2017年6月2日金曜日

記事紹介|大学の研究力と責任

世界をリードできる研究は、結局のところ研究者一人ひとりの自由な発想とそれを実現する努力、またそれらを支える適切な環境によってもたらされる。多くの事例が明らかにしているとおりである。他入が目標を立てたお仕着せの研究からは、国内一流水準の論文や追いつき追い越せの報告書は生まれても、世界をリードする創造的な成果は得られにくい。このことは、世界水準の研究コミュニティにいる研究者であれば、誰もが肌で知っていることだ。

世界をリードする研究者とはどんな研究者なのだろうか。国際共著論文を出版しさえすれば世界をリードする研究者なのかといえば、もちろんそうではない。国際共著論文は結果に過ぎない。大切なことは、世界に先駆けた知の「生産者」かどうかということである。急速に進む情報通信技術の影響の一つは、知の生産者に比べて知の消費者が格段に増えたことだ。逆に言えば、本格派の知の生産者が以前より遥かに重要な位置を占める時代になったということだ。

世界水準の「研究力」の源は、世界水準の知を生産することのできる研究者にある。ただし、その力が十分発揮できるようにするには、「研究力」を発揮する適切な環境が必要だ。そのためには、大学や研究機関の役割、文部科学省をはじめとする政府の諸政策、日本学術振興会のような研究助成機関の役割、さらには科研費のように個々の研究者の自由な発想に基づく研究を支援する研究費の役割がきわめて大きい。

したがって、「大学の研究力」を高めるための方策は、自らの発想と目標をもとに世界水準で知の生産者たり得る研究者をできるだけ集めること、またそれらの研究者が十分に力を発揮できる「適切な環境」を創り出していくこと、これらの2点に尽きる。

ところが現実には、日本の大学、特にトップレベルと言われる大学において、もちろん個別には世界水準の研究者も多々おられるが、「大学の研究力」としては、世界の一流大学とベンチマークしたとき、上の2点はほとんど実現されていないと言ってよいのではないか。

第一に、世界水準の研究者を集めることが「大学の研究力」を高める第一の要件であるが、日本の大学は人事の流動性がきわめて小さく、常勤教員の個人評価も明確でない。このため、いったん常勤ポストを得た研究者の個人評価が大学の評価に直結していない。第二に、研究支援の専門職員がきわめて少なく、専門職として社会に認知されていないため、大学として研究の「適切な環境」を整備するどころではない。第三に、大学に対する国の予算執行と大学側の経営力の問の乖離が大きい。

国の側から見ると、大学の研究予算は増えているのに成果があがらないのは大学側の経営力の問題である。大学からみると、時限の研究予算は増えても優れた研究者を世界から集めたり適切な環境を整備するための予算が足りず、結局研究にしわ寄せがきているという。いずれにしても意識のすれ違い状態が続いているのが現状だ。

他にもいろいろな論点はあるが、いずれにしても日本の大学は世界の先進諸国の中で沈みつつある。

上に書いたことも背景になって、「大学の研究力」を高めるためのさまざまな政策が立案・実施されている。例えば、第3期中期目標期間における指定国立大学法人が公募されており、「研究力」が申請要件の柱の一つになっている。具体的には、分野の融合や新しい学問分野の創出を含め、国内外を問わず求心力をもって研究の拠点となる力が求められ、特に科研費の新規採択件数の累計(2012〜16年度)が2分野以上で国内10位以内、Q値(論文に占めるトップ10%補正論文数)(2009〜13年)が国内10位以内という条件が、「研究力」についての申請要件となっている。

こうした要件は、定量的評価の基礎として必要なことであり、また分野別の評価など、有効と考えられる評価基準が導入されている。ただし、ここに書いたように、「大学の研究力」の源はその大学に所属する個々の研究者が世界水準の知の生産者だ、ということにある。また、「大学の研究力」は、そうした研究者をどのくらい多く集められるか、また彼らに世界水準の研究コミュニティと直接つながる環境をどのくらい提供できるかで決まる。それには大学側に、コスト削減を改革と称するような従来の日本の大学「運営」とは異なる、世界の大学とのベンチマーキングに基づいた「経営」努力が不可欠である。

世界水準の研究者が身を預けたくなる環境の整備に向けて努力を惜しまない大学が報われ、世界水準についての感度の鈍い大学が沈んでいく大学問の競争環境を、我々自身が創り出さなければならない。若年人口急減の中で知の生産を進めなければならないこれからの日本にとって、自治を標榜する一方で経常予算だけでも毎年1兆円を超える多額の税金が投入されている大学の責任はきわめて大きい。

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