2017年4月22日土曜日

記事紹介|教授昇任の要件

科学技術・学術政策研究所(NISTEP)では、科学技術振興機構(JST)の協力を得て、JSTが整備・運用する研究者データベース(researchmap)を用い、日本の大学に所属する研究者の研究業績や属性、経験等がアカデミアでの昇進に与える影響についてイベントヒストリー分析を行いました。

分析の結果、学術分野によって昇進の際の評価要素が異なること、また近年では大学以外での研究・勤務経験等多様なバックグラウンドも昇進の際に考慮される傾向に転じつつあることが明らかになりました。

3. まとめと考察

分析の結果、すべての学術分野において、論文数や書籍数、競争的資金の獲得件数が教授になる上で正の影響を与えていることが明らかになった。特に、競争的資金の獲得件数は、人文社会学系をはじめとするすべての分野において教授昇進に有意に強力な説明力を有することが明らかになった。一方で、受賞歴数は、理工系や医学・生物系では正の影響を与えるのに対し、人文社会系では負の影響を与えるなど、分野によって教授になる上で影響を与える要素には違いがあることが明らかになった。性別による違いに関しては、男性研究者にとっては、共著者数や受賞数、競争的資金の獲得件数などが教授昇進に影響を与えている。一方、女性研究者については、医学・生物学分野では書籍数や競争的資金の獲得件数、論文数が教授昇進にポジティブな影響を与えている。このように、男性研究者と女性研究者では、教授昇進において影響を与える要素が異なることが明らかになった。

社会的要素については、すべての学術分野において、女性研究者は男性研究者よりも教授昇進の確率が低いことが明らかになった。この結果は先行研究とも一致する (Fotaki,2013)。女性研究者の活躍促進に関する大学改革の効果に関してみると、予想通り、女性研究者ダミーは、ネガティブからポジティブへと転じていたものの、統計的有意ではなく、政策効果という点では大きな変化がまだ観測できていない。

経験的要素に関しては、組織間移動は人文社会学系や医学・生物系分野において教授昇進にポジティブな影響を与えるのに対して、非アカデミアでの経験や海外での勤務経験は人文社会学系においてネガティブに働いている。海外への移動経験が教授昇進にネガティブに働くというのは、スペインの理工系分野での教授昇進に関する先行研究とも一致する(Sanz-Menéndez etal., 2013)。多様なバックグラウンドの尊重という大学改革の趣旨に関しては、非大学での勤務経験が教授昇進に与える影響において変化が確認された。すなわち、2004年以前は、大学以外での勤務経験は教授昇進にネガティブな影響を与えていたのに対して、2004年以降はポジティブな影響へと変化したのである。

また、一連の大学改革始動によるファカルティ人材の多様化推進に関しては、第一に、論文数や書籍数の説明力は低下しているものの、人脈的要素の強い共著者数の影響も低下していることから、人とのコネクションを重視する傾向が緩和されているのではないかと考える。第二に、女性研究者の活躍促進については、先述の通り、女性研究者であることが昇進に与える影響は、ネガティブからポジティブへと変化したものの、統計的に有意ではなく、政策効果があったとまではまだいえないと考える。第三に、人材の流動化の促進については、組織間の移動回数が教授昇進に与える影響は、2004年以前はポジティブであったものがネガティブへと転じており、組織間の移動回数の多さは昇進に不利に働く傾向にあることが明らかになった。第四に、教員の多様なバックグラウンドの尊重という観点からは、大学改革により、大学以外での勤務経験が明らかに重視される様に変化していることが確認され、政策効果があったといえるのではないかと考える。

一連の大学改革と教授の多様性拡大に関する一考察~研究者の属性と昇進に関するイベントヒストリー分析~の公表について|2017年4月17日科学技術・学術政策研究所 から