大学には様々なリスクが存在しています。そして、大学におけるミス、トラブル、事故、事件、不祥事、不正が連日のように報じられています。リスクマネジメントの重要性を痛感する毎日です。
今日は、国大協サービスというところが配信する「国立大学リスクマネジメント情報」というメルマガの中から、昨年1年間に発生した主な事例を抜粋してご紹介します。今後のリスクマネジメントを考える上で参考にされてはいかがでしょうか。
1 金融危機と資産運用
2008年9月のいわゆるリーマンショックを引き金に発生した世界的な金融危機が私大を直撃したことが大きく報道された。国立大学法人では、資産運用が限定的であるため、直接的な影響はなかったように見えたが、ハイリスク・ハイリターンの金融商品を求めた私大の浮沈は、自らの経営努力による教育・研究資金の調達という潮流にひとつの教訓を与えたとも言える。
- X大学はデリバティブ取引による含み損が60億円程度になることを発表(1月19日)
- NHKアンケート調査に回答した国立大の91%71校、私大の89%62校が金融取引により資産運用。国立大学では損失はなかったが私大の55%34校で損失(3月1日)
- X大は20年度決算で269億円の支出超過と発表。有価証券の時価の大幅下落に伴う損失処理が主な原因(5月27日)
- X大はデリバティブ取引で約68億円の損失が発生し、約45億円の有価証券評価損と併せて20年度決算で約80億円の赤字と発表(5月28日)
2 新型インフルエンザ
昨年春の新型インフルエンザの国内発生直後には多くの大学で臨時休業が行われた。その後の感染拡大に伴い、附属学校等では学級閉鎖なども行われ、大学の事業継続が懸念された。しかし、年末から流行も落ち着きをみせ、心配された受験生の大量感染の事態は回避できそうだ。国大協では、感染拡大防止と受験機会の確保のため、2次試験における追試の実施に努力することを決め、公私立大学とともに、入試センターや文科省に必要な対策を講じることを求めた。
3 非常勤職員の雇い止め
あまり一般紙が取り上げることはなかったが、国立大学固有の問題として非常勤職員の「雇い止め」の問題があった。
- X大に非常勤職員として働いていた男性2人が「雇い止め」の無効と未払い賃金の支払いを求め提訴(7月1日)
4 入試ミス
追加合格措置を要した入試ミス(国公私大)
- 正解が間違っており昨年受験生8人を追加合格(2月4日)
- 採点のプログラムミスで9人を追加合格(2月20日)
- X大は今春入試で誤答を正答とする採点ミスにより15人を追加合格(4月8日)
- X大の入試「日本史B」で出題ミス。5人を追加合格、合格者4人の順位繰り上げ。出版社からの指摘で発覚(5月1日)
- X大の入試「生物」で出題ミス。1人を追加合格。出版社からの指摘で発覚(5月8日)
- X大の入試でパソコンへの登録ミスにより1人を追加合格(5月19日)
- X大が1月に実施した入試で設問の文字脱落の出題ミス。1人を追加合格。試験問題見直し作業で発覚(6月12日)
- X大が1月に実施した入試で選択肢に正答がない出題ミス。6人が追加合格(6月16日)
- X大が2月に実施した入試で誤った解答で採点、27人が追加合格。11人は別入試で同大に入学。出版社からの指摘で判明(6月17日)
- X大が1月に実施した入試で出版社からの指摘で選択に正答なしの出題ミスが発覚。また誤った解答を正答とする採点ミスも発覚。18人が追加合格。7人は別入試で同大に入学(6月17日)
- X大が1月に実施した入試の出題ミスと採点ミスで10人が追加合格。8人は他入試で同大に入学、2人は入学を希望せず。出版社からの指摘で発覚(7月3日)
- X大附属中学校が2月に実施した入試で採点ミス。一部答案に採点漏れがあり4人を追加合格(8月3日)
- X大の卒業試験で担当教授が採点ルールを変更して採点したため平成17年度に3人、同20年度に5人が留年、両年度にさかのぼって卒業を認めると発表。採点には同教授一人しかかかわっていなかった(8月27日)
- X大推薦入試で生物と数学で出題ミス。2人を追加合格(11月14日)
5 キャンパス、学生生活圏の安全
昨年は、大学の教授や学生が巻き込まれる衝撃的な事件が発生した。1月には大学の建物内で授業に向かう教授が教え子に刺殺されるという想像もできないような事件が発生した。7月には、夏祭り準備中のキャンパスで学生がナタを男児に突きつける事件、9月には大学構内で女子学生が乱暴される事件も発覚している。また、下宿先や寮への帰宅途中に女子学生が殺害される痛ましい事件も発生した。
- X大学の教授が授業直前にトイレで刺殺(1月14日)
- X大4年の学生が、地域交流イベント「夏祭り」の準備中のキャンパスで男児を羽交い絞めにし、ナタを突きつける。リュックサックにはガソリンの入った瓶も(7月26日)
- X大構内で女子学生に乱暴しようとした疑いで県職員が逮捕。その後、別の同大女子学生への乱暴容疑で再逮捕(9月10日)
- X大の女子学生のマンションから火災。発見された焼死体が同人と確認され、殺害されたものと判明(10月22日)
- 広島で発見された頭部の遺体が10月下旬から不明のX大女子学生のものと確認。同大は、学生の遺棄事件をうけて希望する学生に防犯ブザーを配布(11月7日)
6 アルコール中毒死
昨年も、課外活動やサークルの新入生歓迎会等での急性アルコール中毒による学生の死亡事故が後を絶たなかった。
- X大の合宿所でサークルの送別会で飲酒の19歳学生が布団でおう吐して死亡。大学は学生の飲酒を把握しないまま使用許可。宿泊を認めていなかったが学生14人が無断宿泊。職員の見回りや帰宅指導は行われていなかった(3月5日)
- 合宿で飲酒後に死亡した学生の遺族が部員20人とX大に約1億円の賠償を求め提訴(3月18日)
- イッキ飲み防止連絡協議会の調査によると昨年一気飲みで死亡した大学生らが全国で少なくとも5人いたと報道(3月28日)
- ペンションで合宿中のX大サークルの打上げで学生が急性アルコール中毒で死亡(8月25日)
7 ハラスメント
昨年は、セクシャル・ハラスメントに加え、アカデミック・ハラスメントやパワー・ハラスメントの報道が目についた。両者の確定した定義は未だ無いようであるが、教育・研究や仕事における上下関係によるハラスメントであり、意識の改革を含めた予防策が急がれる。
- X大学大学院で指導教授から適切な指導が受けられず単位を取得できず、自主退学に追い込まれたとして1334万円の支払いを求めた訴訟で、地裁は慰謝料30万円の支払いを命じる判決(2月17日)
- X大学は学生に過剰な学習を強いる等のアカデミック・ハラスメントで准教授3人を諭旨解雇処分、女子学生3人へのセクハラ行為で准教授1人を懲戒解雇(2月20日)
- X大学はアカデミック・ハラスメントにより自殺したと遺族が訴えている大学院生の自殺原因をめぐり、調査・調停委員会を設置していたと報道(2月22日)
- 自殺したX大院生の両親がアカデミック・ハラスメントが原因として指導教員に5000万円の損害賠償裁判を提訴(3月6日)
- X大は諭旨解雇した教授からアカデミック・ハラスメントを受けたという学生からの相談を2年間放置(3月26日)
- パワハラを行ったとして講義停止等の職務命令を受け精神的苦痛を受けたとして県立大の教授が県に1100万円の損害賠償を求めた訴訟で、地裁支部は県に330万円の支払いを命じる判決(4月16日)
- X大は教員の指導に過失があり、担当していた大学院生の自殺につながったとする調査結果を発表(5月13日)
- X大教授2人がアカデミック・ハラスメントに関する大学の調査がずさんで精神的苦痛を受けたとして慰謝料等1400万円の支払いと再調査を求めて提訴(6月18日)
- X大教授がアカデミック・ハラスメントを受けたとして前学部長と大学に500万円の損害賠償を求めて提訴(6月25日)
- X大の女性職員が上司に過重な労働を指示され精神的苦痛を受けたとして大学に慰謝料220万円を求めた訴訟で、地裁は33万円の支払いを命じる判決。ストレス性障害の発症については因果関係を認めず(6月30日)
- X大は、大学院生が昨年8月に自殺した問題で、准教授の指導に過失があったと認定、停職に相当と発表。准教授は既に退職しており実際の処分はできない(7月3日)
- X大は、学生に7時間にわたる説教をするなどした准教授を減給の懲戒処分にしたと発表(7月21日)
- X大に元勤務していた女性研究員がアカデミック・ハラスメントを受け雇用を打ち切られたとして教員2人と大学に慰謝料と未払い賃金計約720万円の支払いを求めて提訴(8月10日)
8 情報漏えい
コンピュータウイルスの感染が大学で拡大していることが報じられたが、社会的には証券会社、損保会社などで担当者が情報を盗み出すなど情報管理権限のある者の犯罪も起きた年だった。情報セキュリティでもこうした犯罪対策も考えなくてはならない時代となった。
- USBを介したコンピュータウイルスへの感染が全国の大学で広まっていることが報道(1月24日)
- X大学附属病院で1000台を超えるパソコン、サーバーがコンピュータウイルスに感染し診療業務に遅れ。患者の症状悪化や情報流出は無かった(2月27日)
- 証券会社部長代理が全顧客約148万人の個人情報を引き出し、うち5万人弱分を名簿業者に売却。同社は部長代理を懲戒解雇するとともに刑事告訴の方針(4月8日)
- 陸上自衛隊のほぼ全隊員約14万人の個人情報を持ち出し部外者に提供したとして1等陸尉が逮捕(8月31日)
9 教職員の不祥事
教職員の不祥事では、研究費の不正経理が多く見られたが、論文の盗用等の研究者の倫理の問題も報道された。また、残念なことに国立大学における横領や贈収賄事件も発生してしまった。
- X大学の職員が収賄の疑いで逮捕されたことが報道(1月22日)
- X大財務部係長が大学施設宿泊者経費と親睦会費から88万円を着服(3月7日)
- X大は職員が架空の取引書類を作って科研費236万円を自分の口座に着服したと発表(3月25日)
- 文科省所管独法の係長が収賄容疑で逮捕(4月7日)
- X大は教員4人が約2800万円をプールし、約35万円を腕時計等の購入に私的に流用していたと発表(6月29日)
- X大の管理職の男性が親睦会費約50万円を着服したとして依願退職していたことが報道(7月1日)
- X研究所の主任研究員が架空発注の手口で約1100万円の損害を与えた背任容疑で逮捕される(9月8日)
- X大病院の元栄養管理室長が食材納入を巡り30万円のわいろを受け取ったとして収賄容疑で逮捕。その他に約300万円の架空発注を行っていたことが大学の調査で明らかになっている(11月26日)
- X大は、学生からの寄付金25万円を着服した職員を諭旨解雇したと発表(11月26日)
10 広がる薬物大麻汚染
大麻や薬物が大学生に広まり、所持や使用で多くの大学の学生や教員が逮捕され社会の注目を集めた。
- 関西の4私大学長が薬物汚染で共同声明発表。情報交換を目的に連絡会設置(3月7日)
11 性犯罪
学生が起こす性犯罪も世間を大きく騒がせた。特に教育系大学の学生が起こした事件は大きく報道され、それに関する学生のネット上の書込みも問題となった。このような事件に対しては、大学は法律上の賠償責任は負うことはないと考えるが、教育機関として当然に社会的責任が存在することは確か。リスクマネジメントという観点はもちろん、教育的観点からの対応も必要。
- X大学学生が強姦、強姦未遂容疑で逮捕・起訴されていたと報道。約10件に関与か(2月16日)
- X大の男子学生6人が集団準強姦容疑で逮捕(6月1日)
12 休部、廃部
学生が起こした事件により課外活動が影響を受けることもある。大学の教育活動の一つと考えられる課外活動が部員の起こした事件により活動停止になったり、廃部となる事態も起こった。
- 関東学生陸上競技連盟は、部員が大麻取締法違反容疑で捜査を受けたX大に対し、来年1月の箱根駅伝のシード権剥奪等の処分を決定(4月17日)
- ボクシング部員2人が暴行事件で逮捕されたことを受けX大は同部の廃部を決定(6月18日)
- X大レスリング部の学生が強姦致傷容疑で逮捕(9月28日)。同大学は同部を無期限活動停止の処分(10月14日)
*1:国立大学協会が実施する国立大学法人総合損害保険や各国立大学法人が手配する損害保険について、募集業務、契約締結業務、保険料集金業務、契約維持業務、事故報告に関する相談業務、リスクマネージメントや保険手配に関する相談業務を行う有限会社