2020年11月29日日曜日

記事紹介|私立大学における学生納付金の意義と役割

学生納付金の要件とは

私立大学の学費は、文部科学省の省令である学校法人会計基準の中で「学生生徒等納付金(以下、「学納金」と言う。)」という勘定科目(大科目)で扱われる。この学生納付金の小科目として、授業料、入学金、実験実習料、施設設備資金(施設設備費)などが同会計基準の記載様式として例示される。これ以外に教育充実費などの小科目を追加している法人も多く見られる。かつて筆者が、日本私立学校振興・共済事業団で学校法人の会計基準の担当をしていた時に、全国の大学法人の計算書類の科目名称を調査した。先述の小科目のほか、課外活動費、学生生徒の個別指導費、教育充実費、補講費、図書費、教材費、厚生補導費、暖冷房費、維持費、校費、管理費、在籍料など100種以上の多様な小科目が見られた。様々な教育活動に対応する実費徴収的又は付加的な教育サービスの趣旨で設定されている(昭和62年私学事業団経営相談回答集)。

学生納付金は学校教育法施行規則第4条によると、授業料、入学料その他の費用徴収に関することとして、学則に記載すべき事項に指定されている。これらを変更しようとするときには、学則の変更届出を文部科学大臣に提出することが必要となっている。昭和52年の文部省通知では、学生納付金に関する措置として、第1に、徴収の必要性を明確にすること、第2に、その額の抑制に努めること、第3に、学生納付金のすべてを募集要項等にあらかじめ明記すること、第4に、学生の負担軽減を図るため分割納入、奨学事業や減免措置を積極的に講ずることが求められている。私立大学の学生納付金は所轄庁の認可制ではなく届出制とされているが、高額な納付金の抑制と保護者負担の軽減を図るために、通知や行政指導又は補助金配分等によって所轄庁からの一定の規制がなされている。

これらの点を踏まえると、学則等に学部学科等ごとに一律に定められた金額が記載されており、その学則が所轄庁に届けられているものが学生納付金と言える。この「学則記載性」と「学部学科等ごとの一律性」が学生納付金の形式的な要件とみなすことが出来る。

教育サービスの対価が学生納付金

私立大学の学生納付金の基本的な性格は、学生が入学して卒業するまでに受ける様々な教育活動に要する経費に充当すべき費用と考えることが出来る。これを「教育サービスの対価性」とも言う。大学が学生のために提供する教育活動の本来的な部分のサービスの対価が学生納付金である。

学生納付金の中の入学金は、学生が当該大学に入学し得る地位を取得するための対価であり、学生身分の取得費用と言える。授業料や実験実習料は、教育サービスの中心である授業や実験実習等の直接的な教育サービスに要する費用である。授業料といっても、講義だけでなく、ゼミや学生の個別指導、課外活動やフィールドワークなど幅広い教育活動を含んでいる。施設設備費は、私立大学の施設設備を取得し、長期的に維持し、減価償却に応じて補修、改築、更新、充実させるための資金の収入である。単に大学の施設設備を学生が利用するだけの費用ではない。このほか、教育充実費は大学における様々な付加的な教育活動や学生支援又は学生生活の充実に必要な幅広いサービスや大学の教育環境を整備充実するための費用に充当すべき収入とみなすことが出来る。

なお、入学を辞退した受験生が納付した入学金については、大学は返還義務を負わないこととなっている(平成18年最高裁判決)。一方、授業料や施設設備費については、当該大学の授業を受けず、施設設備を利用しない入学辞退者から徴収することは容易に理解が得られないとして、年度末までに入学辞退の意思表示をした者に対して大学は原則として返還に応じることが明確にされた(平成18年文科省通知)。

施設設備の更新充実と財源

高等教育機関はその事業の実施に必要な有形固定資産の比重が大きく、いわゆる「装置産業」とみなすことが出来る。私立大学においては、校地校舎等の整備に要する施設費や教育研究用機器備品等の充実のための設備費は、年々相当な額にのぼっている。過去からの累計された現有資産の取得価額は1年間の事業収入の4年分程度が大学法人の平均となっており、これらの有形固定資産の維持と更新の費用を捻出することが重要課題である。

私立大学の施設設備の取得費用に対しては国からの補助は基本的になく、自己資金によって中長期的に賄わなければならない。過去から現在、現在から将来に亘って、大学に在籍する学生の納付金等の事業活動収入の一部から少しずつ費用を積み立て、施設設備を整備することになる。

学生納付金の返還要求

昨年度来の新型コロナウイルス感染症の拡大に伴って、日本の大半の大学においては対面授業が困難となり遠隔授業が開始された。今後も必要に応じて感染予防のための遠隔事業の実施や校舎の使用制限が続くことになる。一刻も早く従前の教育活動が再開され、キャンパスに学生や教職員が会して、通常の学園生活が再開されることが望まれる。しかし、感染が十分に抑止されていない現状では一定の感染予防策を継続せざるを得ない。

いくつかの大学において、学生と教員の対面授業が出来ず、施設設備の利用が困難な状況において、学生と保護者の中から、授業料や施設設備費等を返還してほしいとの要望が提起されている。

確かに、直接的な授業や施設利用が出来ない状況では、これらに関わる学生納付金の返還を求めたい気持ちも理解できなくはない。経済状況が悪化し、学生自身もアルバイトが出来ず、保護者の収入も減少し、高額な学生納付金の負担が増大している。

コロナ禍を克服する取組み

先に述べたように、学生納付金は大学が入学した学生に在学期間を通じて提供する教育サービスの費用の対価である。大学では、対面授業や施設設備の利用が一時的に出来ないとしても、当初予定していた学力を身に付けることができるように、卒業までの全在学期間を通じて多様な教育方法を工夫して行う。オンライン授業のメリットも生かし、これまで不可能であった教員と学生相互の有意義な教育活動を展開するなど、大学としての使命の達成と教職員の責務を果たす努力を継続していくのである。私立大学においては学生納付金が事業活動収入の7割前後を占めており、収入がなければ大学運営を続けることが出来ない。授業がないからといって直ちに教職員の給与カットや解雇を行うことも出来ない。

今回のコロナ禍による様々な非常時の対応措置は、日本だけでなく世界の大学においても真剣に取り組まれているものである。大学の一方的な責任や不法行為による事情変更ではなく、大学としても予測出来なかった事態に対するやむを得ない緊急措置である。平時とは異なる様々な困難が生じ、教職員の負担が増大し、追加的な諸費用も累積し、学生とともに教職員や大学自体も苦しい状況に陥っている。しかし厳しい中であっても、大学では教育を多様な方法で実践し、優れた教育成果を生み出す取組みを積極的に進めなければならない。

私立大学の収支構造と適正な執行

ところで、教育活動の範囲は幅広く、収入と支出の対応関係は必ずしも明確ではない。学校法人会計基準では、施設設備費も学生納付金の一部とされ、補助金などの他の収入を加えた事業活動収入として大学全体にまとめられる。人件費や教育研究経費などの事業活動支出の原資になる。個々の収入と支出が1対1で対応しておらず、学生納付金の施設設備費の全てが当該年度の施設設備費に配分される訳ではない。

学校会計の特色として、当該年度に自己資金で取得した施設設備等の支出は基本金の組入額となり、事業活動収支差額(基本金組入前当年度収支差額)から控除されるなど、対応関係が分かりにくくなってはいるが、学校法人は公益法人の一種であり、営業利益を追求する組織ではない。事業活動収支差額は教育研究や資産の維持と発展に使われる。この意味で、学生納付金も現在及び今後の教育活動の遂行と充実に寄与している。

このほか学生納付金に属さない収入としては、教育活動に付随する食堂、売店、寄宿舎等の補助活動、公開講座等の教育補完活動などの補助活動収入がある。教育活動以外の事務的なサービスの対価である入学検定料、証明手数料等は手数料収入に分類される。学生又は保護者等から任意に受け入れた対価性のない資金等は寄付金として計上される。これらの収入についても適正に管理し執行することが学校法人に求められている。

私立大学の課題

今年度から大学修学支援の新制度が開始され、在学生を含めて一定の収入以下の家計の学生に対しては、授業料や入学金の減免措置や返還不要の奨学金が措置された。さらに、収入が急減した学生に対しては、学生支援緊急給付金が創設され、学びの継続のための支援が進められている。これらの政策は大変有意義だが、支援を受けられる学生は一部に留まっているので、その一層の拡充を国に要望していく必要がある。

個々の大学においても様々な学生支援策に取り組んでいるところだが、十分な援助を行うことが出来るかは、大学の支援体制や財政力によるところも大きいと言える。財政支援のほか、苦しんでいる学生の相談に丁寧に応じるとともに、学生納付金の延納措置やその他の支援策を工夫して実施することが望まれる。

近年、国による大学の定員管理の厳格化の政策が実施され、定員割れの中小規模大学の定員充足率が改善される一方で、都市部の大規模校を中心として入学定員超過率を年次的に引き下げたため、在学生総数が減少しているところが見られる。18歳人口の長期的な減少が続いており、私立大学の競争的な環境が激化し、財政的にも厳しい状況が進んでいる。

今回のコロナ禍による経済状況の悪化によって私立学校への進学を回避する動きが生じる恐れが少なくない。私立大学の今後の経営には大きな困難が予想される。

その中で、私立学校はそれぞれの教育理念を堅持し、国公立大学にはない特色のある教育活動を通じて社会のニーズに応えた人材の養成に努めることが使命だ。

特に、学生と保護者から得られた貴重な学生納付金の意義を再認識して、一層の教育充実と学生支援の強化に向けた積極的な取組みを展開していくことが期待される。

出典:学生納付金の意義と役割 新型コロナ禍での返還要求を巡り|アルカディア学報|私学高等教育研究所|日本私立大学協会 

2020年11月22日日曜日

記事紹介|授業をオンラインで行うこと

オンライン授業への突貫的移行を経て

今年度前期は、世界的なCOVID-19の感染拡大が続く中、日本の大学の約9割が授業をオンラインで提供することを余儀なくされた。開講予定であった授業がどの程度をオンライン化できたかは、各大学や各授業科目によって異なったものの、オンライン授業への移行に要する対応や支援については、大学・教職員各々のレベルで、様々な努力や苦労があったに違いない。

筆者の所属する京都大学高等教育研究開発推進センターも、3月下旬からオンライン授業支援サイト「Teaching Online@京大」や、20回近く開催した各種の学内講習会・相談会を通じ、教育・研究に関連するICT環境の運用・支援を行っている情報環境機構と共に、全学の教職員や非常勤講師に対して、オンライン授業実施のための教育的・技術的な支援に尽力してきた。このように、教育面・技術面をサポートする2つの全学的支援組織が緊密に連携・協力を図り、車の両輪のようにバランス良く各部局・教員に必要とされる支援を継続的に提供できたことに加え、今回、学内の多くの学部・研究科等において、教育支援組織や教職員による支援グループが自助的に活動・機能したことにより、トップダウン・ボトムアップの双方向からの支援の相乗効果が図れたことは幸いであった。

約8年半前に日本に帰国するまで、筆者はアメリカに約20年間在住し、財団や大学で高等教育の進展・振興にかかわる研究開発や実践、特にテクノロジーを活用した高等教育のイノベーションに携わっていた。その経験を踏まえて、日本の大学におけるテクノロジーの利用やその浸透は、欧米に比べると約10年は遅れており、おそらくもう20年間以上、その差はほとんど縮まっていないという認識を持っているが、その中で、このような半ば強制的なオンライン授業への移行という事態を日本の多くの大学が受け入れざるを得なかったことについては、正直なところ、非常に複雑な心境である。

この半年間を振り返ってみれば、「オンライン授業によって、大学生・大学院生の学びを継続させられた」、「教職員や学生は、無理矢理ながらも、教えたり学んだりするためのICT利用のリテラシーを身に付けられた」、「工夫しながらオンラインで授業を行う中で、対面で行う授業に比べ、教授・学習の観点からより効果的な側面も見出せた」など、ポジティブなことも多々あった。その反面、「オンラインでは実施できない授業(特に実習・演習系)が取り残された」、「オンライン授業では、課題が過剰に出される傾向がみられ、学生の精神的負担・疲労感が高まった」、「オンライン授業間で、教育的な質や学生の理解度・満足度に格差が生じた」、「キャンパスに来られない学生(特に初年次生)の孤独感が高まった」など、幾つもの障碍や今後克服すべき課題も明らかになった。

言うまでもなく、「授業をオンラインで行うこと」は、手段であって目的ではない。しかし、コロナ禍下における今年度前半、止むを得なかったとは言え、多くの大学では、「授業をオンラインで行うこと」が目的化してしまっていたのではないだろうか。急転直下する状況の中で、「授業をオンラインで行う」という目的を達成するために、十分に検討・準備する余裕も与えられないまま、教職員も学生もオンライン授業に突入せざるを得なかった。そのような強行軍的な進み方の犠牲となり、無念にも減ぜられてしまった教育の豊かさや質も少なからずあるだろう。私たちはそれらを今一度省みつつ、今後オンラインやICTという手段を教育にどのように有意義に活用していくべきかを検討し、どのような局面・状況でも、学生一人ひとりのために、教育の効果や多様性を最大化する努力を惜しんではならない。

今年度後半、全ての授業を対面で行うという大学はおそらく少数であろう。多くの大学においては、このような今年度前半の経験と反省を踏まえ、本来的な教育プログラムや授業の目的・意義を見据えつつ、ハイブリッド型(対面とオンラインの混合型)・オンライン型・対面型を、どのように「手段」として組み合わせ最適なバランスで提供できるかの正念場となる。さらに、オンライン型とハイブリッド型の授業を、固定観念に囚われず、継続的に鋭意改善していくことも忘れてはならない。

大学教育のさらなる拡充と進展に向けて

このように、多くの日本の大学において、この度のオンライン授業の急速な導入・普及は、いわば突然の暴風雨に襲われた中での緊急避難・対応的な側面が少なからずあり、その中で「オンライン授業の質保証」という問題もクローズアップされている。現在筆者は、中央教育審議会大学分科会の質保証システム部会委員を務めているが、そこでも「オンライン授業の質保証も大事であるが、その一方で、『ハイブリッド型も含めたオンライン教育を活用することで、高等教育システム全体や大学教育プログラムの質をどのように向上させ、さらに拡充していくか』も、より重要な課題であり、そのレベルにおける教育の質保証の観点・枠組みについても検討していくべきだ」と提言している。

例えば、MOOC(大規模公開オンライン講義)は、ここ数年で世界的には着実に拡大を続けており、CLASS CENTRALの調査報告によれば、昨年の時点で既に900以上の大学から約1万1400の講義が提供されている。さらにMicro Credentialsと総称されるMOOCの新たな活用も進んでおり、学士プログラムや修士プログラムの授業科目を一部MOOCで代替し、Micro BachelorsやMicro Mastersと呼ばれる、主として初年次に履修する授業科目群の評価・修了認定を行う仕組みも作られている。Micro BachelorsやMicro Mastersは、提供元の大学・大学院に入学することなく、誰でも世界中のどこからでも安価に履修・修了することができ、その後、当該の大学・大学院への入学が認められた場合には、通常の対面通学時の半額かそれ以下の授業料を納めることで、正規の取得単位として認定してもらえるようになる。また複数の大学間で単位互換の仕組みがあれば、それを利用して、MOOCの提供元とは異なった大学においても取得単位として認定してもらうことも可能だ。

これは、高等教育におけるオンライン講義の活用方法の一例にしか過ぎないが、このような活用を各大学の創意工夫や連携を通じて拡げていくことで、「海外や国内の他大学との授業レベルでのバーチャル留学」、「授業科目の共通化による自大学の教育プログラムの拡充」、「国内外の社会人学生の呼び込み」等も推進・促進することができるようになる。肝要なのは、日本の各大学が、自分たちが現在直面している、もしくは今後直面するであろう教育的・経営的課題を、このような手段を使って積極的に解決していこうとするか否かであり、そこには政策によるタイムリーで適切な誘導や支援、各大学における経営陣・リーダーシップの理解と実行、さらには高等教育を取り巻くステークホルダーの協力が必要不可欠である。

我が国における少子化のために、入学定員を充足させることが困難になっている大学は今後も増えていくだろう。また、入学定員を何とか充足することはできていても、望ましい学力・能力を身に付けて入学してくる学生数が、年々低下しているという問題を抱えている大学・大学院も少なくない。大学への公的な財政助成については、国公私立を問わず今後増加してこといくが望まれてはいるが、コロナ禍の経済的影響も甚大であり、短・中期的に楽観できる状況にあるとは、現実的には到底思えない。

日本における大学教育を国内外のより多くの人々に魅力的で満足してもらえるものにするためにも、各大学がオンラインやICTの教育的活用を有望な常套手段として継続・進化させていけるかが、「日本の高等教育が今後発展していくか、それとも衰退していくか」の明暗を分けることになる、と言っても過言ではないだろう。今立っているこの分岐点を、再起点にして力強く前に進み続けることができるか。日本の全ての大学が試される時である。

出典:日本の大学はコロナ禍を成長と発展の再起点にできるか オンライン授業を超えて|アルカディア学報|日本私立大学協会