2008年6月17日火曜日

教職協働のための目標設定

大学における教員と職員の連携、いわゆる「教職協働」については、この日記でも、これまで、その重要性や不可欠性とともに、現実としては意識の問題も含めてなかなか進まない実態などについて何度か取り上げました。

つい最近では、「大学経営改革の動向」の中で、英国の研究重点大学で研究支援の要職にあるマイク・グリフィス氏の寄稿「大学経営のプロへの途」をご紹介した際にも、教職協働に触れた次のようなコメントを転載いたしました。

もう一つ、とても大切なことは、チームワークです。協働が生み出す知恵と力はどんな個人にも勝ります。人々の能力は多様です。個々人がどんな能力を持っているか認識し、チームを多様な能力の人材で構成することが大切です。しかし、チームがオープンにかつ十分なコミュニケーションをとっていないと、目標も共有できませんし、チームとしての力も発揮できません。

大学でのキャリアを成功に導くためには、教員との間に良い関係を築かなければなりません。このことは、とても難しいことではあります。教員の中には、事務系職員から指示を受けるのを嫌う人もいますし、はなから事務系職員が役に立つアイデアを持っているはずがないと思っている者もいるのです。とにかく、会って話すことが大事です。とかくメールに頼りがちになる昨今ですが、教員と良い関係を築くためには欠かせません。そして、事務系職員と教員は同等の立場で、大学に貢献するのに、ただ違う能力を持っているのだと言うことを肝に銘じておきましょう。


今日は、久々に、広島大学・高等教育センター長の山本眞一氏が「文部科学教育通信」(2008.6.9 No197)に寄稿された「教員と職員との目標共有」をご紹介したいと思います。
大学の使命達成のために多くの課題解決を求められている同志として、事務職員はもとより、教員の方々にも、「教職協働」について、そろそろ真剣に考えていただくべき時期にきているのではないかと思います。

■教育研究と事務処理と

言うまでもなく、大学の使命は、教育研究を通じて社会に貢献することである。このため大学の活動の中心部分をなすのは、もちろん教育や研究である。その教育や研究は、数ある知識の中でも、未だに知られていない部分をも含めて取り扱うものであり、企業における生産や営業活動に比べてはるかに創造性が要求される仕事である。優れた仕事をするためには、昨日の続きに今日があるというような態度ではだめで、ある意味では前例にとらわれない発想が必要である。しかし前例にとらわれない発想は、時には既存の制度や慣習と衝突しかねない。その衝突とうまく折り合いをつけるということは、大学運営にとって重要な事柄である。他方、仕事を事務処理という観点から見ると、そこには文科省が定めた法令体系や学内で合意したさまざまな規則があり、これに則ってものごとが動くと考えられがちである。

この一見相反する仕事への態度と教員・職員の仕事の分担とはこれまで密接な関係があった。つまり、前者を教員、後者を職員が担うという形で、教員と職員とが互いに相容れない世界を形成しでいたと思われる。教員は彼らと同分野に属する教員・研究者との競争を意識しつつ、ともかくも優れた教育研究を進めることを願い、他方職員は文科省や大学の定めたルールに従い、時には教員の意図とは無関係であっても、勤務場所であるその大学の運営が規則通りに行われることに最大の価値を置いていた。

次に、教育研究というものには、きわめて高い専門性が要求される。専門性を身につけるためには、長くそして厳しい訓練が必要であり、素人が容易には踏み込めない領域であるとも言えるだろう。これは大学に限った話ではない。あらゆる専門領域で、その専門のことは専門家にしか分からないということがしばしば語られる。素人が口出しすることは、その専門領域の権威にかかわると思われているふしすらあって、多くの場合はその素人が批判にさらされがちだ。大学の自治も、結局のところ、知識にかかわるマネジメントはその知識を扱う専門家でなければ分からないという発想がその根本にある。ここでも、教員と職員とは、前者がその専門知識を取り扱う専門家、後者がそこから生ずるさまざまな事務処理をする集団という形で役割分担してきた。

これに加えて、大学というところはさまざまな専門分野の集合体であり、教員間でも専門分野間の違いは大きい。私が以前、この連載で触れたように、文系、理系、医系という三つの大きな分野によって事情が異なるのはもちろんのこと、その中をさらに細分化したような小さな専門家集団がモザイク状に組織化されているのが大学である以上、統一的な目標設定が困難であったと言えるだろう。

■目標の共有化に向けて

以上のように明確な役割分担の中からは、教員と職員とが共有できる目標の設定は極めて難しい。

しかし、近年その前提に変化が見られることは、読者の皆さんも気づいておられることと思う。それは、社会の変化とりわけ1990年代以来の世界的規模での諸変革の中で、大学というものが単に学問の府というだけではなく、社会的制度として社会のさまざまな人々に対して説明責任を果たさなければならないということがだんだん明らかになってきたことである。つまり大学が教育研究を通じて社会貢献をするということが、従来よりもはるかに明確に意識されるようになってきた。より具体的に言うならば、学生に対する教育サービスを充実させたり、企業などとの共同研究を活発化させたりすることが、ますます重視されるようになってきた。国公立大学の法人化は、その大きな契機であったし、私立大学でも経営環境の厳しさの中で、生き残りをかけての大学としての諸活動の充実は喫緊の改革課題である。

このように相手のある仕事については、教員も職員も従来のような固い役割分担にとらわれていては何もならない。両者が力を合わせて大学運営にあたることが望ましいのは当然であり、そのためには共有できる目標の設定が必要である。さしあたりは、学生に対するサービスの充実や、産業界・地域への知的貢献などがそのような目標の例になるのではあるまいか。つまり、これからは教員であるからとか職員であるからというような「立場」で役割分担するのではなく、共有した目標を達成するための「仕事」のどの部分を担当するかということで、それぞれの役割を考えるべきであろう。

これまで、教員は創造性のある仕事をやろうとすればするほど、既存の制度や慣習にとらわれることをわずらわしく思い、また職員は大学という組織を円滑に運営するためには、法令や学内規則に拠ることが大事だと考えてきた。このような状況では、お互いの不信感は生まれても、協働して大学を良くしていこうというインセンティブは湧いてこないだろう。それぞれの大学では、目に見えやすく、また具体的な仕事の目標をいくつか掲げて、それを教員や職員という立場にとらわれず、協働して実現を目指すという態度が必要である。その中で、大学運営に理解のある教員、創造的な仕事の実現に意欲を燃やす職員というものが出てくるものと信じている。

■責任を果たせるような能力開発を

ところで、読者の皆さんの大学では会議の折、職員はメインテーブルに座っているだろうか。それとも後ろに控えていることが多いだろうか。

このことは、一見つまらないように見えて実は非常に大事なことだと思う。従来、多くの大学では、教授会にせよ委員会にせよ、構成員たる教員はメインテーブルに、事務処理をする職員は後方に座るということが多かったのではあるまいか。メインテーブルに座る構成員だけが意思決定にかかわる者であり、後方の職員はそれを聞いているか、あるいは事務的な説明に終始するということが多かったのではあるまいか。これでは、職員に当事者意識が育つことが難しい。もっとも近年は、幹部職員を会議の正式メンバーにして運営している例も多くなっているだろう。しかし、構成員でない場合でも、事務の直接の担当者であればできるだけメインテーブルに座らせて、積極的に発言させることが望ましい。これによって当事者意識が生まれ、必然的にその仕事に対する責任感も生まれるものである。

もっとも、メインテーブルに座るだけで発言する内容がなければ何もならない。構成員であるということは、目標を共有しつつ、積極的にその仕事に関与するだけの能力がなければならないのである。鶏と卵の議論になってしまいそうだが、少なくとも能力開発の契機は積極的に与えるべきだと思うのだが、いかがなものであろうか。

2008年6月15日日曜日

チャンスの平等

先日、東京・秋葉原で多くの方が犠牲になった痛ましい事件が起こりました。

様々な社会的・個人的な問題が複雑に絡み合った結果生じた事件のようですが、今後このようなことが二度と起こらないよう、起こさないよう、私たち一人ひとりが自分のこととして重く受け止めなければなければなりません。

この事件の背景の一つとして大きく取り上げられているのが「格差社会」です。

いつも勉強させていただいている「モチベーションは楽しさ創造から」というブログでも最近取り上げられていますが、「i Phoneと格差社会と秋葉原連続殺人」と題された記事では、i Phoneのような素晴らしい製品を開発する企業には、クリエイティブからルーチンといった複数の業務に対応した人材階層が存在し、人件費コストの重視の結果がルーチン業務の軽視を、引いては、格差の固定・拡大、社員のモチベーション低下を誘引していること、格差解決のためには、社内における「チャンスの平等」「チャンスの提供の拡大」に視点を置いた人事制度が不可欠であることが述べられています。

私は、筆者の考えにいつもながらの示唆を覚えるとともに、実は同様のことは、企業社会だけではなく、大学にも十分当てはまるのではないかと考えました。そこで今日は、このブログの記事の一部をお借りして、その内容を大学に置き換えて考えてみたいと思います。[   ]が大学の場合になります。少し無理がありますが、読み替えてお読みください。


企業[大学]が支払う人件費には限界があります。高い人件費は、価格[授業料]に転嫁されていくので、競争力を失わせる結果に繋がります。高い価格[授業料]は、顧客[学生]満足度を下げる形になるからです。できる限り安い人件費率を実現する事で、価格[授業料]競争力を維持していこうとします。

i Phoneの競争優位を生み出している、源泉となる人材は誰かというと、当然、クリエィティブクラスの人材[役員]となります。彼らの頭脳流出が起こらないように、彼らへは高収入が支払いをしていく事になります。彼らの市場価値は高く、引っ張りだこだからです。彼らを流出する事は、企業[大学]の根幹を揺るがす事になるからです。そこで、優先的に彼らへの人件費配分が決定されていきます。*1

しかし、クリエィティブクラス[役員]の頭脳流出が起こらないようにするには、金銭面だけを満足させるだけで十分ではありません。彼らをサポートする環境も整備していく必要がでてきます。その環境の上で最も大切になるのが、クリエィティブクラス[役員]の仕事をサポートするホワイトカラークラスとルーチンホワイトカラー[管理職員]の人材達。この部分にも、気が利いた人材を配置させる必要が出てくるのです。そうなると、ホワイトカラークラス・ルーチンホワイトカラークラス[管理職員]の人材達にも、それなりの高い給料を支払う必要がでてきます。*2

すると、ルーチン業務人材[現場職員]への人件費予算はあまり残りません。じゃ、派遣でなんとからならないか? アウトソーシングで何とかならないか?と人件費削減の方法を考え始めます。
クリエィティブクラス[役員]、ホワイトカラークラス・ルーチンホワイトカラークラス[管理職員]に高い給料を支払ったツケが、ルーチン業務人材[現場職員]への給料にしわ寄せがくるのです。
ルーチン業務は、徹底してコストを抑える。社員[常勤職員]から、パート[非常勤職員]・派遣。ルーチン業務のコストを抑える方法はいくらでもあります。

このような考えで経営をしていく企業[大学]はどんどん増えていくでしょう。顧客[学生]に満足してもらう製品を作って[教育を行って]いこうとすれば、ユニークなアイデア、優れた技術、割安感を感じる価格の製品を作っていく[教育内容、方法等の改善により充実した教育を行っていく]必要がでてきます。そして顧客[学生]満足を追求していけばいくほど、このジレンマに突入していくことになり、格差を大きくさせているのではないでしょうか?

そんな中、厳しいコントロールのもと、ルーチン業務ばかりを行っている労働者[現場職員]は、やはり怒りを持つでしょう。「いくら真面目に頑張っても、給料はほとんど上がらない。未来が見えない」という気持ちになるのも分かります。

では、社会安定の為に、クリエィティブクラス[役員]、ホワイトカラークラス・ルーチンホワイトカラークラス[管理職員]に給料を下げるとどうかというと、そうなればコアコンピタンスの低下を招き、企業[大学の]競争力がグーンっと落ちていくでしょう。

「じゃ、この格差問題を放置しておいてよいのか?」というと、それではマズイと思います。ルーチン業務を行っている人材[現場職員]の不満はどんどん高まり、秋葉原事件のような極端な例ではないけど、小さな暴発がいたる所で起こってくるような気がします。

この問題の一つの解決策の視点が、「チャンスの平等」「チャンスの提供の拡大」だと思います。昔は、ルーチン業務クラス[現場職員]から、ルーチンホワイトクラスやホワイトクラス[管理職員]、クリエィティブクラス[役員]への移動のチャンスがたくさんありました。頑張って努力していけば、ルーチン業務からの脱却はできたのです。今は、このチャンスさえも、ルーチン業務クラスの人達[現場職員]には与えられていないのが現状ではないでしょうか?

チャンスも与えられなければ、モチベーションなど沸くわけがありません。彼[現場職員]にも、夢とチャンスを与えていかなければならないのではないでしょうか?

活力ある社会[又は大学]を実現していこうとすれば、チャンスの平等は欠かせないと思うのです。今のように、一度、ルーチン業務ばかりを行うと、ずっとその仕事を行う事しかできないままの一生しか見えないというような、ピラミッドの固定化が最大の問題のような気がします。

もっと、どんどんルーチンホワイトクラスやホワイトクラス[管理職員]、クリエィティブクラス[役員]の仕事ができるチャンス、登用のチャンスを広げていく。これは、企業[大学]にとってもプラスだと思うのです。チャンスを生かすことで、クリエィティブクラス[役員]の仕事ができる人材がどんどん輩出されていくようになれば、企業[大学]の競争力も高まっていくのです。

どよんとした空気を一層する為にも、「チャンスの平等」という事をもっと多くの会社[大学]が人事制度に取りいれていって欲しいものです。


*1:現在の国立大学の場合、役員の能力の高さと収入の高さは符合していません。つまり、経営者としての能力の割には人件費の配分が多いと思われ、したがって、経営者としての市場価値はほとんど期待されていませんので、頭脳流出の恐れを心配する状況にはないと思われます。

*2:現在の国立大学の場合、法人化後の経営に対応した管理職員の能力は全体として低水準にあるとされています。また、管理職員間の能力格差は拡大しており、適切な人事考課に基づいた報酬面におけるインセンティブの付与が必要になってきていると思われます。

2008年6月14日土曜日

大学経営改革の動向

大学は激動の時代を迎えていると言っても過言ではありません。大学は現在、経営改革に向けた懸命の努力を続けています。

特に、国立大学は、平成16年の法人化以降、国に依存する体質からの脱却を目指して、様々な自立的改革を進めています。独立行政法人国立大学財務・経営センターが配信しているメールマガジン(第25号、208.6.13)を通じ主な取り組みを見てみたいと思います。

特別寄稿「大学経営のプロへの途」

今回は、英国の研究重点大学で研究支援の要職にあるマイク・グリフィス氏に寄稿していただきました。同氏は会計の専門家として大学事務に入り、その後、システム関連分野にも専門を拡げていきました。

アンケートによると国立大学法人でも国際、会計、法律などの専門分野の人材が不足しており、外部人材のリクルートによって対応している大学も多いようです。今後は、新規採用に当たって、専門性の高い人材を一定程度確保する傾向も出てくるのでしょう。一方で、現に大学に奉職している職員も自分の足場になる専門性を身につけることが必要ではないでしょうか。特に若い職員の方々は、自分の専門を持つことによって、その後のキャリアが広がりを持つことにつながると思います。大学もそうした努力を奨励し、応援することが必要ではないでしょうか。

自分の専門性を活かしながら、新しい分野にも積極的にチャレンジしてやりがいのある職業人生を送ってきた大学事務系職員のエッセイをぜひお読みください。

http://cz.biglobe.ne.jp/cl/W0399/1/2201000109/1156186


(抜粋)

自分自身のキャリアを振り返って見て、教訓めいたことはなんでしょうか? このエッセイを書きながら、様々なことが思い浮かんできます。最初に申し上げたいのは、ある分野で専門性を築くと言うことです。そして、その専門性をベースにして新しいことを学び、違う分野でも専門家になるのです。新しい分野に移ったからと言って、過去に修得したものが失われるわけではありません。過去に獲得した専門性が新しい展開を見せるだけです。私の場合も、コンピュータシステムの仕事から離れましたが、今度は、電子文書マネジメントシステムの開発で過去にものにした専門が活かされています。また、以前学んだ会計の知識がTRACや総経済コストに活かされています。自分は、新しい分野や経験にチャレンジするのを厭わない性格だと思っています。このことが、常に変わり続ける業務に対していつも新鮮な気持ちで向き合うことを可能にしてくれていると思います。

もう一つ、とても大切なことは、チームワークです。協働が生み出す知恵と力はどんな個人にも勝ります。人々の能力は多様です。個々人がどんな能力を持っているか認識し、チームを多様な能力の人材で構成することが大切です。しかし、チームがオープンにかつ十分なコミュニケーションをとっていないと、目標も共有できませんし、チームとしての力も発揮できません。

大学でのキャリアを成功に導くためには、教員との間に良い関係を築かなければなりません。このことは、とても難しいことではあります。教員の中には、事務系職員から指示を受けるのを嫌う人もいますし、はなから事務系職員が役に立つアイデアを持っているはずがないと思っている者もいるのです。とにかく、会って話すことが大事です。とかくメールに頼りがちになる昨今ですが、教員と良い関係を築くためには欠かせません。そして、事務系職員と教員は同等の立場で、大学に貢献するのに、ただ違う能力を持っているのだと言うことを肝に銘じておきましょう。

最後に、細部に注意するべき時と、大局を眺めるべき時を峻別することが大切だと思います。コンピュータシステムを例にとれば、その詳細設計に着目すべき時と、総合戦略の観点からシステムを評価すべき時があるのです。また、卑近な例ですが、よく大勢の人が出席する会議で少額の予算を執行すべきかどうか議論になることがあります。だけど、よく考えてみると、その人たちの会議時間分の給料だけで、十分その予算額に達していたりします。皆さんも同じ経験がおありでしょ。


財産管理・施設整備に関する情報

平成20年5月14日(水)、15日(木)の両日、英米大学及び国立大学における施設整備をテーマとして「平成20年度国立大学法人等の財産管理に関する研究協議会(第1回)」を開催しました。本研究協議会の資料を当センターホームページに掲載いたしましたのでご活用下さい。

(資料1)英国大学の施設マネジメントへの取り組み
(資料2)英国大学における施設整備の現状-シェフィールド大学の事例-
(資料3)アメリカ州立大学における管理と経営
(資料4)米国州立大学における施設整備予算獲得に向けた取り組み
(資料5)国立大学における施設整備の現状と課題
(資料6)千葉大学における新たな施設整備手法 施設・環境マネジメント
(資料7)国立大学の施設整備の現状
(資料8)名古屋大学の施設整備の現状と課題
(資料9)国立大学等の施設整備について
(資料10)国立大学の施設整備を進めるには

http://cz.biglobe.ne.jp/cl/W0399/2/2201000109/1156186


国立大学訪問調査による「取組事例」

▼山形大学
  • 組織評価システムの構築と学内予算の傾斜配分
  • 効率的運営体制確立のために、「YUユニット制」を導入
http://cz.biglobe.ne.jp/cl/W0399/4/2201000109/1156186


▼群馬大学
  • タイトル講義用スライド、プレゼン資料等の作成を担当する、写真技術とカラーコーディネート資格を有する者を常勤技術職員として採用
  • 科研費応募を行わなかった研究者の研究費の取扱
  • 学外専門家(金融機関)を常勤の財務調査役として採用し、財務経営状況の調査・分析、資産運用等の提案、事務職員の財務上の指導・育成
http://cz.biglobe.ne.jp/cl/W0399/5/2201000109/1156186


▼埼玉大学
  • 教職員の一般健康診断の外注化
  • 年末調整業務の外注化
http://cz.biglobe.ne.jp/cl/W0399/6/2201000109/1156186


▼新潟大学
  • 学内融資制度「大型設備等特別整備制度」
  • 評価に基づくインセンティブ経費の配分
  • 事務の外注化実施計画
http://cz.biglobe.ne.jp/cl/W0399/7/2201000109/1156186


▼徳島大学
  • 広報誌に企業等の広告を掲載することにより印刷経費を削減
  • 産学連携部門の人材育成・強化を図るため、県商工労働部と人事交流を実施
http://cz.biglobe.ne.jp/cl/W0399/8/2201000109/1156186


▼香川大学
  • 「科学研究費補助金申請アドバイザー制度」及び「科学研究費補助金計画調書閲覧制度」を導入し、科学研究費補助金の獲得額が増額
http://cz.biglobe.ne.jp/cl/W0399/9/2201000109/1156186


▼熊本大学
  • 学内版アウトソーシングの部署として、非常勤職員及び再雇用職員で構成する「事務支援センター」を設置し、定型的・季節的業務を集中処理
http://cz.biglobe.ne.jp/cl/W0399/10/2201000109/1156186


▼全体版(国立大学法人取組事例 Vol.2)
http://cz.biglobe.ne.jp/cl/W0399/11/2201000109/1156186


▼全体版(国立大学法人取組事例 Vol.1)
http://cz.biglobe.ne.jp/cl/W0399/30/2201000109/1156186


国立大学附属病院訪問調査による「取組事例」

▼北海道大学病院
  • 収入構造の改善
http://cz.biglobe.ne.jp/cl/W0399/12/2201000109/1156186


▼旭川医科大学病院
  • アメニティー及び患者サービスの向上
  • ファミリーハウス
  • アジア・ブロードバンド計画の推進
http://cz.biglobe.ne.jp/cl/W0399/13/2201000109/1156186


▼山形大学医学部附属病院
  • 診療活動の指針づくり
http://cz.biglobe.ne.jp/cl/W0399/14/2201000109/1156186


▼群馬大学医学部附属病院
  • 国立大学病院管理会計システム(HOMAS)の活用
http://cz.biglobe.ne.jp/cl/W0399/15/2201000109/1156186


▼東京大学医学部附属病院
  • 入札の簡素化
http://cz.biglobe.ne.jp/cl/W0399/16/2201000109/1156186


▼新潟大学医歯学総合病院
  • 病床稼働率の向上等
http://cz.biglobe.ne.jp/cl/W0399/17/2201000109/1156186


▼浜松医科大学医学部附属病院
  • 医師不足状況に対する対策
http://cz.biglobe.ne.jp/cl/W0399/18/2201000109/1156186


▼京都大学医学部附属病院
  • 全人的・集学的ながん治療を行うための取り組み
http://cz.biglobe.ne.jp/cl/W0399/19/2201000109/1156186


▼島根大学医学部附属病院
  • 第三者評価機関による「働きやすい病院」の機能評価の認証
  • プライバシーマーク(JISQ 15001)の取得
http://cz.biglobe.ne.jp/cl/W0399/20/2201000109/1156186


▼広島大学病院
  • 医員、医療技術職員、医事業務従事者の処遇改善
http://cz.biglobe.ne.jp/cl/W0399/21/2201000109/1156186


▼愛媛大学医学部附属病院
  • モチベーション向上のための改革
http://cz.biglobe.ne.jp/cl/W0399/22/2201000109/1156186


▼高知大学医学部附属病院
  • 医療提供体制の整備状況(医療従事者の確保状況を含む)
http://cz.biglobe.ne.jp/cl/W0399/23/2201000109/1156186


▼九州大学病院
  • 患者さん及びご家族のQOL(Quality Of Life)向上推進
http://cz.biglobe.ne.jp/cl/W0399/24/2201000109/1156186


▼全体版(国立大学附属病院取組事例 Vol.1)
http://cz.biglobe.ne.jp/cl/W0399/25/2201000109/1156186


国立大学法人財務・経営に関する取組事例

▼平成18事業年度(財務経営支援研究会抽出事例)
http://cz.biglobe.ne.jp/cl/W0399/28/2201000109/1156186


▼平成17事業年度(財務経営支援研究会抽出事例)
 ⇒http://cz.biglobe.ne.jp/cl/W0399/29/2201000109/1156186


国立大学法人等財務管理等に関する協議会(実施報告)

平成20年5月21日、22日の両日、学術総合センターの一橋記念講堂において、国立大学法人等の財務部課長等245名の参加を得て、「国立大学法人等財務管理等に関する協議会」を開催しました。文部科学省からの説明者、大学からの事例発表者及び説明資料は次のとおりです。

(平成20年5月21日)

1 開会の挨拶(大臣官房審議官・高等教育局担当)

2 平成21年度概算要求に向けて(大臣官房会計課長)

3 国立大学法人等の施設整備について(大臣官房文教施設企画部計画課企画官)

4 科学研究費補助金の不正使用等の防止等について(研究振興局学術研究助成課企画室長)

5 平成21年度運営費交付金概算要求等について(高等教育局国立大学法人支援課長)

6 学術研究を取り巻く最近の動向について(研究振興局学術機関課長)

7 国立大学法人の評価について(高等教育局高等教育企画課国立大学法人評価委員会室長)

(平成20年5月22日)

1 国公私立大学を通じた大学教育改革の支援について(高等教育局大学振興課大学改革推進室長)

2 事例紹介1(群馬大学)

3 事例紹介2(熊本大学)

2008年6月10日火曜日

高等教育政策の動向

恒例になりました、文部科学省高等教育局が配信するメルマガ「高等教育政策情報」(第32号 2008.6.9)のうち主な記事をご紹介します。

このメルマガは、大学現場に身を置く者にとっては、高等教育に関する文部科学省の政策動向をリアルタイムに確認することができると同時に、「政策担当者の目」「編集後記」において、実際に政策に携わっておられる担当者の方々の率直な考えを伺い知ることができます。

今回掲載されている「誰がための数値目標か」では、教育振興基本計画への数値目標の設定に関わる財務省との闘いが、決して文部科学省の面目や保身のためにやっているものではないこと、我が国がこれまでお金をかけずに教育水準を保ってくることができたのは、教育関係者や国民の懸命な努力によるものであり、教育水準を更に高めようとするならば、もっとお金をかけなければならないこと、欧米先進国がより多くのお金をかけることにより有為な人材を多く養成し、その結果として国全体のパワーを高めようとしている中で、我が国がこのまま投資努力を怠れば大変な事態に至ることは確実であることなど、国民の利益を大義として、懸命に闘っておられる姿が目に浮かびます。

官僚バッシングが続く昨今ではありますが、国民、特に我が国の高等教育の発展のために是非がんばっていただきたいと思います。

■教育振興基本計画の策定に向けた状況について

-国立大学協会から要望提出-

教育振興基本計画については、中央教育審議会(会長:山崎正和LCA大学院大学長)の「教育振興基本計画について(答申)」(平成20年4月18日)を踏まえ、文部科学省で「教育振興基本計画」(案)を公表し、各省協議を開始した旨を高等教育政策情報第30号において、お知らせしたところです。本号では、その後の動きについてご紹介します。

6月2日(月)、国立大学協会の小宮山宏会長から渡海紀三朗文部科学大臣に「教育振興基本計画について」(要望)が提出されました。具体的には、“特に、世界最高水準の教育研究環境を実現し、政府内諸会議からの大学に対する具体的な提案を実施するため、明確な資金投入の目標額を教育振興基本計画に盛り込み、出来るだけ速やかに高等教育への公財政支出をGDP比0.5%からOECD平均の1.0%を上回る規模へ拡充すべき”という要望が出されました。

これに対し、渡海大臣からは、「我々も要求側で皆さんと同じ立場」とした上で、「国策として高等教育に投資を行う必要があり、基本計画では、教育投資について具体的な数値目標を盛り込めるよう折衝していく」「各大学もこれまでの単なる延長線上ということではなく、それぞれ特色あるものとなるよう努力してほしい」等の発言がありました。

また、6月3日(火)及び6月6日(金)の閣議後の大臣会見において、渡海大臣は、教育振興基本計画について、「現在、各省協議の最中ではあるが、できる限り近いうちに閣僚間の話し合いに入りたいと考えている」旨の発言がありました。


■財政制度等審議会の意見書(建議)について

-文部科学省の見解-

財務省の財政制度等審議会(財政審)における審議状況については、「高等教育政策情報」第30号にて紹介したところですが、当審議会はその後、6月3日(火)に「平成21年度予算編成の基本的考え方について」(建議)をとりまとめました。このうち、高等教育関係の主要部分について、第30号でご紹介した内容と重なる部分もありますが、審議会の意見に対する文部科学省の見解を説明いたします。

財政制度等審議会資料掲載ホームページ(平成21年度予算編成の基本的考え方について)
http://www.mof.go.jp/singikai/zaiseseido/siryou/zaiseia/zaiseia200603.htm

1 総 論

財政審意見
:国民の関心は教育による成果であって投入量ではない。また、成果目標が不明確であれば評価や検証ができず、投入量が目的化すれば現状肯定に陥って、教育の改善が望めない。したがって、教育政策の目標を「投入量」から「成果」へ転換することを強く求めたい。

文科省見解
:成果目標は重要だが、成果を実現するためには一定の条件整備が必要であり、そのための投入量目標も重要。

2 国立大学法人運営費交付金の配分方法の見直し等

財政審意見
:国立大学法人については、(略)各機能・分野別に再編・集約化を行い、国からの助成も集中と選択をより徹底する必要がある。平成22年度以降の第2期中期目標・計画期間における国立大学運営費交付金の配分ルールについては、(略)大学の成果や実績、競争原理に基づく配分が確実に行われるよう見直すべきである。

文科省見解
:次期中期目標・計画期間における運営費交付金の配分においては、第1期における努力と成果を評価し、資源配分に反映。その際、大学評価・学位授与機構が学部・研究科ごとに行う現状分析の評価値を使う方向で検討中。

3 私学助成の配分方法の見直し

財政審意見
:中教審委員の「社会からの負託に応えられない大学が淘汰されることは不可避」との意見は傾聴に値する。歳出削減を緩めることなく、経営の効率化や戦略の明確化に資するような配分を推進する必要。

文科省見解
:学校法人の自主的な努力による健全な経営の確保を促すことは必要。一方で、教育条件の維持向上、修学上の経済的負担の軽減、私立学校の経営の健全性の向上のため、私学助成を充実することが重要。なお、中教審委員の意見は、「淘汰」へ言及すると同時に、「大学教育の転換と革新」に向け、公財政支援の拡充を提唱するもの。

4 高等教育費における私費負担の議論

財政審意見
:我が国の高等教育を受けた人の割合は主要先進国の中で最も高い水準であるなど私費負担が教育機会の確保に大きな障害になっているとは言い難い。高等教育の私費負担の多寡については、税で賄うか授業料で賄うかという国民負担の在り方の選択に関わる問題、我が国の国民負担率が先進国の中で最低レベル、高等教育の便益のほとんどは学生個人に帰着するものであることを考え合わせれば、これだけを論じることは適切ではない。

文科省見解
:人口比で高等教育修了者の割合が高くても諸調査によれば進学希望者が実際に進学できているとは限らず、「機会均等が進んでいる」とは言えない。教育に対して、政府としてどの程度支出するかは、政府の政策選択として総合的に決められるべきもの。例えばアメリカはわが国よりも国民負担率が低いが、公財政支出は多い。教育の受益者は、本人だけではなく社会全体(「便益のほとんどは学生個人」との主張の根拠は不明)。学生や保護者が過度に費用負担している状況を踏まえ、教育の機会均等の観点から広く社会全体で負担する方向に転換していくべき。

5 奨学金事業の見直し

財政審意見
:奨学金事業については、「能力があるにもかかわらず、経済的理由によって修学が困難な者に対して、奨学の措置を講ずる」という教育基本法の目的から乖離しつつある有利子事業の、3%の金利上限等については、早急な見直しが必要。滞納は、大幅に増加しており、回収努力は十分とは言えない。

文科省見解
:経済的理由によって進学・修学を断念することのないよう、引き続き奨学金事業は必要であり、教育基本法の目的からは乖離していない。例えば、親の収入が平均700万円以上であっても、学生の生活費は、奨学金がなければ不足する状況。3%の金利上限は、学生の負担軽減のために重要な役割を果たしており、教育政策として必要不可欠。回収努力により貸付金残高に占める延滞債権額の割合は低下。返還金の回収は重要な課題と認識しており、民間委託も積極的に活用しつつ、法的措置を含めた回収強化に取り組む。


■教育振興基本計画に関する国会審議について

-教育投資の数値目標設定を求めて決議-

5月30日(金)の衆議院文部科学委員会は、教育振興基本計画を中心に取り上げて質疑が行われました。その中で主に教育投資に関するものの概要をご紹介します。

<数値目標設定に対する考えについて>

(問)小渕優子議員

教育振興基本計画案の中で、教育への公財政支出の対GDP比を、今後十年間を通じて、OECD諸国の平均である5%を上回る水準を目指すと盛りこまれています。今回、このような形で数値を明確に示したことは大変重要。文部科学省の今後の意気込みを感じますし、国民に対してもわかりやすく、教育再生を目指す大変強いメッセージが伝わると大いに評価するところ。目標値に関するお考えをお願いしたい。

(答)渡海文部科学大臣

日本の国力、GDPの源泉は何かと考えたとき、資源の無い我が国で唯一の資源は人間、人材。日本の社会の持続的発展のため、教育は最優先の政策課題。このため、私は、OECD平均というメルクマールは超えなければいけないと考えさせていただきました。

<数値目標について>

(問)冨田茂之議員

教育振興基本計画特別部会において、安西先生、郷先生、金子先生、木村先生の連名で「高等教育への投資を年間5兆円とすべき」との議論があったが、残念ながら答申には出てきませんでした。具体的な数値目標を基本計画に盛り込むべきではないでしょうか。

(答)渡海文部科学大臣

10年先の計画においては、(それぞれの分野の投入量などを)細かく決めるのではなく、大きな目標として対GDP比5.0%を投入目標として、中身は成果目標として書く。世界最高の高等教育を目指す。成果目標を予算の検証の中で、毎年PDCAサイクルでやっていくつもりです。

<教育費の公私負担割合について>

(問)和田隆司議員

現在の日本における教育費の公私負担割合の現状について大臣の見解をうかがいたい。

(答)渡海文部科学大臣

我が国の教育支出における公私負担割合について、義務教育段階において、私的な割合はほとんどないが、就学前、高等教育の段階は非常に私的な割合が高いと認識しています。高等教育は、公財政支出が41.2%に対し、私費負担が58.8%となっています。

<高等教育への公財政支出について>

(問)石井郁子議員

財務省は、我が国の高等教育支出は主要先進国並みだと言われている。私費負担の割合について日本はずば抜けて高い。高等教育の場合は顕著。財務省の示した数字でも、公費負担で、ドイツは、35.4%、フランスが30.9%、日本は17.4%。高等教育に対する財政支出は本当に少なく、対GDP比でOECD平均1%に対して日本は、0.5%で最下位です。高等教育への支出の少なさが奨学金問題を生み、学費で学生の負担が非常に重い問題があると認識しています。

(答)清水文部科学省高等教育局長

財務省が示した高等教育に係る学生一人当たりの教育支出を1人当たりGDPで割った指標において、我が国の高等教育支出は主要先進国並みという指摘があるというのは事実です。しかしながら、当該教育支出は公費及び私費の合計であり、公費負担部分については主要先進国で最低レベルです。また、合計についても米国の値を大きく下回っています。私たちも、高等教育支出が十分であるとは言えないと思っています。また、教育振興基本計画においては、世界最高水準の教育研究環境の実現を念頭に置きつつ公財政支出の拡充を図ることを盛り込む形で各省と協議を進めてまいりたい。

当委員会においては、以下のような教育振興基本計画について決議案が提出され、採択されました。

これを受けて、渡海文部科学大臣からは、「趣旨に十分留意して頑張っていく」旨の発言がありました。

<決 議>

教育基本法第17条に国会報告が義務付けられている教育振興基本計画に関する件

今般、政府においては、改正教育基本法に基づき、その教育環境整備を実現するため、今後の中長期的な教育政策の具体的な骨格となる教育振興基本計画の立案作業が進められているが、今必要とされているのは、何よりも教育現場における十分な財政基盤整備であり、教育の将来像を見据えた基本計画である以上、その具体的方策について明記することは必須の条件である。

ついては、政府は、教育振興基本計画の立案及びその実施に当たり、次の事項について明確にし、その実現に万全を期すべきである。
  1. 教育は、人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期して行わなければならないとする改正教育基本法に定められた教育の目的を踏まえ、その精神を十分に反映したものとすること。

  2. 教育投資について、欧米の教育先進国の公財政支出の平均的水準を目指した数値目標を設定し、その充実を図ること。特に税制抜本改革時にあっては、教育投資の充実に向けて最優先で取り組むこと。

  3. 教職員定数の改善について、教員が児童生徒と向き合う時間を確保するとともに、改訂学習指導要領の円滑な実施に向けて具体的な方策を明記すること。

  4. これら条件整備により実現されるべき教育の具体的成果について、わかりやすい目標設定を行い、その達成に向けた具体策を提示するとともに、国会への報告等その情報公開に努めること。

■政策担当者の目 「誰がための数値目標か」

教育振興基本計画の策定作業が難航している。6月9日時点で、まだ財務省から正式な意見すら出ていない状況にある。5月23日に各省協議を開始してから、財務省から何度も膨大な質問・再質問等が出され、これに対して、文科省から回答・再回答等を投げ返すという作業が続いている。こうしたペーパーのやり取りに終始し、両者にらみ合いのまま、まだ対面折衝にも入れていない。

中教審答申では、諸般の事情により、教育への公財政投資に関する数値目標の記述が入らなかったが、文科省が作成して現在、各省協議中の計画案では「今後10年間を通じて、OECD諸国の平均である5.0%を上回る水準を目指す」との表現で、明確な数値目標を記述しているところである。

答申の段階に無かった数値目標について、計画案の段階で新たに掲げて財政当局と闘う姿勢を示した以上、文科省としては、閣議決定される基本計画に何らかの数値目標を明記すべく、万難を排して取り組まなければならない。

もしも数値目標の明記を途中で放棄するような事態になれば、教育関係者のみならず、広く国民からも「文科省なんか要らない」と言われて、見放されてしまうだろう。

ただし、この闘いは、決して文科省の面目や保身のためにやっているものではない。予算獲得という省益で文科省が動いているかのような批判は、視野が狭く間違った見解である。そもそも我が国は、あまりお金をかけずに、教育関係者、国民の懸命な努力によって、それなりの教育水準を保ってきた。

この上教育水準を更に高めようとするならば、もっとお金をかけない限り難しい。欧米先進国がより多くのお金をかけることで有為な人材を多く養成し、その結果として国全体のパワーを高めようとしている中で、我が国がこのまま投資努力を怠れば大変な事態に至ることは確実である。我々の憂慮の真因、闘いの大義はそこにある。皆さまの応援を心より期待している。


■編集後記

最近の財務省の財政制度等審議会の報告書では、「体質改善」という言葉がしばしば登場します。教育の質を高めるためには、予算等の資源の「投入」ではなく、学校経営の改革、PDCAサイクルの構築などの「体質改善」が必要であるとの由。文脈からすれば、あたかも「体質改善」には資源「投入」が不要であるかのような主張ですが、果たしてそうなのでしょうか。

最近、高等教育関係の学会などでは、IR(インスティチューショナル・リサーチ)という言葉が頻出します。これは、自己点検・評価に関わる様々なデータを調査分析し、経営に役立つ有用な情報を提供する活動です。米国の大学では、IRを担う専門的な部署・人材が普及・発達しているとのことですが、当然、その整備・運用にも相応のコストが生じます。我が国の多くの大学の人的体制の現状を鑑みれば、高嶺の花。経営改革やPDCAサイクルも、ただでは実現できません。

そもそも 「体質改善」は、重篤な状態には使わない用語。現下の教育課題について、薬の「投入」が必要な病状と見るのか否か。平成17年の中教審答申「我が国の高等教育の将来像」は、「高等教育の危機は社会の危機」と警鐘を鳴らしています。ここにも財政審との認識のギャップがあるのかもしれません。

2008年6月5日木曜日

国立大学の目指すべき方向

このたび、国立大学協会は、「国立大学の目指すべき方向-自主行動の指針-」(以下「指針」)を策定しました。

まだ、社会に公表されている段階のものではないようですが、教育振興基本計画の閣議決定を目前にした政府内での攻防が山場を迎えている今こそ、国立大学の存在価値と将来の展望について、国民の皆様の理解を得る必要があるのではないかと考え、今日は指針の概要をご紹介したいと思います。

指針には「提案の趣旨」として次のような記述があります。
  • 指針を提案することにしたのは、各国立大学が第2期の中期目標・中期計画を策定するに当たり、あらためて国立大学としての使命と役割を確認すると同時に、各大学がそれぞれの特徴を生かし、個性的で存在感のある大学として発展するための基本的な方向を示すことに意義があると考えたからである。
  • 指針は、大学の個性化・機能分化が大きな流れであることに鑑み、国立大学セクターとして求められている共通の役割に加え、各国立大学が、自らの将来を展望し、自主的な行動計画を策定するための基本的な方向性を「指針」という形で示すことにしたものである。

また、指針には、このたびの財務省と文部科学省の「対GDP比の議論」に触れる形で次のような主張が記述されています。

国立大学を取り囲む環境は大変厳しく、特に国の財政事情は逼迫の度を深めている。しかし、そのことを最大の理由に挙げ、高等教育費に対する政府支出のGDP比が先進諸国で最低水準であることを合理化することは、それこそ高等教育の国際的通用性を財政基盤から危うくすることに繋がる。このことの理不尽さを国民各層が実感を持って理解するためには、大学、とりわけ国立大学が21世紀を切り開く高等教育機関としての信頼性を確立することが何よりも重要である。

「指針」は、直接的には、国立大学の自主行動計画策定のためのガイドラインであるが、同時に、国民各層の期待に応えるための国立大学の「行動宣言」でもある。各大学において真剣な議論と責任ある行動が展開されることを願っている。

それでは本文(概要)をご紹介します。
現在、各国立大学は、平成22年度から始まる第2期中期目標期間(6年間)における事業計画である中期計画の策定に向けた準備に余念がありません。計画を策定するためには、各大学の理念に基づく個性の発揮などを核とした経営戦略の策定が必要です。今回の「指針」は、まさしくその経営戦略策定のベースとなることでしょう。


■概要前文

希望を持って迎えたはずの21世紀に待っていたのは、グローバルにも国内的にも様々な難問を抱え、混沌とした社会であった。
あらゆる面で改革が必要とされ、教育もその再生が叫ばれている。
世紀の変わり目とともに法人化され、高等教育の重要な一翼を担う国立大学に対して社会が求めている「公共性」とは?
それに応えるべく国立大学の目指すべき方向性は?
これは21世紀の社会に向かって、まなじりを決した国立大学の「行動宣言」である。


■国立大学の果たしてきた役割と課題

大学は近代国家の形成過程において、人類が作り上げてきた知識体系を押し広げ、それを普及させることで社会的な富の源泉とし、社会進歩の原動力としてきた。このことから大学は公共性を担うものと位置づけられて、その発展に国家が大きな役割を果たしてきたのである。

20世紀後半になり、国民経済が成長し、大学進学者が増加すると、大学の公的性格だけでなく、個人が得る利益に注目が集まるようになった。欧米とは異なり、日本の高等教育は私立大学のシェアが80%近いという、世界でも稀な構造を持っており、私立大学も公教育機関であるため、国立大学の持つ公共性とは何かが問われるようになってきた。

戦後の高等教育の歴史を紐解けば明らかなように、第一次ベビー・ブーマーに対応した1960年代と第二次ベビー・ブーマーに対応した1990年代の大学の大衆化は、いずれも規制緩和と私学セクターの市場的行動に依存した。

その結果、大学は進学需要を満たすのに貢献したが、少子化の進行ともあいまって入試は選抜機能を失い学習意欲や基礎学力を十分備えていない学生が入学することになり、大学教育の質保証と説明が要求される時代に、大きな問題を投げかけている。大学の安易な市場化は、戦後日本の高等教育の発展を歪めてきたのである。

また、知識基盤社会への移行が一般化し、諸外国では政府が高等教育に対する財政投入を拡大するなど積極的な政策を進めているが、我が国においては、高等教育の公共性を担ってきた国立大学の役割を正当に位置づけない議論が見られ、経費削減の対象とみるような風潮もあるのは驚くべきことである。

もちろん、高等教育全体のバランスある発展にとって、設置形態の区別を越えて政府が財源提供を行うことは重要であり、一層の拡大が必要である。OECD諸国は90年代後半から高等教育に対する公財政の投入を拡大しているが、我が国のそれはほとんど増加せず、学生一人当たり高等教育費は急落した。我が国の高等教育の質と競争力を低下させるものとして深刻に考えなければならない。

特に、国立大学は、政府資金によって維持されることで、消費者の家計にのみ依存せず、先端的・創造的な基礎・応用・開発研究の推進、数量とも充実した教員による学士課程・大学院教育の実施、地域・産業との連携などを一体的に行い、我が国の高等教育システムにおいて、基幹的な役割を果たしてきた。

国立大学は、政府が政策的に設置して全国的視野での人材養成を行っている。また、科学技術を現実に支える人材は大学院修了者であるが、理工系修士の7割、博士の8割は国立大学が育成している。さらに各種の国際協力・連携を通じて、我が国が国際社会に貢献するのに寄与してきた。我が国の高等教育の質の維持、地域社会・国家社会の発展は、国立大学の強化発展なしにはありえない。

しかし、法人化により一般財源化された国立大学への運営費交付金が、国の歳出改革の対象となり、この運営費交付金を含めた高等教育への公財政投資の総額も毎年度削減されてきている。高度に少子高齢化が進展する我が国において、現在レベルのGDPを維持するには、高等教育による一層の高度職業人の養成や学術基盤研究の展開が不可欠である。成果の見えにくい人材養成や基盤研究を担っていくため、高等教育への公財政投資の増額が強く望まれている。

確かに近年、特別教育研究経費のような特定財源は増加し、科学研究費補助金をはじめとする競争的資金も増え、間接経費も措置されるようになった。しかし、一般財源である運営費交付金が効率化係数により毎年度削減され、基盤的な教育研究経費相当分は縮小して、硬直性を増し、全体としてみると国立大学の公的財源は減少し、特に地方の小規模な国立大学は極めて厳しい環境に置かれている。国立大学が前述のような役割を果たすためには、そのすべての活動の基盤として必要な財源が保障されるべきである。

他方、国立大学は、長らく国の文教施設であり、予算、定員、組織等などは独立して意思決定することができず、政府に依存する行動様式を醸成し、このことが「護送船団方式」と呼ばれる批判を生んできた。国立大学法人制度によって国立大学は自律性と責任が拡大し、各種の改革に取り組んできたが、まだ十分とはいえないことは率直に認めなければならない。

厳しい財政状況の下で、社会保障など国民生活を支える予算が緊迫している中、国立大学に公的財源が投入されていることの重みを受け止め、産業・経済、教育、科学技術、文化・芸術と地域住民の生活・福祉などあらゆる社会からの付託にこたえ、国立大学の使命と役割を再確認し、今後のあるべき姿を共通理解とするために以下の指針を策定するものである。


指針1 公共的性格の再確認と社会への貢献の明確化

高等教育は、学術研究、教育及び地域貢献を通じて、我が国及び人類社会の持続的発展に貢献する公共的な役割を持ち、政府が国立大学を設置・維持するのは、この公共性に由来している。国立大学の法人化は、大学が附属機関として政府の指示によるのではなく、自らの判断と責任において、直接国民全体の期待と負託に応える責務を課したものであり、公共的な役割を放棄して財政的利益を追求するためのものではない。

高等教育のこの使命を果たすために、国立大学は、次の点を確認し、努力する。

1 社会全体に貢献する公共的存在であることを明確にする

(1)高等教育機関の均衡ある地域配置とその要としての役割を堅持する
(2)将来世代に対する投資としての役割を強化する
(3)国際交流拠点として発展させる

2 高等教育の機会の保障や地域社会への貢献など公共的価値を実現する

(1)地域社会の文化拠点として位置づける
(2)平等な教育機会の実現を担う
(3)質的充実を伴った真のユニバーサル・アクセスの実現を目指す

3 教育システム全体の均衡ある発展に寄与する

(1)大学教育の質を保証するナショナル・スタンダードの役割を果たす
(2)地域連携の基幹としての役割を強化する
(3)高等教育全体の発展に貢献する


指針2 特色を活かした存在感のある個性的な大学の創生

我が国では、平成10年の大学審議会答申「21世紀の大学像と今後の改革方針について」以来、大学の個性化が叫ばれて久しい。公立や私立を含めれば1000近い大学が存在し、これらの大学・短期大学への進学率は今や50%を超え、高等教育はマス化の時代を通り越しユニバーサル化の時代にある。このような中、他の高等教育機関との差も不明瞭になり、個々の大学の個性の明確化が望まれている。一方、国際的に見れば、環境問題などのグローバルな社会問題の解決に向け、国際社会の協調的な取り組みが進められると同時に国家の競争力の源泉として、高等教育機関の国際的な競争が激化している。

1 各大学の多様な特色を活かした使命・目的を明確にする

(1)歴史・分野・規模を活かした使命・目的を再確認する
(2)特色に立脚した長期構想を制定する
(3)長期構想に基づく中期目標・中期計画を策定する

2 個性的な大学の実現に向けた改革・改善を継続する

(1)個性的な大学の実現に向けた活動を継続する
(2)教職員の意識改革を図る
(3)存在感の向上に向けた戦略を展開する

3 設置形態にとらわれない大学間の協力と連携・連合を推進する

(1)都道府県を越えて
(2)設置形態や法人形態の枠を越えて


指針3 質の高い大学育の提供と学位の信頼性の確立

質の高い大学教育は、基礎学力と知的好奇心のある学生に対して、研究能力が高く教育力にも優れた人間性豊かな教員が、適切なカリキュラム編成に基づく魅力的な授業を展開することによって可能になる。しかし、すべての条件が常に満たされるとは限らない。

大学全入時代の到来を控え、改めて大学は、自らの教育活動によって、教育の質の保証と学位の信頼性を確立することの必要性に迫られている。中央教育審議会大学分科会は、大学卒業までに学生が最低限身につけておかなければならない能力を「学士力」と定義し、知識・技能・態度・創造的思考力の4分野13項目を示し、あわせて、卒業認定試験の実施などを提案している。このような中にあって、国立大学には、常に一定水準以上の教育成果を確実に保証できる大学セクターとして機能することが強く求められている。

1 優れた研究活動を基礎とした教育内容を提供する

(1)教育力・研究力に優れた教員を確保する
(2)知的共同体としての意識を高揚できる教育を展開する
(3)グローバル化時代に活躍できる人材養成を目指す

2 学ぶことの意味と価値を実感できる教育内容を提供する

(1)進路意識に応じた多様な教育プログラムを整備する
(2)学生の動機づけを高める教育方法を開発する
(3)学生の進路保障につながる教育活動を展開する

3 国際的通用性のある教育システムを構築する

(1)教育目標を実現するのに相応しい教育組織を編成する
(2)基礎学力と学習意欲のある学生を受け入れる
(3)国際的通用性のあるカリキュラムを編成する

4 学位の質を保証する適切な評価システムを確立する

(1)単位制度の実質化を図る
(2)学習成果を測る適切な評価方法を確立する
(3)学士・修士・博士の各学位の期待値を明確にする
(4)学位審査の公正さ・透明性・妥当性を高める


指針4 ナショナルセンター・リージョナルセンター機能の充実

国際的な流動性の高まりと切磋琢磨の環境が進む中でも、国が設置者たる国立大学法人全体としての役割に変動がある訳ではない。国立大学の普遍的な役割として、世界レベルの競争に打ち勝つ「ナショナルセンター」としての役割と、地域の活性化に貢献する「リージョナルセンター」としての役割の二つがある。これまでも、国立大学は卓越した研究とそれを反映した教育により世界に伍する一方、地域を支える高度な専門職人材を育成する中核となると同時に、地域の知の拠点となってきた。これらの役割により、国立大学が我が国の高等教育を牽弓してきたとも言える。

しかし、すべての国立大学がこの二つの役割を完壁に備えることは必須ではない。各大学の機能分化と同じく、それぞれの大学において歴史的な背景や地域社会の状況などにも依存し、高い比重を占める役割には差があって当然である。また、大学全体がこれらの役割を担う必要もない。大学の中の特色ある分野が、一方の役割を担うこともありえる。これもまた、各大学の個性と考えられる。

今後も、国立大学法人全体としての使命は、まさにこれらの役割をより高度なレベルにおいて実現していくことにある。各国立大学では、自らの特色を生かし個性的で魅力ある大学であるためにも、各大学が自ら選択した機能の充実を図ることに努力し続けねばならない。

1 基礎的・基盤的研究活動の一層の活性化を推進する
2 全人類的課題解決に向けたプロジェクト研究を推進する
3 医療と人材養成などを通じて地域社会に貢献する
4 地域社会の活性化につながる知的・文化的拠点機能を充実する


指針5 大学の活性化を目指したマネジメント改革

大学が法人格をもつということは、大学が自律的な経営体として機能することであり、大学の諸活動についての権限と責任を明確にするということである。とりわけ、管理運営の最終責任を担う学長の職責は重く、教職員の代表であると同時に、経営トップとしてのリーダーシップ機能が強く求められる。個性豊かな存在感のある大学として発展するためには、的確な現状認識の上で目指すべき方向を明確に定め、構成員が一致協力して目標実現に向けた努力を重ねるとともに、活動の結果を適切に評価し、それを改革・改善に繋げるPDCA(Plan-Do-Check-Action)を活かした創造的マネジメントが期待されている。

1 自主性と自己責任を基軸とした戦略的経営を行う

(1)戦略的経営目標と整合性のある中期目標・中期計画を立てる
(2)目標の実現につながるよう諸資源の効果的な投入を行う
(3)自主性・自律性を高める財政基盤の安定化を図る
(4)リスク管理システムを構築し大学の社会的責任を果たす

2 大学の活性化につながる柔軟で効率的な大学運営を行う

(1)教育研究の活性化につながる管理運営を行う
(2)意思決定の迅速化、管理運営の効率化を図る
(3)創造的な大学経営を担う人材の養成を行う

3 大学の諸活動の透明性を高め説明責任を果たす

(1)開かれた大学として社会への積極的な情報発信に努める
(2)活動全般に対する適切な評価・改善システムを構築する
(3)社会規範に沿った学内ルールを定め構成員に周知徹底する


■財政基盤の安定化を図るための制度改革の必要性

大学の自主性・自律性を高め、思い切った経営戦略を展開するためにも、財政基盤の強化は何よりも重要である。基盤的経費の確保・増額について政府に強く求めると同時に、下のグラフ(略)からも明らかなように寄附文化が未だ定着していない我が国において、民間からの寄附等、大学への民間資金の流れを容易にするための税制改正など、諸制度の改革を引き続き求めていかなければならない。また、大学としても最大限の経営努力を行い、自主財源の確保・拡充を図る必要がある。

2008年6月4日水曜日

財政審は国民に夢を与える議論ができないのか

昨日(6月3日)、財政制度等審議会(以下「財政審」)は、「平成21年度予算編成の基本的考え方について」と題する建議を財務大臣に提出しました。(財政審の建議について取り扱うのは今回で2回目です。1回目:http://daisala.blogspot.jp/2007/11/blog-post_5702.html

財政審の建議は、例年、財務省の主張を忠実に反映した厳しい内容で埋め尽くされているわけですが、特に今回は、教育予算に関し、文部科学省とのいわゆる「対GDP比の議論」が目下山場を迎えていることも影響してか、財務省の反論が露骨に書き込まれています。見方によっては、財務省の省益優先の考え方を公の審議会をツールとして利用し国民に訴えているようにも見えなくはありませんし、今回の書きぶりは少々冷静さや品格に欠けたものではないかという気が個人的にはしています。

いつもながら不思議に思うのは、財政審は、各界の様々な立場の有識者で構成されており、我が国の将来発展の基盤となる健全な財政運営に関する議論を行う場であるはずなのですが、公表されている審議会の議事内容や今回のような建議からは、多様な意見や考えをうかがい知ることがなかなかできません。財務大臣の私的諮問機関という位置づけ、あるいは審議会委員の選定の仕方に要因があるのかもしれませんが、もう少し透明性のある運営を行うべきではないかと考えますし、財務省の役人が用意したシナリオどおりの議論だけではなく、国民の目線で議論をすることにも配意されてもいいのではないかと思います。


以下に、財政審建議に関する記事と、建議に書かれた高等教育関係の抜粋をご紹介します。

財政審、歳出削減路線の堅持を 09年度予算で建議 (2008年6月3日 共同通信)

財政制度等審議会(財務相の諮問機関)は3日、2009年度予算編成の基本的な考え方を示す建議(意見書)を額賀福志郎財務相に提出した。社会保障や教育など各分野で予算増の圧力が高まる中で、小泉政権以来の歳出削減路線の堅持を要請。高齢化で膨らむ医療や年金負担の財源として、消費税率引き上げを含む税制抜本改革の早期実現を訴えた。

建議は、国と地方を合わせた長期債務残高が08年度末には778兆円に達する見通しについて「金利上昇で利払い費が増加し、財政赤字が拡大する懸念がある」と危機感を表明。11年度までに基礎的財政収支を黒字化するだけでなく、債務残高を「経済の身の丈にあった範囲」に抑制すべきだとの考えを示した。

記者会見した西室泰三会長(東京証券取引所グループ会長)は「このままでは国の悲劇を招くのは確実だ」と述べた。

建議は、文部科学省が数値目標を掲げて教育予算の大幅拡充を求めていることを「意味がない」と厳しく批判、教員の増員や給与増額といった要求もはねつけた。


「平成21年度予算編成の基本的考え方」 (財政審建議 高等教育関係抜粋)

■文教予算について

(総論)

1 教育の体質改善の必要性

教育の質をより高める観点から、教育改革を行う必要があり、我が国の公教育の信頼確保のためには、
  • 校長等による学校経営の改善、教員の授業等への集中などによる教育資源の有効活用
  • 家庭や地域住民の参画による開かれた学校づくり
  • 政策の客観的な評価・検証によるPDCAサイクルの構築
といった教育の体質改善を行うことが重要である。

2 「投入量」目標から「成果」目標への転換

政策の遂行に当たっては、目標を明確に設定した上で、その成果(アウトカム)を客観的に検証し、新たな取組に反映させるPDCAサイクルの実践が不可欠である。しかしながら、教育分野においては、予算や教員数といった投入量により評価を行ったり、その拡充を目的化したりする傾向がみられる。
国民の関心は教育による成果であって投入量ではない。また、成果目標が不明確であれば評価や検証ができず、投入量が目的化すれば現状肯定に陥って、教育の改善が望めない。したがって、教育施策の目標を「投入量」から「成果」へ転換することを強く求めたい。

3 教育予算対GDP比の議論

教育振興基本計画の策定をめぐっては、我が国の教育予算対GDP比がOECD平均より低いことを理由に、OECD平均を目指して量的拡大を行う必要があるとの指摘がある。しかしながら、これは、まさに前述のように投入量の拡充を目的化するものである。また、教育予算対GDP比の多寡は、その国の児童・生徒・学生数や政府規模などによるところが大きく、その平均を目指すことに意味はない。
実際、我が国の児童・生徒・学生一人当たりの教育支出(予算・私費負担)のみならず教育予算は主要先進国と遜色ない。こうした中、我が国の教育予算対GDP比をOECD平均に引き上げることで、児童等一人当たり教育予算をOECD平均の1.4倍にしなければならないという合理的な理由は見出し難い。
しかも、政府規模を勘案すれば、我が国の教育予算は、主要先進国に比べ高い水準とも言える。

(高等教育予算)

1 国立大学法人運営費交付金の配分方法の見直し等

国立大学法人については、国際的に競争力のあるナショナルセンターを目指す大学から地域の教育等を担う大学まで、各機能・分野別に再編・集約化を行い、国からの助成も集中と選択をより徹底する必要がある。
平成20年度(2008年度)中に行われる中期目標期間の業務実績評価において、機関別評価だけではなく、各大学の学部・研究科ごとの水準と達成度の相対評価が明確になるよう厳格に実施・公表すべきである。
平成22年度(2010年度)以降の第2期中期目標・計画期間における国立大学運営費交付金の配分ルールについては、これらを念頭に、大学の成果や実績、競争原理に基づく配分が確実に行われるよう見直すべきである。
国立大学の授業料は、標準額の1.2倍を上限に、その範囲内で各大学が自ら設定することができ、増収分は自己財源として使用できることとなっているのにもかかわらず、全大学・学部で一律横並びの状況が続いている。各大学が目指す経営戦略に基づき提供する教育・研究内容の質に応じて設定するべきである。

2 私学助成の配分方法の見直し

中央教育審議会における大学関係者による提出資料において「社会からの負託に応えられない大学が淘汰されることは不可避」とした部分は傾聴に値する。学生数が減少を続け、定員割れが全体の4割に上っている私学においては、教育内容も含め戦略的な経営の在り方を早急に構築していくことが求められる。このため、歳出削減を緩めることなく、経営の効率化や戦略の明確化に資するような配分を推進する必要がある。

3 高等教育費における私費負担の議論

我が国の高等教育費にかかる私費負担については、その軽減が必要であると指摘されることがある。しかしながら、我が国の高等教育を受けた人の割合は主要先進国の中で最も高い水準であるなど私費負担が教育機会の確保に大きな障害となっているとは言い難い。そもそも高等教育費の私費負担の多寡については、
  • これを税で賄うか授業料で賄うかという国民負担の在り方の選択に関わる問題であること。
  • 我が国の国民負担率が先進国の中で最低レベルであること。
  • 高等教育の便益のほとんどは学生個人に帰着するものであること。
を考え合わせれば、これだけを論じることは適切ではない。

4 奨学金事業の見直し

奨学金事業については、「11月建議」において指摘したとおり、「能力があるにもかかわらず、経済的理由によって修学が困難な者に対して、奨学の措置を講ずる」という教育基本法の目的から乖離しつつあり、その在り方をよく考える必要がある。
特に、有利子事業で、3%の金利上限を付していること等については、今後の金利上昇に伴い、他の高等教育予算を大きく圧迫する可能性があることから、早急な見直しが必要である。
滞納については、貸与人員の拡充もあり、大幅に増加し平成18年度(2006年度)末で2,000億円(3か月以上の滞納額)を超える水準(要返還債権に占める割合7.3%)となっている。しかしながら、回収努力は十分なものとは言えない。日本学生支援機構に対しては、迅速かつ的確な現状把握と、責任を持って厳格な回収に当たるよう厳しく求めたい。その際、同機構においては、「11月建議」でも指摘している法的措置の強化、民間委託の推進、機関保証の健全な運用のほか、学生の教育にあたった大学の関与や学生が就職した企業の協力を求める手法も検討すべきである。

(今後の教育予算の在り方について)

「基本方針2006」における教育予算の方針は、一律・機械的に配分している機関補助を削減し、より政策効果の期待できる競争的なメカニズムに移行させていくとともに、教育の質を高め、教育の再生に資する取組に対応しようとするものである。
こうした方針を堅持し、「基本方針2006」に則った教職員人件費、国立大学法人運営費交付金、私学助成のスリム化と配分方法の大胆な見直しによってメリハリ付けを一層強化していく必要がある。

■科学技術予算について

科学技術予算については、これまで一貫して伸び続けており、科学技術振興費は過去20年間で3倍以上に増加している。しかし、財政事情が一層厳しさを増す一方、国家基幹技術等の大規模なプロジェクトの運営費が今後も財源の多くを消費する中、新たな公的投資の量的な増大にはおのずから限度がある。
こうした状況にかんがみれば、新規の大規模事業の抑制やスクラップアンドビルドが不可欠である。また、民間を含めれば対GDP比で主要国随一の規模にある我が国の既存の研究開発投資を最大限に有効活用し、国民が期待する成果を実現するため、以下に述べるような研究開発システムの改革を進めていく必要がある。
まず、研究開発の要である研究人材について、任期制の拡大や、若手の積極的な登用等を通じて流動性・競争性を高め、その質の向上を図るべきである。
また、大学においては、米国や英国の大学のように、民間や非営利団体からの研究資金の導入や自己収入増大の努力を一層推進すべきである。
さらに、研究資金を効率的に活用するため、実効性ある不正対策や、繰越制度の適切な活用といった実務的な取組も重要である。
そして、研究開発の成果(アウトカム)に係る政策評価の充実や、総合科学技術会議における優先度判定の更なる厳格化により、予算配分のメリハリ付けを一層強化していくことが求められる。

建議本文
http://www.mof.go.jp/singikai/zaiseseido/siryou/zaiseia/zaiseia200603/zaiseia200603_00.pdf

先日参加したシンポジウム*1に、パネリストとして出席されていた文部科学担当の財務省主計局主計官は、「我が国の国と地方を合わせた長期債務残高(借金)が約800兆円もある中で、教育予算をこれ以上増やすということが果たして許されるのか。将来を担う子ども達に多額の借金を残すことを考えると涙の出る思いである」と饒舌な演説を行われました。

確かに800兆円という借金は、今後この国の財政運営の健全性を取り戻すためには、必ず減らしていかなければなりません。しかし、800兆円という多額の借金を作り続けてきた、作ることを許してきた責任官庁はそもそもどこなのでしょうか。そしてその責任ある財務省の予算作成責任者が、「借金返済のためには、この国の将来を支える人材を育てるための予算の確保は必要ない」と、堂々と言ってのける姿、その無責任さには正直言って愕然といたしました。

この国が生きていくための財政需要は多様かつ膨大であり、財務省の方々が、その財源の確保をどうするかという極めて難しい課題に直面していることは、国民一人ひとりが十分に理解しなければならないことだと思います。しかし、我が国の財政運営を担う政策担当責任者の一人であるならば、「多くの借金があるのだから、こぞって我慢するのが当然だ」ではなく、「多くの借金があり厳しい財政状況ではあるけれども、今我が国が置かれた内外の状況に照らせば、このような財政出動のプライオリティがあり、そのためには、こういった工夫や改善が考えられる」といったわかりやすい具体的な政策提言を国民の前に示すべきではないかと思います。

最後に、財務省の意向に沿った財政審の運営が行われている現状を前提として申し上げるならば、財政審の建議は、例年、現状批判・非難に終始しているような気がします。もう少し国民が将来に向かって夢を抱くことのできるような議論とその結果である建議であってほしいと心から願っています。


*1:「経済社会の将来展望を踏まえた大学のあり方」:http://daisala.blogspot.jp/2008/05/blog-post_30.html

2008年6月3日火曜日

高等教育政策の動向

前回に続き、文部科学省高等教育局が配信しているメルマガ「高等教育政策情報」(第31号 2008年6月2日)の主な記事をご紹介します。


中央教育審議会の審議状況について

(1)大学分科会留学生特別委員会(第4回~第7回)について

-「『留学生30万人計画』の骨子」取りまとめの考え方に基づく具体的方策の検討-

4月14日、4月25日、5月12日及び5月19日に、大学分科会留学生特別委員会(座長:木村孟大学評価・学位授与機構長)の第4回、第5回、第6回及び第7回会議が開催されました。
各委員会では、「『留学生30万人計画』の骨子」取りまとめの考え方が示され、これに基づく具体的方策の検討事項について、議論がなされました。
取りまとめの考え方においては、以下のような項目で構成されています。
  1. 留学生30万人計画の意義と期間
  2. 優れた資質を有する留学生を戦略的に獲得
  3. 留学生を引き付けるような魅力ある大学づくりと受入れ体制
  4. 留学生にとって魅力ある社会-日本の社会のグローバル化-
  5. 関係省庁・関係機関等の連携による有機的、総合的な推進
  6. 日本人の海外留学
委員会においては、主に以下のような意見が出されました。
  • 留学生の獲得戦略を立てる場合は、それぞれの地域や国の相違や事情等も勘案して、対策、戦略を立てる必要があること。
  • 戦略的に留学生を受け入れるために、労働政策や外交政策との連携が重要であること。
  • 留学生30万人計画を推進するにあたり、多くの留学生を受け入れつつ、優秀な留学生を獲得するためには、大学等が留学生を引きつけるような魅力を持つことが必要であること。
  • 日本の大学のグローバル化のために、1)大学側の組織的な受入体制の整備、2)各大学の取組をさらに組織的に支援していく施策について考慮すること。
(2)大学分科会(第68回)について

-制度・教育部会、留学生特別委員会等の審議状況について意見交換-

5月20日に中央教育審議会第68回大学分科会(分科会長:安西祐一郎慶應義塾長)が開催されました。
当分科会における教育振興基本計画に関する審議については、第29号で紹介したところです。この他、制度・教育部会、留学生特別委員会等の審議状況について報告・意見交換を行いました。
制度・教育部会(部会長:郷通子お茶の水女子大学長)は、学士課程教育の在り方について審議を深めており、次回の大学分科会では、「学士課程教育の構築に向けて」(答申案)の審議を行う予定です。
また、留学生特別委員会(座長:木村孟大学評価・学位授与機構長)の審議状況については、上記1に前述したとおりであり、大学分科会においては、「学士課程、大学院の質の向上を図ることが必要」、「大学院における支援の必要性」等について意見が出されました。
留学生特別委員会の議論は、適宜、大学分科会に報告される予定です。

(3)大学分科会制度・教育部会委員懇談会について

-大学教育の質保証についてヒアリング-

高大の接続の改善に関する提案について考えてみたい。
中央教育審議会の大学分科会制度・教育部会が「学士課程教育の構築に向けて」(審議のまとめ)の中で「高大接続テスト(仮称)」を提案している。
中教審では、「教育振興基本計画について」に関する答申の中でも、「高等学校段階の学習成果を客観的に把握し、高等学校の指導改善や大学入試などにも幅広く活用できる方法について、中央教育審議会の審議を踏まえ、高大関係者が十分に協議・研究するように促す」とされている。
今回の提案は、高校生の学習成果の評価について、大学入試に制約されず、高等学校側が主導権を握ってより適正なものへと変えていく好機ではないだろうか。
一昨年の必履修科目未履修問題の時に、多くの高等学校の校長先生から、高等学校の教育課程の運営がいかに大学入試に制約されているかという切実な訴えをお聞きした。
確かに、長らくの間、大学入試に関しては、進学希望者に比して大学の入学定員が下回り、いわば買い手市場の時代が続いてきた。
しかし、いわゆる大学全入時代を迎えて、この構造は大きく変化しようとしている。このような状況の中、全体としてみれば、大学入試が高校生の学習や学力に与える影響も弱まろうとしているように見える。
もちろん、一部の有力大学への進学競争は相変わらず激しく、高等学校以下の教育に影響を与え続けているが、その当事者である有力大学自身も、国際競争のうねりの中で、入学試験の現状を本当にこれでよしとしているのかは大いに疑問である。小・中学校の学力調査においても、知識だけでなく、活用力を問う問題が出題される時代。いわんや高等教育においてをや、である。

今後の議論に向けて思うことを二点記してみたい。
第一は、評価に当たって、高等学校、大学の多様性をどのようにして尊重するかということである。多面的・多角的な評価をどう実現するか。学力検査型の評価だけでなく、複数の水準で評価ができる技能検定型の評価なども考えられるのではないだろうか。
第二は、活用力をどう評価するかということである。学習指導要領の改訂の議論でも指摘されたが、知識と考える力は車の両輪である。教育課程や授業だけでなく、その効果測定についても、知識の体系であると同時に能力の体系に基づくことが求められる。初中教育から高等教育にかけて、教育学やテスト理論の専門家の力を借りながら、活用力の体系化・構造化を進めていく必要があるのではないだろうか。

大学入試に過度に支配されたブラック・ボックスの評価から脱却し、高校生の学習の現状やあるべき方向、さらには大学教育のめざすべき方向を十分に踏まえた学習評価の体系を作ることができれば、学校段階の枠を超えて、生涯学習社会の基盤を作ることにもつながっていく。やはり、好機ではないだろうか。


編集後記

イギリスの実験で、大勢の人が回転ドアから出る際、1)譲り合って出る場合と2)ドアに殺到してでる場合のスピードを比較した実験がありました。
結果は、1)の譲り合って出る場合が早かったそうです。意外でしょうか?
通勤電車で血相を変えて我こそは先にとドアに殺到して乗ると実は個人にとってもタイムロスなのです。

競争が行き過ぎたり個人の利益を追求すると、個人も社会全体の益が失われることを示唆する結果だと思います。効率性についてもしかりと考えます。
先日の新聞では、”日本が急激な競争社会になったために、相談できる相手がおらず、常に強さが求められて家族にも相談できないため精神疾患を患う人が増えている”と掲載されていました。
性急な効率ばかりにとらわれていると、足下から揺らぎ国家全体が揺らぐことになるかもしれません。

東京大学の小宮山総長は、インタビュー記事で以下のように語っていました。
「教育は、一瞬にして崩壊するが、再構築には30~40年かかる」
昨今の教育行政には、すばやく、わかりやすく、少ない予算で確実な成果を出すことが年々強く求められており、なおさら難しさを感じます。

2008年6月2日月曜日

がんばれ 文部科学省!

まず、文科省高等教育局が配信しているメルマガ「高等教育政策情報」(2008.5.28 第30号)の主な記事をご紹介します。

教育振興基本計画をめぐる動きについて-文部科学省原案を公表-

このたび文部科学省において、「教育振興基本計画」の原案を策定し、5月23日(金)に公表の上、各省協議を開始しましたので、その内容についてお知らせします。(略)
文部科学省としては、各省協議を経て、できるだけすみやかに閣議決定することを目指しています。
なお、教育振興基本計画に関連し、5月26日の新聞では、大学分科会の安西委員(朝日新聞)、郷委員(日経新聞)が、それぞれ高等教育への投資拡大を訴えています。
安西委員は、インタビューに答えるかたちで、2月に4委員連名で発表した意見書「大学教育の転換と革新」の趣旨に触れつつ、「高等教育は危機にある」、「大学の自助努力と国の財政支援は車の両輪」等の主張をされています。
また、郷委員は、財務省の主張にも「大学の教育研究環境の現状を直視していない」と批判を加え、「教育の「成果」や質の卓越性を追求することは、「投入量」の在り方と不可分で、相反するものではない。大学教育の「成果」を直接的に把握・測定することが困難であればこそ、OECD統計や国際的な大学評価などでは、「投入量」の指標が多用されている。」とした上で、大学分科会において、学士課程教育に関する審議を通じ、教育の質を問う真剣な論議を行っていることを強調しています。


財務省財政制度等審議会の動向について-文部科学省の見解-

財政制度等審議会は国の予算、決算及び会計の制度に関する重要事項等について審議するため、財務省に置かれている審議機関です。毎年、春と秋に財務大臣に予算編成に関する意見を述べており、今年は5月19日に文教・科学技術関係について審議が行われました。
高等教育関係の主要部分について、審議会で示された資料とそれに対する文部科学省の見解を簡略にまとめました。

財政制度等審議会資料掲載ホームページ
http://www.mof.go.jp/singikai/zaiseseido/siryou/zaiseib200519.htm

総論

審議会資料:
教育振興基本計画では、「投入量」ではなく「成果」で目標設定すべき。
文科省見解:
成果目標は重要だが、成果を実現するためには一定の条件整備が必要であり、そのための投入量目標も重要。「投入量」と「成果」の適切な組み合わせが必要。

私費負担

審議会資料:
私費負担の多寡だけを論ずることは不適切。私費負担も公的負担も最終的には家計が負担するもの。
文科省見解:
教育の受益者は、本人だけではなく社会全体である。学生や保護者が過度に費用負担している状況を踏まえ、教育の機会均等の観点から広く社会全体で負担する方向に転換していくべき。

高等教育支出

審議会資料:
我が国の高等教育に係る教育支出※(42.1%)は英・独・仏(36%~41%)と同水準。したがって、教育条件に遜色があるわけではない。(※学生1人当たり教育支出/1人当たりGDP)
文科省見解:
公費負担部分は、先進主要諸国中最低レベル(OECD平均25.8%に対し17.4%(「小さい政府」である米国と比べても低い。))。世界最高水準の教育研究環境を実現する上でのベンチマークは米国であるが、キャッチアップを目指す上で、これ以上、家計に負担を強いるのは限界。

国立大学運営費交付金

審議会資料:
国立大学の授業料を私学並みにし、設置基準を超える教員費を削減することによってできた新たな財源を大学の教育研究の高度化等に投資すべき。
文科省見解:
国立大学の役割は経済状況に左右されない進学機会の提供。現在でも主要国と比較して私費負担割合が高いところ、更なる私費負担の増大は不適切。設置基準は最低基準であり、各大学の教育研究の多様化・高度化の維持向上には、基準以上の教員数が不可欠。基盤的経費の大幅な削減による競争的資金の拡充では、基礎的な学問分野が衰退するなど、教育水準・研究水準・国際競争力が低下する。

奨学金事業

審議会資料:
受給者の家庭の半数近く(44%)が年間収入700万円(40歳~59歳以上の世帯の平均収入)以上であり、1,000万円以上の高収入世帯でも奨学金の貸与を受けている状況。延滞債権が大幅に増加している。
文科省見解:
親の収入が高くても学生の生活費は奨学金がなければ不足する状況。貸付金残高に占める延滞債権額の割合は低下。(平成3年度:4.8%→平成18年度:4.4%)


教育再生懇談会第1次報告「これまでの審議のまとめ」について-「留学生30万人計画」の具体化などを要請-

政府の教育再生懇談会(座長・安西祐一郎慶応義塾塾長)は26日、「留学生30万人計画」に国家戦略として取り組むことなどを盛り込んだ第一次報告を福田康夫首相に提出しました。
第一次報告では、「留学生30万人計画」の具体化のほか、小中学生の携帯電話所持規制、英語教育の小学校3年生からの早期必修化などを求めています。
教育再生懇談会は、この第一次報告を6月に策定する「経済財政改革の基本方針2008」に反映させたい考えです。
また、更に検討を深める事項として、大学全入時代の教育の在り方、大学入試の在り方等が挙げられました。
「留学生30万人計画」の具体化に関する第一次報告のポイントは以下の通りです。

●国家戦略としての「留学生30万人計画」の策定と実現
  1. 国は、「留学生30万人計画」のグランドデザインを策定する
  2. 質の高い留学生を受け入れる先進的な重点大学を30形成し、重点的支援を行う
  3. 留学生の就職支援の充実-卒業者の5割の国内就職を目標とする-
●世界各国から優秀な留学生を惹き付ける
  1. 海外での情報提供・支援体制の整備(日本版ブリティッシュ・カウンシル)
  2. 留学生の受入れ環境の整備
  3. 国際協力への戦略的対応
教育再生懇談会第1次報告掲載ホームページ
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouiku_kondan/matome.pdf


政策担当者の目

基本計画の案文の各省協議がようやく開始された。この協議のやり方は従来の慣例として、まず各省から文書で質問が出され、それに対して文科省から文書で回答し、必要があれば各省から文書で再質問が出され、それに対して文科省から文書で再回答するといった作業が続いた後に、各省から文書で意見が出されるといった流れとなる。

27日には各省からの文書質問が「紙爆弾」のように大量に出されたため、担当職員が徹夜で回答の作成作業を行い、28日には各省への文書回答を提出したところである。不眠不休で働く担当者の献身的な働きぶりには頭が下がる思いである。

さらに、いずれは対面折衝に入り、ハイレベルの調整が進められることになろうが、現時点では今後の展開について確たる見通しは立っていない。当面は厳しい各省協議が延々と続くものと我々は覚悟している。

4月18日の中教審答申で明確な数値目標を打ち出さなかったという経緯を踏まえて、今回の文科省案では対GDP比5.0%の教育投資という数値目標を打ち出して闘う以上、数値目標の設定という点において文科省としては不退転の覚悟で各省協議に臨んでいる。

ここで教育に投資せずに我が国が二流国に成り下がるのをやむを得ないとするのか、財政的には苦しくても教育への投資を拡大して今後とも我が国が国際的に主導的な地位を果たし続けることを目指すのか、今まさに重大な岐路にあると思う。この問題に関する国民的な議論を期待するとともに、高等教育関係者の果敢な行動を願っている。


編集後記

大学分科会委員の先生の新著では、「人的・物的ストックは時間をかけなければ形成されない」、「大学は一日にしてならず」と指摘されています(天野郁夫『国立大学・法人化の行方』)。

当然、一国の高等教育セクターの振興には、多くの時を要するでしょう。今回公表された教育振興基本計画の文部科学省原案では、10年後の教育投資の目標として、OECD平均の水準が掲げられています。

仮に実現すれば、高等教育については、学生一人当たりの公的投資のフローがアメリカ並みに達する可能性が開かれます。

前掲の書で引用されている高等教育研究の大家・トロウ氏によれば、日本のみならず「欧州も急速にアメリカモデルを目指している」とのことであり、その真因は「アメリカの高等教育が規範的にも構造的にも脱工業化の時代の諸要求に適合しているから」だそうです。アメリカに比肩し得る高等教育セクターを形成することを目指すならば、投資額というフローのキャッチアップは必要最低条件でしょう。

しかし、それでもストックの格差は容易に縮まるものではなく、例えば、2020年頃とされる「留学生30万人計画」の達成も容易ならざることです。

一方の財政当局は、教育投資拡大論に強く反発し、短兵急な効率化、歳出改革を要求しています。

その論は、フローの拡大を否定するのみならず、ストックの取り崩しも招来する恐れがあります。

政府部内で認識のギャップを埋めることができるのか、それとも「十年一日」の不毛な対立に終わるのか。

こうした議論を役所同士の「コップの中の嵐」と見る向きもあるようですが、そう受け取られるとすれば残念なことです。「脱工業化の時代」における日本の存立をかけた、幅広く、深い議論にしていかなければならないと念じます。


現在、教育振興基本計画の閣議決定に向けた数値目標記載を巡る財務省VS文科省の議論は山場を迎えています。上記「政策担当者の目」「編集後記」でも示されているように、文科省の担当者の方々は、不眠不休で、我が国の教育の将来をかけた闘いを続けておられます。

教育予算確保の問題は、かねてより国民的盛り上がりに欠け、文科省への応援が不十分な状態が続いてきました。しかし、我が国が国際社会の中で名実ともに先進国と肩を並べ、国民の教育レベルを向上させていくためには、先進国並に教育費の公的負担水準を引き上げ、国民の家計負担を軽減することを実現しなければなりません。今こそ、国民は、文科省とともに行動を起こすときではないかと思います。

そのためには、まず、教育関係者、教育関係団体がイニシアティブを発揮する必要があります。

先週、国立大学協会は、理事会を開き、教育振興基本計画及び平成21年度予算に関する以下のような文部科学大臣への要望書を検討したようですが、その文面からは、はっきり申し上げて現下の状況を踏まえた緊張感や切迫感はほとんど感じられず、例年ベースの陳情書となんら変わりばえのしない全く説得力のないものに思えました。これでは、国大協は、相変わらずの「学長サロン」的のんびり体質と揶揄されても仕方ないでしょう。

闘う相手、説き伏せる相手は、「文部科学大臣」ではなく、「内閣総理大臣」「財務大臣」なのではないのですか。
1、2枚の要望書を作って終わりとするのではなく、官邸、議員会館、議員事務所、財務省主計局、関係省庁に足を運んで、面と向かって要望書に書かれた高等教育の危機的状況を直接主張すべきではないのでしょうか。



教育振興基本計画について(要望)

貴職におかれては、日頃から国立大学法人について深いご理解と力強いご支援をいただいており、厚く御礼を申し上げます。

21世紀は「知識基盤社会」であり、高等教育は、個人の資質の向上と、社会・経済・文化の発展・振興、国際競争力の確保等の国家戦略の上で、極めて重要な役割を果たすものであります。特に大学は、社会人や留学生など多様な学生を積極的に受け入れつつ、教育の質を維持・向上し、学位の国際通用性を確保すること、イノベーションの創出にも道を拓く高いレベルの研究を遂行することなどを求められています。

大学が不断に改革に取組むのはもちろんのこと、国においても大学の自主的な改革を支援・推進されるよう切望します。特に、世界最高水準の教育研究環境を実現し、政府内諸会議からの大学に対する具体的な提案を実施するため、明確な資金投入の目標額を教育振興基本計画に盛り込み、出来るだけ速やかに高等教育への公財政支出をGDP比0.5%からOECD平均の1.0%を上回る規模へ拡充すべきであります。

以上ご要望申し上げます。


平成21年度国立大学関係予算の確保・充実について(要望)

貴職におかれては、日頃から国立大学法人について深いご理解と力強いご支援をいただいており、厚く御礼を申し上げます。

21世紀は「知識基盤社会」であり、「知識基盤社会」における高等教育は、個人の人格形成の上でも、社会・経済・文化の発展・振興や国際競争力の確保等の国際戦略の上でも、極めて重要な役割を果たすものであります。大学・大学院教育においては、留学生や社会人など多様な学生を積極的に受け入れつつ、教育の質を維持・向上し、学位の国際通用性を確保することが求められています。

このような中で、国立大学は、これまで、我が国における知の創造拠点として高度人材育成の中核機能を果たすとともに、高度な学術研究や科学技術の振興を担い、国力の源泉としての役割を担ってきました。

しかしながら、我が国における高等教育への公財政支出は、GDP比0.5%に過ぎずOECD平均の1.0%を大きく下回っています。

また、国立大学法人の財政的基盤である運営費交付金は、骨太2006に基づき、△1%の適用を受け、年々削減されており、各法人では各々が懸命の経営努力により対応しているものの、その努力も限界に近づきつつあります。

特に、医師養成等の国の重要な機能を担う大学附属病院には経営改善係数(△2%)の適用とも併せて大きな影響が生じています。

更に、国立大学の教育研究活動を支える施設・設備については、施設整備費補助金等の削減により、その老朽・狭隘が著しく進んでおります。

このような運営費交付金・施設整備費補助金等の削減が続けば、今後数年を経ずして教育の質を保つことは難しくなり、さらには一部国立大学の経営が破綻するばかりか、学問分野を問わず、基礎研究や萌芽的な研究の芽を潰すなど、これまで積み上げてきた国の高等教育施策とその成果を根底から崩壊させることとなります。世界のグローバル化に伴う国際的な人材育成競争に打ち勝つことも困難です。

つきましては、貴職に対して我々の意をお伝えするため、別紙の事項について、要望いたします。平成21年度の概算要求に向けて、国立大学関係予算の確保・充実について、ご理解をいただき、引き続きご尽力とご支援を賜りますようお願い申し上げます。

要望事項の要点

(要望事項1)運営費交付金の拡充(総額△1%の撤廃)

我が国の発展の基礎を支える高等教育機関に対する公財政支出を増大すること。特に、国立大学法人の教育・研究活動が安定的・持続的に図れるよう、基盤的経費である運営費交付金を拡充すること。

また、骨太の方針2006に盛り込まれた5年間の運営費交付金の総額1%削減方針は、今期のみならず次期の中期目標期間にわたり、大学の教育・研究の基盤に重大な影響を与えるものであることから、これを早期に撤廃すること。

(要望事項2)国立大学附属病院の経営に対する財政的支援等(△2%見直し)

経営改善係数の適用による△2%を見直すとともに、医師等の人材育成、地域医療の中核病院、地域医療体制の確立、高度先進的医療の提供など、国立大学附属病院特有の役割を果たすために必要な財政的支援を行うこと。

また、経営努力にもかかわらず、診療報酬のマイナス改定等、外的な要因による経営への影響については、特段の配慮を講ずること。

(要望事項3)教育・研究環境整備の予算の確保(施設・設備費の増額)

「第2次国立大学等施設緊急整備5か年計画」に基づき、国立大学法人の教育・研究環境を計画的に整備するために必要な予算を確保すること。

また、イノベーションの基盤となる大型の研究施設・設備の整備や老朽化した教育・研究及び診療用設備の更新に必要な財政措置を講ずること。

さらに、自然災害時に国立大学が病院を中心に地域の災害対策拠点としての役割を果たすことを踏まえ、必要な対策を講じるための財政的支援を行うこと。

(要望事項4)科学研究費補助金の拡充(予算の拡充、間接経費の措置)

第3期科学技術基本計画に従って、競争的資金、特に、大学等で行われる学術研究を支える科学研究費補助金の拡充に必要な措置を講ずること。

また、研究環境の向上、適正な資金管理等に寄与する間接経費30%措置の早期実現に必要な予算を確保すること。

(要望事項5)「留学生30万人計画」実現のための予算の確保

福田総理が提唱された「留学生30万人計画」を実現し、優れた留学生を多数受け入れるためには、留学生のための宿舎、奨学金等の充実等、魅力ある大学づくりと受け入れ体制が必要である。また、我が国の多くの学生に外国での研鑚等の国際体験を積ませる必要がある。そのために必要な予算を確保すること。