2016年12月2日金曜日

記事紹介|運営費交付金

運営費交付金は実質的にそれほど減っていないし、各種補助金を合わせれば国立大学の収入は増えているため、教育研究活動を圧迫しているとの見方は正しくない。財政制度等審議会における財務省の説明である。確かに財務省の説明資料を見ると、そういった数字が並んでいるが、実際の現場の実感は全く異なるものであろう。

04年度と16年度を比較したケースで論じており、附属病院の運営費交付金は584億円がゼロに、退職手当が1149億円から645億円に減、一般運営費交付金は382億円しか減っていないというが、退職手当は毎年の退職者の数で決まるため比較する意味がないし、合計966億円のマイナスというのは経営的には非常に大きい。

その間には、電子ジャーナル等の価格が高騰し、法人化したことで労働安全対策関連経費が大幅に増加した結果、運営費を上げている。また、各種補助金等が増えているというが、そうした資金は運営費に充てることはできず、逆に電気代や環境整備費で運営費を増やしてしまった。もちろん間接経費が十分に措置されているわけではない。

さらに科学技術予算については、91年以降、他の主要国と遜色のないペースで拡充しているにもかかわらず、トップ10%論文の割合が低いとして、予算額が必ずしも研究開発の質に結びついていないと指摘している。しかし、この場合の科学技術予算というのは科学技術関係経費のことを指しており、基本計画が新しくなるごとに対象範囲が広がってきた、見かけ上の数字に過ぎない。もちろん、トップ10%論文割合の低さは課題ではあるが、その要因には予算構造そのものの問題もある。文科省には、正々堂々とした反論を期待したい。

2016/12/02 科学新聞社 コラム から


国立大交付金 野放図な減額は疑問だ|2016年12月2日北海道新聞社説

北大が人件費の大幅削減を検討している。削減額は2017年度から5年間で55億円に上る。教授に換算すると186人分だ。

主に人件費や研究費に充てられる、文部科学省の運営費交付金の減額が続いているためである。

北大だけではない。交付金減額は各国立大の大きな懸案だ。

一方で国は近年、すぐに成果が見込める研究に「競争的資金」を重点配分している。これでは短期的研究に偏り、腰を据えた研究にしわ寄せが出かねない。

財政状況を考えれば、運営費交付金も聖域ではありえまい。

しかし、研究者が資金集めに忙殺されては、研究や教育に落ち着いて取り組めない。大学の質の低下を来さないためにも、交付金の削減には慎重であるべきだ。

北大の15年度の運営費交付金は311億円で、04年度の346億円から10%以上も減少した。

本州では、教員の昇任見送りや新規採用を抑制する大学もある。人件費を抑えるため、任期付きの教員を雇う大学も多い。

こんな状況が続けば、教員一人あたりの負担増加にとどまらず、意欲の低下を招く恐れもある。

北大学長選も、交付金削減への対応が争点の一つになっている。

研究費確保も厳しい。国の競争的資金や企業、自治体からの外部資金に頼る研究者も少なくない。

しかも、競争的資金や外部資金を得るには、目に見える成果を期間内に上げる必要がある。任期付き教員も成果を出せなければ、次の職を得ることが難しくなる。

時間をかけた基礎研究などに取り組む研究者はますます減るだろう。実用化や応用ばかりが重視され、人文社会系の研究は理系以上に先細りが懸念される。

資金が欲しい一部の研究者が、軍事技術に応用可能な研究に資金を出す防衛省の制度に注目するのも、こうした背景があるからだ。

運営費交付金は、04年度の国立大学の独立行政法人化を機に削減が始まった。

そもそも法人化は、個性豊かな大学をつくることが目的だったはずだ。なのにこんなことでは逆に大学の多様性が失われかねない。大学自治を脅かす恐れすらある。

「『役に立つ』という言葉が社会をだめにしている。長い視点で科学を支える社会の余裕がなければ、日本の研究は貧しくなる」

今年のノーベル医学生理学賞に選ばれた大隅良典・東工大栄誉教授の言葉だ。国は重く受け止める必要があろう。