2016年3月17日木曜日

国立大学法人運営費交付金改革の経緯と今後の方向性(7)|平成28年度予算案に関する文部科学省の説明(1)

(続き)

2 文部科学省による説明

まず、公表された資料を見る前に、文部科学省高等教育局長が、国立大学の予算担当理事、事務局長、担当部課長約200名を集めた「平成28年度国立大学法人の予算等に関する説明会」(平成28年1月26日)の開会挨拶で説明した内容(文教ニュース 平成28年2月1日)を抜粋してご紹介します。文部科学省の考え方がイメージできるのではないでしょうか。
28年度予算案については、昨年6月に「経済財政健全計画」が閣議決定されて、その計画を踏まえて、初年度ということで歳出改革を着実に推進するという基本的な考え方に立って予算編成がなされたところであるが、全体として非常に厳しい状況であったというふうに思っている。 
このような中で平成28年度の国立大学関係の予算については、特に平成16年度の法人化以降続いてきた減少傾向に歯止めをかけることができた。第3期中期目標期間のスタートとして対前年度同額の1兆945億円の政府予算を獲得することができたということである。 
このような結果となったのは、昨年秋以降、各大学からの大学の抱えている実情やこれまで進めてきた改革を積極的に様々な関係者に情報発信していただいたことにより、国立大学改革の重要性について財政当局にも一定のご理解をいただけたと思う。 
一方でこうした結果は、国立大学に対して国民から強い期待を寄せられているということで、今後の取組は非常に重要であり、前の年度の予算の査定ということになるので、改革の進捗状況というのが社会的に評価をされるということが前提となっているということは是非ご理解をいただきたい。 
運営費交付金を、第3期に入ったので算定ルールについても昨年の検討会の1次まとめを踏まえて話し合いを行ったので、その点についてもこの後説明がある。是非今回様々な新しい仕組みを導入する各大学が機能強化を進める上での重点支援の仕組みや学長裁量経費等を有効活用していただいて改革の取組を着実に進めていただきたい。 
総額が前年度同額になったわけであるが、各大学ごとの額を見れば増えている大学もあれば減っている大学もあるということに当然なる。それぞれの大学で違うということを学内でも十分説明していただきたいと思うが、対前年度同額の中で各大学は増減があるわけなので、もしその減額が評価に基づく再配分の額が多く得られなかったということであれば、今後どういう方針で改革を進めていくのかということについての学内での議論の徹底が必要。対前年度同額というのは実は喜んでいられる話しではなくて、文部科学省にとっても各大学にとってもむしろ厳しい額というふうに受け止めなければいけない。 
財政が非常に厳しい中で、予算は今回一定程度確保できたが、それをどう合理的に使うか、あるいは社会から指弾されないように適正に使うかということが、より一層問われる状況になっている。その予算を使って改革をしっかりと進めていくことで、来年度以降の予算の獲得ということが、大学でもできるし我々もできるようになるわけなので、是非予算を有効に活用していただいて大学改革を全体として進めるようにご理解、ご尽力いただければ非常にありがたい。



次に、文部科学省が、各国立大学に対して公表している資料から、関連する主な内容を抜粋して見てみます。

各資料のうち、詳細部分については、財務担当者以外には理解が困難な部分があります。文部科学省には、もう少しわかりやすい資料づくりに留意されるよう改善を求めたいと思います。


1 平成28年度国立大学法人運営費交付金予算(案)の概要


(1)国全体の状況

平成32年度の財政健全化目標(PB黒字化)を堅持し、計画期間の当初3年間(平成28~30年度)を「集中改革期間」と位置づけ、集中改革期間における改革努力のメルクマールとして、平成30年度のPB赤字の対前年度GDP比▲1%程度を目安とする「経済・財政再生計画」を平成27年6月に閣議決定。

平成28年度予算(案)については、本計画の初年度に当たるため、歳出改革を着実に推進するとの基本的考え方に立ち、同計画における国の一般歳出の水準の目安(※)を十分踏まえるとの基本方針のもと編成。

(※)国の一般歳出の水準の目安については、安倍内閣のこれまでの3年間の取組では一般歳出の総額の実質的な増加が1.6兆円程度〔社会保障関係費:1.5兆円、その他一般歳出:0.1兆円〕となっていること、経済・物価動向等を踏まえ、その基調を平成30年度まで継続させていくこととする。

(2)国立大学法人運営費交付金予算の概要

国立大学法人運営費交付金については、上記のとおり極めて厳しい財政事情の下、平成16年度の法人化以降、減少傾向が続いてきたが、第3期中期目標期間のスタートである平成28年度予算(案)においては、対前年度同額を確保。

第3期中期目標期間においては、第2期における改革の実績を踏まえつつ、各国立大学の強み・特色を更に発揮するため、組織改革等の機能強化を促進し、教育研究機能を強化。

①平成28年度予算(案)のポイント

平成28年度予算(案)の編成に当たっては、「第3期中期目標期間おける国立大学法人運営費交付金の在り方に関する検討会」の審議まとめを踏まえてルールを設定。

これまでの一般運営費交付金、特別運営費交付金の区分を見直し、基幹運営費交付金を新設(※特殊要因運営費交付金及び附属病院運営費交付金については変更なし)。

機能強化の方向性に応じた取組をきめ細かく支援するため、「3つの重点支援の枠組み」を新設し、以下に示す「機能強化促進係数」による財源(101億円)を全額活用し、枠組みごとに評価に基づく重点配分を実施(308億円を新規計上)。

配分に当たっては、各大学の機能強化の取組構想に対し、戦略と取組の整合性や、選択した重点支援の枠組みとの整合性、計測可能な評価指標や明確な工程表の設定などの評価項目を設定し、外部有識者の意見を踏まえた評価を実施。

第2期の大学改革促進係数を見直し、「機能強化促進係数」として新たに設定。第3期は、附属病院の有無による係数の差は設けないこととする。

【基準値】

重点支援①:▲0.8%、重点支援②:▲1.0%、重点支援③:▲1.6%

【加算値】

重点支援①、②については、上記基準値に人件費比率を勘案し以下の率を加算。
重点支援③については加算値は設定しない。
加算値は、各大学の人件費比率を考慮して5区分し、人件費比率が低い区分から順に第1区分~第5区分として設定
第1区分:▲0.4%
第2区分:▲0.3%
第3区分:▲0.2%
第4区分:▲0.1%
第5区分:加算なし
(加算値込み 重点支援①:▲0.8~▲1.2%、重点支援②:▲1.0~▲1.4%)

教育研究の活性化、新たに各大学の強み・特色となる分野の醸成、学長を支援する体制の強化など、業務運営の改善を図ることを目的として、新たに「学長裁量経費」を新設。試行的に実施した平成27年度予算と同額の402億円を計上。

機能強化促進係数対象経費から除外する経費として、設置基準教員給与費相当額に加え 「学長裁量経費」を追加。なお、設置基準教員給与費相当額の算定に当たっては、学部・大学院に係る標準教員数については平成27年度における入学定員を基に算定するとともに、平成27年度の人事院勧告及び年金一元化に伴う法定福利費の事業主負担分の増加分を反映し、機能強化促進係数対象経費から除外する経費とする。

平成27年度までの事業である「学長リーダーシップ特別措置枠」(103億円)については、全額基幹運営費交付金に組み込んで計上。

附属病院における医師等の教育研究基盤の充実として、対前年度32億円増の199億円を計上するとともに、医療機械設備費18億円計上。

年俸制導入促進費については、各大学の年俸制導入計画及びその進捗等を踏まえ、導入促進加算分も含め対前年度同額(61億円)を確保し、特殊要因運営費交付金に移行。

②平成29年度以降について

平成29年度以降は、運営費交付金を補完する新規の補助金を創設する方向で検討中(具体の内容等については、今後調整)

平成29年度以降においては、機能強化経費の中から一定期間の取組の実績を踏まえて優れた評価が得られた事業については、人件費を中心に基幹経費化を図る仕組みを導入予定。

③その他

授業料標準額について、平成28年度の改定は行わない。

第3期中期目標期間における財務基盤の強化という観点から、各大学の自己収入の拡大に資する取組を検討。




2 平成28年度国立大学法人運営費交付金予算(案)


国立大学法人運営費交付金 10,945億円(前年度10,945億円) 対前年度同額

(内訳)
  • 基幹運営費交付金 10,026億円( 9,988億円) + 38億円
  • うち機能強化経費 912億円( 795億円) +116億円
  • 特殊要因運営費交付金 920億円( 958億円) ▲ 38億円
  • 附属病院運営費交付金-億円( -億円)

▽ 教育費負担の軽減 320億円(307億円)

意欲と能力ある学生が経済状況にかかわらず修学の機会を得られるよう、授業料免除枠を拡大するとともに、学内ワークスタディへの支援を行う。
  • 免除対象人数:約0.2万人増 平成27年度:約5.7万人 ⇒ 平成28年度:約5.9万人
  • 学部・修士課程:約5.1万人→約5.4万人(約0.2万人増)
  • 博士課程:約0.6万人→約0.6万人

▽機能強化の方向性に応じた重点支援
 308億円(新規)

各大学の機能強化の方向性に応じた取組をきめ細かく支援するため、国立大学法人運営費交付金の中に3つの重点支援の枠組みを新設し、国立大学改革を更に加速。
  • 重点支援① 主として、地域に貢献する取組とともに、専門分野の特性に配慮しつつ、強み・特色のある分野で世界・全国的な教育研究を推進する取組を中核とする国立大学を支援
  • 重点支援② 主として、専門分野の特性に配慮しつつ、強み・特色のある分野で地域というより世界・全国的な教育研究を推進する取組を中核とする国立大学を支援
  • 重点支援③ 主として、卓越した成果を創出している海外大学と伍して、全学的に卓越した教育研究、社会実装を推進する取組を中核とする国立大学を支援

▽マネジメント改革の推進


教育研究の活性化、新たに各大学の強み・特色となる分野の醸成、学長を支援する体制の強化など、業務運営の改善を図ることを目的として「学長裁量経費」を新設。

▽共同利用・共同研究体制の強化・充実
 68億円( 64億円)

国内外のネットワーク構築や新分野の創成等、共同利用・共同研究拠点の強化に資する取組から、将来的に共同利用・共同研究拠点を形成するような附置研究所等の先端的かつ特色ある取組まで、一体的に重点支援し、我が国の大学全体の機能強化に貢献する。


▽学術研究の大型プロジェクトの推進 238億円(241億円)

大学共同利用機関等において実施される先端的な学術研究の大型プロジェクト(大規模学術フロンティア促進事業)について、国際的競争と協調のもと、戦略的・計画的に推進する。


▽附属病院の機能・経営基盤強化 232億円(240億円)

高度先進医療や高難度医療を提供する国立大学附属病院の機能を強化するため診療基盤の整備支援策を充実。
  • 教育研究診療機能充実のための債務負担軽減策等 33億円( 73億円)
  • 附属病院における医師等の教育研究基盤の充実 199億円(167億円)
※このほか、医療機械設備費として18億円を計上

※国立大学法人運営費交付金のほか、国立大学経営力強化促進事業として80億円を計上(国立大学改革強化推進補助金:60億円、国立大学改革基盤強化促進費:20億円)