医学部教員や附属病院の医師のモラルの問題、中でも、不適切な金銭の授受に関する問題が紙面を賑わすことが多いこの頃(いや昔からそう)ですが、社会的信用や所得水準が高く、恵まれた環境下にある彼らが、どうしてそのような倫理観の欠如した犯罪的行為を行うのでしょうか。
同じ大学勤めでも、安サラリーで生活している私とは無縁の世界の方々なので、何ともコメントのしようがないわけですが、国公私立いずれの大学も、国民の税金で支えられている公共的機関であり、この国の将来を担う人を育てるという重要な使命を担っている大学を職場とし、そこに生活の糧を求めている以上は、自分の立場をわきまえた考えや責任ある行動をしていただきたいものですね。
大学教員の倫理観の欠如については、以前、この日記でもご紹介したことがあります。
→
http://daisala.blogspot.jp/2008/01/blog-post_620.html
今日は、まず、大学病院に勤務する医師と企業との金銭に関する記事からご紹介します。
企業から医師への資金提供 医学部7割ルールなし (2008年4月28日 読売新聞)
医学部を持つ全国の大学のうち、医師ら教員が製薬企業などから得た研究費や講演料を届け出たり、研究の独立性が保たれるかどうかを審査、監督したりするルールを策定、実施しているのは3割に過ぎないことが、読売新聞の調査でわかった。
特に私立大では、ルールを持つのは回答した24校中1校だけで、医師と企業の資金関係を「開示できる」としたのも2校にとどまり、情報公開の遅れが浮き彫りになった。
調査は全国80大学(国公立51、私立29)に文書で行い、74校(国公立50、私立24)から回答を得た。ルールを作成しているのは23校で、実際に運用しているのは20校(27%)だった。そのうち国公立が19校で、私立は1校だけだった。
教員が企業から得た役員報酬や顧問料、特許権料、株式の保有、講演料や原稿料、研究費などのうち、大学への届け出が必要な場合の金額は「年間100万円以上」としたところが多かった。8校では届け出対象を本人のみとし、15校では家族も含めた。
ルールを持たない51校のうち、25校は「今年度内に作成、または作成を検討する」としたが、26校は「未定」だった。
[解説] 私大、開示に後ろ向き ルール化 慶大のみ
企業から医師への資金提供を巡っては、薬物療法などの目安を定めた診療指針の作成委員を務める国公立大の医師の約9割が、製薬企業から寄付金を受け取っていたことが、読売新聞の調査で既に明らかになっている。しかし、私立大の場合、指針の作成委員に名を連ねる教授らも多いものの、製薬企業との資金関係はベールに包まれているのが実情だ。
寄付金について、国公立大のほとんどは、情報公開制度に基づき、受領した教員、講座名や提供した企業名、金額を開示している。一方、私立大では、今回の本紙調査に対し、10校が寄付金の総額(平均2億9400万円)は回答したが、個別の資金関係を「開示できる」としたのは東京医大、東海大の2校だけだった。調査に「答えられない」とした私立大も数校あり、情報開示に後ろ向きな姿勢が目立った。
資金についてルールを設けている私立大は慶応大だけで、医学部教員に外部委員(弁護士)1人を含めた委員会で、企業の資金提供で行う研究について審査、勧告などを行う。
インフルエンザ治療薬「タミフル」に関する厚生労働省研究班の医師が治療薬メーカーから寄付金を得ていた問題を機に、厚労省は先月、2010年度から、大学の医師が同省研究費を申請する場合、所属大学が資金関係のルールを運用していることを条件とすることを決めた。
ルール策定と情報公開を急ぐべきだ。
次に、国立大学病院と天下りの受け皿法人との関係を指摘する記事です。
国立大病院の店舗、OB財団が“独占” (2008年4月28日 産経新聞)
医学部付属病院を持つ全国43の国立大学法人が、いずれも入札を行わずに、病院内の売店やレストランなどの運営を、大学関係者らの財団法人に任せていることが分かった。文部科学省OBが天下った財団もあり、ほとんどは売店などの経営を民間に再委託しているが、建物使用料は格安になっているケースが多い。
財団による病院関連業務の民間への再委託をめぐっては、会計検査院から「不透明」と改善を要求された例もあり、検証が必要だ。
病院を持つ全国の国立大学法人は、いずれも大学職員OBや文科省OBを理事に迎えた財団法人を設立しており、レストランや喫茶店、売店、理容店などの運営は、ほとんどが財団に任せている。入札を行っている大学はゼロだ。
滋賀医科大(大津市)の場合、付属病院内のレストラン、売店、喫茶店、理容店を運営するのは、大学関係者が理事長を務める財団法人「和仁会」(大津市)。
大学によると、病院建物のうち約441平方メートルと土地約3・2平方メートルを財団が使っているが、使用料は国立大学法人になった平成16年から3年間は無償だった。19年度から有償に切り替えたものの、坪単価で年間約3万円という破格の安さだ。
しかも、病院で和仁会が経営するレストランの賃料が発生するのは厨房(ちゆうぼう)のみ。客が座る部分は「共用スペースなので福利厚生扱いとなる」といい、現在も無償のまま。こうした扱いは各地の国立大学法人でも同様だ。
登記簿によると、和仁会の理事は大学職員OBの理事長以下6人いるが、常勤は理事長と事務職員の2人だけ。売店やレストランの実際の業務は、地元企業や大手レストランチェーンに再委託しており、従業員はいずれもそれぞれの会社が雇用している。店に財団の看板を掲げるだけで、売り上げの一部が財団に納められる仕組みだ。
東京大学病院(東京都文京区)の場合、院内のレストランのうち1軒は「精養軒」(東京都台東区)に経営させている。財団を介在させず、民間業者と大学が建物使用の契約を直接結ぶという、全国でも珍しいケースだ。
しかし、院内にある他の飲食店やコンビニエンスストアなどは、いずれも文部科学省OBを理事長に迎えた財団法人「好仁会」が建物を有償で使用し、運営している。
公開された契約書によると、好仁会が使用するスペースは約1080平方メートルで、同会が大学に支払う賃貸料は年間約1700万円。立地を考えれば破格の安さといえる。
東大病院にあるタリーズ、ドトールといった有名コーヒーショップやコンビニのローソン の従業員は、いずれも好仁会が採用し、同会が店をフランチャイズ経営している形だ。
このほかに好仁会直営のレストランもあり、直営の場合は売り上げ全額が好仁会に入る。
小山五朗理事長は「通常のコンビニは約2500品目の品ぞろえだが、公益性を重視して4500品目を常備している。ロイヤルティーをローソンに十数%払わなければならず、経営は楽ではない」と話す。
病院内の店を財団がほぼ独占している慣行について、「病気の人たちのために正月に門松を飾ったり、ひな人形を飾ったり、民間業者ではできないことをやっている自負がある」と話した。
財団による病院関連業務の民間委託をめぐっては、東京医科歯科大(東京都文京区)が18年度、会計検査院から「実際は下請け先に大半の業務を実施させている」と改善指導を受けた例がある。
同大学付属病院の場合、白衣の洗濯や寝具の取り換えなどを、財団法人「和同会」が随意契約で請け負い、さらに民間に再委託していたが、検査院は「財団職員は下請け先との調整、請求書の発行などをしているにすぎない」と指摘した。
こうした天下り先が独占して病院のレストランなどを経営している実態について、大学側は「福利厚生施設を設置する場合は収益してもよい、という昭和33年の大蔵省(当時)関税局長通達にのっとった」(滋賀医大)と説明している。
(参考)文部科学省所管公益法人一覧(高等教育局・医学教育課)
→
http://www.mext.go.jp/b_menu/koueki/koutou/04/004.htm
最後に、「博士号謝礼」問題に関する記事と評論をご紹介します。
記者の目 医学博士論文審査謝礼問題 (2008年5月9日 毎日新聞)
名古屋市立大大学院医学研究科の元教授が、医学博士論文審査で便宜を図った見返りに博士号申請者から現金を受け取ったとして、昨年12月、愛知県警に収賄容疑で逮捕された。
その後、横浜市立大でも、前医学部長らと大学院生との間で現金授受が発覚し、医学界の「カネと学位」をめぐる問題が広がりを見せている。
名古屋市大事件を受けて取材した複数の大学OBの医師は「謝礼の慣習は全国にある」と証言したが、私はこの信用性は高いと確信しつつある。また、こうした慣習の背景に、教授1人に権力が集中する構造を支えてきた医局制度があるのではないかとも考えている。
博士号の権威を取り戻すには、国公私立を問わず全国の大学が内部調査を行って実態を公表し、古い体質を見直すべきではないか。
愛知県警の調べなどによると、名古屋市大大学院の伊藤誠元教授(68)=収賄罪で公判中=は05年2月ごろ、博士号を申請した医師13人に「肺がんの治療法について聞くから」などと口頭試問の内容を事前に教えた。そして博士号を取得した13人から謝礼各20万~30万円計270万円を受け取り、自家用車の購入や生活費に充てた。
伊藤元教授の逮捕後、名古屋市大OBの医師たちから話を聞き、耳を疑った。
「なぜ伊藤先生だけが逮捕されるのか」「謝礼の慣習は全国どの医学部にもある」。事前に問題を教えるといった便宜は認められないにしても、高額の謝礼は当然という感覚だったのだ。
私は逮捕から2週間後、謝礼の慣習の有無について医学研究科を持つ全国50の国公立大大学院を対象にアンケートを行った。横浜市大を含め、ほとんどが慣習は「ない」と回答、「『ある』または『あると聞いたことがある』」と答えたのは和歌山県立医大だけだった。
一方で「調査も注意喚起も行っていない」と回答した大学院は65%に達し、慣習が「ない」とする根拠は不明確で、医学部の閉鎖性を垣間見る思いがした。
ところが、こうした「公式回答」とは逆に、取材に応じた名古屋大や東北大、大阪大などのOB医師たちは「自分も払った」と口をそろえ、「100万円が相場の医局もあった」
「支払わないと変人と思われる」などと説明した。慣習を否定していた横浜市大で現金授受が発覚したのは、アンケートからわずか3カ月後だった。
こうした慣習はどうして生まれ、どうして維持されてきたのか。今年4月、名古屋市大は医学研究科の教員の約3割が現金を受け取ったことがあるという内部調査結果を明らかにした。西野仁雄学長は「背景にあるのは医局制度」と分析。
「問題の本質は、教授に人事と経理の2点が集中することに尽きる」と断じた。
大学医局は、内科学や外科学など講座ごとに教授を頂点としたピラミッド型に組織され、教授は系列病院への医師派遣や研究費の配分などに強い権限を持っている。04年度に始まった臨床研修医制度で、医学部卒業生が所属医局を決めずに研修先を選択できるようになった上、へき地勤務や給与面での待遇の悪さが嫌われて勤務医離れが進み、医局そのものが弱体化の傾向にあるとされるが、依然として医局内での教授の存在は絶対だ。
医事評論家の水野肇さんは「医局は、教授が一国一城の主(あるじ)として君臨する明治以来の徒弟制度が残った特殊な世界。外からはチェックできない」と指摘する。
伊藤元教授について後輩医師の一人は「高額の医療機器や薬剤の選定に権限を持ち、親分肌で面倒見が良かったが、逆らう人間は医局から排除された」と振り返る。別の大学OBの医師は「自分一人だけ謝礼を断れる雰囲気ではなかった。結婚の際、教授に対する100万円の仲人料も常識だった」と話した。
名古屋市大は事件の教訓を教員向けの倫理綱領にまとめ「社交の程度(5000円)を超える物品は受け取ってはならない」「返却できない場合は倫理委員会に報告し、指示通りの処理をする」などと具体的な注意を盛り込んだ。私は全国の医学部が「教訓」にならい、医局内の物品の受け渡しを制限するのはもちろん、人事も透明化するなど改善を図るべきだと思う。名古屋市大の内部調査にOBの医師たちからは「若い研究者が集まらなくなることが心配」と事件の影響を憂える声が上がったというが、同じ懸念は私大を含め他の大学にもあてはまる。
博士号の権威は患者の医師に対する信頼の一部を支えてもいる。徹底的な自浄を図ることが、医療の現場を守ることになる。
教育ななめ読み「博士号の謝礼」 (2008.4.28 文部科学教育通信)
教育評論家 梨戸 茂文 氏
横浜市立大医学部長の教授が、院生から博士の学位を取得したお礼として現金を受け取っていたとしてニュースになった。同大ではこれは長年の慣例になっていて謝礼も一人当たり30万円が基本とか。市立大学も法人化され身分も非公務員とされたけれど確か「みなし公務員」でお金を受け取るのはまずいはず。収賄罪になる。学内では大あわての「検討委員会」を設置したら、その委員の少なくとも2人の医学部教授がやはり現金をもらっていたらしいというオマケの疑惑も発生。やれやれ。
同じ博士号を巡るお金の話では、名古屋市立大学の医学部の話もある。こちらは少々様子が違って、2005年3月の博士学位論文の審査で事前に口頭試問の内容をメールなどで教えてもらった見返りのお金だ。試験を受けた13人全員が合格。1人当たり20から30万円で合計270万円がこの教授に渡されたとか。この先生は名誉教授を授与されすでに退職しており今は私大の教授。大学側はこの13人の博士号は剥奪しないそうだ(多分、「名誉教授」も取り消さない?)。研究成果をまとめた論文は客観的で高水準、海外の専門誌にも掲載されている、事前に試験内容を知っていても博士号の評価には値するなどが理由とか。お金は取られるは博士号はなしなら踏んだり蹴ったり。そうならないようなのは良かったですね。
毎日新聞は全国の医学部の博士号がらみの現金謝礼についてすばやく調査した。医学系の大学院をもつ国公立大学50校にアンケート調査。回答した46校の65%、30校では謝礼について実態調査も注意喚起も行っていないと回答。謝礼の慣習について「ない」と答えたのは39校、「ある、または聞いたことがある」と回答したのは和歌山県立医大だけ。九大の回答は「お菓子程度の謝礼はある」。実態調査を実施したのは名古屋市立大、名大、岐阜大の中京地区の学校。注意喚起したのは12校でそのうち4校は事件後。調査も注意もしていない30校のうち29校が謝礼の習慣をないとしている。新聞はしつこい?のであちこち取材したらしい。阪大で博士号を取得した医師は審査の主査に10万円を渡し、東北大で取得した医師は担当教授に数十万円を渡し食事の接待もしたとの話も聞き出している(新聞、関係者は「大学はしらを切っている」と言いたげです)。
ところでわが国の江戸時代を振り返ってみると、贈答文化は相当盛んだったようだ。大名が官職や幕府の役職に就くのに老中などに相応の贈答をしていたのが時代劇などでお目にかかる話だ。忠臣蔵だって浅野内匠頭が吉良上野介に贈った「指南料」とやらが少なかったのが殿中での刃傷沙汰の原因のひとつと見られている。日本人が何百年も培った「文化」なんだろうか。
ところで工学部などではそもそも該当者の数が多かったり、博士論文の前に数本の同内容の論文を書くことが要求されていてまず数合わせ先行だからお礼をする余地がないとか、「研究室の打ち上げに先生も呼んでパーティー」をすればいいのではないかとか「立派な研究者に成長するのが真のお礼だ」など涙ぐましい?意見もある。医学部の場合、背景には「医局」の存在があり、大学内のほか関連病院へ医師を送り込む人事もやっている。昔の話だが(1995年11月13日「AERA」)、ある県立大学の医局出身の産婦人科医は博士号を取ったときの主査教官に50万円、副査に10万円ずつ贈ったそうだ。さらには結婚する時は「仲人料」が必要で相場が50万円だったとか。医者の世界は激務だがふだん動いている金額が大きいのだろうか。もう「昔話」なんでしょうけど。