2018年1月23日火曜日

記事紹介|文科省の大学統制

昨年秋に公示された東京23区の大学定員を抑制する文部科学省告示が、現国会で法制化される予定だ。これは地方大学の定員割れを防ぐためには、人気のある東京の大学の定員数を抑制すればよいという、いわばトランプ大統領流の他者への責任転嫁の論理である。

生産性向上による経済成長を掲げる安倍政権で、なぜ学生に選ばれない大学を守ろうとする、露骨な保護主義がまかり通るのか。

東京の大学の競争力は国内では圧倒的だが、世界ランキングではむしろ低下している。他方で、国際教養大学や立命館アジア太平洋大学等、地方でもユニークな大学も存在する。多様な大学が切磋琢磨(せっさたくま)して初めて日本全体の教育水準の向上が達成できる。

少子化時代に大学が多すぎるから、新規の学部や定員を抑制すべきだというのは、縮小均衡に陥るだけだ。むしろ既存の慢性的な定員割れの大学の円滑な退出の仕組みを整えるべきだ。

大学間の競争を抑制する一方での授業料無償化は、低レベルの大学への補助金と同じである。大学教育の機会均等化政策には、むしろ個人の学力と家族の所得に応じた奨学金制度の充実が世界の常識である。

働き方の多様化が進む中でリカレント教育の必要性も高まっている。傾向的に減少する若年層だけを顧客とするのではなく、社会人や高齢者の学び直しの場としての大学教育のニーズはむしろ高まっている。

こうした社会環境の大きな変化の下で、文科省が明確な根拠も示さずに獣医学部等、特定の学部の新設を認めないとか、大都市の大学の定員増を禁止するという統制的な行政は、他の省庁と比べても極端である。

もともと、利用者保護を名目とした文科省の私立大学への介入は、他の先進国と比べて行き過ぎだ。そうした官僚統制が天下りの温床にもなっている。

大学の研究・教育の質や財務状況については十分な情報公開の下で、政府から独立した機関が評価する。そうした情報も活用して利用者が大学を選択することがグローバルスタンダードの教育である。

今回の東京23区の大学定員抑制策は、本来のアベノミクスの成長戦略とは逆方向であり、地方創生には結びつかない。