2008年3月31日月曜日

大学等における履修証明(certificate)制度

前回のブログでも少しご紹介しましたが、平成19年12月26日に施行された改正学校教育法により、大学が各大学の判断により学位に準じる「履修証明書」を授与できる制度が創設されました。
従来の科目等履修制度や公開講座をさらに発展させるため法律上位置づけられたもので、、大学院、短期大学、高等専門学校、専門学校も証明書を授与できることになっています。

具体的要件は、学校教育法施行規則(省令)において規定されており、証明を出せるプログラムを「120時間以上」に限定、また、開講する際に文部科学省に届け出る必要はありませんが、教育内容や受講資格などの情報の事前公表が義務付けられているようです。

制度の概要を文部科学省が作成した資料から少しご紹介します。


趣 旨

教育基本法第7条及び学校教育法第83条の規定により、教育研究成果の社会への提供が大学の基本的役割として位置づけられたことや、中教審答申の提言等を踏まえ、平成19年の学校教育法改正により、履修証明の制度上の位置付けを明確化

これにより、各大学等(大学、大学院、短期大学、高等専門学校、専門学校)における社会人等に対する多様なニーズに応じた体系的な教育、学習機会の提供を促進

制度の概要

以下の要件を満たす履修証明プログラムを大学等が提供できることとした。
  • 対象者:社会人(当該大学の学生等の履修を排除するものではない)
  • 内容:大学等の教育・研究資源を活かし一定の教育計画の下に編成された、体系的な知識・技術等の習得を目指した教育プログラム
  • 期間:目的・内容に応じ、総時間数120時間以上で各大学等において設定
  • 証明書:プログラムの修了者には、各大学等により、学校教育法の規定に基づくプログラムであること及びその名称等を示した履修証明書を交付
  • 質保証:プログラムの内容等を公表するとともに、各大学等においてその質を保証するための仕組みを確保
※学生を対象とした学位プログラムとは異なり、単位や学位が授与されるものではない

基本的考え方
  • プログラムの目的・内容として、多様かつ高度な、職業上に必要な専門的知識・技術取得のニーズに応じたもの、資格制度等とリンクしたもののほか、生涯学習二一ズヘの対応など多様な目的・内容のプログラムを想定
  • プログラムの目的・内容に応じて、職能団体や地方公共団体、企業等との連携を推奨
  • 履修証明のプログラムの研究開発、利活用促進のため、「大学・専修学校等における再チャレンジ支援推進プラン」(平成20年度予定額26億8,760万円)等により、各大学等における主体的取組を財政支援
※施行通知と条文が、文部科学省のホームページに掲載されています。
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shoumei/index.htm


制度創設の背景や経緯については不勉強にてここで説明はできませんが、法律を改正してまで導入された制度ですので、今後、各大学等は、その趣旨に沿った制度の活かし方、活かされ方を考えていかなければならないのだろうと思います。

報道の反応をご紹介しておきたいと思います。


根付く?「履修証明書」 社会人の能力向上 後押し (2008年3月4日付朝日新聞)


受講者「再就職に強み」

英国人講師が、絵本やおもちゃを使って子どもからスムーズに採血する方法を実演する。見つめるのは、育児や介護のために離職中の保育士や看護師ら。入院中の子どもや家族を相手に、遊びを通じて治療方法を説明したり、ストレスを減らしたりする「HPS」の知識や技術を学んでいる。

講習を行うのは、静岡市駿河区の静岡県立大短期大学部。2月25日から3月24日まで144時間かけ、日本ではまだ普及していないHPSについて教える。離職中の保育士らが新しい能力を身につけて現場に復帰できるよう支援するプログラムだ。

同短大部は修了した人に、学校教育法に基づく履修証明書を授与する。文部科学省が把握する限りでは最初のケースだ。その狙いを、短大部長の川村邦彦教授は「HPSを日本に定着させる第一歩となる講座なので、社会的な通用性を高めるためにも証明書を授与することにした」と話す。

受講者にも証明書の授与は好評だ。2人の息子の育児のために看護師を辞めた同市の望月美幸さん(32)は「証明書があれば、就職のときに他の看護師よりも強みになる」。実母の介護のために保育士を辞めた同市の中山陽子さん(55)も「証明書を励みにして、HPSの活動を社会に広めていきたい」と話す。

長く社会人教育に力を入れてきた産業能率大(東京都)も、新制度に関心を持つ。同大では現在、約350コースある通信研修で年25万人、約170コースある公開研修で年9千人が学んでいる。小林武夫理事は「数日の研修が大半で、すぐに履修証明書を授与する予定はない。しかし、企業や社会人に証明書のニーズが高まってくれば、制度に合った研修も作っていきたい」と話す。

講座の水準 確保が問題

履修証明の「先進地」米国では、70年代以降の不況で若者の失業者が増えた際、職業訓練がさかんになるにつれて広まった。離職者がITの基礎知識を学んだり、薬剤師が新しい薬の知識を学んだりする例が代表的だ。

日本では米国ほど資格が重視されずにきたため、導入の議論は進まずにいた。だが、バブル崩壊以降、終身雇用制は崩れ、能力向上のために大学で勉強する社会人が増加。折しも「大学全入時代」を迎え、社会人を呼び込もうと公開講座を始める大学も増えている。

06年5月には安倍前首相が力を入れた再チャレンジ推進会議が、離職者らの再就職を想定し、「履修証明を与える取り組みの普及を図る」と提言し後押しした。

だが、現在の公開講座の水準はかなりのばらつきがある。中教審でも「プログラムの質が保てるか心配だ」といった意見が続出した。このため文科省は、履修証明を授与できるプログラムを「120時間以上の体系的なもの」に限った。

同省は基準を満たすプログラムの例として、民生委員らの相談技術を向上させる165時間の講習や、介護福祉士らに135時間で園芸療法を教える講習などを挙げる。

経歴・資格示す 国の制度と連携

制度は始まったが、社会への浸透はこれからだ。

文科省も手は打っている。大学などで社会人向けの講座を増やそうと、07年度から「社会人の学び直しニーズ対応教育推進プログラム」の選定を始めた。07年度予算で約18億円を計上。大学や短大、高等専門学校の取り組み126件を選んだ。

また、フリーターらの就職を進めるために4月に始まる政府の「ジョブ・カード」制度とも連携。職業訓練の経歴や資格の情報をまとめたカードの中でも、履修証明書は中心的なアピール点になる見込みだ。

米国の履修証明に詳しい東京大学術研究支援員の林未央氏は、国や大学が社会や企業に制度の存在をアピールし、大学が新しい学習ニーズを掘り起こせるかが普及のカギとみる。「米国では履修証明向けの講習で得た単位を使って大学への編入を可能にしたことが、普及の一因になった。日本でも講習の質を確保しながら、勉強した成果に互換性を持たせるなど受講生にやる気を起こさせる工夫が必要だ」と話す。

2008年3月28日金曜日

高等教育関係の法律改正など

去る3月17日(月曜日)にメルパルク東京において、文部科学省主催の大学設置等に関する事務担当者説明会が開催されました。

この説明会は、大学設置等の認可申請等の事務手続きに関して、大学設置基準等の改正内容や申請書類の変更点等について、適正な事務処理に係わる事項の周知を図ることを目的として開催されたものですが、文部科学省としてはなにぶん初めての試みのようで、2階席まで満員に近い状況で、しかも午後半日休憩なしの説明でしたが、大学の置かれた厳しい状況を反映してか、ほとんど席を立つ人もなく、説明後の質疑応答も驚くほど多くの熱心な質問が飛び交いました。

当日は文部科学省の担当官から次のような内容の説明が行われました。
  • 最近の設置認可の問題点について
  • 学校教育法、大学設置基準等の改正について
  • 設置基準等改正に伴う様式記入方法の変更について
  • 学部等の設置届出等について
  • 設置計画履行状況調査について
  • 認可申請における留意点等について
  • 寄附行為変更認可申請書類作成上の留意点について

当日の会議資料のうち、平成19年度に改正された学校教育法や大学設置基準のポイントについてご紹介します。


学校教育法等の一部を改正する法律の概要(高等教育関係)


教育基本法改正及び中央教育審議会答申等を踏まえ、学校教育法の規定を次のとおり改正(平成19年6月27日公布、12月26目施行)

大学等の目的関係等

1)大学に関する事項
  • 教育基本法に大学の基本的役割に関する規定(第7条)が置かれたことを踏まえ、現行の大学の目的に関する規定(新第83条)に、教育研究活動の成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与するといった趣旨を追加
2)高等専門学校に関する事項
  • 高等専門学校の目的に関する規定(新第115条)についても、大学と同様に改正
  • このほか、公立大学法人が高等専門学校を設置できるよう規定を整備
大学等の情報提供等に関する事項
  • 大学は、教育研究活動の状況に関して、情報を公表するものとするといった趣旨を規定(高等専門学校、専修学校及び各種学校についても同様の趣旨の規定を整備)
  • 専修学校及び各種学校は、教育活動等の状況についての評価に努めるものとするといった趣旨を規定(※大学及び高等専門学校については既に新109条で規定)
大学等の履修証明
  • 大学は、文部科学大臣の定めるところにより、当該大学の学生以外の者を対象とした特別の課程を編成し、これを修了した者に対し、履修証明書を交付できるといった趣旨を規定(新第105条)(高等専門学校及び専門学校についても同様の趣旨の規定を整備)
※施行通知と条文を文部科学省のホームページに掲載
http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/07081705.htm


大学設置基準等の一部改正の概要


平成18年の大学院設置基準の改正を踏まえ、学部段階においても教育力向上のための必要な措置を講じるとともに、基準をより明確にする観点から、以下のような改正を行った。

学部段階等の教育力向上を図るための改正(大学院については平成18年に先行して改正済)
  1. 大学は、学部等ごとに教育研究上の目的を学則等に定め、公表するものとしたこと(第2条の2)
  2. 大学が、一の授業科目について講義と実習など二以上の方法の併用により行う場合は、その組み合わせに応じ、授業方法ごとの基準を考慮して当該大学が定める時間の授業をもって一単位としたこと(第21条第2項第3号)
  3. 大学は、学生に対して、授業の方法及び内容並びに一年間の授業の計画(シラバス)をあらかじめ明示するものとしたこと。また、学修の成果に係る評価及び卒業の認定に当たっては、客観性及び厳格性を確保するため、学生に対してその基準をあらかじめ明示するとともに、当該基準にしたがって適切に行うものとしたこと(第25条の2)
  4. 大学は、授業の内容及び方法の改善を図るための組織的な研修及び研究(ファカルティ・ディベロップメント)を実施するものとしたこと(第25条の3)
基準をより明確化し大学教育の質を保証するための改正
  1. 大学は、科目等履修生等を相当数受け入れる場合においては、教育に支障のないよう相当の専任教員等を増加する等としたこと(第31条第3項、第4項)
  2. 大学が二以上の校地において教育研究を行う場合は、それぞれの校地ごとに必要な専任教員や施設・設備を備えるものとしたこと(校地が隣接している場合を除く)(第7条第4項、第40条の2)
  3. 大学は、その目的を達成するために必要な授業科目の開設は、自ら行うものであることを明確化したこと(第19条第1項)
  4. 大学は、専用の施設を有することとし、一定の条件を満たす場合に、他の学校、専修学校及び各種学校との間で施設を共用することができることとしたこと(別表第3イの表備考第6号)
(平成13年文部科学省告示第51号の改正)
  • 大学が、多様なメディアを高度に利用して行う授業の要件について、毎回の授業の実施に当たって設問解答、添削指導、質疑応答等による指導を併せ行う形態をとる場合には、インターネットその他の適切な手段を利用し又は指導補助者を配置することにより、十分な指導を行うものとしたこと。
施行期日

平成20年4月1目

※施行通知と条文を文部科学省のホームページに掲載
http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/07091103.htm


大学院設置基準の一部改正について(博士課程の修業年限の弾力化)


これまでの制度の概要

(修士課程)
社会人学生等の多様な需要に応えるため、教育研究上の必要がある場合には、2年を超えることができる(長期在学コース)と規定されていた。

(博士課程(区分制))
夜間大学院の場合には前期は2年、後期は3年を超えることができると規定されていた。

(博士課程(一貫制))
夜間大学の場合には5年を超えることができると規定されていた。

⇒ただし運用上は、「博士前期の課程は、修士課程として取り扱う」(第4条第4項)との規定を踏まえ、博士前期の課程については、夜間大学院以外にも長期在学コースを設けることが認められてきた。

改正の概要

各大学院における多様な履修形態を提供する取組が、それぞれの大学の主体的な判断により推進されるよう、博士課程の区分制及び一貫制のいずれについても、教育研究上の必要がある場合には、研究科、専攻又は学生の履修上の区分に応じ、これらの年限を超えることができることを明確化(第4条)

施行期日

平成19年12月14目

※施行通知と条文を文部科学省のホームページに掲載
http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/08012813.htm


学校教育法施行規則の一部改正について(大学の入学時期の更なる弾力化)


改正の趣旨

大学の入学時期については、現在、原則4月としつつ学年の途中においても入学できることとされているが、大学の秋季入学を促進する観点から、大学の入学時期を更に弾力化した。

改正の概要

大学の学年は、4月1目に始まり翌年3月31目に終わることとし、学年の途中においても学期の区分に従い入学・卒業させることができることとされていたが(第72条)、秋季(9月)入学を更に促進するため、各大学の判断により秋季(9月)を学年の始期とすることができるよう、学年の始期及び終期は学長が定めることとした。

※なお、大学の入学時期に係る規定は、これまで「第3節 認証評価その他」の最後に置かれていたが、今回の改正に伴い、小学校等の規定順にならい「第2節 入学、退学、転学、留学、休学及び卒業等」の最後に置くこととする。

施行期日

平成20年4月1目

※施行通知と条文を文部科学省のホームページに掲載
http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/08012813.htm


上記のほか、平成19年度の「設置審査の主な観点」も紹介されました。

設置の趣旨・目的
  1. 設置の趣旨は、大学が担うべき法令上の目的・役割に照らして、整合性のあるものとなっているか。
  2. 特に職業人養成に特色を置く大学、学部及び学科の場合、経済社会の人材需要や地域の実情等について、的確な見通しを持っているか。
名 称
  1. 大学等の名称は、大学等として適当であるとともに、当該大学等の教育研究上の目的にふさわしいものか。
  2. 学位に付記する名称は、適切な専攻分野の名称となっているか。
  3. 英文表記は、国際的に通用性を有しているか。
教育課程
  1. 大学の教育上の目的を達成するために必要な授業科目を開設し、体系的に教育課程が編成されているか。また、その教育上の目的を達成するために必要な授業科目を自ら開設しているか。
  2. 大学の教育上の目的に沿って、各授業科目を必修科目、選択科目及び自由科目に分け、各年次に配当しているか。
  3. 講義、演習、実験、実習若しくは実技のいずれか又は併用により行われることになっているか。授業の方法に応じ、当該授業による教育効果、授業時間外の必要な学修等を考慮して、単位数を定めているか。
  4. 国内外の機関や企業等への派遣によって実習等を行う場合、実習先が十分に確保されているか。また、実習等の計画・指導・成績評価等の連携体制が適切なものとなっているか。
  5. 卒業要件は、人材養成目的及び課程の目的に照らして必要な学修量を確保し、4年以上在学し、124単位以上修得するものとなっているか。
  6. 履修科目の登録上限(CAP制)の設定、厳格な成績評価(GPA)など、いわゆる「出口管理」に努めているか。
  7. 通信教育を行う場合、通信教育によって十分な教育効果が得られる専攻分野であるか。
  8. 高度メディア利用授業を実施する場合、具体的な実施方法等が法令の要件に適合しているか。
教員組織
  1. 教育上主要と認める授業科目に、原則として専任教員(教授又は准教授)が配置されているか。
  2. 演習、実験、実習又は実技を伴う授業科目については、なるべく助手に補助させるなど、指導体制が配慮されているか。
  3. 教育研究上の責任体制、管理運営への参画、勤務形態・処遇等において、専任教員の位置付けは、明確となっているか。
施設・設備等
  1. やむを得ず運動場が校舎と同一の敷地内又はその隣接地にない場合、適当な位置に設けられているか。また、その場合、学生が円滑に利用できるようになっているか。
  2. 教育研究に必要な専用の研究室、教室(講義室、演習室、実験・実習室)等が備えられているか。
  3. 学部の種類、規模等に応じ、図書、学術雑誌、視聴覚資料その他の教育研究上必要な資料が図書館を中心に系統的に備えられているか。(電子ジャーナルやデジタルデータベースの整備を含む。)
  4. 大学における校地の面積は、収容定員上の学生一人当たり10平方メートルとして算定した面積を充足しているか。
  5. 校舎の面積は、設置基準上に定める基準面積を充足しているか。
その他
  1. 授業の内容及び方法の改善を図るための組織的な研修及び研究を実施する仕組みとなっているか。(FD活動)
  2. 教育・研究、組織・運営、施設・設備の状況について点検・評価を行い、その結果を公表する方策が講じられているか。
  3. 当該大学における教育研究活動等の状況について、刊行物への掲載その他広く周知を図ることができる方法によって、積極的な情報提供を行うための方策が講じられているか。
  4. 認可申請を行った者が設置する大学等における開設前年度から過去4年間の入学定員に対する入学者の割合が一定値未満であるか。

2008年3月19日水曜日

共同学部・共同大学院制度

既に報道されていることですが、現在、中央教育審議会では、いわゆる「将来像答申」や「骨太2007」等を踏まえ、地域の国公私立大学・短期大学が連携して教育研究資源を最大限に活用し、地域の活性化、多様で特色ある教育研究を推進するための仕組みを支援する仕組み、具体的には、「国公私を通じ、複数大学が共同で教育課程を実施し、連名で学位授与を可能とする共同学部・共同大学院制度」の創設に向けた検討が進められています。


中教審 共同学部制度骨子案を了承 大学設置基準改正へ(2008年3月8日付北海道新聞)

中央教育審議会(中教審)の専門部会は7日、国公私立の複数大学が共同で学部や大学院をつくり、連名で学位授与を行う「共同学部・共同大学院制度(仮称)」の骨子案を示し、大筋了承した。

少子化で大学が生き残りをかける中、経費負担を抑えて特色ある教育研究に取り組めるようにする。

中教審は今夏までに、文部科学省に答申、文科省は大学設置基準を改正する。2010年度から入学を認める計画だ。

同制度は、複数の大学が共同で教育課程を編成する仕組み。現行の設置基準では、学生数に応じて教員数や施設を整備する決まりだが、複数大学で必要な教員数や施設を満たせばよい規定に改正する。

同制度がスタートすれば、地方の小規模な大学でも、他大学と組むことによってコスト負担を抑えて地域の人材育成の需要に応えられるようになる効果が期待される。また、単独で新しい学部を設けることは難しくても、高度な研究分野に進出することが可能となる。


大学連携で学部共同設置、2010年春に開始・文科省が基準改正へ(2008年3月9日付日本経済新聞)

文部科学省は複数の大学が共同で学部や大学院を設置できるようにするため、今夏をメドに大学設置基準を改正する方針を決めた。

2009年中に大学側から設置申請を受け付けて審査したうえで、10年4月から共同学部がスタートする見通しだ。

設置審査では連携するそれぞれの大学が一定数以上の必修科目を置くことや、各大学に所属する教員が分担して講義をすることなど、大学間でバランスが取れていることを条件にする。

大学間の意思統一を図るための協議会を設置することも求める。




報道向けにリリースされた内容は定かではありませんが、去る3月7日(金曜日)に開催された中央教育審議会大学分科会制度・教育部会と学士課程教育の在り方に関する小委員会の合同会議の配付資料には、次のような内容が書かれてあります。

新制度の骨子


組 織
  • 全ての構成大学に、共同教育課程を実施する共同学部・共同大学院(以下「共同学部等」という。)の組織をそれぞれ設置する。

  • 各構成大学は、共同学部等とは別に、各大学単独の教育課程を実施する基本組織(大学の場合は学部又は研究科、短期大学の場合は学科)を1以上設置していることを必要とする。

  • 共同学部等に関し、複数の大学の意思を統一するための協議会等を置く等の取扱いとする。
共同教育課程・共同学位
  • 全構成大学が共同教育課程*1を編成・実施し、共同教育課程の修了者に対して、構成大学の連名による学位を授与することとする。

  • 構成大学の連名学位を授与することから、1)いずれの構成大学も一定以上の必修科目を開設する、2)各大学が開設する授業科目は、大学ごとに相当程度の系統性が確保ざれていることを必要とする、3)共同大学院では異なる構成大学に所属する複数の教員による砺究指導体制をとるなど、各構成大学が共同で教育課程を分担していることを担保する仕組みとする。
教職員の取扱い
  • 共同学部等の教職員は構成大学のいずれかの大学に所属する。

  • 共同学部等の教員数の算定は、共同学部等全体の学生の収容定員に応じて算定することを基本とずる。その際、教育研究活動や大学運営の円滑な実施のため、全体の教員数は構成大学数の増加に応じて増加する等の特例を設ける。
学生の取扱い
  • 学生の安全やサービス等に対する責任を確保するため、構成大学間の責任が明確となるような取扱いとする。

  • 構成大学の一つが脱退する等の場合に、学生の取扱い等の具体的な措置を予め構成大学間で定めておく等の取扱いとする。

  • 共同学部等の入試の扱い、授業料の設定・収集・管理方法や各大学への配分方法は、構成大学間の協議による。

  • 連名学位を授与することから、学生は概念上、全構成大学に在籍することとなる。
校地・校舎面積、附属施設等の取扱い
  • 共同学部の校地・校舎面積の算定は、共同学部全体の学生の収容定員に応じて算定することを基本とする。

  • 必要な附属施設は、構成大学における各共同学部等の全体で有すれば足りることを基本とする。
設置認可・届出等の手続等
  • 共同学部等を設置する際の手続は、現行制壌によることを基本とし、アフターケアを確実に実施することとする。

制度の創設に向けた作業は、今後、1)平成20年夏頃までに「大学設置基準等の省令改正」、2) 平成21年中に「共同学部・共同大学院の設置認可等の手続き」、3)平成22年4月に「共同学部・共同大学院の設置」というスケジュールで進められていくようです。

文部科学省は、新制度がもたらす効果として、
  1. 一つの大学では対応することが困難な地域における人材養成や地域貢献等の地域の教研究ニーズ等に適切に対応することが可能となる。

  2. 学問の学際化、融合の進展による新たな教育研究ニーズに的確に対応し、世界の大学と伍する音度な教育研究組織をより柔軟かつ迅速に立ち上げることが可能となる。
ことを挙げています。

既に一部の私立大学では、制度の設置を待たずして実質的な動きに入っているところもあるようですが、いずれにしても、予定では平成21年度には設置認可等の手続に入ることになるようですので、各大学に与えられた検討の時間はさほど残されていません。

各大学は、今後、短い時間の中で、文部科学省や他大学の動向を睨みながら、この施策が、果たして我が国の高等教育の発展に寄与するものであるか、責任ある教育の質を保証する仕組みとして十分機能するものであるか、文部科学省の本音は何かなど十分な情報収集と吟味を重ねる必要があります。

そして、最終的には自校の経営戦略に照らして、最良の道を選択することになるのだろうと思います。

*1:共同教育課程は、他の構成大学における履修を自大学における履修とみなし、各構成大学の教育課程を修了することにより、各構成大学の学位が授与されるものであることとし、その他は各構成大学の共同学部等において行うという現行制度に則る。

2008年3月11日火曜日

中教審答申(教育振興基本計画関係)素案


中央教育審議会で検討されている教育振興基本計画関係の答申の素案が、文部科学省のホームページに公表されています。

■教育振興基本計画特別部会(第13回)議事録・配付資料
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo7/shiryo/08030301.htm


このうち、高等教育関係部分(抜粋)をご紹介します。


第2章 今後10年間を通じて目指すべき教育の姿

(1)今後10年間を通じて目指すべき教育の姿

■社会を支え、発展させるとともに、国際社会をリードする人材を育てる

1)高等学校や大学等における教育の質を保証する

大学等の個性化・特色化を進め、それぞれの機能に応じた教育研究活動を促す。
また、大学等における教育の質の保証・向上に向けた制度を整備・確立する。これらを通じ、教養と専門性を養い、社会の各分野を支え、発展させていく資質・能力を確実に養うことを重視する。
あわせて、生涯を通じていつでも必要な学習を行うことのできる機会を充実する。

2)世界最高水準の教育研究拠点を重点的に形成する

国際的競争力を持ち、世界の英知が結集する教育研究拠点を重点的に形成し、知的な貢献ができる人材を育成するとともに、大学の教育研究の高度化を通じて「知」の創造・継承・発展を支える。また、「留学生30万人計画」を策定し、優れた学生を多数受け入れることのできる体制を確立する。


第3章 今後5年間に総合的かつ計画的に取り組むべき施策

(2)施策の基本的方向

《基本的方向3》 教養と専門性を備えた知性豊かな人間を養成し、社会の発展を支える

今後の「知識基盤社会」において、「知」の創造と継承・発展を担う高等教育は、個人の人格形成や、生涯にわたる学習活動の場としても、社会・経済・文化の発展・振興や国際競争力の確保等の国家戦略の上でも、極めて重要な役割を果たすこととなる。また、環境問題をはじめとする地球規模での課題への対応においても、人材育成をはじめ、高等教育に期待される役割は大きい。

このような中で、高等教育に対する様々な需要に的確に対応するためには、大学・短期大学、高等専門学校、専門学校が、各学校種ごとにそれぞれの位置付けや期待される役割・機能を十分に踏まえた教育や研究を展開するとともに、競争的環境の中で相互に切磋琢磨しながら、個々の学校の個性・特色を発揮していくことが必要である。

特に、改正教育基本法においては、新たに大学に関する条文が設けられ、その基本的な役割として、教育と研究とを両輪とする従来の考え方が改めて確認されるとともに、教育研究の成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与することが明確にされたことを十分に踏まえる必要がある。

今後、各大学等においては、それぞれが自律的に選択した教育理念に基づき、自らの個性・特色を明確化した上で、国内外の大学等や産業界、初等中等教育段階の学校等との連携も深めつつ、教育活動の質を保証し、また、不断に高め、豊かな教養と人間性、専門性を兼ね備え、地域から国際舞台まで幅広い分野においてそれぞれの立場で活躍できる人間を育成し、社会の期待に応えることが求められる。あわせて、国際競争力ある教育研究拠点として「知」の創造・継承・発展を担うことが期待される。

国は、各大学等における自主的な取組を促すため、評価制度の充実など必要な制度改正や各種の情報の提供、財政支援等に取り組む必要がある。

こうした基本的方向に基づく施策を通じて、例えば以下のような目標の実現を目指す。

  • 学士課程の学習成果として共通に求められる内容を明確化し、厳格な成績評価の導入等大学教育の質を確保するための枠組みを構築し、各大学における組織的な取組を推進する
  • 将来的に、国際的な競争力・存在感を備える教育研究拠点を各分野において形成することを目指し、条件を整備する
  • 地域再生の核となる大学連携群を形成することを目指し、条件を整備する



(4)基本的方向ごとの施策

《基本的方向1》 社会全体で教育の向上に取り組む

■人材育成に関する社会の要請に応える

一人一人の社会的自立を実現するとともに、我が国社会の活力の維持・向上の観点から、教育と職業や産業社会との相互の関わりを一層強化し、人材育成に関する社会の要請を踏まえた教育を充実する。このため、キャリア教育を支援するとともに、産業界と連携して、また、初等中等教育段階から高等教育段階に至る教育の連続性に配慮しつつ、職業教育を強化する。併せて、グローバル化に対応し得る国際的通用性のある高度専門職業人の養成を強化する。

【施策】

◇大学・短期大学・高等専門学校・専修学校等における専門的職業人や実践的・創造的技術者の養成の充実

国際的に通用する高度専門職業人の養成に向け、「大学院教育振興施策要綱」を改訂し、大学関係者と関連する業界や職能団体等との連携などによる専門職大学院等における教育の高度化への支援を充実する。また、ものづくり技術の継承・発展とイノベーション創出を担う実践的・創造的技術者を育成するため、平成20年中に高等専門学校の振興のための計画を策定し、地域と連携した教育内容・方法の開発をはじめとする取組の支援を充実する。

大学・短期大学における社会的要請の高い課題に対応する教育の取組に対する支援を充実する。あわせて、専修学校について、社会の変化に即応した実践的な職業教育及び専門的な技術教育を行う機能が発揮されるための取組を支援する。

◇産業界・地域社会との連携による人材育成の強化

人材育成に関する社会の要請に応えるため、大学等と産業界・地域社会とのより幅広い連携協力の下でのインターンシップの充実や教育プログラムの開発などの取組への支援を充実する。また、大学等と企業等との共同研究や大学の有する研究成果の提供、産業界・地域のニーズに対応した人材育成等を支援する。


《基本的方向3》 教養と専門性を備えた知性豊かな人間を養成し、社会の発展を支える

■社会の信頼に応える学士課程教育等を実現する

高等教育の大衆化が進行して同世代の過半数が進学する「ユニバーサル段階」、そして、少子化により18歳人口が減少し、いわゆる「大学全入」時代を迎える中で、大学等における教育の質の確保が重要な課題となっている。

このため、大学等が社会的ニーズや学習者の様々なニーズに的確に対応するとともに、それぞれの掲げる教育研究上の目的の下、教養と専門性を備えた人間を育成することができるよう、各学校の位置づけや期待される役割・機能を十分に踏まえた質の高い教育の展開を支援する。その際、それぞれの個性・特色を一層明確にする教育や大学教員の教育力向上のための取組を促す。

【施策】

◇社会からの信頼に応え、求められる学習成果を確実に達成する学士課程教育等の質の向上

学士課程で身に付ける学習成果(「学士力」)の達成等を目指し、各大学等において教育内容・方法の改善を進めるとともに、卒業認定も含めた厳格な成績評価システムを導入するよう支援する。さらに、教育環境の改善・充実を図り、すべての大学等において教員の教育力の向上のための取組が実質化されるよう、教員の教育業績の評価、学生による授業評価の結果を改善へ反映させる組織的取組等を促すとともに、優れた取組を行っている大学等を支援する。

こうした各大学等における教育改善の取組を推進するため、教員の教育力の向上のための拠点形成とネットワーク化を推進するなど、個別の大学等の枠を超えた質保証の体制や基盤の強化を支援する。

さらに、ICTを活用した教員の教育力向上・教材作成や、国内外の教育コンテンツ等の情報収集・発信、海外の中核的機関との連携強化等を支援する。

◇共通に身に付けるべき学習成果の明確化と分野別教育の質の向上

学生が教育分野にかかわらず共通に身に付けるべき学習成果について、国際的通用性の確保にも留意しつつ、明確化に取り組むとともに、分野別の教育の質の向上・保証を行うため、「学習成果」や到達目標の設定、教材の研究開発などの取組を支援する。あわせて、教育の分野別質保証の在り方について日本学術会議との連携を図りつつ、それぞれの質の保証に向けた枠組みづくりを進める。

◇高等学校と大学等との接続の円滑化

各大学等が入学者受け入れ方針の明確化を図りつつ、高等学校段階の学習成果を適切に評価する大学入試の取組を促すなど、高等学校と大学との接続の円滑化を図る。また、高等学校段階での学習成果を客観的に把握する方法の一つとして、高等学校の指導改善や大学入試などに幅広く活用できる新しい学力検査について、中央教育審議会の審議を踏まえ、高大関係者が十分に協議・研究するよう促す。また、高校生が大学教育に触れる機会等を充実するため、大学等の高大連携に関する優れた取組を支援する。大学への飛び入学については、「特に優れた資質」の判定や大学における指導体制など現行制度のより柔軟な運用を図り、各大学における積極的な取組を促す。


■世界最高水準の卓越した教育研究拠点を形成するとともに、大学院教育を抜本的に強化する

国際競争力のある世界最高水準の大学づくりのため、「大学院教育振興施策要綱」(平成18~22年)に基づき、世界的な卓越した教育研究拠点の形成を支援するとともに、大学院における優れた組織的な教育の取組を支援する。あわせて、意欲と能力のある若手研究者等が活躍できる環境づくりを支援する。

【施策】

◇世界最高水準の卓越した教育研究拠点の形成

博士後期課程の学生を含む優れた若手研究者の育成機能の強化や国内外の大学・機関との連携強化等を通じて国際的に卓越した教育研究拠点を形成するための支援を一層充実する。特に、平成23年度までに、世界的に卓越した教育研究拠点の形成を目指し150拠点程度を重点的に支援する。また、学術の発展と人材育成の充実のため、国公私立を通じた共同利用・共同研究拠点を整備し、重点的に支援する。

◇大学院教育の組織的展開の強化

産業界をはじめ社会の様々な分野で幅広く活躍する高度な人材を養成するため、コースワークの充実等、大学院における組織的・体系的な優れた教育の取組に対する支援を充実する。また、大学院修了者等の一層の活用や、国内外に開かれた入学者選抜や大学院への早期入学等を含め、より開かれた大学院入学を促進するための方策等について検討し、「大学院教育振興施策要綱」に適宜反映する。

◇若手研究者、女性研究者等が活躍できる仕組みの導入

若手研究者の自立的な環境整備のためのテニュア・トラック制の導入、多様なキャリアパスを切り拓くための人材養成等に組織的に取り組んでいる機関を支援する。あわせて、女性研究者がその能力を最大限発揮できるよう、研究と出産・育児等を両立するための支援等を一層充実する。


■大学等の国際化を推進する

海外の有力大学等との連携を通じ、我が国の大学等の国際競争力を強化するとともに、国際的な環境で学生や教員が学ぶことができる機会を飛躍的に充実する。

このため、「大学教育のグローバル化を目指した当面の施策についての基本的な考え方」(P)に基づく取組を推進する。

【施策】

◇留学生交流の推進

大学等の国際化や国際競争力の強化を図るとともに、諸外国との相互理解や我が国が安定した国際関係を築く上での基礎となる人的ネットワークを形成するため、中央教育審議会の審議を経て、新たに「留学生30万人計画」を策定する。この計画に基づき、我が国の留学生数を大幅に増加させることを目指すとともに、その質の確保を図るため、外国人留学生に対する支援を充実する。また、国際的に活躍できる人材の育成を図るため、日本人学生に対する海外留学の支援を充実する。

◇大学等の国際活動の充実

大学教育の質の向上と国際競争力の強化を図るため、国際活動のための事務局体制等の基盤強化や、海外の有力大学等との連携によるダブル・ディグリ一等の複数学位制や単位互換、英語等の外国語による教育、9月入学(秋季入学)、サマープログラム等の充実に向けて、大学等の取組を支援する。


■国公私立大学等の連携等を通じた地域振興のための取組などの社会貢献を支援する


地域社会においてニーズの高い教育や、地域の活性化等の社会貢献のため、国公私の大学の協同で行う取組を支援する等、各大学等がそれぞれの特色を活かして行う地域振興に貢献する取組を促す。

【施策】

◇複数の大学間の連携による多様で特色ある戦略的な取組の支援

各大学等の教育研究資源を複数の大学間で有効に活用し、地域人材の育成・イノベーション創出等の地域貢献機能の強化・拡大及び教育研究の多様化・特色化を図るための取組(国公私を通じたコンソーシアム)が、全国で展開されるようになることを目指し、200件程度を支援する。また、国公私を通じ複数の大学等が学部・研究科等を共同で設置できる仕組みを平成20年度中に創設する。

◇生涯を通じて大学等で学べる環境づくり

生涯学習へのニーズに対応し、大学等における社会人等受入れを大幅に拡大することを目指し、必要な環境の整備・充実を支援する。また、大学等と産業界等の対話や連携による取組を支援する。

◇地域の医療提供体制に貢献するための医師育成システムの強化

医療人養成の中核的機関である大学・附属病院の運営基盤を強化するとともに、地域の医療機関との緊密な連携体制の構築を通じた医療分野における大学等の地域貢献の取組を支援する。特に、地域医療、がんなど社会的要請の強い分野について、専門性の高い医療人の養成を促す。


■大学教育の質の向上・保証を推進する

高等教育の量的拡大や多様化の一層の進展を踏まえ、学習者の保護や国際的通用性の観点から、高等教育の質を保証する取組を充実する。その際、個々の機関の設置目的や使命等も踏まえ、それぞれの機能や役割に則して多元的な評価が行われるよう留意するとともに、個別の大学等の枠を超えた質保証の体制や基盤の強化を支援する。

また、大学等の設置認可や認証評価制度、情報公開を含めた包括的な教育の質保証の在り方について、中央教育審議会において検討し、認証評価制度の第2サイクルに向け、必要な措置を講じる。

【施策】

◇事前評価の的確な運用

我が国の大学等が国際的に通用するための最低限の要件を明確化する観点から、事後評価との適切な役割分担と協調を図りつつ、教員組織、施設・設備等に関して大学設置基準等の見直しを行うとともにその的確な運用を進める。

◇共通に身に付けるべき学習成果の明確化と分野別教育の質の向上

大学教育の質の向上・保証を推進する観点からも、共通に身につけるべき学習成果の明確化と分野別教育の質の向上を推進する。

◇大学評価の充実

大学評価システムの確立・定着に向け、認証評価(機関別、専門職大学院専門分野別)、自己点検・評価、分野別評価等の大学評価に関して、大学等と評価機関が行う効率的な評価方法の開発等を支援するとともに、参考となる多様な事例を集積・提供すること等により、認証評価等の大学評価の充実と質の向上を図る。


■大学等の教育研究を支える基盤を強化する

次世代をリードする人材の育成に向け、学術の中心である大学等の教育研究を安定的・継続的に支えるための職員や施設・設備を含めた基盤を一層強化するとともに、競争的環境の中で、各大学等が主体的にそれぞれの特色ある発展と教育研究の質の向上を図るための支援を充実する。その際、優れた教員の確保や教育力の向上のための取組と併せて、教育研究活動を支える人員や施設・設備等の条件整備に留意する。

【施策】

◇大学等の教育研究を安定的・継続的に支えるとともに、高度化を推進するための支援の充実

大学等における教育研究の質を確保し、あらゆる分野において優れた教育研究が安定的・継続的に行われるよう基盤的な経費(国立大学法人等運営費交付金・私学助成等)を確実に措置する。あわせて、人材の育成や大学の教育研究の高度化に資する科学研究費補助金等の競争的資金等の拡充に取り組む。その際、科学研究費補助金の間接経費について、30%の措置をできるだけ早期に実現する。

また、国立大学法人運営費交付金については、?教育研究面、?大学改革等への取組の視点に基づく評価に基づき適切な配分を実現する。その際、国立大学法人評価の結果を活用する。あわせて、企業や個人等からの寄付金、共同研究費等の民間からの資金の活用について、各大学の自助努力を後押しするための税制を含む環境整備等を検討する。

◇大学等の教育研究施設・設備の整備・高度化

優れた人材の育成と創造的・先端的な研究を進めるため、教育研究活動の重要な基盤である大学等の施設・設備について、安全性の確保だけでなく、現代の教育研究ニーズを満たす機能を備えるよう、重点的・計画的な整備を支援する。このため、「第2次国立大学等施設緊急整備5カ年計画」(平成18~22年)を着実に実施するとともに、平成23年度を初年度とする施設整備計画を策定し、計画的な整備を支援する。

◇時代や社会の要請に応える国立大学の更なる改革

国立大学の再編統合、学部の再編や学部入学定員の見直し、徹底したマネジメント改革、学部の壁を越えた教育体制など、時代や社会の要請に応えるための国立大学法人の自主的な取組を促す。また、一つの国立大学法人による複数の大学の設置管理等についての検討を行う。


《基本的方向4》 子どもたちの安全・安心を確保するとともに、質の高い教育環境を整備する

■教育費負担を軽減する

教育の成果は社会全体の共通の資産となるものとの認識の下、教育を受けることを望む人が、経済的な理由によりその希望を断念することなく、その意欲と能力を伸ばすことができるよう、家計の教育費負担の軽減に向け取り組む。

【施策】

◇奨学金事業等の充実

教育の機会均等の観点から、意欲と能力のある学生等が家庭の経済的状況によって修学の機会を奪われないよう、学生等の多様なニーズ等を踏まえて、奨学金事業等を充実し、教育費負担を軽減する。

◇学生等に対するフェローシップ等の経済的支援の充実

優秀な人材を育成するため、フェローシップやティーチング・アシスタント、リサーチ・アシスタント等の経済的支援を充実する。特に、博士課程(後期)在学者の2割程度が生活費相当額程度を受給できるようにすることを目指す。

2008年3月6日木曜日

果たして学位は能力の証明か

ディグリー・ミル(又はディプロマ・ミル)の問題、昨年の暮れに全国の大学の実態を文部科学省が公表した以降もポツポツと新聞紙面を賑わせています。

そもそも「学位」とは何なのでしょうか。お国の事情で学位の位置付けや効果も様々なのでしょうが、今回は、我が国の、特に大学教員にとっての学位について考えてみたいと思います。

広島大学高等教育研究開発センター長の山本眞一氏が書かれた「大学教員と『ニセ学位』」(文部科学教育通信 2008年2月25日号掲載)の抜粋をご紹介します

大学教員にとっての学位


大学教員には学位が必要だという認識は、近年とみに強まってきている。
このため、大学によっては、博士の学位のない教授は博士課程の学生の主任指導教員にはさせないという内部規律を持っているところがあったり、また、博士の学位のない教員が出身大学で論文博士号をとろうとして、血の出るような努力をしたりしている例がいくつもある。
ちなみに、大学設置基準の規定を見ると、教授の資格として列挙されている中で、第一には「博士の学位(外国において授与されたこれに相当する学位を含む)を有し、研究上の業績を有する者」とあり、第二に「研究上の業績が前号の者に準ずると認められる者」と規定されており(同第14条)、その他これらによらない資格でも教授にはなれるのだが、博士の学位というものが第一に挙げられていることからみても、これがいかに重要であるかはよくわかる。

もう30年ほど前の話になるが、私が旧文部省に勤めていた折、大学設置審の教員審査の場に付き合ったことがある。
とくに理工系の場合に審査員である大学教授たちが申請書類に目を通す際に、まず口にするのが博士の学位であり、それがない教員の場合いろいろ難しい議論があるということを、当時は学士号しかなかった私は、半ば好奇の目でその様子を眺めていたものである。
なぜなら、当時の私には大学を出て就職する際に、学位が必要な職種があるということが信じられなかったからである。

今日、博士学位はさらに重要に


近年、博士課程中退ではなく実際に博士号を取得していることが教員採用や昇進にきわめて有利に働くようになってきた。
以前ならば文系の博士課程は、教員就職のための待機場所という性格が強かったが、そこにも研究者として自立して研究する能力を証明するものとしての博士の学位が必要になってきたのである。
このような風潮は、すでに教員として仕事をしている年長者にも影響を与えるようになってきた。

年長者である大学教員が博士号をとるには、大学院で学びなおす方法のほか、博士課程を持ちかつ課程博士号を授与した実績のある大学院に論文を提出し、試験に合格して課程博士と同等の能力を有すると認められた者に授与される、いわゆる論文博士号を取得する方法がある。
学位取得と大学院教育との密接な関連を主張する者からは、この論文博士制度は日本独自の悪弊であるとの批判もあるようだが、海外の大学院でもさまざまな柔軟な方法があることから、直ちにこれを廃止することは適当とは言えないだろう。

ディプロマ・ミルという問題


問題は、論文博士の取得も課程博士と同様あるいはそれ以上に難関であることである。
博士号の持つ重要性を考えれば当然と言えば当然だが、博士号が重要な意味を持つ中でその取得が難しいとなれば、取得が易しそうな大学へと目が向くのもうなずけよう。
そこにいわゆる「ディプロマ・ミル」(ニセ学位販売業)がつけ込むスキが生まれる。
今年1月6日付の朝日新聞の記事によると、昨年末に文科省が調査結果を発表して、「実態の伴わない博士号や修士号を発行する機関があり、そこから得た『ニセ学位』をもとに04~06年度に採用されたり昇進したりした教員が、全国4大学に4人いた」とある。

ニセ学位の多くは、上述のディプロマ・ミルから取得したものであろう。
それではこのディプロマ・ミルとは何であろうか。
私が委員として加わった会議に平成15年度に開催された「国際的な質保証に関する調査研究協力者会議」というものがあり、そこにディプロマ・ミルに関する資料が配布されたことがある。
これによると、ディプロマ・ミルというのは「贋物の証明書や学位を与える、信頼に値しない教育ないしそれに類する事業の提供者」のことであり、「ディプロマ・ミルは米国以外にも存在するが、特に米国は高度資格社会であり、雇用者側も教育資格を極めて重視しており、就職、転職にあたり、より高次の学位や証明書等を有することが有効である。
そのため、安易に学位等を取得できる手段として、ディプロマ・ミル(ディグリー・ミルとも呼ばれる)の偽学位販売業のサービスが活用される温床がある」との解説が付けられている。

博士号取得大学を明記する


このような正体のわからない業者から学位を買う教員がいることは論外のことだが、本来は教授としての実力があれば十分な仕事ができるはずの大学で、形式的な学位の有無が問題になってきているという現状には注目しなければならないであろう。
この問題は、しかし、単なる学内の採用・昇進の問題だけではなく、わが国の大学や大学院の国際通用性とも関係する問題であるだけに、なかなか複雑である。
一教員の立場で考えるなら、周りから後ろ指を指されないよう、なるべく若いうちに博士号それも正規のものを取得しておくに限るというのが正直な対応というべきであろう。

それにしても疑問に思うのは、博士号の有無だけで、当人の能力や資格を推測してよいのであろうかということである。
博士号が研究者の能力の証明であるなら、それを取得した大学院の質もまた担保されていなければならないであろう。
実際、広島大学の山崎博敏教授による調査によると、全国の大学の研究科長920名を対象とし、うち半数から返ってきた回答結果では、文系学位の質が大学間で「同等」とするものは3割弱に過ぎず、半数は「やや異なっている」、2割は「大きく異なっている」と答えているそうである。

ちなみに読者の皆さんは、学位規則では「学位を授与された者は、学位の名称を用いるとぎは、当該学位を授与した大学の名称を付記するものとする」(第11条)となっているのをご存知だろうか。
あまり励行されていないようだが、これを徹底させることが、学位の質を担保し、ディプロマ・ミルの介入を防ぐ確実な対策ではないだろうか。

2008年3月4日火曜日

高等教育への投資

国際比較におけるわが国の高等教育に対する公財政支出の低さについては、これまでも政府内の諸会議においてさんざん議論されてきたところですが、一向に改善の兆しが見えてきません。

厳しい財政事情や国民的関心の低さを反映してのことでしょうが、国家の未来を担う「ひと」への投資は、もう少し重視されるべきではないかと思います。

去る2月8日開催の中央教育審議会教育振興基本計画特別部会において、大学分科会を兼務する安西祐一郎慶應義塾長、郷通子お茶の水女子大学長、金子元久東京大学大学院教育学研究科長、木村孟独立行政法人大学評価・学位授与機構長の連名による「教育基本計画の在り方について-『大学教育の転換と革新』を可能とするために-」と題する意見書が提出されたことは前回この日記でご紹介しました。

この意見書のうち、高等教育への財政支出の必要性を述べた主な部分をご紹介します。わが国の現状を「鎖国的」と酷評されておりとても印象深い意見書です。


諸外国に比して高等教育への公財政支出の規模が少ないことは、つとに指摘され、平成17 年の中央教育審議会答申「我が国の高等教育の将来像」でも欧米並みの水準を目指すべき旨が提言されている。

今般の教育振興基本計画では、過去の答申内容と整合性を確保し、投資拡充の方向性を明記することは当然であるが、それに止まらず、当面の計画期間を、長期的な展望の中で位置づけつつ、目標やその達成に向けた工程等を描いていくべきである。

益々熾烈となる国境を越えた人材獲得競争の流れの中、国際的に遜色ある投資水準では成算は無い。本提言では、国際競争で優位にあるアメリカを目安とし、少なくとも同国との懸隔を拡大させないことを狙いとした。また、学費上昇等による私費負担の増大に鑑みると、機会均等、さらには「人生前半の社会保障」や少子化対策の観点からも、教育費の家計負担の軽減が不可欠であるとの認識に立って検討を行った。

その結果、我々は、できる限り速やかに公的投資を年間5兆円程度の規模に拡大させることが必要であると考えた。こうした投資増により、はじめて国際競争に伍しつつ、幅広く知的市民を育成することを可能とする教育研究環境が形成されよう。

もとより、我々は、現下の厳しい財政事情について決して無理解ではない。
しかし、先進諸国が高等教育への投資を競い合うように伸ばし、量の拡大と質の向上を共に追求している現実を無視するとすれば、それは鎖国的発想と言わざるを得ない。

当面の5年間を「転換に向けた始動」と位置づけ、「大学教育の質や成果とは何か」という先進諸国共通の難題に真剣に取り組み、我が国としての解を見出すこと、その上で、「選択と集中」を求める要請へ的確に対応していくことが必要と考える。

この結果、社会からの負託に応えられない大学が淘汰されることは不可避となる。ただし、こうした国の政策決定の過程では、拙速に陥らず、教育基本法に則って大学の自主性・自律性が十分尊重されなければならない。


高等教育に対する財政支出に関する記事をもう一つご紹介します。

広島大学高等教育研究開発センターの山本眞一センター長が書かれた「高等教育に対する支出-将来の社会発展のために」と題するレポートです。(文部科学教育通信(2008.2.11号)に掲載)

公財政支出の低い水準

近年、わが国の公財政における教育費支出とくに高等教育のそれが、先進諸国の中で非常に低いということがよく言われる。
ちなみにOECDの統計によれば、2004年時点でわが国の国内総生産(GDP)に対する高等教育の公財政支出割合は0.5%であり、OECD各国平均1.0%を大きく下回っている。
これに対して、米国は1.0%、イギリスは0.8%など、主要国は押し並べてわが国より支出割合が高い。

もっとも過去の推移からみて、わが国の傾向はやや上昇気味であるのに対し、米国は下降気味である。
おそらく科学技術関係の支出が1990年代以来重視されてきたことの蓄積が、多少この上昇傾向に貢献しているのではないかと思われる。

次に、数字は2002年時点でやや古いが、同じOECDの統計で私費負担を加えた全支出額を比較すると、2002年時点でのOECD各国平均1.4%に対してわが国は1.1%であり、平均は下回っているものの、各国に比べてそれほど大きな差はない。
ただ、私費負担割合が6割近くあり、わが国の高等教育支出は、韓国や米国を別とすれば、家計など私費に拠っているものであることが際立った特徴になっている。
韓国でもそうであることからして、おそらくは私が常々考えているように、東アジア地域では家計が進んで費用を分担するという文化的特質があるからであろう。

わが国は私費負担の多い特異な構造

これに対して、ヨーロッパ諸国はおおむね公財政からの負担がほとんどである。
現在でも授業料を無料とする国々が多いことからも分かるように、高等教育の費用負担の構造という点から言うと、わが国とは大きな差異がある。

なお、ここでいう公財政支出とは、国及び地方政府が支出した教育支出であり、学校のために直接支出された経費のほか、学生生徒に対する奨学金及び民間機関が行う教育訓練等への補助金を含む。
私費負担は、授業料等の家計負担分及び寄付金等の民間機関による教育支出で、私立学校における事業収入など独自の財源による教育支出を含むとされている。

さて、このように私費負担の多い高等教育支出構造をどのように見るべきであろうか。
これは国民の旺盛な教育意欲の表れ、あるいは民間活力の証だというような単純な見方をとるべきではない。
確かに教育とくに高等教育は、それを受けた者に将来の大きな便益がある。
この連載で以前にも触れたように、高等教育の内部収益率は結構高い。とくに医学などではその傾向が顕著である。
少々高い授業料を支払っても将来の便益を受けようとする者があってもおかしくはない。

しかし、高等教育は個人の私的利益だけに限られるものではない。
科学技術人材の養成は知識・技術の開発を通じて、経済や産業の発展あるいは国際競争力の向上に大きな貢献をする。
そのために国は財政事情の厳しい中ではあるが、科学技術関係の支出は増やしてきている。

学部別に異なる授業料を徴収すべきだという財政当局からの圧力に反対が強いのも、かかった経費を私的に負担させるだけではなく、社会全体が受ける利益に対して、公財政がその多くを負担すべきであるという論理が根底にあるからであろう。

それと同時に、高等教育は教養教育を含め、質の高い教育を行うことによって国民の資質を高め、責任感や判断力のある21世紀型市民の育成にも大いに役立つはずである。
文科系の教育は役立たないという批判は、企業関係者を始め社会のさまざまな関係者からよく聞かれるところであるが、前々回の連載で書いたような所要の改善を加えることによって、この問題は解決しなければならない。

教育再生会議も投資の充実を主張

いずれにしても、公財政による高等教育への経費投入はより積極的になされなければならない。

先日出された政府の教育再生会議の第3次報告でも「大学・大学院を適正に評価するとともに高等教育への投資を充実させる」として、先進国と比較して大学への公財政の支援が少ないことから、「人的資源しかないわが国が、今後国際競争力を維持し発展を続けていくためには、高等教育に対する投資を先進国並に充実させていくことが必要不可欠である」と述べ、さらには「基盤的経費(国立大学法人運営費交付金、私大経常費補助金)を充実させる必要がある」とまで言い切っている。

ところで、限られた資源の中からどのような分野に予算を配分すべきかということは、財政の大きな選択課題である。
そこで過去10年ほどの政府一般歳出の主要事項別の金額の推移を調べてみた。増加が著しいのはやはり社会保障関係費である。
これに対して文教予算は減り気味であり、まさに少子高齢化がこのような局面にも影響していることが分かる。もっとも文教予算の中でも科学技術振興費に限って言えば増加傾向であり、そのような意味で公財政にも、資源配分の選択行動があることが分かる。

ちなみに公共事業費が減少、防衛関係費は確保という傾向も近年の政治の動きを確かに反映しており、そのことに興味を持たれる方々も多いだろう。

平成20年度予算の政府案では、大学教育改革の支援に前年度比65億円増が措置されているが、基盤的経費はかねてからの方針通り減額されている。

政策担当者の努力は多としつつも、将来の社会発展に必要な高等教育への投資に一層の努力がなされることを祈らずにはいられないところである。

2008年3月3日月曜日

高等教育政策の動向

文部科学省高等教育局から配信されている高等教育政策に関する情報メルマガ(2008年2月28日号)のうち主なものをご紹介します。


■中央教育審議会大学分科会の動向について

大学分科会制度・教育部会学士課程の在り方に関する小委員会(第12回)について -答申に向けて学士課程教育の在り方について議論-

2月15日、大学分科会制度・教育部会学士課程の在り方に関する小委員会(主査:黒田壽二金沢工業大学総長)の第12回会議が開催されました。

この会議では、学士課程教育の在り方について、年度内の「審議のまとめ」に向け、昨年9月の審議経過報告から修正を行うべきポイントについて意見交換が行われました。次回以降、制度・教育部会と合同で、文案の審議を開始する予定です。


大学分科会大学院部会(第40回)について

2月21日、大学分科会大学院部会(部会長:荻上紘一独立行政法人大学評価・学位授与機構教授)の第40回会議が開催されました。

この会議では、1)専門職大学院に関する今後の検討課題について、2)博士課程修了者等の諸問題について意見交換が行われました。

1)専門職大学院に関する今後の検討課題については、「専門職大学院の教育研究活動等に関する実態調査」のデータ等に基づき、現状の問題点や今後の検討課題について意見交換を行いました。

2)博士課程修了者等の諸問題については、分野別の博士課程修了者数や、就職者数等のデータに基づき、意見交換を行いました。委員からは、
  • 博士課程の社会のニーズとのミスマッチについて、専門領域の蛸壺に入りすぎているのをどう打開するか。企業側には特に人文社会系のドクターを敬遠する意識があるが、企業と意思疎通を図るなどして打開が必要。

  • 博士課程の入口においてスクリーニング機能がほとんどないのが課題。

  • 将来が不安だからということで、学生が博士課程に魅力を感じず、優秀な学生が博士課程に進学しなくなることについては大きな危機感をもっている。

  • 経済的支援は非常に重要。十分な能力を有する博士課程学生に生活費相当程度の経済的支援を行うことなしに、国際的水準の大学院教育を達成することはできない。
等の意見が出されました。


■教育基本計画に関する意見書「大学教育の転換と革新」について -安西大学分科会長へのインタビューから-

去る2月8日に中央教育審議会教育振興基本計画特別部会(部会長:三村明夫・新日鐵代表取締役社長)が開催され、当部会と大学分科会を兼務する安西祐一郎慶應義塾長、郷通子お茶の水女子大学長、金子元久東京大学大学院教育学研究科長、木村孟独立行政法人大学評価・学位授与機構長の連名による「教育基本計画の在り方について-『大学教育の転換と革新』を可能とするために-」と題する意見書*1が紹介されました。

その後、この意見書に関し、大学分科会長である安西委員へのインタビュー記事が、2月19日(火)読売新聞20面「社会人学生15倍増案」、2月25日(月)日本経済新聞27面「大学誰もが学べる場に」に掲載されましたので、その内容について紹介します。

安西委員のコメントの趣旨は以下のとおりです。

提言をまとめた理由

中央教育審議会で検討が進められている教育振興基本計画の内容に反映されるよう、2025年の将来像と改革内容を具体的に示し、それに必要な予算として、年間5兆円規模の公財政支出の速やかな達成を求めた。

2025年の将来像

生まれたばかり子供たちが大学に進む2025年、日本は、日本の精神基盤を大切にし、世界でトップクラスの成熟した民主社会であって欲しい。
それには、日本に住む普通の人々が、一定水準以上の思考力、判断力を身につけることが必要。年齢や国籍を問わず、誰もが大学で学ぶ機会が保障される状態を目指したい。
そのため、日本の大学で375万人の学生(1.3倍増)が学び、75万人の社会人学生(15倍増)や25万人の留学生(2.5倍増)を受入れることを目標として掲げた。

社会人学生の大幅増

日本は人材立国であり、勉強が必要なのは若者だけではなく、社会人も必要。
仕事を休んで学べるように社会の仕組みを変え、大学側も社会人のニーズに応え得る中身を持つよう、質を高める必要がある。
社会人学生を在学者全体の2割としたのは、先進諸国の状況も踏まえ、生涯学習社会に相応しい政策目標として提起したもの。

公財政支出の増額の狙い

公財政支出の増額は、経営難の大学の救済でなく、大学の質を向上し、学生にきちんと勉強をさせるため。
また、質が向上できない大学は淘汰されていくのが自然。
この提言に基づく公的投資によって、教育費の家計負担率は5割から4割に減る。
なお、日本の将来に重要なのは初等中等教育も同様であり、教育予算の取り合いをするつもりは一切ない。

大学の国際競争力

大学の国際競争力の基本は教育の質と研究水準。
両者が高くなければ、国際競争力があるとは言えない。
日本にも世界レベルの大学はあるが、その水準を維持・向上し、極東の島国に外国の学生を惹きつけるには大変なエネルギーと資金が必要。
だが、そのための財政基盤が十分ではない。
また、米国の大学の特徴は、研究重点大学だけでなくコミュニティーカレッジや良質の4年制教養大学が多数あり、平均的な大学生が質の高い教育環境に支えられている。
特定の大学を頂点とする単峰型の構造ではなく、こういう構造が日本に欲しい。

地域貢献と大学


世界で競争する大学と地域を活性化させる大学の両方が必要。
東京一極集中が進む中、地域貢献できる大学は欠かせない。

国立私立大学の役割分担

国立大学は、国の政策に沿った教育をしっかりやることが筋で、どの国にも必要。
一方、人間は多様な能力を持ち、多様に伸びていくものであり、私立大学の役割が大きくなる。
国立大学も、私立大学に近い多峰型に変わる必要がある。
それぞれにどの程度の補助をしていくべきかは、今後議論が必要だ。


■「教育再生懇談会」の開催について -教育再生会議提言のフォローアップの開始へ-

去る2月26日に、「教育再生会議」は廃止され、その後継となる「教育再生懇談会」の開催について閣議決定されました。

「教育再生懇談会」は、21世紀にふさわしい教育の在り方について議論するとともに、「教育再生会議」の提言のフォローアップを行うこととしています。

「教育再生懇談会」は、委員10名の委員から構成され、中央教育審議会大学分科会の委員である安西祐一郎慶應義塾長と野依良治独立行政法人理化学研究所理事長が加わられています。