2013年6月30日日曜日

沖縄人の生存権

沖縄国際平和研究所理事長の大田昌秀さんが書かれた論考沖縄の今 基地問題と独立論」(2013年6月21日NHK解説委員室ログ)をご紹介します。


昨年は沖縄が日本に復帰して40年目を迎えました。そのため昨年から今年にかけて沖縄では基地問題を中心にあらためて沖縄の問題が議論になっています。それとともにあらゆる意味で、ことしは沖縄の将来にとって最悪の年になるのでは、との懸念が強まっています。

そのような背景を受けて現在、沖縄の人々は、二つの疑問に取りつかれています。一つは、「日本への復帰とは何だったのか」という疑問です。もう一つは、「いったい日本にとって沖縄とは何なのか」という問い返しです。

最初の疑問は、沖縄の人々は、戦後27年間、米軍の軍政下にあって、日本国憲法の適用から除外されていました。そのため基本的人権はもちろん、他のもろもろの、当然憲法によって保障されるべき権利さえ享受できませんでした。憲法が適用されなければ、人間として人間らしく生きることは不可能となります。そのため沖縄の人々は、あらゆる困難をひとつひとつ克服して、日本国憲法に規定されている内実を自らの手で勝ち取ってきました。その過程で、「平和憲法の下へ帰る」をスローガンに掲げ、復帰運動に全精力を傾けてきました。ところが1972年5月15日に復帰が実現すると、それは平和憲法の下に帰されたのではなく、逆に日米安保条約の下に帰されたのです。つまり、沖縄の人々が切実に望んだ復帰の内実とはあまりにもかけ離れ、軍事最優先の復帰となってしまったのです。

日本政府にとって沖縄の復帰は、たんに戦争で奪われた領土を取り返したという意味しかなく、沖縄の人々の平和的生存権といったものは、まるで考慮されなかったのです。

そのような背景からあらためて「復帰とは何だったのか」が問いかえされているのです。

二番目の「いったい日本にとって沖縄とは何なのか」が問われるようになったのは、次のような理由からです。

さる沖縄戦において、県都那覇市に隣接する小禄飛行場地区の守備にあたっていた旧日本海軍の沖縄方面根拠地隊司令官、大田実少将は、昭和20年6月13日に自決する直前に、官軍次官あてに電報を送って、「県知事に頼まれたわけではないけれども、県にはもはや通信施設もないので、知事に代わって報告します」と、沖縄県民が戦争の過程で持てるすべてを捧げて軍に協力したことを報告し、「沖縄県民かく戦えり。後世特別のご配慮を賜りたし」と訴えました。しかし日本政府は、敗戦直後、沖縄の人々のためになんら配慮することはしませんでした。それどころか、敗戦直後、日本政府はアメリカ政府に対し、要望書を提出していますが、その中で進駐軍や軍事基地は、できるだけ東京から離れた遠隔地においてくれ、とか、ソ連や中国など、国外の旧日本軍を、できるだけ早く帰国させてほしい、などと要望しながら、人口の3分の1近くの尊い人命を失ったうえ、先人が残してくれた数々の文化遺産までことごとく壊滅させられ、致命的打撃を受けた沖縄については一言もふれていませんでした。しかも昭和21年1月29日付けで、GHQが発した「若干の外部地域を政治上行政上日本から分離することに関する覚書」によって、沖縄人は非日本人にされ、3月18日までに在日朝鮮人、台湾人などとともに、登録すべく迫られたのです。そのため日本本土在住の沖縄人や戦地から本土に帰還した沖縄出身の兵士たちは、生きていくうえでひどい苦労をしました。そのあげく1952年4月18日に発効したサンフランシスコ条約第3条によって、沖縄は国際法上も日本から切り離され、本土が独立するのと引き換えに、アメリカ軍の直接軍政下に置かれました。

そのため沖縄は「4・28」を「屈辱の日」と称して嫌悪しているのです。それを日本政府は、「主権を回復した日」として祝賀式典を催すなどして、沖縄の人々の古傷に塩を塗りこむしまつで、いたずらに怒りを買っているのです。要するに1609年の薩摩の琉球侵略以来、沖縄の人々は同じ人間扱いされず、絶えず政府や政治権力者の目的を達成する手段、つまり物扱いされてきたのです。もしくは、政治的質草として取引の具に供されたのです。

言い方を変えますと、沖縄には140万人余の人間が住んでいるにもかかわらず、あたかも無人島ででもあるかのように権力者が勝手放題に使用してきたのです。沖縄戦の時は、日本本土を守るための「捨て石」もしくは、「防波堤」にされたのも一好例にすぎません。

そのため、「沖縄のガンジー」と称される伊江島 阿波根呂こう(二すいにエ、鳥)さんは、わざわざ「人間の住んでいる島」という本を書き、沖縄には日本本土やアメリカ本国の人間と全く同じ人間が住んでいることを強調しているほどです。

しかし、政府は依然として、国土面積の0.6%しかない狭少な沖縄にアメリカ軍専用施設の74%を集中せしめて憚りません。一方、アメリカ軍は沖縄を「アジア太平洋の要石」と称して沖縄の29か所の水域、港湾をはじめ、空域の40%を今もって、自らの管理下においているのです。そのため沖縄の人々は自分の土地も海も空も自由に使えない状態です。しかも政府は普天間基地を辺野古に移そうとして、あくまで当初計画に固執している有様です。このような背景から「一体、日本にとって沖縄とは何なのか」が真剣に問い返されています。

あげく沖縄の独立論がじわじわと浸透しつつあります。ゴザ市長を務めた大山朝常氏は「沖縄独立宣言」という本を刊行し、「ヤマトは帰るべき祖国ではなかった」と痛烈に批判しています。また、ハワイやアメリカ本国などで勉強した若い女性たちが国連に訴える行動をしたり、シンポジウムに登場するなどして注目を浴びています。つい最近、沖縄の学会においても「琉球民族独立総合研究学会」が設置され、シンポジウムを開催するなどしていて今後こうした運動がどういう展開をみせるか、大方の関心を呼んでいます。

最後に今年が最悪の年になりかねないと危惧をするのは、沖縄県知事が持っている海の埋め立て権限を、政府が法律を変えて基地の移設を強行することが懸念されています。そうなると、いかなる事態が発生するか、非常に危惧するところです。そうならないように政府にお願いしたいものです。


2013年6月29日土曜日

政治家の無知・無関心による沖縄の犠牲

ジャーナリストの屋良朝博さんが書かれた論考沖縄の今 基地問題の矛盾」(2013年6月20日NHK解説委員室ブログ)をご紹介します。


68年前の戦争で沖縄は27年間にわたり米軍に占領されました。強制的に土地を奪われ、建設された広大な軍事基地は現在も沖縄県民に大きな犠牲を強いています。きょうは戦後からいまも続く、沖縄の基地問題についてお話します。21世紀のいまもなお、沖縄に米軍基地を集中させる安全保障政策は果たして妥当なのでしょうか。駐留する米軍の機能、運用を分析しながら解説します。

沖縄は世界中で他に例を見ない米軍基地の島です。

太平洋地域に配備されている米軍約10万人のうち約2万5000人が沖縄に駐留しています。それは在韓米軍のすべての兵力に匹敵します。米国は海外40カ国に基地を置いていますが、兵力が1万人以上の国は日本、韓国、ドイツ、イタリアだけです。沖縄基地は世界的にみても、異常なほどの過密度です。

沖縄に駐留する米軍の中で、最も多いのは海兵隊です。兵力約1万8000人で、沖縄基地全体の約75%を占有しています。騒音や兵士による事件事故など沖縄問題の大元は海兵隊の駐留によるものと言えるでしょう。

海兵隊はもともと岐阜県と山梨県に駐留していました。1950年に起きた朝鮮戦争の後、韓国に駐留する米軍を後方支援するため、1953年に岐阜や山梨などに分散配置されました。

しかしそのころ日本各地で米軍基地に反対する住民運動が広がっており、海兵隊も激しい抵抗運動を受けていました。1956年、本土から追い出されるように沖縄に移ってきました。

この年は経済企画庁が、もはや“戦後経済”ではない、と経済白書に書き、戦後の終わりを宣言した年です。日本が高度経済成長に向かって歩んでいたころ、沖縄では米軍が、銃剣とブルドーザーで住民を追い払い、家屋を壊し、田畑を埋めて基地を拡張していました。戦後の日本が経済成長に邁進する基盤をなした日米安保体制は、沖縄に米軍を押し込めることで維持、管理されています。

いま最大の懸案は、海兵隊が使う普天間飛行場の移設、返還問題ですが、およそ20年にわたり未解決のままです。政府は名護市辺野古の海を埋め立て、滑走路を建設する計画を進めようとしています。しかし沖縄では新たな基地建設に反対が強く、沖縄県は「県外移設」を主張し、折り合いが付きません。

なぜ政府は沖縄県内での移設にこだわるのでしょうか。政府は沖縄が戦略的に重要な場所にあるため、基地を動かせないと説明しています。果たしてこの説明は正しいのでしょうか。

これを検証するには、海兵隊の運用を知る必要があります。

昨年2月に日米が合意した米軍再編によって、沖縄海兵隊1万8000人のうち8000人をグアム、オーストラリア、ハワイなどへ分散移転することが決まりました。移転する部隊には地上戦闘兵力の中核である第4歩兵連隊や物資補給を担う第3補給連隊も含まれています。沖縄の海兵隊は大幅な戦力ダウンとなります。

昨年10月に新型輸送機オスプレイが、県民の強い反対を押し切り、普天間飛行場に配備されました。日本では尖閣諸島の領有権問題とからめて、オスプレイ配備で海兵隊の抑止力が強化された、と歓迎する論調もあります。しかしオスプレイが運ぶ兵力も物資も米軍再編によりごっそり削減されます。これは器が新しく、強くなったと喜び、中身が減ることには気がつかないようなものです。

沖縄に残るのは、約2000人で編成する第31海兵遠征隊というコンパクトな機動部隊です。この部隊は長崎県の佐世保港に配備されている米海軍の船に乗ってアジア地域を巡回します。1年のうちおよそ9ヶ月もの間、沖縄を離れています。

その任務は限定的で、主には、戦闘地域に取り残された米国市民を救出する「非戦闘員救出作戦」のほか、アジア太平洋地域の同盟国を巡り、共同訓練を実施したり、民生支援活動、災害救援活動を行ったりすることです。

これらは米軍が太平洋地域で積極的に取り組んでいる分野で、コンパクトに動ける海兵遠征隊がアジア地域をパトロールし、米軍のプレゼンスを示すことによって、安全保障環境の安定を図っているわけです。

日本での一般的な認識は、沖縄に最強の米軍が常駐し、外敵から日本を守ってくれていると思われがちです。しかし実態は、紛争に対応できる兵力はなく、有事には米本国から数万の部隊を一気に空輸する体制になっています。

例えば、湾岸戦争では陸海空・海兵隊の全軍で約50万人の兵力を投入しました。このうち海兵隊は9万3000人を3ヶ月から4ヶ月かけて、サウジアラビアの前線基地に配置しました。沖縄の海兵隊は現在、1万8000人しかいません。再編でさらに8000人削減されます。何かあれば本国から大部隊が投入されるわけですから、政府が説明する抑止力とか、地理的優位性といった議論はその信憑性が疑われます。

安全保障の専門家である森本敏前防衛大臣は、昨年12月の離任会見でこう述べています。「日本の西半分のどこかで、海兵隊の地上部隊と航空部隊などが完全に機能する状態であれば、沖縄でなくても良い」。

つまり、航空部隊がいる普天間飛行場の機能だけを取り出して、本土のどこかに持って行くことは運用上不可能ですが、地上部隊も一緒に移転することは可能である、という真実を森本前防衛大臣は明かしています。

しかし、なぜ本土移転が検討されないか、という疑問について、森本前大臣はこう語りました。「政治的に許容できるところが沖縄にしかないので、だから、簡単に言ってしまうと、軍事的には沖縄でなくても良いが、政治的に考えると、沖縄がつまり最適の地域である、という結論になる」。

このように日本では多くが日米同盟を支持しますが、迷惑な基地負担は沖縄に押し込めるしかない、という矛盾があるわけです。

ハワイ州のアバクロンビー州知事は今年3月、ハワイ大学東西センターで開かれた沖縄基地問題シンポジウムで、沖縄の海兵隊をハワイで受け入れるプランを発表しました。今後、ワシントンへ売り込む考えです。

州知事は講演の中で、沖縄問題が迷走する原因について、政治家の「無知」「無関心」を指摘していました。日本でも同じことが言えるでしょう。問題の大元である海兵隊の運用実態についてはほとんど知られていません。問題の中身を分析せずに解決策など導き出せるはずもありません。

軍隊は与えられた基地、予算、人員で運用されます。それを与えるのは政治です。沖縄問題は日米同盟の負担をどう配分するかという国内政治の問題です。米政府はかつて海兵隊の北海道移転を提案したほか、昨年の米軍再編でも山口県の岩国基地に1500人を移転する案を打診しました。しかしいずれも日本側が拒否しました。森本前防衛大臣が認めたように、沖縄に基地を集中する軍事上の理由は存在しません。日本の政治がそう望んでいるからということになります。しかし沖縄の犠牲を前提にした安全保障政策はもはや持続可能ではありません。問題の本質を見極め、議論を再構築する必要があります。


グローバル人材に必要なもの

桜美林大学大学院・大学アドミニストレーション研究科教授の山本眞一さんが書かれた論考「グローバル人材の養成と大学教育の課題」(文部科学教育通信 No318  2013.6.24)をご紹介します。


教育再生実行会議の提言

最近の大学改革論議の中で、目だって増えてきたのがグローバル人材養成の問題ではないだろうか。とくに今年5月28日に政府の「教育再生実行会議」が公表した第三次提言「これからの大学教育等の在り方について」における「グローバル化に対応した教育環境づくり」は、現政権の強い後押しによって設置され、影響力を行使しつつあるこの会議の役割からも、注目すべき文書である。教育再生実行会議は、「21世紀の日本にふさわしい教育体制を構築し、教育の再生を実行に移していくため、内閣の最重要課題の一つとして教育改革を推進する必要がある」との趣旨の下に、今年1月15日の閣議決定に基づき設置されたもので、これまで、いじめ問題への対応や教育委員会制度の在り方について2度の提言を行い、本稿で取り扱う第三次提言に引き続き、高大接続・大学入試の在り方について審議が続いている。会議は、内閣総理大臣や文部科学大臣など政府関係者と、産業界や学界などから選ばれた有識者から構成されており、座長は早稲田大学総長の鎌田薫氏である。

グローバル化に対応した教育環境づくりに関しこの提言が述べていることは、①徹底した国際化を断行し、世界に伍して競う大学の教育環境をつくる、②意欲と能力のある全ての学生の留学実現に向け、日本人留学生を12万人に倍増し、外国人留学生を30万人に増やす、③初等中等教育段階からグローバル化に対応した教育を充実する、④日本人としてのアイデンティティを高め、日本文化を世界に発信する、④日本人としてのアイデンティティを高め、日本文化を世界に発信する、⑤特区制度の活用などによりグローバル化に的確に対応する、の5点である。提言内容は、その目的や趣旨においては多くの点で賛同しうるものである。おそらく読者の皆さんもそう考えているに相違ない。

ただ、具体的にこれらを実行していく段階では、さまざまな課題がある。またこれらは、結局のところ、グローバル化への主体的対応ができるかどうかという、わが国の高等教育システムの将来に大きく関わる問題であるので、おろそかにはできない。幸い、教育再生実行会議のホームページには、提言本文のほか、提言に至るまでに各委員から出されたさまざまな意見も紹介されている。その中にある若干批判的と思われる意見は、グローバル人材養成の具体化にきわめて有益な示唆を与えている。そこで、その中からいくつかのものを列挙しつつ、私なりのコメントをつけてみたい。

必要な能動的対応

第一に、グローバル社会への基本姿勢についてである。「日本が如何にして世界に対応するかではなく、如何にして世界に日本を理解させ、日本人の生き方を受け入れさせるかという発想に切り替え、単なる大学の生き残り策ではなく、国家的な文化戦略の一翼を担う政策として大学改革を位置付け直すことが必要」との意見がある。確かに、ムードに流され主体性を失ったグローバル対応では、将来に禍根を残すことになる。従来、わが国の大学や学界は、受動的な国際化にあまりにも慣れてきただけに、このことはとくに重要と思われる。また、「大学で育成した人材が我が国の企業や自治体で活用されないのでは、教育費が無駄」という意見は、大学のグローバル化は、社会全体のグローバル化を進める中で行われなければならないことを示しており、政府や産業界にも努力を求めるものである。

第二に、グローバル人材はすべての学生を対象とするものかどうかである。「グローバル人材の育成に当たっては、どの層のどの程度の学生を対象とするのかの前提の議論が必要。それにより、対応の方策も異なる」との意見があるように、多様化する大学やそこで学ぶ学生には、それぞれに適した人材養成目的があるはずであり、現に提言本体においても「グローバルな視点をもって地域社会の活性化を担う人材を育成することなど、大学の特色・方針や教育研究分野、学生等の多様性を踏まえた効果的な取組を進めることが必要」とあり、すべての学生を同じように扱おうとしているものでないことに留意しなければならない。

「英語使い」を超える教育を

第三に、グローバル人材に必要な英語教育の在り方についてである。「ほぼ全ての国際的な知識を日本語で学ぶことができるまでにした先人たちの努力の意図に思いを致し、無批判な欧米基準への追随や経済的利益の追求には警戒心を抱き、日本文明の幸福基準を明確に自覚し、その上で外国人と対等に交われる人材の育成を目指すべき」との意見からは、植民地化を免れて発展を遂げてきたわが国の歴史を振り返り、母国語での教育がいかに効率性に優れていたかという点にも高い評価を与えなければならないことが連想される。

また、「国際的に尊敬されるのがグローバル人材とすると、英語力も大事だが、人格、教養、知識も重要」との意見があるが、私が作図した図表(略)に示すとおり、真のグローバル人材は英語力だけではなく、そのほかの多くの能力を備えた人材であって、過去にしばしば見られた「英語使い」を大量生産しようとするものではないことが改めて確認されるだろう。

さらに英語教育の在り方自身について、提言では「大学入試や卒業認定におけるTOEFL等の外部検定試験の活用」を謳っているが、「TOEFL」は格段に難易度が高く大学入試で実力差が測定しにくいこと、受験料が高額であり「公平性」の問題があること、テスト設計が異なるため学校の英語教育が形骸化する恐れがあることから、「国産の英語力検定試験」を開発し、大学が選択できるようにすべき」との意見も紹介されている。確かになぜ外国産のTOEFLかという基本的疑問に加えて、私自身の経験からも、指導要領が要求するレベルを遥かに超える語彙力が必要なこのテストを、なぜメインに据えなければならないのかと思う。

第四に、初等中等教育における教育の在り方との関係である。「中・高の段階からの実践的な英語教育の強化や、留学など早期の海外経験が大切。早い段階で若者を外向き志向にする必要がある。大学からでは遅い」という意見がある一方、「留学して日本人がぶつかる壁は「自分の意見が言えない」こと。自分の意見を言う素地が必要で、初等教育の段階から持論を話す場がある授業を設けるべき」との見解はきわめて重要である。私自身も、グローバル人材というのは、他人とは異なる自分の意見をしっかりと言える資質を備えていなければならないものだと確信している。国際会議で質問するのはいつも日本人以外だ、という現実は何とかしなければならない。他者への同調を求めがちな今の初等中等教育の基本から改めなければ、グローバル人材養成の諸方策もその効果が半減するというものである。まずは、行政当局も含めて教育界の深い意味での意識改革を進めることが重要ではあるまいか。



2013年6月28日金曜日

グローバル化とTOEFL

教育評論家の梨戸茂史さんが書かれた「入試はTOEFL時代?」(文部科学教育通信 No318  2013.6.24)をご紹介します。


英語教育がTOEFLなる試験に前のめりだ。大学入試に取り入れる話も出ている。これには、賛否両論がある。TOEFLはそもそも海外大留学のための試験で、要求する語彙に日常会話では使わないような学術的なものが多く、日本入にとっては難易度が非常に高いとされる。自民党教育再生実行本部が4月、大学受験へのTOEFLを導入するということを柱とした「提言」をまとめた。

しかし、学校教育の到達度を測るには適さないという見方もある。特に、海外の大学への留学経験のある人からの意見だ。この提言の責任者(遠藤議員)ですら10点くらいしかとれないと言っている(朝日新聞5月1日)のだから、少々無責任な印象ですぞ。「高校卒業レベル」に設定した「45点」をはるかに下回る点数(現在主流のibtでは120点満点)。面白いのは国会議員もTOEFLを立候補要件にしてはどうかとか、官僚にも受験を義務付けようとしたら、国会議員には必要かどうかやら、役人の現役は除外してこれから公務員試験を受ける人からといった話があったらしい。どちらも笑止千万。

学校教育を変える方法がなぜTOEFLなのかというは、最初の疑問。ところで、現行の中学の教科書を見たことがありますか? 1年の英語では、最初は会話文が主流。本格的な文法や読解はおしまいの方にある。以前から、話し聞く英語に重点が置かれているのだ。つまりすでに英語学習はわれわれの時代からは大きく「変わって」きている。TOEFL反対論では、江利川和歌山大教授が、「学校教育だけで英語が話せるようになるというのは幻想」だとおっしゃる。東大入試や英検1級を超える場合もあるTOEFLの要求水準に、学校教育だけでもっていくのは困難で「『体育の授業の目標を国体出場レベルにしよう』といっているようなもの」という。おまけに英語嫌いを増やす危険性もある。学校教育というのは、英語が将来必要になったときに自分で学んで伸びられるよう、基本的な文法や音声、語彙などの土台づくりに目的を置くべきという(賛成だなあ)。先生いわく「私も英語教師です。英語ができる日本人が増えたらいいなと思います。遠藤さんも自助努力で必死にやれば、国際会議やレセプションで話せるようになります。どうかお願いですから、学校教育に責任を押し付けないでください」。もっともですよね。一方、アメリカ留学に求められる程度の学術英語のカは日本の大学生に必要であり、そのような学術英語のカを測定するには、現行のセンター入試の英語の試験よりも、TOEFLが適Lていると言う意見もある。しかし大学入試英語をTOEFLにしたら、TOEFL予備校ばかりが儲かリ、受験生は大変な時間的&経済的負担を負わされ、特別な英語の勉強のための経済負担が可能な家庭の子どもだけが有利になり、教育格差が一層拡大する。大学は同年代の半数が進学する全入の時代だ。だから、すべての大学、大学生に「アメリカ留学に求められる程度の学術英語のカ」は無理ですよね。

もうすこし、大きな話もある。英語圏で数年生活した経験でいえば、思考方法も「英語化」する。つまリ、いちいち日本語に翻訳して、日本語で考え、それをまた英語に翻訳して返事Lたりはしていない。「思考」を含めた日本人としてのアイデンティティである「日本語」を使わない英語の生活、行動なのだ。これって結構怖い話です。つまるところは、グローバル化としての英語教育は日本人を洗脳?し、「英語」の植民地化の流れの中にいると考えるべきものだろう。

それでも、これがどこかお隣の国の言葉だったら、いつの間にか、「日本」は同じ言葉をつかう「わが国の領土の一部」の証拠だ、といわれるよリマシかもしれぬ。


2013年6月27日木曜日

今後の国立大学の機能強化に向けての考え方

前回ご紹介した、国立大学法人学長・大学共同利用機関法人機構長等会議における下村文部科学大臣の挨拶の中にもありましたが、このほど、文部科学省は、国立大学の機能強化に向けて「今後の国立大学の機能強化に向けての考え方」を明示しました。全文をご紹介します。


今後の国立大学の機能強化に向けての考え方(平成25年6月20日文部科学省)

我が国は、急速な少子高齢化、グローバル化、新興国の台頭による競争激化など社会の急激な変化に直面しており、持続的に発展し活力ある社会を目指した変革の遂行が求められている。大学は、社会の変革を担う人材の育成やイノベーションの創出といった責務に応えるために、社会における大学の機能の再構築等に取り組んでいく必要がある。

現在、国立大学については、「大学改革実行プラン」(平成24年6月)を踏まえ、「ミッションの再定義」を始点とした機能の強化に取り組んでいる。今回、「これからの大学教育等の在り方について」(平成25年5月28日教育再生実行会議第三次提言)、「日本再興戦略」(平成25年6月14日閣議決定)及び「第2期教育振興基本計画」(平成25年6月14日閣議決定)を踏まえつつ、第2期中期目標期間(平成27年度まで)の後半3年間を「改革加速期間」として設定し、以下に示す観点を中心としてさらに機能の強化に取り組むこととする。

1 「ミッションの再定義」を通じて、各大学の有する強みや特色、社会的役割を明らかにする。

○文部科学省と各大学は「ミッションの再定義」を本年末をめどに取りまとめ、全国的又は政策的な観点からの強みや各大学として全学的な観点から重視する特色、担うべき社会的な役割を明らかにする。これにより、国立大学の有する「世界水準の教育研究の展開拠点」、「全国的な教育研究拠点」、「地域活性化の中核的拠点」などの機能の強化を図る。

2 大学のガバナンス改革、学長のリーダーシップの発揮を通じて、各大学の有する強みや特色、社会的役割を踏まえた主体的な改革を促進する。

○「ミッションの再定義」等のプロセスで明らかにする各大学の有する強みや特色、社会的役割を中心として、国立大学の機能の強化を図るため、各大学は、人材や施設・スペースの再配分や教育研究組織の再編成、学内予算の戦略的・重点的配分等を通じた学内資源配分の最適化に、学長のリーダーシップの下で主体的に取り組む。

○文部科学省は、学内資源配分の最適化や大学の枠を越えた連携・機能強化を含む先駆的な改革を進める国立大学を、予算の重点的配分を通じて支援する。また、学内資源配分の可視化を促進する。あわせて、国立大学法人評価委員会の体制の強化を促進し、国立大学改革の進捗状況をきめ細かくフォローする。

○文部科学省は、学長が全学的な改革にリーダーシップを発揮できる体制が確立できるように、教授会の役割の明確化、部局の運営を効果的に活性化するための学内組織の機能の見直しや監事機能の強化などのガバナンス改革に取り組む。

3 人材・システムのグローバル化による世界トップレベルの拠点形成を進める。

○急速に進む社会や産業界のグローバル化の中で、我が国社会の発展を支える観点から、大学は国内外の優秀な学生や研究者を集めつつ、国際的に活躍できる人材の育成や国境を越えた共同研究に積極的に取り組むことが必要である。世界水準の教育研究の展開を進める観点から、外国人教員の大量採用、海外トップクラスの大学の教育プログラム及び教員等の積極的誘致並びに英語による授業の拡大等に取り組むことにより、人材・システムのグローバル化を進める。

○文部科学省として、今後10年間で、世界大学ランキングトップ100に10校以上へのランクインなど、国際的存在感を高めつつ、国際的に活躍できる人材の育成を目指す。

4 イノベーションを創出するための教育・研究環境整備を進め、理工系人材の育成を強化する。

○新興国との激しい競争に直面し、少子高齢化が進行する我が国が、経済成長を維持し、国際競争力の強化を図るためには、イノベーションを絶え間なく創出していくことが求められている。各大学は、イノベーションを支える主要な担い手となる理工系人材の戦略的育成を図るため、今後産業界との対話を通じて策定される「理工系人材育成戦略」(仮称)を踏まえ、教育研究組織の再編成や整備を進める。また、文部科学省は、国立大学法人による大学発ベンチャーを支援するための出資を可能とするなどの制度改正に取り組む。

○文部科学省として、今後10年間で、20の大学発新産業を創出することを目指す。

5 人事・給与システムの改革を進め、優秀な若手研究者や外国人研究者の活躍の場を拡大する。


○国立大学が、グローバル化への対応を図るとともに、イノベーションの創出に適した環境となるためには、法人化のメリットを活用しつつ、若手研究者や外国人研究者といった多様な人材を引きつけていくことが欠かせない。このため、各大学は、退職金にとらわれない年俸制や学外機関との混合給与等の導入を促進することで、公務員型の人事・給与システムを改め、優秀な若手研究者や外国人研究者の常勤職への登用を進める。

○文部科学省として、今後3年間で、国立大学における1,500人程度の若手・外国人研究者へ常勤ポストを提示することを目指す。

6 国立大学として担うべき社会的な役割等を踏まえつつ、各専門分野の振興を図る。

○「ミッションの再定義」を先行して実施した3つの専門分野について、各大学ごとの強みや特色を伸長し、社会的な役割を一層果たすための振興の観点は以下のとおりである。

○教員養成大学・学部については、今後の人口動態・教員採用需要等を踏まえ量的縮小を図りつつ、初等中等教育を担う教員の質の向上のため機能強化を図る。具体的には、学校現場での指導経験のある大学教員の採用増、実践型のカリキュラムへの転換(学校現場での実習等の実践的な学修の強化等)、組織編成の抜本的見直し・強化(小学校教員養成課程や教職大学院への重点化、いわゆる「新課程」の廃止等)を推進する。

○医学分野について、超高齢化やグローバル化に対応した医療人の育成や医療イノベーションの創出により、健康長寿社会の実現に寄与する観点から機能強化を図る。具体的には、診療参加型臨床実習の充実等国際標準を上回る医学教育の構築、卒前・卒後を通じた研究医育成を推進する。また、独創的かつ多様な基礎研究を推進するとともに、分野横断・産学連携を進め、治験・臨床研究推進の中核となり、基礎研究の成果をもとに我が国発の新治療法や革新的医薬品・医療機器等を創出する。地方公共団体と連携し、キャリア形成支援等を通じた地域医療人材の養成・確保、高度・先進医療や社会的要請の高い医療を推進する。

○工学分野については、我が国の産業を牽引し、成長の原動力となる人材の育成や産業構造の変化に対応した研究開発の推進という要請に応えていくため、前述の「理工系人材育成戦略」(仮称)も踏まえつつ、大学院を中心に教育研究組織の再編・整備や機能の強化を図る。具体的には、エンジニアとしての汎用的能力の獲得を支援する国際水準の教育の推進など、工学教育の質的改善を推進し、グローバル化に対応した人材を育成するとともに、最新の高度専門技術に対応すべく社会人の学び直しを推進する。また、社会経済の構造的変化や学術研究・科学技術の進展に伴い、各大学の強みや特色を生かしながら先進的な研究や学際的な研究を推進するとともに、研究成果を産業につなげる観点から地域の地場産業も含め広く産業界との連携を推進する。

※その他の分野についても、「ミッションの再定義」に取り組みつつ、今後、各専門分野の振興の観点について順次明確化を図る。

7 「国立大学改革プラン」(仮称)を策定するとともに、運営費交付金の在り方を抜本的に見直す。

○文部科学省は、「ミッションの再定義」の取りまとめ作業と並行して、この「考え方」をもとに各専門分野の振興の観点や具体的な改革工程を盛り込んだ「国立大学改革プラン」(仮称)を、本年夏をめどに策定する。

○文部科学省は、各国立大学の改革成果を考慮しつつ、教育や研究活動等の成果を踏まえた新たな評価指標を確立するとともに、第3期中期目標期間(平成28年度以降)は、国立大学法人運営費交付金の在り方を抜本的に見直す。


2013年6月26日水曜日

「大学力」は国力そのもの

去る6月20日(木曜日)に文部科学省で開催された「国立大学法人学長・大学共同利用機関法人機構長等会議」における下村文部科学大臣の挨拶(要旨)をご紹介します。



皆さんおはようございます。文部科学大臣の下村博文でございます。

本日は、御多忙のところ、本会議に御出席いただきまして、ありがとうございます。厚く感謝御礼申し上げたいと思います。また、各学長・機構長におかれましてては、日頃より我が国の高等教育と学術研究の発展にご尽力いただきまして、感謝申し上げます。

今、グローバル化が急速に進展するなど、社会経済の構造は大きく変化しています。アジア最大の成熟社会である我が国が発展し続けるためには、次代を担う人材を育成すること、そして、今は目の前にない新しい社会的な価値を、世界に先んじて創出することが求められています。

私は、大学教育の最重要課題は量的な拡大と質的な向上をともに進めていくことだと考えています。世界を見れば、この20年で成長を遂げた国々は、いずれも大学教育に力を入れてきました。我が国も負けずに大学教育に力を入れる必要が、今まで以上にあると考えています。

私は、安倍内閣の最重要課題である教育再生の大きな柱として、従来の教育やマネジメントの在り方の見直しなど、大学改革を力強く進める必要があると考えています。

安倍総理も、「大学力」は国力そのものであり、大学の強化なくして、我が国の発展はないということを強調されておられます。

こうした観点から、教育再生実行会議は、多くの有識者に様々な角度から御議論いただき、一つに、グローバル化への対応やイノベーション創出のための環境づくり、二つ目に、学生を鍛え上げ社会に送り出す教育機能の強化、三つ目に、社会人の学び直し、四つ目に、大学のガバナンス改革等を通じた経営基盤の強化、を盛り込んだ第三次提言を取りまとめました。

さらに現在、高大接続や大学入試の在り方など、国立大学の在り方にも深く関わる議論が行われています。特にこの分野については、これから教育再生実行会議の中で、委員の皆さんの意見も聴きながら、慎重に、しかし大胆な大学入学試験の在り方について、とりまとめをしていく予定でございます。

私としても、文部科学大臣に就任以来、大学の機能強化に取り組んで参りました。

例えば、学生が学業に専念し、海外留学など多様な経験ができる環境を整えたいという思いのもと、就職活動時期の後ろ倒しにも取り組んで参りました。4月に総理が各経済団体に要請されるとともに、私からも、国立大学協会の濱田会長(当時)をはじめ、各大学に対して、大学自身も大学教育の質的転換に取り組んでいただくようお願いをいたしました。

また、意欲と能力に富むすべての学生の留学実現に向け、新たな仕組みの検討も開始しております。

各大学には、このような動向を踏まえ、国民や社会の期待に応える大学改革を、受け身ではなく主体的に実行していくことが求められていると思います。私も、そのような大学こそ、しっかりと支援をしていきたいと考えております。

以下、私の考えを何点かに渡って申し述べさせていただきたいと思います。

まず第一でございますが、国立大学への社会の期待が大いに高まっているということを改めて認識していただきたいということでございます。

安倍総理からは、4月に、産業競争力会議の議論を踏まえ、人材育成機能強化、人材のグローバル化推進のため、国立大学について改革パッケージを取りまとめるよう指示をいただきました。

総理の指示を受け、私からは、産業競争力会議において、社会の変化や学術研究の進展をリードし、我が国の持続的成長のエンジンとなるべく、スピード感をもって国立大学の大胆なグローバル化、システム改革等を進めていく決意を伝えさせていただきました。

私は、産業競争力会議をはじめ様々な場で、産業界など社会と真正面から向き合い、人材育成や学術研究、産学連携などを通じて我が国の成長と発展に貢献してほしい、といった国立大学への社会の強い期待を重ねて痛感をいたしました。その切実さは、逆にこのような機能を、現在の規模の国立大学では果たせないということであればこれは不要である、「淘汰や統廃合が必要」、こういう厳しい意見も出てきております。

このことが、先週14日に閣議決定した「骨太の方針」や「日本再興戦略」には、これまで以上に国立大学が成長戦略の主人公として位置付けられている背景になっているということについて、御認識をいただきたいと思います。改めて学長や機構長の先生方にお伝えをさせていただきたいということで、申し上げているところでございます。

第二は、ガバナンス改革と学長の役割でございます。

大学に対する社会の高い期待に応えるためには、各大学において大胆な機能強化に主体的に取り組むことが求められており、学長を中心としたマネジメントはその鍵であります。

教育再生実行会議等の議論においては、「改革を否定しがちな教授会についてはその役割の明確化が必要」など、大学のマネジメントについて厳しい声も寄せられました。

本日のお集まりの学長におかれては、日々改革に向けてご尽力をいただいているという風に思います。学長のリーダーシップのもと、これまでにない構想力やアイディアを引き出し、主体的に改革に取り組むことこそが、大学の機能を最大化することにつながることは言うまでもありません。

しかし、思い切った改革を実行するに当たっては、学部や研究科といった組織が改革マインドを共有してくれない、学長を支えるスタッフが十分ではない、学長が自分のアイディアに基づいてなかなか資源配分ができない等々、いろいろ乗り越えなければならない壁もあるという風に思います。

学長のリーダーシップが十分に発揮できる体制になっているのか、例えば、教授会の機能は適切か、理事・副学長、学部長に部局横並びや順送りではなく大学の機能強化を担う適任者が任命されているのか、見直すべき点は多々あると考えます。

私は、教育再生実行会議や中央教育審議会の審議なども踏まえ、制度改革に取組み、学長が更にやり甲斐をもって学内をリードできるよう、努力したいと考えています。

第三は、国立大学の機能強化についてであります。

教育再生実行会議の第三次提言のほか、「日本再興戦略」においては、今後10年間で、「世界大学ランキングトップ100に10校以上のランクイン」といった大きな目標も掲げました。

先駆的な取組は既に始まっております。例えば、グローバル化の観点から、秋入学や入試改善、外国人教員の戦略的招へいなどに取り組んでいる大学もあります。

こういう大学については、積極的に、国をあげて支援をしていきたいと、改めて決意を申し上げさせていただきます。

もとより、これらの取組は、今までできなかった課題も含まれており、決して平坦な道ではないと思います。しかし、私どもとしては、個々の大学の取組だけにお任せするということではなく、こういった各大学の意欲に対して、国をあげて、文部科学省をあげてしっかりと支援するということを改めて申し上げさせていただきたいと思います。

例えば、グローバル化対応、中でも、秋入学・ギャップターム推進については、先週、私から、有識者等からなる「検討会議」を設置することを公表いたしました。私としては、さらに、海外のトップ大学をユニット型で誘致するなど「スーパーグローバル大学」を形成することが必要であるという風に考えています。

しかしこれは、国が特定の大学に対して、文部科学省が強制するわけではありません。意欲的な大学に対して、積極的に、これも支援をするという仕組みを作ってまいりたいと思っております。

また、イノベーション機能の強化については、「理工系人材育成戦略」を策定し、理工系分野を強化しつつ、産業界と連携しながら研究成果を活用した新しい価値を生み出すことも重要であります。

そのためにも人事・給与システムの柔軟性が求められております。

これらの、その大学でなければならない/できない機能強化に取り組む大学を、予算・制度両面にわたって積極的に応援したいと考えています。

他方、国立大学であることやこれまでの伝統や蓄積の上であぐらをかき、社会の構造的な変化や時代の流れに取り残されている大学は、その存在が問われかねない状況にあるということについて、改めて御認識をしていただきたいと思います。

各国立大学等の果たす役割、これに対する期待は、これまでになく高まっております。各学長・機構長におかれましては、大学に対する強い期待に、今ここで的確に、この時期に応えなければ、国立大学としての存在意義が問われかねないという緊張感を持ちつつ、組織の最高責任者としての職責を果たし、よりよい大学に向けてご尽力いただきますように、お願いを申し上げたいと思います。

文部科学省としても、国立大学の機能強化に向けて、本日、「今後の国立大学の機能強化に向けての考え方」を示させていただくとともに、具体的な改革工程を盛り込んだ「国立大学改革プラン」を今年夏をめどに策定することとしております。

各大学におかれましても、こうした国の動向や社会の急速な変化に対応しつつ、10年先、20年先を見据えた各大学の改革のシナリオに基づく全学的な機能強化にお取り組みいただくことをお願い申し上げたいと思います。私としても、主体的・能動的に改革に取り組む大学については、これまでにない思い切った支援をしたいということを、改めて申し上げさせていただきたいと思います。

最後になりますが、各国立大学法人・大学共同利用機関法人の今後益々の発展を祈念いたしまして、期待とともに、私の挨拶とさせていただきます。




2013年6月25日火曜日

"へいわってすてきだね"

沖縄戦の全戦没者を悼む「慰霊の日」追悼式で、日本のいちばん西にある小学校、沖縄県与那国町立久部良(くぶら)小1年の安里有生(あさとゆうき)くん(6)が、自作の詩を一生懸命読み上げた。最近ひらがなを習い終えたばかり。県平和祈念資料館が募った「平和のメッセージ」に寄せられた1690点の中から選ばれた。(2013年6月23日朝日新聞


2013年6月19日水曜日

「日本再興戦略」の策定

政府は、去る6月14日(金曜日)、「日本再興戦略」を閣議決定しました。大学に関係ありそうな部分を抜粋しご紹介します。



日本再興戦略(平成25年6月14日閣議決定)(抄)

第Ⅰ 総 論

2 成長への道筋

(2)全員参加・世界で勝てる人材を育てる

(日本の若者を世界で活躍できる人材に育て上げる)

今や日本の若者は世界の若者との競争にさらされている。将来の日本を担う若者が、国際マーケットでの競争に勝ち抜き、学術研究や文化・国際貢献の面でも世界の舞台で活躍できるようにするためには、まず何よりも教育する側、すなわち学校を世界標準に変えていくことを急がなければならない。

日本の大学を世界のトップクラスの水準に引き上げる。このため国立大学について、運営の自由度を大胆に拡大する。世界と肩を並べるための努力をした大学を重点的に支援する方向に国の関与の在り方を転換し、大学の潜在力を最大限に引き出す。また、「鉄は熱いうちに打て」のことわざどおり、初等中等教育段階からの英語教育を強化し、高等教育等における留学機会を抜本的に拡充し、世界と戦える人材を育てる。

(3)新たなフロンティアを作り出す

(オールジャパンの対応で「技術立国・知財立国日本」を再興する)

日本は現在でも高い技術力を有しており、国や大学の研究機関も民間も世界の先端を行く研究を行い、将来有望な技術シーズを数多く保有している。それにもかかわらず、最終製品段階の国際競争で他国の後じんを拝することが多いのは、国、大学、民間の研究開発が、出口を見据えずバラバラに行われ、それぞれの持ち味を十分に活かしきれていないことが原因である。

「総合科学技術会議」の司令塔機能を抜本的に強化し、日本が負けてはならない戦略分野を特定し、そこに国、大学、及び民間の人材や、知財、及び資金を集中的に投入するドリームチームを編成することで、世界とのフロンティア開拓競争に打ち勝って新たな成長分野を創り出していく。

また、世界の先を行く基礎研究の成果を一気に実用化レベルに引き上げるための革新的な研究を徹底的に支援し、iPSプロジェクトのような成功例を次々と生み出していく。国の総力を結集して「技術で勝ち続ける国」を創る。さらに、日本人の知恵・創造力を発揮して、世界最高の「知的財産立国」を目指す。


5 「成長への道筋」に沿った主要施策例

(2)全員参加・世界で勝てる人材を育てる

(日本の若者を世界で活躍できる人材に育て上げる)

③大学の潜在力を最大限に引き出す(国立大学改革等)

<成果目標>

◆今後10年間で世界大学ランキングトップ100に10校以上を入れる

(ⅰ)先駆的な取組を予算の重点配分等で後押しする国立大学改革に直ちに着手する。今後3年間を改革加速期間とする。【本年夏に国立大学改革プランを策定】

①年俸制の本格導入、企業等外部からの資金を活用した混合給与などの人事給与システムの改革

②大学や学部の枠を越えた教員ポスト・予算等の資源再配分及び組織再編、並びに大学内の資源配分の可視化

③上記の先駆的な取組の成果を踏まえ、運営費交付金全体を戦略的・重点的に配分する仕組みを導入する。【2016年度から導入】

(ⅱ)学校教育法等の法令改正を含め、抜本的なガバナンス改革を行うこととし、所要の法案を次期通常国会に提出する。また、必要な制度の見直しを行い、世界と競う「スーパーグローバル大学(仮称)」を創設する。【来年度から実施】

④世界と戦える人材を育てる

<成果目標>

◆2020年までに留学生を倍増する(大学生等6万人→12万人)

(ⅰ)初等中等教育段階からの英語教育を強化する。このため、小学校における英語教育実施学年の早期化、教科化、指導体制の在り方等や、中学校における英語による英語授業実施について検討する。【今年度から検討開始】

(ⅱ)グローバル化に対応した教育を行い、高校段階から世界と戦えるグローバル・リーダーを育てる。このため、「スーパーグローバルハイスクール(仮称)」を創設する。【来年度から実施】

(ⅲ)意欲と能力のある高校・大学等の若者全員に、学位取得等のための留学機会を与える。このための官民が協力した新たな仕組みを創設する。【本年8月末までに結論】

(ⅳ)国家公務員総合職試験や大学入試等に、TOEFL等の国際的な英語試験の導入等を行う。【国家公務員総合職試験は2015年度から導入】

(3)新たなフロンティアを作り出す

(オールジャパンの対応で「技術立国・知財立国日本」を再興する)

①国の総力を結集して「技術で勝ち続ける国」を創る

<成果目標>

◆今後5年以内に科学技術イノベーションランキング世界1位(世界経済フォーラムでは現状5位)

(ⅰ)戦略分野を特定し、出口を見据え、総力を結集して研究開発等を推進しイノベーションにつなげていくための司令塔として、「総合科学技術会議」の機能を強化する。これにより、府省の縦割りを廃し、産学官の連携を抜本的に強化し、高い科学技術力が最終製品・サービスまで到達できていない我が国の現状を打破する。【本年8月までに法改正を含む工程表策定】

(ⅱ)戦略分野の市場創造のため、「総合科学技術会議」が中心となり、コア技術を特定し、基礎研究から出口(事業化、実用化)までを見据えたロードマップに基づく、府省の枠を越えた取組を行う。この取組に対して複数年にわたり重点的に資源を配分する「戦略的イノベーション創造プログラム(仮称)」を創設する。【本年8月末までに結論】

(ⅲ)京都大学山中教授による再生医療研究などFIRSTプログラムが世界トップ水準の高い研究成果を創出していることを踏まえ、FIRST後継施策とも呼ぶべき「革新的研究開発支援プログラム」を創設する。【本年8月末までに結論】


第Ⅱ 3つのアクションプラン-日本産業再興プラン

2 雇用制度改革・人材力の強化

経済のグローバル化や少子高齢化の中で、今後、経済を新たな成長軌道に乗せるためには、人材こそが我が国の最大の資源であるという認識に立って、働き手の数(量)の確保と労働生産性(質)の向上の実現に向けた思い切った政策を、その目標・期限とともに具体化する必要がある。

このため、少子化対策に直ちに取り組むと同時に、20歳から64歳までの就業率を現在の75%から2020年までに80%とすることを目標として掲げ、世界水準の高等教育や失業なき労働移動の実現を進める一方で、若者・女性・高齢者等の活躍の機会を拡大する。これにより、全ての人材が能力を高め、その能力を存分に発揮できる「全員参加の社会」を構築する。

③多様な働き方の実現

個人が、それぞれのライフスタイルや希望に応じて、社会での活躍の場を見出せるよう、柔軟で多様な働き方が可能となる制度見直し等を進める。

○研究者等への労働契約法をめぐる課題に関する検討

労働契約法の若手研究者のキャリア形成に対する影響を懸念する指摘もあることから、研究現場の実態を踏まえ、研究者等のキャリアパス、大学における人事労務管理の在り方など労働契約法をめぐる課題について関係省が連携して直ちに検討を開始し、1年を目途に可能な限り早急に結論を得て、必要な措置を講ずる。

⑤若者・高齢者等の活躍推進

全ての人が意欲さえあれば活躍できるような「全員参加の社会」の構築を目指す。特に、我が国の将来を担う若者全てがその能力を存分に伸ばし、世界に勝てる若者を育てることが重要であり、若者・女性活躍推進フォーラムの提言を踏まえつつ、成長の原動力としての若者の活躍を促進する。

○若者の活躍推進

・インターンシップに参加する学生の数の目標設定を行った上で、地域の大学等と産業界との調整を行う仕組みを構築し、インターンシップ、地元企業の研究、マッチングの機会の拡充を始め、キャリア教育から就職まで一貫して支援する体制を強化する。また、関係団体等の意見を踏まえつつ、インターンシップの活用の重要性等を周知し、その推進を図る。さらに、若者等が経済状況にかかわらず大学等で学ぶことができるよう、奨学金制度を充実する。

・学修時間の確保、留学等促進のための、2015年度卒業・修了予定者からの就職・採用活動開始時期変更(広報活動は卒業・修了年度に入る直前の3月1日以降に開始し、その後の採用選考活動については、卒業・修了年度の8月1日以降に開始)について、中小企業の魅力発信等、円滑な実施に向けた取組を行う。

・大学、大学院、専門学校等が産業界と協働して、高度な人材や中核的な人材の育成等を行うオーダーメード型の職業教育プログラムを新たに開発・実施するとともに、プログラム履修者への支援を行うなど、社会人の学び直しを推進する。また、高等専門学校について、地域や産業界との連携を深めつつ、社会や企業のニーズを踏まえた学科再編などを促進する。また、若者等の学び直しの支援のための奨学金制度の弾力的運用や雇用保険制度の見直し等を行う。

⑥大学改革

大学改革全般に関する「教育再生実行会議」の提言を踏まえつつ、国立大学について、産業競争力強化の観点から、グローバル化による世界トップレベルの教育の実現、産学連携、イノベーション人材育成、若手・外国人研究者の活用拡大等を目指す。このため、大学評価システムの構築、大学や学部の枠を越えた教員ポスト・予算等の資源再配分及び組織再編、大学内の資源配分の可視化、外国人研究者の大量採用、年俸制の本格導入、企業等の外部からの資金を活用した混合給与などの人事給与システムの改革、運営費交付金の戦略的・重点的配分の拡充に直ちに着手する。今後3年間で大胆で先駆的な改革を後押しして改革を加速し、第3期中期目標期間(2016年度から)開始までに改革を完成させる具体的・包括的な改革プランを早急に取りまとめる。

また、必要な制度の見直しを行い、世界と競う「スーパーグローバル大学(仮称)」を創設する。今後10年間で世界大学ランキングトップ100に我が国の大学が10校以上入ることを目指す。

○人材・教育システムのグローバル化による世界トップレベル大学群の形成

・人材・教育システムのグローバル化、英語による授業拡大など、積極的に改革を進める大学への支援の重点化に直ちに着手する。

○イノベーション機能の抜本強化と理工系人材の育成

・産業界との対話を進め、今年度内に、教育の充実と質保証や理工系人材の確保を内容とする理工系人材育成戦略を策定し、「産学官円卓会議(仮称)」を新たに設置して同戦略を推進する。

・今後10年間で20以上の大学発新産業創出を目指し、国立大学のイノベーション機能を強化するため、国立大学による大学発ベンチャー支援ファンド等への出資を可能とする。このため、所要の法案を速やかに国会に提出する。

○人事給与システム改革による優秀な若手及び外国人研究者の活躍の場の拡大

・今後3年間で、国立大学における1,500人程度の若手及び外国人研究者の常勤ポストの提示を目指し、年俸制の本格導入や企業等の外部からの資金を活用した混合給与の導入に直ちに着手する。

○大学改革を支える基盤強化

・国立大学法人評価委員会等の体制を強化し、大学改革の進捗状況をきめ細かくフォローする。

・教授会の役割を明確化するとともに、部局長の職務や理事会・役員会の機能の見直し、監事の業務監査機能強化等について、学校教育法等の法令改正の検討や学内規定の見直しも含め、抜本的なガバナンス改革を行うこととし、所要の法案を次期通常国会に提出する。

・教員ポスト・予算等の大学内の資源配分の可視化、運営費交付金の戦略的・重点的配分の拡大に直ちに取り組む。さらに、2016年度から新たな評価指標を確立し、運営費交付金の在り方を抜本的に見直す。

⑦グローバル化等に対応する人材力の強化

世界に勝てる真のグローバル人材を育てるため、「教育再生実行会議」の提言を踏まえつつ、国際的な英語試験の活用、意欲と能力のある若者全員への留学機会の付与、及びグローバル化に対応した教育を牽引する学校群の形成を図ることにより、2020年までに日本人留学生を6万人(2010年)から12万人へ倍増させる。優秀な外国人留学生についても、2012年の14万人から2020年までに30万人に倍増させること(「留学生30万人計画」の実現)を目指す。

また、産業構造の変化に対応した学び直し等の機会を拡大する。

○国家公務員試験や大学入試等へのTOEFL等の活用

・2015年度の国家公務員総合職試験から、外部英語試験を導入するとともに、大学入試や卒業認定へのTOEFL等の活用を促進する。

○意欲と能力のある若者全員への留学機会の付与

・高校・大学等における留学機会を、将来グローバルに活躍する意欲と能力のある若者全員に与えるため、留学生の経済的負担を軽減するための寄附促進、給付を含む官民が協力した新たな仕組みを創設する。また、支援策と併せて、姉妹校締結や海外の大学と単位互換の取組等、大学の教育環境整備を進めるなど、必要な措置をパッケージとして講ずるための具体策を本年8月末までに検討を進め結論を得た上で、概算要求等に反映させる。

・就職・採用活動開始時期変更【再掲】を行うほか、多様な体験活動の促進に資する秋季入学に向けた環境整備を行う。

・留学機会の確保と併せ、優秀な外国人留学生獲得のための海外の重点地域を選定し、大学等の海外拠点の強化や支援の充実による戦略的な外国人留学生の確保を推進するとともに、留学経験者の把握等ネットワークを強化するなど、優秀な外国人留学生の受入れを促進する。


3 科学技術イノベーションの推進

近年、研究開発の成果が円滑に実用化につながらず、これまで優位を誇ってきた日本のものづくり産業が新興国との競争で苦戦するなど、「技術で勝ってビジネスで負け」、さらに一部では「技術でも負ける」状況になっている。伸び悩む我が国の研究開発投資を推進することにより、「科学技術創造立国」として復活させることが必要である。今後、早急に政府の体制を立て直し、戦略分野を中心に研究開発を推進するとともに、その成果を実用化し、さらには市場獲得につなげるため、知的財産戦略や標準化戦略を推進する。これらにより、イノベーション(技術力)ランキング(世界経済フォーラムのランキングでは、日本は現状第5位)を今後5年以内に世界第1位にするとの目標を掲げつつ、「技術でもビジネスでも勝ち続ける国」を目指す。

このため、「総合科学技術会議」の司令塔機能を強化し、省庁縦割りを廃し、戦略分野に政策資源を集中投入する。政府の研究開発成果を最大化するため、大学や研究開発法人において科学技術イノベーションに適した環境を創出するとともに、出口志向の研究開発と制度改革を合わせて大胆に推進し、実用化・事業化できる体制を整備する。また、民間の積極的な研究開発投資の促進に加え、自前主義からオープンイノベーションへの展開を加速し、実用化・事業化へとつながる科学技術イノベーションの好循環を生み出す。

政府一体となり科学技術イノベーション総合戦略(本年6月7日閣議決定)を強力に推進することは、成長戦略の実現にとって鍵となる。このため、関連施策との一体性を確保しつつ、以下の施策を重点的に推進する。

①「総合科学技術会議」の司令塔機能強化

省庁縦割りを廃し、成長戦略に基づく資源配分の実現のために必要な「総合科学技術会議」の司令塔機能の強化に向けて、組織の充実、予算要求(内閣府計上)、法律改正等を含む工程表を本年8月末までに策定し、来年度から実行に移す。

○政府全体の科学技術関係予算の戦略的策定

・政府全体の科学技術関係予算について、「総合科学技術会議」が予算戦略を主導する新たなメカニズムを来年度概算要求段階から導入する。

○「総合科学技術会議」事務局機能の抜本的強化

・関係府省、産業界、大学等の協力を得ながら、専門的知見を有する優秀な人材の長期登用などにより事務局体制を強化する。

・企画・立案に必要な国内外の関連情報を収集し、調査分析する機能を強化するため、関係府省や政府系シンクタンクとの連携を図る。

・イノベーション創出加速のため、「総合科学技術会議」の運営に当たって、産業界の活力を積極的に活用する。

○アウトカムを重視したPDCAの積極的推進

・国家的課題の解決推進のため、アウトカムを重視した研究開発のPDCAを推進するとともに、イノベーションの創出・環境整備等に係る状況(進捗、障害の有無等)を分析・評価し、必要な場合に関係府省に改善措置を求める。

②戦略的イノベーション創造プログラムの推進

「戦略市場創造プラン」を実現する上で、科学技術イノベーションが果たす役割は極めて大きい。国家的に重要な課題を解決するため、コア技術を特定し、基礎研究から出口(実用化・事業化)までを見据えたロードマップに基づく取組により、戦略市場を創造する。このロードマップに基づく府省横断型の取組に対して複数年にわたり重点的に資源を配分する「戦略的イノベーション創造プログラム(仮称)」を創設する。本年8月末までに「総合科学技術会議」において具体策を固め、国全体の研究開発予算について、効率化・効果の最大化を図る観点から見直しを行った上で、所要の予算を内閣府に計上する。

○戦略的イノベーション創造プログラムの創設

・各省に対する総合調整機能を効果的・効率的に発揮させるため、内閣府に「戦略的イノベーション創造プログラム(仮称)」を創設し、産業界、学界及び各府省と連携し、基礎研究から出口までを見据えた研究開発等を推進する。

○プログラムの推進体制

・ロードマップの策定、各府省の関連施策の調整、プログラムディレクターの任命等、実効性あるPDCAを行う体制を整備する。

③革新的研究開発支援プログラムの創設

現在のFIRST(最先端研究開発支援プログラム)の成果をしっかりと実用化する。さらに、研究開発全体の基盤の底上げにつなげていくため、成長戦略の一環として、米国DARPA(国防高等研究計画局)の仕組みを参考に、長期的視点からインパクトの大きな革新的研究テーマを選定し、権限を有するプログラムマネージャーの責任の下で、独創研究を大胆に推進するプログラム(革新的研究開発支援プログラム(仮称))を創設する。現行FIRSTの予算執行面での特長を活かしつつ、本年8月末までに検討を進め結論を得た上で、概算要求等に反映する。

テーマ選定に際しては、将来の経済社会・産業の在り方に大きな変革をもたらすものとし、選定過程における産業界の有識者の関与を高める。

④研究開発法人の機能強化

成長戦略の実現に資する研究開発を集中的かつ効果的に推進するため、研究開発法人に対する業務運営の効率化目標の在り方を見直し、研究開発内容や評価を踏まえたメリハリある予算を実現するなど研究開発法人の機能強化を図る。

○世界最高水準の新たな研究開発法人制度の創設

・研究開発法人については、関係府省が一体となって、独立行政法人全体の制度・組織の見直しを踏まえつつ、研究開発の特性(長期性、不確実性、予見不可能性及び専門性)を踏まえた世界最高水準の法人運営を可能とする新たな制度を創設する(次期通常国会に法案提出を目指す)。

○具体的な改善事項への対応

・法的措置が必要なものと運用によって十分に改善が可能なものを早急にしゅん別し、給与、調達、自己収入の扱い、中期目標期間を越えた繰越等の改善が必要な事項に関し、現行制度においても、運用上改善が可能なものについては速やかに対応を図る。特に、外部資金を積極的に活用するインセンティブを与えるため、自己収入(寄附金収入分等)を確保した分運営費交付金が削減される仕組みは直ちに見直す。

⑤研究支援人材のための資金確保

研究者が研究に没頭し、成果を出せるよう、研究大学強化促進事業等の施策を推進し、リサーチアドミニストレータ等の研究支援人材を着実に配置する。

また、大学等における研究支援人材の確保に向けた自主的な取組を促すとともに、競争性を有する研究資金の制度において、間接経費30%の確保に努める。さらに、長期的・安定的に研究支援人材を確保するため、人材の類型化や専門的な職種としての確立、全国的なネットワーク化等を産学官の連携の下で取り組む。

これらの方策について、本年8月末までに検討を進め結論を得た上で、概算要求等に反映させる。

⑥官・民の研究開発投資の強化

民間研究開発投資を今後3年以内に対GDP比で世界第1位に復活することを目指し、研究開発投資にさらにインセンティブを与えるため、産学官のオープンイノベーションの推進、研究開発法人・大学が所有する研究開発設備等の有効活用の促進、研究開発型ベンチャーへの技術開発・実用化支援、知財戦略・国際標準化の推進、イノベーションを促進するための規制改革などの取組を実施するとともに、研究開発税制の活用促進など企業の研究開発投資環境を整備する。

これらの取組により、官民合わせた研究開発投資を対GDP比の4%以上にするとの目標に加え、政府研究開発投資を対GDP比の1%にすることを目指すこととする。その場合、第4期科学技術基本計画(2011年8月19日閣議決定)期間中の政府研究開発投資の総額の規模を約25兆円とすることが必要である(同期間中に政府研究開発投資の対 GDP比率1%、GDPの名目成長率平均2.8%を前提に試算)。これらを踏まえ、我が国の財政状況が一層悪化し危機的な状況となる中、財政健全化との整合性の下、基本計画に掲げる施策の推進に必要な経費の確保を図ることとする。


2013年6月18日火曜日

月に一度だけのぜいたく

ブログ「いい話の広場」から、「第750号ほろほろ通信『おすし屋さんの思い出』志賀内泰弘」をご紹介します。



40前の出来事。名古屋市名東区の横井和子さん(77)は、ご主人を亡くした。勤務先で倒れ急死だった。

当時7歳の長男と9歳の長女を抱えて途方に暮れた。

病院の厨房に職を見つけ、働くことになった。

2交代制の遅番の日は、帰りが午後8時近くになる。

おなかがすかないようにと、毎日おやつを用意して出掛けた。

給料日には、二人の子どもを連れて外食することにしていた。

大衆食堂で丼物やうどんを食べる。それでも月に一度だけのぜいたくだった。

ある日のこと、テレビを見ていた長男が、「僕もああいうおすしがたべたいなあ」と言った。

画面には、カウンターのお客さんに、職人さんが次々に2貫ずつ握って出しているシーンが映し出されていた。

今と違いファミリーレストランも回転ずしもない時代にことだ。

おすしといえば、年に一度くらいお客さんが来たときに出前で注文して食べるものだった。

次の給料日に、思い切って近くのおすし屋さんへ出掛けた。

子どもたちにわからないように、お店の奥さんにこっそり「あること」を頼んだ。

奥さんは快く引き受けてくれた。

みんなでカウンターに座った。

注文したのは出前で取るのと同じおけずしだ。

しかし、ご主人は子どもたちの前に2貫ずつにぎっては出してくださった。

面倒で時間がかかるのにもかかわらず。

最後の2貫が出され、「これで終わりよ」と言われると、子どもたちはうれしそうな顔をしていた。

そのお店は高速道路建設のためなくなってしまったが、今でもお店のご夫婦を思い出すたびに涙が出るという。(ほろほろ通信/中日新聞 2011.03.13掲載)



2013年6月14日金曜日

「日本」という国号

山本眞一さん(桜美林大学大学院・大学アドミニストレーション研究科教授)が書かれた論考「ニッポン、それともニホン?~大学の場合は」(文部科学教育通信 No317  2013.6.10)をご紹介します。



ニッポンが増えている?

皆さんは日頃、ラジオを聴かれることは多いだろうか。全国的にはクルマ社会を反映して、ラジオをよく聴くという人はずいぶん多いかもしれない。私自身はクルマを通勤に使ったことはないが、小さい頃は別として、テレビに比べてラジオ番組を聴くことはあまりなかったように記憶している。しかし、6年間にわたる広島単身生活ではテレビなしの生活を送ったので、今ではすっかりラジオ派になってしまった。東京に戻ってからも、テレビを視るよりラジオを聴く方がはるかに多いのが現状だ。そのラジオで気になることの一つに、最近、NHKのアナウンサーや国会での政治家の発言の中で、日本のことを「ニッポン」と発音する人たちが多くなっているような印象があることだ。念のためNHKのホームページを覗いてみた。

NHK放送文化研究所が平成16年に公表した「放送研究と調査」によれば、国号「日本」の読み方は、政府による公式に定められたものはないが、NHKには現在の放送用語委員会の前身の組織が、昭和9年に定めた「正式な国号として使う場合は、『ニッポン』、そのほかの場合には『ニホン』と言ってもよい」という方針があるそうだ。それから70年経過し、現在(平成16年)わが国でどのように読まれているかをNHKが調査したところ、「ニホン」が61%、「ニッポン」が37%という結果になり、年代別には若い人ほど「ニホン」が増える傾向にある。また、平成22年1月4日付の日経新聞の記事によれば、日本代表、日本人、西日本、など日々の会話の中で「日本」がつく言葉の発音を、国語研究所等が開発したデータベースを用いて2004年に調べた結果、98%が「ニホン」であったという。これを読む限り、私の気になることは間違った印象か、あるいはごく最近の変化かのどちらかであろう。

統一できない読み方

歴史的には、7世紀の後半にさかのぼるといわれる「日本」の国号は、当初「ニッポン」または「ジッポン」と読まれたが、その後「ニホン」という読みが現れて、優勢になったらしい。安土桃山時代にポルトガル人が編纂した辞書には「ニッポン」、「ニホン」、「ジッポン」の読みが見られ、改まった場面では「ニッポン」が、日常の場面では「ニホン」が使われていたとのことである(Wikipediaによる)。以後、今日に至るまで「ニッポン」も「ニホン」も使われており、明治以降も何度か「ニッポン」を正式にしようという動きがあったようだが、いずれも不調に終わって、現在の政府公式見解では、平成21年6月30日付の麻生内閣総理大臣名の答弁書にあるように、「どちらか一方に統一する必要はないと考えている」となっている。ちなみに、たびたび話題になるのが日本銀行の読み方であり、紙幣には確かに「NIPPON GINKO」と印刷されているから、「ニッポン」が正式であるようだが、実際には「ニホンギンコウ」と読む人も多く、社会一般には必ずしも定着していないようである。

もっとも、明治以降に日本という国号に統一的な読み方を与えようという動きは、さまざまな資料を読む限り、常に「ニッポン」派から来ていることには注意を払う必要があるだろう。先述したようにNNHKは昭和9年に国号を「ニッポン」と発音することに決めたが、同じ年に文部省臨時国語調査会が国号を「ニッポン」と定めるように議決している。これには昭和初期に各地で起きた「ニッポン」採用をめぐる世論の動きが背景にあるらしい。この時は政府全体としての決定には至らなかったものの、戦時下の状況の中で「ニッポン」への同調圧力は徐々に高まり、力強い日本は「ニッポン」であり、「ニホン」はその語調において既に力が弱く、「今日の日本においては、是非『ニッポン』と力強く呼称することを望む」との投書などが政府雑誌に掲載されていたそうだ(奥野昌宏ほか「メディアとニッポン」成蹊大学紀要で引用する内閣情報局文書)。ちなみに、戦時中に弾圧を受け獄死した哲学者、戸坂潤がその著『日本イデオロギー論』(岩波文庫)で「ニホンと読むのは危険思想だそうだ」と述べている(奥野・同)のは、当時の社会をなんともリアルに描写しているように思える。

ただ、庶民のレベルでは「ニホン」も「ニッポン」も戦時下でも変わらずに使われていて、当時使われていた国定教科書の文部省唱歌等で「日本」が出てくる30曲のうち、「ニホン」は16曲、「ニッポン」が14曲であったとの研究もあるそうだ(奥野・同)。そういえば、明治期に作られた文部省唱歌「日の丸の旗」では「ああうつくしや日本(ニホン)の旗は」とルビが振られていたことや、大正期童謡の名作「青い目の人形」(野口雨情作詞・本居長世作曲)でも「日本(ニホン)の港へついたとき」とあったことを思い出す。もちろん、同じく文部省唱歌の「ふじの山」では「かみなりさまを下にきく、ふじは日本(ニッポン)一の山」であったことも忘れてはならないが。

大学はニホン派がやや優勢

さて、ここからが大学の話である。現在わが国に「日本」を名称の一部に使う大学(四年制)は、28校あるようだが、このうち「ニホン」と読まれる大学は、日本大学や日本女子大学をはじめ17校、「ニッポン」と読まれる大学は、日本工業大学や日本赤十字看護大学をはじめ11校である(Wikipedia)。ただし、日本赤十字を冠する大学は全部で6校あることに留意することが必要である。全体としては「ニホン」がやや優勢というところであろうか。もっとも、Wikipediaの編集者は、それぞれの大学の英語呼称が「Nihon」となっているものは「ニホン」と読ませ(全部で7校)、「Nippon」や「Japan」については個別の判断で分類しているようである。各大学に確認したのかも知れないし、あるいは日本歯科大学(The Nippon Dental University)のように、その校歌の歌詞に「名はよし日本(ニホン)歯科大学」とあることに拠ったのであろうか。

各大学の「日本」の読み方が、それぞれどのような経緯で決められたか、あるいは発音されるようになったかは、今回調べる時間がなかったが、もしかしたら非常に興味深いストーリーがその背後にあるのかもしれない。伝統校が「ニホン」で新設校が「ニッポン」というわけでもないので、より一層面白味を感じる。いずれにしても、読み方がどちら一方でなければならないというわけではないので、念のため。

ともあれ、「ニホン」でも「ニッポン」でもどちらでもよい、というのは長い歴史の中で形成されてきた日本国にふさわしい状況なのではあるまいか。これを統一しようという動きがまたあるとすれば、それは国号そのものではなく、国民の意識や行動に立ち入ろうとするものかもしれず、要注意である。スポーツ関係者には「がんばれニッポン」というように「ニッポン」に人気が集まるのは、その力強さやキリッとした語感からみて自然なことと思うが、私がまだ若い頃、山口百恵が歌った「いい日旅立ち」は「ああ日本(ニホン)のどこかで♪」と言わないとサマにはなるまい。また、スポーツで思い出すのは、昭和39年の東京オリンピックに合わせて作られた「オリンピック音頭」で、三波春夫が「北の空から南の海もこえて日本(ニホン)へどんときた」と唄っているのも、今は懐かしい記憶である。まさに多様性を認め合うことこそ、これからの日本(あえて発音を特定しない)の進む道ではないだろうか。


2013年6月13日木曜日

結婚への誘い

文部科学時報(文教ニュース 第2242号 平成25年6月3日)から「憂国の合コン論」をご紹介します。



そうか。合コンのコンはコンパニーだったのか。知らなかった。

ところで、かつて文部省にも独身男女の合コンをセットしたがる課長がいて、物好きな人もいるもんだとか、自分が女性職員と親しくなりたいだけじゃないかなどと下衆の勘繰りをしてしまったが、最近は私も宗旨替えをして、やっぱりそういう世話焼きおじさん・おばさんが必要なんじゃないかと思っている。

我が日本国の最大の危機、それは何と言つても人口の減少である。

なぜ人口が減っているのか。「合計特殊出生率」(15歳から49歳の女性の年齢別出生率の合計)が大きく下がっているからだ。なぜ下がるのか。一人っ子が増えたのか。実はそうではない。「合計結婚出生率」(その年の一夫婦あたりの出生児数)はあまり下がっていないという。つまり、結婚後の出生児数に大きな変化はなく、未婚率の上昇が少子化の主な要因ということだ。

結婚するかしないか。するにしても、いつするか。「今でしょ!」違う。そんなことは個人の自由、大きなお世話。私もそう考えてきた。だが、国衰国亡の危急時に、そんな悠長なことを言っている場合であろうか。

私も大いに反省している。自身の結婚について、大間違いであったと正直にあちこちで公言してきたことを。これからはもうあんまり言わないことにする。赤ん坊は可愛いよ、子供を持つのは楽しいよなどと、聞こえの良いことだけを語ることにしよう。

管理職をはじめ既婚者の皆さん、日本の将来を担う若者達を結婚に誘(いざな)うために、結婚や子育ての楽しさ(だけ)を笑顔で語りましょう。残業を減らし、若い衆が合コンをしたり飲みに行ったりできるようにし、休みもちゃんと取らせましょう。昔の某課長のように、独身男女のために合コンをセットするのもいいでしょう。(なお、部下でなく自分のために合コンに精を出す管理職もいると聞くが、それはあまり感心しません。)

いっそのこと、人事課でも合コンを主催したらどうですか?我が愛する祖国日本の再生と活力のために。


2013年6月12日水曜日

大学=自治会文化

大学の特殊な文化を指摘した記事が目に留まりましたので抜粋してご紹介します。(出典:連載「国立大学法人法コンメンタール(歴史編)第53回 文部科学教育通信 No317  2013.6.10




大学、とりわけ国立大学は「手続き」に拘る社会である。上は学長から下は助教に至るまで、「真理の追究を職務とする研究者としては、上下の区別はなく、みな平等である」という意識が強く、「上(責任者)が決めたことに下が従う」というカルチャーがそもそも存在しない。このため、大学として何か一つの結論を出そうとする場合、学長以下の執行部(今でいえば役員)が臨機応変に決定し、その結果責任を負う、というやり方はほとんど認められず、結論を得るまでのプロセスの中で、広く構成員の意見が反映される(あるいは、意見がなくとも、構成員の意見表明の機会が保障される)よう、所定の「手続き」が確実に履行されていることが最も重視される。それを象徴的に示しているのが、大学のトップたる学長を選任する際に多くの国立大学でいまだに実施されている学内構成員の意向調査(投票)である。一般の企業や官庁では信じがたい文化だが、ちょうど地域の自治会とかPTAのような自治組織が、構成員の全員参加という形式に拘るところや、その結果、総会開催に当たって構成員からの白紙委任状を求めるところと近い感覚がある。その意味では、国立大学が法人化されようが、学長専任の法令上のルールが変わろうが、組織のトップが依然として学内の同僚教員から選ばれる限り、「手続き」に拘る大学文化を大幅に変革することは困難であるとも言える。そして国立大学協会は、そうした国立大学の文化の上に存在する団体であった。


2013年6月11日火曜日

国立大学改革の動向

全国の国立大学法人等の財務担当責任者を対象として、5月29日に開催された「国立大学法人の財務等に関する説明会」の概要(文教ニュース 第2242号 平成25年6月3日)をご紹介します。



文部科学省は5月29日、講堂で「国立大学法人の財務等に関する説明会」を開き、教育再生実行会議の提言など大学改革の動向や平成26年度概算要求等について説明して理解と協力を要請した。

冒頭、板東高等教育局長が、政府の教育再生実行会議や産業競争力会議、大学改革実行プランなど大学改革の動向について挨拶した。その中で、教育再生実行会議の提言では「これからの大学を考えていく上で重要な視点であり、それぞれ大学のミッションや特色などはあるが、それを可能性としていっていただきたい。特に国立大学改革に関しては、かなり積極的な改革あるいは将来に向けての方向性が出てくる」考えを示した。具体的には、①部局を超えた再編を積極的に進める、②人事給与システムについて、年俸制をはじめるにしても新たなシステムの在り方を検討していく-ことについて言及して検討を要請した。

産業競争力会議については、大学改革はこれから我が国の競争力自体を非常に大きく左右すると捉え、安倍総理は「大学力とは国力そのものであり、競争力そのものである」と非常に強い期待を込めていることを強調した。特に成長戦略に織り込まれる中の議論において国立大学改革は具体的になってくる見通しを示し、「経済力強化という観点からも国立大学に対する期待が寄せられ、そのために国立大学の力を発揮できるような改革をスピード感を伴っていく必要がある」考えを示した。

大学改革実行プランについて言及、「基本的な路線は変わりなく、さらに強化していく」ことを明らかにした。大学のミッション再編については、それぞれの大学から積極的な検討の協力があり、先行分野である教員養成、医学、工学については第2ラウンド目の作業に入っていることを示し、「それぞれの大学の強み、特色などを強化する方向で進めている」ことを述べた。さらに、部局や分野を超えた再編成の積極的なシステム改革を再認識してもらいながら、その推進をさらに広報していく考えを示した。

最後に「非常に重要な時期になっているので、財務担当者も大いにアンテナをはりめぐらせながら取り組まれたい」と強調した。

続いて、芦立国立大学法人支援課長は、来年度の概算要求のスタイルについて、昨年度との違いを中心に説明した。一番大きな違いとして、昨年の選挙で政権が交代して政府内閣の意思決定の手続きが変化したことを強調した。特に経済の再生、日本の再生が大きな柱となり教育再生実行会議、産業競争力会議、経済財政諮問会議の3つの会議体が動いていることを説明した。その上で、来年度の概算要求の方針はまとめられていないが、教育再生実行会議や産業競争力会議での議論がひとつの大きな柱となる考えを示し、参議院選挙後の概算要求が決まる見通しを示した。また、国立大学改革の動向について、昨年までとどういうところが同じで、どういうところが違うのかということについて丁寧な説明が行われた。

最後に、合田高等教育局企画官が「平成26年度概算要求の方針」「国立大学改革強化推進事業」などについて説明した。この後、質疑応答が行われた。



2013年6月7日金曜日

恩送り

たびたび引用させていただいている、ブログ「今日の言葉」から恩送り」(2013年6月7日)を抜粋してご紹介します。

満席の新幹線で

名古屋市のSさん(40)が、東京に住んでいた8年前の夏の話。

当時1歳の娘さんを連れ、名古屋の実家へ帰省することになった。

自由席券を買って新幹線に乗ったところ、全車満席。

沢山の荷物と、子どもを抱いていたSさんはデッキに座り込んでいました。

そんなとき、同年配の女性が「赤ちゃんを抱えて大変。こちらへいらっしゃい。」

案内されたのはグリーン車だった。

窓側の席には、小学校6年生くらいの息子さんが座っていた。

隣の通路側席を指さし「ここへ座りなさい」と言い、切符を交換してくれた。

その女性はデッキに立ち、途中二度ほど息子さんの様子を見に来た。

何かお礼がしたいと思い、たまたまかばんに入っていた500円の図書券を息子さんに渡すと

「お母さんに怒られますから」と受け取ってくれない。

降りる間際に、母親に渡そうとすると

「気にしなくてもいいのよ。気をつけて帰ってね」と言われた。

実家に着くと、すぐに母親にそのことを報告した。


それから3ケ月後、今度はSさんのお母さんが上京したときの話。

新幹線の自由席のチケットを買い、ホームで並んでいると、

すぐ後ろにベビーカーを押す女性がいた。

列車に乗り込むと、席は一つしか空いていない。

手招きして、そこへ母子を座らせてあげた。

「あなたが、この前受けたご恩を少しお返しできたきがするわ」と報告を受けた。

「いつもこの二つの出来事が心に残っています。

自分も席を譲るようにと心掛け、小学4年生になった娘にも、

人に親切にしようねと教えています。」

2013年6月6日木曜日

科学技術人材の育成の在り方

文部科学省 科学技術・学術審議会 人材委員会(第59回、3月27日)の議事録の中に、大変興味深い記述がありましたので、抜粋してご紹介します。

会議の議題は、「科学技術人材の育成の在り方について」ですが、冒頭、委員の一人である、宮田満(日経BP社特命編集委員)さんから、プレゼンテーションが行われています。

少し長文になりますが、大変示唆に富む内容ではないかと思いますので、どうぞご覧ください。


これは皆さんの議論のための、自分のエッセイのようなものをお示しする結果になります。

きょうは、『博士人材の活用による日本活性化』をタイトルにお話ししますけれども、これは必ずしも博士人材とは限らないと思っております。修士でも学部でも、高度人材を活用して、日本を何とか活性化したいという思いがこもっております。

2年前に名古屋大学で開催されたポスドクのキャリアパスのシンポジウムの資料を拝借してまいりましたので、具体的にポスドクや博士が、企業や社会に出て、新規事業創出に本当に貢献をし始めたという実例を皆さんにお示ししたいと思っています。

皆さんの資料の真ん中にある、上原君の実例を示します。この方は今セイコーエプソンの主任研究員をやっております。同時に信州大学と大阪大学の招聘研究員もやられております。一応、彼の新規事業は地域イノベーション戦略支援プログラムや、経産省の信州メディカルシーズ育成拠点に採択されて、エプソンが新規事業として信州大学に医療研究施設をつくっており、今、そこの担当者になっております。彼のキャリアを見てみますと、大阪大学医学系研究科の博士課程の研究内容は、この発生生物学、メタモルフォーシスを分子レベルで明らかにするというものでした。私も実は、東大の植物のときにこれをやっていたので、絶対に就職口がないというのはよくわかっておりました。

ある遺伝子を欠損させたマウスをつくると、形態形成あるいは器官形成に異常を示す。こういったことはすごく面白いのですけれども、余り企業には理解していただけない状況があります。彼の博士課程は悲惨だったと言っております。今回の人材委員会ではこういうことがないように、私たちは工夫しなければいけないということです。まず、いろいろ手法上の問題があります。様々な遺伝子をノックアウトしても、普通はピンピンしています。異常が出ないと研究成果にならないという手法において、これは本当に大変です。学位論文は6回もリジェクションを受ける、オーバードクターになる、貧乏で、安いアパートにいて栄養失調になる、研究室に引きこもり。担当教官との確執もあったが、現在は良好と言っているところは社会性を示していると思います。これらは結局、体調不良、ネガティブ思考、将来への悲観につながります。結構こういうポスドクを、私は実際に知っております。

それで彼はどうしたかというと、大阪大学産学連携本部のCLICというところに相談に行くわけです。そうすると、哲学専攻から工学系、知財系、もう、とにかくものすごく多様な人材がいて、「あなたが今行き詰まっていることは、こうやればいいんじゃない?」というアイデアがものすごく出てくるわけです。そこで多分、彼は救われて、企業へ共同研究を提案して、いろいろな企業担当者との面談が実現していきます。細胞チップというものを彼が提案して、それをエプソンが非常に評価し、人材ごと彼を引き抜いてくれたというのが現実です。ただし、そう甘くなくて、彼の話を聞くと、面接を10回以上やったそうです。何回も何回も呼び出されて、それでもめげない人材かどうかというのを実は試されていたらしく、そういう苦難を乗り越えて、今、彼は非常にハッピーだということになります。

最後に彼は自分のことを言っています。自分自身の価値が最大限発揮できるポジションを自ら生み出すということに彼は気がつくわけです。本当は、こういったことを博士課程の間に気がつき、自分の価値を社会に貢献するときに、どういうキャリアパスを示せば自分の価値が高くなるのかということを考えるような人材をつくっていただきたいのです。今の博士人材の多くは、まだキャリアパスとして、アカデミックパスから踏み外すと脱落者だと思っているような人たちが多い。ですから、ここを何とか変えるような教育をしていただきたいし、社会や企業との出会いの場をどんどんつくっていただきたいと考えています。

それはなぜかというと、博士を取り巻く環境に変化が起こっているためです。人口がふえれば、アカデミックに対する需要もふえていきます。アカデミックの再生産をやっていけば学生もふえていきますので、ポジションも十分にあります。また教育も、非常にありきたりな教育をするだけで、あとは企業が教育しますというのが、今までの、人口がふえているときの製造業・資本主義型の教育だったと考えていますけれども、それが変わってしまったのです。大学に対して非常に大きな期待が出てまいりました。1995年ぐらいから単なる人口増による、人口ボーナスによる企業成長、社会成長というのが期待できなくなりました。それから10年後、教育基本法が改正されて、人材と研究というのが今までの大学のミッションだったのですけれども、それを通じた社会に対する貢献ということが基本法上も明示されたわけです。

問題は、この法律を大学がまだ咀嚼(そしゃく)できていないということです。どういうふうに教育と人材をつくることによって貢献していくのかというイメージを持てないというところに大きな問題があるだろうと思います。私は、人口が減少して、人口オーナスという時代になったときに、我々が我々の生活水準を維持するためには、製造業・資本主義だけではなくて、やはりイノベーションを創出し、国富をふやしていく。そのための人材をつくるというのがここの条文の背景にあることだろうと思っています。

実はアメリカでも同じようなことが起こっていて、2001年7月から米国の科学財団I-CORPSというのが発動して、基礎研究から製品化を加速するための教育システムをつくってきています。基礎研究者にベンチャー企業、起業のノウハウを教授するためのチームをつくって、今100チームに対してそれぞれに約5万ドル出しています。例えばKauffman Foundationというのはベンチャーキャピタルのファウンデーションですけれども、そういったところから、どうやって基礎研究を発展させて、起業するのかというようなことを教えていくという教育プログラムが始まっています。

もう一つ重要なのは、リーマン・ショック以後のGDP、BRICsというものが台頭してきたことです。私たちが、今の生産、製造業・資本主義を維持できない。つまり、もっと人口ボーナスがあり、インフラのコストも高いような企業と、同じ製造業で争うことがかなり難しくなってきたという現実もあります。実際アメリカの製薬市場は、今縮小していて、どんどんジョブカットが行われてきています。そのジョブをカットした結果、世界の製薬企業は、新興国市場に人材や予算をどんどん振り向けているという形になっております。

結局、人口がふえているところはアジアです。今後私たちは世界経済の成長の牽引(けんいん)力として、アジア市場にどうやって貢献していくか、あるいはほかのBRICs市場にどうやって貢献していくかというのが、私たちの成長要因のひとつになってまいります。もちろんそれだけでは価格競争に必ず負けますので、貢献するためにもイノベーション、新しい価値の創造というものが重要になってくるだろうと考えております。

また、実は我々メディアが苦労していることですけれども、インターネットというものが登場し、大学の地域独占が崩れてしまいました。ですから、今や東大も世界各国のトップの大学も、インターネット上に無料で授業を放映し、知の流通システムが変わり始めています。実はこれはメディアも巻き込んだ、大きな社会インフラの変化であり、大学もその渦中にあるということに気をつけなければいけません。今までは東大をはじめ関東周辺の大学や名古屋大などを目指していた本当に優秀な高校生たちが、一挙にアメリカのスタンフォードや、英国のオックスフォードに向かうというようなこともできるし、日本にいながらにして、その人たちの授業を受けて、自分が受けている授業と比較することができるというのが現状になってしまったと考えています。そういう意味では、地域独占が崩れ、グローバルな競争の中に我々が投げ込まれたときに、日本の大学における人材育成の強み、弱み、それから今後どうやって強化するかということをもう一度整理する必要があるだろうと考えています。

それからもう一つ重要なのが、共有される知識量がものすごく増大していることです。今までの記憶中心の教育というのは全く役に立ちません。うちの新人記者も、修士ぐらいは出てくるのですけれども、知識の半減化は6か月です。ですから学習する、あるいは問題を発見するという新しい能力をきちんと身につけてこないと、全く使えない人材が今どんどん出てきている。そのくせ古い知識はいっぱい持っているので、その知識に縛られる。なおかつプライドだけは高いという人間を皆さんがつくっているということになってしまいます。

ここには企業の方もいらっしゃいますけれども、企業、特に日本の大企業は急速にグローバル化しています。新規採用で、日本人社員より外国人社員の方が多い日本の優良企業がどんどんふえてきています。昔は製造業だけだったのですけれども、最近では医薬品企業までこういった傾向になってきています。例えば、第一三共というのは08年にインドのランバクシー・ラボラトリーズを買収しましたけれども、国籍別に並べるとインド人が60%ぐらいいる。これはもう、インドの企業と言ってもいいような状況になっています。武田薬品でも同じような状況が出ています。そうすると、いきなり学生たちが、こういうグローバル企業に勤める、あるいはこれからグローバル化する中堅・中小企業に勤めたときに、雑多な言語領域、雑多なカルチャーな人たちと一緒に働くという能力がどうしても要求されてくるのです。そういう教育を大学が果たしてやっているかどうか。ここが大きな問題だと思っております。

もう一回繰り返しますけれども、こういった大きな変化の背景には少子化があります。コスト削減を幾ら繰り返しても、国内市場はどんどん収縮するだけです。私たちは、デフレのスパイラルから脱却するためには、やはり価値を創造しなければいけない。

また、中国の今の大気汚染の状況を見ても明白ですけれども、量的な製造業による、資源を多消費して成長するという成長モデルはBRICsでも成り立たないと考えています。したがってそういう意味ではもっと、製造業にしても知恵を使う、環境対応のような新しいイノベーションが要求されてくるだろうと考えています。同じモデルの拡大はできないので、イノベーションがなくてはじり貧になる。これが今の日本ですし、日本の大学である。つまり、今までの学問の継承というだけでは、実は私たちの社会は豊かになれない、あるいは、学生は幸せになれないという状況になってきているということになります。

加えて、東日本大震災という試練を私たちは与えられてきています。こういった試練に対応できる人材というものの育成が、私たちには必要になってきていると思います。この場合、1種類だけの知識をいっぱい持っている人材は役に立たない。むしろ、何とか復興をするために、多くの人たちとコミュニケーションして、多くの能力を発揮して、新しい問題をオーガナイズして、プロダクトをマネジメントして、PDCAサイクルをきちんと回せるような人たちをつくっていかなければいけない。では、そういう人材を大学が供給しているのか。日本の企業も本当に供給しているのかという疑問も実はあり、大学だけの責任ではございませんけれども、社会としてそういう人材を育成する体制はやはりつくらなければいけないと思っています。

もう一つ困ったこととして、教育の内容が変わってきているということをもう一度強調したいと思います。記憶力に頼るような教育が本当にもつのだろうかということです。

例えば、去年の10月1日にオリンパスとソニーの合弁企業ができました。今、日本のエレクトロニクス産業は医療機器、あるいは医療技術に殺到しています。シーメンス、フィリップス、GEという欧米の医療機器メーカーもみんな同じところに参入してきています。これはシーメンスがなぜ医療機器に出るかという一つの理由を示したスライドです。横軸はどれだけイノベーションができるか、縦軸は国内市場から海外市場に進出しているのかということを示しています。黄色がインド、ブルーが中国の企業ですけれども、家電領域における2002年のマッピングを見ると、まだまだドメスティックマーケットにBRICsの企業たちがとどまっていてコピー商品をつくっていたことがわかります。でも、2010年にどうなったか。もう、この家電領域ではインターナショナルな市場にアクセスもできるし、イノベーションもできるようになってしまった。これは、皆さんの努力の結果、デジタル化し、技術がポータブル化したということを示しています。したがって、GEやシーメンスやフィリップス、あるいは日本の企業群が、より価値の高い産業分野を狙うとしたら、複合的な技術の結合や、それに対する、もう一段上のビジネスモデルのイノベーションを要求される医療技術というところにせざるを得ないということを示しています。

例えば、中国のバイオテクノロジーで、香港のバイオクラスターがあります。建物も非常に立派ですが、もちろん中身も、今どんどん充実しています。例えば2006年、この組み換えTPOというのを、世界で初めて中国が認可しています。それから去年、1月11日に組み換えのE型肝炎ワクチンというものも出てきています。つまり中国が新薬を開発できるようになってきた。今までBRICsというのは、製造業・資本主義のコストだけで闘っていたと思っていたのですけれども、今、彼らもイノベーションに入ってきています。それは当然のことです。資源制約がありますから、環境負荷を与えるような産業だけで彼らが成長できないということは明白ですので、中国の政府首脳はイノベーション戦略をとり始めていると思っております。

次に、これは日本の製造業の就労人口や生産額の比率を示していますけれども、この10年ぐらい、製造業は猛烈に雇用を失ってきています。その70%が、実は医療サービスと介護サービスに吸収されています。ですから、今までの大学や高等教育機関を出た後の就職先が随分変わってきている。それに対応するような教育を私たちはできているのかということも、一つ問われてくるだろうと思います。 そういうような時代に至って、今、大学の知恵が本当に求められてきています。皮肉な言い方をさせていただきますと、明治以来、初めて大学の知恵を社会が求めているのではないかと思います。ここでこれに対応できなければ、大学の真価が問われると思っております。

これは製薬企業が既にやり始めたオープンイノベーションです。自分たちの医療技術や新薬の開発技術がマルチディシプリンにわたってきたために、1社の内部だけでの研究では不可能になり、外に資源を求めるようになってきています。例えば我が国でも医師主導治験というものを、京都大学が中心になってやりまして、塩野義製薬が組み換えヒト型レプチン(メトレレプチン)というものを実用化しています。今までは、全ての医薬品の開発は、企業が全部やっていたのですけれども、これは大学が初めて臨床治験をやって、その治験データに基づいて去年新薬が開発されたという初めての例です。大学が、非常に難病の患者さんの人生を助けたということの実例になっているわけであります。

香川大学では、希少糖というごくわずかに含まれている糖の成分を、今までのように基礎研究するのではなく、クラスター政策で松谷化学という伊丹の企業参入したことによって、抗肥満の異性化糖というものの開発に結びつけました。今や、アメリカでは8年連続で、炭酸飲料の消費が減少していますがこれは肥満の問題によるものです。肥満税というものをニューヨークがかけて、これが違憲だという話題もあります。ところで、実は異性化糖というものは食欲中枢に働かないために幾らでも飲めてしまう、満腹感がないものなのです。今回、香川のクラスターが開発したD-プシコース入りの異性化糖というのは、まさに抗肥満異性化糖ということで世界製品になる可能性があります。つまり大学の知恵が地域のイノベーションを実現し始めたということになります。

私が今、客員教授をやっている慶應の先端生命科学研究所が、日本海側の山形県鶴岡市に研究所を持っています。何と、20年間で山形県と鶴岡市に170億円も慶應へ寄附していただいており、そのおかげで私たちはここで先端のメタボロームという技術を開発できております。世界最大のメタボローム、つまり代謝産物の分析能力を持つ研究所であるここから新しいベンチャービジネスが誕生してきています。

スパイバーというところでは、遺伝子組み換えでクモの糸を生産しています。このクモの糸というのは鋼鉄のピアノ線よりもはるかに強くて、しかも弾性があるというとてもすばらしい素材です。実は今年の2月にトヨタ系の小島プレスという会社と工場をつくる契約が結ばれて、この秋にいよいよ試験工場ができるということになります。まさに、大学の知恵から、人口14万人しかいない町に、近い将来100人ぐらいの若者の雇用が誕生し始めているということになります。今こそ、こういったイノベーションを起こすような人材を大学が供給する。あるいは、一度企業を卒業した人たちが大学に行って、再びイノベーションを起こすような社会的な人材の還流を私たちは整える。日本でもできるのです。こういったものを日本全体に広げるような施策を打っていかなければいけないのではないかと思っております。御清聴ありがとうございました。