2016年3月10日木曜日

国立大学法人運営費交付金改革の経緯と今後の方向性(1)|文部科学省の動向

昨日(3月9日)、文部科学省から、平成28年度における国立大学法人運営費交付金の重点支援の評価結果が公表され、関係者間では衝撃が広がっています。

これは、平成28年度から、国立大学を目的別に3分類し、各大学の取り組みに応じて運営費交付金の一部(約100億円)を配分する仕組みに変わったことによるもので、従来に比べ、全86大学のうち42大学が増額、43大学が減額(岩手大学、和歌山大学などが118・6%、京都教育大学が75・5%)となるなど、大学間の格差が生じる結果となりました。

このように、国立大学の運営費交付金は、来年度からの第三期中期目標期間を迎えるに当たり、国立大学改革の一環として大きな変貌を遂げることになりました。そこで今回から数回に分けて、運営費交付金改革の経緯と今後の方向性について整理してみたいと思います。


平成28年度当初予算案(平成27年12月24日閣議決定)が、去る3月1日に衆議院本会議で可決され、参議院に送られました。憲法の規定により、参議院の議決がなくても3月30日には自然成立するため、今年度内の成立が確実となりました。

報道によれば、平成28年度予算案の歳出総額は96兆7218億円の過去最高となり、一億総活躍の関連施策で社会保障費が膨らむ(前年度当初より5千億円増の約2.4兆円)とともに、夏の参議院選挙をにらみ公共事業費が増え、中国の海洋進出をにらんだ防衛費(防衛装備品の購入、米軍再編経費等)が史上初めて5兆円を突破したということです。

出典:朝日新聞

このうち、国立大学の運営基盤を支える経費である国からの運営費交付金については、総額としては、前年度と同水準の1兆1000億円が確保される見通しとなりました。

予算編成過程では、財務省が、財政難を理由に減額の継続を主張するなど、例年同様に厳しい攻防が文部科学省との間で展開されたようですが、平成28年度予算は、第三期中期目標期間の初年度予算として今後6年間を占う重要な位置づけになることもあり、文部科学省はもとより、関係各界の努力により、なんとか法人化以降の連続した一律削減を回避することができたことは大きな成果ではなかったかと思います。

しかし、一方で、平成29年度からは、運営費交付金を毎年約0.5%減額し、その財源の一部を国立大学のさらなる機能強化を図るべく、組織再編などに取り組む大学に優先して配分する補助金に充てるなどの新たなルールが設定されることになりました。

また、機能強化のための重点支援の仕組みや学長のリーダーシップの強化を図るための予算枠が新たに導入されることになりました。


文部科学省の動向

まず、文部科学省の政策動向についてご紹介します。

<動向1>組織及び業務全般の見直し

文部科学省における運営費交付金制度の見直しについては、大学改革実行プラン」(平成24年6月)国立大学改革プラン」(平成25年11月)に遡って整理することが適切だと思いますが、ここでは、国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて」(平成27年6月文部科学大臣決定)から説明を始めます。

ご存知の方も多いのではないかと思いますが、これは、文部科学省が、国立大学の第三期中期目標・中期計画の策定に当たって、全国立大学に対し留意を求めるため発出した通知です。

既にこのブログでもご紹介したとおり、組織の見直しに関わる「教員養成系学部・大学院、人文社会科学系学部・大学院については、18歳人口の減少や人材需要、教育研究水準の確保、国立大学としての役割等を踏まえた組織見直し計画を策定し、組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組むよう努めることとする」という記載について、人文社会科学を軽視したものとの批判を含め、大きな社会的論争が巻き起こったところです。

この通知には、「運営費交付金改革」について次のように記載されています。

第4 制度改正等の措置

1 国立大学法人運営費交付金の配分方法の見直し等

第3期中期目標期間における国立大学法人運営費交付金の在り方としては、国立大学の機能強化を一層進めていく観点に立ち、各法人の規模、分野、ミッションや財務構造等を踏まえたきめ細かな配分方法を実現するとともに、平成27年度に施行された学校教育法及び国立大学法人法の一部改正法等を踏まえ、学長がリーダーシップを発揮し、学内のマネジメント機能を予算面で強化することが必要であることから、以下のような見直しを行う。

(1)第3期における各国立大学の強み・特色の発揮を更に進めていくため、機能強化に積極的に取り組む大学に対し運営費交付金を重点配分する仕組みを導入すること。その際、第3期における各国立大学の機能強化の方向性に応じた取組をきめ細かく支援するため、次の三つの重点支援の枠組みを設けること。
  1. 主として、人材育成や地域課題を解決する取組などを通じて地域に貢献する取組とともに、専門分野の特性に配慮しつつ、強み・特色のある分野で世界ないし全国的な教育研究を推進する取組等を第3期の機能強化の中核とする国立大学を重点的に支援
  2. 主として、専門分野の特性に配慮しつつ、強み・特色のある分野で地域というより世界ないし全国的な教育研究を推進する取組等を第3期の機能強化の中核とする国立大学を重点的に支援
  3. 主として、卓越した成果を創出している海外大学と伍して、全学的に世界で卓越した教育研究、社会実装を推進する取組を第3期の機能強化の中核とする国立大学を重点的に支援
なお、機能強化の方向性に応じた重点支援を行うため、現在の大学改革促進係数を見直し、各国立大学法人の財務構造等を考慮しつつ、一定の財源を確保する仕組みを設けること。

(2)上記のほか、高等教育に関する政策課題のうち国立大学に共通する課題等に関する重点支援を行う枠組みを設けること。

(3)機能強化の方向性に応じた重点配分を行う取組については、原則として測定可能な評価指標を各法人が独自に設定するなど、取組の成果が事後に検証可能な仕組みを構築すること。

(4)重点支援による取組は、支援終了後については各国立大学法人の既存の財源による継続を原則としつつも、重点支援を行った優れた取組については、その経費を運営費交付金の配分に一定の加算をするなど、その取組が継続して行えるような仕組みを導入すること。

(5)学長がリーダーシップを発揮し、学内のマネジメント機能を強化する観点から、組織の自己変革や新陳代謝を進めるための教育研究組織や学内資源配分等の見直しを促進する仕組みを導入すること。

(6)国立大学法人運営費交付金の一部の算定の際、第2期中期目標期間に係る業務の実績に関する評価の結果を反映させ、これに基づく配分を行うこと。


<動向2>運営費交付金の在り方に関する検討(審議まとめ)

日本再興戦略 改訂2015」(平成26年6月閣議決定)において、運営費交付金の重点配分導入による大学間競争の促進を図るため、運営費交付金の配分方法を年末までに取りまとめることとされたことから、文部科学省は、第3期中期目標期間における国立大学法人運営費交付金の在り方について(審議まとめ)」(平成27年6月)を取りまとめ、公表しました。

この審議まとめでは、国立大学法人の法人化以降の現状と課題、これまでの運営費交付金に係る課題を整理した上で、第3期中期目標期間における国立大学法人の在り方を提示し、運営費交付金の配分方法、取組の評価方法等が提言されています。

主なポイントは次のとおりです。

第3期の国立大学法人運営費交付金の在り方
  • 運営費交付金は、国立大学法人が安定的・持続的に教育研究活動を行うために必要不可欠な経費
  • 各国立大学法人が自らの努力で増収を図った場合に、運営費交付金を減額しないという従来の取扱いは踏襲
  • 各国立大学法人のビジョンに基づき、機能強化を迅速に実現
  • 各国立大学法人の規模、分野、ミッション、財務構造等を踏まえ、きめ細かな配分方法を実現するとともに、透明性を向上

改善点1 機能強化の方向性等に応じた重点配分
  • 国立大学の多様な役割や求められている期待に応える点を総合的に勘案し、機能強化の方向性に応じた取組をきめ細かく支援するため、予算上、三つの重点支援の枠組みを新設
  1. 主として、地域に貢献する取組とともに、専門分野の特性に配慮しつつ、強み・特色のある分野で世界・全国的な教育研究を推進する取組を中核とする国立大学を支援
  2. 主として、専門分野の特性に配慮しつつ、強み・特色のある分野で地域というより世界・全国的な教育研究を推進する取組を中核とする国立大学を支援
  3. 主として、卓越した成果を創出している海外大学と伍して、全学的に卓越した教育研究、社会実装を推進する取組を中核とする国立大学を支援
  • 三つの枠組みから大学が自ら一つ選択し、取組構想を提案。その際、測定可能な評価指標(KPI)等を設定。その後、有識者の意見を踏まえて支援する取組を選定
  • 基本的に中期目標期間を通じて支援を実施。原則、年度ごとに取組構想の進捗状況を確認するとともに、評価指標を用いて向上度を評価し予算に反映
  • 優れた取組については、支援終了後運営費交付金の配分に一定の加算

改善点2 学長の裁量による経費(仮称)の区分
  • 学長のリーダーシップを予算面で発揮し、組織の自己変革や新陳代謝を進めるため、教育研究組織や学内資源配分等の見直しを促進する仕組みとして「学長の裁量による経費」を区分
  • 文部科学省が、中期目標期間中の経費の規模を算出し、各国立大学に提示。提示した規模以上の規模で各国立大学が取組を実施
  • 有識者の意見を踏まえつつ、この経費を活用した業務運営の改善の実績や教育研究活動等の状況を3年目・5年目に確認。その結果に応じて改善の促進や予算配分に反映

<動向3>国立大学経営力戦略

文部科学省は、上記審議まとめで示した内容を踏まえ、第三期中期目標期間における国立大学の改革の方向性を取りまとめた国立大学経営力戦略」(平成27年6月)においても、運営費交付金の改革について、「機能強化に積極的に取り組む国立大学に対し、その機能強化に応じて、国立大学運営費交付金を重点配分する仕組みを導入すること」、「機能強化促進係数(仮称)により一定の財源を確保した上で、改革に積極的に取り組む国立大学に対し運営費交付金を重点配分する仕組みを導入すること」について言及しています。

Ⅱ 経営力を強化するための方策

1 大学の将来ビジョンに基づく機能強化の推進

第3期中期目標期間においては、各国立大学において、強み・特色を最大限に生かし、自ら改善・発展する仕組みを構築することにより、学問の進展と軌を一にした資源配分、組織再編、マネジメント改善等を通じて持続的な「競争力」を持ち、高い付加価値を生み出す。「国立大学改革プラン」を踏まえてこれまで進めてきた各国立大学の機能強化の取組を基に、第3期においては各国立大学の強み・特色の発揮を更に進めていくため、機能強化に積極的に取り組む国立大学に対し、その機能強化の方向性に応じて、国立大学法人運営費交付金を重点配分する仕組みを導入する。その際、国立大学に求められる多様な役割や様々な期待に応える点を総合的に勘案し、第3期における各国立大学の機能強化の方向性に応じた取組をきめ細かく支援するため、三つの重点支援の枠組みを新設し、取組の評価に基づくメリハリある配分を実施する。

重点支援①
主として、地域に貢献する取組とともに、専門分野の特性に配慮しつつ、強み・特色のある分野で世界・全国的な教育研究を推進する取組を中核とする国立大学を支援。

重点支援②
主として、専門分野の特性に配慮しつつ、強み・特色のある分野で、地域というより世界・全国的な教育研究を推進する取組を中核とする国立大学を支援。

重点支援③
主として、卓越した成果を創出している海外大学と伍して、全学的に卓越した教育研究、社会実装を推進する取組を中核とする国立大学を支援。

この三つの枠組みについては、第3期においても各国立大学が多様な役割を果たすことを前提に、特に重点的に取り組む内容を踏まえ、各国立大学自らが一つの枠組みを選択し、取組構想を提案する。その際、原則として測定可能な評価指標(KPI)等を設定する。文部科学省は、この提案を受け、有識者の意見を聴取し、支援する取組を選定する。本枠組みによる支援は、基本的に中期目標期間を通じて行う。取組構想の評価は、原則、年度ごとに進捗状況を確認するとともに、評価指標等を用いてその向上度合いに応じ、例えば3~5程度の段階で行い、重点支援に反映する。優れた取組については、支援終了後、国立大学法人運営費交付金の配分に一定の加算を行う。透明性ある評価手法や国立大学法人運営費交付金の具体的配分方法については、平成27年中を目途にとりまとめ、公表する。

2 自己変革・新陳代謝の推進

(2)学長裁量経費によるマネジメント改革

学長のリーダーシップやマネジメント力の発揮を予算面で強化する観点から、教育研究組織や学内資源配分等の見直しを促進するための仕組みとして、一般運営費交付金対象事業費の中に「学長の裁量による経費」(仮称)を新たに設け、組織の強み・特色や機能を最大限発揮できるようにする。この経費は、大学ガバナンス改革法の施行等を踏まえ、これまで各国立大学で取り組んできた実績をもとに、各国立大学のビジョンに基づき、IR(インスティトゥーショナル・サーチ)体制の充実による学内の現状分析を踏まえて学内資源の再配分の取組(人的・物的・予算・施設利用等の見直し)などを行うことにより、教育研究活動の活性化や新たに当該大学の強み・特色となる分野の醸成、学長を支援する体制の強化など、業務運営の改善を図ることを目的とする。また、この経費は、有識者の意見を踏まえつつ、各国立大学におけるこの経費を活用した業務運営の改善の実績や教育研究活動等の状況を中期目標期間の3年目及び5年目に確認し、その結果に応じて改善の促進や予算配分に反映する。
(続く)

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