2016年6月22日水曜日

参院選挙戦スタート

参議院議員選挙が今日公示されました。各紙の社説をご紹介します。



参院選がきょう公示される。最大の焦点は安倍晋三首相の3年半の政権運営と、なかでもアベノミクスへの評価だろう。日本の成長力をどう底上げし、国民の将来不安をいかに解消していくのか。国の針路を明らかにするような与野党の論戦を望みたい。

アベノミクスを問う

公示に先立ち、21日に日本記者クラブ主催の9党首討論会が開かれた。かなりの時間が経済再生と財政健全化をどう実現していくのかの議論にあてられた。

安倍首相(自民党総裁)は「就職率も有効求人倍率も高い水準となった。成果を出してきた」と述べ、2016年度の税収が国と地方をあわせて12年度より21兆円増加すると強調した。

公明党の山口那津男代表は「経済再生、デフレ脱却をさらに進め、その実感を地方や中小企業、家計へと国の隅々まで届ける」と訴えた。

民進党や共産党などは経済政策の大きな変更が不可欠だと主張した。民進党の岡田克也代表は「一人ひとりが豊かになっていない。働き方の大改革を実現していくなかで持続的な成長がはじめて可能になる」と批判した。

共産党の志位和夫委員長は「アベノミクスによる国民生活の破壊、格差と貧困を是正する」と力を込めた。

アベノミクスは円安や株高で企業収益をいったん押し上げたが、規制改革をはじめとする成長戦略はまだ十分な効果があがっていない。与野党は子育て支援や所得の格差是正などを重点政策に掲げている。「分配と成長」の考え方や必要財源をどう確保していくかといった具体策をもっと分かりやすく説明すべきだ。

安倍政権は17年4月の消費増税を2年半延期すると決めた。野党も増税先送りを容認する立場のため争点になりにくい。だが2度の増税延期で旧民主、自民、公明3党による「社会保障と税の一体改革」の合意は事実上破綻した。給付と負担のバランスをきちんと議論しないと、財政はさらに危機的状況に追い込まれかねない。

外交や安全保障では、立場の違いが際立った。民進党や共産党などは昨年成立した集団的自衛権の行使容認を柱とする安全保障関連法について「憲法9条の平和主義に反しており廃止を求める」との立場で足並みをそろえた。

民進党は環太平洋経済連携協定(TPP)に関しても、コメや麦など重要5品目の聖域が守られていないとして「今回の合意には反対」との立場を示している。

野党として「政府の対応は問題点が多い」と反対論を展開するのはたやすい。しかし民進党は政権を経験した幹部が多い野党第1党として、建設的な対案を示す責任がある。共産党などとの選挙協力を優先して基本政策の軸がかすむようでは困る。

憲法改正を巡っては、岡田代表が「改正は論点でないというのはおかしな話だ。しっかりと参院選で議論すべきだ」と指摘し、与党の争点隠しだと強調した。首相は「自民党はすでに改正案を示している。(衆参両院の)憲法審査会で冷静に議論し、集約していくべきだ」と述べるにとどめた。

次世代に何を残すのか

自民党では改憲で優先すべき項目として、大災害時などの政府の対応を定める「緊急事態条項」の新設が有力視されている。野党も「安倍政権での改憲論議には応じない」という態度ではなく、時代に合わせた憲法のあり方を議論していく必要がある。

首相は参院選の勝敗ラインについて「与党で改選定数の過半数(61議席)」と繰り返している。首相は「そんなに低い目標ではない。目標を定めた以上、責任が伴うのは当然だ」と語った。

民進党は本格的な初陣となる今回の選挙で、二大政党の一角を占め、将来の衆院選での政権交代を視野におく勢力を確保できるかがカギとなる。与党など改憲勢力が衆院に続き、参院でも改正案の発議に必要な3分の2以上の議席を確保できるかも焦点だ。

参院選では18歳と19歳が初めて選挙権を得る。日本は高齢者の声が政治に反映されやすい「シルバー民主主義」の問題点が指摘されている。与野党は互いに揚げ足を取るのではなく、次世代にどんな日本を引き継ぐのかという骨太の政策論争を展開してほしい。



参院選がきょう公示される。

安倍首相が前面に掲げるのは経済だ。一方、その裏に憲法改正があるのは明白だ。

首相は、必ずしも改憲を争点にする必要はないという。国会での議論がいまだ収斂(しゅうれん)していないというのが、その理由だ。

しかし、改憲に意欲的な首相自身がどこをどう変えたいのかをまったく明かさないのでは、有権者は判断しようがない。

こんな逆立ちした政治の進め方に弾みをつけるのか、ブレーキをかけるのか。この参院選には「政権の中間評価」ではすまない重みがある。

民意とのねじれ

安倍氏が2012年12月に首相に返り咲いてから、参院選は2度目になる。振り返れば「安倍1強政治」の出発点となったのは、政権交代から7カ月後に衆参の「ねじれ」を解消した13年の前回参院選だった。

この時に自民、公明両党に票を投じた有権者には、民主党政権の混乱にあきれ、安定した政治で景気回復に取り組んでほしいとの思いが見てとれた。

3年前のねじれ解消を受け、私たちは社説で「民意とのねじれを恐れよ」と書いた。中小企業や地方で働く人々の賃金は上がるのか、財源を確保して医療や福祉を安定させられるのか。首相がこうした期待に応えぬまま「戦後レジームからの脱却」にかじを切れば、民意を裏切ることになるとの趣旨だ。

昨年の安全保障関連法の制定からなお続く反対運動のうねりをみれば、この懸念は的外れではなかったと感じる。

消費増税先送りという「新しい判断」の信を問う。これが首相のいう争点だ。税収や就業者の増加といった経済指標を強調し、アベノミクスを前に進めるか後戻りさせるかと訴える。

首相は本来、増税を「確実に実施する」という約束を破った責任を取るべきだ。そうしない裏には、「苦い薬は飲みたくない」という多くの国民の率直な思いに乗じた計算が見える。

安倍氏は「与党で改選議席の過半数獲得」を勝敗ラインに掲げる。覚悟を示したかに見えるが、勝敗ラインを割れば退陣するのかは、はっきりしない。

低い投票率の結果

安倍氏率いる自民党と公明党が3連勝した12年以降の衆参両院の選挙には、共通の特徴がある。投票率が低いのだ。

12年衆院選で59%台、13年参院選と14年衆院選はともに52%台で、14年は衆院選として戦後最低を記録した。

民主党へと政権交代した09年衆院選の69%台と比べれば、その差は大きい。投票者数でみれば、09年の7202万人に対し14年は5474万人。単純計算で、1700万あまりの人が投票所に行くのをやめた。

自民党はこの間、野党転落と政権復帰の両方を経験したが、実は得票数に大きな変動はない。比例区では、いずれの選挙でも棄権を含めたすべての有権者の5人に1人に満たない支持で推移している。

つまり、安倍自民党は支持者をさほど増やしているわけではない。死票が出やすい選挙制度のもと、民主党支持の激減と棄権者の増加が、自民党に得票以上に多くの議席をもたらしているに過ぎない。

解釈改憲による集団的自衛権の行使容認。特定秘密保護法の制定や、放送法を振りかざした国民の知る権利や報道の自由への威圧。憲法の縛りを緩めるばかりか、選挙で問わぬままに改正論議に手をつけようという政権の危うさを目の当たりにした有権者に何ができるか。

「悪さ加減」を選ぶ

答えの一つが、自らの一票を有効に使う「戦略的投票」だ。

聞き慣れない言葉かもしれない。一例を挙げれば、最も評価しない候補者や政党を勝たせないため、自分にとって最善でなくとも勝つ可能性のある次善の候補に投票することだ。

首相もたびたび演説に引用する福沢諭吉は、こんな言葉を残している。

「本来政府の性は善ならずして、注意す可(べ)きは只(ただ)その悪さ加減の如何(いかん)に在るの事実を、始めて発明することならん」(時事新報論集七)。政治学者の丸山真男は、戦後にこれを「政治的な選択とは〈中略〉悪さ加減の選択なのだ」(「政治的判断」)と紹介した。

民主党政権の失敗は、なお多くの有権者の記憶に生々しい。その後の低投票率には、政治への失望や無力感も反映されているのだろう。

だが、このままでは民主主義がやせ細るばかりか、立憲主義も危機に瀕(ひん)する。

意中の候補や政党がなくとも、「悪さ加減の選択」と割り切って投票所に足を運ぶ。7月10日の投票日までに、選挙区と比例区2枚の投票用紙をいかに有効に使うかを見極める。

18、19歳の240万人もの若者を有権者として新たに迎える選挙だ。上の世代が、ただ傍観しているわけにはいかない。



参院選がきょう公示される。安倍晋三首相による3年半にわたる政権運営に対し、有権者が評価を下す選挙だ。

消費税率引き上げの再延期で揺れる社会保障の将来像など、政党が中長期的な課題で責任あるビジョンを示せるかが試される。同時に選挙結果は首相が実現を目指す憲法改正の行方にも大きく影響する。国の針路を左右する審判だと捉えたい。

参院選の直前、首相は消費増税の再延期を決めた。国民に約束していた来春の引き上げ方針を覆し、「新しい判断」だとして海外の経済状況を理由に2年半先送りした。

本当の国民の利益とは

この判断が今回の選挙で大きなポイントになっている。首相はその是非を仰ぐとしている。消費増税の延期を理由に衆院を解散した2014年衆院選パターンの繰り返しだ。

増税の先送りは短期的には国民にとって負担軽減だ。来春の引き上げは野党もそろって反対している。

だが、政権与党が2度にわたり増税を延期した事実はより重い。

社会保障の拡充にあてるはずだった約1兆4500億円の財源が失われた。しかも、19年10月に引き上げるという首相の再約束が守られる保証はない。人口減少や超高齢化に備える税と社会保障の一体改革の枠組みが崩れかねない局面だ。

だからこそ、政党がどこまで将来に責任を持った公約を掲げているかが厳しく吟味されるべきだ。

自民党は「成長と分配の好循環」を掲げる。だが、肝心の成長戦略は思い通りの成果をあげていない。

増税先送りに伴う減収分は「赤字国債に頼らず安定財源を確保」と説明するが、当面は税収増頼みというのではこころもとない。減収に伴い社会保障拡充策の何を後回しにするかも首相は明確にしていない。「すべてを行うことはできない」と述べるにとどまっている。

野党、民進党はどうか。「分配と成長の両立」を強調し、保育士給与の月額5万円アップなどを公約に盛り込んだが、施策には財源の不安がつきまとう。増税を先送りしても予定通りに社会保障は拡充し、財源は行政改革で生み出すと主張する。足りなければ借金の赤字国債でまかなうというのでは説得力に乏しい。

与野党が学生への給付型奨学金の検討や子育て支援など、格差是正や女性、若い世代に政策をシフトさせようとしている方向は正しい。

ただ、国と地方の借金が1000兆円を超すうえ、医療や介護の支出は増えていくのが現実だ。痛みを先送りするほど将来の不利益は増す。持続可能な社会保障の全体像を各党はより踏み込んで示すべきだろう。

国の将来にかかわるテーマに改憲問題がある。

衆院に続き、参院でも自民党を中心とする改憲派の勢力が改正案の発議に必要な3分の2以上の多数を制するかが焦点だ。今回の参院選は、従来にも増して改憲問題の行方に直結する。

ところが自民は公約で「国民合意の形成に努め、実現を目指す」などとあっさりふれただけだ。首相は次の国会で具体的に議論するとしている。きのうの日本記者クラブの党首討論でも「(改憲を)決めるのは国民投票だ」との理屈で争点化に慎重な姿勢を示した。 ◇憲法の議論を避けるな

だが、改憲案を発議するのは国会だ。その国会の構成員を選ぶ選挙である以上、首相の説明はおかしい。選挙に不利だから争点にせず、発議に必要な議員の数は確保しておこうというのだろうか。

安倍政権はこれまでも選挙で経済政策を争点として強調し、集団的自衛権行使を容認する憲法解釈の変更や特定秘密保護法などの基本政策の転換を正面から提起してこなかった。自らの政権で改憲を目指すのに、首相が中身について語らないというのでは筋が通らない。

首相は自民、公明両党で改選議席過半数(61議席)の獲得を目標に掲げる。自民が57議席以上を得れば1989年以来、27年ぶりに参院での単独過半数を回復することになる。

野党側は共闘で対抗している。民進、共産、社民、生活4党が32ある1人区すべてで候補を統一し、自民候補と対決する。「自民1強」をより強めるか、それともブレーキをかけるのかの構図は明確になった。

4野党は「改憲派3分の2阻止」や安全保障関連法の廃止を共通目標に掲げる。ただ、憲法観や安全保障をめぐりそれぞれの主張にはかなりの違いがある。共闘を優先するあまり、踏み込んだ政策論争を避けるようなことがあってはならない。

近年の国政選挙では投票率の低下傾向が深刻化している。

政権批判票が行き場を失っていることや、政治全体への不信感の表れだろう。だが、有権者が政治を人ごとのように感じて距離を置いては、民主主義は正常に機能しない。

参院選公示とともに選挙権年齢が「18歳以上」に引き下げられる。約240万人の新有権者の政治参加が期待される。

未来に責任を持てる政党や候補を選ぶ時だ。18日間の舌戦にじっくりと耳を傾けたい。


参院選きょう公示 危機克服への青写真競え 国と国民守り抜く覚悟あるか|産経新聞

国と国民守り抜く覚悟あるか

日本が直面している内外の危機は、深刻さを増している。きょう公示される参院選では、どうやって国家として生き残り、国民の生活を守っていくかの構想力が問われている。

21日の日本記者クラブ主催の党首討論会では、その問いに対する明快な答えを与野党から聞くには至らなかった。

不人気な政策、国民に痛みを求める政策であっても、必要なものなら正面から提示し、理解を得る必要がある。それなしには選挙を重ねても、現実の懸案解決にはつながりにくいからだ。

安保の現実に目向けて

国民の関心と懸念に回答しようという姿勢が特に希薄なのが、外交・安全保障の分野である。

中国の軍艦が、尖閣諸島(沖縄県)周辺の接続水域や口永良部島(くちのえらぶじま)(鹿児島県)周辺の領海に侵入した。中国は南シナ海で、国際法を無視し、人工島の軍事拠点化を進め、地域や国際社会にとっても大きな懸念となっている。

北朝鮮の弾道ミサイル発射の兆候があるとして、中谷元(げん)防衛相は21日、自衛隊に迎撃を認める破壊措置命令を出した。

こうした環境に日本があることを、各党はもっと強く認識すべきである。国と国民をどう守り抜いていくか、日本に有利な外交環境をいかに醸成すべきか。いずれも横に置いて済ませられる課題ではなかろう。

その観点からも、民進党の岡田克也代表が、自衛隊を「憲法違反」と断じた共産党の志位和夫委員長とともに安全保障関連法の廃止を主張しているのは、無責任のそしりを免れない。国民の生命と安全を守る責務を、初めから放棄している。

安保関連法は戦争を抑止して平和を維持する法制だ。集団的自衛権の限定行使を容認し、日米同盟の抑止力を強めた。安倍晋三首相が「日米が力を合わせられるようになり、日本の安全はさらに強化された」と語ったのは妥当だ。

岡田氏は「安保法ができる前の状態に戻すことで、日米同盟がおかしくなるという話は成り立たない」と語ったが、耳を疑う。

自衛隊と米軍がより守り合えるようになった安保法をもし廃止すれば、米政府や米国民は、日本を仲間の国だとどこまで思い続けるだろうか。

同盟関係が損なわれると考えるのが普通だ。そうなって喜ぶのが日米同盟を敵視する国々であることにもし気付かないなら、国政を語る資格があるだろうか。

安保法の是非にとどまらず、安保環境の現実を直視した上で、日本の平和を積極的に守っていく具体的方策が問われている。

軍事力による威嚇、挑発をためらわない中国、北朝鮮などにどのように対応していくべきか。自衛隊の態勢や外交政策に改めるべき点や一層力を入れるべき点はないのか。国民の前で具体論を語ってほしい。

将来へのツケ回避せよ

国民の関心が大きい経済政策や社会保障をめぐる議論の内容もいまだ低調である。

デフレ脱却による経済再生が最優先課題であることは言うまでもない。アベノミクスは道半ばだというなら、民間の活力を高める規制改革などの成長戦略を加速させる必要がある。

だが首相はそれには具体的に言及しなかった。有権者は、経済をどうやって底上げするかの方策を聞きたいのだ。

岡田氏は、平成32年度にプライマリーバランスを黒字化させる政府目標に関し「無理だ」と指摘し、首相は「簡単な目標ではない」と語った。どうしたら将来世代にツケを回さずにすむか、さらに突っ込んだ議論がほしい。

消費税増税の再延期で実施が危ぶまれる社会保障政策の財源に関し、首相は「税収を増やし安定財源を確保する」という。当面はしのげたとしても、それを安定財源と言うのは無理だ。

おおさか維新の会の片山虎之助共同代表が、社会保障・税一体改革を継続するのか、首相に問うたのは理解できる。

憲法改正について、首相は「自民党は結党以来、憲法改正を掲げてきた」と述べたが、遊説先でも堂々と訴えるべきだ。

「18歳以上」の新有権者に限らず、すべての有権者に高い関心を抱いてもらうには、各党が意味のある選択肢を示すのが先決だ。



経済改革の実効性を吟味したい

安倍政権の経済、社会保障、外交・安全保障政策などを信任するのか。あるいは、転換を求めるのか。日本の針路を左右する重要な選挙だ。

参院選がきょう公示される。

デフレ脱却と財政再建の両立、少子高齢化と人口減社会への対策の強化、不安定化する国際情勢への対処――。日本は今、多くの困難な政策課題に直面している。

各政党と候補者は、説得力ある処方箋を示し、積極的な政策論争を展開してもらいたい。

参院選の最大の争点は無論、アベノミクスの是非である。

2014年の衆院選と同様、安倍首相は消費税率10%への引き上げを延期し、その信を問う考えを示している。日本記者クラブ主催の9党党首討論会でも、経済政策が論争の焦点となった。

安倍首相は、アベノミクスについて「リーマン・ショックで失われた国民総所得50兆円を今年中に取り戻せる」と語った。税収増、雇用改善の成果も強調した。

公明党の山口代表は、「アベノミクスの成果が十分に及んでいないところに希望を広げたい」と述べ、地方や中小企業対策に重点を置く考えを示した。

重要性増す安保関連法

民進党の岡田代表は、「金融や財政(政策)で(成長を)膨らませるだけのやり方は限界がある」などと安倍政権を批判し、経済政策を転換するよう主張した。

消費増税の延期はやむを得ないが、景気の足踏み状況を早期に脱し、19年10月には確実に増税できる環境を実現する必要がある。

与党は、今秋に予定される当面の経済対策や、中長期的な成長戦略の強化策の骨格を示すべきだ。野党も、アベノミクスの批判一辺倒でなく、どう転換するかを具体的に明らかにせねばなるまい。

自民党の公約は「成長と分配の好循環」、民進党は「分配と成長の両立」をそれぞれ明記した。

成長と分配の順番が逆だが、保育士の待遇改善、最低賃金の引き上げなど、共通する政策も多く、違いが分かりにくい。両党には、さらなる説明が求められよう。

集団的自衛権の行使を限定容認した3月施行の安全保障関連法も重要な論点となろう。

首相は「日米同盟の絆を強くした。日本の安全は、さらに強化された」と意義を指摘した。共産党の志位委員長は「自衛隊を海外の戦争に出していいのか」と述べ、関連法の廃止を主張した。

北朝鮮は核とミサイルによる軍事挑発を続け、中国は独善的な海洋進出を拡大させる。安保関連法を効果的に運用し、日米同盟を強化する重要性は一層高まった。

憲法は冷静に話し合え

与党は、こうした実情を丁寧に訴え、国民の理解を広げる努力を尽くすことが大切である。

憲法改正について、首相は、参院選後に、衆参の憲法審査会で具体的な改正項目を絞る作業を進めたい考えを改めて示した。

岡田氏は、「お互い協力する姿勢が安倍政権にあるのか。立憲主義に対する認識が全く間違っていないか」と疑問を呈した。

与党は、憲法改正を参院選の争点に据えることに慎重な姿勢を示している。首相は街頭演説でほとんど触れず、公明党は公約に盛り込まなかった。

野党との対立を先鋭化するのは選挙戦術上も、選挙後に幅広い合意形成を目指すうえでも、得策でないと判断したのだろう。だが、少なくとも、どういう改正項目を重視し、優先したいのかを示さなければ、有権者は戸惑おう。

野党も、9条改正反対と唱えるだけでは無責任である。

憲法は、70年近く一度も改正されず、現実との様々な乖離かいりが指摘される。最高法規をより良いものにする観点から、冷静に議論することが求められる。

野党協力は実るのか

自民、公明の与党は改選議席の過半数の61議席を獲得目標に掲げる。さらに、憲法改正発議に必要な参院の3分の2を占めるため、改正に前向きなおおさか維新の会などとの合計で78議席を確保できるか。この点も注目される。

民進、共産、社民、生活の野党4党は、「1強」の自民党に対抗するため、32ある1人区のすべてで統一候補の擁立に成功した。憲法、安全保障など基本政策が異なる中、「野合」批判をかわし、選挙協力の実を得られるか。

新たに選挙権を手にした18、19歳の約240万人を含め、有権者は、各党の訴えをしっかりと吟味し、誤りなき選択をしたい。


参院選 きょう公示 「安倍政治」の信を問う|東京新聞

参院選がきょう公示される。安倍晋三首相は自らの経済政策を最大の争点と位置づけるが、問われるべきは三年半にわたる「安倍政治」そのものだ。

きのう行われた日本記者クラブ主催の九党首討論会。自民党総裁でもある安倍首相は自らの経済政策「アベノミクス」について「有効求人倍率は二十四年ぶりの高い水準になった。その成果を出してきた」と強調した。

首相は参院選を、来年四月に予定していた消費税率10%への引き上げを二年半、再び延期する「新しい判断」について「国民の信を問う」選挙と位置付けている。

成長重視政策の是非

首相自身が成果を上げたと自信を深めるアベノミクスを「最大の争点」にして支持を取り付け、政権運営の原動力としようというのが、首相の思惑なのだろう。

逆進性が高く、景気に悪影響を与える消費税の増税見送りは妥当だとしても、増税できる経済状況をつくり出せると豪語していた公約を実現できなかった「失政」を不問に付すわけにはいかない。

成長重視のアベノミクスは格差を拡大し、個人消費を低迷させたと指摘される。そもそも正しい政策だったのか、一方、野党側の経済政策に実現性や妥当性はあるのか。各党、各候補の主張に耳を傾け、公約を比較して、貴重な票を投じる際の判断材料としたい。

私たちの暮らしにかかわる経済政策は重要だが、それにばかり気を取られていてはいられない。今回の参院選は従来にも増して、日本の将来を大きく左右する可能性を秘めた選択になるからだ。

最大の岐路に立つのが、首相自身が二〇一八年九月までの自民党総裁在任中に改正を成し遂げたいと明言した憲法である。

憲法の争点化避ける

自民、公明の与党は衆院で三分の二以上の議席を有し、参院選で自公両党と「改憲派」のおおさか維新の会、日本のこころを大切にする党を合わせて三分の二以上の議席を得れば、衆参両院で憲法改正の発議に必要な議席に達する。

首相は憲法改正について「選挙で争点とすることは必ずしも必要はない」と、参院選での争点化を避けているが、安倍内閣の下での過去の選挙を振り返り、政権の意図を見抜く必要があるだろう。

例えば一三年の前回参院選。首相は「三本の矢」政策の成果を強調し、首相自ら「アベノミクス解散」と名付けた一四年の衆院選では、消費税率10%への引き上げを一年半延期して「景気回復、この道しかない」と訴えかけた。

首相は経済政策を掲げて二つの国政選挙に勝利したのだが、参院選後に成立を急いだのは公約ではひと言も触れていない特定秘密保護法である。衆院選後には憲法違反と指摘される安全保障関連法の成立も強行した。

選挙であえて争点化せず、選挙が終われば多くの国民が反対する政策を強行するのは、安倍政権の常とう手段とも言える。国の在り方を定める憲法で、同じ手法を採ることが許されるはずがない。

参院選では、政策はもちろん、野党を含めた合意形成の努力を怠り、選挙で「白紙委任」されたとばかりに数の力で押し切ろうとする安倍政権の政治姿勢や政治手法の是非も厳しく問われて当然だ。

「安倍一強」の政治状況に歯止めをかけるため民進、共産、社民、生活の野党四党は選挙の勝敗を大きく左右する三十二の「改選一人区」のすべてで候補者を一本化して選挙戦に臨む。

自民党を利する野党候補乱立を避けるため、「野党は共闘」と求めた市民の声に応えたものだ。

理念・政策の違いは残るが、歴代内閣が継承してきた憲法解釈を一内閣の判断で変えて安倍内閣がないがしろにしたと指摘される立憲主義の回復と、憲法違反と指摘される安保関連法の廃止は共闘の大義に十分なり得る。選挙戦では中傷合戦に陥ることなく、堂々の政策論争を交わしてほしい。

公職選挙法が改正され、選挙権年齢が「二十歳以上」から「十八歳以上」に引き下げられた。七十一年ぶりの参政権拡大だ。

自ら意思示してこそ

今回の参院選では二十歳になった人に加え、十八、十九歳の約二百四十万人が有権者に加わる。

高齢者層に比べて若年層の投票率は低いが、年齢に関係なく同じ重みの一票だ。多少手間がかかっても各党・候補者の公約を比較して、投票所に足を運んでほしい。

自分の考えに合致する投票先が見当たらなかったら「よりまし」と考える政党や候補者に託すのも一手だろう。棄権や浅慮の「お任せ民主主義」ではなく、自らの意思を示すことだけが、未来に向けた道を開くと信じたい。

2016年6月19日日曜日

平成29年度概算要求の方向性

国立大学法人運営費交付金の概算要求スタイルが前回(平成28年度要求)から大きく変わりました。

第三期中期目標期間の二年目に当たる平成29年度概算要求については、平成28年度における予算配分の仕組みを基に、評価方法等の改善を図りつつ、戦略の着実な実施に向けた継続的な支援、組織整備への重点支援、基幹経費化への取組を進めていくこととされています。

具体的には、

  1. 平成28年度から取組を開始している戦略に対しては、進捗状況等の評価を踏まえつつ、着実に配分額を確保して、中期目標期間6年間にわたる構想が実施されるよう継続した支援が行われます。
  2. 組織整備については、人件費相当額について、各大学からの拠出金額の再配分とは別に支援するなど、継続分、新規分ともに戦略の重要な役割を担う組織整備について支援されることになっています。
  3. 基幹経費化の仕組みが平成29年度から新たに導入されます。優れた実績のあるものについて、各大学等からの要望と、取組の進捗状況等をもとに基幹経費化を進め、大学における基幹経費の充実が図られることになります。
  4. 評価についても、事前に何が評価の対象となるのかを明確にするとともに、評価方法等の改善が図られます。
  5. このほか、WPIプログラムについては、支援終了後も、拠点の優れた研究システムの維持・発展を継続していくため、運営費交付金と補助金の両面から継続的な支援が可能となるよう、現在、文部科学省で検討が進められています。


参考までに、過日開催された国立大学法人学長会議で示された「平成29年度国立大学法人運営費交付金の重点支援に係る概算要求の方向性についての現段階での考え方」には次のように記載されています。

平成29年度の運営費交付金では引き続き、「3つの重点支援の枠組み」による戦略ごとの支援を行う。ポイントは次の3点。

1 戦略に対する支援の着実な確保と係数による財源を活用した重点支援

平成28年度当初に設定し、取組を開始している戦略に対する支援については、平成28年度に配分した戦略ごとの予算額の規模を踏まえつつ、進捗状況等の評価に基づき、予算編成過程において着実に配分額を確保。

加えて、基幹経費から機能強化促進係数による財源を確保した上で、2分の1程度を運営費交付金「機能強化促進分」として戦略ごとの支援に充て、残りの2分の1程度を活用して「新規の補助金」を創設。「新規の補助金」での支援内容は、各大学から要求される取組内容等を踏まえ、予算編成過程において決定。

2 教育研究組織整備に対する重点支援

戦略の下に位置付けられる教育研究組織整備の人件費相当額については、平成28年度から継続する取組について確実に支援するとともに、新たに実施される教育研究組織整備に対しても、機能強化促進係数による再配分とは別に支援。

3 基幹経費化の導入

「機能強化促進分」により既に取組を実施し優れた実績のあるものについては、各大学からの要望に基づき、取組の進捗状況等を踏まえ、人件費相当額を中心として、予算編成過程において基幹経費化。


なお、詳細については、今後文部科学省から各国立大学法人宛通知される「平成29年度国立大学法人運営費交付金の重点支援に係る概算要求の方向性について」をご参照ください(ただし、相変わらず、財務担当職員にしか解読できないほど難解な通知内容になっています。各大学の財務担当職員がいかにわかりやすく学内構成員に説明できるかが重要なポイントになると思われます)。


ちなみに、概算要求に係る今後のスケジュール(現時点)は以下のようです。

平成28年6月9日 国立大学法人学長・大学共同利用機関法人機構長会議開催
平成28年6月中下旬 「概算要求の方向性」の事務連絡発出
平成28年6月中下旬 「概算要求説明資料の作成依頼」の発出
平成28年7月上中旬 概算要求説明資料(特殊要因経費、収入見積額、共通政策課題分等)提出締切
平成28年7月下旬 概算要求説明資料(機能強化促進分)提出締切
平成28年8月下旬 「評価指標の実質化調書」提出締切
平成28年10月上旬 「進捗状況等調書」提出締切

国立大学法人学長等会議における文部科学省(研究3局)からの説明

去る6月9日(木曜日)に、国立大学法人学長等会議が開催されました。

研究三局(科学技術・学術政策局、研究振興局、研究開発局)関係の説明要旨を抜粋してご紹介します。

1 政府方針政府方針(次期成長戦略、ニッポン一億総活躍プラン、骨太方針)(H28.6.2)における科学技術・学術政策の位置づけについて

6月はじめ、政府全体の政策方針として策定された「骨太方針2016」や「ニッポン一億総活躍プラン」においては、誰もが活躍できる一億総活躍社会を創っていくための「GDP600兆円」、「希望出生率1.8」、「介護離職ゼロ」といういわゆるアベノミクス新・三本の矢の全体像が示されています。

これらの政策文書において、科学技術・学術政策は、主に新三本の矢の「第一の矢」である「GDP600兆円の実現」の中に位置づけられています。

成長戦略である「日本再興戦略2016」においては、GDP600兆円の実現のためには、日本を取り巻く人口減少に伴う人手不足を克服する「生産性革命」が必要であるとされ、この生産性革命を主導する最大の鍵として、IoT(Internet of Things)、ビッグデータ、人工知能、ロボット・センサーの技術的ブレークスルーを活用する「第四次産業革命」の必要性が謳われています。 

と同時に、新たな産業構造を支える「人材強化」に向けた取組の必要性も言われています。

このように、第四次産業革命を実現する鍵の一つとして挙げられているのが、イノベーションの創出と人材の強化です。

これらを担うのが、国立大学法人や共同利用機関法人であり、各法人に対する社会的期待は非常に大きく、そのことが政府全体の政策文書の中でも明記されていることをまず申し上げたいと思います。

特に、成長戦略の総論部分では、「いよいよ、大学改革、国立研究開発法人改革の実現に向けた『行動の時』である。」、「第四次産業革命を迎えオープンイノベーションの機運がこれまで以上に高まっている。」との認識が示され、「組織」対「組織」の本格的な産学連携の必要性が謳われています。

このようないわゆるオープンイノベーションの取組は、成長戦略のみならず、第5期科学技術基本計画においても、「産業界による技術の捉え方を研究者が経験を通じて学ぶことや、技術課題に取り組む中で新たな基礎研究のテーマにつながる発見が期待できるなど、主体的かつ積極的な取組が期待される」と明記されていることから、サイエンスの観点からも重要なものであるほか、同じく第5期科学技術基本計画で掲げられた「企業から大学・研究開発法人等への投資の3倍増」に向けた具体策としても必要不可欠です。

各大学等におかれましては、各大学等の経営戦略の中で位置づけ、御取組を進めていただきたいと思います。

なお、これらの政策文書には、今申し上げたこと以外にも、 
  • 指定国立大学制度や大学の機能強化の取組等の「大学改革」 
  • 間接経費の適切な措置等の「競争的資金改革」 
  • 若手研究者の独立支援や新審査方式の導入などの「科研費改革」 
  • 「基礎研究・学術研究の強化」や「世界トップレベル研究拠点の構築」 
等、これまでの施策を今後とも着実に推進することが、しっかりと明記されています。

引き続き、文部科学省としては、これらの政策文書も踏まえ、各大学や共同利用機関法人における教育研究の振興に努めてまいりたいと考えています。

2 第5期科学技術基本計画について

科学技術基本計画は、科学技術基本法に基づき、科学技術の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、10年程度を見通した5年間の計画として策定するものです。

平成28年度は、第5期科学技術基本計画(平成28年1月22日閣議決定)の初年度になります。

目指すべき国の姿の実現に向けて科学技術イノベーション政策を推進するに当たり、第5期基本計画では、基本方針として4つの柱を位置付け、強力に推進していくこととしています。

本日は、特に大学等との関連が深いものとして、第4章のうち、人材力の強化、第2章のうち、超スマート社会の実現の2つに絞って簡単に御紹介します。

まず、「科学技術イノベーションの基盤的な力の強化」では人材力の強化の取組として、
  1. 若手研究者のキャリアパスの明確化 
  2. 科学技術イノベーションを担う多様な人材の育成・確保 
  3. 女性の活躍の促進や人材の流動化の促進 
などが盛り込まれ、このための大学の改革・機能強化が強く求められております。

また、インターネットの普及や情報通信技術の発達等を通じた社会の情報化は、サイバー空間と現実空間が様々な形で相互に影響しあい、そこから新たな産業やサービスが生まれる段階に入っています。このため、第5期科学技術基本計画では、サイバー空間の活用等により、豊かな暮らしがもたらされる「超スマート社会」を世界に先駆けて実現するために、一連の取組を更に深化させつつ「Society 5.0」として強力に推進することとしています。

「Society 5.0」の主な取組としては、 
  1. 共通基盤的なプラットフォームの構築
  2. ビッグデータ解析技術やAI技術などの基盤技術の戦略的強化 
などが挙げられ、そのために必要な研究開発人材やこれを活用して新たな価値やサービスを創出する人材の育成等が大学に求められています。

なお、超スマート社会の社会像や求められる人材像については、平成27年版科学技術白書に詳述されていますので合わせてご覧ください。

3 科学技術イノベーション総合戦略2016について

本年5月24日、「科学技術イノベーション総合戦略2016」が閣議決定されました。本戦略は、先ほど説明いたしました「第5期科学技術基本計画」の中長期的な方針の下、今年度から来年度にかけて重きを置くべき項目を明確化したものです。

本戦略の中でも特に検討を深めるべき項目として、 
  1. 「Society5.0」の深化と推進
  2. 若手をはじめとする人材力の強化
  3. 大学改革と資金改革の一体的推進
  4. オープンイノベーションの推進による人材、知、資金の好循環システムの構築
  5. 科学技術イノベーションの推進機能の強化
の5つを掲げています。この5つを軸として、第一章から五章まで、基本的な認識と重きを置くべき課題及び取組が具体的に示されています。

第一章では、AI・IoT・ビッグデータの技術開発の推進や人材育成等を通した「Society5.0」実現に向けたプラットフォームの構築、基盤技術の強化など、新たな価値創出のために必要な取組を行っていくこととしています。

経済・社会的課題については、第二章で、環境・エネルギー分野、健康・医療分野、国家安全保障分野への取組等を挙げています。

第三章では、科学技術イノベーション創出のために、人材、知、資金面での基盤を強化するために取り組むべき方向を述べています。特に、
  • 卓越研究員制度や産学官協働等による人材育成
  • 国立大学改革と研究資金改革の一体的推進等による資金改革
に取り組むべきとしています。

基盤の強化とともに、人材、知、資金の好循環システムの構築について、第四章で述べています。その中でも特に、
  • 産学官連携の「場」の機能の向上
  • 中小・ベンチャー企業創出のための政策
を強化していくとしています。

第五章では、今まで述べた科学技術イノベーション創出のための各取組を推進していく機能の強化、具体的には、大学改革や国立研究開発法人改革及び機能強化等を掲げています。

以上、本戦略の着実な実行に対し、皆様方には引き続き御協力を賜りますよう、お願いいたします。

4 研究活動における不正行為及び研究費不正への対応等ついて

(1)研究活動における不正行為について

研究活動における不正行為は、国民の科学への信頼を揺るがすものであり、文部科学省としても研究不正の防止に全力で取り組むことが重要と考えています。

文部科学省では、平成26年8月に「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」を策定し、昨年度、ガイドラインに基づく履行状況調査を実施しました。

履行状況調査の結果、多くの研究機関において、ガイドラインを踏まえた取組を着実に進めていることが伺える一方で、ガイドラインの趣旨が十分に浸透しておらず、対応が不十分な研究機関も見られました。

不正行為に対する対応は、研究者自らの規律、及び科学コミュニティ、研究機関の自律に基づく自浄作用が基本ですが、これに加えて、研究機関が責任を持って、それぞれの研究機関の性格や規模等を考慮しつつ、実効性のある体制を整備し、構成員の研究倫理意識を醸成していくことが不可欠です。

今後、文部科学省では、研究活動上の不正行為防止に関する各機関でのガイドラインを踏まえた対応について、チェックリストの提出を求め、各機関における研究活動上の不正行為の防止等の取組状況を把握し、対応が不十分な機関に対して、助言等を行う予定です。

各機関におかれては、引き続き、公正な研究活動の推進に努めていただきたいと考えています。

(2)研究費の不正使用について

研究費の不正使用も、研究機関及び研究者への国民の信頼を失墜させる重大な問題です。このため、文部科学省では、平成26年2月に「研究機関における公的研究費の管理・監査のガイドライン(実施基準)」を改正し、不正使用の防止のための対策を抜本的に強化したところです。

しかしながら、多くはガイドライン改正前の事案ではありますが、依然として不正使用事案が生じていることは誠に遺憾です。

文部科学省としては、研究費の不正使用の根絶に向けて、「管理・監査」のガイドラインの内容をしっかりと実行し尽くすことが必要と考えており、各大学におかれても、ガイドラインを踏まえ、不正根絶のために万全の体制整備に努めていただくようお願いいたします。

なお、文部科学省では、各大学における体制整備の状況について、段階的に調査を実施しております。調査の結果、体制整備が不十分と判断された機関に対しては、間接経費の削減や資金配分の停止等の措置をとることとなりますので、十分御留意のうえ御対応いただきますよう、お願いいたします。

また、不正根絶に向けて、一人一人の研究者の意識変革が重要であるのは言うまでもありません。そのためには、不正使用を行うことで、研究費の返還、懲戒処分、刑事告訴、全府省の競争的資金への応募制限など、重大な結果を招くことを理解していただくことが有効です。

このため、文部科学省では、公的研究費に係る不正事例をはじめとしたコンプライアンス教育用コンテンツ等をホームページに掲載しております。各大学におかれては、これらも活用いただき、全職員への周知徹底を行っていただくことを期待します。

なお、文部科学省においては、科研費を含む競争的資金の使い勝手の向上に努めているところです。各研究機関においても、昨年4月にお知らせしております関係府省申合せ「競争的資金における使用ルール等の統一について」の趣旨も踏まえながら、引き続き、競争的資金の使い勝手の向上に向けて、機関内におけるルールの適切な見直しに取り組んで頂くよう改めてお願いします。

5 科学研究費助成事業(科研費)について

科研費は、持続的なイノベーションの創出や大学の研究力強化の観点からも極めて重要な役割を担っております。

現在、その制度の在り方について半世紀ぶりの抜本的な見直しを行い、
  1. 審査システムの見直し
  2. 研究種目・枠組みの見直し
  3. 柔軟かつ適正な研究使用の促進
の三本の柱に沿って改革を進めております。

改革の柱の一つである「審査システムの見直し」については、4月に改革案をとりまとめ公表しました。この案では、来年秋の公募から現行の「分科細目表」を廃止した上で、
  1. 細分化の進んできた審査区分の大括り化と
  2. 幅広い分野の審査委員による多角的な「総合審査」を導入
する方向です。

本改革案については、今年4月から1ヶ月にわたって意見募集を実施し、1,600件余りの多くの御意見を頂きましたが、改革の基本理念や方向については、大方の賛同・支持が得られているものと考えています。今後、頂いた御意見を踏まえて更に検討を深め、年内に結論をとりまとめたいと考えております。

研究種目・枠組みについては、当面「挑戦的萌芽研究」を発展的に見直し、新たに「挑戦的研究」を創設し、今年の9月から公募を開始する予定です。新制度では、より大規模な支援を可能とし、総合審査の先行導入などにより学術の体系・方向の大きな変革・転換を志向する研究を促進する方向で、検討しているところです。

このほか、「特別推進研究」及び「若手研究(A)」についても見直しを図っていくこととしています。

なお、各研究機関においては、科研費の役割はますます大きくなっており、新たな中期目標・計画では約4割の国立大学が科研費獲得に特化した数値目標等を定めている状況にあります。こうした戦略的な取組にあたっては、科研費制度の趣旨を鑑み、研究者の自主性に対する配慮も併せてお願いします。

各研究機関におかれましては、こうした改革への御理解と御協力を賜り、研究力の強化に向けて科研費を適切に活用くださるよう、よろしくお願いいたします。

6 学術情報ネットワーク(SINET)の整備及び情報セキュリティ基盤の構築について

SINETについては、大学のネットワーク需要の増大に対応するために高速化(100Gbps)し、平成28年度から運用を開始しました。

このネットワークの高速化に伴い、大学では情報システムのクラウド化をより進めやすくなる環境が整いました。あわせて、システムを運用する国立情報学研究所では、大学のクラウド化が容易になるような技術的支援を充実させる予定です。

各大学におかれましては、より質の高い情報システムをより少ない経費で提供することが可能となることから、クラウド化の推進に積極的にお取り組みいただくようお願いします。

また、こうしたネットワークに関し、大きな課題がセキュリティの確保です。情報セキュリティについては、国立情報学研究所において、各大学の情報セキュリティ対策を強化する経費を措置しています。

具体的には、①SINET上に機器を整備し、検知したサイバー攻撃の情報を大学に提供するとともに、②SINETの実環境において、大学の技術職員を対象とした研修を実施し、サイバー攻撃への対処能力の高度化を図ります。

情報通信技術の高度化に対応して、情報を適切に管理運営するための取組が一層重要となりますので、各大学等におかれましても、法人全体として組織的・計画的に取り組んでいただきますようお願いいたします。


今後の共同研究においては、「組織」対「組織」の共同研究を進め、これまでの小規模な共同研究から大規模な共同研究へ移行していくことが必要です。本報告書では、本格的な産学連携による共同研究の拡大に向けて、
  • 共同研究に必要な経費の透明性の確保及び明確化といった「費用の見える化」を図ることにより適切な費用負担を企業側に求めていくこと、
  • 成果へのコミットメントを前提としたプロジェクト提案力の涵養(かんよう)やプランニング、スケジュール管理の徹底を図ること、
  • 学内における産学連携の位置づけを高めることや本部機能はじめ、経理・財務体制を強化すること、
等の重要性について取りまとめています。

同報告書を受けて、経団連も平成28年2月に、軌(き)を一(いつ)にした提言を取りまとめており、上述の大学の取組を前提に、必要な経費は適切に措置していくとしています。

各大学においては、本報告書や提言等の内容も踏まえ、本格的な共同研究に向けた積極的な取組の検討をしていただければと思います。

また、こうした取組は、「『日本再興戦略』改訂2016」(平成28年6月2日閣議決定)に明記されている「2025年度までに大学等に対する企業の投資額を現在の3倍とする」ためにも必要です。文部科学省では、これまでの取り組みも踏まえつつ、更なる産学連携の深化のための環境整備や支援プログラムの充実に取り組んでまいります。

8 研究施設・設備・機器等の基盤の抜本的強化について

科学技術イノベーションによる優れた成果の創出を実現するためには、研究開発活動を支える先端的な研究施設・設備の整備・共用や基盤技術の研究開発等を強化していくことが不可欠です。

具体的には、最先端の大型研究施設(※)の整備・共用や研究施設・設備のネットワーク化を通じた共用の促進のほか、更なる研究資源の有効活用のため新たに競争的研究費改革等と連携した研究設備・機器の共用化に取り組んでいます。

(※)最先端の大型研究施設とは、共用法に基づく以下の4施設をいう。
・大型放射光施設「SPring-8(スプリング・エイト)」
・X線自由電子レーザー施設「SACLA(サクラ)」
・大強度陽子加速器施設「J-PARC(ジェイ・パーク)」
・スーパーコンピュータ「京(けい)」

中でも、平成28年度から競争的研究費改革と連携して新たに始まる「先端研究基盤共用促進事業」は、大学の多く(※)から関心が寄せられていますが、平成28年度政府予算に約11億円が計上されました。本事業では、研究開発と共用の好循環の実現に向けて、「新たな共用システム導入の加速」と「共用プラットフォームの形成」の2つの取組を支援いたします。

※「新たな共用システム導入の加速」は、35大学81研究組織から公募申請あり。

【新たな共用システム導入の加速】
「新たな共用システム導入の加速」は、大学及び研究機関等において競争的研究費等で購入し、研究室毎に分散管理されている研究設備・機器群を、組織の経営・研究戦略の下で管理・運営する共用システムの導入を支援するものです。

本共用システムの導入により、研究開発活動の効率化・高度化による研究開発投資効果の最大化とともに、学生への教育・トレーニングや若手研究者等のスタートアップ支援、分野融合・新興領域の拡大、研究機関の魅力発信といった効果が高いものへの支援を想定しています。

各大学におかれましては、既存の取組と併せ、学長のイニシアティブにより、単なる効率化に留まらない、研究開発と共用の好循環を実現するためのシステムの構築を期待しています。

【共用プラットフォームの形成】
平成25年度より開始している前身事業(先端研究基盤共用・プラットフォーム形成事業)では、研究機関毎の共用取組の促進とそれら機関間のネットワーク構築を支援してきたところですが、「共用プラットフォームの形成」は、ネットワーク構築に重点化を図り、産学官が共用可能な研究施設・設備等について、施設間のネットワークを構築することにより、イノベーション創出のためのプラットフォームの形成を推進するものです。
※既存プラットフォーム(平成25年度~平成17年度)
  • NMR共用プラットフォーム:理研、横市大、大阪大
  • 光ビームプラットフォーム :KEK、東京理科大、科学技術交流財団(あいちシンクロトロン光センター)、立命館大、大阪大、兵庫県立大、佐賀県地域産業支援センター(九州シンクロトロン光研究センター)、高輝度光科学研究センター(SPring-8)
【今後の予定】

本事業については、平成28年度新規採択機関の公募が終了しました。「共用プラットフォームの形成」については15件の申請があり、4件を採択、3件をFS採択しました。「新たな共用システム導入の加速」については、81研究組織35機関から申請があり、33研究組織16機関を採択いたしました。

今後とも科学技術イノベーションの創出に向けた世界最高水準の研究開発基盤の維持・高度化を着実に推進していく所存です。各大学におかれましても、本事業を含め研究開発と共用の好循環の実現に向けた取組へのご協力をお願い致します。

国立大学法人法の改正(指定国立大学、資産の有効活用)

去る4月20日に参議院本会議、5月12日に衆議院本会議において「国立大学法人法の一部を改正する法律」が可決・成立しました。

国会審議においては、
  • 指定国立大学法人制度の趣旨や、スーパーグローバル大学などのこれまでの政策との違い、世界大学ランキングとの関係
  • 地方国立大学への支援の在り方
  • 資産運用の自由度を拡大する上での留意点
などの議論が行われました。

また、衆議院、参議院ともに附帯決議が付されており、
  • 指定国立大学制度の指定にかかるプロセスの透明性の確保
  • 指定国立大学への支援
  • 各地域における国立大学の重要性を踏まえた支援
  • 自己収入拡大の際の配慮
  • 高等教育全体のグランドデザインを踏まえた大学改革の推進
  • 国立大学法人運営費交付金をはじめ、高等教育に係る予算の拡充
などが盛り込まれています。



今般の法改正については、各大学の検討に資するため、「国立大学法人法の一部を改正する法律の施行に向けた準備について」という事務連絡が各大学に発出されています。

主な内容は、
  1. 指定国立大学法人の公募に当たって踏まえるべき観点
  2. 指定国立大学法人の指定に係る今後のスケジュール
  3. 国立大学法人等の資産の有効活用を図るための措置に係る今後のスケジュール
となっています。以下に全文ご紹介します。


国立大学法人法の一部を改正する法律の施行に向けた準備について(平成28 年6 月8日付事務連絡)

このたび、第190回国会において「国立大学法人法の一部を改正する法律(平成28年法律第38号)」(以下「改正法」という。)が成立し、平成29年4月1日(ただし、国立大学法人評価委員会への外国人委員の任命等については平成28年10月1日)から施行されることとなりました。

改正法においては、我が国の大学における教育研究水準の著しい向上とイノベーション創出を図るため、文部科学大臣が指定する指定国立大学法人については、世界最高水準の教育研究活動が展開されるよう、高い次元の目標設定に基づき、大学運営を行うこととしています。また、国立大学法人等の資産の有効活用を図るため、国立大学法人等の土地等の第三者への貸付けや寄附金等の運用に係る自由度を拡大することとしています。

これについて、各国立大学法人等の検討に資するため、下記のとおり、指定国立大学法人の公募に当たって踏まえるべき観点及び指定国立大学法人の指定に係る今後のスケジュール並びに国立大学法人等の資産の有効活用を図るための措置に係る今後のスケジュールについてお知らせいたします。なお、今後のスケジュールに関しましては、現時点の想定であり、今後変更になることもあり得ますので予め御承知おきいただければ幸いです。

各国立大学法人等におかれましては、現時点で検討されている内容等があれば随時意見交換等をさせていただきたいと考えておりますので、下記連絡先まで御連絡いただきますようお願いいたします。

なお、改正法の考え方や留意すべき点等については、改正法を受けた政省令の改正の後に、別途、施行通知において御連絡することを予定しております。


1 指定国立大学法人制度の創設について

(1)指定国立大学法人の公募に当たって踏まえるべき観点

改正法に基づき、今後、文部科学省において、国立大学法人評価委員会の審議を経て、指定国立大学法人の公募要領を策定することとしているが、指定国立大学法人の公募に当たって踏まえるべき観点については以下のとおり。

①指定に当たっての考え方

指定に当たっては、以下に示す目標設定と備えるべき要素について、優秀な人材を引きつけ、研究力の強化を図り、社会からの評価と支援を得るという好循環を実現する戦略性と実効性を持った取組を提示でき、かつ指定を受けようとする大学が定めた期間の中で、確実な実行を行いうる大学に限り指定することとする。

指定国立大学法人に申請する大学は、現在の人的・物的リソースの分析と、今後想定される経済的・社会的環境の変化を踏まえ、大学の将来構想とその構想を実現するための道筋及び必要な期間を明確化することが求められる。

また、指定された結果、当該大学が、社会や経済の発展に与えた影響と取組の具体的成果を積極的に発信し、国立大学改革の推進役としての役割が期待される。

②指定国立大学法人の指定に係る申請要件

指定国立大学法人に申請する大学は、国内の競争環境の枠組みから出て、国際的な競争環境の中で、世界の有力大学と伍していくことを求めることに鑑み、「研究力」、「国際協働」、「社会との連携」の3つの領域それぞれにおいて、既に国内最高水準に位置していることを確認するため、それぞれの領域において一定の水準にあることを指定の要件とする。

それぞれの領域における具体的な項目や各項目について求められる水準については今後さらに検討することとしているが、現時点において想定する項目例については以下のとおり。なお、要件の設定に当たっては、各大学の規模等についても考慮する予定。

【要件とする項目例】

<研究力>

  • 科学研究費等の獲得状況
  • 論文数、論文被引用数
  • 国際共著論文数


<社会との連携>

  • 産学連携等収入
  • 寄附金額
  • 大学発ベンチャー数
  • 社会人向け高度人材養成プログラムの状況


<国際協働>

  • 国際共著論文数
  • 留学生受入数
  • 留学生輩出数


③指定国立大学法人の目標設定

指定国立大学法人に申請する大学は、その将来構想において、以下の二つの観点からの目標を掲げることとする。

その際、海外大学における具体的な取組や、海外大学の研究分野別の状況などを踏まえたベンチマークを活用し、目標を設定する。

その目標については、実現するために必要な期間を明確化した上で、各法人の中期目標・計画に盛り込むこととする。

<教育研究の卓越性の観点からの目標設定>

世界の有力大学と伍して、国際的水準で競い合い、独創的・先端的な我が国の学術研究を発信することで、求心力を持ち、「国際的な研究・人材育成拠点」となるための目標を設定する。

<社会への貢献の観点からの目標設定>

社会の持続的発展に向けて「知の協創拠点」となるため、人類全体の持続的発展に資する社会・経済に関する新たなシステムの提案や産学連携など、これまでの社会との連携の状況を踏まえ、目標を設定する。

④指定国立大学法人の構想

指定国立大学法人に申請する大学は、上記の設定目標を実現するため、次に示す【人材獲得・育成】【研究力強化】【国際協働】【社会との連携】【ガバナンスの強化】【財務基盤の強化】の6つの要素を含む構想を提出する。

各構想には、②に示した目標を達成するための具体的な取組を掲げるものとし、その具体的取組については、各法人の中期目標・計画に盛り込むこととする。

その際、自らが伍していこうとする海外大学の取組を踏まえ、ベンチマークを設定する。

【人材獲得・育成】

国内外の優秀な教員・研究者及び大学院生の獲得を進めるため、必要な教育研究環境整備を行う。

世界市場から優秀な大学院生を獲得できる大学院の組織改革等を推進し、将来的には全ての大学院生への経済的支援を実施することを視野に取り組む。

優秀な教員・研究者に対してはその能力や業績を踏まえた評価による採用・登用や処遇の設定を行うとともに、卓越研究員制度も活用する。

大学院教育においては、卓越大学院(仮称)制度等も活用し、専門性とともに、課題を俯瞰的に把握し、解決できる教育を実施する。

学位取得者の質を保証するための厳格な修了認定を行う。

研究者養成とともに、優れた研究力を背景とした高度専門職業人等の育成を行い、社会に貢献する。

具体的取組(例)

  • 国際的な標準に見合う大学院生に対する経済的支援の充実(TA・RA、奨学金、授業料減免)
  • 大学院の研究室配属の振り分けの見直し
  • 専門(研究室)の枠を越えた学際分野を含めた幅広く体系的な大学院教育・研究指導の実施
  • 学修成果及び学位論文等に係る厳格な評価に基づく修了認定の実施
  • 若手研究者に対する支援(研究費の拡大、ポストの拡充、スタートアップ資金の確保、共用機器等の活用方策、研究者の適切な年齢構成の確保、テニュアトラック制の活用)
  • 教員ポストの本部での管理等による戦略的な教員採用
  • 教員業績の可視化・エフォート管理・評価に基づく処遇の設定


【研究力強化】

国内最高水準に位置する研究力を生かし、その研究成果により社会に対して有意なインパクトを与えるとともに、分野融合・新領域の開拓を進め、既存の学問分野にとらわれず、独自性のある新しい価値を創造するための組織の見直し、研究戦略の策定等に取り組む。

国内外からの求心力を高め、強力な拠点(ハブ)を形成する。

具体的取組(例)

  • 強みとなる分野の特定と当該分野等への資源の戦略的な重点配分(資金、スペース等)
  • 大学院の研究室配属の振り分けの見直し
  • 教員ポストの本部での管理等による戦略的な教員採用
  • 研究設備・機器の共用化、学内共同利用の促進
  • 世界の学術研究を先導する大型プロジェクトの推進
  • 国内外から第一線の研究者を引き付ける研究環境の整備(研究者の国際公募の実施、英語の公用化、事務支援部門の強化、最先端の研究設備や学術資料の整備等)
  • 当該大学の附置研究所・センター等既設の研究組織を活用した、我が国の学術研究を先導するような研究組織体制の構築
  • 研究マネジメント人材(リサーチ・アドミニストレーターを含む。)の適切な配置


【国際協働】

国際協働を積極的に推進する。

海外キャンパスの展開、ジョイント・ディグリー(JD)の実施等、海外大学との連携・協働等を含め、教育研究活動の国際展開による世界的な課題解決に資する学問分野の展開に取り組む。

具体的取組(例)

  • ジョイント・ディグリー(JD)やダブル・ディグリー(DD)プログラム等、海外大学との連携を含め、多言語で学位を取得できるコースの設置
  • 海外の研究者や学生を受け入れるために必要な教育研究環境等の充実


【社会との連携】

大学間及び大学と企業・研究機関等の共創の場の構築・深化を進め、社会的課題の解決に取り組み、ソーシャル・イノベーションを生み出し新しい社会を創造できる人材育成に取り組む。

大学全体での組織的な大型共同研究の推進や、学生・教員のベンチャーの創出・育成によるベンチャー創出のプラットホーム機能の構築を図る。

さらに、社会人を対象とした高度人材養成機能を強化する。

また、社会との連携の強化を図る中で、産学連携収入、寄附金収入の拡大に取り組む。

その際、本年秋までに策定する予定の大学・国立研究開発法人に対する産学連携に関するガイドラインの内容を踏まえた取組を進める。

具体的取組(例)

  • 教員個人ベースの活動ではなく、大学全体として組織的に産学連携や寄附募集を進める(例えば、担当の理事の配置等を含めた体制整備等を含む。)
  • 起業家人材育成プログラムの提供や、ベンチャーを支援する者等との交流の場の設定
  • 産業界を含む外部機関との大学院生の長期インターンシップの推進及び共同研究への参画
  • 産学連携等に係る活動を教員業績評価において評価
  • クロスアポイントメント制度の活用
  • 社会人を対象とした高度人材養成プログラムの構築


【ガバナンスの強化】

学内外に信頼されるガバナンス強化を行う。

学長のリーダーシップの下、教育研究において強みや特色を発揮し、社会的な役割をより良く果たすことができるようにする。

指定国立大学法人としての取組を進めていくためには、リーダーシップのある学長が安定的に大学運営を推進できるなど、当該大学の特性に応じた工夫が必要となる。

これを踏まえ、その任期、選考の在り方や、学長選考会議、経営協議会及び監事を含めた学長のチェック機能の強化など、ガバナンスの強化を自律的に推進する。

具体的取組(例)

  • 国内外の優秀な人材の経営への参画等による経営戦略の確立
  • 大学本部予算の確立や部局予算の把握による効果的な資源配分
  • 人材育成プログラム等による執行部に参画する人材の育成・確保
  • 質の高い職員及び専門人材の育成・確保(キャリアパスの明確化等)
  • 学長のリーダーシップを支える教員と事務職員の協働体制の構築
  • 教育研究及び財務等の情報を可視化するIR 機能の強化(部局ごとの情報も含む)、学外への情報公表等


【財務基盤の強化】

財務基盤の強化に取り組む。

産学連携収入、寄附金収入の拡大を促進するとともに、規制緩和策により、既存の資産(寄附金、不動産等)や子会社による事業展開(出資事業)を効果的に活用する。

具体的取組(例)

  • 産学連携収入や寄附金収入等の外部収入の拡大(体制の整備)
  • 共同研究に係る間接経費等のコストの可視化を通じた必要財源の確保
  • 既存の資産(寄附金、不動産等)の活用による収入の拡大
  • 人事給与改革や教育研究設備の共用化等を通じた自己財源の捻出


(2)今後のスケジュール

平成28年11月 公募要領の策定、公募開始
平成29年3月 各大学からの申請〆切
平成29年4月~ 国立大学法人評価委員会における指定についての意見聴取
平成29年夏頃 指定国立大学法人の指定

2 国立大学法人等の資産の有効活用を図るための措置について

(1)土地等の貸付けについて

改正法により新設する第34条の2では、その対価を教育研究水準の一層の向上に充てるため、教育研究活動に支障のない範囲に限り、文部科学大臣の認可を受けて、土地等を第三者に貸し付けることができることとしている。

この認可の基準については、平成28年末を目途として策定・公表し、また、各国立大学法人等が認可を受けようとする際の提出書類については、平成28年度末までに、国立大学法人法施行規則において規定することを予定している。

なお、認可の申請については、改正法の施行日である平成29年4月1日より、順次受け付けることを予定している。

認可の基準については、現時点においては、例えば以下のような点につき確認することを想定しているが、詳細については、上記のスケジュールに沿って、策定次第、改めて周知させていただきたい。

  • 貸付け先による当該土地等の用途が、国立大学法人等の土地等の活用方法として、不適切なものではないこと
(不適切な用途の一例)
  • 騒音・振動等を伴うなど、周囲に迷惑を及ぼすような用途
  • 公序良俗に反する用途その他国立大学法人等の品位を損なう用途
  • 不特定多数の者が出入りすることが見込まれるもののうち、当該国立大学法人等における、静かな環境の下での教育研究活動の実施に支障が生じる可能性があるような用途
  • 当該土地等の、国立大学法人等としての将来的な活用予定と、第三者への貸付けの期間とが整合するなど、貸付けの期間に合理性があること
  • 国立大学法人等が教育研究活動上使用する部分との動線を分離する等、必要に応じてセキュリティの確保のための配慮がなされていること


(2)寄附金等の運用について

改正法により新設する第34条の3では、文部科学大臣の認定を受けた国立大学法人等に関しては、公的資金に当たらない寄附金等の自己収入を、同条第2項各号に規定する方法により運用することができることとしている。

この認定の基準については、平成28年末を目途として策定・公表し、また、各国立大学法人等が認定を受けようとする際の提出書類については、平成28年度末までに、国立大学法人法施行規則において規定することを予定している。

実際の認可の申請については、改正法の施行日である平成29年4月1日より、順次受け付けることを予定している。

なお、第34条の3第2項第1号における「金融商品取引法(昭和二十三年法律第二十五号)に規定する有価証券であって政令で定めるもの(株式を除く。)」については、現時点において、国立大学法人法施行令に、社債(無担保のものを含む。)、投資信託の受益証券、外貨建てのものを含む外国債等を定めることを予定している。また、同項第2号の「貯金又は預金(文部科学大臣が適当と認めて指定したものに限る。)」については、文部科学大臣の指定に外貨預金を含めることを予定している。

文部科学大臣の認定にあたっては、同条第1項各号にあるように、①運用を安全かつ効率的に行うに必要な業務の実施の方法が定められていること、②運用を安全かつ効率的に行うに足りる知識及び経験を有するものであることのいずれにも適合していることを確認することとする。

具体的な基準としては、現時点において、①については、例えば、投資先の分散等の運用方針、学長・担当理事・実務担当者など運用関係者の権限と責任、運用に係る意思決定の手続き、学内における運用状況のモニタリングの方法等が明確化されていることを確認することを想定している。また、②については、例えば、資産運用のための委員会を学内に設置し、その委員に、資産運用に関する専門的知識・経験を有する者を任命する等、当該国立大学法人等において資産運用に関する専門的知識・経験を有する者を含めた、運用のための体制が整備されていることを確認することを想定している。これらの認定基準の詳細については、今後、文部科学省において有識者の意見を聴きながら取りまとめることとしており、上記のスケジュールに沿って、策定次第、改めて周知させていただきたい。