私立大学の理事長らによる、資金の私的流用や入試不正などの不祥事が続いている。若者の高等教育に責任を持つリーダーたちの倫理観には、あきれるばかりだ。しかも、不祥事を起こした理事長らが再任できる制度となっているのだから驚く。
問題は、理事長や理事会が、自らの監査をする監事や監督をする評議員を選任・解任する権限を持っていることだ。これでは理事長の暴走を止められない。私たち「学校法人ガバナンス改革会議」は、権力の集中を防ぐ仕組みについて議論を重ね、昨年末に文部科学省に提言した。
ところが、私学関係者が報告書に猛反発。文科省は今月、私たちとは別に新しい会議を設けて議論を始めた。学校法人に他の公益法人と同等のガバナンス機能を持たせることは、2019年と21年の「骨太の方針」で決まった。2度の閣議決定を翻す対応は、国のガバナンスが問われる事態だと言っていい。
報告書で私たちが求めたのは、理事会や監事、評議員会の職務や権限を明確に分けることだ。理事会に対する監督機能を強化するため、現在は理事長の諮問機関となっている評議員会を、役員の選任や事業計画の承認など重要事項を決定する最高監督・議決機関に格上げすることにした。さらに現職の理事や教職員は評議員になれない仕組みも提言した。理由は簡単で、監督される側の人間が、監督する側も兼ねることは利益相反になるからだ。
この点が、私学関係者に「学外者だけで評議員会を組織」と受け止められた。だが、理事や教職員は退職後5年たてば評議員になれる仕組みで、同窓生も就任できる。大学を全く知らない「学外」の人だけで組織するわけではない。
評議員会が暴走する可能性を指摘する意見もあるが、これも的外れな懸念だ。そもそも評議員には執行権限がなく、しかも選任は行政や無関係の人ではなく、学校法人が行う。また、管理者として注意を払う「善管注意義務」や損害賠償責任を負う仕組みなので、評議員が無責任な言動を行うことは難しくなるはずだ。
提言通り私立学校法が改正されても、「仏作って魂入れず」では不祥事を防ぐことはできない。だが、実質的なガバナンス強化が進み、役割が分離された理事会と評議員会が良い意味での緊張感を持つようになれば、相当程度防ぐことができるはずだと考えている。
新しい会議の委員は、13人中7人が私学関係者だ。これでは、私たちの提言が骨抜きにされる懸念がある。提言の趣旨が理解されるよう今後も様々な形で社会に訴えていく。
(ますだこういち 学校法人ガバナンス改革会議座長、日本公認会計士協会元会長)
出典:(私の視点)私学のガバナンス 改革提言、骨抜きの懸念 増田宏一|朝日新聞デジタル