセンティブシステムの設計を求める。

具体的には、以下のような事項

全 般

各国立大学における「産学官連携」「本格的な共同研究」の強化の度合いに応じた、運営費交付金等の重点的な資金配分。特に国立大学においては、本格的な共同研究の強化に応じて相対的にリソースが不足しうる「教育活動」に関し、その不足分を補う以上の優先的な資金配分が不可欠

「指定国立大学(仮称)」(世界の有力大学と伍して国際競争力をもち、高等教育をリードする国立大学について、組織再編の柔軟化や定員管理、収益事業等における規制緩和が図られる予定)、「特定国立研究開発法人(仮称)」(国家戦略に基づき、科学技術イノベーションの基盤となる世界トップレベルの成果を生み出すことが期待される法人。研究者給与の柔軟化等の特例措置が図られる予定)、「卓越国立大学院(仮称)」(世界最高水準の教育力と研究力を備え、人材交流・共同研究のハブとなる拠点)における本格的な共同研究を飛躍的に拡大させることを見越した制度設計。研究成果の社会実装の視点からの目標設定や、トップによる戦略的な資源配分を可能にする規制緩和の実現(国立大学設置基準、寄付金等の運用範囲等)。なお「卓越国立大学院(仮称)」においては、「世界最高水準の教育・研究」を実現しうる事業に対し集中的な投資を行い、補助終了後も企業等からの外部資金により事業が継続する仕組みの確立が不可欠

資金の好循環に向けて

財務構造改革に向けた強力なリーダーシップ。特に各国立大学が自ら将来に向けた資金を捻出し、自らの戦略に基づき投資を行う体制の実現に資する、財務構造上の課題分析・財源の多様化に向けた政策誘導。加えて、研究のコスト効率の改善に向けた具体的方策の提示

知の好循環に向けて

共同研究を通じ取得された知的財産の活用方策についての類型化等を進め、「不実施補償」等の課題解決に向けたベストプラクティスの提示

研究成果の社会実装を加速するための「知的資産マネジメント」強化に向けた、経営人材の育成(産学官連携に関する「スタッフ・ディベロップメント」活動の重点的強化)および外部からの人材登用等に向けた支援

人材の好循環に向けて

産学官連携を積極化することを念頭に置いた研究者(含教員)の評価制度の改善例提示。および、必要に応じた国立大学設置基準等の柔軟化

クロスアポイントメントの活性化に向けた、組織内の環境整備・慣習的な課題解消などに向けたリーダーシップ。同制度の普及にむけた啓発活動

Ⅳ 産業界・経団連の取組み

産業界は、わが国の国立大学において先に挙げた改革が進み、欧米に匹敵する組織的な体制が構築できた場合、国立大学に対する、幅広い「投資」「知・人材の交流」を拡大

「本格的な共同研究」においては、国立大学による活動の幅が大きく拡大することから、必然的に金額規模も拡大することが予見。産業界としては、そのような「大型の共同研究」においても、創出される成果をはじめ、その成果の創出時期・設備投資・共同研究に投入される人員および工数(エフォート率等に基づく人件費)・間接経費(国立大学本部諸経費、特許関係費用、将来に向けた投資)等を通じた算出経費に基づき、教育・研究の基盤強化も見越した積極的な投資(費用負担)を進める。

また、産学官連携を通じた人材育成を加速すべく、国立大学による適切なリスクマネジメントを前提として、国立大学院生・ポスドク等が積極的に研究へ参画できる体制の確立、および、クロスアポイントメント等を通じた人件費を負担

加えて、企業側の体制整備・意識改革も一層のスピード感をもって推進。「本格的な共同研究」の推進においては企業の経営戦略・事業戦略等も含めたビジョンを国立大学と共有しながら進めることが重要であり、企業側においても研究開発部門に限らない組織的なイノベーション推進体制の構築が重要。また、国立大学を交えたオープンな将来事業検討の場の拡充、業種・業界横断的な「産産連携」の拡大、イノベーション推進と直近の事業推進という両面を兼ね備えた「両利きの経営」体制の確立等、オープンイノベーションおよび産学官連携を重要な経営戦略の中で実質化するための取組みを推進

また、「本格的な共同研究」が継続的に拡大するためには、その成果が、研究に直接的に関係する企業・国立大学のみならず、ベンチャー企業による事業化等、幅広く活用され、好循環することが重要。他方、わが国においては企業と国立大学の共同研究成果がベンチャー企業等で活用されることは極めて少ないと指摘され、そのスキーム・好事例を早期に確立することが求められている。

また、産学官連携を通じた「ローカル・イノベーション」への貢献も同様に重要。特に平成28年度以降の国立大学3類型(各大学等の方向性に応じた取組を支援するため、「地域への貢献」「強み・特色ある分野の教育研究推進」「海外大学と伍する教育研究推進」に国立大学を3類型化)のうち「地域への貢献」をミッションとする国立大学や、地域の公設試験研究機関(公設試)・産業技術総合研究所(産総研)等においては、高い技術力を持つ地域の中堅・中小企業との共同研究の拡大が必要

各国立大学においては、それらの企業の経営力に応じた契約支援体制の整備をはじめ、大企業への橋渡し、地域の人材・技術などの様々なリソースを結集させた共同研究の企画実施などの機能強化が求められる。

経団連としても、2015年9月に発表した「地方創生に向けた経団連アクションプログラム」等に基づき、国立大学の機能分化や特色ある教育の実践など地方国立大学改革を促進する活動をはじめ、大企業人材の地方への還流促進などの取組みを中心に、地方創生に資する産学官連携に向けた活動を加速

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