2016年2月26日金曜日

改正国立大学法人法案(指定国立大学法人制度、資産の有効活用関連)が閣議決定されました

本日(2月26日)、国立大学法人法の一部を改正する法律案が閣議決定されました。

改正法律案は、1)「日本再興戦略」改訂2015において「特定研究大学(仮称)」制度を創設することとされたことを受け、これを「指定国立大学法人制度」として法人法上に位置づけること、2)全ての国立大学法人を対象とし、文部科学大臣の認定・認可を要件として、不動産の活用寄付金等の運用に関し、規制緩和を行うことを内容としています。

今後、国会において審議されることとなります。文部科学省令で定めることとされている部分があるため、全貌を正確に理解することはできませんが、該当する可能性の高い大学におかれては、注視していく必要があります。

単なる丸写しですが、全国の国立大学に対し文部科学省から示された資料(夕方には、文部科学省のホームページにて公表)のうち、「法律案の概要」と「法律案要綱」をご紹介します。

国立大学法人法の一部を改正する法律案の概要



国立大学法人法の一部を改正する法律案要綱

第1 指定国立大学法人制度の創設

1 指定国立大学法人の指定

文部科学大臣は、世界最高水準の教育研究活動の展開が相当程度見込まれる国立大学法人を、その申請により、指定国立大学法人として指定することができるものとし、当該指定をしようとするときは、あらかじめ、国立大学法人評価委員会(以下「評価委員会」という。)の意見を聴かなければならないものとするとともに、当該指定をしたときは、文部科学省令で定めるところにより、その旨を公表しなければならないものとすること。(第34条の4関係)

2 研究成果を活用する事業者への出資

指定国立大学法人は、当該指定国立大学法人における研究の成果を活用する事業であって政令で定めるものを実施する者に対し、文部科学大臣の認可を受けて、出資を行うことができるものとすること。(第34条の5関係)

3 中期目標に関する特例

文部科学大臣は、指定国立大学法人の中期目標を定め、又はこれを変更するに当たっては、世界最高水準の教育研究活動を行う外国の大学の業務運営の状況を踏まえなければならないものとすること。(第34条の6関係)

4 余裕金の運用の認定の特例

指定国立大学法人は、第2の2の認定を受けることなく第2の2に規定する運用を行うことができるものとすること。(第34条の7関係)

5 役職員の報酬、給与等の特例等

指定国立大学法人の役職員の報酬、給与等の支給の基準に関する特例を設けるため、所要の読替えを定めるとともに、指定国立大学法人の専ら教育研究に従事する職員の給与その他の処遇については、当該職員が行う教育研究の内容及び成果についての国際的評価を勘案して行うものとすること。(第34条の8関係)

6 評価委員会の委員への外国人の任命

文部科学大臣は、大学の運営に関して高い識見を有する外国人を評価委員会の委員に任命することができるものとするとともに、外国人である評価委員会の委員は、評価委員会の会務を総理し、評価委員会を代表する者となることはできず、当該委員の数は、評価委員会の委員の総数の5分の1を超えてはならないものとすること。(第9条第3項及び第4項関係)

第2 国立大学法人及び大学共同利用機関法人の資産の有効活用を図るための措置

1 土地等の貸付け

国立大学法人及び大学共同利用機関法人(以下「国立大学法人等」という。)は、業務の遂行に支障のない範囲内で、その対価を当該国立大学法人等の教育研究水準の一層の向上を図るために必要な費用に充てるため、文部科学大臣の認可を受けて、当該国立大学法人等の所有に属する土地等であって、当該業務のために現に使用されておらず、かつ、当面これらのために使用されることが予定されていないものを貸し付けることができるものとすること。(第34条の2関係)

2 余裕金の運用の認定

国立大学法人等のうち文部科学大臣の認定を受けたものは、次の方法により、当該国立大学法人等が受けた寄附金を原資とする部分であることその他の文部科学省令で定める要件に該当する余裕金の運用を行うことができるものとすること。

  1. 金融商品取引法(昭和22年法律第25号)に規定する有価証券であって政令で定めるもの(株式を除く。)の売買
  2. 預金又は貯金(文部科学大臣が適当と認めて指定したものに限る。)
  3. 信託会社又は信託業務を営む金融機関への金銭信託(第34条の3関係)

第3 その他

1 財務大臣との協議

文部科学大臣が第1の2若しくは第2の1の認可又は第2の2の2の指定をしようとする場合には、財務大臣に協議しなければならないものとすること。(第36条関係)

2 罰 則

第2の2に違反して業務上の余裕金を運用したときの罰則を定めること。(第40条関係)

第4 附 則

1 この法律は、平成29年4月1日から施行するものとすること。ただし、第1の6並びに第4の2及び3は、平成28年10月1日から施行するものとすること。(附則第1条関係)

2 指定国立大学法人の指定を受けようとする国立大学法人は、この法律の施行前においても、指定の申請をすることができるものとするとともに、文部科学大臣は、当該申請があった場合には、この法律の施行前においても、指定することができるものとし、この場合において、当該指定は、この法律の施行の日にその効力を生じるものとすること。(附則第二条関係)

3 第4の2のほか、この法律の施行に関し必要な経過措置は、政令で定めるものとすること。(附則第3条関係)

(参 考)

2016年2月20日土曜日

国立大学は産業界の声を生かす努力を怠るなかれ

イノベーションの創出をもたらす産学連携は、近時、我が国の成長戦略を実現するための重要な政策課題の一つとして位置づけられ、文部科学省や経済産業省が様々な施策を強力に進めています。

このような中、国立大学に対する産業界からの期待と要請は益々大きくなってきており、もはや大学は、根本原理の追究一辺倒では、その使命を果たすことが困難な時代になりつつあります。

国立大学は、産業界との協働や連携を通じて、研究成果の社会実装を視野に入れた活動を積極的に進め、社会的・経済的課題の解決に貢献していくことが益々重要になってきます。

このたび、産業界の代表である日本経済団体連合会が「産学官連携による共同研究の強化に向けて~イノベーションを担う国立大学・研究開発法人への期待~」と題する提言を行いました。

この中に示された国立大学に対する手厳しい指摘と求める改善は、産業界の期待の表れとも言えます。

国立大学の研究者、とりわけ経営責任のある学長、理事は、自身の安定的身分や、血税によって賄われている高額な報酬に見合った仕事や責務を適切に果たしているかを改めて振り返るとともに、「社会の声」である提言の内容に真摯に耳を傾け、実効性のある行動に移す努力を怠ることのないようにする必要があります。

提言のうち、国立大学に関係の深い部分を抜粋してご紹介します。(本文中、「企業、国立大学、国立研究開発法人」が併記されている部分は、わかりやすくするために、機械的に「国立大学」に置き換えています)



産学官連携による共同研究の強化に向けて
~イノベーションを担う国立大学・研究開発法人への期待~

Ⅰ 産学官連携のあるべき姿

「産学官連携」の最大の役割は、優れた最先端技術の創出と社会実装(イノベーション)の有機的な連携。わが国における産学官連携は、その役割に対して、成果・活動の両面で低調

現在、産学連携を通じて創出された成果が社会実装(事業化)に繋がった割合は16%、その成果が事業の売上に大いに貢献した割合は6%。また、国立大学の研究資金における民間拠出割合はOECD平均4.9%%に対し2.4%に留まり、産学共同研究の1件あたりの金額平均は欧米諸国に大きく劣る231万円

現在の産学官連携による共同研究は、その金額規模等に示される通り、個々の研究者間での純粋な「研究活動」が多数。社会実装を加速する産学官連携を実現するには、活動の幅を一層拡大することが求められる。

「研究成果(知的財産等)の創出」に終始することなく、将来に向けて必要な研究活動・研究成果の探索(革新領域の探索)や社会実装に向けた具体的活動(革新領域の市場創造)など、基礎・応用といった様々な段階で課題やビジョンを産学官が共有し、共同研究を進めることが必要

また、「第4次産業革命」等に代表される経済社会構造の変革下、革新領域の創出に資する成果を創出するためには、企業において不足しがちな高い基礎研究力や人文系・理工系双方のアセットをもつ、国立大学の総合力を十分に活用した多様性ある研究活動が重要

「革新領域」の創出に向けては、将来のあるべき社会像等のビジョンを国立大学が共に探索・共有し、基礎・応用や人文系・理工系等の壁を越えて様々なリソースを結集させて行う「本格的な共同研究」を通じてイノベーションが加速することが重要

なお、経団連が本提言に先立ち実施した意識調査においても、分野横断的な知見が必要な都市・インフラ・交通等の分野や、脳科学・新素材開発等の長期的視野にもとづく基礎研究が重視される分野において、9割を超える企業より「本格的な共同研究」に期待しているとの意見

また、その役割としても「将来の基幹技術開発」といった、従来の「お付き合い」を超えた連携を望む声が多数。今はまさに、企業にとっても、革新領域の創出を見越した「本格的な共同研究」への期待がかつてなく高まっているタイミング

Ⅱ 国立大学に対する期待

1 「本格的な共同研究」実行に向けて、速やかな対応を要する点

(1)国立大学の本部(産学連携本部等)における、部局横断的な体制を構築し共同研究を推進する企画・マネジメント機能の確立

国立大学の「本部」が、組織内の各部局と連携し、企業に対して「本格的な共同研究」の企画と提案を行い、実行をサポートする体制の構築。および、「大学間の連携」等、組織を越えた連携を推進する渉外機能の確立

(2)資金の好循環に向けた管理業務の高度化・共同研究経費の見える化

国立大学の本部のリーダーシップ、全面的な支援により迅速な交渉・契約がなされる仕組みの確立。加えて「共同研究の経費」について、直接経費・間接経費等を問わずエビデンスに基づく「見える化」を行い、企業との交渉を行うスキームの構築

(3)知の好循環に向けた知的財産マネジメントの強化

硬直的な「知的財産管理(成果管理)」体制・ルールの改善。特に「不実施補償」(企業と大学等の共願特許を企業側が実施する際、共同研究相手(大学等)に対価を支払うこと)に関し、非独占的な自己実施において「不実施補償料を請求しない」ルール(産業技術総合研究所等が導入)をはじめとする、契約の柔軟化(各組織や分野の特性に応じた特許権取扱の類型化等)。なお、「本格的な共同研究」を妨げうる課題として、約8割の企業が「不実施補償」をはじめとする知的財産の活用に関する課題があると回答

(4)人材の好循環に向けたリスクマネジメントの確立・クロスアポイントメント(研究者等が、大学や公的研究機関、民間企業等の間で、それぞれと雇用契約関係を結び、各機関の責任の下で業務を行うことが可能となる仕組み)の拡大

研究者・教員・ポスドク・学生等の共同研究への参画に向けた「リスクマネジメント」のルール明確化。例えば、営業秘密管理の徹底、職務発明制度・技術移転に関するルール整備(法人間異動時、技術輸出管理、契約履行責任の明確化等)。また、これらのルール整備と並行した、企業とのクロスアポイントメント拡大に向けた国立大学内の環境整備(教員人件費の柔軟化等)

2 将来に向けた研究成果の最大化に向けて、改革を要する点

(1)資金の好循環に向けた財務構造改革・財務基盤強化

優れた研究成果創出には強固な財務基盤が不可欠。特に国立大学は、教員人件費が運営費交付金に過度に依存する点をはじめとする硬直的な財務構造を改め、将来に向けた財源の多様化、教育・研究の質を高める資金を自ら捻出・投資する構造への改革が重要。並行して、コスト効率の改善も重要。英国では、国立大学の枠を超えた「事務的サービス、インフラの共有化」「共同調達」等により3年間で13億8,000万ポンド(2,400億円)を削減しており、同様の努力が必要

(2)知の好循環に向けた高度な知的資産マネジメント・研究の「価値」に関するプロモーション

研究成果の高度な活用に向け、研究経営資源を効果的・効率的にマネジメントする人材・機能の強化が必要。特に、成果の好循環に向けた「研究の価値」に関するプロモーションは重要。例えば、研究成果の社会実装に向けたロードマップを含む情報発信、企業との日常的な連携関係構築(情報交換の場の充実化、客員研究員制度の拡充(MITでは、産業界の客員研究員が「学生証」を持ち、自由に講義等に参加))等

(3)人材の好循環に向けた研究者(教員)の人事評価制度改革

研究者・教員等のキャリアパス上、企業における経験が高い評価を受ける制度設計。加えて国立大学においては、産学連携・本格的な共同研究に携わる教員を高く評価し、当該教員の教育・研究に割くエフォートが他の教員とは異なることを許容し、一層の産学連携が進むような柔軟な人事評価システムの実現

(4)産学官連携に関する「価値」の再認識

基礎研究・応用研究を問わず、産業界との連携拡大に向けた意識変革の推進(トップによる方針提示等)


本格的な共同研究の拡大に向けて進めるべき取組みの全体像


Ⅲ 政府に求められる対応

第5期科学技術基本計画においては、「オープンイノベーションを推進する仕組みの強化」、「産学官のパートナーシップの拡大」等について、具体的な数値目標を含めた強化方針が盛り込まれた。

また、文部科学省が昨年7月に発表した「国立大学経営力戦略」においても、各国立大学が産学連携を加速するための改革に積極的に取組むよう示された。

産業界としては第一に、これらに基づき、国立大学が、自ら積極的な改革を進めることに期待

その上で、政府には「本格的な共同研究」を積極的に強化する主体に関して、共同研究の強化が財務基盤の弱体化や教育・研究の質の低下を招かないためのシステム改善と、産学官連携が加速する強力なインセンティブシステムの設計を求める。

具体的には、以下のような事項

全 般

各国立大学における「産学官連携」「本格的な共同研究」の強化の度合いに応じた、運営費交付金等の重点的な資金配分。特に国立大学においては、本格的な共同研究の強化に応じて相対的にリソースが不足しうる「教育活動」に関し、その不足分を補う以上の優先的な資金配分が不可欠

「指定国立大学(仮称)」(世界の有力大学と伍して国際競争力をもち、高等教育をリードする国立大学について、組織再編の柔軟化や定員管理、収益事業等における規制緩和が図られる予定)、「特定国立研究開発法人(仮称)」(国家戦略に基づき、科学技術イノベーションの基盤となる世界トップレベルの成果を生み出すことが期待される法人。研究者給与の柔軟化等の特例措置が図られる予定)、「卓越国立大学院(仮称)」(世界最高水準の教育力と研究力を備え、人材交流・共同研究のハブとなる拠点)における本格的な共同研究を飛躍的に拡大させることを見越した制度設計。研究成果の社会実装の視点からの目標設定や、トップによる戦略的な資源配分を可能にする規制緩和の実現(国立大学設置基準、寄付金等の運用範囲等)。なお「卓越国立大学院(仮称)」においては、「世界最高水準の教育・研究」を実現しうる事業に対し集中的な投資を行い、補助終了後も企業等からの外部資金により事業が継続する仕組みの確立が不可欠

資金の好循環に向けて

財務構造改革に向けた強力なリーダーシップ。特に各国立大学が自ら将来に向けた資金を捻出し、自らの戦略に基づき投資を行う体制の実現に資する、財務構造上の課題分析・財源の多様化に向けた政策誘導。加えて、研究のコスト効率の改善に向けた具体的方策の提示

知の好循環に向けて

共同研究を通じ取得された知的財産の活用方策についての類型化等を進め、「不実施補償」等の課題解決に向けたベストプラクティスの提示

研究成果の社会実装を加速するための「知的資産マネジメント」強化に向けた、経営人材の育成(産学官連携に関する「スタッフ・ディベロップメント」活動の重点的強化)および外部からの人材登用等に向けた支援

人材の好循環に向けて

産学官連携を積極化することを念頭に置いた研究者(含教員)の評価制度の改善例提示。および、必要に応じた国立大学設置基準等の柔軟化

クロスアポイントメントの活性化に向けた、組織内の環境整備・慣習的な課題解消などに向けたリーダーシップ。同制度の普及にむけた啓発活動

Ⅳ 産業界・経団連の取組み

産業界は、わが国の国立大学において先に挙げた改革が進み、欧米に匹敵する組織的な体制が構築できた場合、国立大学に対する、幅広い「投資」「知・人材の交流」を拡大

「本格的な共同研究」においては、国立大学による活動の幅が大きく拡大することから、必然的に金額規模も拡大することが予見。産業界としては、そのような「大型の共同研究」においても、創出される成果をはじめ、その成果の創出時期・設備投資・共同研究に投入される人員および工数(エフォート率等に基づく人件費)・間接経費(国立大学本部諸経費、特許関係費用、将来に向けた投資)等を通じた算出経費に基づき、教育・研究の基盤強化も見越した積極的な投資(費用負担)を進める。

また、産学官連携を通じた人材育成を加速すべく、国立大学による適切なリスクマネジメントを前提として、国立大学院生・ポスドク等が積極的に研究へ参画できる体制の確立、および、クロスアポイントメント等を通じた人件費を負担

加えて、企業側の体制整備・意識改革も一層のスピード感をもって推進。「本格的な共同研究」の推進においては企業の経営戦略・事業戦略等も含めたビジョンを国立大学と共有しながら進めることが重要であり、企業側においても研究開発部門に限らない組織的なイノベーション推進体制の構築が重要。また、国立大学を交えたオープンな将来事業検討の場の拡充、業種・業界横断的な「産産連携」の拡大、イノベーション推進と直近の事業推進という両面を兼ね備えた「両利きの経営」体制の確立等、オープンイノベーションおよび産学官連携を重要な経営戦略の中で実質化するための取組みを推進

また、「本格的な共同研究」が継続的に拡大するためには、その成果が、研究に直接的に関係する企業・国立大学のみならず、ベンチャー企業による事業化等、幅広く活用され、好循環することが重要。他方、わが国においては企業と国立大学の共同研究成果がベンチャー企業等で活用されることは極めて少ないと指摘され、そのスキーム・好事例を早期に確立することが求められている。

また、産学官連携を通じた「ローカル・イノベーション」への貢献も同様に重要。特に平成28年度以降の国立大学3類型(各大学等の方向性に応じた取組を支援するため、「地域への貢献」「強み・特色ある分野の教育研究推進」「海外大学と伍する教育研究推進」に国立大学を3類型化)のうち「地域への貢献」をミッションとする国立大学や、地域の公設試験研究機関(公設試)・産業技術総合研究所(産総研)等においては、高い技術力を持つ地域の中堅・中小企業との共同研究の拡大が必要

各国立大学においては、それらの企業の経営力に応じた契約支援体制の整備をはじめ、大企業への橋渡し、地域の人材・技術などの様々なリソースを結集させた共同研究の企画実施などの機能強化が求められる。

経団連としても、2015年9月に発表した「地方創生に向けた経団連アクションプログラム」等に基づき、国立大学の機能分化や特色ある教育の実践など地方国立大学改革を促進する活動をはじめ、大企業人材の地方への還流促進などの取組みを中心に、地方創生に資する産学官連携に向けた活動を加速

2016年2月19日金曜日

大学は我が国の学術政策にどう向き合うか

文部科学省の科学技術・学術審議会が平成27年1月に取りまとめた「学術研究の総合的な推進方策について(最終報告)」(以下「最終報告」に略)に関するフォローアップの結果(科学技術・学術審議学術分科会(第61回、平成28年2月1日開催)資料3-1「学術研究の総合的な推進方策について(最終報告)」のフォローアップについて(案))が公表されていました。

この資料では、最終報告で示された具体的な改革方策ごとの取組状況が説明されています。いずれも国(文部科学省)が推進する施策ではありますが、大学においても重視しなければならないものです。

このたび公表された資料を読むだけでは、最終報告との関係がややわかりにくかったので、最終報告に示された内容と、この資料に記載された取組状況を対比させる形で再整理(加工)してみました。項目によって取組状況の記載に多少濃淡があり、説明が十分に尽くされていないように思える部分もありましたが、国が重視する政策とその実施状況を概ね理解することができます。

大学(特に国立大学)においては、このような資料が公表された折に、国の政策課題に照らした自大学の取り組みを改めて検証してみることも必要なのかもしれませんね。少し長くなりますがご辛抱ください。



「学術研究の総合的な推進方策について(最終報告)」における具体的な取組検討状況について(案)【加工版】

第8期学術分科会における主な検討課題について

第59回学術分科会(平成27年3月10日)資料4(以下注)において、今期学術分科会の主な検討課題の1つとして「学術研究の総合的な推進方策について(最終報告)」のフォローアップが掲げられており、以下、最終報告(5.(2)具体的な取組の方向性)の各項目における現在の取組状況等を取りまとめている。

(注)第8期学術分科会における主な検討課題について(例)【抄】

第7期で取りまとめた「学術研究の総合的な推進方策について(最終報告)」を踏まえ、
1)学術研究の現代的要請である「挑戦性、総合性、融合性、国際性」に着目した、思い切った資源配分の見直し、2)学術政策・大学政策・科学技術政策の連携、3)若手人材育成・教養形成、4)社会との連携強化といった改革のための基本的考え方を踏まえ、
①デュアルサポートシステムの再生(基盤的経費の意義の最大化、科研費大幅改革等)、②若手研究者の育成・活躍促進、③女性研究者の活躍促進、④研究推進に係る人材の充実・育成、⑤国際的な学術研究ネットワーク活動の促進、⑥共同利用・共同研究体制の改革・強化等、⑦学術情報基盤の充実等、⑧人文学・社会科学の振興、⑨学術界のコミットメント
等の具体的な取組が進むよう定期的にフォローアップを行い、改革の実効性を高めることが必要


各項目における具体的な取組状況について

1 デュアルサポートシステムの再生

(1)学術政策、大学政策、科学技術政策の連携

<最終報告>
  • デュアルサポートシステムについては、以下のような観点から、学術政策、大学政策、科学技術政策が連携して再生に取り組むことが必要である。
<取組状況>


(2)運営費交付金等の基盤的経費の確保・充実

<最終報告>
  • 運営費交付金等の基盤的経費については、以下のような大学の取組を前提として、また、その取組の実践とあいまって、国がその確保・充実に努める必要がある。
<取組状況>
  • 平成28年度予算案において、国立大学法人運営費交付金1兆945億円(前年同)、私立大学等経常費補助3,153 億円(前年同)を計上


(3)人事・給与システム改革、研究支援体制の強化・大学事務局改革、施設設備や図書・史料等の機関内外での共同利用・共同研究の推進等、各大学での改革を行うための学内外の資源の再配分や共有の実施

<最終報告>
  • 大学においては、IR(インスティトゥーショナル・リサーチ)機能の強化等を図り、明確なビジョンや戦略を立て、自らの役割を明確にした上で、当該戦略等を踏まえて基盤的経費を配分することにより、その意義を最大化すべきである。例えば、①優秀な大学の教員が公的研究機関等のポストを兼ねたり異動したりするなど組織を越えて卓越した教育研究を担うとともに、若手研究者が安定した環境で優れた研究活動を行うことができるような人事・給与システムの改革、②リサーチ・アドミニストレーターや国際担当職員など専門人材の積極登用や大学職員全体の質の向上、教員と職員の協働の推進など、研究支援体制の強化や大学事務局改革、③個々の研究者の独創的な個性と組織としての大学の戦略を両立させる強靭なガバナンスの確立と教育研究組織の最適化、④組織の枠を越えた研究者の知の融合を促進するとともに、限られた人材・資源の効果的・効率的な活用を図るため、施設・設備や図書・史料等の機関内外での共同利用・共同研究の一層の推進、⑤多様な教育研究活動の場となるキャンパスや施設について、知的交流を促進するよう快適で豊かなものにするための取組、などのために、学内外の資源の再配分や共有を行うことが求められる。なお、国立大学については、既に進展している「国立大学改革プラン」を着実に実行することが必要である。
<取組状況>
  • 各国立大学においては、「国立大学改革プラン」等に基づき、各大学の強み・特色・社会的役割を踏まえた機能の強化や、ガバナンス機能の強化、人事・給与システム改革などに積極的に取り組んでおり、平成28年度以降の第3期中期目標期間に向けて、「国立大学経営力戦略」も踏まえ、改革の取組を更に推進。また、「日本再興戦略」改訂2015(平成27年6月30日)に盛り込まれた特定研究大学(仮称)制度については、有識者会議において制度の方向性を検討し、その審議まとめを公表(平成28年1月13日)


(4)科研費改革の実施方針・工程及び具体的な改革案の検討

<最終報告>
  • 研究者の知的創造力を踏まえた全ての分野における多様な学術研究を支援する我が国最大かつ唯一の競争的資金である科研費は、これまでも大きな成果を上げている。平成26年度では、全国の大学、公的研究機関、企業等の研究者27万人の中から応募があった10万件を審査して学術的な水準の高い2.7万件を採択(すなわち、新規採択されるのは申請資格者のうち9.6%)するなど、全ての研究活動の基盤となる学術研究を幅広く支えることにより、科学の発展に種をまき芽を育てる上で、大きな役割を果たしている。
  • 本分科会の審議等を踏まえ、大学改革と科研費の関係や研究費制度全体の在り方も総合的に議論するため、研究費部会において、科研費をめぐる国内外の政策的動向や研究現場からの意見を踏まえて科研費の課題を整理した上で、科研費改革の基本的な考え方と具体的な改革方策等について一定の方向性を取りまとめた。
  • 科研費改革に当たっては、1)専門家による審査(ピアレビュー)、2)あらゆる学問分野について研究者に対して等しく開かれた競争的資金制度、3)研究者が自らの発想と構想に基づいて継続的に研究を進めることができる競争的資金制度、4)研究費としての使いやすさの改善を不断に図ることの四点を堅持しつつ、世界各国の政府や大学が共通した課題に直面しているなどの国際的動向及び審査の改善・科研費活用の観点からの研究現場の意見・指摘等を踏まえて、①分科細目表の見直しや大括り化、スタディ・セクション方式やプレスクリーニングの導入等の審査方式の再構築、種目の再整理等の科研費の基本的な構造の見直し・重複制限の見直しや海外在住研究者の帰国前予約採択の導入等の優秀な研究者が自らのアイディアや構想に基づいて継続的に学術研究を推進できるような見直し、②学際・融合分野研究ネットワークの中での研究者交流と実力ある若手研究者の国際共同研究や国際ネットワーク形成の推進、③研究費の成果を最大化するための「学術研究助成基金」の充実、④科研費の研究成果の一層の可視化と活用のための科研費成果等を含むデータベースの構築、などを進めることが必要であり、今後、具体的な改革案及び工程を検討することが求められる。
<取組状況>
  • 研究費部会において科研費の抜本的改革に向けた審議を実施。「我が国の学術研究の振興と科研費改革について(第7期研究費部会における審議の報告)(中間まとめ)」(平成26年8月)に基づき、平成27年度より、「国際共同研究加速基金」の創設による国際共同研究や海外ネットワーク形成の促進、「特設分野研究基金」の創設による新しい審査方式の先導的試行の充実等の改革に着手。
  • 第8期研究費部会においては、第5期科学技術基本計画の計画期間(平成28~32年度)を展望した科研費改革の実施方針(工程表を含む)について審議し、学術分科会にて了承。平成28 年度中に、研究費部会の審議を踏まえて科研費改革を加速するため、新たな学問領域の創成や異分野融合などにつながる挑戦的な研究を促進することとし、大胆な挑戦的研究を見出すためのプログラムについて公募・審査を開始する予定。加えて、審査システムの抜本的な改革として、分科細目(審査区分)の大括り化を含め、新たな審査の仕組みを平成30年度に導入するための検討を進めており、平成28年4月にはパブリックコメントに付した上、年内をめどに見直し内容を決定する予定。また、研究種目・枠組みの見直しについても平成30年度に向け、順次検討を進める予定。


(5)科研費以外の競争的資金における改革の検討

<最終報告>
  • 科研費以外の競争的資金については、それぞれ目的や役割は異なるが、大学関係者や社会からの指摘等を踏まえつつ、上記(1)で示した基本的な考え方を一つの横串として位置づけて改善を図ることが、結果としてはそれぞれの競争的資金の目的の最大化につながるという観点から、総合科学技術・イノベーション会議において政府全体の立場でその改革について議論する必要がある。
  • 例えば、戦略研究や要請研究は、学術研究とは推進方策が異なるが、それぞれの資金の趣旨・目的を踏まえた透明性の高いプログラムの設計と評価を行うことが重要である。また、それらの研究を行うためには、長期的な観点からは、学術研究の蓄積や若手人材の育成が基盤として不可欠であることを踏まえつつ、それぞれの役割分担を明確にした上で相互の連携を図るなど、バランスの取れた振興施策を講じることが必要である。その際、効果的な連携を行う観点から、サイエンスマップや科研費の研究成果等に係るデータベースの充実・活用などにより、国民の理解を得られるよう客観的根拠に基づいた上で、戦略的に研究を推進することが求められる。
<取組状況>
  • 第5期科学技術基本計画を踏まえ、研究力及び研究成果の最大化、一層効果的・効率的な資金の活用に向け、今後、国は、競争的資金以外の研究資金について、間接経費の導入、使用方針及び実績等について公表を促すための方策、使い勝手の改善等の実施について、内閣府を中心とした関係府省間で検討を進める。
  • なお、文部科学省においては、イノベーション指向の戦略的な基礎研究を推進する「戦略的創造研究推進事業」の更なる改革・強化に向け、サイエンスマップや科研費の研究成果等に係るデータベース等を活用し、優れた成果をより着実に戦略目標の策定プロセスに反映させる仕組みを整備。


(6)間接経費の確保・充実等

<最終報告>
  • 競争的資金により研究を行う場合には、研究実施に伴い大学全体の観点からの管理費用等が必要となるため、間接経費が不可欠である。間接経費は、採択された研究者の研究環境の改善に資するとともに、全学的な研究環境の整備をはじめ研究成果の社会還元の推進や独創的な研究の推進等、各大学の戦略に基づいた取組を加速させるものである。今後とも、競争的資金の拡充を図る中で間接経費を確保・充実するとともに、大学においては使途の弾力化など、より一層効果的に活用することが必要である。
<取組状況>


2 若手研究者の育成・活躍促進

(1)自ら主体的に課題を設定して挑戦的な研究に取り組む若手研究者の育成

<最終報告>
  • 学術研究が将来にわたり持続的に社会における役割を発揮するためには、次代を担う若手研究者の育成がとりわけ重要である。本質的に重要と本人が考えるテーマを、いかなる困難があっても乗り越えようとする能力が学術研究の将来を担うリーダーには欠かせない。若手研究者が単なる労働力として与えられた課題をこなすのではなく、自ら主体的に課題を設定して挑戦的な研究に取り組むことがリーダーを育てるために極めて重要である。
<取組状況>
  • 優秀な若手研究者に対する自由で主体的な研究機会を提供するための「特別研究員事業」を実施するとともに、優れた若手研究者が安定した研究環境の下で挑戦的な研究を自立的に推進するための「卓越研究員制度」の創設し、平成28年度から運用を開始するための予算を新たに計上


(2)若手研究者を育てる意識を共有し、大学における自立した研究に必要な環境(設備、スペース、資金等)の整備やシニア研究者による若手研究者の支援などのサポート体制の構築、若手研究者の研究費マネジメント能力の涵養(研修機会や事務支援体制の確保・充実

<最終報告>
  • 学術界全体が若手研究者を育てる意識を共有し、大学における自立した研究に必要な環境(設備、スペース、資金等)の整備やシニア研究者による若手研究者の支援など、自立を促しつつも適切にサポートする体制を構築することが必要である。例えば、競争的資金による任期付き雇用と、任期終了後の基盤的経費や間接経費による雇用を柔軟に組み合わせることにより、一定の育成効果の得られる期間、安定的に雇用する仕組みなどを検討すべきである。
  • なお、若手研究者の自立のためには、研究費のマネジメント能力を涵養することも必要であり、若手研究者に配分される競争的資金はそのような経験を得る意味でも重要な役割を有している。その際、若手研究者が研究費のマネジメントに不慣れである可能性を考慮した研修機会や事務支援体制の確保・充実が併せて必要である。
<取組状況>
  • 上記の「卓越研究員制度」等を活用し、若手研究者が自立して研究活動に取り組む環境の整備を推進(再掲)


(3)若手研究者による国際的な研究者ネットワークの形成や国内外における国際シンポジウム等の企画や中心メンバーとしての参画についての積極的な促進

<最終報告>
  • 若手研究者の国際性を高めることは学術研究の水準向上のみならず、大学の人材育成面も含めた国際化に貢献するものである。特に、国際社会における我が国の存在感の維持・向上のためには、若手研究者が将来的に国際的な学術コミュニティーにおいてリーダーシップを発揮することが肝要である。そのため、若手研究者による国際的な研究者ネットワークの形成や国内外における国際シンポジウム等の企画や中心メンバーとしての参画を積極的に促進することが必要である。したがって、科研費等による研究活動の支援に当たっては、このような観点が必要である。また、海外特別研究員制度など若手研究者の海外渡航を促進する経済的支援を拡充するとともに、そうした観点を踏まえ、事業を遂行することが必要である。
<取組状況>
  • 「海外特別研究員事業」において、優れた若手研究者を海外の大学等研究機関において長期間研究に専念できるよう支援するとともに、新進気鋭の若手研究者にトップレベルの国際経験を積む機会を提供することで、次世代のリーダーとなる若手研究者の育成や国際的研究者ネットワークの拡大・強化を図るための「若手研究者研鑽シンポジウム事業」を実施


(4)シニア研究者を含めた全国規模での人材の流動化や若手研究者の安定的なポストの確保

<最終報告>
  • 若手研究者が安定的な環境の下で研究に専念するためには、シニア研究者を含めた全国規模での人材の流動化を図りつつ、若手研究者の安定的なポストを確保することが必要である。そのため、各大学の戦略等に基づき、例えば、シニア研究者を年俸制雇用へと切り替えることで特定のポストから異動しやすくすることにより、若手研究者をテニュアポスト等で雇用しやすくするような仕組みを構築するなど、様々な工夫により、雇用機会を増やすよう大学の人事・組織の在り方を見直すとともに、客観的で透明性の高い審査による能力・業績評価に基づき、優秀な若手研究者を積極的に登用するなど、適切な処遇を講じることが必要である。
<取組状況>
  • 上記の「卓越研究員制度」等を活用し、流動化の向上や安定的ポストの確保を推進(再掲)


(5)国による特別研究員などのフェローシップの拡充、大学による基盤的経費や競争的資金からのRA経費などの経済的支援の充実

<最終報告>
  •  ポストドクター等の数は約1万4,000人であり、我が国の研究活動の実質的な担い手となっているが、多様なキャリアパスの確立はいまだ不十分である。また、改正研究開発力強化法及び大学教員任期法において、大学の研究者などが労働契約法の特例の対象となり、無期労働契約に転換するまでの期間が10年に延長されたが、改正法の附帯決議等も踏まえ、研究者等の育成や雇用の安定を更に図っていく必要がある。
<取組状況>
  • 平成28年度予算案において上記「特別研究員事業」等を計上(再掲)


(6)博士課程の人材に対する異分野に携わる機会の提供や異業種との交流を通じた教育の実施

<最終報告>
  • 意欲と能力のある博士課程の学生やポストドクターが、経済的な不安により研究の道を断念することなく、多様な分野において自由な発想に基づく研究に専念することができるよう、科学技術基本計画に掲げる博士課程(後期)学生の2割程度が生活費相当額程度を受給できるようにするとの目標の早期達成を目指し、国による特別研究員などのフェローシップの拡充や、大学による基盤的経費や競争的資金からのRA経費などの経済的支援の充実を図ることが重要である。また、例えば、博士課程の人材に対して主たる専門分野とは異なる分野に携わる機会を意識的に与えることや異業種との交流を通じた教育を行うことなどにより、広い視野を育むことは、新たな知の創造のためにも、広く社会で活躍するキャリアを開発するためにも重要である。その際、国内外の学術関係機関において、このような人材が高度の専門性を生かして一層活躍することは、行政機能の充実・強化の観点からも有意義である。
<取組状況>
  • 博士課程教育リーディングプログラムを通じ、専門分野の枠を越え俯瞰力と独創力を備え、広く産官学にわたりグローバルに活躍するリーダーを養成


(7)国内外の優秀な若手研究者や大学院生等が交流・集結できる人材交流・共同研究のハブとなるような世界最高水準の卓越した大学院の形成

<最終報告>
  • 学術研究の推進と優れた研究者の養成の両方を担う優れた大学院において、世界最高水準の教育研究環境を整備していくことも重要である。基盤的経費の配分に当たって配慮すべき事項として先に掲げたことも踏まえつつ、世界で勝てる分野として、各大学が既に強みを有する分野のみならず、融合分野を含め我が国としても今後の発展が大いに期待される新たな分野なども対象に、国内外の優秀な若手研究者や大学院生等が交流・集結できる人材交流・共同研究のハブとなるような世界最高水準の卓越した大学院の形成を進めることが必要である。
<取組状況>


3 女性研究者の活躍促進

特別研究員(RPD)の支援人数の拡大等による研究者の研究と出産・育児・介護等との両立や指導的立場を担う女性研究者の活躍推進を図るための支援強化、システム改革等の推進

<最終報告>
  • 多様な発想による卓越した知の創出を促すためには、研究現場における多様性の実現が必要であり、女性研究者の活躍促進を図ることが重要である。国においても様々な取組を行ってきたが、我が国の女性研究者の割合は、諸外国と比較して低い水準にある。特別研究員(RPD)の支援人数の拡大を含め、研究者の研究と出産・育児・介護等との両立や、指導的立場を担う女性研究者の活躍推進を図るための支援の強化やシステム改革などを進めていく必要がある。
<取組状況>
  • 平成28年度予算案において、研究と出産等との両立や女性研究者の研究力向上を通じたリーダーの育成を一体的に推進するなどの優れた取組を実施する大学等を支援する「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ」や、出産等による研究中断後の円滑な研究現場への復帰を支援する「特別研究員(RPD)」等により科学技術イノベーションを担う女性の活躍を促進


4 研究推進に係る人材の充実・育成

(1)研究者以外の研究推進に係る人材について、類型ごとに求められる知識やスキルの明確化、各機関におけるスキル標準作成への支援や研修・教育プログラムの活用支援

<最終報告>
  • 研究者以外の研究推進に係る人材については、研究者の研究時間の減少が指摘される中、その重要性がますます高まっており、それぞれ求められるスキルを踏まえたキャリアパスの明確化や、体系的な育成・確保のためのシステムの構築が重要となっている。そのためには、類型ごとに求められる知識やスキルを明確化し、研究推進に係る職種を研究者と並ぶ専門的な職種として確立し、社会的認知度を高めるとともに、各機関におけるスキル標準作成への支援や研修・教育プログラムの活用支援を行っていくことが必要である。
<取組状況>


(2)複数の機関が連携した研究者以外の研究推進に係る人材の育成・確保や職責に応じた処遇

(3)最先端設備の機能と研究課題の双方に精通した技術者について、民間企業のシニア・中堅技術者を活用するなど、研究基盤を支える技術者の育成・確保に向けた共用環境の積極的な活用

<最終報告>
  • 各機関独自の取組に加え、複数の機関が連携して研究者以外の研究推進に係る人材の育成・確保や職責に応じた処遇を行うことにより、量を確保するとともに多様なキャリアパスの整備が図られることが期待できる。さらに、最先端設備の機能と研究課題の双方に精通した技術者について、民間企業のシニア・中堅技術者を活用するなど、研究基盤を支える技術者の育成・確保に向けた共用環境の積極的な活用が期待される。
<取組状況>
  • 上記「リサーチ・アドミニストレーター(URA)を育成・確保するシステムの整備」事業において、シンポジウム等を通じ、大学間の連携を促し、URAの全国ネットワーク構築に寄与
  • また、「科学技術人材育成のコンソーシアムの構築」事業において、複数機関が連携した研究推進に係る人材の育成・確保を推進


5 国際的な学術研究ネットワーク活動の促進

(1)研究環境や住環境等の整備の促進、海外の優秀な日本人研究者や外国人研究者の戦略的な受入れや国際的な研究ネットワークの構築(国際的な頭脳循環のハブ形成)

<最終報告>
  • 世界規模の頭脳循環により、イノベーションを起こす優れた人材の獲得競争が世界的に激化する中で、我が国が学術研究を持続的に強化するためには、優秀な人材とその多様性を確保することが必要である。このため、研究環境や住環境等の整備を促進しつつ、海外の優秀な日本人研究者や外国人研究者の戦略的な受入れや国際的な研究ネットワークの構築により、大学における国際化や多様性を確保するとともに、国際的な頭脳循環のハブを形成することが重要である。さらに、先端的な研究を日本の魅力として世界へ発信する「Research in Japan」等を引き続き推進することが重要である。
<取組状況>
  • 諸外国の優秀な若手研究者に対し、我が国の大学等において日本側受入研究者の指導のもとに共同して研究に従事する機会を提供する「外国人研究者招へい事業」(外国人特別研究員)や、国際研究ネットワークを戦略的に形成するため、海外トップクラスの研究機関と研究者の派遣・受け入れを行う大学等研究機関を重点支援する「頭脳循環を加速する戦略的研究ネットワーク推進事業」を実施


(2)個々の研究者の国際ネットワークの構築や大学等機関による海外トップクラスの研究グループとの組織的なネットワーク形成の取組

<最終報告>
  • 我が国は、国際共著論文に見る国際比較において諸外国に比して国際ネットワークへの参加が遅れている。研究者の国際ネットワークの構築に当たっては、個々の研究者が実際に海外の大学等において研究を行うことで人脈を広げ、帰国後も交流を継続することが必要である。このような個人ベースでの取組に加え、大学等機関による海外トップクラスの研究グループとの組織的なネットワーク形成の取組も併せて行っていくことが必要である。例えば、地球規模の課題解決に向けて、共同研究を行うための国際協力による拠点を相手国に設置することにより、国際頭脳循環のハブ機能を発揮し、我が国の「顔が見える」持続的な協力形態により研究の深化、発展を目指す仕組みが求められる。
<取組状況>
  • 我が国の研究水準の向上や国際競争力強化を一層進めるため、二国間の研究チームの持続的ネットワーク形成や諸外国のトップレベルの学術研究機関との多国間交流ネットワークの構築・強化等の取組を支援


(3)標準的な評価の仕組みや大学、学会、ジャーナル等の在り方など学術研究に関する議論や国際機関等を通じた国際的ネットワークへの積極的参加、国際社会への発信・貢献

<最終報告>
  • 標準的な評価の仕組みや大学、学会、ジャーナル等の在り方など学術研究に関する議論が世界的に行われるとともに、国際機関等を通じて様々な形で国際的なネットワーク化が進んでおり、こうした動きに我が国の学術界もより積極的に参加し、国際社会へ発信・貢献していくことが期待されている。加えて、グローバルリサーチカウンシル等各国の学術振興機関間の交流や連携を活用した国際共同研究事業や海外ネットワーク形成の促進も有効である。
  • なお、近年我が国の大学改革等にも影響を及ぼしている「大学ランキング」については、我が国の大学の実情を踏まえて様々な角度から分析等を行い、国際的な情報発信力を強化することが求められる。
<取組状況>
  • 日本学術振興会と南アフリカ国立研究財団(NRF)の共同主催により、グローバルリサーチカウンシル(GRC)年次会合(第4回)を東京で開催。47ヶ国及び国際機関から56機関の学術振興機関長等が出席し、「科学上のブレークスルーの支援のための原則に関する宣言」及び「研究・教育の能力構築に関するGRCのアプローチ」の2つの文書を採択。これに併せ、「科学上のブレークスルーに向けた研究費支援」に関する公開シンポジウムも開催し、基礎研究支援の在り方やグローバル研究ネットワークの促進などの政策課題に関する議論を広く社会に発信


6 共同利用・共同研究体制の改革・強化等

(1)共同利用・共同研究体制の意義・ミッションを踏まえ、大学共同利用機関及び共同利用・共同研究拠点における意義及びミッションの再確認や自己改革・強化の推進及びその取組に対するメリハリある支援に向けた検討

<最終報告>
  • 共同利用・共同研究は、組織の枠を越えて研究者の知を結集するものであり、我が国全体の学術研究の発展を図る上で極めて効果的である。
  • 学問分野の専門分化・高度化が進む中、大学共同利用機関や大学の共同利用・共同研究拠点等において実施される共同利用・共同研究は、学術界の限られた人材・資源の効果的・効率的な活用に資することはもちろん、相補的・相乗的な連携により大学全体の研究機能を底上げするものである。また、大学共同利用機関や共同利用・共同研究拠点等には、多様な背景を有する様々な分野の研究者の交流と連携により、異分野連携・融合や新たな学際領域を開拓するとともに、国内外に開かれた共同研究拠点として、優れた外国人研究者を積極的に招へいし、国際的な頭脳循環のハブとしての役割や次世代中核研究者の育成センターとしての役割を担うことも期待される。
  • また、共同利用・共同研究と密接な関係がある「学術研究の大型プロジェクト」は、個々の組織の枠を越えた研究機関・研究者が多数参画し、世界トップレベルの研究を推進する拠点が形成されることから、共同利用・共同研究体制の強化を図る上でも有効な取組である。
  • 一方で、昨今、大学改革が進む中で、共同利用・共同研究という個々の大学の枠を越えた取組が積極的に評価されにくい状況にあるとともに、その強み・特色が見えにくくなっている状況にある等の指摘もあり、イノベーションの源泉としての学術研究の重要性を踏まえると、共同利用・共同研究体制の改革・強化は急務となっている。
  • そのため、大学共同利用機関及び共同利用・共同研究拠点においては、各機関や拠点の特徴に応じて、その意義及びミッションを再確認し、改革・強化を図っていくことが求められる。具体的には、IR機能やトップマネジメント、情報発信力等の強化に向けた取組の実施が望まれる。加えて、年俸制やクロスアポイントメント制度の積極的導入など人事制度の改革、産学官のセクターや機関、学問分野を超えて優れた人材が交流・結集するネットワーク型の拠点形成、国際頭脳循環のハブとなる拠点の形成等の取組を実施していくことが望まれる。
<取組状況>


(2)学術研究の大型プロジェクトの戦略的・計画的な推進や我が国の学術研究の弾力性を高めること等を目的とした組織的流動性の確保に向けた在り方の検討。先進的な大型研究施設について、常に共同利用・共同研究を行うことができる体制の維持や、学術コミュニティーにおいて将来を見通した優先順位を議論した計画的な研究推進や国際的な枠組みの構築

<最終報告>
  • 我が国全体の共同利用・共同研究体制の構築に貢献する学術研究の大型プロジェクトについて、文部科学省は、例えば、日本学術会議の「学術の大型研究計画」に関するマスタープランを参照しつつ、推進の優先順位を明らかにしたロードマップを策定するなど、透明性を確保しながら、今後一層戦略的・計画的に推進することが重要である。また、我が国の学術研究の弾力性を高めること等を目的として、組織的流動性の確保に向けた在り方を検討する必要がある。
  • また、先進的な大型研究施設については、研究に必要となる研究基盤の変化に応じて、先端的な研究を推進するための質の高い研究環境の確保と施設の安定的な運用を行い、常に共同利用・共同研究を行うことができる体制を維持していくことが必要である。これらの公的支援に当たっては、学術コミュニティーにおいて将来を見通した優先順位を議論し、計画的な研究推進を行うとともに、国際的な枠組みを構築するなどの取組が求められる。
<取組状況>
  • 研究環境基盤部会学術研究の大型プロジェクト作業部会において、ロードマップとマスタープランの連携や評価方法の見直し等の学術研究の大型プロジェクトの在り方について審議中。


(3)大学共同利用機関や共同利用・共同研究拠点以外における設備等の共同利用や再利用の一層の促進や研究者以外の研究推進に係る人材の充実及び育成

<最終報告>
  • 大型研究施設のみならず、大学等における質の高い研究を支える重要な基盤である研究設備や図書・史料等の有効かつ効率的な運用のため、大学共同利用機関や共同利用・共同研究拠点以外においても設備等の共同利用や再利用の一層の促進、研究者以外の研究推進に係る人材の充実及び育成を行うことが必要である。
<取組状況>
  • 文部科学省の有識者会議において「研究成果の持続的創出に向けた競争的研究費改革について(中間取りまとめ)」を取りまとめ(再掲)。同報告において、競争的研究費による比較的大型の研究設備・機器を原則共用化することとした上で、文部科学省全体として効果的な共用化促進の仕組みを検討していくべきとされていることを踏まえ、競争的研究費においては、その具体化のため、順次、公募要領を改訂。また、競争的研究費改革と連携し、研究開発と共用の好循環を実現する新たな共用システムの導入を科学技術・学術審議会先端研究基盤部会で検討し、「研究組織のマネジメントと一体となった新たな研究設備・機器共用システムの導入について」(平成27年11月)を取りまとめ。平成28年度から、大学及び研究機関における新たな共用システムの導入支援を実施予定。国立大学法人については、運営費交付金の中で共同利用体制の推進に資する設備サポートセンターの整備支援や文化的・学術的な資料の保存、収集、修復等のための支援を実施


7 学術情報基盤の充実等

(1)学術情報ネットワークについて、全国の学術情報基盤を担う組織が一体となった国内・国際回線の強化やクラウド基盤の構築、深刻化しているセキュリティ機能の強化、学術情報の活用基盤の高度化の実現

<最終報告>
  • 学術研究を支える学術情報基盤についての安全性を確保し、安定的に維持することが重要である。とりわけ、学術研究のボーダーレス化、グローバル化が進む中で、学術研究だけでなく、戦略研究や要請研究の推進のためにも、学術情報の流通・共有のための基盤整備が不可欠になっている。
  • 我が国では、SINETが中核となり、20年以上にわたり、国内外の大学等と接続する学術情報ネットワークを整備することにより、東日本大震災においても停止することなく、科学技術・学術の振興に大きな貢献をしてきた。今日、SINETが、大規模実験装置からの膨大なデータやオンライン教育への対応など、関連する情報資源の利活用を幅広く安定的に下支えすることにより、異分野連携・融合の進展、新たな学問分野の創出、高度人材育成の促進等につながっている。
  • 一方で、オープンデータへの取組強化や大型国際共同研究への対応など、情報流通・共有に対するニーズがますます高まる中で、我が国では、近年、学術情報基盤の整備が滞っており、欧米や中国等の諸外国に後れを取っていることは、今後の我が国の学術振興にとり憂うべき状況であり、早急な対策が求められる。
  • このような状況から、我が国の研究推進の動脈である学術情報ネットワークについては、全国の学術情報基盤を担う組織が一体となって、国内・国際回線の強化を図る必要がある。その際、最新の情報学研究の成果を基に、情報資源を仮想空間で共有することにより研究プロセスの圧倒的な効率化とイノベーションをもたらすクラウド基盤の構築、深刻化しているセキュリティ機能の強化、学術情報の活用基盤の高度化を併せて実現することが望まれる。
<取組状況>
  • 平成28年度予算案において、学術情報ネットワークの強化(100Gbps 回線の全国的な導入)、クラウド基盤の構築のための経費を計上。また、セキュリティ機能の強化に関しては、国立情報学研究所と国立大学等が連携し、サイバー攻撃に対応するための経費を措置


(2)学術雑誌について、我が国の学術研究の振興・普及や学術研究の国際交流の活性化の促進を図り、海外との情報受発信を強化する学協会の取組の支援

<最終報告>
  • 優れた研究成果の受発信・普及において、重要な役割を担っている学術雑誌(ジャーナル)について、我が国の学術研究の振興・普及や学術研究の国際交流の活性化の促進を図り、海外との情報受発信を強化する学協会の取組(ジャーナル刊行を従来の紙媒体から電子化やオープンアクセス化へ移行する等)を支援するなど学術情報の流通促進を図る科研費等の取組強化が必要である。この取組を強化することで、ジャーナルの抱える価格高騰などの課題や研究成果のオープンアクセス化に対応することが可能となる。
<取組状況>
  • 科研費の研究成果公開促進費において、学会等が主催するシンポジウム等における研究成果の公開発表、重要な研究成果を発信する学術刊行物の国際情報発信力を強化する取組、データベースの作成・公開について助成し、優れた研究成果の公的流通を促進


(3)オープンサイエンスについて、国際的な動向を踏まえ、その公開に関しては国益からの観点も踏まえつつ、適切に促進

<最終報告>
  • 研究成果の元となるデータを公開・共有するデータシェアリングを推進し、研究データの再利用により新たな研究の展開を加速するオープンサイエンスに対する関心が高まっている。研究データのシェアリングは、研究成果の評価・再検証の観点からも重要であり、世界的に推進する取組も進展しつつあることから、我が国としても、国際的な動向を踏まえ、その公開に関しては国益からの観点も踏まえつつ、適切に促進させる。
<取組状況>
  • 科学技術・学術審議会学術分科会学術情報委員会において、内閣府における「国際動向を踏まえたオープンサイエンスに関する検討会」で報告された「我が国におけるオープンサイエンス推進のあり方について」(平成27年3月)を踏まえ、公的研究資金による論文及び論文のエビデンスデータの公開を推進する方策について中間報告をとりまとめ。9月に取りまとめた中間まとめを公表した上で、内閣府オープンサイエンスフォローアップ検討会等で意見交換を実施。最終報告のとりまとめに向けて審議中


8 人文学・社会科学の振興

(1)科研費などの公募方法や審査方式の改善を通した挑戦的な研究の支援や、諸学の密接な連携や国際的な学術展開、社会的・国際的な要請への貢献を実践する共同研究の先導的なモデルの形成

<最終報告>
  • 人文学・社会科学は、個人の思想や行動あるいは人々の協力や対立の原因と帰結の分析を通して知の増進を実現して、人間の精神活動の根本的かつ根源的な理解に資するとともに、社会的な合意形成や社会的コンフリクトの解決方法を探求する学問分野である。この分野の研究は、国の知的資産の重要な一翼を担うのみならず多岐にわたる精神活動の基盤となる教養や文化の土壌を培う機能をも有しており、国全体の知的文化的成熟度を測る重要な尺度ともなりうるものである。
  • グローバル化の一層の加速に伴って、急激に社会が変化する渦中で新たな課題が登場しつつある現在であるだけに、人文学・社会科学は、多様な文化や価値観に対する認識を深め、様々な社会的な対立と衝突の原因を探るとともに、それらの問題解決を通して人類を将来における平和的共生へと導くべき使命を帯びている。よってその重要性は、従来以上に増しつつあると言わねばならない。人文学・社会科学には、そうした多文化共生時代の到来に向けて、言語、文化、宗教を異にする人々への共感力(エンパシー)を培う重要な使命があることも深く認識される必要がある。
  • また、人文学・社会科学には、新たなものの見方や制度的仕組みの設計と提案により、社会の変革の源泉となるというイノベーションに果たす固有の役割に加えて、自然科学の研究成果が生み出すイノベーションを社会の変革につなげる役割も期待されている。人文学・社会科学の学術の知は、先端的な自然科学の学術の知を現在及び将来の人類の福祉の改善に寄与する水路に導く方向舵としての役割を担っているのである。持続的なイノベーションとは、人文・社会・自然の全ての領域において創出される多種多様な知に耕された社会的土壌を基盤にして初めて可能となるのであり、この事実に留意すれば、人文学・社会科学と自然科学が総体としてあいまって熟成し続けることの重要性は明らかである。
  • これまでにも、我が国では新たな知の創造につながる多様な人文学・社会科学の研究が実践されてきており、その研究成果は、論文や学術書のみならず、学術の普及を目指す出版物等(例えば新書などをはじめとする一般書、さらにはウェブサイト)を通じて、広く国民や社会に向けて発信されて、新たな認識枠組みの提示や社会秩序の設計などに貢献してきた。例えば、日本の歴史、文学、思想の研究成果は、日本固有の文化的価値とその意味を国際的に知らしめ、その結果、日本社会そのものへの高い評価と崇敬を勝ち得るのに役立った。
  • その一方で、本分科会が平成24年7月に取りまとめた「リスク社会の克服と知的社会の成熟に向けた人文学及び社会科学の振興について(報告)」が指摘しているように、我が国の人文学・社会科学には、細分化された専門分野の精緻化に固執する余り、分野を超えた知の統合から生まれる巨視的な視点が往々にして欠落しがちであること、例えば、文献学的な視点のみならず現代及び近未来の社会がはらむ諸問題に視点を移すことが必要なこと、また、国際発信や国際的な学術コミュニティーへの参画に必ずしも積極的でない場合があることなどの課題が残されている。
  • 今後、人文学・社会科学がより一層その成熟度を高め、人類の福祉の改善に貢献していくためには、これまでの知の蓄積を基盤としつつ、現代の人間社会に対する鋭利な洞察力に裏打ちされた新たな知を創造して提供するために、人材育成を含めて不断の挑戦を続けていく必要がある。
  • このため、前述のデュアルサポートシステムの再生の趣旨も踏まえ、科研費などの公募方法や審査方針の改善を通して、挑戦的な研究を支援するとともに、諸学の密接な連携や国際的な学術展開、社会的・国際的な要請への貢献を実践する共同研究の先導的なモデルを形成し、グローバル化の加速度的展開に呼応して新たな研究領域を創出することが、我が国の人文学・社会科学全体の振興を図っていく上で必要不可欠である。
<取組状況>
  • 科研費事業において、平成30年度に新たな審査システムへ円滑に移行することを目指し、審査単位の大括り化について検討中。平成27年度より、「特設分野研究基金」の創設により、分野融合的研究を引き出す新しい審査方式の先導的試行の充実等の改革に着手。平成28年度中に、研究費部会の審議を踏まえて科研費改革を加速するため、新たな学問領域の創成や異分野融合などにつながる挑戦的な研究を促進することとし、大胆な挑戦的研究を見出すためのプログラムについて公募・審査を開始する予定


(2)個々の研究者による自己の研究成果と現代社会に果たす役割や貢献の意義の積極的発信や、学術界全体として、人文学・社会科学が担う社会的意義の不断の検討や学術の成果の教養知への還元を図りつつ、将来的な展望を広く社会へ提示

<最終報告>
  • 翻って、公的資金による支援や社会の負託に応えるためにも、個々の研究者が自己の研究成果と現代社会に果たす役割や貢献の意義を一層積極的に発信するとともに、学術界全体として、人文学・社会科学が担う社会的意義を絶えず再検討することや学術の成果の教養知への還元を図りつつ、将来的な展望を広く社会に提示していくことが切に求められる。個々の研究者は、このように現代社会との接点を常に意識し続けることこそが、人文学・社会科学の更なる深化を促す原動力の一つとなりうることを明確に認識すべきである。
<取組状況>
  • 「課題設定による先導的人文学・社会科学研究推進事業」を通じ、諸学の密接な連携によりブレークスルーを生み出す共同研究、社会貢献に向けた共同研究、国際共同研究を推進することにより、個々の研究者が現代社会との接点を常に意識し続け、人文学・社会科学の更なる深化を促す原動力となる先導的なモデル創出を促進


(3)人文学・社会科学の固有の意義を尊重しつつ、成果に対する独自の評価基準の明確化・可視化

<最終報告>
  • 人文学・社会科学は、人間の思想や行動を研究の対象とすることから、異なる価値観に依拠する研究が競合しつつ社会の諸側面に補完的な理解の光をあてることに意義を持つ側面も持っている。それだけに、統一的・標準的な枠組みを前提として、客観的・論理的な証明や実証的な証拠立てによって唯一の正解が確立されるものではないこと、ある研究の意義を測る時間的スケールが非常に長く、継続的な研究の蓄積によって成果が価値を生むことが多いことなど、自然科学とは必ずしも共通しない特徴を持っている。
  • しかし、人文学・社会科学においても、公共的な組織において行われる学術研究については、それぞれの研究組織や研究者が新たな知の創造に向けて真摯に取り組んでいることへの社会的理解を得るためにも、また、研究者自身が自らの研究活動を見直す契機とするためにも、その成果に対する評価の基準を明確にする必要がある。人文学・社会科学の固有の意義を尊重しつつも、その独自の評価基準を可視化することが、今強く求められている。
<取組状況>
  • 平成28年度予算案において、諸外国の人文学・社会科学における自然科学との連携方策及び評価方法等の振興政策に関する調査に係る経費を計上


9 学術界のコミットメント(略)

2016年2月16日火曜日

大臣が語る、加速する大学改革のゆくえ

馳浩(はせ・ひろし)文部科学大臣が、大学改革について、雑誌(Between 2016 2-3月号)のインタビューに答えています。

概ねこれまで文部科学省が語り行ってきた路線を踏襲した内容になっていますが、現役の大臣がいま何を考えているのか、わかりやすくまとめられています。抜粋してご紹介します。(下線は拙者が追加)




-国立大学改革をめぐっては、大臣 が「32点」と評した2015年6月8日付 の文部科学省通知(国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて)の問題が、いまだにくすぶっている。改革の必要性については。

「32点」は誤解を招くような文章表現に対する採点であり、内容のことを指しているのではない。また、文科省が人文社会科学を軽視していることは全くない。むしろリベラルアーツはわが国のイノベーションにとって極めて重要だと認識している。通知をよく読めば「廃止」は教員養成系のゼロ免課程に掛かっている し、そう説明すれば理解していただけるはず。

しかし、通知で組織の見直しを求めていることは事実。第3期中期目標・中期計画(2016年度から6年間)に向けた各大学の取り組みが不十分だという認識なのか。また、2016年度からの「3つの重点支援枠」 (①地域貢献、②専門分野、③卓越研究) を踏まえた国立大学、とりわけ地方大学のあり方についての考えは。

各大学の取り組みが不十分だとの認識は持っていない。今、出てきている方向性は、地に足が着いたものだと認識している。

3つの要素は、どの大学も目標にすべき。「地方創生」 「一億総活躍」の観点からもローカル性は極めて重要だし、知の拠点として自治体や企業、学校の中核的な人材育成を担うのだから、地域に貢献しない地方大学はあり得ない。

地域社会においても、製造業はもとより観光業、農林水産業でも、グローバルな視点は欠かせない。そのためにも、アジアをはじめとする多様な国・地域と、留学生の受け入れと送り出しという双方向の学生交流が、どの大学でも必要になる。

わが国の誇りは、何といってもノーベル賞受賞者を毎年のように出し続けていること。その理由は何十年も前から基礎研究に力を入れてきたからだといえる。若手研究者が安心して仕事に向き合える環境があってこそだろう。イノベーションの芽は、わが国の大学が絶対に支えていかなければならない。それも旧帝大だけではだめ。全国どの地域にある大学でも トップランナーがいなければいけないし、いなければ学長がスカウトしてくるぐらいのことをしてほしいそのために学校教育法を改正し、学長のリー ダーシップを強化したわけだから。

私立大学の改革については。

もう少し経営の透明性を内外に示 していく必要がある。私学助成をするにしても、各大学が経営計画の中で、これだけの資産の中でよい教育研究を行うために何をしたいのかを示してもらわなければならない。内部留保がたくさんあるのに、補助金はくださいというのでは、国民の理解を得られない

総合的な高等教育政策の方向性を国公私立の大学それぞれに意識してもらい、限られた投資を最大限活用しても らわなければならない。国としても、基盤的経費は支えていく必要がある。

そのうえで、地方単位あるいは全国での連携や大学同士の統合もあり得ると思う。学生の数が減少しても、経営基盤を強くすれば、より強みに特化した教育研究の推進ができるはずだし、それを促すことも必要だろう。全ては学生、地域、ひいてはわが国のイノベーションのため。

閣僚の一人としては、財政健全化計画という政府の方針に従わざるを得ない。国立大学の運営費交付金や私学助成、第5期科学技術基本計画の投資目標にしても、根拠がなければ国民に理解されない成果目標も意識しながら、高みをめざして予算要求をしていく必要がある。それには学長・理事長がリーダー シップを発揮し、経営方針を決定、実現していくことが重要

グローバル人材、イノベーション 人材の育成のためには、何が必要か。

まずは知・徳・体の育成。特に大学スポーツは、もっと本腰を入れてもいいのではないか。徳の面ではボランティアや国際交流、地域交流を盛んにしてほしい。

2つ目は、たたけば伸びる学生時代に、本物に触れさせること。製造業の現場を体験したり、ノーベル賞学者など、世界のトップランナーの業績とは何か、それを生み出したものは何かを考えさせる機会が必要。それこそがリベラルアーツ。

最後に、大学関係者に向けてメッ セージを。

大学は「団結あるのみ」。学長も理事も教授会も、同じテーブルに着いて話し合い、最終的には学長の判断に委ねる。理事会にも経営感覚のある人をどんどん入れていく必要がある。そのために文科省としても、大学と団結していく考え。

2016年2月15日月曜日

大学のIRにどんな役割が求められているのか

国(文部科学省)の推進政策とも相まって、ここ数年における大学のIR活動は著しく進展しています。しかし、未だIR活動を浸透させ機能させるために乗り越えなければならない課題は少なくないと思われます。

例えば、多くの大学が取り組んでいる学長主導の全学的なIR推進体制の整備については、学長直属組織としてIR室なるものを設置し、経営幹部や専門人材を配置するといった”器”としてはそれなりの格好を整えるものの、IRの成果活用の具体的な戦略が明確になっていないために、生産的な議論や検討が展開されず、形骸化した会議に終始してしまっている。始末におけないのは、学長や役員が、IRの成果を、部局を指導(攻撃)する道具としてしか活用できていない。したがって、大学執行部と部局が互いの立場を超えて協働し課題を解決していくといったモチベーションは当然ながら生まれてこない。

そして、そもそも、IRを進める上で不可欠な様々な情報やデータの多くは、現場事務組織が保有しているものの、現場職員のIRに関する知識や認識が不十分又は皆無なために、日常から体系的なデータ等の収集や蓄積が行われていない(もっと言えばやろうともしない)。業務命令等により、必要に応じてデータ等の収集・整理が行われても、異動による職員交替とともにデータ等が散逸又は紛失してしまうなど、場当たり的一時しのぎの継続性に欠けた業務が繰り返されている。といったような問題です。

”隣の芝生は青く見える”と言います。最近、IRの重要性が高まるにつれ、「〇〇大学のIRは素晴らしいらしい、〇〇大学は我が国における大学IRの先進事例として評価されている、是非とも見習わなければ」といった話を聞く機会が多くなったような気がします。しかし、実際には、前述のような課題を抱えている大学が少なからずあり、情報やデータ等の「収集・蓄積・分析・活用」のそれぞれにおいて、一丸となって機能している大学がどれだけあるのか甚だ疑問です。

一般財団法人統計研究会のホームページに掲載された論説「大学経営の鍵となるIR」(東京工業大学情報活用IR室教授 森 雅生氏)のポイントを抜粋してご紹介したいと思います。IRにさほど詳しくない方も含め、課題解決の一助になるかもしれません。


はじめに
  • 昨今注目を集めているInstitutional Research(IR)の役割、内容について述べたい。
  • 「データに基づく大学経営を確立する」ために、IRにどんな役割を求められているのか、という観点から考えたい。
  • 企業では、経営活動が統制され、活動に関するデータのモニタリングがなされている必要があるが、残念ながらそうした機能を持つ大学は少ない。
  • 国立大学を対象に行ったアンケート調査を基にした論文では、IRのような大学経営のサポートを行う体制が学内で整っているかという問いに対して否定的な意見が報告されている。
  • 大学教員の役割は教育と研究であり、そうした業務は教員の仕事ではないという意見もよく耳にするが、大学の外から見ればそうした理屈は説得力がない。

米国の事例
  • 大学に関する各種データの標準化や情報公開については、比べる国がないほど進んでいる。
  • IPEDS(Integrated Postsecondary Education Data System:日本の学校基本調査に似た統計)に提出された全ての大学の情報が細かく公開されている。
  • 学生の成績情報については、全て一元的にIRオフィスのIR担当者のPCに集積され、いつでも分析やデータ提供が可能な状態になっている。
  • IRは全てのデータ提供に対して公平を重んじているという文化があり、執行部又は学部長が独自に作成したデータは、会議では使われず、IRオフィスが出すデータに最も信頼を置く。
  • 日本のIRは学長直下に置くべしとの傾向があるが、米国の場合は公平性の観点からその立場を取らない。
  • 米国のIRは、かなり専門職化され、教員や職員が兼任する業務ではなく、公募情報に職務内容として”Institutional Research”が明示され、専任で雇われる職業である。
  • いくつかの大学が、IR人材育成のためのカリキュラムを提供しており、学位や履修証明を出している。
  • 特に大学関係者である必要はなく、例えば、前職は銀行員だとか、IT部門の職員は専門的なプログラマといった具合。
  • 専門職団体として全国組織のAssociation for Institutional Research(略称 AIR)という団体があり、毎年1000〜2000人規模のカンファレンスを開催しており、こうした団体の活発な活動を見ても、高等教育業界での確固たる立ち位置が築かれている。
  • IRの業務内容としては、主に教育活動に関するデータ集計と分析が行われている。
  • 日本では、大学法人が研究戦略をもって大型の研究資金を獲得するという例が多くなっており、研究戦略に資するデータ分析の必要性が言われているが、米国のIR実務者からは、そのような業務はあまり聞かれない。

日本の状況
  • 国立大学の法人化や、機関別認証評価の実施が開始された2004年前後に、IRという概念が持ち込まれ、高等教育論を中心とした教育学の研究者に定着した。
  • 日本で耳にする、教学IRや評価IRといった〇〇IRという概念は日本独自のもの。近年ではURA(University Research Administrator)の活動など、研究戦略への情報提供を目的にした「研究IR」という言葉も耳にするようになった。日本の組織の縦割構造を反映したのか、こうした学内の組織の役割ごとにIRの概念が形成されている。

IR業務の本質-IRにはどんな技能や組織体制が備わっていればよいのか。

技 能
IRに必要な3つの技能(Terenzini)
  1. 数値の集計に必要な高等教育上の基礎知識や、データベース・表計算ソフトの操作技術など、「技術的・分析的技能」
  2. 学内の様々な課題を解決するための「問題解決技能」
  3. 各々の課題の解決策を組織のどの部署に、またどの関係者に理解させ、意思決定させればよいかを判断する「文脈的技能(政治的技能)」

データサイエンスに必要な3つの専門性(筆者)
  1. 課題やそのゴールが何であるかについて、組織の目的を踏まえ具体的な問題設定ができる専門性(組織論や高等教育行政)
  2. 設定れた問題を分析・説明するためのデータ収集やシステム開発ができる専門性(情報学)
  3. 集めたデータを実際に分析し可視化するなどの専門性(統計学)

組織編制

理想的な組織編成は、IRに関する全学の委員会と、分析を行う部会、情報を収集する部会の3つ

1)全学IR委員会
  • 全学のIR委員会は、学長・執行部からの調査分析依頼を受けること、学内の各部署が所掌する業務データの提供依頼及び許諾調整を行う。
  • 個人情報を扱う場合が多いので、全学が関わる委員会で承認を得る形式をとっておくことが重要。

2)分析部会
  • IRの活動を主に支えるのは分析部会。リサーチクエスチョンはしばしば漠然として、具体性に欠ける場合が多く(例:「大学ランキングを分析せよ」など)、5W1Hの形か採否判断か、課題を具体化するのが分析部会。分析部会は、必要なデータを情報部会に発注する。
  • 分析部会は、生データから細かく集計する技能を、可能な限り持っておいたほうがよい。IRの負担を他部署に負わせると、協力関係が破綻する一因となりえるから。

3)情報部会

  • 大学には業務情報システムを担当する部署があるが、情報部会にはその担当者に参画してもらう。彼らは非常に忙しいことが多いので、情報部会の作業は、データのダウンロードにとどめておくべき。

4)3者の関係(学生対象のアンケートを実施する場合)
  • 実施することを執行部で決定し、それを受けて学内の協力体制について合意するのが、全学IR委員会。
  • さらに、どんな学生像を捉えたいか、アンケートのアウトラインを起案し、具体的な調査項目を作成するのが分析部会。
  • 質問項目について委員会での承認を経たのち、アンケートを実施するが、データの収集については、情報部会(業務情報システムの担当部署)が行う。ウェブアンケートなどの準備がこれに当たる。
  • 得られた回答と成績情報などとの組み合わせを行い、分析レポートを作成して(分析部会)、レポートの承認と執行部への報告が行われる(全学IR委員会)。

日本の大学におけるIRの今後


1)課 題
  • IRを導入しておらず必要性は感じるものの、必要な情報やスキルを得ることができず、どうしたらよいかわからない。
  • IRが高度な専門職であり、継続して行うべきものであることは理解できるが、一方で、今日の日本の大学が置かれた財政的状況から、新規に任期を決めない新しいポストを作ることは困難。特に、教員レベルの高度な技能が必要でありながら、教員を置けないというジレンマ。大学によっては、任期付きポストで賄うところもあるが、業務や技能の継承といった点で新たな問題が発生。任期切れのため、ほとんどのIRスタッフが異動してしまい、それまで培ったノウハウが消える。

2)日本の大学におけるIRの役割
  • 日本の高等教育が国公私立関係なく競争的環境に置かれつつあることを考慮すれば、IRを任期無しの教員ポスト(または任期無しの採用を前提とした)に配置する必要性を理解できるのではないか。こうした組織を置かなければ、一般の教員が業務運営に巻き込まれて、教育研究の時間がさらに減らされることに繋がる。
  • これまで教員や研究者は、同じ分野の同業者やステークホルダーに向けての説明に終始してきた。国公立大学のみならず私立大学にとっても、運営資金の提供者は国民であることをもっと認識すべき(文科省ではない)。国民に向かい、国民が理解できるように、大学の教育研究の成果を示す必要がある。IRの大学間連携や関連団体を軸にして、これからはさらに、大学の現場からIR実務者の連携でボトムアップの成果説明を行うべき。国民の誰もが理解でき、大学を支援する声が明示的に聞こえるようになれば、政府も無視できなくなる。

参考(追記)

現場の視点で伝え、考える Institutional Research その着実な一歩のために|Between


「データ管理」と「IR」を隔てるもの|2015 4-5月号
担当者に求められるのは高度な分析力か?|2015 6-7月号 
◆IR現場の最前線
鈴鹿医療科学大学-確実な一歩を踏み出した "データで議論する"しくみ|2015 8-9月号
創価大学-トップの意思決定を支える 目的遂行型の組織編成がカギ|2015 10-11月号
琉球大学-多方面から意思決定をサポートできる 「包括的IR」の構築をめざす|2015 12 - 2016 1月号
IR オフィスのスタートアップに必要なこと|2016 2-3月号

2016年2月14日日曜日

国立大学の第三期中期目標・中期計画はどのようにして作られたのか

国立大学法人の第二期中期目標期間も残すところ、ひと月余りとなりました。早いもので、国立大学が法人化されて12年が経過することになります。

いよいよ4月から第三期の中期目標期間(平成28~33年度)に入ることになりますが、第三期の目標と計画は、既に各国立大学から提出された最終案が文部科学省のホームページで公表されています。今後、文部科学省の国立大学法人評価委員会において審議され、来月下旬には認可されることになっています。

このたび公表された各国立大学の第三期中期目標・中期計画(最終案)は、各国立大学における素案の作成、素案に対する文部科学省からの意見等を踏まえた修正など、様々な過程を経て作成されています。

節目の機会と捉え、第三期中期目標・中期計画の主な作成経緯等について整理しておきたいと思います。中期目標・中期計画の作成作業にさほど縁のなかった大学関係者の方々の参考になれば幸いです。


1 国立大学の組織及び業務全般の見直し

まず抑えておくべきは、文部科学省が、第三期中期目標・中期計画の作成に当たって、全ての国立大学に対し留意を求めるために発出した通知「国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて」(平成27年6月8日付、各国立大学法人学長宛文部科学大臣通知)でしょうか。

この通知に記載された「教員養成系学部・大学院、人文社会科学系学部・大学院については、18歳人口の減少や人材需要、教育研究の水準の確保、国立大学としての役割などを踏まえた組織見直し計画を策定し、組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組むよう努めることとする」というくだりが大きな論争を巻き起こしたことは記憶に新しいところです。

この通知については、「文系軽視」といった意味合いから、国立大学協会をはじめとした大学業界はもとより、我が国の科学者の代表機関である日本学術会議が強い懸念を示し、国会での質疑においても通知の撤回が求められるなど批判的な意見が多く、文部科学省は、「廃止対象は教員養成系のうち教員免許を取得しなくても卒業できる(ゼロ免)課程だけ」と文章の不備を認めるなど火消に追われました。

この件については、弊ブログでも既に触れていますのでご参照ください。

2 第三期中期計画(素案)の作成

文部科学省からの上記通知等を踏まえ、各国立大学は、第三期中期目標・中期計画の素案を作成し文部科学省に提出しました。各国立大学の素案はこちらです。

報道によれば、86国立大学のうち、人文社会科学系33大学・大学院(学部では26大学)が見直しを、教員養成系では9大学がゼロ免課程の廃止を計画しており、結果として、文部科学省の思惑どおりの国立大学改革が進んだように思われます。

3 第三期中期計画(素案)に対する国立大学法人評価委員会の意見

各国立大学から提出された中期計画の素案は、文部科学省に設置された国立大学法人評価委員会において検討され、最終案の作成に向け留意すべき次のような所見が示されました。

国立大学法人の中期目標及び中期計画の素案についての意見(抜粋)|平成27年11月6日国立大学法人評価委員会(全文はこちら
第3期中期目標期間を迎えるに当たって、各国立大学法人が教育研究の一層の質的向上を図り、大学が社会の「知」を支える存在であるとの認識をより深めていくためには、今後6年間の活動の主軸となる中期目標・中期計画に、各法人が上記の状況を十分に踏まえた上で自主的かつ積極的に高い到達目標を掲げるとともに、その目標を実現する手段や検証指標を明記するなど、第2期中期目標期間以上にその存在意義を社会に対して明示することが必要である。
また、明確な手段や検証指標を設定し、PDCAサイクルの確立によって国立大学の取組の成果をより明確に社会に示すことは、地域社会や国民の期待に応え、その理解と信頼を得ていくために不可欠である。
1 基本的な考え方について
(1)各大学の自主性・自律性の尊重、教育研究の特性への配慮
各法人の中期目標及び中期計画の素案に対して文部科学大臣が修正・追加若しくは削除(以下「修正等」という。)又は検討を求めるのは、形式的な不備等を除き、第51回国立大学法人評価委員会総会(平成27年5月27日)にて了承した「文部科学大臣が行う国立大学法人等の第3期中期目標・中期計画の素案の修正等について」(以下「修正等について」という。)が示す4つの観点に該当する場合のみとする。
(2)具体的・明確で、評価可能な目標・計画設定の必要性
第2期中期目標及び中期計画の策定の際にも、目標の達成状況が事後的に検証可能となるよう、数値目標等を盛り込んだ具体的なものとするよう求めていたが、実際には、抽象的、定性的で事後的な検証が困難な記述が少なくない状況であった。
このため、第3期中期目標及び中期計画の策定に当たっては、各法人が国民に支えられる国立大学として応ずべき一層の質的向上を図るよう、社会に対して高い到達目標を掲げるとともに、その目標を実現する手段や検証指標を併せて明記することがより強く求められる。
2 素案に対する修正等又は検討の内容について
(1)素案の確認結果の概要
法人の強みや特色の明示が必ずしも十分とは言えない場合や、事後的な検証が困難な記述も見られ、特に一部の法人においてはこうした傾向が顕著であり、各法人の中期目標及び中期計画の策定に向けた検討には法人間で大きな差があることが認められた。
(3)検討を求める必要がある事項
素案に対する修正等を求めるまでには至らないものの、記述の具体性という観点からは法人間で大きな差が見られるため、各法人に対し、「国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて(通知)」の趣旨を踏まえ、以下の2つの観点から、中期目標原案及び中期計画案の策定に向けた更なる自主的・自律的な検討を求める必要がある。
1)自らの強み、特色を明示し、国立大学としての役割を果たしつつ、大学として特に重視する取組について明確な目標を定めること
中期目標及び中期計画は、国立大学法人の社会に対する意思表示であると同時に、大学としての特色や魅力を社会に対してわかりやすくアピールする場であるという視点を念頭に、各法人が大学として特に重視する取組について明確な目標や計画を定め、第2期中期目標期間以上に、各法人の強み、特色を明示するような内容とすることが期待される。
各法人の強みや特色には、「ミッションの再定義」や各法人が公表しているアクションプラン等に示されている事項のほか、中期目標及び中期計画を作成する過程で各法人において整理したものも含まれるが、このような強み、特色を中期目標原案及び中期計画案にどのように盛り込むかについて、各法人において内容及び表現を更に検討・工夫することが適切である。
2)目標を具体的に実現するための手段を策定し、その手段が遂行されているかどうかを検証することができる指標を設定すること
事後的に検証可能な記述とするためには、①達成時期、数値目標その他実現しようとしている具体的な達成状況(ゴール)、及び②具体的な取組内容・取組例・手段(プロセス)の双方が明確になっていることが必要である。
ゴールを明確にするに当たっては、「ミッションの再定義」のほか、各法人が第3期中期目標期間における機能強化の方向性に応じて重点支援を受ける取組構想の評価指標として設定する指標等を中期目標及び中期計画に設定することも考えられる。
また、定量的な指標の設定が困難で定性的な記述になる場合であっても、可能な限り達成状況(ゴール)を明確に記述するほか、具体的なプロセスを併せて示すこと等により、より事後的な検証が可能な内容とすることができるため、各法人において更に記述を工夫することが適切である。

上記「意見」にも示されているように、第三期中期目標・中期計画は、第二期までの目標・計画に比べ、いくつかの大きな特徴があります。その一つが「数値目標」の設定です。

素案の段階では、86大学中、例えば、

  • 日本人学生の海外留学生数・比率(66大学)
  • 外国人留学生の受入数・比率(67大学)
  • 外国人教員数・比率(41大学)
  • 産学官共同研究数(42大学)
  • 女性教員数・比率(65大学)
  • 女性管理職比率(75大学)
  • 外部資金獲得額・採択数(59大学)
  • 寄付金受入額(47大学)
といった状況であり、第二期に比べ大幅に増加(169→1,457)しています。

文部科学省は、「数値目標自体が増えるということは、事後的にその検証が可能になる、法人の立場から言えば、意欲的な計画になっているのではないか」と評価しているようですが、その是非はともかくとして、各国立大学にとっては、今後、数値目標の達成に向けた様々な取組み、IR等を活用した実績データの収集・検証方法を確立しておく必要があります。

なお、数値目標の設定に関しては、国立大学法人評価委員会において、消極的な意見も披歴されています。各年度の実施や評価においては、こういった意見にも十分留意しておく必要があるでしょう。

国立大学法人評価委員会(第52回、平成27年11月6日開催)議事録(全文はこちら
【奥野委員】 
第2期のときに、これでは年度評価できませんということを少し言い過ぎたのかもしれませんが、法人は過剰反応をしている印象です。我々は必ずしも数値目標でなければ評価できないと言ったわけではなく、例えば「何々に努力する」とか、「何々を目指す」とかの計画の場合には、どのような手段でその目標を達成するのかを書いてほしいと伝えたかったのですが、なかなかブレークダウンされませんでした。
最終的には、この資料2-1の途中に出てきますが、かなり多くの項目で数値目標を書いています。決して悪くはありませんが、少しやり過ぎではないかというのが正直な私の感想です。第2期の目標と第3期の目標・計画とは、北山委員長が言われたように、大分変わっていると思います。これで年度計画がうまく書ければ、委員としては評価しやすくなります。それを期待したいと思います。
繰り返しになりますが、後で出てきます資料2-1の中には、数値目標の項目数が多いということは、良いことではありますが、各法人に対して、しっかりと考えてくださいねと言いたいと思います。

4 第三期中期計画(最終案)の作成

各国立大学から提出された中期計画の素案については、文部科学省において、上記「国立大学法人評価委員会による意見」等を踏まえた確認が行われ、次のような修正又は更なる検討等を求める通知(内容は、評価委員会による意見とほぼ同様)が国立大学宛示されています。
国立大学法人等の中期目標及び中期計画の素案に対する所要の措置について(通知)|平成27年12月1日付、各国立大学法人学長宛文部科学大臣通知

各国立大学は、以上のような経緯を経て、第三期中期計画(最終案)を去る1月15日(金曜日)を期限として文部科学省に提出し、現在、国立大学法人評価委員会において審議が行われています。

参考までに、1月末に開催された国立大学法人評価委員会では、各国立大学から提出された最終案(第三期中期目標原案及び中期計画案)に対して、次のような所見(抜粋)が示されています。

国立大学法人の第3期中期目標原案及び中期計画案の概況(全体)について
各法人の中期目標原案及び中期計画案(以下「中期目標原案等」という。)では、教育研究等の質の向上や業務運営の改善等について、以下に示すような先進的な取組や高い数値目標の設定等、意欲的な計画が多く見られた。
特に、複数の法人において、第2期中期目標期間よりも各法人の強みや特色が明示され、事後的な検証も可能とする中期目標原案等となっていることが確認できる。
また、大学として重点的に取り組む計画を明確にして、その事後の検証を可能とするような指標を設定する試みもあり、国立大学法人としての社会的責任を積極的に果たしていこうとする意志や、大学としての特色や魅力を社会に対してアピールするという意識が認められる。

1 大学の教育研究等の質の向上
ほとんどの大学において、大学教育の質的転換を図る教育を行うための新たな手法(アクティブ・ラーニング等)の導入や、社会・地域のニーズに応じたグローバル展開に関する取組を掲げており、教育研究の質の向上に対して工夫しながら意欲的な計画を立てていることがうかがえる。
他方、各地域における知の拠点としての機能強化に取り組む大学においては、地域貢献を計画的に行うため、地方公共団体や地元企業等との共同研究・共同事業を実施するとの計画も多く見られる。
また、世界最先端の教育研究の展開に取り組む大学においては、強みを有する専門分野での国際的な教育研究拠点となるための具体的構想や、戦略的に取り組む研究領域への学内資源の重点投資を明記する計画が見られる。
(参考)中期目標原案等において以下の項目について掲げる法人の数
<教 育>
  • 教育の質的転換を図るための新たな手法(アクティブ・ラーニング等)の導入(82法人)
  • 教育課程の体系化に関する取組(ナンバリング・カリキュラムマップ等)(73法人)
  • 学生の学修時間確保に関する取組(61法人)
  • 学生一人一人の学修成果の検証に関する取組の充実(76法人)
  • インターンシップの充実(75法人)
  • 社会人学び直しの促進に関する取組(80法人)
  • ジョイントディグリーの実施(25法人)
  • 学生への経済的支援(奨学制度、授業料減免)の充実(83法人)
  • 障害のある学生に対する特別支援の実施(77法人)
  • 入学者選抜における国際バカロレア資格の活用(19法人)
<研 究>
  • 特定分野の重点的推進(83法人)
  • 学際的研究の推進(78法人)
  • 国際共同研究の推進(81法人)
  • 産学共同研究件数の向上(69法人)
  • 若手研究者育成に関する取組の充実(79法人)
  • リサーチアドミニストレーター(URA)の活用(64法人)
<社会連携>
  • 教育コンテンツの開放(公開講座、Moocs、オンライン講座の提供等)に関する取組(76法人)
  • 地方自治体や地元企業等との共同研究の推進(79法人)
<グローバル化>
  • 日本人学生の海外留学生数・比率の向上(80法人)
  • 外国人留学生の受入数・比率の向上(71法人)
  • 外国人留学生の生活支援の実施(68法人)
  • 外国人教員数・比率の向上(54法人) 

2 業務運営の改善及び効率化
優秀な若手・外国人の受入れや女性教員の比率向上等、スタッフの流動性や多様性を高めるなど、教育研究の活性化を図る上での組織体制を整備する取組が多く見られる。
また、すべての大学において、教育研究組織の見直しに関し何らかの目標・計画が記述されている。新時代のニーズと各大学が培ってきたリソースを踏まえ、グロ ーバル化、イノベーション、地方創生など我が国が直面する重要課題の解決に向けた教育研究を行うため、積極的な組織見直しを行おうとする機運が共有されていることがわかる。
(参考)中期目標原案等において以下の項目について掲げる法人の数
<組織運営の改善>
  • IR機能の強化(78法人)
  • 監査機能の充実(79法人)
  • 年俸制の推進に関する取組(82法人)
  • 女性教員数・比率の向上(73法人)
  • 女性管理職比率の向上(82法人)
<教育研究組織の見直し>
  • 学部段階での組織見直しの計画(44法人)
  • 大学院段階での組織見直しの計画(66法人)
<事務等の効率化・合理化>
  • 事務処理の一元化・共同化等に関する取組(58法人)
  • 事務職員の能力向上に関する取組(SD等)(81法人) 

3 財務内容の改善
外部資金の一層の獲得や財源の多様化による自己収入の増加を掲げる大学も多く、経営基盤の強化に積極的に取り組もうとする姿勢がうかがえる。
(参考)中期目標原案等において以下の項目について掲げる法人の数
<外部研究資金、寄附金その他の自己収入の増加>
  • 公的研究資金獲得額もしくは採択数の向上(82法人)
  • 民間企業等からの研究資金獲得額の向上(74法人)
  • 寄附金受入額の向上(75法人)
<経費の抑制>
  • 管理経費の抑制(82法人) 

4 自己点検・評価及び当該状況に係る情報の提供
多くの大学が、自己点検・評価を実施する方法・体制の強化に関する取組や、自らが果たしている機能等を多様なステークホルダーに向けて分かりやすく示すための積極的な広報に関する計画を掲げている。 

5 その他業務運営
全ての大学が、国立大学法人として社会的使命を果たしつつ、その活動を適正かつ持続的に行っていくために、法令遵守の徹底や研究不正の防止のための取組を掲げて いる。
(参考)中期目標原案等において以下の項目について掲げる法人の数
<施設設備の整備・活用等>
  • 施設利用の点検・見直しの実施(84法人)
  • 学長裁量スペースの確保と活用(46法人)
  • スペースチャージの導入(36法人)
<安全管理>
  • 各種規制の対象となる研究資材の適正な管理に関する取組(62法人)
<法令遵守等>
  • 研究費不正・研究不正の防止に関する取組(研究倫理教育等)(86法人)
  • 情報セキュリティに関する取組(84法人)

中期目標・中期計画の膨大な作成作業と煩雑な意思決定プロセスに携わってこられた教職員の方々にとっては、ようやくここまできたかと安堵されているところではないでしょうか。

ただ一方で、どうしても一部の関係者に閉じた作成プロセス(一般的に、役員等の執行部、評価担当の教職員が中心となって作成作業が進められ、全ての構成員が参画する仕組みにはなっていないという意味)であるがゆえに、苦労して作成された中期目標・中期計画の内容が、多くの構成員にしっかり理解・共有されているのかという点については甚だ不安な面もあります。

中期目標・中期計画のような中長期プランは、得てして、策定することが目的化し、結局のところ実効性のない「絵に描いた餅」になってしまいかねません。決してそういうことにならないよう、多様な大学構成員の中に、目標・計画の内容を十分浸透させる(構成員に、目標・計画の内容を正しく理解し、等しく共有してもらう)ことが必要です。

そのためには、目標・計画の総論的・抽象的な記載に関する現状、課題、根拠、定義、事例などが、可能な限り具体化・明確化されていなくてはなりません。

中期目標期間の変わり目であるこの機会に、私たち国立大学の構成員は、国民の税を原資として運営されている大学である以上、社会の要請や負託に責任をもって応える努力を怠ってはいけないということを改めて自覚する必要があります。

そのうえで、自らが所属する組織が定めた社会に対する公約である中期目標・中期計画を実効性のある具体的な行動に移し確実に達成していくことが何より求められているのではないかと思います。