2014年9月30日火曜日

北海道大学の魅力

先日、仕事で北海道に行ってきました。あいにくの雨天で、半袖姿では少々涼しい気温でしたが、秋の気配をいち早く感じることができました。

写真を数枚撮りましたのでご紹介します。


札幌駅



早起きして、ホテルの周辺を軽くジョギングしました。

札幌市時計台


北海道大学の前身である札幌農学校の演武場として、初代教頭のクラーク博士の構想に基づき1878(明治11)年に建設。
農学校の生徒の兵式訓練や、心身を鍛える体育の授業を行う場、および入学式・卒業式等を行う中央講堂として使われていた建物だ。
開拓期のアメリカ中・西部で流行した風船構造と呼ばれる木造建築様式が特徴。赤い屋根と白い壁が印象的な建物だが、市立図書館として使われていた一時期には壁の色が緑だったという意外な記録が残る。
1階展示室では色の移り変わりや大火に遭った際のエピソードなど、時計台にまつわる歴史を展示。2階では再現された演武場の歴史的な雰囲気を体感しながら、実際に時計台で使われているものと同じハワード社の時計機械を見学できる。(引用元:札幌市公式観光サイト




北海道庁旧本庁舎


札幌の北3条通から西方面を望むと、突き当たりに堂々とした姿の北海道庁旧本庁舎が見える。
「赤れんが庁舎」の愛称で知られる煉瓦づくりの建物だ。
現在使われている新庁舎ができるまで約80年に渡って道政を担った旧本庁舎は、1888年(明治21年)に建てられたアメリカ風ネオ・バロック様式の建築。明治時代に作られたひずみのあるガラスや、化粧枠にしまわれた寒さ対策の二重扉など、そこかしこに機能美が感じられる。
館内は一般に無料公開され、北海道の歴史をたどる資料を展示。時間さえゆるせば、常駐している観光ボランティアスタッフの説明を聞き、建物の奥深さを感じてほしい。(引用元:札幌市公式観光サイト






北海道大学植物園

北大植物園は、1886(明治19)年に設置されて以来、札幌農学校、北海道大学の教育・研究の場として活動を続けるとともに、札幌市民の憩いの場、社会教育の場としての役割を果たしてきました。
園内には研究用に収集された約4,000種類の植物が教育効果をもたらすような形で栽植されていて、花を愛でるだけではなく植物そのものについて学ぶことができるような環境が整備されています。
また、園内の博物館では北海道の自然・文化・歴史を学ぶことができます。同時に、札幌の原地形を残す環境で小鳥のさえずりを聞きながらゆっくりとくつろぐこともできます。
園内では、授業や研究活動が頻繁に行われています。研究者や大学生の調査活動の様子を身近に感じていただき、北海道大学の活動に関心を持っていただければ幸いです。(引用元:北海道大学植物園公式サイト



夜には、おなじみ札幌ラーメン。本場で食べるラーメンは格別でした。




北海道大学

早起きして、キャンパスを歩いてみました。広大な自然に囲まれた素晴らしい環境です。
日本で一番広い大学キャンパスとあって、足腰の鍛錬に効果がありました。


中央ローン

北大の正門から2、3分歩くと、気持ちの良さそうな広い芝生広場が正面に見えてきます。
中央ローンと呼ばれているこの芝生広場は、公園のような緑溢れる北海道大学の札幌キャンパスを象徴する場所です。
中央ローンを見ると、大学のキャンパスと言うよりはよく整備された公園のような雰囲気で、北大キャンパスに来た観光客の人は「ここは大学なの?」という不思議な感覚になるのではないでしょうか。
きっと北大キャンパスで一番北大らしいまったりとした雰囲気を味わえる場所なので、観光客の人にも満足してもらって北大キャンパスを後にすることが出来ると思うし、北大に観光に来た人の多くがこの中央ローンを北大で一番良かった場所、印象に残った場所に挙げると思います。(引用元:WEBで知る北海道大学




クラーク像

北海道大学の前身・札幌農学校の初代教頭は「ボーイズ・ビー・アンビシャス」の名言を残したクラーク博士。古河講堂のそばに、北海道大学の精神のシンボルとしてクラーク博士の胸像が設置されています。

古河記念講堂前のクラーク胸像


古河記念講堂

正門から5分ほど歩くと、木々の間に西洋の雰囲気をもつ真っ白な木造建築が見えてきます。古河記念講堂と呼ばれるこの建築は1909年築の長い歴史ある建物で、農学部本館理学部本館と並ぶ北大・札幌キャンパスを代表する建築物です。
北海道大学と言うと、クラーク博士が設立したことや、日本離れした北海道という土地にあることから、国立大学にしては珍しく西洋の雰囲気が漂う素敵なイメージを北大に対して個人的に昔からもってきましたが、そんな北海道大学の西洋的な雰囲気を一番よく感じられる建物かもしれません。
真っ白な壁とエメラルドグリーンの屋根がとても清潔感のある印象で、一見すると築100年を超える建築物には全く見えません。
観光客の方々は古河記念講堂のちょうど目の前にあるクラーク博士の銅像前で写真撮影をすることがお決まりなのですが、クラーク像の向かいの古河記念講堂も素敵な雰囲気なのでこちらもお忘れなく・・・。(引用元:WEBで知る北海道大学

古河記念講堂


総合博物館

正門から中央ローン、古河記念講堂、農学部をまわってメインストリートをポプラ並木の方へ歩いていくと、左側に風格のあるどっしりとした茶色の建物が見えてきます。
1999年に北海道大学総合博物館として生まれ変わったこの建物は北海道帝国大学時代の理学部本館の建物です。
1930年の理学部設立に先立って1929年に建てられた理学部本館の建物は、北大キャンパスはもとより札幌でも最古の本格的な鉄筋コンクリート建築です。(日本初の鉄筋コンクリート建築は1904年築の長崎県佐世保重工業の平屋建ポンプ小屋と言われてますので、札幌ではだいぶ遅れて鉄筋コンクリート建築が普及したと思われます。)
農学部本館古河記念講堂と並ぶ北大を代表する建築物として観光ガイドブック等でよく取り上げられており、ついついカメラを向けたくなるような歴史を感じる概観もあって写真を撮る観光客の姿も多い建物です。(引用元:WEBで知る北海道大学

北海道大学総合博物館ホームページ

総合博物館


ポプラ並木

札幌を取り扱うガイドブックで必ずどこかのページに登場する北海道大学ですが、そのシンボルとして取り上げられているのがポプラ並木です。
1903年に当時の札幌農学校の林学実習で数本のポプラを植えた事がポプラ並木の始まりで、近くにあった農場庁舎の防風林を兼ねて1912年に約9メートル間隔で計45本のポプラを植えた事が現在のような並木道を形成するきっかけとなりました。
長い歴史があり観光客にも馴染みのあるポプラ並木ですが、2004年9月に北海道へ上陸し札幌で最大瞬間風速50.8メートルを観測した台風18号により、ポプラ並木の約4割にあたる27本のポプラが倒壊しました。
一時的にポプラ並木はその存続も危ぶまれましたが、札幌市民や全国からの寄附金により若木が植樹されるなど立派に再生され、現在は全長250メートル、計72本からなる並木道になっています。
北海道大学のキャンパスの見所として今でも多くの観光客が訪れていますが、歴史あるだけに老木が多く、倒木や落木の危険性からポプラ並木を通り抜ける事はずっと昔から禁止されています。
通り抜けは出来ないし見た感じ並木道には見えないので、北大のシンボルとして期待してやって来た観光客は残念ながら期待を裏切られるかも知れません……。(引用元:WEBで知る北海道大学





新渡戸稲造の像

ポプラ並木の南端のすぐ横には新渡戸稲造の胸像があります。
北海道大学の前身である札幌農学校の2期生である新渡戸稲造は、北大出身の有名人として必ず名前が挙がる人物です。
新渡戸稲造は五千円札の人だったけど何をした人かよく知らないという人がほとんどだと思います。 私もそんな感じの人でしたが、北大に入ると知らず知らずのうちに北大関係者の情報が入ってくるもので、1920年から1926年まで国際連盟の事務次長を務めたとか、「武士道」を英語で出版しただとか、戦前に国際的に活躍した指折りの日本人だと知りました。
国際的に活躍した彼らしく、自身が残した「I wish to be a bridge across the Pacific.(私は太平洋の架け橋となりたい)」との言葉が胸像の台座には刻まれています。
ちなみにこの新渡戸稲造像の台座はキャンパス内にあるクラーク像の台座の高さよりは高くできない!という嘘のような本当の理由で、クラーク像の台座の高さより若干低くなっています。
やっぱり北大にとってはクラーク博士は誰も超えることが出来ない唯一無二の人物のようです。
クラーク博士よりも微妙に低い位置付けにされているそんな新渡戸稲造ですが、北大入試時に受験生に配布されるサークルの勧誘のビラやら北大入試に関わるQ&Aをまとめた冊子などが詰め込まれた封筒が「稲造」をもじった「いな蔵パック」と名付けられていて、この時ばかりはクラーク博士よりも上の扱い(?)を受けています。(「いな蔵パック」っていうネーミングは新渡戸稲造をリスペクトしているようなそうじゃないような……。)(引用元:WEBで知る北海道大学




エルムの森

エルムの森は農学部と理学部の建物に挟まれた広い芝生広場です。
理学部の隣の芝生広場だから「理学部ローン」とか、理学部と農学部の間の芝生広場だから「理農ローン」とか北大生には色々な呼ばれ方をされていますが、大学の発行するキャンパスガイドを見ると「エルムの森」というのが一応ここの正式名称のようです。
エルムの森と言われるぐらいなのでエルム(ハルニレ)の木が多く、古くからの大木が空を覆って昼間でも少し薄暗いですが、学生がサッカーやキャッチボールをしていたりするので開放的な雰囲気があります。
札幌農学校や北海道帝国大学時代からの歴史ある建築物が森の木々と見事に調和していて、エルムの森の雰囲気は北大の長い歴史をさりげなく演出しているかのようです。
北大を訪れた観光客の多くはこのエルムの森を横目にポプラ並木へと向かっていきますが、ゆとりのあるのびのびとしたこの空間から北大キャンパスの環境の良さや北海道らしさを観光客の人もきっと感じることだと思います。(引用元:WEBで知る北海道大学





エルムの森の南端には、札幌農学校時代の1901年に建てられた当時の昆虫学及養蚕学教室の建物があります。
建てられてからは一度も移築されておらず、今の北大キャンパスができた当初からあるかなり歴史ある建物です。 爽やかなエメラルドグリーンの屋根がひときわ目立ち、クラーク像を見終えた観光客がさぁ次はどこへ向かおうかなぁ、とキョロキョロしていると目に飛び込んでくるはずで、日本離れした西洋風の外観に思わずフラっと立ち寄りたくなる雰囲気を建物全体から醸し出していると思います。
2010年6月までは北大交流プラザ「エルムの森」として北大グッズショップが入っていたこともあって、観光客が多く立ち寄る北大のビジターセンター的な役割を果たしていました。
北大グッズショップが正門前に移転してからはひっそりとしていますが、上品な外観の建物がエルムの森の木々によく溶け込んでいて、個人的には北大キャンパスの中でもかなり素敵な風景だと思います。(引用元:WEBで知る北海道大学




(関連サイト)

2014年9月28日日曜日

文科省天下り人事の功罪

久々に、文部科学省から国立大学法人への天下り(出向)人事に関する記事を目にしました。

国立大9割に 文科省「天下り」 理事ら幹部77人出向」(2014-09-01東京新聞)

全国の国立大学法人86校のうち約9割にあたる76校で、計77人の文部科学省出身者が理事や副学長、事務局長などの幹部として在籍していることが分かった。事実上の「天下り」を通じ、国立大の運営に文科省の意向が反映されている恐れがある。

文科省が自民党の無駄撲滅プロジェクトチーム(PT)に提出した資料で明らかになった。PTでは、文科省と国立大との人事交流を若手職員に限るなどの改善を提起する方針だ。

資料は4月1日現在で、文科省から国立大への出向者をまとめた。課長級以上の管理職は国立大ほぼ全ての83大学で、計239人が在籍している。

2013年の同省幹部の出向者は、75大学で75人。管理職は83大学で247人いた。12年は幹部が70大学で70人、管理職は80大学で239人だった。

6月に国会で成立し、来年4月から施行される改正学校教育法は教授会の権限を限定し、学長主導の大学改革を促す。同法の改正では、学長を補佐する副学長の職務範囲を拡大した。副学長への出向を通じ、国立大への文科省の影響力が一層強まる可能性がある。

文科省は「各学長から要望があった際、該当する人がいれば協力をする」(人事課)と要請に応じた人事交流と説明している。

文科省出身の理事2人がいる東京大は「文部科学行政全般に幅広い知識や経験を有した人材は、本学の発展に貢献いただけると期待し、総長(学長)が任命した。出向終了後は文科省に戻るので天下りではない」(広報課)としている。


法人化後10年が経過し、時間の経過とともに正常な違和感が麻痺してきた中で、第三期中期目標・中期計画の策定に向けた検討が始まるこの時期に、改めて文部科学省の人事介入について検証することは大変意味のあることではないかと思います。

文部科学省から理事、事務局長、部長、課長等として配属され、文部科学省の意向に従って全国、あるいは地域ブロックを転勤する事務系管理職の在り様については、このブログでも何度かご紹介しましたし、私見を述べさせていただきました。

国立大学法人の将来を左右する重要な課題ではないかと思います。文部科学省の悪しき権限(権益)を断ち切り、まさに今求められる学長権限の実質化を図り、真の意味での自主性・自律性を確保しなければなりません。

(関連過去記事)

(関連資料)

2014年9月27日土曜日

大学内部規則の総点検・見直し

過日、大学のガバナンス改革を推進するための法令改正(学校教育法、国立大学法人法)が行われたことについてご紹介しました。

また、改正された法令の趣旨や取り組むべき事項を周知するために発出されたいわゆる「施行通知」についてもあわせてご紹介したところです。


各大学は、改正された法令が施行される来年4月1日に向け、施行通知に示された事項を確実に実施することが求められています。

特に、法令改正の趣旨を具体化するための「内部規則等の総点検・見直し」については、多くの時間と労力を必要とする作業となることが想定され、法規担当者はもとより、全学教職員の理解と協力が重要になってきます。


まずは、施行通知に示された関連部分を抜粋してみます。


内部規則の総点検・見直し

1)今回の法改正を契機に、各大学等においては、改正法及び改正省令の施行期日までに、内部規則全体の解釈及び実態の運用と照らし合わせた上で、関係する内部規則について、法改正の趣旨を適切に踏まえたものか総点検し、必要な見直しを行うことが求められること。

その際、各大学等においては、今回の改正事項のうち、教授会の役割の明確化(学校教育法第93条関係)、学長等選考の透明化(国立大学法人法第12条、第26条関係)、経営協議会(国立大学法人法第20条第3項、第27条第3項関係)及び教育研究評議会(国立大学法人法第21条第3項関係)の構成については、改正法の施行を待たずに、各大学等の判断によって内部規則等を見直すことが可能であることに留意した上で、計画的に総点検・見直しを行っていくこと

なお、改正法及び改正省令の施行期日までは、学校教育法施行規則第144条が有効であることに留意すること。

2)内部規則の総点検・見直しの作業は、法改正の趣旨を学内等の教職員に広く周知・徹底した上で、全学的に実施すること

3)内部規則の総点検・見直しに当たっては、規定上の個別の文言のみで判断すべきではなく、内部規則相互の整合性や上下関係・優先関係を確認し、全体を分かりやすく体系化した上で、学長の校務に関する最終決定権が内部規則全体の体系の中で担保されるようにすること

また、意思決定における各機関の責任を再確認し、学長の決定に至るまでの適切な意思決定過程を確立すること

4)内部規則の最終的な決定権は、大学の設置者又は学長が有しており、大学の設置者や学長が、教授会の決定に拘束されるような内容又は手続を規定する内部規則については、見直しが求められること

5)国立大学法人及び公立大学法人においては、法人化以降は教育公務員特例法(昭和24年法律第1号)に定められた教員の採用、昇任、転任、降任、免職、懲戒等(以下「採用等」という。)に関する規定は適用されておらず、教員の採用等については、法律上、審議機関とされている教授会や教育研究評議会、教育研究審議機関に決定権は付与されていないことを踏まえながら、学長の校務に関する最終決定権が担保されているかという観点から、内部規則の適切な総点検・見直しを行うことが求められること


次に、施行通知を踏まえ、去る8月29日付けで、文部科学省(高等教育局大学振興課・国立大学法人支援課連名)から、各国公私立大学長宛に発出された事務連絡を見てみましょう。

内部規則等の総点検・見直しの実施について(下線は小生)

このたび、「学校教育法及び国立大学法人法の一部を改正する法律」及び「学校教育法施行規則及び国立大学法人法施行規則の一部を改正する省令」が成立し、各大学等に対して、文部科学省高等教育局長及び研究振興局長通知(26文科高第441号)を発出したところですが、同通知でもお知らせしているとおり、各大学においては、法律の施行日である平成27年4月1日までに、改正法の趣旨を踏まえた内部規則や運用の総点検・見直しを行うことが求められます。

文部科学省においては、各大学における内部規則等の総点検・見直しが適切に行われるよう、大学における内部規則・運用見直しチェックリスト(別添資料1)を作成しましたので、ご活用いただき、適切に対応するようお願いいたします。

また、改正法の趣旨を踏まえた各大学における総点検・見直しの状況を把握するため、別添資料2でお示ししているとおり、平成26年12月中旬に進捗状況の調査を行うとともに、法律の施行日の到来後となる平成27年4月末には、上記のチェックリストに基づく総点検・見直しの結果についての調査を実施する予定ですので、よろしくお願いいたします。


【資料1】大学における内部規則・運用見直しチェックリスト







【資料2】今後の内部規則等の総点検・見直しの進め方について




内部規則の総点検・見直しに当たっては、法令改正の趣旨、上記施行通知や事務連絡を十分踏まえ作業を進める必要があります。

私見ですが、特に重要と思われるのは、今回の法令改正が意図する「権限と責任の所在の明確化」ではないかと思います。

今回求められる内部規則の総点検・見直しでは、時間的な制約もありますが、法令改正事項に直結する内部規則のみを対象とするのではなく、全ての内部規則を対象に、「学長の権限を拘束するような規定や学長に命令するような規定」が存在していないか、あるいは、「教授会をはじめとする委員会(会議体)が学長の権限を超える決定権限を有するような規定」が存在していないかなどについても、根本からチェックし見直す必要があるのではないでしょうか。

以前、このブログでご紹介した記事の中に、今回の作業に参考になるのではないかと思われる取組みがありましたので、改めて抜粋引用してご紹介したいと思います。

福岡教育大学という国立の単科大学(福岡県宗像市)の取組事例ですが、設置形態や大学の規模の違いを意識することなく参考にできる内容ではないかと思います。

なお、今回の総点検・見直し作業の効率化を図るために、外部業者に委託するようなことをお考えの大学もあるようですが、上記の施行通知(法改正の趣旨を学内等の教職員に広く周知・徹底した上で、全学的に実施すること)や、以下の事例の成果を踏まえれば、大学における業務改革の推進、あるいは教職員の意識改革といった観点からは、必ずしも好ましい方法とは思えませんし、大学構成員がみんなで汗をかくことが重要なのではないでしょうか。


大学のガバナンスの強化に向けた取り組み事例-業務改革推進のための学内規則の再構築」(文部科学教育通信 No279 2011-11-14~No281 2011-12-12)

福岡教育大学における業務改善

国立大学法人には言うまでもなく、効率的・効果的な法人運営が求められており、特に、事務組織が担う業務・運営については、民間企業や学校法人(私立大学)における経営改善に向けた発想やノウハウを採り入れることにより、優秀な事務職員の確保や意識改革を含めた職能開発とともに、機能的な事務組織の構築等を推進し、大学の使命である教育の質の向上、学術研究の高度化、大学運営の活性化等への支援能力を一層強化することが求められている。

(略)

しかし、いまだ、公務員意識やそれに基づく行動様式の大きな変革には結びついてはいないと考えられる。例えば、本来、業務を円滑かつ合理的に進あていくという目的のために定ある学内規則が、いつの間にか学内合意形成の記録文書的な性格に変わっていて、そのたあに、些細なことについてまで規則類の作成が求められ、結果として、詳細かつ膨大な規則類を作成し保管することが目的になってしまっている。まさに「繁文褥礼」であり、細かな規則と煩雑な手続きが、業務の効率的な遂行の大きな障害となってしまっているのである。

学内規則の再構築の意義

福岡教育大学の学内規則は、体系や制定改廃の手続き等を定めた基本的な規程がなかったために、300件を超える膨大な数の規則が無秩序に存在し、利用者にとって非常にわかりにくく複雑なものとなっていた。また、法人化移行時に国立大学等に適用されていた法令等を準用しているために、①規則の内容と実態とに乖離が生じている、②法人化後に必要な規定がないまたは不必要な規定がある、③権限と責任の所在が不明確な規定がある、④規則の制定根拠となる法令等が規定されていないものがある等々の問題を抱えていた。

単科大学として、300件を超える学内規則はいかにも多く、加えて、多層構造の学内規則で細かなところまで規定していては、業務の簡素合理化が一向に進まず、いつまでも人員不足、超過勤務の解消を図ることはできない。業務改善を効果的に進めるためには、コンプライアンス(法令遵守)や内部統制の確保を前提とした上で、裁量権にある程度の幅を持たせることが重要である。そのためには、学内規則の制定改廃手続きの明確化、体系等の整備を図り、利用者の利便性の向上を図るとともに、必要に応じて規則の内容を見直すことにより、内部統制に留意した業務の簡素合理化を図る必要がある。

学内規則の再構築については、このほかに、監事監査において「各規程の改廃手続き、改廃権者が明示されていない」「『申し合わせ』や『申し合わせ事項』など規程としての位置づけが不明瞭なものがある」として改善が求められていたこと、さらには、次のような指摘や要請に対応する必要が生じていたことも背景の一つになっている。

1)「国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて」(2009年6月文部科学大臣決定)において、第二期中期目標期間に向けた国立大学法人における業務運営の改善および効率化等を図るための見直しの視点として、「法人のガバナンスの充実」、「法令遵守体制の充実」が掲げられていたこと。

2)「国立大学法人における規則の制定状況について」(2010年3月文部科学省高等教育局国立大学法人支援課事務連絡)において、国立大学法人における規程の制定状況に関し、「規則等間の階層関係が明確でない、規則等の関係が複雑化しているなどといった課題が見受けられるため、職員等に対する規定内容の明確化を図るよう」要請が行われていたこと。

3)「国立大学法人化後の現状と課題について(中間まとめ)」(2010年7月文部科学省)において、ガバナンスの強化に係る今後の改善方策として、「学内における意思決定プロセス明確化のため、学内手続を定ある学則、法人規則等の整理を進めるとともに、学内の各種手続について、簡素化等の見直しを図ること」が要請されていること。

学内規則の再構築の手法

学内規則の再構築に当たっては、学内規則の簡素化、制定改廃手続等の軽減および利用者の利便性の向上を図ることはもとより、学内規則に規定されているために業務改善が進めづらい事項について、「学内規則に規定されている業務は本当に必要なのか」「規定されているという理由だけで漫然と処理している業務はないか」「規定されている手続きをさらに簡単にできないか」「権限と責任の所在は明確になっているか」「権限を委譲することによって業務の効率化が図れるのではないか」「内部統制は適切に機能しているか」等の視点から徹底的に検証するとともに、図1のような検討方針を作成し、規定そのものを抜本的に見直すこととした。


図1 学内規則の再構築に向けた検討方針

  • 責任の所在の曖昧な専決権限を全学的に見直すとともに、ルーティン業務は極力権限委譲する方向で検討を進める。
  • 新たに文書決裁に関する規程を制定し、決裁に関する権限と責任の所在の明確化を図る。
  • 慣例的な業務を徹底的に廃止するとともに、業務の標準化やマニュアル化による弾力的な業務遂行を検討した上で、規定と実態の乖離や慣例を是正する。
  • 学内規則を、廃止・統合も含めて可能な限り通知やマニュアルという形式へ移行し削減する。
  • 通知やマニュアルは、制定権者を学長や部局長に限定せず、実情にあった青荏者(理事、部局長等)が定めるとともに、教職員が容易に理解でき、迅速かつ円滑な手続等が進むよう、法形式にとらわれず、フロー図や具体例を活用するなどわかりやすい構成にする。
  • 学内規則で規定していた「様式」等は、原則として記載例等を添え通知やマニュアルに移行する。


次に、再構築を円滑に進めていくため、次の3つの項目についての明確化を行った。

第一は、「新しい学内規則の体系はどうなるのか」である。300件を超える膨大な数の規則の体系を、限りなくシンプルにすることとし、「運営規則」「学則」「規則」「規程」「校・園則」「細則」の6種類とした(図2:略)。新しい学内規則は、法人又は大学の規範として学長または部局長が定めることとし、制定・改廃は、新たに制定する「学内規則等の制定改廃に関する規程」に基づき行うこととした。また、従来の内規、要項、要領、申合せ等は、学内規則の簡素化、制定手続きの軽減等の観点から、原則として学内規則としての取り扱いから、「重要通知」「手引」といった法人文書としての取り扱いに移行することとした(図2:略)。「重要通知」は、学長、理事、部局長が申合せ事項等の決定事項を学内に通知するものとし、一般的な通知と異なり、廃止するまでその効力を有するものとして定めることとした。「手引」は、大学の構成員が利用する手続き、手順等をフロー図等によりわかりやすく解説するものとした。

第二は、「どのような方法により見直しを行うのか」である。従来の規則、規程、細則については、新しい学内規則の体系(以下「新体系」という。)においても存続させることとするが、手続的な事項などの重要通知または手引への移行(図3中②:略)や、規則等の統合等について検討することとした。また、従来の内規、要項、要領、申合せ等については、新体系では、学内規則として取り扱われなくなるため、重要通知又は手引への移行(図3中①:略)または廃止する(図3中④:略)方向で検討することとした。ただし、学内規則として規定する必要がある重要事項については、関連する規則等へ統合または新たな規則等の制定(図3中③:略)について検討することとした。

第三は、「どのような手順により見直しを行うのか」である。作業のプロセスを大きく4段階に区分した。まず、第一段階として、学内規則を管理する事務担当課において当該規則に係る「課題の検証」を行った。第二段階として、検証結果に基づく「改善策の検討」を行った。検討結果が妥当と判断された場合には、第三段階として、「学内規則案(重要通知・手引案を含む)の作成」および必要に応じた関係課との調整に移ることとした。検証や検討の妥当性の質を確保する(判断水準の低下を避ける)ため、各事務担当課におけるチェック項目を共通指標(図4)として定めるとともに、各段階において、事務局法規担当による検証を経ることとした。


図4 課題の検証及び改善策の検討のための共通指標(チェック項目)

1 この学内規則は、機能しているか。

  • この学内規則の規定のとおりに業務ができているか。
  • この学内規則の規定のうち使われていない部分があるか。
  • 必要とされることが規定されていないもの、必要でないことが規定されているものがあるか。
  • この学内規則に、規則内その他関係法令と矛盾するところがあるか。
  • この学内規則に規定されているからやっているといった、無駄と思える業務があるか。
  • この学内規則は、利用する人にとってわかりにくいか(例:いくつもの学内規則を見ないと理解できない構成になっている)。
  • この学内規則に規定する手続をもっと簡単にできるか。

2 この学内規則に規定する権限者は、機能しているか。

  • この学内規則に規定する権限者でなければ、業務に支障をきたすか。
  • 責任等を明確にすることにより権限を委譲することができるか。
  • 権限を委譲することにより業務が簡素化できるか。

3 関連する又は他の学内規則との統合による合理化はできるか。

  • 上位・下位に当たる学内規則と統合できるか。
  • 他の学内規則と統合できるか。

4 様式がある場合、廃止、合理化できるか。

  • 様式が必要か。
  • 記入項目は必要最低限か。個人情報保護を踏まえたものか。
  • 利用者の立場に立ったわかりやすい様式か。

5 以上の結果どうするか

  • この学内規則は、廃止できる。
  • この学内規則は、全て別の方法(重要通知又は手引等)により運用できる
  • この学内規則の一部は、別の方法(重要通知又は手引等)により運用できる。
  • 学内規則として規定しなければならない。(重要な事項が定められている。)
  • 法令等により必ず学内規則として規定しなければならない。

(略)

新たな学内規則の作成に当たっては、「国立大学法人福岡教育大学学内規則等の制定改廃に関する規程」(2010年11月19日制定)に基づくほか、規定内容の統一性や整合性を図るため、図5のような取り扱いとした。


図5 規定内容の統一性や整合性を図るための共通指針

1 学内規則の名称及び内容

「国立大学法人福岡教育大学」に係る学内規則と「福岡教育大学」に係る学内規則の区分の明確化を図る。区分の判断は、「『国立大学法人福岡教育大学』と『福岡教育大学』の名称使用について」(2009年6月12日学長決定)に準じて行う。「略称」については、「国立大学法人福岡教育大学」の場合は「法人」又は「本法人」、「福岡教育大学」の場合は「本学」とする。また、全学的な学内規則と部局(教育学部、大学院教育学研究科等)の学内規則の区分の明確化を図るため、全学的な学内規則については、法人名又は大学名を、部局の学内規則については、法人名又は大学名の後に部局名を加える。

2 学内規則の目的・趣旨、設置根拠の明確化

規定の冒頭(第一条等)に、当該学内規則の「目的」又は「趣旨」を明記するとともに、当該学内規則の「設置根拠となる法令又は学内規則」を明記し、当該学内規則との関連や体系を明確にする。

3 規定に用いられている役職名の表記

「副学長」に関し様々な表記が用いられているため、これを「理事(○○○担当)」に統一する。

4 委員会規程等における委員会等を構成する者の表記

様々な表記が用いられているため、これを「委員」に統一する。

5 学内規則の簡素化、制定手続きに係る負担軽減

学内規則上の「様式」類については、元号の変更や事務担当の変更など軽微な修正に係る改正手続きを簡素化し、利用者への柔軟かつ迅速な対応が可能となるよう、「手引」へ移行する。

6 「事務担当課」の明確化

当該学内規則に係る事務を所掌する組織が規定されていないものがあるため明確化を図る。なお、様々な表記が用いられているため、「○○○に関する事務は、○○課(室)において処理する。」に統一する。

7 「別に定める規定」の表記

当該学内規則に定めのない必要事項を別に定めることとする規定を明確にする。なお、別に定める規定は、権限と責任の所在の明確化を図る観点から、「制定(審議等)プロセス」及び「制定権限者」を明記する。(例:この○○○に定めるもののほか、○○○に関し必要な事項は、○○○の議を経て、○○○が別に定める。)


学内規則の再構築は、以上のような手順等に従って進めた。なお、大きな論点の一つに「重要通知」の取り扱いがあった。重要通知とは、手続、手順、申合せ的事項について定めた従来の内規等(内規、要項、要領、申合せ等)のうち、内容の存続を図るものは、学内規則の簡素化、制定手続の効率化等の観点から、学内規則としての取り扱いから法人文書としての取り扱いに移行するものであり、学長、理事、部局長が作成し学内に通知する文書とし、一般的な通知と異なり、廃止するまで効力を保有(効力をなくす場合、内容を変更する場合は、改めて通知)するものとした。

また、重要通知は、重要な法人文書として学内規則に準じた管理を行う必要があるため、「文書処理規程」において、重要通知の「定義」を定めた。一部の教員から、今後は、学長や理事の権限により、容易に重要通知を発することが可能になるのではないかとの懸念が示されたこともあり、同規程に「作成に当たっては、必要に応じて、関係委員会等において検討を行うものとする」旨の規定を追加した。さらに「必要に応じて」の解釈に関し、関係委員会等への付議を省略する場合を明確にするたあ、学内規則同様、①法令又は学内規則の改正に基づく法令名等名称の変更又は適用条項の変更による改正を行う場合、②組織の設置改廃等に伴う組織名又は職名の変更による改正を行う場合、③用字、用語及び送り仮名の整備による改正を行う場合、④元号の改正による改正を行う場合、⑤その他改正内容が形式的で軽微なものと認あられる場合に限り、関係委員会への付議を省略できることとした。

学内規則の再構築の成果と残された課題

2010年秋に事務局法規担当において事業の企画立案に着手して以来、全学的事業としては、①学内規則の再構築に関する考え方・手法・スケジュールを定めた設計図ともいうべき基本方針の策定(2010年10月役員会決定)、②学内規則の体系や制定改廃手続き等を定めた基本的な規程の制定(2010年11月)、そして最後に、③学内規則の再構築事業に基づく新たな学内規則の制定改廃(2011年3月末)という3つのプロセスを約半年間の間に順次進めることができた。

その結果、当初3百件を超える膨大な数の規則が無秩序に存在していた学内規則の体系を、運営規則、学則、規則、規程、校園則、細則の6階層とし、規則等の数も242件にスリム化(制定75件、改正165件、廃止140件)した。再構築を進めていく中で発見された"埋もれた申合せ"等を含めれば、大幅なスリム化が図られたと言える。また、規則体系の明確化、規則のスリム化だけでなく、例えば、制定改廃手続の簡素化・明確化、規則(ルール)と実態(慣例等)との乖離の是正(法令遵守の徹底)、権限と責任の所在の明確化、利用者の利便性の向上、そして内部統制に留意した業務の効率化・合理化の実現など、所期の目的は十分に達成されたのではないかと考えている(図2:略)。

また、学内規則の再構築に関する検証を行うために実施した事務職員に対するアンケート調査においても、「学内規則の体系が整備されたことにより規則等の重要度・関係性がわかりやすくなった、規定の不合理な点が改善されたことにより監査への対応が効率化した、組織の縦割りにより無秩序に作成し埋もれていた規程等がおおやけになった」という「業務改善」の面からの効果とともに、「再構築作業を通じて業務の目的・意義・根拠などを意識することができた、実務担当者レベルで学内規則に向き合う機会となり問題点の発掘につながった、学内規則に準拠した業務処理を意識するようになった」といった「意識改革」の面からの効果を評価する意見も寄せられた。

福岡教育大学における学内規則の再構築については、(略)全学的な事業に着手して以降、わずか半年という短期間での作業だったにもかかわらず、所期の目的は概ね達成されたのではないかと考えられる。

しかし、一方で、

  • 一部の学内規則については「体系整備」にとどまり「内容の検証・改善」には至らなかったこと
  • 学内規則の検証過程(特に他大学の規則との比較)において、学内規則の内容や制度の最適化を図るべき課題が見えてきたこと
  • 学内規則の制定改廃(形式、手続き、用字、用語等)に関する統一マニュアル(重要通知、手引の記載内容等、体裁の統一を含む)を整備することが必要であること
  • 法務(学内規則の制定改廃)に関する事務職員の能力開発の強化が必要であること
  • 学内規則のホームページ等を通じた社会への公表が必要であること

といった新たな課題も確認することができた。

全学的な企画立案、取りまとめや調整を行った事務局の法規担当者やタスクフォースのメンバー、各規則の検証、改善策・規定案の作成を行った各事務組織の担当者、月例で進捗管理を行った事務協議会構成員、関係会議において検討を行った教職員、全学的な事業の推進役を果たしていただいた学長・理事の皆様に対し、この誌面をお借りして心からお礼を申し上げたい。

2014年9月26日金曜日

子どもの貧困

「子供の貧困対策大綱」閣議決定」(2014年09月23日毎日新聞)をご紹介します。


◇政権の本気、感じられず

やはり、安倍政権は本気ではなかった−−。政府が8月29日に閣議決定した「子供の貧困対策大綱」への、偽らざる感想だ。「日本の将来を担う子供たちは国の一番の宝」だとし、対策の重要性を強調したことには一定の意義がある。だが、崇高な理念に見合う実効性を担保できたかは、残念ながら疑わしい。

平均的な年収の半分を下回る世帯で暮らす17歳以下の子供の割合を示す「子供の貧困率」は、2012年に16・3%と過去最悪になった。困窮家庭の子供や親の養育を受けられない子供は、経済面をはじめさまざまな苦境にさらされる。大綱には1月に施行された「子どもの貧困対策法」に基づき、国の具体策や理念が盛り込まれた。

策定にあたり、子供を支援する専門家や当事者らは、返済の必要がない給付型奨学金などの現金給付を充実させ、国としていつまでにどれほど貧困を解消するか数値目標を定めるよう声を上げ続けた。だが、政府は財源不足などを理由に、提案をことごとく退けた。並んだのは従来の施策やその延長線上の事業ばかりで、大胆さに欠けていた。

◇本音隠す官僚と後ろ向き財務省

一連の取材で最初に違和感を感じたのは、対策を主に受け持つ内閣府、文部科学、厚生労働両省の官僚の姿勢だ。大綱づくりに役立てようと内閣府に設置された検討会は教育、福祉など幅広い分野の専門家らで構成された。各界の第一人者が、現在の課題と大綱への希望を力説した。

会合に同席した官僚たちは、専門家らの訴えを神妙な表情で聞いた。だが、彼らは一度その場を離れると「財源確保は困難」と一様に小難しい顔をするのだ。なぜ会合で発言しないのか。ある官僚は「現実をぶつけると議論がつまらなくなる」と説明した。

居並ぶ官僚が本音を隠し、関係者に言いたいことを吐き出させる構図はどこか異様で、誠実さに欠ける。限りある財源を有効に使うため、官民で知恵を出し合えばよかったのではないか。「要するにガス抜きですね」。ある傍聴者の見立てが、あながち外れていないと思えてくる。

財務省からの横やりも、政権の「本気度」を疑わせた。3月末、財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の分科会。子がいる世帯が受け取る生活保護費は、年収300万円未満の低所得世帯の消費水準を上回るとして、同省は生活保護の母子加算を削減するよう主張した。この事実が5月中旬、社会保障審議会(厚労相の諮問機関)の部会で紹介されると、委員からは「母子加算削減と子供の貧困対策を一度にするのはブレーキとアクセルを同時に踏むようなもの」と反対の声が噴出した。田村憲久厚労相(当時)ら関係閣僚からも、財務省をけん制する発言が相次いだ。

財務省は結局、生活保護の別の扶助や加算の削減を主張する立場へと転じた。だが、一連の経緯は「貧困問題になるべくカネを出したくない」という財務省の本音だけでなく、政府が一枚岩ではなかったことまで露呈させたといっていい。

◇首相のアピール、中身なく失望

私は安倍晋三首相の「本気度」も怪しいと思っている。首相は子どもの貧困対策法に基づいて設置された「子どもの貧困対策会議」の会長でもある。どんなに官僚が渋っても、首相が仕向ければ重点的に予算が投入されるはずだ。でも、そうした指導力を発揮した様子は、残念ながら見受けられない。

がっかりさせられる出来事があった。大綱の閣議決定直前に開かれた子どもの貧困対策会議。首相は前日に検討会メンバーと懇談したことに触れ「(大綱は)私自身も昨日有識者から直接お話をうかがったうえでとりまとめた」と述べたのだ。あたかも大綱の充実に首相が一役買ったような言いぶりだったが、内容は関係省庁や与党の調整を経て既に固まっていた。

懇談は首相側の要請で実現した。積極姿勢をアピールすることはあるのかもしれないが、懇談後に内容が拡充されたわけではない。誇張が過ぎると、子供たちの失望につながる。少なくとも、首相にとって子供の貧困対策は、特定秘密保護法や集団的自衛権の行使容認のように、反対を押し切ってまで断行する政治課題でなかったことは確かだ。

子供の貧困は長い間、その存在すら認知されない問題だった。生半可な対策では、人知れず己の運命に涙する子を減らすことにはならないだろう。数値目標を掲げて優先的に予算を配分し、現金給付などの施策を実現させる必要がある。安倍政権は今後、本気で問題に取り組むのか。取材を続けたい。


(関連記事)


2014年9月24日水曜日

組織改革、人材育成、リーダーシップ

桜美林大学教授の篠田道夫さんが書かれた組織改革、人材育成、リーダーシップ-日本の事例」(文部科学教育通信 No346 2014-8-25)を抜粋してご紹介します。


学長のリーダーシップを強化する組織改革

筑波大学の創立当初の管理運営改革案は、当時としては斬新かつ先駆的なものであった。「従来の学部自治を改め、大学一本の自治体制が構想され、研究・教育・厚生補導の三副学長制の他、卒業生・市民有識者・評議員からなる理事会、学部教授会を人事の立案だけにとどめる全学人事委員会システムなどが提案されていた。複数の副学長制には、一般教員を管理運営の責務から解放し、教育研究に専念させるという意図も含まれていた。また、従来の事務局の他に企画調査局や公開大学局を設置」するなど、全学的なリーダーシップの貫徹と参加型ボトムアップが両立する形で、企画部局や情報公開など先進的な組織配置であった。その後紆余曲折を経て組織名称や役割は変更されたが、トップのリーダーシップを重視し効率よく運営していくという基本は堅持されてきた。

リーダーシップを貫徹する上では、末端の教員組織を方針が浸透する形でいかに編成するかが決定的だ。筑波大学は当初から学部を廃止し学系組織で運営されたが、ここが人事権や財政権を持ちながら研究組織として機能したため、あまりにも権限が強くなりすぎて教育組織からの要求がほとんど受け入れられず教育が後退する弊害が生じていた。

そこで教員組織と教育組織の分離を行い、学系を廃止し10の大きな系を設置、それが教育組織である9の学群と8つの大学院研究科と緩やかに対応する組織編成とした。学系会議の持っていた機能も、人事案件の審議機能は系の教員会議へ、教育のプログラム運営は学群・研究科の教育会議で行うというように二つの機能を明確に分けた。

その上で10人の系長には大きな責任と権限を委譲するとともに大学執行役員を兼務することで全学的立場から系の運営ができるシステムとした。併せて役員体制も見直し、新たに国際、学生、情報担当副学長を設置、それまでの総務・人事、財務・施設、研究、教育などと合わせ9人体制とし理事を兼務して経営責任を持つなど学長の下での全学掌握体制を強化した。

学長補佐は14名体制とし、組織的に職務を遂行すべく学長補佐室を置き総合調整機能を強化、担当分野の責任と併せ統合的な力を発揮できるようにした。学長のリーダーシップの下に学位プログラム化を推進すべくグローバル教育院を設置、教育研究環境の整備、人的資源の戦略的な配分、学生支援の充実を、系の上に立って横断的、全学的に推進できる機構とした。

大きな組織であればあるだけトップのリーダーシップの発揮は制度や組織、規程に阻まれ、困難になる。創立当初からのリーダーシップが貫徹する運営組織作りの伝統を堅持し、様々な議論を重ねながら組織改革を積み上げることで、直面する課題遂行に相応しい意思決定と執行システムを作り上げてきた事例と言える。

優れた改革プランも、こうした組織改革による執行権限の強化、リーダーシップ貫徹のシステム構築なしには、特に大規模大学では一歩も前進しない。

職員のプロフェッショナル化と運営参加

大工原氏は「これまでの大学経営は、経営の専門家でなくても可能であったが、これからの大学経営は大学経営の専門家が必要」で、とりわけ「大学経営のプロとしての職員の必要性」が高いと指摘したうえで、自身が会長を務める大学行政管理学会の職員育成の取り組みを紹介する。

創立時534名だった会員は現在1327名、テーマ別研究会は、大学人事研究、大学職員研究、財務研究、大学経営評価指標研究、大学事務組織研究、教育マネジメント研究など12にのぼる。会員の関心分野のトップ5を上げてみると、①組織、②大学職員論、③人事、④教育、⑤トップマネジメントと組織や人事、トップや職員のあり方などマネジメントに関心が高いことがうかがえる。これまでわが国の大学職員は存在感が薄かった。

しかし、近年、厳しい競争環境の中で職員の役割への期待と桜美林大学をはじめとした職員養成の大学院ができ、また行政管理学会をはじめとした研究・研修組織の発展、職員自身の取り組みの前進により、プロフェッショナルとしての認知と力量形成システムが整備されてきた。私立大学職員数は12万人を超え、医療系従事者を除いた事務系でも6万人近くになり、その力は大きい。

18歳人口の減少、グローバル化の急展開等、大学を巡る競争環境は激化の一途をたどるなかで、「これまでのぬるま湯的経営から脱却して、厳しい競争に勝てる経営に発想を転換する必要がある」。「学生にとって魅力があり、社会にも役立つ大学に改革すべき」で、そのためにも「プロフェッショナル職員が必要」となっており、危機の時代だからこそ「プロとしての存在感を示す絶好の機会である」。そのために「意思決定に必要な提案、助言のできるプロフェッショナルとしての高度な知識、能力を開発すべき」とする。

大学行政管理学会の設立時からの提言は、高度なプロフェッショナルとしての能力を持った行政管理の専門家の育成と、大学組織やマネジメントの改革、近代化、管理運営面での改革の重要性である。設立趣旨の中でも述べている「教員統治」「教授会自治」の伝統的運営をいかに近代化するか、行政管理の専門職の中核を担う職員がいかに大学運営に参画し、その運営の中軸を専門的に担うことができるか、ここに、これからの大学の未来がかかっている。

大学の戦略目標を達成する上ではこれまで述べてきたトップの指導力が不可欠だが、トップだけで目標の達成は不可能だ。それを支える教員と、特にマネジメントの遂行や教学支援において、職員の果たす役割は決定的だ。トップが正しい判断や政策立案を行い、それを迅速に執行していく上で職員の専門的な課題発見や問題解決力は欠かすことができない。

それは職員のすべてが現場におり、実態やニーズ、問題点を熟知し、それに関るデータを持っているからにほかならない。この現場にいる職員が問題分析力や企画提案力を身につけ、情報発信できるか、ここに大学の未来がかかっており、その総和こそが大学改革力にほかならない。トップを支える中堅職員の力が問われている。

大学リーダーの役割と企業家的経営

矢野教授は、グローバル化時代には人的投資のあり方が問題で「教育と研究への投資は、経済を活性化させるだけでなく、成果である所得の分配を平等化する源泉である」として、大卒プレミアム(収益率)は日本では維持され、アメリカでは大きく向上している点を指摘する。したがって、「学歴間格差の拡大という事実、およびグローバル化と技術進歩のインパクトを重ねると、大卒が過剰だとは考えられない。未来の経済活力の促進と社会の平等化のためには、さらなる人的資本投資が必要なのである」と結論づける。

「今日の大学政策に求められている課題は、マンパワー政策、学術研究政策および高等教育財政政策の3つ」だが、こうしたグランドデザインは文教政策の論議の俎上に上らず、マクロの展望を欠いている。しかし、政府に何かを期待するのでなく個々の大学が創意工夫するのが大事である。「グローバル時代の大学に求められているのは、未来を先取りする企業家的大学経営である。大学の経営は、入口と出ロの新しいマーケットを開拓し、入学してくる学生を将来の職業に接続させなければならない。大学経営の戦略は、入口と出口の新しい市場の開拓と共にある」「そのためには、マクロな市場変容を展望し、その大きな流れを個別大学のミクロな市場に具体化させる力が求められる。大学経営の革新は、市場の革新だから、大学幹部職員に期待されているのは、マクロとミクロを接続する想像力であり、分析力であり、企画力だ」と提起する。これは、大学の経営の今後そして幹部のあり様にとって非常に重要な提起だと思われる。

「企業家的大学経営」の提起は、まさに戦略経営であり、大学を管理運営していれば良い時代からの転換である。マクネイの大学組織モデルーでは、大学の管理運営を同僚制、官僚制、法人性、企業性の4つに分類する。政策方針を明確に策定し、戦略の共有を前提に環境変化や顧客ニーズの変動に現場で敏感かつ柔軟に対応できる「企業性」組織モデルへの移行が、今日の大学組織改革のひとつのテーマとなってきた。明確なトップの戦略設定とその実践における分権化の新たな組織体制の構築、大学組織におけるトップと現場の権限委譲と新たな接合システムの創造が必要となっている。

「マクロな市場変容をミクロな市場に具体化する力」「入口と出口の新しいマーケットの開拓」も、今日の大学戦略のかなめである。学術的卓越性だけで存立できる大学はほんの一部で、大半の大学は入口と出口を最重視した大学改革が求められている。入ロと出口は社会の接触面であり、ここでの評価が大学の評価を規定する。

「大学の革新は市場の革新」は重要な点で、外を動かし外と結び付ける力、市場と大学の接続、外の変化を内部改革につなげる力、これがマネジメントカの核心をなす。市場の中で価値を証明することなしに今日の大学の発展はない。その際、「想像力、分析力、企画力」が中核的力になる。それは、市場の変化が予測困難であり、正確な実態分析をベースにしつつ今後の動向変化への想像力が不可欠で、そこに基礎をおいた企画力が問われている。中国の3つの大学が提示したトップリーダーの役割の基礎となる考え方の指摘だと言える。

具体の事例として、国立大学人事担当理事の苦悩・懸念・期待を挙げる。苦悩は上からの人件費削減圧力と下からのスタッフ拡充圧力の間での矛盾である。懸念は大学全体の戦略と現場実態を結合する上での一般職と専門職の未分化、あいまいさである。そこからの期待として現場の問題点を改善政策に結び付ける力を持った専門スタッフ、「企画型業務」の増加であり新たな業務への積極的挑戦で、この点は大工原氏の提起とも重なる。

政府の政策に期待するより「日常的な実践を改革する経営が求められている」。かつての狭いマーケット、変化の小さい安定した時代には、閉じた自律組織でも何とか生き延びてこられた。今では、市場の拡大と激しい変化への対応が不可欠だ。不確実で不安定な環境の中では、変化に対応する組織からさらに一歩進んで未来を先取りする戦略、企業家的な大学組織が求められる。この交流討論会でのマネジメントやリーダーシップのあり方に関る提起の総括的方向づけとなっている。


2014年9月23日火曜日

共感してもらう

ブログ「人の心に灯をともす」から本当にすごい人」(2014-09-20)を抜粋してご紹介します。


「ロバを水飲み場に連れて行くことは出来るが、水を飲ませることは出来ない」ということわざがある。

ロバの喉(のど)が渇けば、言われなくてもロバは自分から水を飲みに行く。

人も同じで、売り込まれれば売り込まれるほど、気持ちがさめてサッと引いてしまう。

買いたくもないのに売り込まれれば、嫌な感じを持たれるだけだ。

共感し、納得すれば、買わせてほしい、逆に頼まれる。

売り込むのではなく、自分の考えを伝え共感してもらうこと。

そのためには、淡々と努力を重ね、自らの実力をたくわえること。

いくら外側の箱が立派でも、中身がスカスカでは誰も魅力は感じない。

頼み込むのではなく、「やってほしい」とお願いされる人でありたい。


2014年9月22日月曜日

オープンアクセスジャーナル論文処理費用への対応

国立国会図書館が運営する「カレントアウェアネス・ポータル」から大学/研究機関はOA費用とどう向き合うべきか<報告>」(2014-09-11)をご紹介します。


2014年8月4日、国立情報学研究所において第1回SPARC Japanセミナー2014「大学/研究機関はどのようにオープンアクセス費用と向き合うべきか-APCをめぐる国内外の動向から考える」が開催された。以下、概要を報告する。

はじめにセミナー企画者の一人である東京大学附属図書館の金藤伴成氏による趣旨説明が行われた。オープンアクセス(OA)雑誌における論文処理加工料(APC)について、Wikipedia英語版には「著者自身ではなく所属機関や研究資金提供者が支払う」と書かれていることを引きつつ、これは資金の出処が所属機関等であるというだけではなく、支払い手続きも機関が担うという意味に広げて捉えられるとし、機関がAPCに向き合うことの必要性が述べられた。

次いで京都大学附属図書館の井上敏宏氏により、2013年度に実施されたOA雑誌に関する2つの調査、SPARC Japan OAジャーナルへの投稿に関する調査ワーキンググループによる「オープンアクセスジャーナルによる論文公表に関する調査」と、国立大学図書館協会学術情報委員会学術情報流通検討小委員会による「オープンアクセスジャーナルと学術論文刊行の現状」の概要報告が行なわれた。SPARC Japanによる調査については、その結果を踏まえ、APCについても価格交渉を誰かが行わなければ、電子ジャーナル同様の価格高騰が起こるのではないか、との危惧が述べられた。学術情報流通検討小委員会による調査については、井上氏自身も委員として参加したもので、Web of Science収録雑誌を対象に、Directory of Open Access Journals(DOAJ)によってOA雑誌を特定し、論文出版数の推移を分野ごと、国ごとに見たものである。分析の結果として、OA雑誌掲載論文の増加率は購読型雑誌掲載論文の増加率を上回っているものの、現在のシェアは10%未満であり、雑誌購読費に関する悩みは当面継続する、との予測等が述べられた。

続いて旭川医科大学図書館の樋口秀樹氏、日本原子力研究開発機構(JAEA)の早川美彩氏により、APC把握に関する活動事例が報告された。

樋口氏は旭川医科大学におけるAPC把握の試みを紹介した。資料購入費については多くの大学で、教員個人が購入した場合でも図書館を経由して会計処理をしているが、APCは会計処理のフローがはっきりせず、情報が散逸している。そこで旭川医科大学ではAPCや別刷料は全て図書館が処理するとアナウンスし、これにより私費以外の全ての支払い状況を把握できるようになった。このように機関全体のAPCに関連する情報を図書館が得ることはそれほど難しくはないものの、伝票等からはAPCであることや、支払先がわかりにくい場合も多く、集計は困難であることも紹介された。

早川氏はJAEAの研究開発成果管理業務を紹介した。JAEAでは研究者の論文・口頭発表情報の取りまとめと、抜刷料等の外部発表助成業務を図書館が担っていて、APCの支払いも図書館が行っている。図書館がこのような業務を担うことには、研究室の規模による格差の是正や事務手続きの効率化、研究者のOA雑誌に関する悩みを図書館が把握できること等のメリットがあると述べた。一方で、外部発表助成は当初は高額なAPCを想定したものではなかったため、近年APCに係る費用負担が課題となっていることも述べられた。

最後に登壇した三重大学人文学部の三根慎二氏は、APCに関する近年の国際動向をまとめた。英国におけるFinch Reportの発表以降、APCが海外で話題になっているとした上で、関連する各領域の現状が述べられた。発表の最後には2014年3月に発表されたレポート、“Developing an Effective Market for Open Access Articles Processing Charges”の概要が述べられた。助成機関等がAPCを無条件に支払うと、研究者は価格を気にせず発表するので価格競争がなくなり、出版者がAPCを吊り上げかねない。レポートの結論ではAPC市場の革新性を維持し、価格競争を保証せねばならないと述べているという。

休憩を挟んだ後に行われたパネルディスカッションでは、日本の研究者とOA雑誌・APC、大学・研究機関によるOA雑誌論文数・APC支払額の把握、誰がAPCの支払いに関わるのか、機関によるAPC負担・関与のモデルと財源等のトピックについて、活発な議論が交わされた。ディスカッションの最後にはモデレータの金藤氏から、当面何をしていくべきかについて提案がなされた。具体的には、国際動向の把握や、各機関におけるAPC支払い状況の把握、ステークホルダー間の対話の必要性等とともに、機関がAPCに関与するにしてもしないにしても、予算化の前提としてOAに対するポリシーをまず固めることが必要であることが述べられた。

セミナーを通して、機関としてAPCに向き合う必要性は感じているが、しかしどう関わればいいのかわからないという図書館側の戸惑いが感じられた。いずれにしても判断を下すためには、現在のAPC支払い状況を把握することが必要であり、その方法については本セミナーの発表等が参考になるだろう。(同志社大学社会学部・佐藤翔)

Ref:
http://www.nii.ac.jp/sparc/event/2014/20140804.html
http://www.nii.ac.jp/sparc/publications/report/pdf/apc_wg_report.pdf
http://www.janul.jp/j/projects/si/gkjhoukoku201406a.pdf
http://www.wellcome.ac.uk/stellent/groups/corporatesite/@policy_communications/documents/web_document/wtp055910.pdf
E1579
E1495

2014年9月21日日曜日

学長を育てる

関係者の皆様は既にご承知のとおりですが、去る6月26日、大学のガバナンス改革を促進することを目的とした「学校教育法及び国立大学法人法の一部を改正する法律」(平成26年法律第88号)が公布され、また、8月29日には、「学校教育法施行規則及び国立大学法人法施行規則の一部を改正する省令」(平成26年文部科学省令第25号)が公布されました。いずれも平成27年4月1日から施行されることになります。

これを受け、文部科学省は、去る8月29日、各国公私立大学長当宛に、法令改正の趣旨、概要及び留意事項等に係る「施行通知」を発出しています。

今回の改正は、一言でいえば、「学長がリーダーシップを一層発揮できるようにするための環境整備」が主目的のようですが、少しうがった見方をしてみれば、①学長の強力な助っ人として学長権限の一部を有する副学長を設置すること、②これまでややもすると学長(又は大学経営)の足かせとなってきた教授会の権限を抑制(もっと悪く言えば骨抜きに)すること、③学長選考に直結する法定会議(経営協議会、教育研究評議会)の構成員の多くを学長寄りにすることなど、「学長権限の強(大)化」という意図が透けて見えるような気がします。

国立大学は、現在、法人化後10年が経過し、来年度には第二期中期目標・中期計画を終えるわけですが、国民が拠出した貴重な税財源に支えられて経営しているという緊張感・自律性、さらには、少子化・グローバル化・イノベーションといった多くの課題解決に向けた改革意識、危機感・スピード感の欠如は相変わらずであり、社会からの厳しい指摘は甘んじて受けとめなければなりませんし、学長をトップとした経営層の更なる推進力強化が求められているところです。

一方、現実には、大学を牽引する立場である学長や役員などの大学の経営層の中には、未だに経営や改革に必要なスキルや熱意に欠ける方々が少なくない(特に、学長に意見できないイエスマン理事、政策立案能力のない丸投げ理事、波風が立たないことを優先するサラリーマン理事が多い)との指摘もあり、今回の改正を梃にして、更なる努力が期待されるところです。

私見ですが、今回の改正で、少しばかり懸念されるのは、国会での法案審議の際にも議論されたように、学長権限の強化に伴う「独走や暴走」ではないでしょうか。もちろん存在意義を失った学長は、現在では、各大学の内部規定において「解任」可能な仕組みにはなっておりますが、問題は、誰が実質的な解任権限を持つかということではないかと思います。

国立大学法人の場合、学長選考会議の構成員の半数以上は学外者から選出することになっています。この方々は、一般的には、経営協議会の学外委員がそのまま自動的に選出されるようになっています。そして、この経営協議会の学外委員を選任する権限を持つのは、学長なのです。

つまり、学長の進退に係わる強力な権限を持つ学長選考会議の学外委員は、学長が就任をお願いした方々(学長の考えを理解し認識を共有している学長寄りの方々)というわけですので、学長が、大学経営や改革に消極的あるいは支障を来したとしても、よほどのことがない限り「解任」ということにはなりえないでしょう。

今回の改正で更なる「権限の一極化」が進むことになります。これまで以上に強力な権限を持つことになる学長は、学生、教職員、ひいてはステークホルダーのために、付与された権限をどのように大学経営や改革に生かし、価値を創造していくのかの手腕が問われることになります。この点、よく注視しておく必要がありそうです。

さて、参考までに関連資料をご紹介します。


法律改正の概要



施行通知(全文)

学校教育法及び国立大学法人法の一部を改正する法律及び学校教育法施行規則及び国立大学法人法施行規則の一部を改正する省令について(通知)(下線は小生)


第一 改正の趣旨

大学(短期大学を含む。以下同じ。)が、人材育成・イノベーションの拠点として、教育研究機能を最大限に発揮していくためには、学長のリーダーシップの下で、戦略的に大学を運営できるガバナンス体制を構築することが重要である。今回の改正は、大学の組織及び運営体制を整備するため、副学長の職務内容を改めるとともに、教授会の役割を明確化するほか、国立大学法人の学長又は大学共同利用機関法人の機構長の選考に係る規定の整備を行う等の所要の改正を行ったものである。

第二 改正の概要

1 学校教育法(昭和22年法律第26号)の一部改正

(1)副学長の職務(第92条第4項関係)

副学長の職務は、これまでは「学長の職務を助ける」と規定されてきたが、学長の補佐体制を強化するため、学長の指示を受けた範囲において、副学長が自らの権限で校務を処理することを可能にすることで、より円滑かつ柔軟な大学運営を可能にするため、副学長の職務を、「学長を助け、命を受けて校務をつかさどる」に改めたこと。

(2)教授会の役割の明確化(第93条関係)

教授会については、これまで「重要な事項を審議する」と規定されてきたが、教授会は、教育研究に関する事項について審議する機関であり、また、決定権者である学長等に対して、意見を述べる関係にあることを明確化するため、以下のとおり改正を行ったこと。

1)教授会は、学生の入学、卒業及び課程の修了、学位の授与その他教育研究に関する重要な事項で教授会の意見を聴くことが必要であると学長が定めるものについて、学長が決定を行うに当たり意見を述べることとしたこと。(第93条第2項)

2)教授会は、学長等がつかさどる教育研究に関する事項について審議し、及び学長等の求めに応じ、意見を述べることができることとしたこと。(第93条第3項)

2 国立大学法人法(平成15年法律第112号)の一部改正

(1)学長又は機構長の選考の透明化(第12条及び第26条関係)

1)国立大学法人の学長又は大学共同利用機関法人の機構長の選考は、学長選考会議又は機構長選考会議(以下「学長等選考会議」という。)が定める基準により、行わなければならないこと。(第12条第7項(大学共同利用機関法人については、第26条において準用))

2)国立大学法人及び大学共同利用機関法人(以下「国立大学法人等」という。)は、学長又は機構長の選考が行われたときは当該選考の結果その他文部科学省令で定める事項を、学長等選考会議が1に規定する基準を定め、又は変更したときは当該基準を、それぞれ遅滞なく公表しなければならないこととしたこと。(第12条第8項(大学共同利用機関法人については、第26条において準用))

(2)経営協議会(第20条第3項及び第27条第3項関係)

国立大学法人等の経営協議会の委員の過半数は、当該国立大学法人等の役員又は職員以外の者で大学又は大学共同利用機関に関し広くかつ高い識見を有するもののうちから、教育研究評議会の意見を聴いて学長又は機構長が任命する委員(以下「学外等委員」という。)でなければならないこととしたこと。

(3)教育研究評議会(第21条第3項関係)

国立大学法人の教育研究評議会の組織について、学校教育法第92条第2項の規定により副学長(同条第4項の規定により教育研究に関する重要事項に関する校務をつかさどる者に限る。)を置く場合には、当該副学長(当該副学長が2人以上の場合には、その副学長のうちから学長が指名する者)を教育研究評議会の評議員としたこと。

3 学校教育法施行規則(昭和22年文部省令第11号)の一部改正

(1)学生に対する懲戒の手続の策定(第26条第5項関係)

学長は、学生に対する退学、停学及び訓告の処分の手続を定めなければならないこととしたこと。

(2)学生の入学、退学、転学、留学、休学及び卒業(第144条関係)

学生の入学、退学、転学、留学、休学及び卒業について、教授会の議を経て、学長が定めることとしている現行規定を削除したこと。

4 国立大学法人法施行規則(平成15年文部科学省令第57号)の一部改正

(1)学長又は機構長の選考を行った際の公表事項(第1条の2関係)

学長又は機構長の選考を行った際は、学長又は機構長として選考された者を学長等選考会議が選考した理由、学長等選考会議における学長又は機構長の選考の過程を公表することとしたこと。

(2)教育研究上の重要な組織の長等の任命(第7条の2関係)

国立大学法人法第35条において準用する独立行政法人通則法(平成11年法律第103号)第26条の規定による学部、研究科、大学附置の研究所その他の教育研究上の重要な組織の長の任命は、学長又は機構長の定めるところにより行うものとしたこと。

5 施行期日

改正法及び改正省令は、平成27年4月1日から施行すること。

第三 留意事項

1  学校教育法及び同法施行規則の一部改正

学校教育法及び同法施行規則の改正は、全ての国立大学、公立大学、私立大学及び構造改革特別区域法(平成14年法律第189号)に基づいて学校設置会社が設置する大学に適用されるものである。

(1)副学長の職務(学校教育法第92条第4項関係)

1)副学長は、学長を補佐するのみならず、学長から指示を受けた範囲の校務について自らの権限で処理することができるようになること。

2)副学長は、これまでと同様に、大学の規模や実情に応じて置くことができる職であり、必置の職ではないこと。

3)同じ学校教育法にある副校長に関する規定等と平仄を合わせるため、改正前の学校教育法第92条第4項の「学長の職務を助け」を、改正後は「学長を助け」に改めたが、本質的な変更はないこと。

4)今回の改正により、副学長の法律上の権限の範囲は広がるが、各大学における具体的な所掌範囲については、適切な手続に基づいて、学長が個別に命ずること。なお、改正法の施行後であっても、副学長が、必ず学長から校務をつかさどるよう命令を受けなければならないものではなく、命令を受けない場合には、従前どおり、副学長として、学長を補佐する職務に従事することが可能であること。

5)学長から副学長への、副学長がつかさどる校務の命令は、随時行うことが可能であるが、学内外からも権限と責任が明らかになるよう、文書(学長裁定等)で明確にしておくこと

(2)教授会の役割の明確化(学校教育法第93条関係)

1)学校教育法第93条第1項に規定するとおり、教授会は、これまでと同様に、大学における必置の機関であること。

2)学校教育法第93条第2項各号に掲げる事項については、教授会に意見を述べる義務が課されていること。学長に対しても、教授会に意見を述べさせる義務を課しているものと解されるが、学長は、教授会の意見に拘束されるものではないこと。

3)学長は、学校教育法第93条第2項に基づいて教授会が意見を述べるべき事項が学長裁定等適切な方法で明確化されているか再確認すること。なお、学長裁定等は必要に応じて随時定めることで足りるが、学長が定めた事項については、教授会に周知すべきこと。その際、同法第93条第2項第3号に基づいて学長が定めた事項のほか、同項第1号及び第2号に規定する事項についても、教授会が意見を述べるものとされている事項に含まれていることに留意すること。

4)学校教育法第93条第2項第1号で規定された以外の、学生の退学、転学、留学、休学については、本人の希望を尊重すべき場合など様々な事情があり得ることから、学校教育法施行規則第144条は削除し、教授会が意見を述べることを義務付けないこととしたこと。

ただし、懲戒としての退学処分等の学生に対する不利益処分については、教授会や専門の懲戒委員会等において多角的な視点から慎重に調査・審議することが重要であることから、同施行規則第26条第5項において、学長は、学生に対する同施行規則第26条第2項に規定する退学、停学及び訓告の処分の手続を定めなければならないこととしたこと。

なお、同施行規則の改正を受け、退学、転学、留学、休学、復学、再入学その他学生の身分に関する事項について、各大学において、大学への届出、審査等の新たな手続を定める必要があるか点検し、必要に応じて定めること。

5)学校教育法第93条第2項第3号の「教育研究に関する重要な事項」には、教育課程の編成、教員の教育研究業績の審査等が含まれており、その他学長が教授会の意見を聴くことが必要である事項を定める際には、教授会の意見を聴いて定めること。その際、教授会の意見を参酌するよう努めること。

なお、参酌とは、様々な事情、条件等を考慮に入れて参照し、判断することであること。

6)学校教育法第93条第2項第3号の「教育研究に関する重要な事項」には、キャンパスの移転や組織再編等の事項も含まれ得ると考えられるが、具体的にどのような事項について教授会の意見を聴くこととするかは、学長が、各大学の実情等を踏まえて判断すべきこと。

なお、これらの事項の中には、経営に深く関わる事項が含まれる場合も考えられるが、経営に関する事項は、国立大学法人の学長、公立大学法人の理事長、公立大学を設置する地方公共団体の長、学校法人の理事会、学校設置会社の取締役会等において決定されるべきであり、学校教育法に基づいて設置される教授会は、あくまでも教育研究に関する専門的な観点から意見を述べるものであること。

7)学校教育法第93条第2項各号に掲げる事項以外の事項についても、教授会は、同条第3項に規定する「教育研究に関する事項」として審議することが可能であること。なお、同法第93条第3項前段の「審議」とは、字義どおり、論議・検討することを意味し、決定権を含意するものではないこと。

8)学校教育法第93条第2項及び同条第3項後段に基づき、教授会が学長等に意見を述べる前には、教授会として責任を持って、専門的な観点から遅滞なく審議することが求められること。

9)学校教育法第93条第2項及び同条第3項後段に基づき、教授会が学長等に意見を述べる際に、教授会として何らかの決定を行うことが想定されるが、教授会の決定が直ちに大学としての最終的な意思決定とされる内部規則が定められている場合には法律の趣旨からして適切ではなく、学長が最終決定を行うことが明らかとなるような見直しが必要であること。

10)学校教育法第93条第2項及び同条第3項後段に基づき教授会が述べた意見は、それぞれ法律に基づき述べられた意見であるが、いずれの意見についても、これを受けた学長等が最終的に判断すべきこと。なお、同法第93条第2項については、法律が学長が決定を行うに当たり教授会に意見を述べる義務を課していることを踏まえると、当該教授会の意見を慎重に参酌すべきこと。

11)学校教育法第93条第3項前段は、学部長その他研究科、研究所等の組織の長においても、基本的には各組織に関する校務の決定権を有する場合があることから、学長と同様に教授会との関係を明確化したものであること。

12)学校教育法第93条第3項後段の「学長等の求めに応じて、意見を述べることができる」とは、学長等が教授会の意見を求める場合に、これに対して教授会が意見を述べるという関係を確認的に規定したものであること。学長の求めがない場合の取扱いについては、法律では規定していないが、教授会が教育研究に関する事項について審議した結果を、事実行為として学長等に対して伝えることは差し支えないこと。

13)1)から12)までの前提の上で、円滑な大学運営を図るという観点から、学長と教授会が適切な役割を果たし、意思疎通を図っていくこと。

14)教授会は、必ずしも学部や研究科単位で置かなければならないものではなく、全教員から構成される全学教授会や、学科や専攻ごとに置かれる教授会、教育課程編成委員会や教員人事委員会など機能別に組織される教授会など多様な在り方が考えられることから、教育研究の実態を踏まえながら、各大学において、適切な教授会の設置単位の在り方について再点検を行うこと

15)教授会の役割を明確化する観点から、個人情報等の取扱いには十分に留意した上で、議事次第や議事概要等のホームページでの公表など適切な方法によって透明化を図ること

2 国立大学法人法及び同法施行規則の一部改正

国立大学法人法及び同法施行規則の改正は、全ての国立大学法人等に適用されるものである。

(1)学長又は機構長の選考の透明化(国立大学法人法第12条及び第26条関係)

1)学長等選考会議は、当該国立大学法人等にふさわしい学長又は機構長の候補者を選出する重要な責任と権限を有しており、この責任と権限に基づき、広く学内外の候補者から主体的に選考を行うこと。このため、学長等選考会議が定める基準には、学長又は機構長に求められる資質・能力、学長又は機構長の選考の手続・方法に関する具体的な事項が盛り込まれることが想定されること。

2)学長等選考会議は、候補者の推薦への関与、所信表明の機会の設定やヒアリングの実施、質問状の公開など適切な方法を通じて、主体的な選考を行うこと。なお、選考の過程で教職員による、いわゆる意向投票を行うことは禁止されるものではないが、その場合も、投票結果をそのまま学長等選考会議の選考結果に反映させるなど、過度に学内又は機構内の意見に偏るような選考方法は、学内又は機構内のほか社会の意見を学長又は機構長の選考に反映させる仕組みとして設けられた学長等選考会議の主体的な選考という観点からは適切でないこと。

3)学長等選考会議の構成員については、審査の公正性等の観点にも配慮しつつ、多様なステークホルダーが参画するよう努めること。また、学外等委員について、できる限り多くの委員の出席が可能となる会議日程を設定するなど会議への出席の確保、積極的な情報提供による欠席した委員に対するフォロー等、各国立大学法人等における学長等選考会議の運用について十分配慮し、委員が議事に積極的に参加することができるような運営に努めること

4)学長等選考会議は、選考した学長又は機構長の業務執行の状況について、恒常的な確認を行うことが必要であること。業務執行の状況についての確認を行う時期については、各国立大学法人等の実情に応じて、学長等選考会議において適切に判断すべきものであること。なお、学長又は機構長自身が学長等選考会議の構成員となっている場合は、学長又は機構長の業務執行の状況についての確認に当たって、その運用に特に留意することが必要であること。

また、国立大学法人法第17条及び第26条に基づき、文部科学大臣が行う学長又は機構長の解任は、学長等選考会議の申出により行うものとされていることを踏まえ学長又は機構長の解任に係る申出に関する規則等について、あらかじめ整備することが必要であること。

5)学長又は機構長の任期については、国立大学法人等の自主性・自律性の尊重に配慮する観点から、学長等選考会議の議を経て、各国立大学法人等の規則で定めるものであるが、学長又は機構長が適切にリーダーシップを発揮できるよう、任期を設定すること。また、現学長又は現機構長について、例えば、学長等選考会議が優れた業績を上げていると判断した場合には、教職員による、いわゆる意向投票を行わずに再任を認めるなど、柔軟な手続を確保することについても適切に留意すること。

6)国立大学法人等が選考の結果その他文部科学省令で定める事項及び学長選考会議が定める基準を公表するに当たっては、ホームページへの掲載その他の適切な方法によって行うこと。

7)1)から6)までの点を踏まえて、全ての国立大学法人等において、現在の学長又は機構長の選考の方法や学長等選考会議の運営について点検を行い、より公正、透明な選考が行われるよう必要な改善を図ること

(2)経営協議会(国立大学法人法第20条第3項及び第27条第3項関係)

経営協議会については、国立大学法人等の運営に学外者の意見を適切に反映するとともに、学長又は機構長の意思決定を支えるために審議を行うことを通じて、学長又は機構長が適切な意思決定を行う上で重要な役割を果たすことが期待されている。このことを踏まえ、学外等の委員の意見が審議においてより適切に反映されるようにするために、経営協議会への出席が確保できるかどうかという観点を含め、経営協議会の規模や大学等の実情を踏まえた適切な学外等の委員を選任すること。また、経営協議会の場にとどまらない学外等の委員に対する積極的な情報提供、多くの学外等の委員の出席が可能となる会議日程の設定、欠席した学外等の委員に対するフォロー、議事概要の公表その他の適切な情報公開等、各国立大学法人等における経営協議会の運用について十分配慮することが必要であること。

(3)教育研究評議会(国立大学法人法第21条第3項関係)

教育研究評議会については、教育研究に関する重要事項に関する校務をつかさどる副学長を評議員とすることとするが、どの副学長を何名評議員とするかは、各国立大学法人において学長が判断すべきこと。

(4)学長又は機構長の選考を行った際の公表事項(国立大学法人法施行規則第1条の2関係)

学長又は機構長として選考された者を学長等選考会議が選考した理由については、学長等選考会議が定める基準に照らして当該者が適切と判断した理由が明らかとなるものとする等、可能な限り具体的なものとすること。また、学長等選考会議における学長又は機構長の選考の過程については、学長等選考会議が定める基準に照らして、学長又は機構長候補者の推薦・立候補等を受け付けた期間、学長又は機構長候補者の選考に関わるヒアリングの実施期日、教職員による、いわゆる意向投票の実施状況等、学長等選考会議の開催状況以外のものが含まれるものであること。

(5)教育研究上の重要な組織の長の任命(国立大学法人法施行規則第7条の2関係)

国立大学法人法第35条において準用する独立行政法人通則法第26条において、国立大学法人等の職員の任命権は学長又は機構長にあることが規定されており、国立大学法人法施行規則第7条の2については、教育研究上の重要な組織の長の任命についても、その任命権を有する学長又は機構長の定める手続により行うことが求められるものであることを確認的に規定したものであること。

3 改正の基本的な考え方

(1)大学が果たすべき社会的責任

公的な存在である大学のステークホルダーは、学生や教職員、大学の設置者等の直接的な関係者にとどまらず、保護者や卒業生、地域社会や各種団体・企業、さらには国民一般に及ぶものである。大学は、社会からの付託に応える教育研究を展開し、こうした様々なステークホルダーに対して、社会的責任(Social Responsibility)を果たしていくことが求められること。

また、そのためには、大学運営に権限と責任を有する学長が、教育研究評議会や経営協議会、理事会・評議員会、監事などの機関を有効に活用しながら、それぞれの大学が果たすべき役割を的確に捉えた上で、自らの説明責任を果たし、透明性の高い大学運営を行っていくことが必要であること。

なお、国立大学法人については、法律上、その設置の目的が、「大学の教育研究に対する国民の要請にこたえる」こと等とされているとともに、その運営費の多くが、国からの公的支援により支えられていることに鑑み、学長が最終的に責任を負う対象は、国民であることに留意すること。

(2)権限と責任の一致

1)学長の権限と責任

学校教育法第92条第3項は、「学長は、校務をつかさどり、所属職員を統督する。」と規定しており、学長は、大学の全ての校務について、包括的な責任者としての権限を有するとともに、特に高い立場から教職員を指揮監督することとされていること。今回の改正では、この規定に変更はなく、学長は引き続き、大学の校務について権限を有しており、その前提の下で大学運営について最終的な責任を負うこと。

また、学長は自らの権限と責任の重大性を十分に認識し、適切な手続に基づいて意思決定を行うこと

2)学長に対する業績評価

校務に関する決定権を有する学長が、その結果について責任を負うことは当然であり、学長の業務執行の状況(副学長等への指示・監督状況、意思決定の手続を含む。)について、学長選考会議や理事会等の学長選考組織、監事等が恒常的に確認すること

特に国立大学法人の監事については、独立行政法人通則法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備に関する法律(平成26年法律第67号)により国立大学法人法が改正され、監事機能の強化が図られたところであり、適切な予算・人員面の手当をするなど、その機能が適切に発揮されるようにすべきこと。なお、独立行政法人通則法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備に関する法律による国立大学法人法の改正については、別途留意すべき点について、施行通知を発出する予定であること。

このほか、自己点検・評価、認証評価等を活用して、適切な評価を行うこと

3)学長と教授会の関係

今回の法改正は、教授会が法律上の審議機関として位置付けられていることを明確化するものであること。仮に、各大学において、大学の校務に最終的な責任を負う学長の決定が、教授会の判断によって拘束されるような仕組みとなっている場合には「権限と責任の不一致」が生じた状態であると考えられるため、責任を負う者が最終決定権を行使する仕組みに見直すべきであること。

なお、学長が教育研究に関する判断を行うに当たって、その判断の一部を教授会に委任することは、学長に最終的な決定権が担保されている限り、法律上禁止されるものではないこと。しかしながら、教授会の判断が直ちに大学の判断となり、学長が異なる判断を行う余地がないような形で権限を委譲することは、学長が最終的な決定権を有すると規定している法律の趣旨に反するものであること。

(3)内部規則の総点検・見直し

1)今回の法改正を契機に、各大学等においては、改正法及び改正省令の施行期日までに、内部規則全体の解釈及び実態の運用と照らし合わせた上で、関係する内部規則について、法改正の趣旨を適切に踏まえたものか総点検し、必要な見直しを行うことが求められること。

その際、各大学等においては、今回の改正事項のうち、教授会の役割の明確化(学校教育法第93条関係)、学長等選考の透明化(国立大学法人法第12条、第26条関係)、経営協議会(国立大学法人法第20条第3項、第27条第3項関係)及び教育研究評議会(国立大学法人法第21条第3項関係)の構成については、改正法の施行を待たずに、各大学等の判断によって内部規則等を見直すことが可能であることに留意した上で、計画的に総点検・見直しを行っていくこと。

なお、改正法及び改正省令の施行期日までは、学校教育法施行規則第144条が有効であることに留意すること。

2)内部規則の総点検・見直しの作業は、法改正の趣旨を学内等の教職員に広く周知・徹底した上で、全学的に実施すること

3)内部規則の総点検・見直しに当たっては、規定上の個別の文言のみで判断すべきではなく、内部規則相互の整合性や上下関係・優先関係を確認し、全体を分かりやすく体系化した上で、学長の校務に関する最終決定権が内部規則全体の体系の中で担保されるようにすること

また、意思決定における各機関の責任を再確認し、学長の決定に至るまでの適切な意思決定過程を確立すること

4)内部規則の最終的な決定権は、大学の設置者又は学長が有しており、大学の設置者や学長が、教授会の決定に拘束されるような内容又は手続を規定する内部規則については、見直しが求められること。

5)国立大学法人及び公立大学法人においては、法人化以降は教育公務員特例法(昭和24年法律第1号)に定められた教員の採用、昇任、転任、降任、免職、懲戒等(以下「採用等」という。)に関する規定は適用されておらず、教員の採用等については、法律上、審議機関とされている教授会や教育研究評議会、教育研究審議機関に決定権は付与されていないことを踏まえながら、学長の校務に関する最終決定権が担保されているかという観点から、内部規則の適切な総点検・見直しを行うことが求められること。

(4)大学の自治の尊重

「大学の自治」とは、大学が、学術の中心として深く真理を探究することを本質とすることに鑑みて、大学における「学問の自由」(憲法第23条)を保障するため、教育研究に関する大学の自主的な決定を保障するものと理解されている。

教育基本法(平成18年法律第120号)第7条第2項においても、大学の自主性・自律性を尊重することが規定されており、今回の法改正は「大学の自治」の考え方を変更するものではないこと。

(5)学長と理事会との関係

私立大学においては、私立学校法(昭和24年法律第270号)第36条により、設置者である学校法人がその運営についての責任を負い、理事会が最終的な意思決定機関として位置付けられていること。

なお、今回の改正は、学校教育法に基づく学長の権限と、私立学校法に基づく理事会の権限との関係に変更を加えるものではないこと。

(6)公立大学における学長、学部長その他の人事

1)地方公共団体が直接管理している公立大学には、従来どおり、教育公務員特例法が適用され、公立大学法人が設置している公立大学には、地方独立行政法人法(平成15年法律第118号)の公立大学に関する特例が適用されるが、これら公立大学における学長、学部長その他の人事については、今回の改正の対象ではなく、法的な取扱いに変更はないこと。

2)ただし、学長の選考については、公立大学においても、求めるべき学長像を具体化し、候補者のビジョンを確認した上で決定することは重要であり、国立大学法人の学長選考の透明化等が法的に定められたことを参考に、地方公共団体及び公立大学法人並びに公立大学の主体的な判断により、透明性の高い選考が行われるよう見直していくこと。

(7)私立大学における学長、学部長その他の人事

1)私立大学における学長、学部長その他の人事については、今回の法改正の対象ではなく、理事会が最終決定を行うという法的な取扱いに変更はないこと。

2)ただし、学長の選考については、私立大学においても、建学の精神を踏まえ、求めるべき学長像を具体化し、候補者のビジョンを確認した上で決定することは重要であり、学校法人自らが学長選考方法を再点検し、学校法人の主体的な判断により見直していくこと。



(関連情報)「大学ガバナンス」に関する情報(文部科学省)


(関連報道)「聡明な学長ばかりならいいが」(2014-07-30 日本経済新聞)(下線は小生)

トップが大胆な改革に挑もうとするが、教授会から異論反論が噴き出して立ち往生-。大学でしばしば見られる光景だ。こうした事態を防ぐための法律が、通常国会で成立した。改正学校教育法と改正国立大学法人法である。

現行の学校教育法では、教授会の役割を「重要な事項を審議する」とだけ定めている。改正法ではこれを限定し、教授会は「教育研究に関する重要事項」について学長が決定をする際に意見を述べる機関と位置づけた。

大学運営などにも影響を及ぼしがちな教授会の権限を縮小し、学長のリーダーシップを確立するのがねらいだ。しばしば意思決定に手間取り、国際競争にも立ち遅れる日本の大学のガバナンス改革に一定の効果はあるだろう。

国立大学法人法の改正では、学長選考基準やプロセスを透明化する規定も盛り込まれている。

2つの改正法は来春施行だ。うまく運用できれば思い切った入試改革や教育・研究体制の再編、外部人材の登用などが進むかもしれない。しかし一方で、学長は自らの責任が格段に重くなるのを自覚しなければなるまい

教授会の力がそがれ、学内に表立った批判が出なくなったからといって、トップが恣意的な施策を打ち出したり不適切な人事に走ったりするならキャンパスはかえって混乱するだろう。そういう恐れのない、聡明(そうめい)な学長ばかりかどうか心配は残る

さまざまな「知」が集積する大学という場の特質をわきまえ、同時に現実感覚も失わず長期的な経営判断ができる学長は、残念ながらそんなに多くはいまい。ならば今回の改革を機に、大学は学長を「育てる」ことを心がける必要がある。あるいは経営と教育・研究の分離も課題となるはずだ

ひとくちにガバナンス改革というが、いまの大学は極めて多様である。いきなり学長に全責任を押しつけてよしとするのではなく、それぞれの実情に合ったやり方を探る必要もあろう。


(関連記事)改正学校教育法等に思う~審議過程から分かること、分からないこと~(2014-06-22 大学職員の書き散らかしBLOG)

2014年9月20日土曜日

朝日新聞の誤報道

嘘-朝日新聞「従軍慰安婦」報道の軌跡」(2014-09-12 nippon.com)をご紹介します。

朝日新聞の検証にもかかわらず変わらぬ事実

最初に確認しておかなければならないことがある。昭和の戦争において、アジア全域で日本と日本軍が関与した「従軍慰安婦」は現実に存在したということである。しかも、戦地においては軍の暴力を背景にして現地の女性を強制的に慰安婦にした例が複数あったことは、まぎれもない事実なのである。この点、ほかの戦争において軍隊が占領地で行った暴行と何も変りはない。

ただそれは、あくまで「戦地」においてである。「従軍慰安婦」システム自体は、当時、日本で公認されていた管理売春組織を日本軍の占領地にもっていってだけのものである。(ちなみに日本の管理売春制度は1958年に完全廃止される)。「従軍慰安婦」の大半は日本本土の日本女性、さらに当時日本領であった朝鮮、台湾の女性であった。管理売春制度とは公認された“人身売買制度”に他ならず、当事者の人権を著しく踏みにじるものであったことに何の疑いもない。しかし、この人権侵害は「戦地での強制」という戦争犯罪とは別物である。

近年、「従軍慰安婦」問題で日本を激しく非難しているのは韓国であるが、その主張は戦争犯罪であったということに集約される。ただ残念なことに、日本は1894~95年に清国(当時の中国の王朝)と戦争して以来、朝鮮半島では戦争を行っていない。まして、朝鮮半島の国と戦争を行ったことは近代以降、一度もないのである。

吉田清治が作り出したフィクション

ところが、韓国ではいまだに、そして日本でもある段階まで、この問題は「戦争犯罪」として扱われた。その根っこには一つの嘘がある。それが、吉田清治(1913~2000年)という人物の証言である。吉田氏は戦時中、日雇い労働者を管理する山口県労務報国会下関支部で動員部長であったと自称していた。80年代に2冊の著作を出し、その中で自らの体験として「済州島において戦時中、約200人の若い女性を狩り出した」と記述した。のちに問題が大きくなってから、報道関係者、歴史研究家、さらには韓国の研究者まで現地に赴き裏付け調査を行ったが、だれも、何の証拠も、証言も得ることはできなかった。

このままであれば、単なる「創作」ということで世間の注目を集めることもなく消えていくはずだった。しかし、1982年、この吉田証言を朝日新聞が記事として取り上げたことで事態は急変する。いうまでもなく、朝日新聞は戦前から日本で最も影響力のあるメディアである。その報道のおかげで、朝鮮半島における「慰安婦狩り」は事実として韓国で大きく扱われ、対日批判の中心的なイシューとなっていた。

この件がさらに混乱したのは、戦時に国民の勤労奉仕として集められた「女子挺身隊」と混同されたことにある。「女子挺身隊」は日本国内と領内であれば学校組織を中心にどこにでも存在した組織である。そのため「慰安婦組織」は広範に存在したかのような言説が飛び交う羽目になった。


朝日新聞「慰安婦問題」検証の要約

① 強制連行の有無
1982年9月2日の大阪社会面での吉田清治証言に基づく済州島での「慰安婦狩り」報道。および92年1月12日の社説での「『挺身隊』の名で勧誘または強制連行され」と表現したことについて。

日本の植民地だった朝鮮や台湾では、売春組織の業者が『良い仕事がある』などとだまして多くの女性を集めることができ、軍などが組織的に人さらいのように連行した資料は見つかっていない。一方、インネシアなどの日本軍の占領下にあった地域では、軍が現地の女性を無理やり連行したことを示す資料が確認されている。共通するのは、女性たちが本人の意に反して慰安婦にされる強制性があったことである。

②吉田清治による済州島で「慰安婦狩り」証言
吉田証言を大メディアとして初めて報道以来、16回にわたり掲載した件について。

済州島を再取材したが証言を裏付ける話は得られなかった。吉田清治の証言は虚偽と判断し、記事を取り消す。

③1992年報道と政治的意図
1992年1月11日の「慰安所 軍関与を示す資料」報道は宮澤訪韓を狙ったものと非難されていることについて。

その意図はなく、詳細を知った5日後の掲載。一方、政府は報道前から資料の存在の報告を受けていた。

④ 「女子挺身隊」と「慰安婦」の混同
1991~92年の記事で、朝鮮半島出身の慰安婦を「女子挺身隊」の名目で強制連行したものであると報道したことについて。

女子挺身隊は、戦時下で女性を軍需工場などに動員した「女子勤労挺身隊」を指し、慰安婦とは全く別もの。記者が参考にした資料などにも慰安婦と挺身隊の混同がみられたことから誤用した。

⑤1991年8月11日の「元慰安婦 初の証言」の背景

韓国メディアより先に報道した。だが、執筆した記者は韓国の慰安婦裁判支援団体幹部の親戚で、何らかのバイアスがかかっていたのではないかという疑い。

記事取材のきっかけは当時のソウル支局長からの情報提供。意図的な事実の捻じ曲げはない。

流れを大きく変えた1992年1月報道

その頂点となったのが、1992年1月の宮澤喜一首相訪韓前後の報道である。前年、元慰安婦の女性が初めて名乗り出て、日本政府を訴えるに至った。この過程も、韓国メディアより先に朝日新聞が報道した。その騒動の中で、首相訪韓の直前、「慰安所」への慰安婦たちの移動に軍や公的機関が便宜を図る資料についての報道があり、宮澤首相は、韓国で謝罪を繰り返し、さらに翌年、河野洋平官房長官が慰安婦問題についての談話を発表することになった。(ただしこの談話は、従軍慰安婦の存在と慰安施設の運営への公的関与、戦地での強制などを認めたものの、韓国での強制には特定して触れていない)。メディア各社も本格的に朝日の報道に追従し始めた。

さすがに、政府まで動くとなると、一連の報道への検証が急速に進むことになった。その結果、吉田証言の事実無根、「挺身隊」と「慰安婦」の混同などが明確になり、1992年8月以降は、日本のメディア各社は吉田証言を前提とした報道を控えることになる。ただ控えただけで否定も修正も行わなかった。

日韓が入り込んだ袋小路

しかし、メディアがだんまりを決め込んでいる間に事態はさらに加速した。1996年には、国連人権委員会に吉田証言を証拠として採択したクワラスワミ報告書が提出される。さらに、アジア全域の元慰安婦への償いのために政府主導で設立した「女性のためのアジア平和国民基金(アジア女性基金)」の「償い」を受けた韓国の元慰安婦7人が国内で非難を受け、のちに政府からの生活支援を切られる羽目になる。「河野談話」の認識ではなく、韓国の「従軍慰安婦」も戦地での強制として扱わなければ受け入れないという態度が今もなお韓国を支配している。

この姿勢は、アメリカの韓国系住民を通じてアメリカ国内でキャンペーンされ、2007年の下院対日非難決議につながる。当時、第一次政権時の安倍晋三首相が「広義の強制はあったが、狭義の強制はなかった」、つまり韓国では人身売買による従軍慰安婦は存在したが、戦地での強制と同じレベルの強制はなかった、と釈明したが、アメリカの政府にも社会にも、「歴史修正主義者」のレッテルを張られる始末だった。日本政府としても、「河野談話」以上の対応、つまり吉田清治の「嘘」を事実として認定することはありえない。したがって日韓関係は展望の利かない袋小路に入り込んでしまった。

韓国の事情-「対日戦勝国」の認知を求めた李承晩

韓国では、「従軍慰安婦」問題への被害者意識が最初からあったとはいいがたい。本当に戦時中に犯罪性の高い行為があったのなら、BC級戦犯裁判で取り上げたオランダのように、終戦直後から問題が提起されていたであろう。現実には、「強制された従軍慰安婦」が取りざたされたのは1980年代に入ってからであり、それも日本側の証言や報道が先行する形であった。

しかし、いったん「強制された従軍慰安婦」という設定が提示されると、これが浸透するのは早かった。韓国にはその事実は存在しなかったものの、その設定を受け入れる理由が十分あったからだ。

いうまでもなく韓国は、第二次世界大戦の終結によって、旧日本領朝鮮が分断されて生まれた国家である。南北両国とも大日本帝国が消滅したおかげで成立したのであって、決して自力で独立を勝ち取ったわけではない。しかし、相互に排他的な存在で朝鮮戦争が発生した。その後、激しい国家アイデンティティのぶつかり合いを続けるのである。

この争いは正直にいって北の方に分があった。北朝鮮は、日韓合併後、旧満州吉林省延辺地区を中心とし、中国共産党の支援を受けた抗日パルチザン組織が中核になり、「独立運動の正統」を名乗っていた。一方、韓国は、戦前、中華民国国民党政府と行動を共にしていた大韓民国臨時政府をその前身としており、李承晩・初代大統領もその首班だった。臨時政府は日中戦争中、「光復軍」という軍事組織を作ったが実際には機能せず、抗日戦の実態はなかった。そして臨時政府も国際的な承認を受けることはなかったのである。その上、後ろ盾であった中国国民党政府は、北朝鮮の後ろ盾である共産党政権との内戦に敗れ、1949年に大陸から台湾に撤退してしまう。

しかし、韓国の李承晩政権は半島統一を巡る朝鮮戦争の中で、北朝鮮に対抗しうる「抗日の歴史」を主張し続けた。その結果、1951年9月に行われた連合国、国際社会と日本の講和会議であるサンフランシスコ平和会議への出席と署名を求めるのである。つまり国際社会に韓国を対日戦勝国として認めろ、と主張したのである。当然、連合国側によって峻絶されたが、韓国は李承晩ラインの主張など、その後も朴正煕政権成立まで、内外に「対日戦勝国」として振る舞い続ける。

無理があるドイツとの比較

この「李承晩のフィクション」という亡霊は、今に至るまで生きている。韓国の政治家、各種団体、メディアの対日批判を見ると、必ずと言っていいほどドイツとの比較が出てくる。特に竹島問題では、ドイツが1990年の再統一に際し、ポーランドと国境問題と難民の請求権放棄問題を最終決定した条約を持ち出し、日本もまたこれを見習えという主張が繰り返される。

しかし、韓国とポーランドを重ね合わせるには無理がある。ポーランドは、紛うことなき対独交戦国だからである。しかもナチスの犯罪被害、戦争犯罪被害の当事者なのである。繰り返しになるが、韓国は第二次世界大戦において日本の交戦国ではない。当時の朝鮮半島の住民が納得していたか否かに関係なく「日本」だったのである。だから、韓国には自らを対日交戦国に擬するだけの動機もしくは心理的な素地があった。「強制された従軍慰安婦」問題は、ヨーロッパのドイツやソ連の占領地と同じイメージを自らに付与する格好の材料だったのである。

日本の事情-生き延びた“戦争協力”の全国紙

一方、日本の一部にも韓国が第二次世界大戦の戦争被害者であるかのように擬そうという心理的傾向があった。その一部とはメディアであった。しかも、ここでもドイツとの対比がわかりやすい説明となる。

第二次世界大戦で連合国に降伏した日本とドイツは、降伏条件に従い、戦犯裁判によって責任者が裁かれ、旧体制が解体された。この際、ドイツはナチスとナチズムが、日本は軍と軍国主義が元凶とされ排除された。日本の軍の解体と関係者の排除は、ドイツより徹底したものだった。しかし、それは軍だけ。この間の事情の検証は本論の趣旨とは離れるので紙数の関係もあり触れないでおくが、結果だけ見れば、軍以外の指導層は財閥が解体された以外は、政治家も、官僚組織も、大学も、実質的にほとんど温存された。

特に目立ったのがメディアである。ドイツではナチス・プロパガンダ政策否定の過程で協力者が徹底して解体・追放された。新聞もまた「Stunde Null(零時)」を免れなかったのである。この点、日本はドイツと著しい差がある。

戦前からいまだに「3大新聞」と呼ばれる、朝日、毎日、読売の3紙は、1931年の満州事変以降、日本の中国大陸侵略時に軍部の代弁者であるかのように戦意高揚を行い、爆発的に部数を伸ばした。1945年当時、朝日、毎日は約350万部、後発の読売も約150万部に達し、いずれもこの段階で全国紙の地位を確立している。朝日新聞の緒方竹虎主筆や読売新聞の正力松太郎社長は、戦後、GHQによって戦犯容疑をかけられ公職追放となったが、ほどなくそれも解除された。メディアでは同盟通信が、時事通信、共同通信、電通の3社に解体された以外は、社名題字までもそのまま残ったのである。

歴史問題などで主導権を失った政府・政界

戦時中、総動員体制下の宣伝機関として築き上げた国民世論への影響力は、戦後、減ずるどころか、ますます強まった。政府など公的機関が記者クラブ制度などでメディアに情報を優先的に流し、囲い込みを行ったという事情もある。つまり戦後における総動員体制の継続である。

軍による統制がなくなったうえに影響力は増し、全国紙など大メディアの権勢は絶大なものとなった。一国内でどのくらいの存在であるかは、下のグラフ(略)を参照いただきたい。読売、朝日は日本のみならず世界の新聞部数の1位、2位である。中国、インドといった国は日本の約10倍の人口があり、日本語圏が、ほぼ日本国内に限られることを考えると驚異的なシェアであるといえる。冷戦崩壊直前に、ソ連の「プラウダ」が約1500万部、中国の「人民日報」が約1000万部であったと言われていることから考えても、日本の巨大新聞の国内での存在がいかに飛び抜けたものであるかわかるであろう。

しかも敗戦によって、政府が歴史問題など価値観に関する権威を失い、代わりにジャーナリズムやアカデミズムに主導される世論が主導権を握るという構造になった。歴史・戦争責任にかかわる問題は、政府や政治権力に対しメディアが圧倒的な優位に立てる題材になったのである。自らも戦争責任問題を引きずっていることからも、メディアは「正義の味方」である必要があった。かくて隣国との歴史問題は、日本の新聞にとって好餌(こうじ)となったのである。

出口はあるか-遅すぎた朝日の検証

今回、朝日新聞が過去の報道を検証し、誤りを認めたことは、メディアとして正しい行動であったと思う。しかし、いかにも遅すぎた。最初の吉田証言の報道から32年、政府が行動を余儀なくされ、しかも証言の信用性が失われた92年から22年。この間に、「強制による従軍慰安婦」の問題は、韓国世論の中にビルトインされた。しかも、日本の戦争責任問題の中の代表的な案件として国際社会でも認知されてしまったのである。

国際社会から見れば、日本の「従軍慰安婦」問題全体の中で、韓国との論争点などは、実はごく一部の些末な問題なのである。「従軍慰安婦」問題全体、さらには戦争責任問題全体への日本の態度こそが重要なのである。しかし、たとえ些末な「誤り」であろうと、それを日本が自分から修正しようとすると、外から見れば「歴史修正」を行っていると判断される。相手国が政治的意図をもってこの問題を使おうとしているとわかっていてもである。この点において日本はまだ被告人席に立っているのである。しかも日本国内には、一部の過誤から逆算して、ほかの過去の戦争責任全体までも否定しようという隠然たる圧力が存在する。このことが、さらに日本の行動を制約している。

一方、韓国は、近年、中国に急速に接近していく過程で、相変わらず「李承晩のフィクション」をアピールしている。しかも中国がこれに応え始めているのである。日本ではまだその深刻さが十分理解されていないようだが、中国が行っている光復軍の顕彰や抗日戦での共闘を認める発言は、韓国に対して外交的に重要な意味をもっている。中国はそもそも北朝鮮に正統性を付与していた存在だったのである。北朝鮮の崩壊と統一の可能性が現実味を増すにつれ、統一の主体としての「李承晩のフィクション」を内外に認めさせようという韓国のモメンタムは高まっていくと考えられる。

過去の報道が取り消されても、事態が白紙に戻ることは考えられない。それゆえ、この日韓両国で展開された一連のフィクションは、起点となった吉田清治の「嘘」そのものとは比べものにならないほど深刻で、罪深いものになったのである。

資料 「従軍慰安婦」報道と歴史問題の推移

2014年9月15日月曜日

第三期中期目標・計画の策定準備開始

文部科学省(国立大学法人支援課長)は、去る9月9日付で、各国立大学法人中期目標・中期計画担当理事宛て「 国立大学法人の第3期中期目標・中期計画の項目等について」と題する事務連絡を発出しています。

いよいよ、第三期中期目標・中期計画の策定準備が始まります。


国立大学法人の第3期中期目標・中期計画の項目等について

このたび、各国立大学法人における第3期中期目標・中期計画の策定に当たっての参考とされたく、別添資料をとりまとめましたので送付いたします。

第2期からの変更点としては、「入学者選抜」や「教育研究組織の見直し」に関する項目を新たに追加するなど、近年の政策課題や国立大学法人を取り巻く状況を踏まえたものとしています。

なお、第2期に見直しを行った、「例示の簡素化」や「最小単位の項目数の目安の設定」等については、第3期においても引き継ぐこととしています。

今後のスケジュールとしては、平成27年6月中を目途に各法人から中期目標・中期計画の素案を文部科学省に提出いただき、国立大学法人評価委員会における審議を経て、平成27年度中に中期目標の策定、中期計画の認可等に係る正式な手続を行うことを見込んでいます。(下線は小生)


(別添)

国立大学法人の第3期中期目標・中期計画の項目等について(概要)

【第2期中期目標・中期計画の項目等との主な変更点】

○大学の基本的な目標(中期目標前文)

「国立大学改革プラン」(平成25年11月)等の記述や、自らの強み、特色、社会的役割を踏まえ一層の個性化・機能強化を図る観点から記載することを明示

○大学の教育研究等の質の向上に関する目標及び目標を達成するためにとるべき措置

  • 「入学者選抜」に関する項目を追加
  • 「社会との連携や社会貢献」に関する項目を「社会との連携や社会貢献及び地域を志向した教育・研究」に関する項目に変更するとともに、「教育」、「研究」に関する項目と同列に整理
  • 「国際化」に関する項目を「グローバル化」に関する項目に変更


○業務運営の改善及び効率化に関する目標及び目標を達成するためにとるべき措置

  • 「組織運営の改善に関する目標」の注記にガバナンス機能の強化、人事・給与制度の弾力化等を例示として追加
  • 「教育研究組織の見直し」に関する項目を追加


○その他業務運営に関する重要目標及び重要目標を達成するためにとるべき措置

  • 「法令遵守」に関する項目を「法令遵守等」に関する項目に変更するとともに、目標の注記に研究における不正行為、研究費の不正使用の防止体制等を例示として追加


【その他】

第2期中期目標・中期計画の項目等において行った、中期計画の「記載事項の例」を示さないなど例示の簡素化や、中期計画の項目数について目安の設定(原則100項目を下回る)等は、第3期においても引き継ぐものとする。

【策定に当たっての主な留意点】

  • 記載に当たっては、各法人の特性等に応じて様々に工夫してください。
  • 記載内容は、原則として全学的な視点からのものとしますが、各法人の強み、特色及び社会的役割を踏まえ、全学的な観点から重視又は見直しする事項については、特定の分野や個々の学部・研究科等に係る内容でも積極的にその具体的な内容を記載してください。
  • 中期計画には、達成すべき数値や達成すべき時期のほか、その計画が遂行されているかどうかを検証することができる指標を可能な限り盛り込んでください

第二期中期目標・計画の総括開始

文部科学省(国立大学法人支援課)は、去る9月9日付で、各国立大学法人中期目標・中期計画担当理事宛に、「「国立大学法人の組織及び業務全般の見直しに関する視点」について」と題する事務連絡を発出しています。

いよいよ第二期中期目標・中期計画期間中の総括が始まります。


「国立大学法人の組織及び業務全般の見直しに関する視点」について

国立大学法人法第35条において準用する独立行政法人通則法第35条において、文部科学大臣は、国立大学法人の中期目標期間終了時に、組織及び業務の全般にわたる検討を行い、所要の措置を講じるものとされています。

これに先立って、今般、国立大学法人の組織及び業務全般の見直しに関し、国立大学法人評価委員会において専門的な観点から議論をいただき、別添資料(「視点」)がとりまとめられましたので送付いたします。

また、今後、文部科学省において「視点」を踏まえ組織及び業務全般の見直し内容を作成し、平成27年6月を目途に各法人にお示しする予定ですので、念のため申し添えます。

なお、本件について、説明会の開催を予定しておりますので、詳細が決まり次第、追って御連絡をいたします。


(参考)

国立大学法人法(平成15年法律第112号)第35条において準用する独立行政法人通則法第35条

第35条 主務大臣(※文部科学大臣)は、独立行政法人(※国立大学法人)の中期目標の期間の終了時において、当該独立行政法人(※国立大学法人)の業務を継続させる必要性、組織の在り方その他その組織及び業務の全般にわたる検討を行い、その結果に基づき、所要の措置を講ずるものとする。

2 主務大臣(※文部科学大臣)は、前項の規定による検討を行うに当たっては、評価委員会(※国立大学法人評価委員会)の意見を聴かなければならない。


3 審議会(※総務省政策評価・独立行政法人評価委員会)は、独立行政法人の(※国立大学法人)中期目標の期間の終了時において、当該独立行政法人(※国立大学法人)の主要な事務及び事業の改廃に関し、主務大臣(※文部科学大臣)に勧告することができる。


(別添)

国立大学法人の組織及び業務全般の見直しに関する視点

文部科学大臣が第2期中期目標期間終了時に行う組織及び業務全般の見直しに盛り込むことが必要と考えられる内容のうち、各国立大学法人が行う第3期中期目標・中期計画の素案の検討に資するものとして、以下の視点を挙げることができるのではないか。

1 見直しの基本的な方向性

  • 国立大学は、全国的な高等教育の機会均等の確保、世界最高水準の教育研究の実施、社会・経済的な観点からの需要は必ずしも多くないが重要な学問分野の継承・発展、計画的な人材育成等への対応、地域の活性化への貢献等の役割を担ってきた。
  • 法人化から10年が経過し、法人化の長所を生かした改革が本格化する中、第3期中期目標期間に持続的な競争力を持ち、高い付加価値を生み出す国立大学に更に発展するためには、変化する社会状況を踏まえた国立大学の役割を改めて認識し、機能強化に取り組んでいく必要がある。
  • このため、「国立大学改革プラン」(平成25 年11 月)や中央教育審議会における各種提言等を踏まえ、世界最高水準の教育研究の展開拠点、全国的な教育研究拠点、地域活性化の中核的拠点等の機能強化に向けて、各国立大学法人が自らの強み、特色を明示し、国立大学としての役割をそれぞれ果たしつつ、大学として特に重視する取組については、明確な目標を定め、その目標を具体的に実現するための手段を策定し、その手段が遂行されているかどうかを検証することができる指標を設定することが必要であり、その上で中期目標・中期計画を策定することが求められる。
  • 第2期中期目標・中期計画の策定の際には、各国立大学法人の機能を明確化し、その目指すべき方向性が明らかになるよう、また、目標の達成状況が事後的に検証可能となるよう、数値目標等を盛り込んだ具体的なものとするよう求めていたが、実際には、抽象的、定性的な記述が少なくない状況であった。このため、第3期中期目標・中期計画の策定に当たっては、各法人が一層の質的向上を目指し、高い到達目標を掲げるとともに、その目標を実現する手段や検証指標を併せて明記するなど、より戦略性が高く意欲的な目標・計画を積極的に設定することが求められる。


2 組織の見直しに関する視点

  • 「ミッションの再定義」を踏まえた速やかな組織改革が必要ではないか。特に教員養成系学部・大学院、人文社会科学系学部・大学院については、18歳人口の減少や人材需要、教育研究水準の確保、国立大学としての役割等を踏まえた組織見直し計画を策定し、組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組むべきではないか。
  • 法科大学院について、「公的支援の見直しの強化策」を踏まえ、司法試験の合格状況や入学者選抜状況等を考慮に入れ、入学定員規模の適正化や教育の質の向上を目指すとともに、特に司法試験合格率が著しく低い場合や適切な入学者数を確保する見込みがない場合等、課題のある法科大学院は、組織の廃止や連合も含め、抜本的な見直しを図るべきではないか。
  • その他の組織についても、その必要性等について不断に検証・検討することのできる体制を確立し、必要に応じて、大学間連携や入学定員の見直しなど、柔軟かつ機動的な組織改革を実施すべきではないか。


3 業務全般の見直しに関する視点

(1)教育研究等の質の向上

  • 教育研究の内容に関しては、各大学の強み、特色及び社会的役割を十分踏まえた見直しを行うことが必要ではないか。
  • 能動的学習(アクティブ・ラーニング)や科目番号制(ナンバリング)等の導入、質を伴った学生の学修時間の確保・増加、学修成果の可視化、教育課程の体系化、組織的な教育の実施等を通じ、全学的な教学マネジメントの確立に取り組むとともに厳格な成績評価や卒業認定を行うなど、大学教育の質的転換を図るべきではないか。また、明確な人材養成像の下、広範なコースワーク等を通じ、専門分野の枠を越えた統合的かつ体系的な教育を経て、独創的な研究活動を遂行する一貫した「学位プログラム」の構築に組織的に取り組み、質の保証された大学院教育を推進すべきではないか。
  • 社会において求められる人材の高度化・多様化を踏まえ、生涯を通じた高度な知識の習得の場としての機能強化や、社会との接続を意識した教育内容の充実が必要ではないか。また、短期プログラムの設定やICT を活用した教育の充実等を進め、社会人が学びやすい環境を整備すべきではないか。
  • 学部・大学院それぞれにおける教養教育について、そのポリシーを明確にし、更に充実すべきではないか。
  • 国立大学法人の公的な役割に鑑み、各地域における知の拠点として、地域の諸課題の解決及び地域を支える人材育成など、社会貢献や地域貢献を一層果たしていくことが必要ではないか。
  • 国内外の優秀な学生や教員を集め、国際的に活躍できる人材の育成や優れた研究成果を創出するため、国際通用性を意識した教育プログラムの質保証に向けた取組や国際化に対応した学事暦の柔軟化、英語による授業の拡大を進めるとともに、国境を越えた教育連携や共同研究、日本人学生の海外派遣の促進等が必要ではないか。
  • イノベーションの創出に向けて、高い技術力とともに発想力、経営力などの複合的な力を備えた人材を育成するため、「理工系人材育成戦略」(仮称)等を踏まえ、大学院を中心とした機能強化を図るとともに、人文社会科学などの分野においても、その特色を生かした取組を進めることが必要ではないか。
  • 教育研究資源を大学の枠を越えて有効活用し、質の高い教育研究を行う観点から、教育課程、産学連携等の共同実施や施設・設備の共同利用を図ることが必要ではないか。
  • 教員の採用や配置に当たり、女性、若手、外国人等を積極的に登用し、多様な教員構成とすることや、能力の一層の活用に積極的に努めることが必要ではないか。
  • 入学者選抜は、大学入学後の教育課程と入学者選抜の評価方法との関係性や求める能力の評価方法が明確化された各大学のアドミッション・ポリシーに基づき、知識偏重の入学者選抜から脱却し、能力・意欲・適性を多面的・総合的に評価・判定するものに転換していくことが必要ではないか。
  • 経済的に困窮している学生等に対する支援の充実や就職支援の取組、留学生や障害のある学生などの多様な学生に対する支援機能の強化を行う必要があるのではないか。
  • 法科大学院は、法学未修者教育の充実、法曹の職域拡大への対応、質の高い教育資源を活用した他の法科大学院に対する支援など、入学者選抜状況や司法試験合格状況の改善などにつながる機能の強化を図る必要があるのではないか。
  • 附属病院は、優れた医療人を養成するとともに、質の高い臨床研究を行う教育研究機関であるとの基本的な認識を踏まえつつ、卒前教育と卒後教育の一体的な魅力ある教育プログラムの構築や、新たな医薬品・医療技術等の研究開発に取り組むことが必要ではないか。また、地域の医療需要を踏まえて、高度急性期医療機能の強化を図るなど、都道府県等と連携して地域医療に取り組むことが必要ではないか。これらの取組を通じて特色ある病院運営の強化を図ることが必要ではないか。
  • 附属学校は、学部・研究科等における教育に関する研究に組織的に協力することや、教育実習の実施への協力を行うことなどを通じて、附属学校の本来の設置趣旨に基づいた活動を推進することにより、その規模も含め存在意義を明確にするとともに、大学の持つリソースの一層の活用も含め、先導的・実験的な取組をはじめとする附属学校に本来求められる機能の強化を図る必要があるのではないか。
  • 共同利用・共同研究拠点は、個々の大学の枠を越えた当該研究分野の中核的研究拠点としての役割を果たすため、業務の見直しを通じた機能強化を図るとともに、各大学の強みや特色の重点化に貢献することが必要ではないか。


(2)業務運営の改善及び効率化、財務内容の改善、その他業務運営

  • 学長のリーダーシップの下で大学の強みや特色を生かし、教育、研究、社会貢献の機能を最大化できるガバナンス体制を構築するため、国の制度改正を踏まえつつ、主体的・自律的に内部規則等を含めたガバナンスの総点検・見直しを行うとともに、権限と責任が一致した意思決定システムの確立、法人運営組織の役割分担の明確化、学長を補佐する体制の強化を図ることが必要ではないか。
  • 社会や地域のニーズを的確に反映し、幅広い視野での自律的な運営改善に資するため、経営協議会の運用の工夫改善を図るなど、様々な学外者の意見を法人運営に適切に反映していくことが必要ではないか。
  • 監事が、財務や会計だけでなく、教育研究や社会貢献の状況、学長選考方法や大学内部の意思決定システムをはじめとした大学のガバナンス体制等についても監査するなど、監事の常勤化による監事機能の強化を図るとともに、その実情に応じたサポート体制の強化を図ることが必要ではないか。
  • 優秀な若手・外国人の増員や教員の流動性向上などにより教育研究の活性化を図るため、年俸制・混合給与の積極的な導入及び適切な業績評価体制を構築することが必要ではないか。
  • 外部資金の獲得や多様な資金調達による自己収入の増加、一般管理費比率の抑制等、財務に関する各法人の更なる努力が必要ではないか。
  • 効果的な法人運営を進める観点から、職員の適切な人事評価に応じた処遇を行うとともに、リサーチ・アドミニストレーターなどの高度な専門性を有する者等、多様な人材の確保と、そのキャリアパスの確立を図っていくことが必要ではないか。
  • 効率的な法人運営を行うため、他の大学との事務の共同実施等の推進や、アウトソーシングの推進及び大規模災害等の発生に備えた連携の構築などの大学間連携の取組が必要ではないか。
  • グローバル化の推進やイノベーションの創出など教育研究の質の向上や、長寿命化など老朽化対策の観点から、施設については、キャンパスマスタープランの充実や既存施設の有効活用、計画的な維持管理を含めた施設マネジメントを行うことが必要ではないか。
  • 保有資産の不断の見直しに努めることが必要ではないか。
  • 国立大学法人には多額の公的な資金が投入されていること、成果等が社会に還元されるべきものであることを十分認識し、各法人の実情や果たしている機能等を国民に分かりやすい形で示すとともに、「大学ポートレート」を活用するなど、積極的に情報発信することが必要ではないか。
  • 放射性物質の漏えいや毒物及び劇物の不適切な管理事例の発生等を踏まえ、再発防止を図ることのみならず、事故等を未然に防止するため、広く安全管理体制の強化を図り、役職員の意識向上を通じた安全文化の醸成に向けた取組が必要ではないか。
  • 国立大学法人が社会的使命を果たしつつ、その活動を適正かつ持続的に行っていくため、学内規則を含めた法令遵守(コンプライアンス)の徹底及び危機管理体制の機能の充実・強化が必要ではないか。
  • 研究における不正行為、研究費の不正使用は、研究活動に対する信認を失墜させ、科学技術・学術の健全な発展を阻害する極めて重大な問題であることから、「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」や「研究機関における公的研究費の管理・監査のガイドライン」を踏まえ、倫理教育の強化等による不正を事前に防止する体制、組織の管理責任体制を整備することが必要ではないか。

2014年9月12日金曜日

ありがとうという言葉

ブログ「人の心に灯をともす」から一日、どれだけありがとうと言いますか」(2014-09-09)をご紹介します。


一日、どれだけありがとうという言葉を、私たち、口に出して言っているでしょうか。

私はある婦人から、そんな言葉を教えられたことがございました。

そのご婦人が小学校三年ぐらいのときだったと言います。

お父さんが、事情があって自殺をなすったそうです。

お母さんが自分に、諄々と説いてくれた。

お父さんが自殺をなすったということ、人の噂は七十五日と言って、噂の消えるときもある。

けれども、これから長い人生の中で、あなたが学校に入るとき、就職をするとき、結婚をするときには、必ず、

「あの家は、お父さんが自殺をなすったからね」

そういうことがささやかれる。

そして知らなかった人まで、

「へえ、そう。あの人、なんとなしに暗いと思ったら、やっぱりお父さん、自殺したの」

と言う。

知らない人までが自殺したことを口にして、自分の縁というものがだんだんとみじめなものになってくることがある。

それだけは消えることはない、覚悟しなさいとおっしゃったそうです。

「どうして生きたらいいの」

とお母さんに聞いたら、

「それもね、乗り越えることはできる。それは一日、十人の人に、真心を込めてありがとうというあいさつをすること。

一日十人の方にありがとうというあいさつをしたら、一年間3650人の人に、素晴らしい行為ができることなんだよ」

そのことをお母さんは言い残してくださったそうです。

一日十人の人に、ありがとうと言うこと。

そのありがとうという言葉を、最初は半信半疑でありがとうと言っていたけど、だんだんとありがとうという言葉を使い出すと、一人一人のありがたさが見えてくる。

そのありがたさが見えてくると、ありがとうじゃなくて「寒いですね」とか「お元気ですか」「夕べは眠れましたか」

あいさつのボキャブラリーがどんどんと増えてくる。

生きることの喜び、生き生きとした感情というものが出てくる。

それが出てくると、みんなの笑顔が見えてくる。

一日十人のありがとうが、自分の世界を作ったといいました。

そして今は、「明るく生きてるね」「立派なお母さんの教育だったね。すごいじゃないの」「人間だれだっていろんなことがあるからね。それを乗り越えるあの明るさは、学びたいね」と、人さまもおっしゃってくれるそうです。

そしてふっとこの前、人の話を聞いたら、自殺をなすった父に対して、「お父さんはよっぽどつらいことがあったんだろうね」

お父さんの死んだことまでが、別な意味で評価をされている。

一日、どれだけありがとうと言いますか。


過去にやったことや言ってしまったことは生涯覆(くつがえ)らない、とはよく言われることだ。

「覆水盆(ふくすいぼん)に返らず」のことわざの通りだ。

しかしながら、一度起こってしまった事実は変えることはできないが、その印象は変えることができる。

印象は、見方によって変わる。

見方は、言葉によって変わる。

だから…

たとえ過去さえも、言葉によって変えることができる。

暗くて否定的な言葉を使う人は「暗い人」に見られ、明るくて肯定的な言葉を使う人は「明るい人」に見られる。

最も明るくて肯定的な言葉は、「ありがとう」という感謝の言葉。

一日、どれだけのありがとうを言っているか…

「ありがとう」の言葉あふれる人生でありたい。


2014年9月11日木曜日

ブラックな介護職

介護人手不足 仕事に見合う賃金に」(2014年9月8日東京新聞)をご紹介します。


2015年度の介護報酬改定の議論が来月から本格化する。最大の焦点は介護職員の待遇改善だ。人手不足を解消し、これからの高齢化社会に備えるため、賃金の引き上げが必要だ。

職員が集まらないため、介護施設や訪問介護事業所を閉鎖せざるを得ない。サービスの提供を断らなくてはならないという事態が現場では起きている。

高齢化が進み、介護費用は膨張している。当然、担い手も増やさなければならない。制度が導入された2000年度、50万人だった介護職員数は、現在約3倍の150万人まで増えているが、需要に追いついていない。

最大の要因が、賃金の低さだ。介護労働安定センターの調査では、労働条件の不満の上位に「仕事内容のわりに賃金が低い」ことが挙がる。

常勤のホームヘルパー、施設職員の平均賃金は月約21万8千円。全産業平均よりも約10万円低い。介護職員の労働組合幹部は「せめて全産業平均並みに」と訴える。人手が足りないため、休みがとりにくいとの不満も出る。

このため、離職率も高く、短期間で辞める人も多い。介護という仕事にやりがいや魅力を感じて入る人が多いが、将来設計が描けず、志半ばで挫折してしまう。

介護保険からサービスに支払われる単価である介護報酬は政府が決める、いわば「公定価格」。3年に一度、改定されているが、過去2回、財政支出を減らすために引き下げられた。民主党政権は賃金4万円アップを目指したが、実現せず、制度導入当初と同水準で低迷している。

厚生労働省は25年度までに、今よりも100万人増員しなければならないとしている。担い手がいなければ、介護サービスを受けたくても受けられない人が出てくる。介護保険が「絵に描いた餅」になりかねない。職員の賃金や待遇の改善は急務の課題だ。

このほか、キャリアが賃金に結び付くような仕組みづくりも重要だ。多くの職員は何年働いても賃金は上がらない。認知症高齢者のケアなどには専門的な技術やノウハウが必要になる。キャリアが評価されるようになれば、やる気も高まり、サービスの質の向上にもつながるだろう。

政府は消費税引き上げによる税収の一部を介護職員の待遇改善に充てるとしている。国民の老後の生活を守るためにも職員の待遇改善につながる改定を求める。

2014年9月8日月曜日

学びの機会と高大連携

ブログ「教授のひとりごと」から学習意欲の評価」(2014年09月03日)をご紹介します。


朝日新聞(8/20付け)に『学習意欲の評価「困難」69%』という記事があった。

早ければ2021年度入試から大学入試のセンター試験が変わる。知識量よりも考える力を重視する。各大学の個別試験も、学習意欲や、どんな高校生活を送ったかなど、能力を総合的に評価することが求められていく。だが、大学の7割がそうした評価が困難だと考えていることが、朝日新聞社と河合塾の「ひらく 日本の大学」調査で分かった。

調査は4~7月、全国の745大学(短大、通信制、大学院大学を除く)を対象に実施。81%に当たる607大学が回答した。そのうち、「学生の学習意欲を十分に測ること」について69%が「非常に困難」「困難」と答えた。また、「学生の能力を適切に測る方法を開発できているか」についても、「非常に困難」「困難」とする回答が、69%に上った。

調査では、「入試の点数と入学後の成績は必ずしも相関しない。だが、(本人の)学習意欲を測る方法がない」(私立医科大)といった悩みが目立った。

センター試験の後継となる達成度テストの発展レベルは、一部で教科ごとの枠にとらわれない設問が想定されているそうだ。例えば、ワインについての文章を読みながら(国語)、発酵に関する問い(化学)やローマ帝国の歴史(世界史)について解答する・・・。しかし、どんな試験になるにせよ、試験は試験であり、点数がつく。試験が変われば受験生の勉強や対策も変化して、どうすれば点数をとることができるかという方法が編み出されていくのだろう。試験方法がかわっても、同じことの繰り返しのような気がする。もちろん、過渡期に入試を迎える受験生は前例がないため、大変だろうが。

そのために、試験の点数だけに頼らない「AO入試」が広く行われている。AO入試の問題点についてはいろいろ指摘されているものの、多様な入試制度をもつ私立大学では、入学生の学力に幅があるのは事実である。ただ、記事の中にもあるように、入試の形態や点数と入学後の成績には明確な相関はみられない。要するに、大学で努力すれば、そのぶん成長することができるといえる。

大学入試は高等教育の課題であるが、一方で、子どもの学ぶ機会を守ることも大切だ。政府は、経済的に厳しい家庭の子供を支援するために必要な施策をまとめた「子供の貧困対策大綱」を閣議決定した。「貧困の世代間連鎖を断ち切る」という基本方針を掲げ、親世代の学び直しなどを進める方針という。貧困に直面する子供は6人に1人いるとされ、「学びの機会」を得るための環境づくりが求められている。

大学教育は、それまでの初等中等教育の上に成り立つものだ。そのため、大学入試だけでなく、それまでの小中高校での教育をどうすすめていくかの議論も欠かせない。一連の教育制度のなかで学習意欲を高めていくような連携ができればいいが。

2014年9月7日日曜日

自分の心の声にしたがう勇気

ブログ「人の心に灯をともす」から人と違うことをする」(2014-09-03)をご紹介します。


フランスの政治哲学者、ジャン・ジャック・ルソーは、「慣習とは反対の道を行け。そうすれば、ほぼいつでもうまくいく」と書いてあります。

アップル・コンピューターのすばらしい広告は、「異なる考えをもて」と、われわれをそそのかします。

あるいは、わたしはリーダーシップに関する講演で、聴いている人たちに向かって、「大勢の人のあとについていけば、行きつく先はたいてい出口です」といっています。

豊かで実りある人生を送るには、自分自身のレースを走ることが欠かせません。

あなたのユニークさを犠牲にしてまで、社会的なプレッシャーという要求に屈するのはやめましょう。

世界でもっとも賢明で有能な人びとの一生を調べてみると、彼らは他人からどう思われようと気にしていなかったことがわかるでしょう。

世論に押されて行動するのではなく、自分の心の声にしたがう勇気をもっていました。

人通りの少ない道を歩むことによって、彼らは夢想だにしなかった成功を手に入れたのです。

慣習にとらわれないようにすることの重要さを説いている最高の引用句のひとつは、小説家のクリストファー・モーリーのことばです。

「毎日、ほかのだれも読んでいないものを読みなさい。毎日、ほかのだれも考えていないことを考えなさい。いつも満場一致の一員になることは、心にとってけっしていいことではありません」

そして、最高のものは哲学者のエマソンのことばでしょう。

「世の中にあって、世の中の意見に生きるのはたやすい。ひとりのとき、自分の意見に生きるのはたやすい。だが、偉大な人間とは、群衆のなかにあって、みごとに孤高を保てる人物である」

ほかのみんながしているという理由で、なにかをしないようにしましょう。

しかるべき理由があって他人と違っているのは、賢明な生き方なのです。

アインシュタイン、ピカソ、ガリレオ、ベートーヴェンにきいてみるといいでしょう。


みんながしていないこと、人と違う道を選ぶ人は、失敗しても人のせいにはしない。

人のせいにする人は、「みんながしている」「みんなそう思っている」というのを隠れ蓑(みの)にしてしまう。

「人と違うことをやるというのが、ぼくの基本ですから」(イチロー)

人と違うことをすることは、いばらの道、しんどい道。

「大勢の人のあとについていけば、行きつく先はたいてい出口です」

独自の道を行くことを恐れない人でありたい。