2016年3月23日水曜日

国立大学法人運営費交付金改革の経緯と今後の方向性(8)|平成28年度予算案に関する文部科学省の説明(2)

(続き)

1 機能強化経費の配分の考え方

(経過)

平成28年度予算における機能強化経費の配分の考え方については、平成27年6月に、「第3期中期目標期間における国立大学法人運営費交付金の在り方について 審議まとめ」(以下、「審議まとめ」)をとりまとめるとともに、これを踏まえて、重点支援に向けた観点や留意点等を内容とする「平成28年度における国立大学法人運営費交付金の重点支援について」(以下、「観点及び留意点」)を各大学に示したところ。

機能強化促進係数の具体的な割合については、「審議まとめ」で記していたように、平成28年度の予算編成過程で決定。これに伴い、機能強化促進係数による各大学からの拠出額が定まるとともに、同じく予算編成過程で運営費交付金の全体規模が定まったこと等を受け、「教育研究活動(プロジェクト等)関係」と「教育研究組織整備関係」の具体的な予算額が決定。

その具体的な配分の決定については、「審議まとめ」や「観点及び留意点」を踏まえて、各大学から示された取組構想(ビジョン、戦略、評価指標、具体的な取組)について、有識者の意見を踏まえ、訓価に基づく配分を行ったところ。

1)教育研究活動(プロジェクト等)関係について

「教育研究活動(プロジェクト等)関係」については、機能強化促進係数によって各大学から拠出された財源(機能強化促進係数影響額)である約94億円を活用するとともに、第2期までの事業の継続性等を考慮して約10億円を加えて配分することとし、合計で約104億円を機能強化経費として措置。このうち、機能強化促進係数影響額の再配分については、8項目の評価指標(別紙1「3.評価の対象(2)評価項目と評価方法」)により、戦略ごとに評価し、配分。

なお、このほか、補助金からの移行分として59億円、さらに入学者選抜改革分として10億円を措置。

2)教育研究組織整備関係について

第3期において、教育研究組織や学内資源配分の見直しを進めることについては、「国立大学改革プラン」(平成25年11月)等を通じて、各大学に対して検討を求めてきたところ。

「教育研究組織整備関係」については、すべての大学が毎年度要求する性格のものではなく、その予算額の規模も、機能強化促進係数によって各大学から拠出された財源を基礎とする「教育研究活動(プロジェクト等)関係」とは異なり、運営費交付金の全体規模等によって決定されるもの。

平成28年度は、国立大学法人運営費交付金全体で前年度同額の予算規模が確保され、機能強化経費全体として308億円が確保できたこと、さらに、第三期初年度に当たる来年度措置すべき教育研究組織整備関係の提案が各大学から例年を大きく上回る規模であったことを踏まえ、101億円を措置。

「教育研究組織整備関係」についても、3項目の評価指標(別紙1「3.評価の対象(2)評価項目と評価方法」)により、評価を行い、来年度より組織整備を行うことが望ましい取組について、経費を配分。
平成28年度予定額  30,799百万円(20,489百万円)
・教育研究活動(プロジエクト等)関係  10,423百万円(12,713百万円)
・補助金移行分  5,880百万円(新規)
・入試改革分  1,000百万円(新規)
・教育研究組織整備関係  10,092百万円(5,319百万円)
・共同利用機関法人分  3,403百万円(2,457百万円)
※括弧内は平成27年度予算額


(別紙1)

平成28年度における国立大学法人運営費交付金の重点支援の評価結果について

1 第3期中期目標における国立大学法人運営費交付金の重点支援について

第3期中期目標における国立大学法人運営費交付金(以下「運営費交付金」という。)については、第3期における国立大学の機能強化の方向性に応じた取組をきめ細かく支援するため、予算上、3つの枠組みを設けて重点支援を行うこととしており、各国立大学法人は、それぞれの機能強化の方向性や第3期を通じて特に取り組む内容を踏まえていずれかの枠組みを選択することとなっている。

平成28年度の運営責交付金の重点支援に当たっては、重点支援の枠組みごとに、各法人から提案のあった取組構想の評価を有識者の御意見を踏まえて行った上で配分することとしており、その評価結果を公表するもの。

【重点支援1】

主として、人材育成や地域課題を解決する取組などを通じて地域に貢献する取組とともに、専門分野の特性に配慮しつつ、強み・特色のある分野で世界ないし全国的な教育研究を推進する取組等を第3期の機能強化の中核とする国立大学を重点的に支援する。

【重点支援2】

主として、専門分野の特性に配慮しつつ、強み・特色のある分野で地域というより世界ないし全国的な教育研究を推進する取組等を第3期の機能強化の中核とする国立大学を重点的に支援する。

【重点支援3】

主として、卓越した成果を創出している海外大学と伍して、全学的に世界で卓越した教育研究、社会実装を推進する取組を第3期の機能強化の中核とする国立大学を重点的に支援する。

2 各大学における取組構想について

各国立大学法人の取組については、第3期中期目標・中期計画の策定と並行して、予算上重点的に取り組む内容を新たに提案いただいている。

具体的には、図1のように、第3期における各大学の「ビジョン」を策定し、「ビジョン」の実現に向けた具体的な改革の方針をいくつかの「戦略」としてまとめるとともに、各「戦略」を具体的に実行する取組と「戦略」の達成状況を判断するための「評価指標」を設定して提案いただいた。


3 評価の対象

(1)評価の対象

評価の対象としては、各国立大学法人から提案のあった「戦略」ごとに実施するとともに、「戦略」を実行する取組のうち特に重要な取組となる「組織整備」についても評価を実施。


(2)評価項目と評価方法

評価項目については、今回の重点支援の趣旨を踏まえて次のように設定し、それぞれ3段階(A:十分に踏まえている、B:踏まえられているが十分とはいえない、C:ほとんど踏まえられていない)で評価を実施。

①「取組構想全体」及び各「戦略」に関する評価項目
  • 各大学が有する強み・特色に関する実績や今後の強み・特色の形成を踏まえた機能強化の方向性に沿った内容となっているか。
  • ビジョンの実現に向けた具体的な改革の方針となっているか。
  • 第3期中期目標・中期計画(素案)の記載事項との関係性が明確であるか。
  • 戦略の達成状況を判断するための測定可能な評価指標(KPI)等が設定されているか。
  • 選択した枠組みとの関連性が明確であり、戦略の実行に必要となる具体的な取組が提案されているか。
  • 教育研究活動の個々の取組が、戦略を実行するための手段として体系的に整理されているか。また、その内容が総花的になっていないか。
  • 3つの枠組みごとの観点として、各大学法人が選択した枠組みの項目を総合的に評価
【重点支援1】
  • 地域の活性化や持続的な発展に資するため、地域とのネットワーク形成や連携協力体制が十分に構築されているか。
  • 地域の期待に応え、貢献していくための方策が明確であり、教育研究活動に地域の声を反映する仕組みが整備されているか(外部委員会の設置や地方自治体の意見を聴取するなどにより、広くステークホルダーのニーズを取り入れる機会を設けるよう配慮する。)。
  • 強み・特色のある分野の教育研究における取組の卓越性や、世界的・全国的なネットワークの中核的な機能が、これまでの実績や今後の将来性に鑑みて十分に発揮できるような取組になっているか。また、当該分野の強化等と併せて他分野の見直し等が検討されているか。
【重点支援2】
  • 強み・特色のある分野の教育研究における取組の卓越性や、世界的・全国的なネットワークの中核的な機能が、これまでの実績や今後の将来性に鑑みて十分に発揮できるような取組になっているか。
  • 強み・特色のある分野における我が国の国際的な存在感を高めるための方策が明確になっているか。
【重点支援3】
  • 全学的な教育研究活動において、世界での卓越性や国際性が十分に期待できるものとなっているか。
  • 研究に特に強みのある大学として大学院の高度化に向けた方策が明確であり、大学全体として教育研究組織の再編や規模等の見直しが計画されているか。
  • 年俸制の拡大などの人事給与システム改革も活用しつつ、若手研究者や大学院生の国内外を通じた流動性が十分に期待できるものとなっているか。
  • 「取組構想全体」の評価として次の観点について総合的に評価
  • ビジョン・戦略・取組の整合陸が図られているか。
  • 各大学の現在有する又は今後形成される強みや特色を十分にいかしたものとなっているか。
  • 社会ニーズや人材需要、学問の進展を踏まえたものとなっているか。
  • 選択した枠組みに照らし、第3期中期目標期間のビジョンとして明確なものとなっているか。
  • ビジョン及び戦略を実現するための工程が具体的かつ明確に設定されているか。
  • 各取組について、平成28年度から取り組む緊急性・必要性はあるか。

②「組織整備」に関する評価項目

戦略の中で行う組織整備については、今回の重点支援の趣旨を踏まえて次のような評価項目を設定し、平成28年度から組織整備として実施するべき取組について選定。
  • 教育研究組織の再編を行うものであり、各大学の機能強化のために真に必要な整備であるか。
  • 学内資源の再配分が適切に行われているか。
  • 恒常的な教員等の配置が必要な取組であるか。

(3)有識者の意見聴取について

今回の評価の実施に当たっては、別紙のとおり、専門分野に配慮しつつ、国立大学に関する知見を有する有識者12名から、4回にわたり意見聴取を実施。

4 評価結果の概要

(1)「戦略」の評価結果

「戦略」の評価について、設定した8項目の評価結果を重点支援ごとにまとめると次のとおり。


(2)「組織整備」の選定結果

「組織整備」の選定結果について、重点支援ごとにまとめると次のとおり。


5 評価結果の予算への反映方法

各大学の戦略ごとの評価結果をとりまとめて点数化し、当該大学の戦略当たりの平均を算出。算出した結果を基に当該大学の「機能強化促進係数」による影響額を120%~75%の範囲で予算に反映。



2 平成29年度以降の国立大学法人運営費交付金についての考え方

平成29年度以降の国立大学法人運営費交付金の在り方については以下のとおりであり、この方向で具体的な検討を進めることとしている。
  • 第3期中期目標期間は、「3つの重点支援の枠組み」により、機能強化の方向性に応じた重点支援を実施。
  • この重点支援の財源として、「機能強化促進係数」により各大学から拠出された財源(毎年度約100億円程度)を確保した上で、このうち2分の1程度の額を、運営費交付金(機能強化経費)として再配分。
  • 残りの財源を活用して、人件費等恒常的な経費以外の組織改革に必要な設備や一定期間行う事業などの初期投資費用への支援として、運営費交付金の補完的役割を果たす「新規の補助金」を創設し、各大学に配分することを予定している。その内容については今後検討していくこととする(※専任の教員人件費など恒常的な経費は「機能強化経費」において支援)。
▶新規の補助金における支援経費(例)
 ・組織整備において新たに必要となる教育研究設備
 ・e一ラーニング・学修ポートフォリオなど教育の質の向上を図るためのシスデム開発費プログラム開発費用
 ・期間が明確に定められた形で雇用する外国人教員招へい費等
  • 29年度以降は、「運営費交付金(機能強化経費)」と「新規の補助金」により基盤的経費の確保に努力する。また、これらの経費は、28年度に準じて、有識者の意見を踏まえ、評価に基づき配分することとする。
  • なお、「機能強化経費」により支援を行っている取組のうち、おおむね3年程度の一定期間経過した優れた取組については、人件費を中心として「基幹経費化」することで、各大学の基幹経費の充実を図る。
  • なお、基幹経費化の規模については、毎年度30~50億円程度(機能強化経費で措置される額の2分の1程度まで)を想定しているが、そのための条件等の詳細については今後検討していくこととする。
(続く)

2016年3月17日木曜日

国立大学法人運営費交付金改革の経緯と今後の方向性(7)|平成28年度予算案に関する文部科学省の説明(1)

(続き)

2 文部科学省による説明

まず、公表された資料を見る前に、文部科学省高等教育局長が、国立大学の予算担当理事、事務局長、担当部課長約200名を集めた「平成28年度国立大学法人の予算等に関する説明会」(平成28年1月26日)の開会挨拶で説明した内容(文教ニュース 平成28年2月1日)を抜粋してご紹介します。文部科学省の考え方がイメージできるのではないでしょうか。
28年度予算案については、昨年6月に「経済財政健全計画」が閣議決定されて、その計画を踏まえて、初年度ということで歳出改革を着実に推進するという基本的な考え方に立って予算編成がなされたところであるが、全体として非常に厳しい状況であったというふうに思っている。 
このような中で平成28年度の国立大学関係の予算については、特に平成16年度の法人化以降続いてきた減少傾向に歯止めをかけることができた。第3期中期目標期間のスタートとして対前年度同額の1兆945億円の政府予算を獲得することができたということである。 
このような結果となったのは、昨年秋以降、各大学からの大学の抱えている実情やこれまで進めてきた改革を積極的に様々な関係者に情報発信していただいたことにより、国立大学改革の重要性について財政当局にも一定のご理解をいただけたと思う。 
一方でこうした結果は、国立大学に対して国民から強い期待を寄せられているということで、今後の取組は非常に重要であり、前の年度の予算の査定ということになるので、改革の進捗状況というのが社会的に評価をされるということが前提となっているということは是非ご理解をいただきたい。 
運営費交付金を、第3期に入ったので算定ルールについても昨年の検討会の1次まとめを踏まえて話し合いを行ったので、その点についてもこの後説明がある。是非今回様々な新しい仕組みを導入する各大学が機能強化を進める上での重点支援の仕組みや学長裁量経費等を有効活用していただいて改革の取組を着実に進めていただきたい。 
総額が前年度同額になったわけであるが、各大学ごとの額を見れば増えている大学もあれば減っている大学もあるということに当然なる。それぞれの大学で違うということを学内でも十分説明していただきたいと思うが、対前年度同額の中で各大学は増減があるわけなので、もしその減額が評価に基づく再配分の額が多く得られなかったということであれば、今後どういう方針で改革を進めていくのかということについての学内での議論の徹底が必要。対前年度同額というのは実は喜んでいられる話しではなくて、文部科学省にとっても各大学にとってもむしろ厳しい額というふうに受け止めなければいけない。 
財政が非常に厳しい中で、予算は今回一定程度確保できたが、それをどう合理的に使うか、あるいは社会から指弾されないように適正に使うかということが、より一層問われる状況になっている。その予算を使って改革をしっかりと進めていくことで、来年度以降の予算の獲得ということが、大学でもできるし我々もできるようになるわけなので、是非予算を有効に活用していただいて大学改革を全体として進めるようにご理解、ご尽力いただければ非常にありがたい。



次に、文部科学省が、各国立大学に対して公表している資料から、関連する主な内容を抜粋して見てみます。

各資料のうち、詳細部分については、財務担当者以外には理解が困難な部分があります。文部科学省には、もう少しわかりやすい資料づくりに留意されるよう改善を求めたいと思います。


1 平成28年度国立大学法人運営費交付金予算(案)の概要


(1)国全体の状況

平成32年度の財政健全化目標(PB黒字化)を堅持し、計画期間の当初3年間(平成28~30年度)を「集中改革期間」と位置づけ、集中改革期間における改革努力のメルクマールとして、平成30年度のPB赤字の対前年度GDP比▲1%程度を目安とする「経済・財政再生計画」を平成27年6月に閣議決定。

平成28年度予算(案)については、本計画の初年度に当たるため、歳出改革を着実に推進するとの基本的考え方に立ち、同計画における国の一般歳出の水準の目安(※)を十分踏まえるとの基本方針のもと編成。

(※)国の一般歳出の水準の目安については、安倍内閣のこれまでの3年間の取組では一般歳出の総額の実質的な増加が1.6兆円程度〔社会保障関係費:1.5兆円、その他一般歳出:0.1兆円〕となっていること、経済・物価動向等を踏まえ、その基調を平成30年度まで継続させていくこととする。

(2)国立大学法人運営費交付金予算の概要

国立大学法人運営費交付金については、上記のとおり極めて厳しい財政事情の下、平成16年度の法人化以降、減少傾向が続いてきたが、第3期中期目標期間のスタートである平成28年度予算(案)においては、対前年度同額を確保。

第3期中期目標期間においては、第2期における改革の実績を踏まえつつ、各国立大学の強み・特色を更に発揮するため、組織改革等の機能強化を促進し、教育研究機能を強化。

①平成28年度予算(案)のポイント

平成28年度予算(案)の編成に当たっては、「第3期中期目標期間おける国立大学法人運営費交付金の在り方に関する検討会」の審議まとめを踏まえてルールを設定。

これまでの一般運営費交付金、特別運営費交付金の区分を見直し、基幹運営費交付金を新設(※特殊要因運営費交付金及び附属病院運営費交付金については変更なし)。

機能強化の方向性に応じた取組をきめ細かく支援するため、「3つの重点支援の枠組み」を新設し、以下に示す「機能強化促進係数」による財源(101億円)を全額活用し、枠組みごとに評価に基づく重点配分を実施(308億円を新規計上)。

配分に当たっては、各大学の機能強化の取組構想に対し、戦略と取組の整合性や、選択した重点支援の枠組みとの整合性、計測可能な評価指標や明確な工程表の設定などの評価項目を設定し、外部有識者の意見を踏まえた評価を実施。

第2期の大学改革促進係数を見直し、「機能強化促進係数」として新たに設定。第3期は、附属病院の有無による係数の差は設けないこととする。

【基準値】

重点支援①:▲0.8%、重点支援②:▲1.0%、重点支援③:▲1.6%

【加算値】

重点支援①、②については、上記基準値に人件費比率を勘案し以下の率を加算。
重点支援③については加算値は設定しない。
加算値は、各大学の人件費比率を考慮して5区分し、人件費比率が低い区分から順に第1区分~第5区分として設定
第1区分:▲0.4%
第2区分:▲0.3%
第3区分:▲0.2%
第4区分:▲0.1%
第5区分:加算なし
(加算値込み 重点支援①:▲0.8~▲1.2%、重点支援②:▲1.0~▲1.4%)

教育研究の活性化、新たに各大学の強み・特色となる分野の醸成、学長を支援する体制の強化など、業務運営の改善を図ることを目的として、新たに「学長裁量経費」を新設。試行的に実施した平成27年度予算と同額の402億円を計上。

機能強化促進係数対象経費から除外する経費として、設置基準教員給与費相当額に加え 「学長裁量経費」を追加。なお、設置基準教員給与費相当額の算定に当たっては、学部・大学院に係る標準教員数については平成27年度における入学定員を基に算定するとともに、平成27年度の人事院勧告及び年金一元化に伴う法定福利費の事業主負担分の増加分を反映し、機能強化促進係数対象経費から除外する経費とする。

平成27年度までの事業である「学長リーダーシップ特別措置枠」(103億円)については、全額基幹運営費交付金に組み込んで計上。

附属病院における医師等の教育研究基盤の充実として、対前年度32億円増の199億円を計上するとともに、医療機械設備費18億円計上。

年俸制導入促進費については、各大学の年俸制導入計画及びその進捗等を踏まえ、導入促進加算分も含め対前年度同額(61億円)を確保し、特殊要因運営費交付金に移行。

②平成29年度以降について

平成29年度以降は、運営費交付金を補完する新規の補助金を創設する方向で検討中(具体の内容等については、今後調整)

平成29年度以降においては、機能強化経費の中から一定期間の取組の実績を踏まえて優れた評価が得られた事業については、人件費を中心に基幹経費化を図る仕組みを導入予定。

③その他

授業料標準額について、平成28年度の改定は行わない。

第3期中期目標期間における財務基盤の強化という観点から、各大学の自己収入の拡大に資する取組を検討。




2 平成28年度国立大学法人運営費交付金予算(案)


国立大学法人運営費交付金 10,945億円(前年度10,945億円) 対前年度同額

(内訳)
  • 基幹運営費交付金 10,026億円( 9,988億円) + 38億円
  • うち機能強化経費 912億円( 795億円) +116億円
  • 特殊要因運営費交付金 920億円( 958億円) ▲ 38億円
  • 附属病院運営費交付金-億円( -億円)

▽ 教育費負担の軽減 320億円(307億円)

意欲と能力ある学生が経済状況にかかわらず修学の機会を得られるよう、授業料免除枠を拡大するとともに、学内ワークスタディへの支援を行う。
  • 免除対象人数:約0.2万人増 平成27年度:約5.7万人 ⇒ 平成28年度:約5.9万人
  • 学部・修士課程:約5.1万人→約5.4万人(約0.2万人増)
  • 博士課程:約0.6万人→約0.6万人

▽機能強化の方向性に応じた重点支援
 308億円(新規)

各大学の機能強化の方向性に応じた取組をきめ細かく支援するため、国立大学法人運営費交付金の中に3つの重点支援の枠組みを新設し、国立大学改革を更に加速。
  • 重点支援① 主として、地域に貢献する取組とともに、専門分野の特性に配慮しつつ、強み・特色のある分野で世界・全国的な教育研究を推進する取組を中核とする国立大学を支援
  • 重点支援② 主として、専門分野の特性に配慮しつつ、強み・特色のある分野で地域というより世界・全国的な教育研究を推進する取組を中核とする国立大学を支援
  • 重点支援③ 主として、卓越した成果を創出している海外大学と伍して、全学的に卓越した教育研究、社会実装を推進する取組を中核とする国立大学を支援

▽マネジメント改革の推進


教育研究の活性化、新たに各大学の強み・特色となる分野の醸成、学長を支援する体制の強化など、業務運営の改善を図ることを目的として「学長裁量経費」を新設。

▽共同利用・共同研究体制の強化・充実
 68億円( 64億円)

国内外のネットワーク構築や新分野の創成等、共同利用・共同研究拠点の強化に資する取組から、将来的に共同利用・共同研究拠点を形成するような附置研究所等の先端的かつ特色ある取組まで、一体的に重点支援し、我が国の大学全体の機能強化に貢献する。


▽学術研究の大型プロジェクトの推進 238億円(241億円)

大学共同利用機関等において実施される先端的な学術研究の大型プロジェクト(大規模学術フロンティア促進事業)について、国際的競争と協調のもと、戦略的・計画的に推進する。


▽附属病院の機能・経営基盤強化 232億円(240億円)

高度先進医療や高難度医療を提供する国立大学附属病院の機能を強化するため診療基盤の整備支援策を充実。
  • 教育研究診療機能充実のための債務負担軽減策等 33億円( 73億円)
  • 附属病院における医師等の教育研究基盤の充実 199億円(167億円)
※このほか、医療機械設備費として18億円を計上

※国立大学法人運営費交付金のほか、国立大学経営力強化促進事業として80億円を計上(国立大学改革強化推進補助金:60億円、国立大学改革基盤強化促進費:20億円)

2016年3月16日水曜日

国立大学法人運営費交付金改革の経緯と今後の方向性(6)|平成28年度予算案に関する財務省の説明

(続き)

それでは、平成28年度予算(大学、科学技術関係)の内容を見ていくことにします。昨年末に閣議決定され公表された政府予算案の概要等から抜粋します。

1 財務省による説明

まず、財務省が作成し公表している「文教・科学技術予算のポイント」から関連する主な内容を見てみます。

国立大学法人運営費交付金


主要先進国中最悪の財政状況を抱える我が国において、国立大学法人が今後も高い質を確保しながら自立的・持続的な経営を進めていくためには、今よりも運営費交付金に頼らずに自らの収益で経営していく力を強化していく必要がある。また、「経済・財政再生計画」の対象期間において、財政への一定の貢献も求めていくことが重要である。

そうした観点から、平成28年度からの第3期中期目標期間では、組織再編などに積極的に取り組む大学に対する運営費交付金のメリハリある配分、機能強化を促すための補助金の改革、自己収入目標の設定、寄付金に係る税額控除の導入などを実施し、各国立大学に積極的な体質改革を求めていくこととする。

特に運営費交付金については、第3期中期目標期間にわたり、以下に示すような適正化・再配分ルールを設定することとする。ただし、同期間の初年度となる平成28年度については、改革に向けた準備期間という趣旨から特別な配慮を行うこととし、機能強化経費として100%の再配分を認め、前年度同額を確保することとした。

<運営費交付金の適正化・再配分ルール>

新設する3つの重点支援区分毎に▲0.8%~▲1.6%の機能強化促進係数を適用して財源を確保(毎年度100億円程度)し、このうち2分の1程度の額を教育研究活動の機能強化のための改革等に取り組む大学に重点配分(運営費交付金内で再配分)する。

残りの財源を活用して、教育研究活動の機能強化や大学経営の基盤強化を含む組織改革に必要な初期投資費用を支援する(新規の補助金)。


<注記>
  • 機能強化促進係数は、上記の通り3つの重点支援区分ごとに▲0.8%~▲1.6%を適用。更に人件費比率を勘案し率を設定(別途加算:大学の財務構造に配慮)
  • 教育研究活動の活性化、学長を支援する体制の強化など業務運営の改善のため、第3期中期目標期間中「学長裁量経費」402億円を毎年度の基幹経費に設定
  • 大学が確保する自己収入の増加分は、運営費交付金の削減に結び付けないこととする(各大学の自己収入確保に向けたインセンティブを損なわないように配慮)。

なお、国立大学法人が、今後も高い質を確保しながら自立的、持続的な経営を進めていくためには、改革に対する国のサポート、財政健全化への貢献とともに、教育研究活動について、大学が先の見通しをもって計画的に進めていける仕組みを構築する必要がある。例えば、補助事業にあっては、補助期間終盤における成果度合等の評価に応じて、予算の枠内及び自主財源によって事業を継続すべきものとそうでないものを選り分け、前者に対しては優先的に継続させる方針を明確に示すなど、予見可能性を高めることが考えられるのではないか。

また、国立大学法人が自主財源を確保し、経営力を強化していくためには、自己収入目標の設定(※1)や税制措置といった周辺環境の整備だけでなく、大学自身の自主財源確保に向けた意欲的な取組と、それを制度的・財政的にサポートしていくことも重要である。寄附金や民間資金を集めるための課題を整理し、必要な制度的対応を検討する必要がある。

更に、研究費の間接経費割合の引上げ(※2)を行うことにより、研究費獲得に係る大学運営側のインセンティブを高めることも重要である。

⇒これらの課題についても、今後、早急に検討を進めていくこととする。

※1 中期目標期間では、自主財源の確保に向けた目標を設定(寄附金受入額:2014比で、2018年度までに1.2倍、2020年度までに1.3倍。民間からの共同研究資金受入額:2013比で、2018年度までに1.3倍、2020年度までに1.5倍等)

※2 研究資金の間接経費割合を引上げ(平均15%→30%)

(続く)

2016年3月15日火曜日

国立大学法人運営費交付金改革の経緯と今後の方向性(5)|財政審による建議

(続き)

平成28年度予算の編成等に関する建議(平成27年11月財政制度等審議会)

財政制度等審議会は、平成27年10月の財政制度分科会における審議の内容が、国立大学をはじめとする大学関係業界に大きな波紋を拡げ、批判を浴びる中、11月に予算編成等に関する建議を取りまとめました。

国立大学及び科学技術関連の主な内容を抜粋します。関係者の努力の甲斐あってか、財務省の主張も相当トーンダウンしたように感じられます。



4 教 育

我が国の国立大学は、運営費交付金にその収入(附属病院収入を除く)の半分以上を依存している状況にある。18歳人口が減少し、先進国中最悪の状況にある我が国財政が益々厳しさを増す中で、国立大学がそれぞれの機能強化の方向性等(平成27年6月に公表された「国立大学経営力戦略」で示された3つの重点支援区分)に応じた教育研究の高い質を維持しながら、自立的かつ持続的な経営を続けていくためには、民間資金の導入などを進め、自らの収益で経営していく力を強化していく必要があると考えられる。

(2)国立大学法人運営費交付金

① 18歳人口の減少と国立大学の入学定員、教職員数


我が国の18歳人口は平成4年度の205万人をピークに急速な減少を続けており、平成26年度では118万人、34年後の平成60年度では74万人になると予想されている。それに伴い、大学と短大を合わせた進学率は平成26年度では56.7%となっており、28年前の34.7%に比べ、今では18歳人口の2人に1人以上が大学・短大に進学する状況となっている。国立大学の志願者数についても、11年前の45万人から平成27年度では39万人に減少しているが、その一方で、国立大学の入学定員は平成16年度の法人化以降横ばいで推移しているため、結果として、志願倍率は4.7倍から4.0倍と低下している。

今後も18歳人口が急速に減少していくと見込まれる中で、高等教育の質を保証する観点から、教育研究組織の在り方について再考すべきである。

また、平成19年度以来、国立大学の学生数は1.7万人減少しているが、教職員数は約2万人増加している現状を踏まえ、国立大学教職員の適正規模について検討していく必要があるのではないか。

② 国立大学の収入構造

国立大学の財務状況は、その収入の大部分を国からの支出に頼った構造となっている。平成25年度決算ベースでは、附属病院収入を除いたべ一スで約68%が運営費交付金や補助金などの国からの支出となっており、自己収入については全体で33%、その内訳は寄附金収入が4.3%、授業料等収入が14.7%、産学連携等研究収入が10.8%となっている。国からの補助金が概ね1割である私立大学と比べると、その違いは顕著なものとなっている。〔資料Ⅱ-4-13参照〕

国立大学の授業料については、ほとんどの大学が標準額(学部・大学院53.6万円、法科大学院80.4万円)に固定されており、平成19年度から標準額の120%までの引上げが可能(引下げの下限は未設定)となっているにもかかわらず、標準額と異なる額を設定している大学は7大学、そのうち標準額以上の授業料を設定している大学は僅か2大学(2専攻科)となっている。国立大学の自己収入構造を考える際、こうした授業料の引上げについても一定の議論が必要であると考えるが、その際、家計負担に十分配慮することが重要であり、全体の引上げと併せて、
  • 意欲と能力がありながらも低所得で就学困難な学生に対する授業料免除の拡大(あるいは特に卓越した学生に対する授業料免除)
  • 奨学金制度の充実拡充や所得連動返済型の奨学金の導入
  • 多様な教育サービスの提供とそれに応じた多様な授業料の設定
など単なる引上げのみを行うのではなく、学生の納得感を醸成しながら、必要な措置を併せて検討していく必要がある。

③ 安定的な国立大学法人運営のための提案

18歳入口が急速に減少し、主要先進国中最悪の状況にある我が国財政も年々厳しさを増していく中にあって、今後も国立大学が、それぞれの機能強化の方向性等に応じた教育研究の高い質を確保しながら自立的かつ持続的な経営を続けていくためには、民間資金の導入などを進め、今よりも国費(渡しきりの運営費交付金)に頼らずに自らの収益で経営する力を強化していくことが必要である。

また、「経済・財政再生計画」において、社会保障の「自然増」を除き「増加を前提とせず歳出改革に取り組む」としている中で、国立大学法人についても聖域とはせず、運営費交付金の適正化を通じ、その改革を妨げない範囲で、できる限りの財政健全化への貢献を果たすべきである。

そうした観点から、運営費交付金の削減を通じた財政への貢献と、その再配分による改革の加速に関する実効性ある施策を、自己収入の増加による経営の自立性向上の取組を阻害しないよう配慮しつつ、第3期中期目標期間において実施していくことが必要なのではないか。

5 科学技術


官民合わせた研究開発投資について、我が国は過去20年以上にわたり、主要先進国の中で最も高い水準を維持してきている。また、科学技術振興費についても、同様に過去20年以上にわたり、杜会保障関係費以上のペースで拡充してきた。その間、我が国は、主要先進国中最悪の財政状況にあるなかで、科学技術に投資を続けてきたことになるが、現在の厳しい財政状況を勘案すると公的投資を抑制することは不可避であり、事業のメリハリをつけながら、一層「質」を高めることが求められている。

一方、科学技術関係予算の伸びに伴い、我が国の総論文数は伸びたものの、そのうち被引用度で世界トップ10%に入る「質」の高い論文の割合は他の主要先進国に比べ一貫して低水準にとどまっているなど、課題がある。したがって、以下のような取組により、「質」を高めることが必要である。

(1)成果目標への転換

科学技術の振興に関する基本的指針である「科学技術基本計画」(以下「基本計画」)においては、累次の指摘にもかかわらず、投資(インプット)目標が記載されているのみであり、科学技術分野においてPDCAサイクルが十分に機能していない可能性がある。投資(インプット)目標の下では、投資額を達成すること自体が目的化し、財政の硬直化を進めるとともに、非効率な事業であっても実施され、費用対効果が向上しないおそれがある。

そのため、具体的な数値目標含む成果(アウトカム)目標やKPIにコミットする形に転換し、費用対効果を高めるための創意工夫が生まれる環境を創出するとともに、検証可能な形でPDCAサイクルを機能させるべきである。このように国家として具体的にどのような研究成果を目指しているかを明らかにすることで、我が国の科学技術に対する姿勢を対外的に一層明確に示すことになる。

なお、過去の「基本計画」では政府投資総額目標として「対GDP比1%」という水準が掲げられている。水準設定に当たっては「欧米主要国の水準の確保」等を根拠としてきたが、米・独・仏等の欧米主要国の政府投資総額は「対GDP比1%」を下回っており(2011年平均0.7-0.8%程度)、この観点から、この水準に合理性はなくなっていると考えられる。また、「対GDP比1%」を実現するためには、科学技術関係予算の水準を現在よりも1兆円(25%)以上増額することが必要であるが、「経済・財政再生計画」における2020年度(平成32年度)までの「PB黒字化目標」との関係でも非現実的であると言わざるを得ない。

(2)産学連携の促進

大学が企業から受け入れた研究開発費は大学の研究開発費全体の2%程度と国際的に低い水準で推移しており、企業部門の研究開発費のほとんどは部門内に流れるクローズな状態となっている。企業部門の研究開発費の水準が国際的に高いことを踏まえれば、オープン・イノベーションによって研究の「質」を高めるためにも、産学連携による共同研究を拡大することが不可欠である。

それを実効的なものにするためには、既存の大学の産学連携本部機能の見直しに向けた科学技術行政と大学行政の連携強化や、「大学が企業から受け入れる研究開発費を5年間で5割増加」といったKPIを設定することが必要と考えられる。(文部科学省調によれば、受入額は10年間で約2倍に増加)

(3)競争的資金改革

研究の推進力である競争的研究資金について、「質」の向上を実現するためのシステム改革を進めることが急務となっている。

具体的には、国際的な視野での審査・評価の導入による国際競争力向上、研究時間・資源管理の徹底及び配分額の減額ルール策定による研究資金の最適配分、審査において「研究の仕会的インパクト」を重視することによる研究成果最大化、一部の競争的資金の間接経費割合引上げによる大学の経営力強化、といった方策を検討していく必要があろう。

(続く)

2016年3月14日月曜日

国立大学法人運営費交付金改革の経緯と今後の方向性(4)|財政審の審議に対する国立大学協会、政界の反応

(続き)

1 国立大学協会

国立大学協会は、財政制度等審議会財政制度分科会において財務省が示した今後の「国立大学法人運営費交付金」に関する提案について、平成27年10月、次のような声明を発表しています。
財務省は、運営費交付金を削減することによって、はじめて自己収入確保等のインセンティブが生まれると主張するが、我々国立大学の現状や自律的な取組に対してあまりにも配慮を欠いたものであり、むしろ改革の実現を危うくすると言わざるを得ない。 
また、家庭や学生の経済状況が厳しくなっている中で、授業料の引上げと併せて運営費交付金の減額を行うことは、経済格差による教育格差の拡大につながる。経済条件にかかわらず、また我が国のすべての地域において意欲と能力のある若者を受け入れて優れた人材を社会に送り出すという国立大学の役割を十分に果たすことができなくなることを危惧するところである。(中略) 
国立大学協会が本年9月14日に公表した「国立大学の将来ビジョンに関するアクションプラン」においては、主体的な改革の具体的な方向性と工程表を明らかにし、その中では厳しい財政状況も直視しつつ、大学間等の連携・共同による教育研究水準の向上を図ることや寄附金等の外部資金を含む多様な財源確保に努めることを明記するとともに、こうした改革を長期的見通しに立って実現していくためには、基盤的経費である運営費交付金の確保が不可欠であることを述べている。
国立大学が教育・研究・社会貢献の諸機能を強化し、将来の我が国の持続的発展に貢献する改革を着実に実行していくためには、「国立大学法人運営費交付金」等の基盤的経費の充実が不可欠であることを重ねて強調し、各方面のご理解を求めるものである。

また、各国立大学においても、経営協議会学外委員等の声明を発表しています。

さらに、平成27年11月、国立大学協会、公立大学協会、日本私立大学団体連合会は、危機的な財政状況を背景に、国公私立大学の教育研究基盤を揺るがす動きが加速しているとして、連名による「国家予算における国公私立大学の基盤的経費拡充に関する要望」を財務大臣と文部科学大臣に提出しています。



2 国立大学振興議員連盟など


国立大学の機能強化と財政基盤強化の方策を検討し、国家戦略としての国立大学振興を強力に進めていくことを目的に「国立大学振興議員連盟」が設立され、次のような決議が行われています。

平成28年度予算及び税制における国立大学法人関係予算の確保及び税制改正に関する決議
急速な少子高齢化やグローバル化の進展、新興国の台頭による国際競争の激化など、我が国を取り巻く社会環境の変化は激しく、新たな時代を切り拓く人材育成、イノベーションの創出、地方創生の実現に向けて、国立大学の果たすべき役割の重要性はますます高まっている。また、諸外国に目を向ければ、先進国や近年成長を遂げている国は高等教育政策を重視し、充実強化を戦略的に推進している。 
国立大学は全都道府県に設置され、社会・経済・文化・医療・福祉の拠点として、地域の中核、また我が国全体の総合的な発展に貢献するため、自ら積極的に改革を進めている。また研究面では、全てのノーベル賞受賞者を生み出したように、基礎研究から応用研究にわたり国際的な知的基盤を支える世界水準の研究を推進している。 
大学力は国力そのものである。我が国は長年にわたる経済の低迷から着実に脱却しつつあるが、経済社会の重大な転換期において、我が国社会の活力や持続的な成長を確かなものとするためには、国家戦略としての大学政策が不可欠である。特に、全国に配置された「知」の拠点である国立大学が、卓越した研究力と質の高い教育力をもって、我が国が直面する諸課題の解決に最大限貢献しうるよう、その機能と財政基盤を一層強化する必要がある。 
このような状況に鑑み、平成28年度予算及び税制において、左(下)記事項の実現に万全を期すべきである。
  1. 国立大学の機能を強化し、着実に改革を推進するため、基盤的経費である国立大学法人運営費交付金及び施設整備費補助金の拡充を図ること。
  2. 国立大学附属病院が、人材育成、地域医療の中核拠点、高度先進医療などの機能を十分に果たすため、必要な財政的支援の確保及び充実を図ること。
  3. 研究力の強化や大学改革を加速するため、科学研究費補助金をはじめとする各種競争的経費の安定的確保及び間接経費の充実を図ること。
  4. 卒業生も含めた多様な寄附者を拡大するため、個人寄附に係る所得控除と税額控除の選択制の導入を図ること。
右(上)決議する。
平成27年8月5日
国立大学振興議員連盟

国立大学法人運営費交付金の拡充に関する決議
経済社会の重大な転換期において、我が国社会の活力や持続的な成長を確かなものにするためには、国家戦略としての大学政策が不可欠である。しかし、国立大学においては、法人化以降続いてきた運営費交付金の削減により、若手の育成や研究力の低下などに深刻な影響が生じている。 
このような状況において、11月24日の財政制度等審議会の「平成28年度予算の編成等に関する建議」では、運営費交付金の削減を前提とした提案がなされた。このような提案は、国民からの期待に応えるべく、自ら改革を進める方針を打ち出している国立大学の改革意欲を損なうものであり、全く容認できない。 
急速な少子高齢化やグローバル化の進展を乗り越え、我が国が持続的に成長していくため、全都道府県に設置された「知」の拠点である国立大学は、人材育成、幅広い研究、社会や地域への貢献、グローバル化への対応などにおいて中核的役割を果たしていかなければならない。第三期中期目標期間がスタートする平成28年度の取組は、国立大学の改革の決意と着実な実行を示すためにも決定的に重要である。 
このような方針を示すため、平成28年度予算において、左(下)記事項の実現に万全を期すべきである。
  1. 国立大学の機能を強化し、着実に改革を加速するため、基盤的経費である国立大学法人運営費交付金の拡充を図ること。
右(上)決議する。
平成27年12月7日
国立大学振興議員連盟

(参考1)関連記事

教職員定数及び国立大学法人運営費交付金の充実、科学技術イノベーション創出に向けた投資の充実に関する決議
財政制度等審議会財政制度分科会において、少子化に応じた機械的な教職員定数の削減、国立大学法人運営費交付金の毎年度の1%削減、科学技術の投資目標設定の否定などの議論がなされているのは、誠に遺懐である。 
教育は国家の礎であり、将来を担う子供たちは国の宝である。我が国が急速な高齢化社会やグローバル化の進展を乗り越え世界に伍して成長していく上で、教育は未来への先行投資であり、不可欠なものである。教育は一人一人の生産性を高めるのみならず、科学技術イノベーションの創出につながり、経済の成長をもたらす。特に、学校を取り巻く環境が複雑化・困難化している中で、教育現場が抱える様々な課題への対応や、国立大学の機能強化と財政基盤の一層の強化、明確な投資目標を掲げた科学技術イノベーションの強力な推進は我が国の喫緊の課題である。成長の源泉である人材育成や研究開発への投資を削減すれば、経済の停滞をも招き税収が低下し国家財政の更なる悪化にもつながることとなる。 
このような状況にかんがみ、平成28年度予算においては、「一億総活躍社会」や「地方創生」を実現するためにも、以下に掲げる課題に万全を期すとともに、十分な文教・科学技術予算を確保すべきである。
  1. 学校現場の課題に対応する加配定数の充実をはじめ、長期的な視野に立った教職員の質と数の一体的な強化を図るための教職員定数の充実
  2. 国立大学の機能を強化し、自助努力を促しつつ、着実に改革を加速するため、基盤的経費である国立大学法人運営費交付金の充実
  3. 次期科学技術基本計画における政府の研究開発投資目標の明記、及び科学技術ノベーション創出に向けた投資の充実
右(上)決議する。
平成27年11月4日
自由民主党政務調査会文部科学部会

国立大学法人運営費交付金等の基盤的経費の充実に関する決議
世界が知識基盤社会へと進展する中、我が国の「知」を支える大学の役割は欠くことが出来ない。経済社会の重大な転換期において、大学を核としたグローバル化、イノベーションの創出や地域社会の活性化こそが、我が国の成長を支えるのであり、国家戦略としての大学政策が不可欠である。 
全都道府県に設置された「知」の拠点である国立大学は、人材育成、幅広い研究、社会や地域への貢献など、我が国の発展に貢献してきた。しかし、法人化以降続いてきた国立大学法人運営費交付金の削減により、若手の育成や研究力の低下などに深刻な影響が生じている。このような中にあっても、国立大学は、第三期中期目標期間において、国民からの大きな期待に応えるべく、自ら改革を進める方針を打ち出している。積極的に改革に取り組む国立大学を支援するため、教育研究基盤の充実は喫緊の課題である。 
このような状況において、財政制度等審議会から、国立大学法人運営費交付金の今後15年間にわたる毎年1%の機械的な削減が提案されたが、大学の改革意欲を損なうものであり、全く容認できない。また、この提案には、大学の自己収入を毎年1.6%増やすことも併せて付されている。大学の自己収入を増やす努力は重要であるが、この提案を実現するには、授業料の大幅な引き上げを余儀なくされ、結果的に家計に大きな負担を転嫁することとなることから、このような提案には、断固反対する。 
このような状況を踏まえ、政府は以下の事項の実現に万全を期すべきである。
  1. グローバル化、地域再生・活性化への対応、イノベーション創出機能の強化、優秀な若手研究者の確保など、改革を進める国立大学を積極的に支援し、その機能強化を加速するため、国立大学法人運営費交付金の充実を図ること。併せて、国公私立を通じた大学への支援の充実を図ること。
右(上)決議する。
平成27年11月5日
公明党文部科学部会
(続く)

2016年3月13日日曜日

国立大学法人運営費交付金改革の経緯と今後の方向性(3)|財政審の審議に対する文部科学省の反応

(続き)

1 中央教育審議会

文部科学省の中央教育審議会も、平成27年10月、高等教育への投資の削減は将来に対し禍根を残すものであるとして、運営費交付金の機械的な削減ではなく、自己改革を進める大学を積極的に支援し、教育研究及び社会貢献機能の強化を図るために、運営費交付金等を充実・確保すべきであるとする次のような内容の緊急提言を取りまとめました。

提言では、過去12年間の約12%に及ぶ削減により、教育研究基盤に深刻な影響を与えていると指摘するとともに、機械的な削減ではなく教育研究や社会貢献機能の強化を図るため、運営費交付金の充実・確保が不可欠であることを強く訴えています。
人口減少社会の到来により生産年齢人口が減少する中、知識基盤社会を支える「知」を生み出していかなければならない今、大学が果たす役割は決定的に重要である。
中央教育審議会においては、文部科学大臣の諮問に応じ、大学教育の質的転換、大学ガバナンス、高大接続、大学院の改革をはじめ精力的な議論を行い、累次の答申等を取りまとめてきた。
日本の大学は、この重責を真摯に受け止め、自主的・積極的な改革を進めてきており、21世紀の日本と世界が直面する課題に、全力を挙げて取り組もうとしている。 
そのような中、国立大学法人運営費交付金について、財政制度等審議会において、運営費交付金を今後15年間毎年1%機械的に削減すべきなどの考え方が示された。 
財政事情が厳しい折、限られた財源の有効活用は必要であるが、過去12年間の約12%に及ぶ削減により、若手の育成など教育研究基盤に深刻な影響を与える中、運営費交付金の更なる長期的削減との主張は、グローバル化や地方創生への対応、イノベーション創出など日本社会の発展のため大学に期待されている数々の役割が踏まえられておらず、また諸外国が高等教育への投資を拡大させ、教育研究環境の充実を図る国際基調にも逆行するものである。また、自己収入の増加についても、多様な財源の確保の努力は必要だが、現下の経済状況や家計状況等を踏まえると、確実な増を見込むことは困難であり、大学の安定的な経営に支障をきたす恐れがある。 
政府が目指す生産性革命によるGDP拡大など「一億総活躍社会」や「地方創生」の実現は、今日、「知」の創造がなければ不可能であり、高等教育への投資の削減は、将来に対し禍根を残すものである。 
このような認識のもと、本審議会は、この緊急提言を行うものである。 
国立大学法人運営費交付金の機械的な削減ではなく、自己変革を進める大学を積極的に支援し、教育研究及び社会貢献機能の強化を図るために、国立大学法人運営費交付金等を充実・確保すべきである。 
中央教育審議会答申「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて」(平成24年8月)以降、国立大学においては、「ミッションの再定義」により、大学ごと分野ごとに強み、特色の明確化を図るとともに、平成25年の「国立大学改革プラン」を踏まえ、教育研究組織の見直しや、人事給与システム改革を本格化させてきた。 
特に、「改革加速期間」と位置付けられたこの3年間(平成25~27年度)で、各国立大学においては、学内の人的・物的資源の再配分とあわせて、それぞれの強み・特色を更に伸ばす組織改革を進めており、更に平成28年度には、例えば、地域デザイン科学部、地域資源創生学部等の自然科学及び人文社会科学の連携・融合による新たな組織を設置するなど、社会的要請の高い分野の教育研究活動を意欲的に進めている。 
一方、平成16年度の法人化以降、運営費交付金は減少傾向が続いており、12年間で1,470億円(11.8%)が削減され、また、消費税率の引上げ、諸経費の値上りにより、人件費や基盤的教育研究費を更に圧迫している。その結果、教育研究活動を支える常勤教員の人件費、特に、若手研究者の常勤雇用が減少し、大学院進学者の減少など、優秀な人材の確保に支障が生じるとともに、研究時間の減少、論文増加率の伸び悩みなどの弊害が生じていることなどの看過しがたい状況が見られる。 
このような状況下において、運営費交付金の削減は、各大学の改革に重大な支障をきたすことになりかねない。また、寄付金や民間との共同研究など自己収入の増加の努力は必要であるが、財政制度等審議会における提案にあるような大幅な増加は、授業料の大幅な引き上げにつながりかねず、現下の経済状況や厳しい家計状況では困難である。 
国立大学には、世界最高水準の教育研究の推進、大規模な基礎研究や先導的・実験的な教育研究の実施、社会・経済的な観点からの需要は必ずしも多くはないが重要な学問分野の継承・発展、全国的な高等教育の機会均等の確保等について、引き続き、重要な役割が期待される。 
本審議会の審議まとめを受けて昨年行われたガバナンス改革の法改正及び本年6月の「国立大学経営力戦略」を踏まえ、国立大学では、学長のリーダーシップの下、戦略的な資源配分、多様な財源の確保など一層経営的な視点での大学運営を進めることとしており、また文部科学省でも各大学がより強みや特色を発揮するため3つの支援枠組みを設定し、予算での重点支援を行うなどの改革を進めようとしている。そうした取組にインセンティブを与え、国立大学の機能強化を真に実現するためには、経営力強化のための持続的な改革を支える運営費交付金の充実・確保が不可欠であり、本審議会はその点を強く求めるものである。 
なお、本提言は、財政制度等審議会における国立大学法人運営費交付金の削減提案に関する見解を表明するものであるが、我が国の持続的な成長、知識基盤社会への構造変革、地方創生を支える人材育成等に向けては、国公私立を通じた大学の機能強化が不可欠である。第2期教育振興基本計画や教育再生実行会議第8次提言でも教育投資の重要性が指摘されており、諸外国と比較して著しく低い高等教育予算全体の充実・確保がなければ、今後の日本社会の発展を支える人材育成、知の創出機能の低下を招きかねない。この点をあわせて強調したい。

(関連)
財政制度等審議会資料における考え方
  • 国立大学が高い質を確保しながら自律的、持続的な経営を続けていくため、今よりも運営費交付金に頼らず、自らの収益によって経営力を強化していくことが必要である。
  • そうした観点から、例えば、今後15年間(平成43年度まで)で、国立大学法人収入の全体に占める運営費交付金への依存度と自己収入の割合を同水準とすることを目標としてはどうか。
  • これを確実に実現するため、毎年度の運営費交付金の額を▲1%ずつ減少させる。(運営費交付金を毎年▲1%減少させ、自己収入を毎年+1.6%増加させることが必要)。 
運営費交付金の現状と国立大学の課題
  • 運営費交付金は、国立大学の運営基盤を支える経費であるが、既に過去12年間で約12%(1,470億円)減少。
  • この間、教育研究活動を支える常勤教員の人件費、特に若手教員の常勤雇用が減少し、優秀な人材の確保や研究時間の減少などに弊害。
  • 国立大学は、第3期中期目標期間に向けて機能強化のための大規模な改革を推進中だが、改革を進める戦略的な経費の確保が不可欠。
毎年1.6%の自己収入の増加についての考え方
  • 財源の多様化は重要であり、法人化以降は、各大学において自己収入の獲得に努力
  • しかし、寄附金や産学連携等研究収入が今後も継続的に増加することが必ずしも見込めない中で、これらで運営費交付金の削減分(平成32年まで▲536億円)を賄うことは困難
  • 「寄附金収入」は、自己収入に占める割合が約1割であり、法人化直後の伸びと比べると頭打ちの状態
  • 「産学連携等研究収入」の大半は、国の予算(委託費等)が基礎であり継続的増加が見込めず、かつ、限られた特定の研究活動に配分されるものであり、教育研究基盤を支える財源としては不十分
  • 財政審提案にあるような自己収入の大幅な増加は、授業料の大幅な引き上げにつながりかねず、現下の経済状況や厳しい家計状況では困難
国立大学を取り巻く状況
  • 先進主要国に比べ、我が国の高等教育への公財政支出の伸びは小さく、平成16年度の法人化以降、運営費交付金は減少が続いている。
  • 教育研究活動を支える常勤教員の人件費、特に、若手研究者の常勤雇用が減少し、大学院進学者の減少など、優秀な人材の確保に支障が生じるとともに、研究時間の減少などの弊害が生じていることなどの看過しがたい状況が見られる。
  • 「寄附金収入」は、自己収入に占める割合が1割程度と小さく、また法人化直後の伸びに比べると頭打ちになっていること、「産学連携等研究収入」は、その大半が、現状では国の予算(委託費等)を基礎としていることを踏まえると、今後も継続的に増加することは必ずしも見込めない。
  • 財政制度等審議会提案にあるような自己収入の大幅な増加は、授業料の大幅な引き上げにつながりかねず、現下の経済状況や厳しい家計状況では困難である。



2 国立大学法人評価委員会

国立大学法人評価委員会においても、第三期中期目標・中期計画の策定に向けた審議において、その着実な実現に不可欠な経営基盤である運営費交付金の充実の重要性から、平成27年11月、次のような委員会所見が示されています。
1)平成28年度から国立大学法人及び大学共同利用機関法人の第3期中期目標期間が始まります。平成16年の法人化以降、国立大学法人等は、法人制度のメリットを生かしながら、国立大学改革を着実に実行し、基盤的経費である運営費交付金の大幅な削減という厳しい環境に置かれながらも、質の高い教育研究の実践を通じ、人材育成、学術研究、その成果還元を通じた社会貢献において様々な成果を上げてきました。 
2)本日の国立大学法人評価委員会では、来年度から開始する第3期中期目標期間における各法人の中期目標・中期計画の素案に対する意見について審議を行いました。各法人の素案では、一部において強みや特色が明確でない、あるいは事後的な検証が困難な記述も見受けられましたが、多くの法人の素案においては、学術研究を通じた社会的価値の創造、未知の次代を牽引する有意な人材の育成をはじめ、大学ならではの教育研究の特性を根拠とした我が国社会の発展に対する貢献について、第1期・第2期に比べて飛躍的に取組を向上させていこうとする姿が強くうかがえました。 
こうした国立大学の改革に対する意欲を、第3期中期目標期間において確実に形あるものとしていくことが極めて重要です。各法人には来年度以降の取組において、自ら掲げる目標・計画の実現に向けてたゆまぬ努力を心から期待したいと思います。 
3)しかしながら、先日の財政制度等審議会財政制度分科会における議論においては、過去12年間を通じて約12%、約1,470億円もの削減をしてきた国立大学法人運営費交付金に関し、これからの向こう15年間においてもさらに毎年度1%ずつ削減し続けていくことが提案されています。 
国の財政状況が大変厳しい状況にある中、それぞれの立場から財政健全化に向けて尽力することが求められており、また、国立大学法人等が自己収入の確保に向けた努力を図っていくことは重要なことと考えますが、授業料収入・共同研究収入・資産運用収入といった自己収入の拡大により、15年間毎年1%削減に見合う規模の収入を得ることは非現実的なものと言わざるを得ません。 
4)我が国の未来を支えるのは人材であり、成長のエンジンとなるイノベーションの源泉となるのは学術研究の振興ということは自明でありますが、それを支える基盤的経費である運営費交付金を長期にわたり機械的に削減すれば、国立大学法人等の質の高い教育研究を通じた社会貢献が立ち行かなくなることは必至です。そのような状況を招こうとする財政制度等審議会の提案は、これからの知識基盤社会の中で我が国が新しい価値の創造を通じて中長期的に発展・成長していかなければならないという観点から断じて看過することができません。また、特に自己収入の大幅な増加を求めることは、授業料の大幅な増額につながりかねず、現下の経済状況や家計状況において国民の理解を得られるものとも考えられません。国立大学法人等が国民や社会の期待に応えていくためには、運営費交付金の確保・充実が必要不可欠であることをここで改めて強く訴えたいと思います。 
5)他方、各法人や教職員各位におかれては、極めて厳しい財政状況の下で国立大学の教育研究が国民によって支えられているという事実をさらに強く認識した上で、来年度から開始する第3期中期目標期間以降、国立大学法人等に求められている教育、研究、社会貢献に一層全力を以て取り組んでいただくことを切に願います。
事務局(文部科学省) 
今回、財政制度等審議会におきまして、今後の国立大学の財務運営についての考え方が示されたところ。 
国立大学の運営費交付金について、その依存度と自己収入の割合を平成43年度までに同水準にするという目標を立て、そのために、毎年度、運営費交付金を今後15年間、1%ずつ減少させて、その代わり、自己収入を毎年1.6%増加させていってはどうかということが提案されている。 
これに対して、現状、既に過去12年間で1,470億円減少しているという中で、教育研究活動を支える常勤研究員、常勤の教員の人件費が減少、特に若手教員の常勤雇用が減少しており、優秀な人材確保や研究時間の減少など、そういった弊害が出ているという現状があるということ、さらに、現在国立大学は、第3期中期目標期間に向けて、機能強化に向けて本当に大規模な改革を促進しているところであり、この改革を進める戦略的経費が必要であるという、そういった現状がある。 
また、毎年1.6%の自己収入を増加するという考え方については、当然、各法人、財源多様化は非常に重要であるということで、各法人、自己収入の獲得に努力しいるところであるが、寄附金や産学連携等の研究収入ということについて、なかなか今後も継続的にずっと増加していくことが必ずしも見込めないという中で、運営費交付金を削減するということ、それを賄うことはなかなか難しいと考えているところ。なお、寄附金収入について見れば、自己収入に占める割合というのは1割であって、法人化直後の伸びに比べると頭打ちの状況であり、また、産学連携等の研究収入というと、その大半は実は国の予算の委託費等、独立行政法人等による委託費等が基礎であって、継続的な増加が認めるかということがなかなか難しい状況にある。 
また、この収入自体、限られた特定の研究活動に配分されるということから、教育研究基盤を支える運営費交付金の代わりとなるものではないと思っており、また、そういった中で、それでも自己収入を大幅増加するということを求めるのであれば、授業料の大幅な引き上げにつながりかねないのではないかとも考える。そういったことになると、現在の経済状況や厳しい家計状況では困難ではないかと認識をしているところ。 
我が国の公財政支出の状況、常勤職員の人件費が年々下がってきていること、また、若手の研究者が任期付きの採用やポストの方に移っていること、また、寄附金収入の現状、また、民間からの研究資金の受入れ等の推移を示しているところ。また、家計の状況、民間企業の動向等も併せてお示しさせていただいている。 
こういった中で、各法人、第2期中期目標期間の後半3年間を改革加速期間ということで、本当に改革に尽力頂いているころであり、そういった中で、例えば学部のレベルであるが、様々な改革に今取り組み、また、進めていただこうとしているという状況であり、こういった改革を是非とも引き続き支援させていただきたいという観点から、是非とも運営費交付金の確保、充実に努めてまいりたいと考えているところ。 
第3期中期目標・中期計画の関係で申し上げると、例えば数値目標において、産学官共同研究であれば、寄附金の受入れ額ということについて設定する大学の数は、例えば産学官の共同研究で42大学、また、達成目標として、寄附金の受入れ額の指標を設定していただいているのが47大学。 
ただ、数値目標を設定している大学以外でも、経営基盤の強化という観点から、これまでも積極的に産学官の連携、又は、寄附金の受入れに努めているし、また、第3期中期目標においても努めたいとする大学が多数。 
また、国立大学経営力戦略において、各法人に今後求めていくというところから、財務基盤の強化ということで、収益事業、寄附金収入の拡大であるとか民間との共同研究等の拡大ということで、各法人、第2期、特に中盤以降、いろいろと工夫をしていただいているところであり、また、第3期においても様々な取組がなされていくということで計画をしていただいている、また、取り組もうとしていただいていると認識をしているところ。 
国大協においても、9月に国立大学の将来ビジョンに関するアクションプランというものが出され、その中で、厳しい財政状況というものを直視し、法人間の連携・共同による教育研究水準の向上を図ると同時に、寄附金等の外部資金を含む多様な財源確保に努めるということを併せてそのプランの中でうたっているところであり、各法人、そういった状況については直視し、また、できることはやって、是非とも取り組んでいくということで臨んでいるという状況。 
また、国の財政がこういう状況であるため、自己収入の拡大というようなことについては最大限の努力をしていこうということで取り組んできている。例えば、第1期でいうと、平成16年度から20年度にかけて、寄附金の受入れ額は1.5倍に増えている。それだけ、旧国立学校時代と比べれば、外部収入の獲得ということで大変な努力をしてきている。 
ただ、残念ながら、平成20年度になると、リーマンショック等もあり、なかなか産学連携や寄附金収入が伸びにくい状況があり、少し頭打ちになっている状況であるが、第3期に向けて、国立大学経営力戦略を作って、財務基盤の強化という観点から、収益を伴う事業の明確化や、非常に研究力の高い大学については、産学連携等をどんどん進めていただいて、外部収入を確保するよう考えている。その際に、一定の規制緩和で何とかできないのかということの議論も今具体的に進めており、その中で、経営力を高めていきたいという努力をしている。 
ただ、今回の財政審の提案は、そういうこれまでの努力の積み重ねから見ると、桁違いの自己収入を機械的に求めているような形になるので、このレベルの話になると、これはもう努力の問題とは少し違う次元の話になるので、それはなかなか受け入れられないのではないかという議論に現在なっているという状況。
(続く)

2016年3月11日金曜日

国立大学法人運営費交付金改革の経緯と今後の方向性(2)|財務省の動向

(続き)

財務省の動向

次に、財務省の動向についてご紹介します。

<動向1>財政制度等審議会での議論

予算編成の前段階に開催される財務大臣の諮問機関である財政制度等審議会財政制度分科会(平成27年10月開催)では、例年同様の厳しい議論が展開されました。

財務省は、文教科学技術予算を削減するため、国立大学の運営費交付金を今後15年間に、毎年1%ずつ減少させ、産学官連携収入などの自己収入を毎年1.6%ずつ増やす(要するに、運営費交付金を減らすから、寄付金や民間資金、授業料の引き上げなどにより運営費交付金以外の収入を増やす努力をするよう)提案を行いました。

この場合、財務省が示す試算では、国立大学法人の運営費交付金総額は、平成43年度で9,826億円となり、平成25年度に比べて1,984億円の減額になります。

財務省の説明及び意見交換の様子を議事録から抜粋してみます。長文になってしまいますが、特に財務省(主計官)の説明から、財務省の意図が透けて見えるのではないかと思います。

<財務省主計官による説明>

18ページ

四角でくくられた進学率2をご覧いただきますと、現在、進学率は56.7%%まで来ております。
昭和50年代、やや伸び悩んでいたときもありますが、ここ20年程の間は増加傾向、向上している傾向にあります。
ただ、棒グラフに示されている18歳人口の推移を見ますと、今後、かなりの勢いで18歳人口が減少していくことが明らかであります。
進学率がどうなるかというのは非常に難しい予想でありますので何とも言えないのですが、過去10年の伸びで伸びていったとするならば、20年後、25年後には7割程の水準に達します。
この7割の水準に達したとしても、恐らく18歳人口減の圧力のほうが強くて、20年後、25年後におきましては、18歳人口から供給される大学入学者の数というのは1割から2割にかけて減るであろうということが予想されます。
大学の規模をどう考えていくかという問題は、この18歳人口から供出される入学者の減といった問題、これは留学、社会人の教育、学び直しがどうなるかということにもよるのですが、そういったことも踏まえて、今日、明日に結論が出ることではないと思われますが、早急に検討を始めておく必要があると思われます。


19ページ

赤いのが18歳人口の推移であり、その下に見える青い実線が入学定員の推移であります。
入学定員は、ここのところ、過去10年間ほとんど変動がございません。
そういったこともあり、上のほうに四角でくくってありますが、国立大学は、志願倍率は4.7倍からじりじりと下がってまいりまして、現在4.0倍程度という状態になってきております。
志願倍率が何倍ならば適当かというのは一概には言えませんが、こういったことも大学、高等教育のあり方ということを考える点では、十分踏まえる必要があるということでございます。



20ページ

国立大学の学生数と教職員数の推移であります。
学生数自体は1万6,000人程減っておりますが、教職員数は逆に増えているというのが現状であります。
大学法人化されてからは、教職員の方々、それぞれの大学の知恵、工夫によって自由に雇うことができる状態になっておりますが、各国と比較しますと、学生100人当たりの教員数という点で見ますと、日本がやや高く見えますので、こういったことも踏まえて、その持続可能な国立大学経営ということを考える上では、こういったことも踏まえる必要があるのではないかと考えます。


21ページ

国立大学法人の収入構造の改革をご提案申し上げたいと考えます。
黄色い帯が国立大学法人が、国からの支出を受けて賄っている部分が7割で、その大宗は運営費交付金です。
これに対して残り3割が自己収入ということで、自己収入は半分程が授業料、その他寄附金、産学連携による研究収入などであります。



22ページ

左端が国立大学法人の収入構造です。
右側に3つ並べましたのが、試みに例として出させていただきました私立大学の収入構成であり、一見して色は違った状態にあります。
もちろん国立大学と私立大学を全く同じ収入構造にする必要はないとは思います。
ただ、左側にありますような、国立大学法人の薄い青色の運営費交付金に5割以上、過半を頼っている姿というものは、今後の財政事情などを考え、また、学生数の減少が見込まれる可能性が高いことを考えますと、この構造が持続的に続けられるものかどうかというのは、かなり疑問かと思いますので、自己収入の割合をより増やしていただきたいというふうに考えます。


23ページ

国立大学の授業料についての資料です。
国立大学の授業料の水準につきましては様々なご議論があるとは思いますが、自己収入というものを引き上げていく上で、現在の授業料がどういう状況にあるかということは示してありますが、現在、国立大学の授業料は、標準額が年額53万5,800円と定められており、その2割増しまでは各大学が学則で増やすことができる。
ちなみに、下限はありません。そういう状態になっており、各大学はそれぞれの判断で上げることができるという制度はできておりますが、この標準額と異なる額を設定している大学は、右に掲げてある7つの大学しかなくて、そのうち、引き上げの方向で設定されておられるのは、一番下にある2つの大学、学部しかないという状態であります。
従いまして、授業料を直ちに引き上げるべきであるというような、べき論を申し上げるわけではありませんが、自己収入を引き上げる努力というものが何もない、手は尽きているという状態とはまだなかなか言えないのではないかという一例として申し上げました。



24ページ

私どもとしては、今後15年間程の時間をかけて、国立大学が収入のうち運営費交付金に依存する割合、自己収入で稼いでくる割合を同程度とするということを目標とされてはどうかと考えます。
運営費交付金の依存度は15年間をかけて同程度ということでありますと0.5%ずつということになるわけです。一例としまして、例えば、運営費交付金を毎年1%減少させることにしますと、自己収入を毎年1.6%ずつ増加させることが必要になってくるということでございます。



25ページ

特に私どもとして申し上げたいことは、自己収入の割合と運営費交付金依存度を同じ程度にするためには、例えば、自己収入だけ引き上げていけば依存度自体は下がるわけでありますが、そういうことになりますと、財政健全化に何ら貢献がないということが一つ。
もう一つは、自己収入と運営費交付金につきましては、かねてから、大学にとっては自己収入を引き上げるとその分、翌年、運営費交付金をその分、削減されてしまうのではないか。そういうことになると大学にとっては自己収入を稼ごうというインセンティブがなくなってしまうのだというご批判もあります。
こういったご批判も踏まえて、私どもとしては、まず先に運営費交付金について1%減額といったような目安を置くことによりまして、大学が自己収入をそれ以上稼いでいただいても、それを理由として運営費交付金を削減することはしないということをコミットすることにより、はっきりしたインセンティブとさせていただきたいということであります。
4つ目の◯であります。その上で、この1%削減によって確保される財源の一部につきましては、当面、一定の明確な基準に応じてpay for performanceの観点から補助金として再配分をするということで、さらなるインセンティブとさせていただきたいと考えております。



26ページ

科学技術の話であります。
まず、26ページは、官民合わせた研究開発等であります。
まず、日本は、GDP比で見ますと、官民合わせた研究開発投資の水準は主要国の中で最も高い水準を過去25年にわたって維持しているということをご紹介させていただきたい。



27ページ

そうした中、政府の研究開発投資が少ないというようなご指摘もあったことから、過去20年間、社会保障を上回るようなかなりのペースで拡充してきたわけでありますが、現在の財政事情に照らしますと抑制は不可避という状況かと思います。



28ページ

我が国の科学技術関係予算におきましては、量的拡大は非常に難しい状況でありますので、質を改善していただくということが不可欠かと思います。
左にありますように、予算の額と論文の数はかなり相関しており、お金を増やせば論文の数は増えるという傾向はかなりはっきりしているように思われますが、右側のトップ10%論文数という目で見ますと、これだけで質を判断するわけではありませんが、このトップ10%論文数の割合を見ると、日本の水準は諸外国と比べて低いということ、それから、予算が拡大期に増加していないというように見えるといったことでありますので、予算をたくさん投入することによって質のいい論文が排出される、次々に生まれるというわけではないのではないかということを申し上げたいと思います。



29ページ

そういうことで、質の向上という観点からすると、29ページにありますように、科学技術の世界においても成果目標にきっちりとコミットしていただくことが必要かと思います。
今年は年末から年明けにかけまして第5期の科学技術基本計画5年間、これを策定する時期に当たっております。


30ページ

科学技術基本計画につきましては、下の注1、少し小さい字で恐縮ですが、そこにありますように、現行の第4期科学技術基本計画におきましては、政府研究開発投資の総額規模約25兆円とするというようにインプット目標が明記されております。
私どもとしては、こういったインプット目標は、ほかの政府の基本計画にはもはやありませんので、こういうインプット目標を次期科学技術基本計画に盛り込むべきではないと考えておりますし、そこは様々な議論があるかもしれません。
仮にそのインプット目標を置かざるを得なくなるとしても、成果目標、アウトカム目標にもっときちんとコミットしていただくような計画としていただく必要がぜひともあるというふうに考えます。



31ページ

2つ目の提言です。
これは先程の国立大学の話とも関連しますが、大学における研究開発費、研究開発費に占める企業からの受け入れをもう少し増やす努力をしていただけないかという話でございます。
31ページの左側のピンク色の線にありますように、企業からの受入金額というのは、金額自体は3倍強となっているのですが、緑の線にありますように、受入割合という目で見ますと横ばいということです。
よりたくさん確保していただく努力をしていただきたい。




32ページ

最後に、競争的研究資金改革ということで、配り方の改革についての提案をさせていただきたいと思います。
4つ程ございますが、1つだけご紹介させていただきますと、1番にありますように、競争的資金の審査は国内に留まっております。
英文のピアレビューなど、外国人審査員によるレビューを一部でも取り入れていただき、そういった国際的な審査を経ることで、より質の向上を図ることができるのではないかといった提案をさせていただきたいと思います。






<分科会委員による意見>


田中弥生 (独)大学評価・学位授与機構教授

予算を削減、運営費交付金を1%、経常的に削減をし、その分、15年かけて毎年1.6%ずつ自己収入を上げるという話。
このグラフ(24ページ)を見ると、片方は確実に削減が1%できるのだが、1.6%の収入の増というのは、不確実要素がとても多い自己努力の分。
例えば、景気の動向の影響を受けるかもしれない、あるいは、授業料を上げるのであれば、学生たちとの合意形成にリードタイムが必要かもしれないということも考えられるので、幾つかの自己収入計画というものを様々な条件を踏まえてつくった上で、段階的に考えていくような議論が必要ではないか。

大学を一律的に考え過ぎているのではないか。
研究型と教育型の大学では、自己収入の取り方、調達の仕方というのは能力にすごく差があるので、大学の機能分化、役割に応じて運営費交付金のあり方、あるいは削減の仕方も捉えていく必要があるのではない。

赤井伸郎 大阪大学大学院国際公共政策研究科教授

学生定員の規模をどうするのかとか、大学進学率をどうするのかとか、国立と私学の定員配分をどうするのかとか、国としての方向性を考えることをしないとなかなか先に進めないのではないか。

授業料のアップは、教育費のあり方の議論も大事だし、今、議論している所得連動型奨学金などとの関連も大事。授業料も、今横並びだから多様性も広げていくことが大事。

いきなり自己収入をアップしろといっても、これまでの経緯もあるので、その改善余地や収入拡大努力にどういう問題点があるのかを精査して、例えば、規制緩和と組み合わせるなど、それをどのようにしたら促すことができるのかということを議論しながら、それとともに運営費交付金のあり方を考えていくことで、この議論の意義が出てくる。

岡本圀衞 日本生命保険相互会社代表取締役会長

科学技術予算について。
左側の折れ線グラフ(27ページ)を見ると、平成元年をベースにした指数で、社会保障関係費以上のペースで拡充と書いてあるが、一方で、過去10年で見たらどうかというと、ほとんど伸びていない。
指数ばかりで語っているが、では実際の予算規模ではどうかというと、これは社会保障関係費と科学技術振興費は大分違う。

ある程度、「必要な投資」についてもきちんと考えていかなければいけないのではないか。
それぞれの予算について、どれが今日本に求められていて、どれがこれは長い間やっているからもうやめようとか、こういうことにもっともっと切り込んでいく必要があるのではないか。

井堀利宏 政策研究大学院大学教授

運営費交付金が、ある客観的な水準で変化して、それが自己収入の変動と連動しないというのは、インセンティブの面では非常に重要。
これは、地方税収を増やしたときに交付税を減らされると地方税収を増やすインセンティブがないというのと同じ話。
将来の運営費交付金のあり方を自己収入と連動させない形で示すというのは、非常に望ましい姿。
それが結果として国立大学の、ある意味では、護送船団方式的なあり方に、様々な再編も含めて改革を促す努力になる。

機関への補助金を獲得するために、大学の教官は時間的に相当ロスをしている。
大学は研究が主なので、なかなかそこが難しくて、どうしても教官がここにかかわらざるを得ない。
大学への補助金をもう少し客観的に長期の形で出すようにいただけると非常に助かる。

竹中ナミ (社福)プロップ・ステーション理事長

大学の自己収入を増やすというのも、多分すごく苦手。
自己収入を増やされた大学を「よくやったね」とほめてあげて、ここがこういう自己収入を増やすモデルになりましたということをきちんとアピールする、社会全体でそれが大学同士で共有できるようになればいい。

黒川行治 慶應義塾大学商学部教授

授業料は、奨学金制度というものも勘案して考えないと問題。
授業料はこの程度だが、奨学金で戻ってくる採択率が高ければ、実質的な負担額はもう少し小さい。

高原豪久 ユニ・チャーム(株)代表取締役社長執行役員

国の研究開発費についてKPIを導入して成果や効果を追及していくことに対しては大きな意義がある。
ただ、本質的に重要なのは、効率だけではなく、効果をいかに最大化させるかということなので、論文の数といったことよりも、どうすれば効果を大きくすることが出来るのかということについて、民間を含めて議論すべきではないか。
なお、KPI管理というのは、比較的短期間で成果が出せるものに対しては設定・運用をしやすい傾向にあるが、中長期のテーマの場合には様々な工夫が必要。

佐藤主光 一橋大学国際・公共政策大学院教授

国立大学において今後、社会動向の変化を見きわめながらどの程度の経費がかかるのかは少子化だけではだめ。
留学生も受け入れているし、社会人もいるので、子どもの数が減ったイコール教育費がかからないという意味ではない。
研究大学院というのもあるので、国際的な競争力を持つ研究をどの程度やるかということによっても必要経費が出てくるはず。
まず、それが出てきて、次に今度は自己収入の割合が出てくる。
例えば、私立並みに授業料を段階的に引き上げたらどうなるか。
ただし、低所得者に対する配慮はどうするかというところは別途で考えなければいけない。

産学連携を進めたらと言うが、産学連携をこれくらい進めたらこれくらい自己収入が上がりますという推計があって初めて、じゃあ、結果的にこれくらい交付金は減らせますという議論。
つまり、最初に国立大学の必要総経費があり、自己努力によって得られるだろう自己収入があり、差額として交付金が出てくるという、この順番でなければ、いきなり交付金を切ることを前提に自己収入を上げろと言われても、議論としてはなかなか成り立ちにくいのではないか。

地方大学に対するてこ入れを今後どうするのか、例えば、都会の国立大学は何とかなりそうな雰囲気もあるので、そういうところとのメリハリのつけ方など、少し幾つかのシナリオとケース分けをして、機能別に必要な交付金の所要額を少し出していくという、そういうきめ細かい対応が求められるのではないか。


配付資料(全資料) こちら
(続く)

2016年3月10日木曜日

国立大学法人運営費交付金改革の経緯と今後の方向性(1)|文部科学省の動向

昨日(3月9日)、文部科学省から、平成28年度における国立大学法人運営費交付金の重点支援の評価結果が公表され、関係者間では衝撃が広がっています。

これは、平成28年度から、国立大学を目的別に3分類し、各大学の取り組みに応じて運営費交付金の一部(約100億円)を配分する仕組みに変わったことによるもので、従来に比べ、全86大学のうち42大学が増額、43大学が減額(岩手大学、和歌山大学などが118・6%、京都教育大学が75・5%)となるなど、大学間の格差が生じる結果となりました。

このように、国立大学の運営費交付金は、来年度からの第三期中期目標期間を迎えるに当たり、国立大学改革の一環として大きな変貌を遂げることになりました。そこで今回から数回に分けて、運営費交付金改革の経緯と今後の方向性について整理してみたいと思います。


平成28年度当初予算案(平成27年12月24日閣議決定)が、去る3月1日に衆議院本会議で可決され、参議院に送られました。憲法の規定により、参議院の議決がなくても3月30日には自然成立するため、今年度内の成立が確実となりました。

報道によれば、平成28年度予算案の歳出総額は96兆7218億円の過去最高となり、一億総活躍の関連施策で社会保障費が膨らむ(前年度当初より5千億円増の約2.4兆円)とともに、夏の参議院選挙をにらみ公共事業費が増え、中国の海洋進出をにらんだ防衛費(防衛装備品の購入、米軍再編経費等)が史上初めて5兆円を突破したということです。

出典:朝日新聞

このうち、国立大学の運営基盤を支える経費である国からの運営費交付金については、総額としては、前年度と同水準の1兆1000億円が確保される見通しとなりました。

予算編成過程では、財務省が、財政難を理由に減額の継続を主張するなど、例年同様に厳しい攻防が文部科学省との間で展開されたようですが、平成28年度予算は、第三期中期目標期間の初年度予算として今後6年間を占う重要な位置づけになることもあり、文部科学省はもとより、関係各界の努力により、なんとか法人化以降の連続した一律削減を回避することができたことは大きな成果ではなかったかと思います。

しかし、一方で、平成29年度からは、運営費交付金を毎年約0.5%減額し、その財源の一部を国立大学のさらなる機能強化を図るべく、組織再編などに取り組む大学に優先して配分する補助金に充てるなどの新たなルールが設定されることになりました。

また、機能強化のための重点支援の仕組みや学長のリーダーシップの強化を図るための予算枠が新たに導入されることになりました。


文部科学省の動向

まず、文部科学省の政策動向についてご紹介します。

<動向1>組織及び業務全般の見直し

文部科学省における運営費交付金制度の見直しについては、大学改革実行プラン」(平成24年6月)国立大学改革プラン」(平成25年11月)に遡って整理することが適切だと思いますが、ここでは、国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて」(平成27年6月文部科学大臣決定)から説明を始めます。

ご存知の方も多いのではないかと思いますが、これは、文部科学省が、国立大学の第三期中期目標・中期計画の策定に当たって、全国立大学に対し留意を求めるため発出した通知です。

既にこのブログでもご紹介したとおり、組織の見直しに関わる「教員養成系学部・大学院、人文社会科学系学部・大学院については、18歳人口の減少や人材需要、教育研究水準の確保、国立大学としての役割等を踏まえた組織見直し計画を策定し、組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組むよう努めることとする」という記載について、人文社会科学を軽視したものとの批判を含め、大きな社会的論争が巻き起こったところです。

この通知には、「運営費交付金改革」について次のように記載されています。

第4 制度改正等の措置

1 国立大学法人運営費交付金の配分方法の見直し等

第3期中期目標期間における国立大学法人運営費交付金の在り方としては、国立大学の機能強化を一層進めていく観点に立ち、各法人の規模、分野、ミッションや財務構造等を踏まえたきめ細かな配分方法を実現するとともに、平成27年度に施行された学校教育法及び国立大学法人法の一部改正法等を踏まえ、学長がリーダーシップを発揮し、学内のマネジメント機能を予算面で強化することが必要であることから、以下のような見直しを行う。

(1)第3期における各国立大学の強み・特色の発揮を更に進めていくため、機能強化に積極的に取り組む大学に対し運営費交付金を重点配分する仕組みを導入すること。その際、第3期における各国立大学の機能強化の方向性に応じた取組をきめ細かく支援するため、次の三つの重点支援の枠組みを設けること。
  1. 主として、人材育成や地域課題を解決する取組などを通じて地域に貢献する取組とともに、専門分野の特性に配慮しつつ、強み・特色のある分野で世界ないし全国的な教育研究を推進する取組等を第3期の機能強化の中核とする国立大学を重点的に支援
  2. 主として、専門分野の特性に配慮しつつ、強み・特色のある分野で地域というより世界ないし全国的な教育研究を推進する取組等を第3期の機能強化の中核とする国立大学を重点的に支援
  3. 主として、卓越した成果を創出している海外大学と伍して、全学的に世界で卓越した教育研究、社会実装を推進する取組を第3期の機能強化の中核とする国立大学を重点的に支援
なお、機能強化の方向性に応じた重点支援を行うため、現在の大学改革促進係数を見直し、各国立大学法人の財務構造等を考慮しつつ、一定の財源を確保する仕組みを設けること。

(2)上記のほか、高等教育に関する政策課題のうち国立大学に共通する課題等に関する重点支援を行う枠組みを設けること。

(3)機能強化の方向性に応じた重点配分を行う取組については、原則として測定可能な評価指標を各法人が独自に設定するなど、取組の成果が事後に検証可能な仕組みを構築すること。

(4)重点支援による取組は、支援終了後については各国立大学法人の既存の財源による継続を原則としつつも、重点支援を行った優れた取組については、その経費を運営費交付金の配分に一定の加算をするなど、その取組が継続して行えるような仕組みを導入すること。

(5)学長がリーダーシップを発揮し、学内のマネジメント機能を強化する観点から、組織の自己変革や新陳代謝を進めるための教育研究組織や学内資源配分等の見直しを促進する仕組みを導入すること。

(6)国立大学法人運営費交付金の一部の算定の際、第2期中期目標期間に係る業務の実績に関する評価の結果を反映させ、これに基づく配分を行うこと。


<動向2>運営費交付金の在り方に関する検討(審議まとめ)

日本再興戦略 改訂2015」(平成26年6月閣議決定)において、運営費交付金の重点配分導入による大学間競争の促進を図るため、運営費交付金の配分方法を年末までに取りまとめることとされたことから、文部科学省は、第3期中期目標期間における国立大学法人運営費交付金の在り方について(審議まとめ)」(平成27年6月)を取りまとめ、公表しました。

この審議まとめでは、国立大学法人の法人化以降の現状と課題、これまでの運営費交付金に係る課題を整理した上で、第3期中期目標期間における国立大学法人の在り方を提示し、運営費交付金の配分方法、取組の評価方法等が提言されています。

主なポイントは次のとおりです。

第3期の国立大学法人運営費交付金の在り方
  • 運営費交付金は、国立大学法人が安定的・持続的に教育研究活動を行うために必要不可欠な経費
  • 各国立大学法人が自らの努力で増収を図った場合に、運営費交付金を減額しないという従来の取扱いは踏襲
  • 各国立大学法人のビジョンに基づき、機能強化を迅速に実現
  • 各国立大学法人の規模、分野、ミッション、財務構造等を踏まえ、きめ細かな配分方法を実現するとともに、透明性を向上

改善点1 機能強化の方向性等に応じた重点配分
  • 国立大学の多様な役割や求められている期待に応える点を総合的に勘案し、機能強化の方向性に応じた取組をきめ細かく支援するため、予算上、三つの重点支援の枠組みを新設
  1. 主として、地域に貢献する取組とともに、専門分野の特性に配慮しつつ、強み・特色のある分野で世界・全国的な教育研究を推進する取組を中核とする国立大学を支援
  2. 主として、専門分野の特性に配慮しつつ、強み・特色のある分野で地域というより世界・全国的な教育研究を推進する取組を中核とする国立大学を支援
  3. 主として、卓越した成果を創出している海外大学と伍して、全学的に卓越した教育研究、社会実装を推進する取組を中核とする国立大学を支援
  • 三つの枠組みから大学が自ら一つ選択し、取組構想を提案。その際、測定可能な評価指標(KPI)等を設定。その後、有識者の意見を踏まえて支援する取組を選定
  • 基本的に中期目標期間を通じて支援を実施。原則、年度ごとに取組構想の進捗状況を確認するとともに、評価指標を用いて向上度を評価し予算に反映
  • 優れた取組については、支援終了後運営費交付金の配分に一定の加算

改善点2 学長の裁量による経費(仮称)の区分
  • 学長のリーダーシップを予算面で発揮し、組織の自己変革や新陳代謝を進めるため、教育研究組織や学内資源配分等の見直しを促進する仕組みとして「学長の裁量による経費」を区分
  • 文部科学省が、中期目標期間中の経費の規模を算出し、各国立大学に提示。提示した規模以上の規模で各国立大学が取組を実施
  • 有識者の意見を踏まえつつ、この経費を活用した業務運営の改善の実績や教育研究活動等の状況を3年目・5年目に確認。その結果に応じて改善の促進や予算配分に反映

<動向3>国立大学経営力戦略

文部科学省は、上記審議まとめで示した内容を踏まえ、第三期中期目標期間における国立大学の改革の方向性を取りまとめた国立大学経営力戦略」(平成27年6月)においても、運営費交付金の改革について、「機能強化に積極的に取り組む国立大学に対し、その機能強化に応じて、国立大学運営費交付金を重点配分する仕組みを導入すること」、「機能強化促進係数(仮称)により一定の財源を確保した上で、改革に積極的に取り組む国立大学に対し運営費交付金を重点配分する仕組みを導入すること」について言及しています。

Ⅱ 経営力を強化するための方策

1 大学の将来ビジョンに基づく機能強化の推進

第3期中期目標期間においては、各国立大学において、強み・特色を最大限に生かし、自ら改善・発展する仕組みを構築することにより、学問の進展と軌を一にした資源配分、組織再編、マネジメント改善等を通じて持続的な「競争力」を持ち、高い付加価値を生み出す。「国立大学改革プラン」を踏まえてこれまで進めてきた各国立大学の機能強化の取組を基に、第3期においては各国立大学の強み・特色の発揮を更に進めていくため、機能強化に積極的に取り組む国立大学に対し、その機能強化の方向性に応じて、国立大学法人運営費交付金を重点配分する仕組みを導入する。その際、国立大学に求められる多様な役割や様々な期待に応える点を総合的に勘案し、第3期における各国立大学の機能強化の方向性に応じた取組をきめ細かく支援するため、三つの重点支援の枠組みを新設し、取組の評価に基づくメリハリある配分を実施する。

重点支援①
主として、地域に貢献する取組とともに、専門分野の特性に配慮しつつ、強み・特色のある分野で世界・全国的な教育研究を推進する取組を中核とする国立大学を支援。

重点支援②
主として、専門分野の特性に配慮しつつ、強み・特色のある分野で、地域というより世界・全国的な教育研究を推進する取組を中核とする国立大学を支援。

重点支援③
主として、卓越した成果を創出している海外大学と伍して、全学的に卓越した教育研究、社会実装を推進する取組を中核とする国立大学を支援。

この三つの枠組みについては、第3期においても各国立大学が多様な役割を果たすことを前提に、特に重点的に取り組む内容を踏まえ、各国立大学自らが一つの枠組みを選択し、取組構想を提案する。その際、原則として測定可能な評価指標(KPI)等を設定する。文部科学省は、この提案を受け、有識者の意見を聴取し、支援する取組を選定する。本枠組みによる支援は、基本的に中期目標期間を通じて行う。取組構想の評価は、原則、年度ごとに進捗状況を確認するとともに、評価指標等を用いてその向上度合いに応じ、例えば3~5程度の段階で行い、重点支援に反映する。優れた取組については、支援終了後、国立大学法人運営費交付金の配分に一定の加算を行う。透明性ある評価手法や国立大学法人運営費交付金の具体的配分方法については、平成27年中を目途にとりまとめ、公表する。

2 自己変革・新陳代謝の推進

(2)学長裁量経費によるマネジメント改革

学長のリーダーシップやマネジメント力の発揮を予算面で強化する観点から、教育研究組織や学内資源配分等の見直しを促進するための仕組みとして、一般運営費交付金対象事業費の中に「学長の裁量による経費」(仮称)を新たに設け、組織の強み・特色や機能を最大限発揮できるようにする。この経費は、大学ガバナンス改革法の施行等を踏まえ、これまで各国立大学で取り組んできた実績をもとに、各国立大学のビジョンに基づき、IR(インスティトゥーショナル・サーチ)体制の充実による学内の現状分析を踏まえて学内資源の再配分の取組(人的・物的・予算・施設利用等の見直し)などを行うことにより、教育研究活動の活性化や新たに当該大学の強み・特色となる分野の醸成、学長を支援する体制の強化など、業務運営の改善を図ることを目的とする。また、この経費は、有識者の意見を踏まえつつ、各国立大学におけるこの経費を活用した業務運営の改善の実績や教育研究活動等の状況を中期目標期間の3年目及び5年目に確認し、その結果に応じて改善の促進や予算配分に反映する。
(続く)