昨日(7月1日)、我が国初の「
教育振興基本計画」がよくやく閣議決定されました。
残念ながら、文部科学省をはじめ教育関係者の努力も空しく、教育投資額の数値目標の記載は見送られることとなりました。財務省の壁は厚く、高く、極めて残念な結果に終わりました。
基本計画の策定については、これまでもこの日記で幾度となく経緯についてご紹介してきましたので、結果について私見を述べることはもう止めたいと思います。
閣議決定された基本計画についての各紙の反応は次のとおりです。
教育基本計画―学力向上へ大胆な投資を (2008年7月2日付 朝日新聞社説)
様々な政策が総花的に盛られているが、肝心のことが書かれていない。
教育基本法の改正を受けて、初めての政府の教育振興基本計画が決まった。しかし、焦点となっていた教員数や教育予算などの数値目標は軒並み削除された。
10年先のあるべき姿を見据えて今後5年の施策に取り組む。それが基本計画のねらいだ。
文部科学相の諮問機関である中央教育審議会の答申に、数値目標はなかった。これに対し、教育の底上げには数値目標が必要だ、との批判が教育現場だけでなく、与党からも上がった。
文科省は急きょ、数値目標を基本計画に書き足した。教育予算の対国内総生産(GDP)比を、現在の3.5%から経済協力開発機構(OECD)加盟国平均の5%に引き上げる。教職員を2万5千人増やす―。
だが、何せ付け焼き刃である。なぜ、5%なのか、2万5千人なのか。この投資でどんな成果が得られるのか。説得力に乏しかった。ただでさえ、歳出削減を求められる時代に、ただ金をよこせ、人を増やせだけではさすがに通らなかった。
しかし、今回の文科省の要求の仕方が稚拙だったからといって、大胆な教育投資が必要でないわけではない。
そもそも今回の基本計画から根本的に抜け落ちているのは、日本の教育の問題点をどう総括し、そのための処方箋(せん)をどのように描いていくかである。解決方法をきちんと打ち出していけば、教育予算をどのくらい増やさなければならないかもはっきりする。
例えば、日本の教育が抱える大きな問題は学力低下だ。特に国際的な調査で深刻さが浮き彫りになっているのは、考える力の不足と、できる子とできない子の二極化である。
この解決に必要なのは、子ども一人ひとりの状況に合わせて、きめ細かな指導をすることだろう。それには子どもたちと日々向き合う教師の量を増やし、質を高めていくしかない。
今はかつてない教師受難の時代である。一部のダメ教師の存在をきっかけに、教員免許更新制が導入された。いじめや不登校に加え、学校に理不尽な要求をするモンスターペアレントも増えた。そうしたことに嫌気が差して、教師の志望者が減っている。
そんな中で、人材を集め、質の高い教師に育てるには、教師の待遇を良くし、養成方法を工夫する必要がある。
公立学校への不信が指摘されて久しい。東京都杉並区の公立中の夜間塾などの対症療法ばかりが注目されるのも、不信の裏返しである。
財政が厳しいのはいつの世も変わらない。政府は教育の重要性を言葉で語るばかりでなく、教育投資を着実に増やしていってもらいたい。
基本計画決定 名ばかりの「教育振興」 (2008年7月2日付 中日新聞社説)
閣議決定された教育振興基本計画は原案にあった財政支出を伴う記述が削られたうえ「国の財政は厳しい」との文言が加わった。十年先を見通すという触れ込みだが、名ばかりの「教育振興」だ。
基本計画は改正教育基本法に基づいてつくられ、十年先の教育のあるべき姿を示し、今後5年間で取り組む政策を体系的にまとめたものだ。中央教育審議会の答申を受けて文部科学省が原案をまとめ、各省協議などを終えて1日、閣議決定した。
決定では、国内総生産(GDP)に占める公的教育投資の比率を現在の3・5%から「経済協力開発機構(OECD)諸国の平均5・0%を上回る水準を目指す」という記述が原案から削られた。
3・5%で約17兆2千億円だから、5%にするには約7兆4千億円上積みしなければならない。原案が計画として認められれば多大な財政支出を伴うことになるため、財務省が猛反対した。
文科省はこの財政支出によって公立の教職員定数を2万5千人程度増やす記述も原案に盛り込んでいた。行財政改革を進めようとする政府の方針と逆行するため、これには総務省が反対に回った。
計画をみると、その2カ所が削除されただけでなく、具体的な施策では「拡充」「充実」との字句が「支援」「推進」に直され、新たに「国の財政状況は大変厳しい」という文言が加筆された。
財務、総務両省の主張が通ったかたちだが、今回の各省協議は年度ごとの予算折衝ではなく、これからの教育のあり方を決める話し合いだった。そこでの結論が財政再建優先では、基本計画の上に乗る「教育振興」の名が泣く。
最終的には関係閣僚が調整したのだから、これが教育への福田政権の姿勢と言うこともできる。
学習指導要領が改定され、理数を中心に主要教科の授業時間が増え、小学校では英語教育が導入される。加えて道徳教育の充実と、長期的に低下傾向にある子供の体力向上への取り組みも必要だ。
さらに、いじめや不登校への対策も怠るわけにはいかない。現場の先生たちの多忙ぶりが問題視されて久しいが、熱意や使命感だけに頼るにはもはや無理がある。教育投資の大半は教職員予算だが、計画で厳しい見通しが示されたのだから、現場の仕事は増えることになりそうだ。
これで公教育の立て直しは図れるのか。十年先、暗たんとした状況に陥っていないか。
教育振興計画 骨太の像なく総花のむなしさ (2008年7月3日付 毎日新聞社説)
この1カ月余、数値目標を入れる入れない、で文部科学省と財務省などが対立し、結局は文科省が完敗した。そして教育振興基本計画がようやく定まった。そんな政府内の争いが、国民の前から教育論議を遠ざけた。これがそもそもの間違いだ。いくら官僚や文教族議員が熱くなっても、国民が冷めていては不毛なコップの中の嵐にすぎない。
そもそも教育振興基本計画というしかつめらしい名の政策は何か。06年に改正された教育基本法が政府に策定を義務づけた。10年先のあるべき状況を見据え、5年間でなすべき施策を定めるという。
教育基本法の改正前、改正は無用とした反対派に対し推進側が「改正基本法による振興基本計画で長期に安定した財源を確保し、条件整備が着実に進められる」と利点を強調し、説得材料にした経緯もある。
だが、一方で政府は支出抑制を基本とする行財政改革を進める。さらに「教育再生」を最重要政策に掲げた安倍晋三政権が突然倒れたことも逆風になった。
不可解な展開もあった。
基本計画案は文科相の諮問機関・中央教育審議会が4月に答申したが、財政引き締めの状況を踏まえ数値目標はほとんどなかった。これには自民党文教族などから強い不満が出、その意を受けて文科省は(1)教職員定数を5年で2万5000人増やす(2)10年で教育投資額の国内総生産(GDP)比を今の3・5%から経済協力開発機構(OECD)諸国平均5%へ--などと数値を入れた案を作成、財務省との折衝に臨んだ。
授業時間が大幅に増え、小学校に英語も導入する新学習指導要領を円滑に実施するにはこれだけ先生が必要。教育にかける金を先進国並みにしないと高等教育などで太刀打ちできなくなる--などという主張だ。だが財務省は納得せず、投資の根拠や成果の見通しを求めかみ合わなかった。
もちろん基本計画はただ数値獲得を主眼としているのではない。子供の自立、学力と体力、世界最高水準の大学、留学生受け入れ拡充、校舎耐震化などあらゆる課題が「あれもこれも」とばかり盛り込まれた。
すべて重要だ。しかし、大半は既に個別施策としてやったり、進めることができるもので、新たに引きつける理念、訴えかけてくる意思に乏しい。10年後の社会に向け、どのような人格、人材を教育が目指し、そのため5年間に何を最重点にどのように学校、社会、家庭の教育のかたちをつくり出すか。
何をさておいても、の目標が国際学力コンテストの順位を上げることでは寂しい。高々とした理念と、一人一人の子供や学生に思いを致せる想像力に満ちた教育目標と手法こそが、今求められている。
それが国民世論を引きつけ、財務当局を説得する。
教育基本計画 必要な予算を精査すべきだ (2008年7月3日付 読売新聞社説)
国の教育振興基本計画に教育予算や教員増の数値目標が入らなかったのは、やむを得まい。
文部科学省は明確な論拠を示せなかった。しっかり検証し、今後の予算要求にメリハリを付けるべきだ。
改正教育基本法に基づく初の基本計画は、今後10年間に目指す教育像と直近5年間の教育施策を描くものだ。多くの施策が盛り込まれたが、裏付けとなる予算があいまいなままでは、「教育立国」も掛け声倒れに終わりかねない。
なぜこうなったのか。
教育以外にも社会保障など重要な課題が山積している。その中で、政府は「骨太の方針2008」で歳出削減の方針を維持した。
ただ、それだけではない。
文科省は原案作成の際に教育予算の数値目標がない点を批判され、急きょ、10年間の目標値として経済協力開発機構(OECD)平均の対国内総生産(GDP)比5%を掲げた。現在は3・5%で、7・4兆円も上積みが必要だ。
“内訳”を示す過程で、初等中等教育予算が3・7兆円から2・8兆円へ、高等教育が2・5兆円から3・5兆円へと変転したこともある。1兆円が簡単に増減する数値目標に現実味はなかった。
教育で目標とする児童生徒の具体的な将来像を描き、それを達成する施策にはいくら予算が必要か。1年以上の中央教育審議会の議論では、こうした点こそ専門家に検討してもらうべきだった。
学力低下が懸念される中、国民に関心の高い学力面の数値目標は計画に盛り込まれなかった。
教育の成果が数値で測りにくいのは一面で事実だろう。だが、文科省をはじめ教育界全体に“甘え”がないか。こうした姿勢が、教育予算の説得力を欠く一因になっていないか。点検が必要だ。
文科省が優先すべきは、学習内容などを増やした新学習指導要領実施に伴い、学校現場にしわ寄せがいかないための環境整備だ。
全面実施は小学校が2011年度、中学校が12年度である。
文科省はいったん原案に掲げた教員増2万5000人に固執せず、知恵を絞らねばならない。退職教員や地域の人材を生かすなど、努力を重ねてもなお足りない教員数を精査すべきだ。
教育は、人材育成という未来への先行投資である。その重要性は多くの国民も承知している。
来月には、来年度予算の概算要求の時期を迎える。具体性のある現実的な予算額と理由を示し、理解を求めていかねばなるまい。
◇
大変手厳しい反応です。
では、基本計画は、具体的にはどのような内容に落ち着いたのでしょうか。
まずは、
「教育投資」に関連する部分の抜粋をご紹介しましょう。随所に
「財務省の力学」が働いているのが見て取れます。
第2章 今後10年間を通じて目指すべき教育の姿
(2)目指すべき教育投資の方向
今後10年間を通じて以上のような教育の姿の実現を目指すためには、関係者の一層の努力を促すとともに、その教育活動を支える諸条件の整備を行うことが必要である。
現在、我が国の教育に対する公財政支出は、他の教育先進国と比較して低いと指摘されている。例えば、公財政教育支出のGDP(国内総生産)比については、OECD(経済協力開発機構)諸国の平均が5.0%であるのに対して、我が国は3.5%となっている。また、特に小学校就学前段階や高等教育段階では、家計負担を中心とした私費負担が大きい。こうしたデータについては、全人口に占める児童生徒の割合、一般政府総支出や国民負担率、GDPの規模などを勘案する必要があり、単純な指摘はできないところであるが、そうした中で現下の様々な教育課題についての国民の声に応え、所要の施策を講じる必要がある。
高等学校及び高等教育段階については、家庭の経済状況にかかわらず、修学の機会が確保されるようにすることが課題となっている。高等教育段階については、知的競争時代において諸外国が大学等に重点投資を行い、優秀な人材を惹き付けようとする中で、教育研究の水準の維持・向上を図り、国際的な競争に伍していくことが課題となっている。
さらに、学校施設をはじめとする教育施設の耐震化など、だれもが安全・安心な環境で学ぶことのできる条件の整備が大きな課題となっている。
教育投資の規模については、教育にどれだけの財源を投じるかは国家としての重要な政策上の選択の一つであることを考える必要がある。とりわけ、資源の乏しい我が国では人材への投資である教育は最優先の政策課題の一つであり、教育への公財政支出が個人及び社会の発展の礎となる未来への投資であることを踏まえ、欧米主要国を上回る教育の内容の実現を図る必要がある。
以上を踏まえ、上述した教育の姿の実現を目指し、OECD諸国など諸外国における公財政支出など教育投資の状況を参考の一つとしつつ、必要な予算について財源を措置し、教育投資を確保していくことが必要である。
この際、歳出・歳入一体改革と整合性を取りながら、真に必要な投資を行うことに留意する必要がある。
あわせて、特に高等教育については、世界最高水準の教育研究環境の実現を念頭に置きつつ、教育投資を確保するとともに、寄附金や受託研究等の企業等の資金も重要な役割を果たしていることから、その一層の拡充が可能となるよう、税制上の措置の活用を含む環境整備等を進める必要がある。
◇
次に、
「政策目標」の内容はどうなっているのでしょうか。
高等教育関係の抜粋をご紹介します。
第3章 今後5年間に総合的かつ計画的に取り組むべき施策
(2)施策の基本的方向
以上の基本的考え方を踏まえ、教育振興基本計画において、今後5年間に政府が取り組むべき教育施策の基本的方向を、以下に整理する。あわせて、それぞれの基本的方向ごとに実現を目指す目標の例を示す。
基本的方向3 教養と専門性を備えた知性豊かな人間を養成し、社会の発展を支える
今後の「知識基盤社会」において、「知」の創造と継承・発展を担う高等教育には、個人の人格形成や、生涯にわたる学習活動の場としても、社会・経済・文化の発展・振興や国際競争力の確保等の上でも、重要な役割が求められる。また、環境問題をはじめとする地球規模での課題への対応においても、人材育成をはじめとした役割が期待される。
このような中で、高等教育に対する様々な需要に的確に対応するためには、大学・短期大学、高等専門学校、専門学校が、各学校種ごとにそれぞれの位置付けや期待される役割・機能を十分に踏まえた教育や研究を展開するとともに、競争的環境の中で相互に切磋琢磨しながら、個々の学校の個性・特色を発揮していくことが必要である。
特に、改正教育基本法においては、第7条に新たに大学に関する規定が設けられ、その基本的な役割として、教育と研究とを両輪とする従来の考え方が改めて確認されるとともに、教育研究の成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与することが明確にされたことを十分に踏まえる必要がある。
今後、各大学等においては、それぞれが自律的に選択した教育理念に基づき、自らの個性・特色を明確化した上で、国内外の大学等や産業界、初等中等教育段階の学校等との連携も深めつつ、教育活動の質を保証し、また、不断に高め、豊かな教養と人間性、専門性を兼ね備え、地域から国際舞台まで幅広い分野においてそれぞれの立場で活躍できる人間を育成し、社会の期待に応えることが求められる。あわせて、国際競争力ある教育研究拠点として「知」の創造・継承・発展を担うことが期待される。
国は、各大学等における自主的な取組を促すため、評価制度の充実など必要な制度改正や各種の情報の提供等に取り組む必要がある。また、この5年間を高等教育の転換と革新に向けた始動期間と位置づけ、中長期的な高等教育の在り方について検討し、結論を得ることが求められる。
こうした基本的方向に基づく施策を通じて、例えば以下のような目標の実現を目指す。
- 学士課程の学習成果として共通に求められる能力を養う。こうした観点から、その内容等の明確化や厳格な成績評価の導入等大学教育の質を確保するための枠組みを構築し、各大学等における組織的な取組を推進する
- 「知」の創造・継承・発展に貢献できる人材を育成する。こうした観点から、将来的に、国際的な競争力・存在感を備える教育研究拠点を各分野において形成することを目指し、大学における組織的な取組を推進する
- 大学の連携等を通じて、地域再生に貢献する。こうした観点から、その核を形成することを目指し、大学等における組織的な取組を推進する
(3)基本的方向ごとの施策
基本的方向3 教養と専門性を備えた知性豊かな人間を養成し、社会の発展を支える
1)社会の信頼に応える学士課程教育等を実現する
高等教育の大衆化が進行して同世代の過半数が進学する「ユニバーサル段階」、そして、少子化により18歳人口が減少し、いわゆる「大学全入」時代を迎える中で、大学等における教育の質の確保が重要な課題となっている。
このため、大学等が社会的ニーズや学習者の様々なニーズに的確に対応するとともに、それぞれの掲げる教育研究上の目的の下、教養と専門性を備えた人間を育成することができるよう、各学校の位置付けや期待される役割・機能を十分に踏まえた質の高い教育の展開を支援する。大学については、教学経営において特に重視すべき3つの方針、すなわち「学位授与の方針」、「教育課程編成・実施の方針」、「入学者受入れの方針」の統合的な運用による優れた実践の普及を促進する。その際、それぞれの個性・特色を一層明確にする教育や大学教員の教育力向上のための取組を促す。
【施策】
■社会からの信頼に応え、求められる学習成果を確実に達成する学士課程教育等の質の向上
学士課程で身に付ける学習成果(「学士力」)の達成等を目指し、各大学等において教育内容・方法の改善を進めるとともに、卒業認定も含めた厳格な成績評価システムを導入するよう支援する。さらに、教育環境の改善・充実を図り、すべての大学等において教員の教育力の向上のための取組が実質化されるよう、教員の教育業績の評価、学生による授業評価の結果を改善へ反映させる組織的取組等を促すとともに、優れた取組を行っている大学等を支援する。
こうした各大学等における教育改善の取組を推進するため、教員の教育力の向上のための拠点形成とネットワーク化を推進するなど、個別の大学等の枠を超えた質保証の体制や基盤の強化を支援する。
さらに、ICTを活用した教員の教育力向上・教材作成や、国内外の教育コンテンツ等の情報収集・発信、海外の中核的機関との連携強化等を支援する。
■共通に身に付ける学習成果の明確化と分野別教育の質の向上
学生が教育分野にかかわらず共通に身に付ける学習成果について、国際的通用性の確保にも留意しつつ、明確化に取り組むとともに、分野別の教育の質の向上・保証を行うため、学習成果や到達目標の設定などの取組を促す。あわせて、教育の分野別質保証の在り方について日本学術会議との連携を図りつつ、それぞれの質の保証に向けた枠組みづくりを進める。
■高等学校と大学等との接続の円滑化
各大学等が入学者受入れ方針の明確化を図りつつ、高等学校段階の学習成果を適切に評価する大学入試の取組を促すなど、高等学校と大学との接続の円滑化を図る。また、高等学校段階での学習成果を客観的に把握し、高等学校の指導改善や大学入試などにも幅広く活用できる方法について、中央教育審議会の審議を踏まえ、高大関係者が十分に協議・研究するよう促す。また、高校生が大学教育に触れる機会等を充実するため、大学等の高大連携に関する優れた取組を支援する。大学への飛び入学については、「特に優れた資質」の判定や大学における指導体制など現行制度のより柔軟な運用を図り、各大学における積極的な取組を促す。
2)世界最高水準の卓越した教育研究拠点を形成するとともに、大学院教育を抜本的に強化する
国際競争力のある世界最高水準の大学づくりのため、「大学院教育振興施策要綱」(平成18~22年)に基づき、世界最高水準の卓越した教育研究拠点の重点的な形成を支援するとともに、大学院における優れた組織的な教育の取組を支援する。あわせて、意欲と能力のある若手研究者等が活躍できる環境づくりを支援する。
【施策】
■世界最高水準の卓越した教育研究拠点の形成
博士後期課程の学生を含む優れた若手研究者の育成機能の強化や国内外の大学・機関との連携強化等を通じて国際的に卓越した教育研究拠点の形成を支援する。特に、平成23年度までに、世界最高水準の卓越した教育研究拠点の形成を目指し150拠点程度を重点的に支援する。また、学術の発展と人材育成の充実のため、国公私を通じた共同利用・共同研究拠点の整備を支援する。
■大学院教育の組織的展開の強化
産業界をはじめ社会の様々な分野で幅広く活躍する高度な人材を養成するため、コースワークの充実等、大学院における組織的・体系的な優れた教育の取組を促す。また、大学院修了者等の一層の活用や、国内外に開かれた入学者選抜や大学院への早期入学等を含め、より開かれた大学院入学を促進ずるための方策等について検討し、「大学院教育振興施策要綱」に適宜反映させる。
■若手研究者、女性研究者等が活躍できる仕組みの導入
若手研究者の自立的な環境整備のためのテニュア・トラック制の導入、多様なキャリアパスを切り拓くための人材養成等の組織的な取組、女性研究者がその能力を最大限発揮できるよう、研究と出産・育児等の両立のための取組を推進する。
3)大学等の国際化を推進する
海外の有力大学等との連携や海外展開を通じ、我が国の大学等の国際化や国際競争力の向上を図るとともに、国際的な環境で学生や教員が学ぶことができる機会の充実に向けた取組を促す。このため、大学教育のグローバル化を目指した当面の施策についての基本的な考え方に基づく取組を推進する。
【施策】
■留学生交流の推進
大学等の国際化や国際競争力の強化を図るとともに、諸外国との相互理解や我が国が安定した国際関係を築く上での基礎となる人的ネットワークを形成する留学生交流を推進する。
留学生受入れについては、2020年の実現を目途とした「留学生30万人計画」を関係府省が連携して計画的に推進し、高度人材受入れとも連携させながら、留学生の就職支援等を進め、留学生受入れを拡大させる。
また、国際的に活躍できる人材の育成を図るとともに、大学間交流の活性化、ひいては日本社会のグローバル化に資する観点から日本人学生の海外留学・体験のための取組を推進する。
■大学等の国際活動の充実
大学教育の質の向上と国際競争力の強化を図るため、国際活動のための事務局体制等の基盤強化や、海外の有力大学等との連携によるダブル・ディグリ一等の複数学位制や単位互換、英語等の外国語による教育、9月入学(秋季入学)、サマープログラム等の充実に向けて、大学等の取組を促す。
4)国公私立大学等の連携等を通じた地域振興のための取組などの社会貢献を支援する
地域社会においてニーズの高い教育や、地域の活性化等の社会貢献のため、国公私の大学等の協同で行う取組を支援する等、各大学等がそれぞれの特色を活かして行う地域振興に貢献する取組を促す。
【施策】
■複数の大学間の連携による多様で特色ある戦略的な取組の支援
全国各地域において、大学間の連携により、各大学等の教育研究資源を複数の大学間で有効に活用し、地域人材の育成・イノベーション創出等の地域貢献機能の強化・拡大及び教育研究の多様化・特色化を図るための取組(国公私を通じたコンソーシアム)が、充実したものとなるよう、支援する。また、国公私を通じ複数の大学等が学部・研究科等を共同で設置できる仕組みを平成20年度中に創設する。
■生涯を通じて大学等で学べる環境づくり
個人のキャリア形成や地域活動への参画等のため、生涯にわたる学習へのニーズが高まっていることに対応し、大学等における社会人等受入れに必要な環境の整備を促すとともに、大学等と産業界等との連携による取組への支援により、大学等における社会人受入れを促す。
■地域の医療提供体制に貢献するための医師育成システムの強化
医療人養成の中核的機関である大学・附属病院の運営基盤を強化するとともに、地域の医療機関との緊密な連携体制の構築を通じた医療分野における大学等の地域貢献の取組を支援する。特に、地域医療、がんなど社会的要請の強い分野について、専門性の高い医療人の養成を促す。
5)大学教育の質の向上・保証を推進する
高等教育の量的拡大や多様化の一層の進展を踏まえ、学習者の保護や国際的通用性の観点から、高等教育の質を保証する取組を推進する。その際、個々の機関の設置目的や使命等も踏まえ、それぞれの機能や役割に則して多元的な評価が行われるよう留意するとともに、個別の大学等の枠を超えた質保証の体制や基盤の強化を促す。
また、大学等の設置認可や認証評価制度、情報公開を含めた包括的な教育の質保証の在り方について、中央教育審議会において検討し、認証評価制度の第2サイクルに向け、必要な措置を講じる。
【施策】
■事前評価の的確な運用
我が国の大学等が国際的に通用するための最低限の要件を明確化する観点から、事後評価との適切な役割分担と協調を図りっつ、教員組織、施設・設備等に関して大学設置基準等の見直しを行うとともにその的確な運用を進める。
■共通に身に付ける学習成果の明確化と分野別教育の質の向上
大学教育の質の向上・保証を推進する観点からも、共通に身に付ける学習成果の明確化と分野別教育の質の向上を推進する。(第3章(3)基本的方向3?◇共通に身に付ける学習成果の明確化と分野別教育の質の向上の項を参照。)
■大学評価の推進
大学評価システムの確立・定着に向け、認証評価(機関別、専門職大学院専門分野別)、自己点検・評価、分野別評価等の大学評価に関して、大学等と評価機関が行う効率的な評価方法の開発等を促すとともに、参考となる多様な事例を集積・提供すること等により、認証評価等の大学評価の充実と教育の質の向上を図る。あわせて、認証評価等の大学評価による評価結果や、例えば、教員数、学生数、教員の研究業績等の大学情報を積極的に提供するよう促す。
6)大学等の教育研究を支える基盤を強化する
次世代をリードする人材の育成に向け、学術の中心である大学等の基礎的な教育研究を支えるとともに、競争的環境の中で、各大学等が主体的にそれぞれの特色ある発展と教育研究の質の向上を図ることができるよう支援する。
【施策】
■大学等の教育研究を支えるとともに、高度化を推進するための支援
大学等における教育研究の質を確保し、優れた教育研究が行われるよう、引き続き歳出改革を進めつつ、基盤的経費を確実に措置する。あわせて、人材の育成や大学の教育研究の高度化に資する科学研究費補助金等の競争的資金等の拡充を目指す。その際、科学研究費補助金の間接経費について、30%の措置をできるだけ早期に実現する。
また、国立大学法人運営費交付金については、?教育研究両面の努力と成果、?大学改革等への取組の視点に基づく評価に基づき適切な配分を実現する。その際、国立大学法人評価の結果を活用する。あわせて、企業や個人等からの寄附金、共同研究費等の民間からの資金の活用について、各大学の自助努力を後押しするための税制上の措置の活用を含む環境整備等を進める。
■大学等の教育研究施設・設備の整備・高度化
優れた人材の育成や創造的・先端的な研究開発を推進するため、大学等の施設・設備について、安全性の確保だけでなく、現代の教育研究ニーズを満たす機能を備えるよう、重点的・計画的な整備を支援する。このため、「第2次国立大学等施設緊急整備5か年計画」(平成18~22年度)を着実に実施する。
■時代や社会の要請に応える国立大学の更なる改革
国立大学の再編統合、学部の再編や学部入学定員の見直し、徹底したマネジメント改革、学部の壁を越えた教育体制など、時代や社会の要請に応えるための国立大学法人の自主的な取組を促す。また、一つの国立大学法人による複数の大学の設置管理等についての検討を行う