関係者の皆様は既にご承知のとおりですが、去る6月26日、大学のガバナンス改革を促進することを目的とした「
学校教育法及び国立大学法人法の一部を改正する法律」(平成26年法律第88号)が公布され、また、8月29日には、「
学校教育法施行規則及び国立大学法人法施行規則の一部を改正する省令」(平成26年文部科学省令第25号)が公布されました。いずれも
平成27年4月1日から施行されることになります。
これを受け、文部科学省は、去る8月29日、各国公私立大学長当宛に、法令改正の趣旨、概要及び留意事項等に係る「
施行通知」を発出しています。
今回の改正は、一言でいえば、「学長がリーダーシップを一層発揮できるようにするための環境整備」が主目的のようですが、少しうがった見方をしてみれば、①学長の強力な助っ人として学長権限の一部を有する副学長を設置すること、②これまでややもすると学長(又は大学経営)の足かせとなってきた教授会の権限を抑制(もっと悪く言えば骨抜きに)すること、③学長選考に直結する法定会議(経営協議会、教育研究評議会)の構成員の多くを学長寄りにすることなど、「学長権限の強(大)化」という意図が透けて見えるような気がします。
国立大学は、現在、法人化後10年が経過し、来年度には第二期中期目標・中期計画を終えるわけですが、国民が拠出した貴重な税財源に支えられて経営しているという緊張感・自律性、さらには、少子化・グローバル化・イノベーションといった多くの課題解決に向けた改革意識、危機感・スピード感の欠如は相変わらずであり、社会からの厳しい指摘は甘んじて受けとめなければなりませんし、学長をトップとした経営層の更なる推進力強化が求められているところです。
一方、現実には、大学を牽引する立場である学長や役員などの大学の経営層の中には、未だに経営や改革に必要なスキルや熱意に欠ける方々が少なくない(特に、学長に意見できないイエスマン理事、政策立案能力のない丸投げ理事、波風が立たないことを優先するサラリーマン理事が多い)との指摘もあり、今回の改正を梃にして、更なる努力が期待されるところです。
私見ですが、今回の改正で、少しばかり懸念されるのは、国会での法案審議の際にも議論されたように、学長権限の強化に伴う「独走や暴走」ではないでしょうか。もちろん存在意義を失った学長は、現在では、各大学の内部規定において「解任」可能な仕組みにはなっておりますが、問題は、誰が実質的な解任権限を持つかということではないかと思います。
国立大学法人の場合、学長選考会議の構成員の半数以上は学外者から選出することになっています。この方々は、一般的には、経営協議会の学外委員がそのまま自動的に選出されるようになっています。そして、この経営協議会の学外委員を選任する権限を持つのは、学長なのです。
つまり、学長の進退に係わる強力な権限を持つ学長選考会議の学外委員は、学長が就任をお願いした方々(学長の考えを理解し認識を共有している学長寄りの方々)というわけですので、学長が、大学経営や改革に消極的あるいは支障を来したとしても、よほどのことがない限り「解任」ということにはなりえないでしょう。
今回の改正で更なる「権限の一極化」が進むことになります。これまで以上に強力な権限を持つことになる学長は、学生、教職員、ひいてはステークホルダーのために、付与された権限をどのように大学経営や改革に生かし、価値を創造していくのかの手腕が問われることになります。この点、よく注視しておく必要がありそうです。
さて、参考までに関連資料をご紹介します。
法律改正の概要
施行通知(全文)
学校教育法及び国立大学法人法の一部を改正する法律及び学校教育法施行規則及び国立大学法人法施行規則の一部を改正する省令について(通知)(下線は小生)
第一 改正の趣旨
大学(短期大学を含む。以下同じ。)が、人材育成・イノベーションの拠点として、教育研究機能を最大限に発揮していくためには、学長のリーダーシップの下で、戦略的に大学を運営できるガバナンス体制を構築することが重要である。今回の改正は、大学の組織及び運営体制を整備するため、副学長の職務内容を改めるとともに、教授会の役割を明確化するほか、国立大学法人の学長又は大学共同利用機関法人の機構長の選考に係る規定の整備を行う等の所要の改正を行ったものである。
第二 改正の概要
1 学校教育法(昭和22年法律第26号)の一部改正
(1)副学長の職務(第92条第4項関係)
副学長の職務は、これまでは「学長の職務を助ける」と規定されてきたが、学長の補佐体制を強化するため、学長の指示を受けた範囲において、副学長が自らの権限で校務を処理することを可能にすることで、より円滑かつ柔軟な大学運営を可能にするため、副学長の職務を、「学長を助け、命を受けて校務をつかさどる」に改めたこと。
(2)教授会の役割の明確化(第93条関係)
教授会については、これまで「重要な事項を審議する」と規定されてきたが、教授会は、教育研究に関する事項について審議する機関であり、また、決定権者である学長等に対して、意見を述べる関係にあることを明確化するため、以下のとおり改正を行ったこと。
1)教授会は、学生の入学、卒業及び課程の修了、学位の授与その他教育研究に関する重要な事項で教授会の意見を聴くことが必要であると学長が定めるものについて、学長が決定を行うに当たり意見を述べることとしたこと。(第93条第2項)
2)教授会は、学長等がつかさどる教育研究に関する事項について審議し、及び学長等の求めに応じ、意見を述べることができることとしたこと。(第93条第3項)
2 国立大学法人法(平成15年法律第112号)の一部改正
(1)学長又は機構長の選考の透明化(第12条及び第26条関係)
1)国立大学法人の学長又は大学共同利用機関法人の機構長の選考は、学長選考会議又は機構長選考会議(以下「学長等選考会議」という。)が定める基準により、行わなければならないこと。(第12条第7項(大学共同利用機関法人については、第26条において準用))
2)国立大学法人及び大学共同利用機関法人(以下「国立大学法人等」という。)は、学長又は機構長の選考が行われたときは当該選考の結果その他文部科学省令で定める事項を、学長等選考会議が1に規定する基準を定め、又は変更したときは当該基準を、それぞれ遅滞なく公表しなければならないこととしたこと。(第12条第8項(大学共同利用機関法人については、第26条において準用))
(2)経営協議会(第20条第3項及び第27条第3項関係)
国立大学法人等の経営協議会の委員の過半数は、当該国立大学法人等の役員又は職員以外の者で大学又は大学共同利用機関に関し広くかつ高い識見を有するもののうちから、教育研究評議会の意見を聴いて学長又は機構長が任命する委員(以下「学外等委員」という。)でなければならないこととしたこと。
(3)教育研究評議会(第21条第3項関係)
国立大学法人の教育研究評議会の組織について、学校教育法第92条第2項の規定により副学長(同条第4項の規定により教育研究に関する重要事項に関する校務をつかさどる者に限る。)を置く場合には、当該副学長(当該副学長が2人以上の場合には、その副学長のうちから学長が指名する者)を教育研究評議会の評議員としたこと。
3 学校教育法施行規則(昭和22年文部省令第11号)の一部改正
(1)学生に対する懲戒の手続の策定(第26条第5項関係)
学長は、学生に対する退学、停学及び訓告の処分の手続を定めなければならないこととしたこと。
(2)学生の入学、退学、転学、留学、休学及び卒業(第144条関係)
学生の入学、退学、転学、留学、休学及び卒業について、教授会の議を経て、学長が定めることとしている現行規定を削除したこと。
4 国立大学法人法施行規則(平成15年文部科学省令第57号)の一部改正
(1)学長又は機構長の選考を行った際の公表事項(第1条の2関係)
学長又は機構長の選考を行った際は、学長又は機構長として選考された者を学長等選考会議が選考した理由、学長等選考会議における学長又は機構長の選考の過程を公表することとしたこと。
(2)教育研究上の重要な組織の長等の任命(第7条の2関係)
国立大学法人法第35条において準用する独立行政法人通則法(平成11年法律第103号)第26条の規定による学部、研究科、大学附置の研究所その他の教育研究上の重要な組織の長の任命は、学長又は機構長の定めるところにより行うものとしたこと。
5 施行期日
改正法及び改正省令は、平成27年4月1日から施行すること。
第三 留意事項
1 学校教育法及び同法施行規則の一部改正
学校教育法及び同法施行規則の改正は、全ての国立大学、公立大学、私立大学及び構造改革特別区域法(平成14年法律第189号)に基づいて学校設置会社が設置する大学に適用されるものである。
(1)副学長の職務(学校教育法第92条第4項関係)
1)副学長は、学長を補佐するのみならず、学長から指示を受けた範囲の校務について自らの権限で処理することができるようになること。
2)副学長は、これまでと同様に、大学の規模や実情に応じて置くことができる職であり、必置の職ではないこと。
3)同じ学校教育法にある副校長に関する規定等と平仄を合わせるため、改正前の学校教育法第92条第4項の「学長の職務を助け」を、改正後は「学長を助け」に改めたが、本質的な変更はないこと。
4)今回の改正により、副学長の法律上の権限の範囲は広がるが、各大学における具体的な所掌範囲については、適切な手続に基づいて、学長が個別に命ずること。なお、改正法の施行後であっても、副学長が、必ず学長から校務をつかさどるよう命令を受けなければならないものではなく、命令を受けない場合には、従前どおり、副学長として、学長を補佐する職務に従事することが可能であること。
5)学長から副学長への、副学長がつかさどる校務の命令は、随時行うことが可能であるが、学内外からも権限と責任が明らかになるよう、文書(学長裁定等)で明確にしておくこと。
(2)教授会の役割の明確化(学校教育法第93条関係)
1)学校教育法第93条第1項に規定するとおり、教授会は、これまでと同様に、大学における必置の機関であること。
2)学校教育法第93条第2項各号に掲げる事項については、教授会に意見を述べる義務が課されていること。学長に対しても、教授会に意見を述べさせる義務を課しているものと解されるが、
学長は、教授会の意見に拘束されるものではないこと。
3)学長は、学校教育法第93条第2項に基づいて
教授会が意見を述べるべき事項が学長裁定等適切な方法で明確化されているか再確認すること。なお、学長裁定等は必要に応じて随時定めることで足りるが、学長が定めた事項については、教授会に周知すべきこと。その際、同法第93条第2項第3号に基づいて学長が定めた事項のほか、同項第1号及び第2号に規定する事項についても、教授会が意見を述べるものとされている事項に含まれていることに留意すること。
4)学校教育法第93条第2項第1号で規定された以外の、
学生の退学、転学、留学、休学については、本人の希望を尊重すべき場合など様々な事情があり得ることから、学校教育法施行規則第144条は削除し、
教授会が意見を述べることを義務付けないこととしたこと。
ただし、
懲戒としての退学処分等の学生に対する不利益処分については、教授会や専門の懲戒委員会等において多角的な視点から慎重に調査・審議することが重要であることから、同施行規則第26条第5項において、
学長は、学生に対する同施行規則第26条第2項に規定する
退学、停学及び訓告の処分の手続を定めなければならないこととしたこと。
なお、同施行規則の改正を受け、退学、転学、留学、休学、復学、再入学その他学生の身分に関する事項について、各大学において、大学への届出、審査等の新たな手続を定める必要があるか点検し、必要に応じて定めること。
5)学校教育法第93条第2項第3号の「
教育研究に関する重要な事項」には、
教育課程の編成、教員の教育研究業績の審査等が含まれており、その他学長が教授会の意見を聴くことが必要である事項を定める際には、教授会の意見を聴いて定めること。その際、教授会の意見を参酌するよう努めること。
なお、
参酌とは、様々な事情、条件等を考慮に入れて参照し、判断することであること。
6)学校教育法第93条第2項第3号の「
教育研究に関する重要な事項」には、キャンパスの移転や組織再編等の事項も含まれ得ると考えられるが、
具体的にどのような事項について教授会の意見を聴くこととするかは、学長が、各大学の実情等を踏まえて判断すべきこと。
なお、
これらの事項の中には、経営に深く関わる事項が含まれる場合も考えられるが、経営に関する事項は、国立大学法人の学長、公立大学法人の理事長、公立大学を設置する地方公共団体の長、学校法人の理事会、学校設置会社の取締役会等
において決定されるべきであり、学校教育法に基づいて設置される教授会は、あくまでも教育研究に関する専門的な観点から意見を述べるものであること。
7)学校教育法第93条第2項各号に掲げる事項以外の事項についても、教授会は、同条第3項に規定する「教育研究に関する事項」として審議することが可能であること。なお、同法第93条第3項前段の
「審議」とは、字義どおり、論議・検討することを意味し、決定権を含意するものではないこと。
8)学校教育法第93条第2項及び同条第3項後段に基づき、
教授会が学長等に意見を述べる前には、教授会として責任を持って、専門的な観点から遅滞なく審議することが求められること。
9)学校教育法第93条第2項及び同条第3項後段に基づき、教授会が学長等に意見を述べる際に、教授会として何らかの決定を行うことが想定されるが、
教授会の決定が直ちに大学としての最終的な意思決定とされる内部規則が定められている場合には法律の趣旨からして適切ではなく、学長が最終決定を行うことが明らかとなるような見直しが必要であること。
10)学校教育法第93条第2項及び同条第3項後段に基づき
教授会が述べた意見は、それぞれ法律に基づき述べられた意見であるが、いずれの意見についても、これを受けた
学長等が最終的に判断すべきこと。なお、同法第93条第2項については、法律が学長が決定を行うに当たり教授会に意見を述べる義務を課していることを踏まえると、当該教授会の意見を慎重に参酌すべきこと。
11)学校教育法第93条第3項前段は、学部長その他研究科、研究所等の組織の長においても、基本的には各組織に関する校務の決定権を有する場合があることから、学長と同様に教授会との関係を明確化したものであること。
12)学校教育法第93条第3項後段の「学長等の求めに応じて、意見を述べることができる」とは、学長等が教授会の意見を求める場合に、これに対して教授会が意見を述べるという関係を確認的に規定したものであること。学長の求めがない場合の取扱いについては、法律では規定していないが、教授会が教育研究に関する事項について審議した結果を、事実行為として学長等に対して伝えることは差し支えないこと。
13)1)から12)までの前提の上で、円滑な大学運営を図るという観点から、学長と教授会が適切な役割を果たし、意思疎通を図っていくこと。
14)教授会は、必ずしも学部や研究科単位で置かなければならないものではなく、全教員から構成される全学教授会や、学科や専攻ごとに置かれる教授会、教育課程編成委員会や教員人事委員会など機能別に組織される教授会など多様な在り方が考えられることから、
教育研究の実態を踏まえながら、各大学において、適切な教授会の設置単位の在り方について再点検を行うこと。
15)教授会の役割を明確化する観点から、個人情報等の取扱いには十分に留意した上で、
議事次第や議事概要等のホームページでの公表など適切な方法によって透明化を図ること。
2 国立大学法人法及び同法施行規則の一部改正
国立大学法人法及び同法施行規則の改正は、全ての国立大学法人等に適用されるものである。
(1)学長又は機構長の選考の透明化(国立大学法人法第12条及び第26条関係)
1)
学長等選考会議は、当該国立大学法人等にふさわしい学長又は機構長の候補者を選出する重要な責任と権限を有しており、この責任と権限に基づき、
広く学内外の候補者から主体的に選考を行うこと。このため、
学長等選考会議が定める基準には、学長又は機構長
に求められる資質・能力、学長又は機構長の選考の手続・方法に関する具体的な事項が盛り込まれることが想定されること。
2)
学長等選考会議は、候補者の推薦への関与、所信表明の機会の設定やヒアリングの実施、質問状の公開など適切な方法を通じて、主体的な選考を行うこと。なお、選考の過程で教職員による、いわゆる意向投票を行うことは禁止されるものではないが、その場合も、
投票結果をそのまま学長等選考会議の選考結果に反映させるなど、過度に学内又は機構内
の意見に偏るような選考方法は、学内又は機構内
のほか社会の意見を学長又は機構長
の選考に反映させる仕組みとして設けられた学長等選考会議の主体的な選考という観点からは適切でないこと。
3)
学長等選考会議の構成員については、審査の公正性等の観点にも配慮しつつ、
多様なステークホルダーが参画するよう努めること。また、学外等委員について、できる限り多くの委員の出席が可能となる会議日程を設定するなど会議への出席の確保、積極的な情報提供による欠席した委員に対するフォロー等、各国立大学法人等における
学長等選考会議の運用について十分配慮し、委員が議事に積極的に参加することができるような運営に努めること。
4)
学長等選考会議は、選考した
学長又は機構長
の業務執行の状況について、恒常的な確認を行うことが必要であること。業務執行の状況についての確認を行う時期については、各国立大学法人等の実情に応じて、学長等選考会議において適切に判断すべきものであること。なお、学長又は機構長自身が学長等選考会議の構成員となっている場合は、学長又は機構長の業務執行の状況についての確認に当たって、その運用に特に留意することが必要であること。
また、国立大学法人法第17条及び第26条に基づき、
文部科学大臣が行う学長又は機構長
の解任は、学長等選考会議の申出により行うものとされていることを踏まえ、
学長又は機構長
の解任に係る申出に関する規則等について、あらかじめ整備することが必要であること。
5)学長又は機構長の任期については、国立大学法人等の自主性・自律性の尊重に配慮する観点から、学長等選考会議の議を経て、各国立大学法人等の規則で定めるものであるが、
学長又は機構長
が適切にリーダーシップを発揮できるよう、任期を設定すること。また、
現学長又は現機構長
について、例えば、学長等選考会議が優れた業績を上げていると判断した場合には、教職員による、いわゆる意向投票を行わずに再任を認めるなど、柔軟な手続を確保することについても適切に留意すること。
6)国立大学法人等が選考の結果その他文部科学省令で定める事項及び学長選考会議が定める基準を公表するに当たっては、ホームページへの掲載その他の適切な方法によって行うこと。
7)1)から6)までの点を踏まえて、全ての国立大学法人等において、
現在の学長又は機構長
の選考の方法や学長等選考会議の運営について点検を行い、より公正、透明な選考が行われるよう必要な改善を図ること。
(2)経営協議会(国立大学法人法第20条第3項及び第27条第3項関係)
経営協議会については、国立大学法人等の運営に学外者の意見を適切に反映するとともに、学長又は機構長の意思決定を支えるために審議を行うことを通じて、学長又は機構長が適切な意思決定を行う上で重要な役割を果たすことが期待されている。このことを踏まえ、
学外等の委員の意見が審議においてより適切に反映されるようにするために、経営協議会への出席が確保できるかどうかという観点を含め、経営協議会の規模や大学等の実情を踏まえた適切な学外等の委員を選任すること。また、経営協議会の場にとどまらない学外等の委員に対する積極的な情報提供、多くの学外等の委員の出席が可能となる会議日程の設定、欠席した学外等の委員に対するフォロー、議事概要の公表その他の適切な情報公開等、各国立大学法人等における経営協議会の運用について十分配慮することが必要であること。
(3)教育研究評議会(国立大学法人法第21条第3項関係)
教育研究評議会については、
教育研究に関する重要事項に関する校務をつかさどる副学長を評議員とすることとするが、
どの副学長を何名評議員とするかは、各国立大学法人において
学長が判断すべきこと。
(4)学長又は機構長の選考を行った際の公表事項(国立大学法人法施行規則第1条の2関係)
学長又は機構長として選考された者を
学長等選考会議が選考した理由については、
学長等選考会議が定める基準に照らして当該者が適切と判断した理由が明らかとなるものとする等、可能な限り具体的なものとすること。また、学長等選考会議における学長又は機構長の選考の過程については、学長等選考会議が定める基準に照らして、学長又は機構長候補者の推薦・立候補等を受け付けた期間、学長又は機構長候補者の選考に関わるヒアリングの実施期日、教職員による、いわゆる意向投票の実施状況等、学長等選考会議の開催状況以外のものが含まれるものであること。
(5)教育研究上の重要な組織の長の任命(国立大学法人法施行規則第7条の2関係)
国立大学法人法第35条において準用する独立行政法人通則法第26条において、
国立大学法人等の職員の任命権は学長又は機構長
にあることが規定されており、国立大学法人法施行規則第7条の2については、
教育研究上の重要な組織の長の任命についても、その任命権を有する学長又は機構長
の定める手続により行うことが求められるものであることを確認的に規定したものであること。
3 改正の基本的な考え方
(1)大学が果たすべき社会的責任
公的な存在である大学のステークホルダーは、学生や教職員、大学の設置者等の直接的な関係者にとどまらず、保護者や卒業生、地域社会や各種団体・企業、さらには国民一般に及ぶものである。大学は、社会からの付託に応える教育研究を展開し、こうした様々なステークホルダーに対して、社会的責任(Social Responsibility)を果たしていくことが求められること。
また、そのためには、
大学運営に権限と責任を有する学長が、教育研究評議会や経営協議会、理事会・評議員会、監事などの機関を有効に活用しながら、それぞれの大学が果たすべき役割を的確に捉えた上で、
自らの説明責任を果たし、透明性の高い大学運営を行っていくことが必要であること。
なお、国立大学法人については、法律上、その設置の目的が、「大学の教育研究に対する国民の要請にこたえる」こと等とされているとともに、その
運営費の多くが、国からの公的支援により支えられていることに鑑み、学長が最終的に責任を負う対象は、国民であることに留意すること。
(2)権限と責任の一致
1)学長の権限と責任
学校教育法第92条第3項は、「学長は、校務をつかさどり、所属職員を統督する。」と規定しており、
学長は、大学の全ての校務について、包括的な責任者としての権限を有するとともに、
特に高い立場から教職員を指揮監督することとされていること。今回の改正では、この規定に変更はなく、学長は引き続き、
大学の校務について権限を有しており、その前提の下で大学運営について最終的な責任を負うこと。
また、
学長は自らの権限と責任の重大性を十分に認識し、適切な手続に基づいて意思決定を行うこと。
2)学長に対する業績評価
校務に関する決定権を有する学長が、その結果について責任を負うことは当然であり、
学長の業務執行の状況(副学長等への指示・監督状況、意思決定の手続を含む。)について、学長選考会議や理事会等の学長選考組織、監事等が恒常的に確認すること。
特に
国立大学法人の監事については、独立行政法人通則法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備に関する法律(平成26年法律第67号)により国立大学法人法が改正され、監事機能の強化が図られたところであり、
適切な予算・人員面の手当をするなど、その機能が適切に発揮されるようにすべきこと。なお、独立行政法人通則法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備に関する法律による国立大学法人法の改正については、別途留意すべき点について、施行通知を発出する予定であること。
このほか、
自己点検・評価、認証評価等を活用して、適切な評価を行うこと。
3)学長と教授会の関係
今回の法改正は、教授会が法律上の審議機関として位置付けられていることを明確化するものであること。仮に、各大学において、大学の校務に最終的な責任を負う
学長の決定が、教授会の判断によって拘束されるような仕組みとなっている場合には「権限と責任の不一致」が生じた状態であると考えられるため、責任を負う者が最終決定権を行使する仕組みに見直すべきであること。
なお、学長が教育研究に関する判断を行うに当たって、その判断の一部を教授会に委任することは、学長に最終的な決定権が担保されている限り、法律上禁止されるものではないこと。しかしながら、
教授会の判断が直ちに大学の判断となり、学長が異なる判断を行う余地がないような形で権限を委譲することは、学長が最終的な決定権を有すると規定している法律の趣旨に反するものであること。
(3)内部規則の総点検・見直し
1)今回の法改正を契機に、各大学等においては、改正法及び改正省令の
施行期日までに、内部規則全体の解釈及び実態の運用と照らし合わせた上で、関係する内部規則について、法改正の趣旨を適切に踏まえたものか総点検し、必要な見直しを行うことが求められること。
その際、各大学等においては、今回の改正事項のうち、
教授会の役割の明確化(学校教育法第93条関係)、
学長等選考の透明化(国立大学法人法第12条、第26条関係)、
経営協議会(国立大学法人法第20条第3項、第27条第3項関係)及び
教育研究評議会(国立大学法人法第21条第3項関係)
の構成については、改正法の施行を待たずに、各大学等の判断によって内部規則等を見直すことが可能であることに留意した上で、計画的に総点検・見直しを行っていくこと。
なお、改正法及び改正省令の施行期日までは、学校教育法施行規則第144条が有効であることに留意すること。
2)
内部規則の総点検・見直しの作業は、法改正の趣旨を学内等の教職員に広く周知・徹底した上で、全学的に実施すること。
3)
内部規則の総点検・見直しに当たっては、規定上の個別の文言のみで判断すべきではなく、内部規則相互の整合性や上下関係・優先関係を確認し、全体を分かりやすく体系化した上で、学長の校務に関する最終決定権が内部規則全体の体系の中で担保されるようにすること。
また、
意思決定における各機関の責任を再確認し、学長の決定に至るまでの適切な意思決定過程を確立すること。
4)
内部規則の最終的な決定権は、大学の設置者又は学長が有しており、大学の設置者や学長が、教授会の決定に拘束されるような内容又は手続を規定する内部規則については、見直しが求められること。
5)
国立大学法人及び公立大学法人
においては、法人化以降は教育公務員特例法(昭和24年法律第1号)
に定められた教員の採用、昇任、転任、降任、免職、懲戒等(以下「採用等」という。)
に関する規定は適用されておらず、教員の採用等については、法律上、審議機関とされている教授会や教育研究評議会、教育研究審議機関に決定権は付与されていないことを踏まえながら、
学長の校務に関する最終決定権が担保されているかという観点から、内部規則の適切な総点検・見直しを行うことが求められること。
(4)大学の自治の尊重
「大学の自治」とは、大学が、学術の中心として深く真理を探究することを本質とすることに鑑みて、大学における「学問の自由」(憲法第23条)を保障するため、教育研究に関する大学の自主的な決定を保障するものと理解されている。
教育基本法(平成18年法律第120号)第7条第2項においても、大学の自主性・自律性を尊重することが規定されており、今回の法改正は「大学の自治」の考え方を変更するものではないこと。
(5)学長と理事会との関係
私立大学においては、私立学校法(昭和24年法律第270号)第36条により、設置者である学校法人がその運営についての責任を負い、理事会が最終的な意思決定機関として位置付けられていること。
なお、今回の改正は、学校教育法に基づく学長の権限と、私立学校法に基づく理事会の権限との関係に変更を加えるものではないこと。
(6)公立大学における学長、学部長その他の人事
1)地方公共団体が直接管理している公立大学には、従来どおり、教育公務員特例法が適用され、公立大学法人が設置している公立大学には、地方独立行政法人法(平成15年法律第118号)の公立大学に関する特例が適用されるが、これら公立大学における学長、学部長その他の人事については、今回の改正の対象ではなく、法的な取扱いに変更はないこと。
2)ただし、学長の選考については、公立大学においても、求めるべき学長像を具体化し、候補者のビジョンを確認した上で決定することは重要であり、国立大学法人の学長選考の透明化等が法的に定められたことを参考に、地方公共団体及び公立大学法人並びに公立大学の主体的な判断により、透明性の高い選考が行われるよう見直していくこと。
(7)私立大学における学長、学部長その他の人事
1)私立大学における学長、学部長その他の人事については、今回の法改正の対象ではなく、理事会が最終決定を行うという法的な取扱いに変更はないこと。
2)ただし、学長の選考については、私立大学においても、建学の精神を踏まえ、求めるべき学長像を具体化し、候補者のビジョンを確認した上で決定することは重要であり、学校法人自らが学長選考方法を再点検し、学校法人の主体的な判断により見直していくこと。
(関連情報)「大学ガバナンス」に関する情報(文部科学省)
(関連報道)「聡明な学長ばかりならいいが」(2014-07-30 日本経済新聞)(下線は小生)
トップが大胆な改革に挑もうとするが、教授会から異論反論が噴き出して立ち往生-。大学でしばしば見られる光景だ。こうした事態を防ぐための法律が、通常国会で成立した。改正学校教育法と改正国立大学法人法である。
現行の学校教育法では、教授会の役割を「重要な事項を審議する」とだけ定めている。改正法ではこれを限定し、教授会は「教育研究に関する重要事項」について学長が決定をする際に意見を述べる機関と位置づけた。
大学運営などにも影響を及ぼしがちな教授会の権限を縮小し、学長のリーダーシップを確立するのがねらいだ。しばしば意思決定に手間取り、国際競争にも立ち遅れる日本の大学のガバナンス改革に一定の効果はあるだろう。
国立大学法人法の改正では、学長選考基準やプロセスを透明化する規定も盛り込まれている。
2つの改正法は来春施行だ。うまく運用できれば思い切った入試改革や教育・研究体制の再編、外部人材の登用などが進むかもしれない。しかし一方で、
学長は自らの責任が格段に重くなるのを自覚しなければなるまい。
教授会の力がそがれ、学内に表立った批判が出なくなったからといって、トップが恣意的な施策を打ち出したり不適切な人事に走ったりするならキャンパスはかえって混乱するだろう。そういう恐れのない、聡明(そうめい)な学長ばかりかどうか心配は残る。
さまざまな「知」が集積する大学という場の特質をわきまえ、同時に現実感覚も失わず長期的な経営判断ができる学長は、残念ながらそんなに多くはいまい。ならば今回の改革を機に、大学は学長を「育てる」ことを心がける必要がある。あるいは経営と教育・研究の分離も課題となるはずだ。
ひとくちにガバナンス改革というが、いまの大学は極めて多様である。いきなり学長に全責任を押しつけてよしとするのではなく、それぞれの実情に合ったやり方を探る必要もあろう。
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