給与法改正案が成立、審議官以上の手当引き上げ見送り
今年度の人事院勧告を受けた改正給与法が26日、参院本会議で全会一致で可決、成立した。
勧告に従い、国家公務員の初任給など若年層に限定した月給や、期末・勤勉手当(ボーナス)などを引き上げる。
一方、厳しい財政状況や相次ぐ官僚の不祥事を受け、政府は勧告のうち審議官級以上の「指定職」の期末・勤勉手当などの引き上げを見送った。(平成19年11月26日 日本経済新聞)
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平成19年の人事院勧告に対する給与法の改正は11月30日に公布・施行されることになっています。
4月1日に遡って適用され、報道によれば、総額で約440億円の人件費が追加発生するそうです。
なお、これは国家公務員に限った数字ですから、連動して実施されることになる(であろう)独立行政法人や地方自治体など公的セクターを含めた全体では想像を絶する大きな数字になることでしょう。
国立大学における給与改定
国家公務員の場合は、追加財政需要としての補正予算が組まれ、4月に遡及した差額が支給されることになりますが、つい4年ほど前まで同じ国家公務員であった国立大学の教職員については、国家公務員に準じた給与体系とはなってはいるものの、安易に追従することは大変難しい状況にあります。
その理由は、法人化後の国立大学の財政構造にあります。
国立大学の経営は、主に、学生納付金、附属病院収入、寄付金など自己努力で確保する財源と、国から交付される運営費交付金という税金により賄われています。
このうち、運営費交付金は、いわゆる渡しきり経費として交付され、使途が特定されない裁量性の高い資金である反面、年度途中に国から追加交付を受けることはできない資金でもあります。
つまり、今回のように国家公務員の給与の引き上げが行われ、それに準じた取り扱いをしようと思っても、国家公務員のように補正予算が組まれ、そのための財源が自動的に配分されるようなしくみにはなっていないわけです。
したがって、既に交付された運営費交付金の範囲内で、自助努力によって財源を捻出しなければならないことになります。今回のように若年層に限定した増額改定であっても、中規模大学では数千万円の財源を調達しなければならないことになります。
国立大学における人件費管理
法人化後の国立大学は、国(税金)に経営財源を依存しつつも、完全に親方日の丸であった国の時代とは違い、自己責任において健全かつ安定的な経営を行うことが求められるようになりました。
このため、ほとんどの大学では、中・長期将来を見通した財政計画を策定し、特に支出に占めるウエイトが最も大きい人件費については、詳細なシミュレーションを繰り返し実施するなど、徹底した人件費管理が行われています。
このように、現在の国立大学には厳しい経営努力が求められており(民間企業にしてみればまだまだ甘いのかもしれませんが)、今後、その成果如何によっては、国立大学間の給与格差が次第に拡大していくことになるのだろうと思われます。(既に昨年あたりから、国立大学の教職員の間に給与水準の格差が生まれているとの情報もあります。)
国立大学における人件費改革
さて、国家公務員の給与改定を例にとり、国立大学の財務構造に起因する人件費管理の課題をご紹介しましたが、国立大学が内包する課題の解決だけでは適切な人件費管理は維持できないことについてご紹介したいと思います。
現在、我が国では、財政危機からの脱却を目指し、「国家公務員の総人件費改革」 が進められており、多くの税金が投入されている国立大学にも適用(国立大学の教職員の人件費も削減の対象と)されています。
この改革により、現在国立大学は、平成18年度から22年度までの5年間で5%の人件費を削減することが義務付けられており、平成16年度の法人化以降、既にノルマとして課せられてきた運営費交付金の毎年度1%の効率化減と合わせると、中規模大学では毎年1億円を超える予算の削減を実行していかなければなりません。
大学が行う「ヒトづくり」と企業が行う「モノづくり」とは、使命、役割、機能といった面で基本的に異なるものではないかと私は思うのですが、残念ながら、国が現在進めている重点施策は、企業あるいは行政機関と、大学という人を育む教育機関を同列に位置づけ、大幅な人件費の削減を求めることなのであり、これが我が国の将来にとってどれだけ意味のあることなのか疑問に思います。
国立大学の人件費の在り方
さて、ここで、国立大学の人件費の問題について書かれた報告書をご紹介したいと思います。
国立大学の人件費の現状と課題が浮き彫りにされ、今後の在り方について確かな示唆を与えてくれるものではないかと思います。
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文部科学省を通じて各国立大学法人に配分される運営費交付金、ひいては各法人の経常支出の主要部分を占めるのは人件費である。経常支出に占める人件費比率が80%を超える大学も少なくない。
教職員が国家公務員であった時代には、人件費は職種・職階別に人事院によって定められた給与表に基づき算定された額が、各教職員に支払われていた。
その教職員の職種・職階別の数も、例えば教授何人、助教授何人というように定員法により、各大学・部局毎に定められていたから、大学にとって人件費それ自体が大学運営上の重要問題とされることはなかった。
ただ、新しい教育研究活動を始めようとすれば、その都度人員、つまり新しい定員要求をしなければならず、それが新規概算要求の最重要の目標とされてきたことは周知のとおりである。
その一方で、行財政改革の一環として(特に事務職員の)定員の計画的削減が早い時期から進められており、定員削減を回避することが可能になる(はず)というのが、法人化に反対する国立大学側の説得材料とされた時期もあった。
こうした人件費の在り方は、法人化によって一変した。
今や人件費は、どの国立大学法人にとっても、経営上の最重要課題になったといっても言い過ぎではない。
何よりも、教職員が国家公務員身分を失うとともに定員法は廃止され、従来支払われてきた人件費の各大学分の総額が、運営費交付金の主要部分として配分されることになった。
その額は、標準的な学生・教員比率を基に文部科学省が定める算式によって計算されることになっているが、実際にはその総額は、法人化された2004年時点の各大学の実態にほぼ沿った額になるよう配慮がされた上で算定された。
各大学はこの法人化初年度の算定・配分額を出発点に、それぞれ独自に給与水準を設定し、教職員数を決める「自由」を獲得したのである。
ただ、この人件費については、人事院の定める国家公務員の給与水準が算定のベースとなっているから、国立大学法人の教職員は非公務員化したといっても、その枠から全く「自由」ではあり得ない、というより、実質的にそれに強く拘束されている。
その上、法人化当初は効率化係数の対象外とされていた人件費にも、中期計画中に5%の削減が求められるようになり、各大学ともそれを前提に、人件費の削減に向けたシミュレーションの実施や計画の策定を、文部科学省から強く求められている。
「全学的な経費節減方策を持っているか」という質問に対して、「人件費全般」の節減策を持っていると答えた大学(財務担当理事)が86%と、「一般管理費全般」のそれ(77%)を上回っているのは、そうした厳しい現実の表れと見てよいだろう。
ただ、その節減策がどこまで「長期的な予測や推計」に立ったものになっているのかとなると、法人化2年目ということもあり、各大学の立ち遅れた現状が見えてくる。
すでに長期的な予測・推計を行っている大学は約3割(31%)にとどまり、残りの7割(67%)は、ようやく検討を始めたところだからである。
対応策を立てているとはいっても、退職者の後のポストの不補充や採用凍結、欠員補充の留保などが中心であり、長期的な展望に立った人件費対策を実施しているのは、まだ一握りの大学に過ぎないのである。
国家公務員としてのポストと給与が、安定的に保証された「親方日の丸」の時代は終わった今、長期的な展望に立った、人件費の合理化政策が差し迫って必要とされていることは言うまでもない。
しかし同時に大学は労働集約的、しかも人材の質が決定的な重要性を持つ、プロフェッションとしての教員・研究者主体の経営体である。
その大学の、経営合理化のしわ寄せが、人件費に最も強く及び、収支のバランスが人件費を「浮かせる」ことで保たれるというのは、どう見ても望ましい状況とは言えない。
「運営費交付金に占める人件費の割合が75%とかなり大きい。経営の視点からはかなり厳しい数字であると思われる。しかし、高等教育機関における人は「コスト」ではなく「リソース」である。大学の競争力は、どれだけ優秀な教員(研究力と教育力に秀でた各分野のトップランナー)と、専門性の高い事務職員を集められるかにかかっているのである。
運営費交付金の減額分のダメージをできる限り押さえるためには、一般管理費の節約と外部資金・競争資金の獲得に、より一層励むことが課題であると認識している」(某財務担当理事)
そうした「正論」が、大学経営に貫かれるためにも、運営費交付金制度の中核部分である人件費の、政府による一方的かつ長期的な削減策は、再検討される必要があろう。