2016年12月31日土曜日

記事紹介丨聞き流すまい

2016年が終わる。

世界中で「分断」「亀裂」があらわになった。

ニッポンは、どうか。

「言葉」で振り返る。

政治では、悲しいかな、ことしもカネの問題があった。

「私の政治家としての美学、生き様に反する」

業者から現金をもらった甘利明経済再生相は1月に、こんな発言を残して閣僚を辞めた。その後の国会を「睡眠障害」で欠席し、関係者の不起訴が決まると、さっさと復帰した。

「公用車は『動く知事室』」

東京都の舛添要一知事は公用車での別荘通いや、1泊20万円のホテル滞在で袋だたきにあった。そのうえ政治資金の私的流用を「せこい」と酷評され、6月に知事の座を追われた。

「飲むのが好きなので、誘われれば嫌と言えない性分」

700万円近い政務活動費を飲食やゴルフなどに使った富山市議が8月に辞職した。似たような地方議員の税金乱費が、各地でぼろぼろと見つかった。

国会はさながら「安倍1強」劇場だった。安倍晋三首相は夏の参院選に勝ち、自民党総裁の任期延長に異論も出ない。

「結党以来、強行採決をしようと考えたことはない」

「こんな議論を何時間やっても同じですよ」

首相の答弁は、ぞんざいさを増し、与党は「数の力」で採決を強行していった。

国連平和維持活動(PKO)に派遣する自衛隊に「駆けつけ警護」の新任務を与えた。強引に憲法解釈を変えた安全保障関連法の初めての具体化だが、首相の言葉は軽かった。

「もちろん南スーダンは、例えば我々が今いるこの永田町と比べればはるかに危険な場所」

南スーダンでは武器で人が殺されている。それを稲田朋美防衛相はこう説明した

「それは法的な意味における戦闘行為ではなく衝突である」

この種の「言い換え」が増えた。沖縄県でのオスプレイ大破は「不時着」だった。安倍政権は「積極的平和主義」で「武器輸出三原則」を葬り、「防衛装備移転三原則」と称している。

ご都合主義的な言葉づかいの極みが、首相の6月の消費増税先送り会見で飛び出した。

「再延期するとの判断は、これまでの約束とは異なる新しい判断だ」

「新しい判断」は公約違反の逃げ口上だ。2年前には「再び延期することはない。ここでみなさんに、はっきりとそう断言する」と言ったのだから。

しかも国会での追及をかわそうと、閉会直後に表明した。ところが、野党も増税延期を唱えていたため、参院選の争点にすらならなかった。

「確実な未来」である人口減少と超高齢社会に備えるための国民の負担増を、政治家が先送りし、多くの有権者がそれを歓迎、あるいは追認した。

医療も介護も年金も生活保護も子育ても、財源難にあえいでいる。この厳しい現実から目をそむけ、社会全体が「何とかなるさ」とつぶやきながら、流されてゆくかのようだ。

その流れは、政治家の粗雑な答弁や暴言をも、のみ込んでしまっているようにも見える。

この夏、101歳で逝ったジャーナリスト、むのたけじさんの著作に次の一節がある。

「(日本人が)ずるずるべったり潮流に押し流されていくのがたまらなかった」

敗戦直後の世の中への感想だが、どこか現在に通じないか。

9月、安倍首相は所信表明演説で言い切った。

「非正規(労働)という言葉を、みなさん、この国から一掃しようではありませんか」

だが、働き方の問題は深刻かつ多岐にわたる。

「保育園落ちた日本死ね!!!」

この匿名のブログへの反響の大きさが、待機児童問題の窮状を物語っている。

過労自殺した電通の女性社員(24)の言葉も切ない。

「大好きで大切なお母さん。さようなら。ありがとう。人生も仕事もすべてがつらいです」

衝撃的な事件があった。

相模原市の障害者施設で19人を殺害した男は言った。

「障害者は生きていても無駄だ」

この異常な偏見に対する確固たる反論を、だれもが心に堅持し続けねばならない。

ことしも、いじめを苦にした自殺を防げなかった。原発事故の自主避難先で、いじめられた少年の手記が話題になった。

「いままでなんかいも死のうとおもった。でも、しんさいでいっぱい死んだからつらいけどぼくはいきるときめた」

それぞれの「言葉」が、ニッポンのありのままの姿を映している。だから聞き流すまい。立ち止まって受け止めよう。

このまま来年も流されてしまわぬように。

(社説)ニッポン2016年 このまま流されますか丨2016年12月31日 朝日新聞 から

2016年12月30日金曜日

記事紹介|ボケ、土人が

政治家の言動が、がさつになっている。論説委員に4年ぶりに戻ってから半年、そう実感する日々だ。

官房副長官が野党の国会対応を「田舎のプロレス」「ある意味、茶番だ」と言った。農林水産相は審議が始まってまもなく、「強行採決」を促すかのような発言をした。

ともに国会審議をバカにする姿勢がありありだ。ただ、2人は発言を撤回し、謝罪もした。その意味では、見慣れた光景だった。

これに比べて、鶴保庸介沖縄・北方相の「土人」をめぐる対応は人権にかかわる、より深刻な問題だと考える。

沖縄県の米軍訓練場の工事現場で10月に、大阪府警の機動隊員が市民に「ボケ、土人が」と口走った。これについて国会で「私個人が大臣という立場で、これが差別であるというふうに断じることは到底できない」と答えた。

12月の国会審議でも、同じような答弁を重ねた。

なぜ、差別ではないのか。

「土人」には「その土地に生まれ住む人」だけでなく、「未開の土着人。軽侮の意を含んで使われた」(広辞苑)という意味がある。「ボケ」をつければ、相手をさげすんでいるのは明らかだ。

「大臣という立場」の使い方も解せない。カッとなった若い機動隊員とは違う。国民に選ばれた政治家、しかも閣僚ならばこそ、差別だと認めるべき立場ではないのか。

この問題では著名な作家が「私を含めてすべての人は、どこかの土人、原住民なのだが、それでどこが悪いのだろう」と新聞に書いた。

「土人」という単語に焦点を当てた、問題のすり替えに驚いた。それでも個人的な感想であり、賛同する読者もいたのかもしれない。

だが、沖縄担当相がこの作家と同じ判断をすれば、政府と県の亀裂を深めるだけだ。

それなのに政府は、野党議員の質問に「(鶴保氏が)謝罪し、国会での答弁を訂正する必要はない」と政府答弁書で回答した。

こんな幕引きが、政治の言葉の粗暴さを助長させることを懸念する。

いま、世の中では「正規VS.非正規」や世代間の格差が露見し、不平や不満が鬱積(うっせき)している。そのトゲトゲしさが融和よりも相手を撃破する政治手法への支持を広げてゆく。だから言葉もささくれ立つ。

こんな時代こそ、人権や差別に敏感でありたい。とくに政治家には、そうあってほしい。

2016年12月28日水曜日

動画紹介|HOW TO USE TOILETS in JAPAN -日本のトイレの使い方-

記事紹介|オバマ大統領の真珠湾での演説

安倍首相、米国民を代表して大変すばらしい言葉に感謝する。今日、この地への訪問は、日米の人々の和解と結束の力を示す歴史的な行動であり、戦争の最も深い傷でさえ、友情と恒久平和に変えることができると気付かせてくれる。

出席者、軍人、真珠湾の戦いの生存者、家族の皆さん、アロハ。米国の人々、特にハワイをふるさとと呼ぶわれわれにとって、この湾は聖なる場所だ。われわれがここに花をささげ、今も涙を流す海に花束を投げ入れる時、天国へ行った2400人を超える米国の愛国者たち、父であり夫であり、妻や娘であった人たちに思いをはせる。

▽米国人の勇気

われわれは毎年12月7日に背筋を伸ばし、オアフを守ろうとした人々に敬意を表する。そして75年前にここで示された勇敢さに思いをはせる。

あの12月の夜明け、楽園でさえこの地ほどは心地よくなかった。水は温かく、あり得ないほど青かった。水兵たちは食堂で食事をしたり、しわのない白い半ズボンとTシャツを身に着けて教会に行く準備をしたりしていた。

湾には軍艦カリフォルニア、メリーランド、オクラホマ、テネシー、ウェストバージニア、ネバダがきれいな列をつくり停泊していた。アリゾナの甲板では、音楽隊がまさに演奏を始めようとしていた。

あの朝、肩につけた階級章が見劣りするほどに彼らは勇敢だった。島中で米国人は訓練用の砲弾や旧式のライフルを使用して可能な限り戦った。アフリカ系米国人の給仕はいつもなら掃除をしていたが、この日は上官を救い、弾が尽きるまで対空砲を撃ち続けた。

われわれは軍艦ウェストバージニアの1等砲撃手、ジム・ダウニングのような米国人に敬意を表する。彼は真珠湾に駆け付ける前、新妻から聖書の一文を託された。「永遠なる神は汝のよりどころ。その永遠なる腕に抱かれて」

ジムは船を守るため戦うと同時に、倒れていった仲間たちの名前を記録していた。彼らの家族に最期を伝えるためだ。彼は言う。「やるべきことをやっただけだ」と。

われわれは、ホノルルの消防士ハリー・パンのような米国人を記憶にとどめている。激しい炎が眼前に立ち上る中、飛行機の火を消すために彼は身をささげた。名誉負傷章を受けた数少ない民間消防士の一人だ。

50口径のマシンガンを2時間以上も操作し、20にもわたる傷を負い、軍人に授けられる米最高の勲章である名誉勲章を受けたジョン・フィン曹長のような米国人を、われわれはたたえる。

▽戦争の試練

この地でわれわれは、いかに自分たちの永続的な価値が戦争によって試されたか、日系米国人たちが戦時中、いかに自由を奪われたかを思い返す。米国史上で最も多くの勲章を授かった部隊は、日系米国人2世で構成された第442連隊戦闘団であり、第100歩兵大隊だった。

その第442連隊戦闘団には、私の友人であり誇り高きハワイ人であるダニエル・イノウエ(故人)も所属していた。彼は私の生涯の大半を通じハワイ州選出の上院議員を務め、上院で彼と共に働くのは私の誇りだった。彼は名誉勲章や大統領自由勲章の受章者であるだけでなく、彼の世代における最も傑出した政治家の一人だった。

ここ真珠湾で、初めて第2次大戦を戦った米国は奮起した。この地で、米国は成熟した。私の祖父母を含む「最も偉大な世代」は、戦争を求めていたのではない。しかし彼らは戦争から尻込みするのを拒んだ。そして彼らは前線や工場で自分の役割を果たした。75年を経て、真珠湾の生存者は時とともに数が減ってきたが、この地で思い出す勇敢さはわれわれ国民の心に永久に刻まれている。

真珠湾や第2次大戦の退役軍人の皆さん。どうか立ち上がってください、もしくは挙手してください。国民が皆さんに感謝できるように。

▽強固な同盟

国家の品性とは戦時中に試されるものだが、その意味は平和の下で明確になる。海をまたいだ激しい戦いにより、数万どころか数千万の命を奪った人類の歴史で最も恐ろしい一章の後、米国と日本は友情を選び、平和を選んだ。

数十年にわたり、われわれの同盟は、両国に一層の成功をもたらした。さらなる世界大戦を防ぎ、10億人以上を貧困から引き上げた国際秩序を支えてきた。

共通の利益だけでなく、共通の価値観に根ざして結びついた日米の同盟は今日、アジア・太平洋地域の平和と安定のための礎石となっており、国際的な発展のための力となっている。われわれの同盟はかつてなく強固だ。

良いときも悪いときも、われわれは共にある。津波が日本を襲い、福島の原子炉が溶けた5年前を思い出そう。そこには、軍服に身を包んだ米国の男性や女性たちが、日本の友人たちを助けるためにいた。

日米はアジア・太平洋地域と世界の安全を強化するため、世界中で肩を並べて働いている。海賊を追い返し、疫病と闘い、核兵器の拡散を遅らせ、戦争で引き裂かれた地域の平和を保ってきた。

今年初め、真珠湾の近くで、日本は二十数カ国と世界最大の海上軍事演習に参加した。それには、米海軍将校と日本人の母との間に生まれたハリー・ハリス司令官が率いる米太平洋軍も含まれていた。ハリーは横須賀生まれだ。彼のテネシーなまりからは分からないだろうけれど。

ハリー、君の際立った指導力に感謝する。

その意味では、われわれが今日ここにいることが、政府間の関係だけではなく人々同士の関係が、そして安倍首相がここにいることが、国と国との間、人々同士で何が可能であるかを思い起こさせてくれる。戦争は終わり得るものなのだ。最も激しく戦った敵同士が、最も強い同盟をつくることができるのだ。平和によって得られる成果は、戦争による略奪を常に上回るものだ。これこそがこの神聖な湾の不朽の真実だ。

この地でわれわれは思い出す。憎悪が最も激しく燃えさかる時でも、民族的な優越意識が最も高まる時でも内向きになることに抵抗しなければならないことを。自分たちと違う者を悪魔のように決めつける衝動に抵抗しなければならない。

▽お互いのために

ここで払われた犠牲、戦争の苦悩は、全人類に共通する神聖なるものを追求することを思い起こさせてくれる。わたしたちが日本の友人たちが言うところの「お互いのために」努力しなければならないことを示している。

それこそが戦艦ミズーリのウィリアム・キャラハン艦長が残した教訓だ。彼は自分の船が攻撃された後でも(命を落とした)日本のパイロットが軍人の尊厳を持って、米国の水兵らが縫った日本の国旗に包まれて埋葬されるように命じた。何年も後にこの湾に戻ってきた日本のパイロットが残した教訓でもある。彼は年老いた海兵隊のらっぱ吹きと友人となり、慰霊のらっぱを吹いて、記念碑に毎月2本のバラを手向けるように頼んだ。1本は米国の犠牲者、もう1本は日本の犠牲者のために。

この教訓は、両国の人々が日々、最もありふれたやり方で学んでいる。東京で勉強している米国人であり、米国に留学している若い日本人たちだ。そして、共にがんの未解明な部分を解き明かそうとしたり、気候変動対策に取り組んだり、星々の研究をしたりしている両国の科学者たちもいる。

平和と友情で結ばれた日米両国の人々が共有する誇りに支えられ、マイアミのスタジアムを沸き立たせているイチローのような野球選手もいる。

国として国民として、われわれは受け継ぐ歴史を選ぶことはできない。しかし、そこから何を教訓とするかは選ぶことができる。その教訓に基づいてわれわれの将来像を描くことができるのだ。

安倍首相、日本の人々がいつも私を歓迎してくれたように友情の精神であなたを歓迎する。私はあなたと共に、戦争よりも平和からこそ勝ち取れるものがあるのだということ、報復よりも和解からこそ、恩恵を受けられるというメッセージを世界中に送りたい。この静かな湾でわれわれは友人として共に、亡くなった人々を悼み、両国が勝ち取ってきたもの全てに感謝をささげる。

犠牲者たちが神の腕の中で永遠に抱かれますように。退役軍人とわれわれを守るために立ち上がった人々を見守ってください。われわれ皆に神の祝福がありますように。ありがとう。

オバマ大統領の真珠湾での演説全文(日本語訳)|2016年12月28日 日本経済新聞 から

2016年12月27日火曜日

記事紹介|ポジティブとネガティブ

Pは「それは私にやらせて下さい」と言う

Nは「それは私の仕事ではありません」と言う

Pは「難しいが、多分出来ると思う」と言う

Nは「可能性はあるが、多分ダメだと思う」と言う

Pは常に解決策を持っている

Nは常に言い訳を持っている

Pはすべての問題に対して答えを見い出す

Nはすべての答えに対して問題を見い出す

Pは常に答えの一部になっている

Nは常に問題の一部になっている


ご想像の通りPはポジティブで、Nはネガティブとなります。

特に最後の二つでは、問題側と答え側に明確に別れます。

問題の一部とは、その人自身も問題を発生させている原因であるということ。

では何もしていない中立的な立場ならどうかと言えば、行動しないのはやはり問題の一部ということ。

意識的な行動のみが解決になり得るのです。

思いと行動を一致させることが大事ですね。

2016-12-26 今日の言葉 から

2016年12月25日日曜日

記事紹介|日本にとって沖縄とは何だ

聖夜が明け、サンタクロースもひと息ついている頃だろう。日本は広い。北海道が銀世界かと思えば、沖縄では先日、観光客が半袖姿で華やかなツリーを楽しんでいた。サンタ翁も、あの格好では汗だくだったに違いない。

米軍機オスプレイの飛行再開、辺野古埋め立てを認めた最高裁……。寒々としたニュースが続いている。「政ログイン前の続き府には県民に寄り添う姿勢が全く見えない」。米軍北部訓練場の返還式を欠席した翁長雄志(おながたけし)知事の言葉だ。

当地にいた10年ほど前を思い出す。「米軍ヘリ墜落」の一報で沖縄国際大へ着くと、まだ黒煙があがっていた。米軍の規制線で、地元市長も構内に入れない。その傍ら、米兵の注文を受けたピザの配達人は出入りを許される。

今回のオスプレイの事故現場では、ちぎれた機体が波に洗われていた。規制線は日米管理に改められた。だが稲嶺進(いなみねすすむ)・名護市長は入れない。機体を回収した米兵の一部は、集合写真に興じた。

目を疑う光景、と書くと少し違う。ああまたコレだね、とため息をつく沖縄の人が目に浮かぶ。若宮健嗣(わかみやけんじ)・防衛副大臣は現場に近づかず、1キロほど離れた砂浜から双眼鏡で「視察」した。政府が機嫌をうかがうのは、いつも海の向こうの米国だ。

「日本にとって沖縄とは何だ。同じ日本の国民なんだぞ」。沖縄からの変わらぬ訴えである。日本は広い。だから声が届かないのだろうか。面倒そうなメールを「既読」にし、中身をちらと見ただけで放っておく。そんな趣が本土にはある。

2016年12月24日土曜日

記事紹介|「深い学び」の実現、考える力を問う選抜へ

憂鬱の「鬱」の字を書けますか。御成敗式目の成立はいつ? 原子番号26の物質は何でしょう。球の体積の求め方は……。

といった問いに答えられたら世間でちょっと尊敬されるだろう。学校教育が人々に与える、こうした知識の量は膨大である。だからわたしたちは、学校で学んだ知識自体を「知」であると思い込んでしまう。「高学歴芸能人」が競うクイズ番組など、その典型だ。

AI時代の教育とは

しかし、本当はもっと大切なことがある。知識や体験を基に、物事を多面的に見る力や考える力、そしてひらめきを生む感性を持つことだ。単なる知識を超えた、ゆたかな「知」と呼びたい。

それは人工知能(AI)が進歩する時代の要請でもあろう。ただ知識をため込んだり、事務をこなしたりする営みはAIに取って代わられる。だとすれば、人間にしかできない仕事が問われる。そんな時代を前に、学校教育は相当な危機感を持たねばなるまい。

ところが現実はどうか。明治初年の学制公布以来の、欧米に追いつけ追い越せを目標とした知識注入教育が役割を終えた現代になっても、日本の学校教育はあまり変わることがない。授業が文字通り、教員によって「業を授ける」スタイルを抜け出せないのだ。

その意味で、こんど中央教育審議会が答申をまとめ、文科省が改訂を進めている新しい学習指導要領は注目すべき内容といえる。

2020年度から小中高校で順次導入されるこの指導要領は、教員が「何を教えるか」ではなく、児童・生徒の側に視点を移して「何を学ぶか」を示すことになる。それにより「何ができるようになるか」を問い、さらに「どのように学ぶか」を掲げるという。

その手法が「アクティブ・ラーニング」だ。一方通行の授業を脱却し、討論への参加や体験学習を通して「対話的・主体的で深い学び」を実現する。知識だけでなく、思考力・判断力・想像力の育成をねらう。こんな理念をちりばめた指針となるはずだ。

方向性も、こめられた問題意識も、まずは是としたい。

かねてアクティブ・ラーニング的な学びは先進国を中心に普及してきたが、日本では立ち遅れていた。改革がうまくいけば、柔軟な思考と感性で問題に向き合える人材の育成が進むかもしれない。主権者教育でも重要なことだ。

もっとも、そのために取り除くべき障壁があまりにも多い。

まず試されるのは、文科省が指導要領の趣旨を学校現場に丁寧に説明しつつ、教員一人ひとりの自主性と創意工夫を重んじた「学び」をうまく見守っていけるかどうかである。アクティブ・ラーニングに決して特定の型はない。

すでに教育界では新指導要領の先取りが始まっており、中央からの指示を待つ空気も漂う。そんななかで文科省が不用意な対応をすれば、新指導要領の趣旨とは相いれぬ画一化が進むだろう。

そもそも学校現場の多くが、経済的困窮とも関連する低学力層の底上げに悩んでいる。そうした子どもたちを救いながら「深い学び」の実現は可能なのか。教員にはかなりの力量が求められるが、掛け声だけでは人は動かない。

質と量の両立は困難

もうひとつの心配は、学習の量を削らずに「深い学び」がどこまで追求できるかという点だ。教員が真摯に取り組むほど、知識自体の伝授は不十分になる恐れがある。思い切って「質」を優先し、「量」は後回しにするような現場の裁量も認めたらどうだろう。

こうした課題克服に加えて、欠かせないのは教育条件の整備だ。多忙を極める教員に、いまの環境のままで新指導要領の徹底を求めるのは酷だ。長期的視点に立った教員定数と処遇の改善がきわめて重要である。体験豊富な社会人の力も、もっと借りたい。

視野を広げれば、大学入試の抜本改革が必須だ。どんなに小中高校の授業が変わっても、選抜のあり方が旧態依然では意味がない。私立大の大規模入試も含め、手間がかかっても考える力を問う選抜へと転換すべきである。

問題を挙げればきりがない。それでも学びの変革は、学校にゆたかな「知」をもたらすと期待をつなぐだけの価値はあろう。

米国の哲学者ジョン・デューイは19世紀の末に「学校と社会」のなかで、子どもたちを機械的に集団化し、画一化する教育からの解放を説いた。学校教育のコペルニクス的転回を――。100年以上前のこの言葉を、いま改めてかみしめるべきである。

2016年12月23日金曜日

記事紹介|クリスマスの使者

去年のクリスマスはとてもつらかった。

家族も親友も、はるか遠い故郷のフロリダにいた。

私は一人、寒いカリフォルニアで働き続け、体調も崩していた。

私の職場は、航空会社のチケットカウンター。

その日はクリスマス・イブ。

私は昼夜のダブルシフトをぶっとおしで勤務していたが、 夜も九時をまわり、内心みじめでならなかった。

当番のスタッフは2,3人いたものの、乗客の姿はまばらだった。

「次のお客様、どうぞ」カウンター越しに声をかけると、 柔和な顔をした老人がつえをついて立っているのが見えた。

老人がそろりそろりとカウンターまで歩いてくると、 聞き取れないほどの小声でニューオリンズまで行きたいといった。

「今夜は、もうそっちへ行く便がありません。 明日までお待ちいただくことになりますが」 と言うとその老人はとても不安げな顔になった。

「予約はしてあるのですか」「いつ出発のご予定だったのですか」 などと聞いてみたが、聞けば聞くほどいよいよ困った様子で、 ひたすら「ニューオリンズに行けって言われたから」 と繰り返すばかり。

そのうち、いくつかのことがわかってきた。

老人はクリスマス・イヴだというのに、義理の妹に「 身内のいるニューオリンズに行きなさい」と車に乗せられ、 この空港の前で下ろされたらしい。

彼女は老人に現金をいくらか持たせ、「 中へいってこれで切符を買いなさい」と行って立ち去ったのだ。

私が「明日もう一度来ていただけますか」と聞くと、「 妹はもう帰ってしまったし、今晩泊まるところもない。このまま、 ここで待つことにします」と言った。

これを聞いて、私は自分が恥ずかしくなった。

私はクリスマスの夜にひとりぼっちのわが身を憐れんでいた。

でも、クラレンス・マクドナルドという名の天の使者が、 こうして私の元につかわされ、ひとりぼっちとはどういうことか、 本当の孤独とはどんなものかを教えてくれている。

私の胸は痛んだ。

私はただちに「ご安心ください。 万事うまくやってあげますからね」と彼に伝え、 顧客サービス係に明朝一番の便を予約してもらった。

航空運賃も年金受給者用の特別割引にし、 差額は旅費の足しにしてあげることができた。

一方、老人はくたびれ果てて立っているのも辛そうだ。

「大丈夫ですか」とカウンターの向こうに回ってみると、 片脚に包帯を巻いている。

こんな脚で、衣類をぎっしり詰め込んだ買い物袋を下げて、 ずっと立ちつくしていたのだ。

私は車椅子を手配し、みんなで老人をその車椅子に座らせたが、 見ると足の包帯に少し血がにじんでいる。

「痛いですか」と聞くと、老人は「 心臓のバイパス手術をしたばかりでね。 そのために必要な動脈を脚から取ったんだよ。」

なんということだ! 老人は心臓のバイパス施術を受けたばかりのからだで、 付き添いもなく、たった一人で!

こんな状況に出くわしたのは初めてだった。

なにをしてあげたらいいのだろう。

私は上司の部屋に行き、 どこかに老人を泊めてあげてほしいと相談した。

上司はすぐさま、 ホテル一泊の宿泊券と夕食と朝食の食事券を出してくれた。

カウンターに戻った私は、ポーターにチップを渡して「 この方を階下までお連れして、シャトルバスに乗せてあげて」 とたのんだ。

車椅子の彼の上に身をかがめて、ホテルのこと、食事のこと、 旅の段取りをいまいちど説明しながら、 彼の腕をとんとんと叩いて励ました。

「すべてうまくいきますからね。」

いざ出ていく段になると、老人は「ありがとう」と頭を下げて、 泣き出した。

私ももらい泣きしてしまった。

あとになって、上司の部屋に礼を言いに戻ると、 彼女はほほえんでいった。

「いいわねえ、こういう話。その人は、 あなたのためにやってきたクリスマスの使者だったのよ。」

記事紹介|米国との交渉戦略

次期米国大統領のトランプ氏は、就任後にTPPから離脱すると表明し、公平な二国間協定による貿易交渉を進める考えを明らかにした。雇用と産業を取り戻し、強いアメリカを復活させるためだという。

二国間協定といえば、日本は過去に半導体や衛星分野などで苦い経験をしてきた。この時、日本はそれらの分野で力を付け、米国市場を脅かしはじめたころである。米国はスーパー301条をちらつかせながら、日本企業によるダンピング防止を求め、日本市場の積極的開放を求めるなどした。

二国間協定となれば、自国産業を守るために、今後はどういう分野で米国が交渉に動き出すか分からない。製造業分野で新たな要求でも出てくれば、なかなか活気を取り戻せない日本のものづくり産業が、さらに厳しい状況に追い込まれないとも限らない。

例えば、いま世界的に自動運転車の開発が注目を浴びているが、日本はこの分野でも開発が進んでいる。また、ロボット産業は世界をリードする技術レベルにあり、さらなる開発が進められている。

国をあげて開発を進めた通信衛星が、政府調達コードにかけられる形となり、研究開発用を除いて日本は実用通信衛星の開発を止めることになった過去がある。トランプ氏の発言は、こうした先端技術の産業分野で今後米国が圧力を強める可能性を示唆しているのではと、不安な気持ちになる。

二国間協定は、米国が得意な交渉戦略である。取り越し苦労かもしれないが、日本はしっかりと情報収集を行い、そうなった時の準備を今から進めておく必要がある。

2016年12月22日木曜日

記事紹介|与えられた縁をどう生かすか

先生が5年生の担任になった時、一人服装が不潔でだらしなく、どうしても好きになれない少年がいた。

中間記録に先生は少年の悪いところばかりを記入するようになっていた。

ある時、少年の一年生の記録が目にとまった。

「朗らかで、友達が好きで、人にも親切。勉強も良く出来、将来が楽しみ」とある。

間違いだ。他の子の記録に違いない。先生はそう思った。

二年生になると「母親が病気で世話をしなければならず、時々遅刻する」と書かれていた。

三年生では「母親の病気が悪くなり疲れていて、教室で居眠りする」 後半の記録には「母親が死亡。希望を失い、悲しんでいる」とあり

四年生になると「父は生きる意欲を失い、アルコール依存症となり、子供に暴力を振るう。」

先生の胸に激しい痛みが走った。

ダメと決め付けていた子が 突然、悲しみを生き抜いている生身の人間として、自分の前に立ち現れてきたのだ。

放課後、先生は少年に声をかけた。

「先生は夕方まで教室で仕事をするから、あなたも勉強していかない? 分からないところは教えてあげるから」

少年は初めて笑顔をみせた。

それから毎日、少年は教室の自分の机で予習復習を熱心に続けた。

授業で、少年が初めて手を上げたとき、先生に大きな喜びが沸き起こった。

少年は自信を持ち始めていた。

クリスマスの午後だった。

少年が小さな包みを先生の胸に押し付けてきた。

後であけてみると、香水の瓶だった。

亡くなったお母さんが使っていた物にちがいない。

先生はその一滴をつけ、夕暮れに少年の家を訪ねた。

雑然とした部屋で独り本を読んでいた少年は、気がつくと飛んできて、先生の胸に顔を埋めて叫んだ。

「ああ、お母さんの匂い! 今日は素敵なクリスマスだ」

六年生では少年の担任ではなくなった。

卒業の時、先生に少年から一枚のカードが届いた。

「先生は僕のお母さんのようです。そして今また出会った中で一番素晴しい先生でした」

それから六年、またカードが届いた。

「明日は高校の卒業式です。僕は五年生で先生に担当してもらって、とても幸せでした。おかげで奨学金をもらって医学部に進学することが出来ます。」

十年を経て、またカードがきた。

そこには先生に出会えた事への感謝と父親に叩かれた体験があるから患者の痛みが分かる医者になれると記され、こう締めくくられていた。

「僕はよく五年生のときの先生を思い出します。あのまま駄目になってしまう僕を救って下さった先生を神様のように感じます。医者になった僕にとって最高の先生は五年生の時に担任して下さったせんせいです」

そして一年。届いたカードは結婚式の招待状だった。

「母の席に座って下さい」と一行、書きそえられていた。

2016年12月21日水曜日

記事紹介|冬至

本日は二十四節気の22番目の冬至です。

北半球では太陽の南中高度が最も低く、昼の時間が最も短い日。

だから太陽の力が最も弱いとも言われますが、ここを境に明日から昼の時間が延びてくるので、太陽がいよいよ力を取り戻すことから「太陽の誕生日」とも言われるそうです。

そのような変化を生み出すのが、地球や惑星の自転と公転の作用のおかげ。

自転を自分ごとと捉えれば、公転は他の人への働きかけ。

自ら公転して、周りを好転させて行きましょう。

2016-12-21 今日の言葉 から

2016年12月18日日曜日

記事紹介|最も存続が危ぶまれる10の職種

今後、2024年までに採用数が最も大幅に減少すると見込まれる主な職種は、減少幅の大きい順に以下のとおり(数字は予想される雇用機会の減少率、かっこ内の金額は現在の年収の中央値)。

1位 郵便配達員:-28%(5万6,790ドル、約671万3,500円)
2位 タイピスト:-18%(3万7,610ドル)
3位 検針員(電気・水道など):-15%、3万7,610ドル)
4位 ディスクジョッキー:-11%(3万80ドル)
5位 宝石商:-11%(3万7,060ドル)
6位 保険契約引き受け業務:-11%(6万5,040ドル)
7位 仕立屋/テーラー:-9%(2万5,830ドル)
8位 記者・アナウンサーなど(放送):-9%(3万7,720ドル)
9位 新聞記者:-8%(3万6,360ドル)
10位 コンピュータープログラマー:-8%(7万9,530ドル)

最も存続が危ぶまれる10の職種 米ではプログラマーの採用も減少|Forbes JAPAN から抜粋

記事紹介|国立大学をつぶすマネジメント

2011年9月、会計検査研究第44号の「巻頭言」に、佐和隆光滋賀大学長(当時)の「国立大学法人化の功罪を問う」という論考が掲載されている。
第1期中期計画期間を終えて、佐和先生は、自身が反対した法人化が、教育・研究の質的低下、研究費の「集中と選択」の弊害、教員人件費削減の弊害、大学間格差の拡大など、様々な面で失敗だったとしている。
2点目の研究費の配分に関しては、法人化とは別問題だと思うが、同時期に政府によって進められた施策が、国立大学の学術研究を歪める結果を招いたという批判だろう。
残りの3点は、第2期中期計画期間が終了した今、更にその傾向が進み、問題が深刻化していると言える。
特に教員人件費に関しては、物件費削減で人件費を確保してきた大学法人も、最近の北海道大学の動向に見られるように、いよいよ苦境に陥っており、第1期終了時点よりは事態が切迫している。

第2期終了時点で付け加えるべき問題としては、国全体の研究力の地盤沈下、博士課程の価値低下、大学の機能分化及び分野間格差、家庭の経済力による進学格差の顕在化などを挙げることができるだろう。
国の財政事情の悪化が、予算面での「国立」の実質的終焉を招いており、多くの国立大学法人が、将来への明るい展望がない中で、単年度の収支を取り繕う経営に終始するしかない状況に追い込まれている。
運営費交付金と施設整備費補助金は、既に切られすぎている状況だが、第3期も削減が続くと予想されるので、佐和先生の言う失敗は、次第に致命的なものになるだろう。

法人化に関して、国の立場からは、公財政支出を抑制することに成功していること、附属病院経営に関して赤字補填を不要にできたこと、国立大学法人の経営判断で受益者負担が強化されていることなどは、意図した成果と捉えることができる。
もっとも、財務省は、科研費等を含む公財政支出は、社会保障費以外の予算が抑制される中でも増額しているという資料を作成して財政審に提出している。
数字のカラクリを駆使することに長けている人たちなので、右肩上がりになるように、都合の良い事項だけを集めているのである。
OECD諸国の中で、我が国は、対GDP比で高等教育への公財政支出が最低の部類だが、高齢化が進んでいるために数字が低くなっている租税負担率を引き合いに出して、税負担に見合う予算は確保しているという論理を打ち出している。
その上で、産学連携や寄付金募集などの自己収入への取り組みを、制度も歴史も異なる米国の主要大学の例を挙げて、強く求めている。
こうした言い分を生み出している財務省の職員も苦しいだろう。国立大学の現場の実態が理解できないほど頭が悪い人たちではない。
文科省の人たちを含めて、予算が伸びないために世界の大学間競争に後れを取っていることは分かっているが、国から配分した予算を生かして現場の工夫によって何とか教育研究のレベルを維持してもらいたいという気持ちだと理解している。

意図したかどうかは不明だが、法人化の結果として生じている変化もある。
具体的には、国立大学間の役割分担である。大学の機能分化と表現して差し支えないだろう。
文科省が選択をさせた結果、国立大学法人は公式に3つの類型に分かれており、更に法改正に基づく、文科省による「指定」が行われれば、「指定」された国立大学法人という別のカテゴリーも誕生する。
こうした枠組みを踏まえて、教育組織の見直しが次々と実行に移されている。
傾向としては、学問体系に基づく区分から、修得する社会的技能に基づく区分に、転換する動きになっている。
地域型の大学としては、地域の特色に合わせて組織編成を変革しているのだろう。
学生募集の観点から、ある意味で私学の経営と同じ路線を歩んでいこうとしている。
こうした転換が長期的に経営面で成果を生むのか、国立大学の本来の趣旨に合致しているのか疑問もないわけではないが、経営体としての自主的な努力としては容認せざるを得ない。

決して意図したわけではないが、明らかに状況が悪化した面もある。
予算の抑制・削減が根本的な要因だが、若手研究者の雇用形態の不安定、附属病院の医師の勤務環境の変化、教授等への研究以外の業務負担の増加などの現象から、1人あたりの平均研究時間×研究者数の総和の減少を招き、価値のある優れた論文の生産力に大きな影響を及ぼしている(トップ1%論文の国別ランキングが急落)。
大学の研究職の魅力も低減しているため、博士課程への進学が敬遠される傾向が続いている。
装置産業たる国立大学の屋台骨とも言える施設・設備の老朽化・陳腐化も確実に進んでいる。
この点は、苦しさを増す大学法人の財務を遣り繰りしても取り組まざるをないので、第3期以降の大きな攪乱要因になるだろう。

佐和先生が指摘していたように、大学間の格差、部局間の格差も更に拡大している。
産学連携、寄付金も、今後予測される学費の値上げも、競争力によって差が出てくる、すなわち財務力に更に格差がつくのは当然の成り行きである。
規制緩和によって、土地資産等の有効活用の可能性も拡大するだろうが、経済的な価値が高い資産を保有している大学が有利である。
こうした初期条件の格差が、更に増幅されるに違いない。
既に国大協のような連合体の意思をまとめるのは、非常に困難になってきているが、今後は、格差が拡大することで、大学の利害が対立することは必至である。
また、主要大学での研究不正が後を絶たないのは、法人化で促進された競争の弊害である。
意図したわけではないが、個人、グループ、部局、大学、それぞれの単位で競争が激しくなっているため、大学という学問の府がセクター全体として余裕をなくしているのではないか?
だから法人化を失敗だと決めつけるのは、フェアではないと思うが、意図せざる結果や行き過ぎを修正することに努力しなければ、取り返しがつかない結果を招くのは明らかである。
世界一の自動車メーカーであるトヨタでは、「トヨタをつぶすにはどうしたらいいか?」という思考実験の結果を踏まえて、その逆の手を打って経営力を高めているという。
財務省も文科省も、更には一部の大学法人でも、意図しないどころか、正に良かれと思って、実際には国立大学をつぶすマネジメントを一生懸命に展開しているのかもしれない。そうだとすれば、恐ろしいことである。

2016年12月17日土曜日

記事紹介|誰もができることを徹底して続ける

「普通の人が見過ごしそうな、小さな平凡なことを一つひとつ拾いあげて大切に育てる」

「だれもができることを、だれもがやれないくらい徹底して続ける」

「だれにでもできる簡単なことで、人に差をつける」

だれにでもできる簡単なことをバカにする人は多い。

仕事や人生とは、「もっと大きなことをやること」、と勘違いしているからだ。

掃除に限らず、簡単だが、基本的で大事なことは多い。

小学生でもわかる簡単なことだが、大人でもちゃんとできていないこと。

「しつけの三原則」という森信三先生の言葉がある。

1. 朝のあいさつをする子に(それには、先ず親が先にする)

2. 「ハイ」とはっきり返事のできる子に(それには、母親が夫に呼ばれたら「ハイ」と返事をすること)

3. 席を立ったら必ず椅子を入れる(はき物を脱いだらそろえる子に。あと始末をきちんとする)

「単純なことを周囲が感動するくらい実践する」

だれもができることを、だれもがやれないくらい徹底して続けたい。

2016年12月16日金曜日

記事紹介|いわゆる「過度なローカルルール」

いま話題の河野太郎衆議院議員のブログから

まだまだもっと研究者の皆様へ 2016-12-15

お寄せいただいた大学のローカルルールを基に、会計検査院や文科省と打ち合わせをしました。

まず、会計検査院に関していえば、ほとんどの大学のローカルルールは会計検査院的には不要なものであり(航空券の半券を添付するあるいはコンプライアンス研修を年一回受講するなどというものを除いて)、会計検査院としては求めていないということが明確になりました。

そこで文科省と打ち合わせをしました。

まず、文科省が、こうした大学のローカルルールの存在に気が付いていないということが大きな問題だと指摘しました。

研究効率を落としているローカルルールをいかになくしていくか、文科省が改善するためのプログラムを早急に策定します。

大学の事務部門の幹部は国立大学法人化した後も引き続き文科省が人事権を行使しています。

しかし、事務部門に関してはパフォーマンスで評価するということがこれまでなかったため、不合理非効率的な規則を作成して、研究部門の効率を落としても咎められませんでした。

事務部門のパフォーマンスをきちんと評価して、人事に反映していくシステムを、これも文科省が策定します。

また、寄せられたなかにあった文科省が管理するプロジェクトで購入した備品を返納するために、修理不能証明書が必要だという件については、すでに文科省の方でルール変更を進めています。

近々通知が出される予定です。


参考までに、もう一つご紹介します。

行政改革推進本部 行政事業レビューチーム 提言 2016-12-14

自民党の行政改革推進本部 行政事業レビューチームの提言がまとまりましたので、本日官邸に提出しました。

統計情報、研究費に係る制度の改革、エネルギー・原子力政策関連予算などに始まり、各省の事業予算に至るまでをカバーしています。ぜひご一読を。

3 複数府省にわたる課題

研究費に係る制度の改革(競争的資金所管府省)

科学研究費に代表される競争的資金については、一昨年(2014年)の提言でも、各府省で異なる書式やルールの統一を求め、政府においても改善が図られたところである。

しかし、いまなお各大学・研究機関等が独自のローカルルールを設けていることにより、エクセルで作成された申請書のフォーマットが使いづらい、電子申請が出来ず書類を郵送しなければならない、申請のたびに業績等の研究者情報を入力しなければならないなど、非合理的な制度が存在するとの指摘が、現場の研究者等から多数、寄せられている。

研究者が不必要な事務負担に多くの時間を費やしていることは、本来の目的である研究活動の生産性を阻害し、人件費に換算すれば無駄な支出ともなる。研究費に係る制度について、研究者ファーストの目線での早急な改革が必要である。

  • 研究費に関しては、研究者目線での不合理なルールの廃止を徹底すべき。
  • ローカルルールを全廃し、少なくとも全ての国立大学・国立研究機関等で制度を統一すべき。
  • リサーチマップ等のポータルサイトを活用し、研究者情報を共有すべき。
  • 旅費については、合理化すべき。
  • 官民データ活用推進基本法で定められた「デジタルファースト」の方針に従い電子申請を基本とすべき。

国立大学法人運営費交付金が削減される一方、競争的資金等を加えた研究費予算は、少なくとも横ばいになっているにもかかわらず、わが国の基礎研究の成果が上がっていないという声が根強い。

それについてはしっかりとした検証が必要だが、2020年度のプライマリーバランス黒字化という目標に鑑みると、今後、研究費の大幅な増額は期し難い状況である。

しかしながら、文部科学省内で研究の成果を客観的に何で測るかといった指標が明確にされていない。また、運営費交付金、科学研究費等競争的資金、宇宙・原子力・スパコンなど巨額の予算が投入されるメガプロジェクトの間の予算配分や優先順位付けの司令塔が不明確である。

  • 基礎研究に関する現状認識について統一見解を早急にまとめるべき。
  • 研究の成果を客観的にどう測るか、政府内での合意を図るべき。
  • 運営費交付金と競争的資金のこれから将来へ向けての配分の在り方に関して検討すべき。

2016年12月15日木曜日

記事紹介|大学の存在価値と持続可能性

「受け身」では大学への理解も支持も広がらない

社会・経済的環境を与件とし、それにどう対処するかという受け身のスタンスをとり続ける限り、大学に対する理解や支持は広がらないだろう。

一方で、現代社会が直面する諸課題はいずれも複雑で、難易度が一層高まる傾向にある。解決のためには、確かな知識・スキル、正確な情報、公平な立場などが強く求められる。

大学こそそれを担うに相応しい機関であり、社会的課題の解決に組織的・能動的に関わることで、より明確に存在価値を示すことができるのではないかと考える。

社会に解決すべき問題があるということは、ニーズがあるということであり、企業に喩えるならば成長機会があるということである。

「大学を取り巻く環境は厳しさを増しつつある」という常套句で、危機意識を持たせ、改革を促すことも一つの方法だが、環境を与件とせず、環境に働きかけることで社会の期待に応えることこそ、大学の持続可能性を高めるための確かな道筋ではなかろうか。

大学こそ社会的課題の解決に純粋に向き合える

①将来に向けた人口減少への歯止め、②当面の人口減少と少子高齢化の下での経済成長、社会保障と財政の持続可能性、地域活力の維持・向上、③量的ポジションが低下する中での、我が国の国際社会におけるプレゼンスの確保、④労働生産性の向上とイノベーション、⑤貧困・格差の解消と誰もが希望が持てる社会、⑥グローバル化がもたらす問題の克服と相互に価値を享受し得る枠組みの構築、など重要なテーマが浮かびあがってくる。

国、地方公共団体、企業・団体等は、これらを背景に日々持ちあがる問題に、錯綜する利害を調整し、時間を区切りながら、取り組んでいかなければならない。問題を多角的に検討し、長期的視点に立って解決策を導き出すためには、制約条件やノイズがあまりに多すぎる。

そこに大学の存在価値がある。

研究と教育を発展させる創造的な契機をくみとる

実際に大学教員の関心を社会の変化や社会的課題の解決に向けることは容易ではない。

そのためには、学長・副学長、学部長及び職員が、これまでにも増して社会の変化や社会的課題の解決に関心を寄せる必要がある。会議時間を半減させ、捻出した時間の一部を使って様々な分野の外部講師を招いて話を聞くことなど、決断次第で直ちに着手できることである。教員にも声をかけ、会議とは異なる率直なコミュニケーションの場を広げていくことが大切である。

また、社会的課題の解決をテーマとする共同研究を奨励し、そのためのインセンティブを付与することも検討すべきであろう。

大学は依然として内向きと言わざるを得ない。構成員の意識を内に向かわせるあらゆるシステムや慣習を見直し、組織全体を「外向き」に転換させることはトップマネジメントの役割である。

1971年6月の中央教育審議会『今後における学校教育の総合的な拡充整備のための基本的施策について(答申)』(「四六答申」)第3章「高等教育の改革に関する基本構想」に以下の一文がある。

このようなさまざまな要請を今日の高等教育全体の機能の中に生かすためには、複雑高度化した現代社会に対応する新しい制度的なくふうが必要である。とくに、学問研究の自由に対する保障は、あくまで人間理性の自由な活動から生まれる提言と批判を通じて大学が社会に貢献するための基本的条件である。しかし同時に、大学は、進んで歴史的・社会的な現実に直面し、そこから研究と教育を発展させる創造的な契機をくみとることができるような社会との新しい関係を作ることによって、その社会的な役割をじゅうぶんに果たすことに努めるべきであろう。(原文のまま)

この20年間に社会は大きく変化した。これからの20年間、変化はさらに加速するだろう。それに翻弄されることなく、社会的課題の解決に積極的に関与することで、大学は存在価値と持続可能性を高めていかなければならない。

吉武博通 筑波大学ビジネスサイエンス系教授 から抜粋

2016年12月14日水曜日

記事紹介|言行一致

時間は過ぎ去って行くから取り戻せない。

言葉は相手に届く矢のようなものだから、発した後は取り返しに行けない。

さらには、どこに飛んでいくのかもわからない時もある。

時間は命の別名だから、これを無駄にするということは、自分自身の命を粗末に扱うことになる。

そう考えると暇つぶしという概念は存在の余地はなくなる。

たった5分を有効に活用出来ない人に、どうして大きなことが出来ようか。

そう諫(いさ)める言葉もあります。

言葉と行動は相手に届くものであり、相手はそれを持ってあなたを評価する。

どんなに別の想いがあっても、判断されるのは、発せられた言葉であり、伝え方であり、どのように行動しているのかということ。

言ってることと行動を一致させる、言行一致を大切にしていきましょう。

2016年12月13日火曜日

記事紹介|おかげさまで

ノートルダム清心学園理事長、渡辺和子氏の心に響く言葉より…

小さなお子さんの手を引いて、一人のお母さまが水道工事の現場の傍(そば)を通りかかりました。

暑い夏の昼下がりのことでした。

お母さまは坊やに向かって、「おじさんたちが、汗を流して働いてくださるから、坊やは、おいしいお水が飲めるのよ。ありがとうと言いましょうね」と話してやりました。

やがて、もう一人同じように幼い子の手を引いて、別の母親が通りかかりました。

「坊や、坊やもいまから一生懸命にお勉強しないと、こういうお仕事をするようになりますよ」と言ったというのです。

同じ仕事に対して、こうも違った考えがもてるものでしょうか。

最初の母親は、この日、子どもの心に労働に対しての尊敬と感謝の気持ちを育てました。

二番目の母親は、(手をよごす仕事、汗まみれの労働)に対しての、恐ろしいまでに誤った差別観念を、この日、我が子に植えつけたことになります。

私たちがいま、子どもと一緒にこの場にいたとしたら、どんな会話を交わすことでしょうか。

会話以上に大切なのは、どんな思いを抱いて、働いている人たちの傍を通るかということなのです。

人は、自分がもっていないものを、相手に与えることは出来ません。

感謝の気持ちを子どもたちの心の中に育てたいならば、まず親がふだんから「ありがとう」という言葉を生活の中で発していることが大切なのです。

近頃の学生たちで気になることの一つは、いわゆる〈枕詞(まくらことば)〉のようなものを習ってきていないということです。

例えば、「お元気ですか」と尋ねると、「はい、元気です」という答えは返ってきても、「おかげさまで元気です」という返事のできる学生が、以前と比べて少なくなりました。

遅刻して教室に入ってきた学生が、授業の後で、「遅刻しました」と、名前を届けにはきても、「すみません、遅刻しました」という枕詞がつかないのです。

「お話し中、すませんが」とか、「夜分(やぶん)、失礼します」という挨拶のできる学生も少なくなりました。

いずれにしても、言葉が貧しくなっています。

そして、それは取りも直さず、心が貧しくなっている証拠なのです。

せめて、「おかげさまで」という言葉と心を、生活の中に復活させましょう。

理屈っぽい人は、「何のおかげですか」と言うかも知れません。

何のおかげでも良いのです。

この表現は、私たちが実は、一人では生きられないこと、たくさんの〈おかげ〉を受けて生きていることを忘れない心の表れなのです。

見えないものへの感謝なのです。

ところで、本当にありがたいこと、何でもない時に「おかげさまで」と言うのは比較的に易しいのですが、不幸や災難に遭った時はどうしましょう。

そんな時にも、「おかげさまで」と言える自分でありたいと思っています。

ごまかすのではなく、不幸、災難、苦しみをしっかりと受け止めながら、「いつか、きっとこの苦しみの〈おかげさまで〉と言える自分になりたい、ならせてください」と祈る気持ちをもっていたいのです。

2016年12月12日月曜日

記事紹介|成果を狙ってばかりでは…

基礎研究というのは、川で言えば上流部分に当たる。東北地方においしいカキが取れる湾があったが、ある時から取れなくなった。調べてみると、上流で開発が行われて森林が荒れ、十分な栄養が流れて来なくなったことが原因だった。科学も同じで、上流の基礎研究を枯らしてしまうと、いい成果が下流部分で出てこなくなる。

日本では基礎研究よりも、すぐに成果が出る実学的なものを重視する傾向が強まっている。もちろん、基礎研究を無視しているとまでは言えない。僕と一緒にノーベル賞を受賞した小林誠君(名古屋大特別教授)がいる「高エネルギー加速器研究機構」(茨城県つくば市)には、毎年かなりの予算が投じられている。ただ、湯川秀樹先生や、僕の師匠の坂田昌一先生(元名古屋大教授)といった素粒子物理の分野を世界的にリードしてきた先人の努力、長年の蓄積があってこそという面も否定できない。実績のない分野の基礎研究が置かれている環境は厳しい。

背景には、研究資金の配分方法の変化がある。研究者が自由に使える研究費は減り、公募で選ばれたプロジェクトに配分する競争的資金の比重が高まった。予算を申請する段階で成果の見通しを説明するよう求められ、定期的に進捗(しんちょく)状況を報告しなくちゃいけない。この仕組みでは、確実に成果が期待でき、社会へのアピールにもつながる研究が予算を獲得しやすい。しばらく論文を書かず、新しいものに挑戦していくような基礎研究は細っていく。

初等教育や中等教育にも問題がある。日本社会は教育熱心と言われるが、正確には、教育結果に対して熱心なのだと思う。目の前の試験や入試を重視するあまり、高得点を取るテクニックばかりが発達し、研究者の素養として重要な深く考える力が育ちにくい。

例えば、こんな話がある。水が半分入ったコップを傾けた時、水面がどうなるかという問題を小中学生と高校生に解かせた場合、正解率は高校生が最も低かったという。少し考えれば答えは分かるはずなのに、受験テクニックとして、「見たことのない問題は飛ばして次に移れ」と教わっているから、多くの高校生がその言いつけを守って手をつけなかった。逆説的なことに、日本では長く教育を受けた者ほど考えなくなるのだ。

研究というのは、自分で問いを立て、その前に座り込んで考えるものだ。未知のものに挑む基礎研究では、特にこの傾向が強い。基礎研究を重視するのであれば、教育の仕組みを変える必要がある。

文系の学問を「役に立たない」と断じる風潮も、基礎研究の軽視と同じ文脈にある。だが、おかしな話だ。僕は名古屋大の学部生時代、哲学の本も随分読んだ。理解できない部分があるが、役に立たなかったわけではない。基礎研究の場合、問い立てや目のつけどころには、研究者の世界観が表れる。哲学だってその土台になったはずだ。科学は最終的に、人々の生活を豊かにしなければならないとは思う。だが、そのことばかりを狙って達成できるほど単純なものではない。


交付金12年で12%減

基礎研究の苦境の背景にある予算削減の中心は、国立大が人件費や研究費の資金とする文部科学省の「運営費交付金」だ。2004年度の大学法人化後の12年間で1470億円(12%)減り、16年度は1兆945億円。このため国立大は教員の新規採用を抑え、40歳未満の若手研究者が年々少なくなっている。教員1人の研究費も減少。このあおりで、運営費交付金とは別枠で研究者が取り合う「科学研究費補助金」の獲得競争が激しくなっている。

2016年12月11日日曜日

記事紹介|宇宙の使い道

今国会は、新たな地球温暖化対策の国際的枠組みであるパリ協定、TPPなど話題に事欠かない。その中で、第190回通常国会に提出され、継続審議だった宇宙関連2法案(宇宙活動法、リモセン法)が11月9日、参議院の本会議で可決、成立した。これらは主に民間による宇宙開発・利用を促進するためのものだ。

例えば、米国ではスペースX社が幾度かの失敗をしながらも大型ロケットの打ち上げサービスを行っている。日本国内でも小型ロケット等の打ち上げは民間でという流れがある。これまで限られた組織でしかできなかったロケットの打ち上げにベンチャー企業が参入できるよう法整備したのだ。今年度中に政府が取りまとめる「宇宙産業ビジョン」の下、宇宙産業全体の底上げを図る。

ここ最近の一番の話題は、やはり米国の次期大統領にドナルド・トランプ氏が決まったことだろう。サイエンス・ディベートによるアンケートでは同氏の回答の中に、宇宙についてのキーワードが何度か登場する。他の科学技術分野に対する回答の希薄さからすれば注目すべきだが、実際は予想がつかない。日本の宇宙科学・宇宙開発は、国際協調で進めるという考えだが、特別な関係にある米国の政策に引きずられる可能性もある。

米国のように民間による宇宙関連サービスの拡大が、様々なイノベーションをもたらす可能性がある。これまで考えられなかった新しい「宇宙の使い道」が見いだされるかもしれない。大きな世界的変化の中で、政府は宇宙産業をどのようなストラテジーをもって推し進めていくのか、今後の展開に期待したい。

2016年12月10日土曜日

記事紹介|産学官連携による共同研究強化のためのガイドライン

産学官連携ガイドラインはどの程度実行されるのか?

経産省と文科省が、産学官連携ガイドラインを公表した。

産との本格的な共同研究への学官の体制・システム整備が目的である。

内容を見れば、通常のガイドラインとは異なり、大学や研究開発法人の実態に合わせて、達成水準や実施方法には幅があっても差し支えない構成としている。

その意味で、規範性は弱く、事例集の内容を踏まえて現場で工夫することを求めている。

実施に当たって、更に踏み込んだ措置が必要であると私が考えるポイントについてコメントしてみたい。


第1に、大学の本部機能の強化については、現場では、金・人・ノウハウが絶対的に不足しており、基幹事業としての基盤の構築が不十分である。

この問題には、構造的な背景があり、大学経営全体の中で、産学官連携に金・人・ノウハウが集まるよう、発想を転換しシステム改革を実行しなければ、国が構想しているようなレベルアップは実現しない。

各機関の努力も必要だが、産学官連携の本部機能の抜本的強化には、機関を超えた連携組織による集中処理の仕組みを作ることが有効である。

つくばは、そうした超本部の実現に適した地域であるが、府省の壁、機関の壁に遮られて、共通認識も得られていない。

特に、専門人材として雇用されている者の質がばらついており、大半の機関は費用を上回る成果を得るに至っていない。

収益までのタイムラグもあるため、資金が循環する前に枯渇気味になり、活動全体が萎縮していく傾向にある。

大学経営の中で、少なくとも産学官連携の目的として、利益追求を正面から認め、内部蓄積を是とするのでなければ、基盤の構築は遅れる一方である。

また、プロボストのような人材が産学官連携に全権を持って取り組むという方式を貫くことを推奨すべきではなかったかと考える。

当然ながら、学長にも理解が必要だが、あらゆることが学長の責任と権限になっているので、必要を感じても十分に時間がないのが実態である。

対外折衝の総括、学内調整の権限を掌握した人材が存在することで、事務部門・部局間の複雑な調整がスムーズになる。


第2に、資金について見える化を促進するには、積算方式の標準を示すのが早い。

特に、上記の利益に相当する部分をどのように理論的に整理して組み込むのかが重要である。

なお、教員の質によって、直接経費に盛り込む単価を調整可能としている。

この部分で大学経営にとっての収支差額(利益)が確保できる可能性がある。

戦略的産学連携経費と記されているものも、私が考える利益に相当するようだが、議論に参加していない人にはわかりにくい。

財務基盤強化の観点からは、産学官連携に関する事業において、産官との共同事業への参加を可能にすること、当該事業への出資を可能にすることを早期に実現する必要がある。

国立大学法人は、収益事業ができない建前になっているため、産学官連携で稼ぐことを正面から認める政策変更を行うことを国に求めたい。

法改正に至らずとも、附帯事業等の解釈によって、道を拓くことが可能である。

そのことにより、大学経営の中で、産官学連携の戦略的な重要性が増し、この分野に、自ずと金・人・ノウハウの集中が進む流れができる。

こうした循環を作ることが当面の目標になる。

積算方式については、選択肢を示すに止めている。

一定率を間接経費として上乗せする定率方式は、小規模な共同研究には適用しても構わないが、「見える化」を徹底的に推進する観点からは、アワーレート方式等を標準として明記すべきだったと感じる。

方式までも現場に選択を委ねているので、この部分のガイドラインの記述は単なる事例に過ぎなくなっている。


第3に、知財マネジメントについては、金・人・ノウハウの欠如により、大学現場の実務を見れば、建前は組織管理、実態は個人管理に陥っているケースが多い。

知財収益から費用が支出できる理想のサイクルは回っていないため、予算が枯渇すれば、組織管理も不可能になる。

資金の内部蓄積を進める一方、ファイナンスに関して、国主導による安定的な支援システムを構築することが望ましい。

政府による取り組みについては、ガイドラインの別紙に簡単な記述はあるが、迫力不足である。

また、専門人材に関しては、事務職員からの転進を含めて、ある程度の層を形成する必要があるため、3段階程度の資格制度のようなものを新規に立ち上げて、マンパワーの強化を図る必要がある。

現状は、専門性、役割、位置づけ、処遇全てに渡って、中途半端である。

さらに、ガイドラインでは、雇用関係がない学生も共同研究等に参画することがあり得る前提となっているが、共同研究等に従事する学生は、すべて研究助手(RA)として雇用し、契約に基づいて守秘義務などを課するという筋道を明確にするとすっきりする。

雇用関係がないために契約で縛れない学生については、当該共同研究等から物理的に遮断することにしないと、大学等は組織として責任が持てないのではないか?

学生との在学契約の一環で、共同研究等に関する守秘義務をどこまできちんと課することができるのかは疑問である。


第4に、人材の循環について、クロスアポイントメントを民間企業との間で進めたいのは山々だが、当事者の研究者から見てメリットが乏しい。

また、クロスアポイントメントで優れた研究者の時間を切り売りするよりは、共同研究の枠組みで資金を受け入れる方が、実態に即している。

仮に、給与の40%に相当する額を負担してもらって、40%のエフォートを提供しないのであれば、実態は寄付になってしまう。

寄付講座ならば、別の枠組みになる。

要は、研究者、大学、企業等のそれぞれに明確なメリットを付与しなければ、民間企業との間での利用拡大は難しい。

名古屋大学の事例が紹介されているが、この程度の措置で急拡大するだろうか?

また、毎年度の国立大学法人評価においてガイドラインを活用することが記述されている。

運営費交付金の配分との連動には言及されていないので、一つの要素として評価すること自体には問題がないと思うが、運営費交付金は広範な使途が予定されているので、ある切り口での成果に着目して増減を行うことは適切ではない。

かりに、補助金のような性格の資金の配分であれば、評価に基づく増減は可能である。

ガイドラインの実行を促進する上で、そうした予算が確保されることは望ましい。

2016年12月9日金曜日

記事紹介|Ask

国があなたのために

何をしてくれるのかを

問うのではなく、

あなたが国のために

何を成すことができるのかを

問うて欲しい。

J・F・ケネディ


ケネディ元米大統領の有名なフレーズからご紹介です。

原文は、

『My fellow Americans,

ask not what your country can do for you,

ask what you can do for your country.』

誰かに何かをしてもらうことを期待するのではなく、

自分に何が出来るのかを問うこと。

それが自分自身当事者意識高めることになる。

「国」を自分が所属する組織や会社、学校やクラス、チームなどに

置き換えていいでしょう。


してくれないことにただ不満を持つのではなく、

『批判は大いに結構。ただし反対対案を示すこと』

という姿勢を忘れずに。

2016-12-07 今日の言葉

2016年12月8日木曜日

記事紹介|夢を見る人、夢をこわす人、夢を実現する人

夢を実現する人になるためには、まず、夢を見る人になる必要があります。

夢を見なければ何も始まらないからです。

そして次に、夢をこわす人と距離をおく必要があります。

夢をこわす人は、自分の夢だけでなく他人の夢もこわそうとするからです。

みじめな仲間を増やして安心したいのかもしれません。

ネガティブな人には気をつけましょう。

いつの間にか、あなたの夢をつぶして将来を台無しにしかねない存在だからです。

ネガティブな人は心の中で自分の無能を嘆き、仲間を増やそうとやっきになっています。

そしてその対象を見つけたとき、必死になって足を引っ張ろうとします。

「どうせダメだからやめておけ」とか「そんなことより今のままがいい」と言って、なんとか相手を自分のレベルにおとしめようとするのです。

「朱に交われば赤くなる」ということわざのとおり、ネガティブな人と交わると、あなた自身もやがてネガティブになります。

心の持ち方がネガティブであるかぎり、実績をあげることはきわめて困難です。

ただし、ネガティブな人と、親身になって忠告してくれる人とは区別しなければいけません。

そういう人の忠告には耳を傾ける必要があります。

しかし、ただネガティブなことを言っているだけで、あなたのためを思っていない人とは距離をおいたほうが身のためです。

成功をおさめるうえで、それは重要な処世術となります。

では、自分のことを思ってくれているかどうかをどうすれば判別できるのでしょうか?

最終的には直感に頼るしかありませんが、本人が業績をあげているかどうかで、だいたいのことはわかります。

一般に、うまくいっている人は、他人を助けるだけの精神的、時間的、経済的な余裕を持っています。

それに対してうまくいっていない人は、あらゆる点で他人を助けるだけの余裕がなく、自分のことで精一杯ということが多いのです。

2016年12月7日水曜日

記事紹介|チャンスされあればやれる

野球のイチロー選手の名言がある。

「準備というのは言い訳の材料となり得る物を排除していく、 そのために考え得る全ての事をこなしていく」

「しっかりと準備もしていないのに、目標を語る資格はない。」

「小さいことを重ねることが、とんでもないところに行くただひとつの道」

何一つ準備をしていない者には、チャンスは永遠に訪れない。

仮に、大きなチャンスが降ってきたとしても、準備をしていな者にはそれが見えない。

「とんでもないところに行くただひとつの道」

たとえ今出番がなくても、準備を怠りなくする人でありたい。

2016-12-03 人の心に灯をともす から

2016年12月6日火曜日

記事紹介|ある兵士の祈り

大きなことを成し遂げるために、力を与えて欲しいと神に求めたのに、謙虚を学ぶようにと、弱さを授かった。

偉大なことができるように健康を求めたのに、より良きことをするようにと、病気をたまわった。

幸せになろうと富を求めたのに、賢明であるようにと、貧困を授かった。

世の人々の賞賛を得ようとして、成功を求めたのに、得意にならないようにと、失敗を授かった。

人生を享受しようとしてあらゆるものを求めたのに、あらゆることを喜べるようにと、命を授かった。

求めたものは一つとして与えられなかったが、願いはすべて聞き届けられた。

神の意にそわぬものであるにもかかわらず、心の中の言い表せない祈りは、すべて叶えられた。

私は最も豊かに祝福されたのだ。

******************************

ニューヨーク大学にあるリハビリテーション研究所の壁に、一人の患者が残した詩でとのこと。

アメリカ南北戦争時の南軍の無名兵士の作品で、これを日本語に訳し紹介したのがグリフィン牧師だったので作者と勘違いされて「グリフィンの祈り」と題されてもいるようです。

欲しい物が与えられるのではなく、必要なものが与えられる。

だから良いことも悪いこともすべてのことに価値があり、意味があるのです。

2016-12-02 今日の言葉

2016年12月5日月曜日

記事紹介|自分の感受性くらい

ぱさぱさに乾いてゆく心を ひとのせいにはするな

みずから水やりを怠っておいて 気難しくなってきたのを 友人のせいにはするな

しなやかさを失ったのはどちらなのか

苛立つのを 近親のせいにはするな

なにもかも下手だったのはわたくし

初心消えかかるのを 暮らしのせいにはするな

そもそもがひよわな志しにすぎなかった

駄目なことの一切を 時代のせいにはするな

わずかに光る尊厳の放棄

自分の感受性くらい 自分で守れ ばかものよ

茨木 のり子

2016年12月4日日曜日

指定国立大学の公募が始まりました

国立大学法人法の一部を改正する法律(平成28年法律第38号)により創設される指定国立大学法人の公募が始まりました。

申請要件として、「研究力」「社会との連携」「国際協働」の3つの領域において、それぞれ1つ以上の要件の国内10位以内に位置した国立大学法人であることが求められています。申請可能な大学はかなり限られてくるようです。

第6期中期目標期間における指定国立大学法人の指定に関する公募要領

1 指定の背景及び目的

大学は、我が国の成長を支える「知」の創出と人材育成を担うべきものです。特に国立大学においては、その設置形態、歴史的経緯と蓄積に鑑み、世界の大学がそれぞれの国と世界を支えるために展開している新しい価値創造の在り方を踏まえた上で、国際競争と国際協調の観点から、我が国のみならず世界が抱える課題に真摯に向き合い、新たな社会・経済システム等の提案が可能な国立大学へと更なる変革を進めていくことが求められています。また、その成果を社会に還元することを通じて、社会からの評価と支援を得るという好循環を形成することにより、「知の創出機能」を持続的に発展させていくことにつながります。

これらの「知」の創出の場面においては、人文・社会・自然科学の各分野におけるそれぞれの強みが発揮されることも重要ですが、今日、学術及び社会が急速に高度化する中で、分野融合や新領域開拓による新たな価値創造と、それを生かした人材育成が要となります。

とりわけ、世界最高水準の卓越した教育研究活動を展開し国際的な拠点となる国立大学が、組織全体でこうした課題に取り組むことにより、国際的な研究・人材育成及び知の協創拠点として、当該大学の研究力、人材育成力の強化につながるとともに、我が国の成長とイノベーションの創出につながるものです。

以上のミッションを背負う大学については、「指定国立大学法人」として文部科学大臣が指定をし、大学自らのイニシアティブの中で、高等教育全体とその改革を牽引し、以下の役割を果たしていくことを期待します。

2 指定に当たっての考え方

指定に当たっては、優秀な人材を引きつけ、研究力の強化を図り、社会からの評価と支援を得るという好循環を実現する戦略性と実効性を持った取組を提示でき、かつ自らが定める期間の中で、確実な実行を行いうる大学に限り指定することとします。指定国立大学法人に申請する大学は、現在の人的・物的リソースの分析と、今後想定される経済的・社会的環境の変化を踏まえ、大学の将来構想とその構想を実現するための道筋及び必要な期間を明確化することが求められます。また、指定された大学には、社会や経済の発展に与えた影響と取組の具体的成果を積極的に発信し、国立大学改革の推進役としての役割を果たすことが期待されます。

3 指定国立大学法人の指定に係る申請要件

指定国立大学法人に申請する大学は、国内の競争環境の枠組みから出て、国際的な競争環境の中で、世界の有力大学と伍していくことを求めることとしています。このため、「研究力」、「社会との連携」、「国際協働」の3つの領域において、既に国内最高水準に位置していることを確認することとし、それぞれの領域において別紙に示す要件を満たしていることを申請の要件とします。また、申請要件において確認した各大学の現状については審査においても活用します。

4 指定国立大学法人の構想における審査の対象となる観点

(1)目標を設定する前提となる自己分析及ぴ現状に対する自己評価

当該大学の強みや特色等をどのように把握し、何を伸長させようとし、何を改善しようとしているのかが整理されているかを確認します。

(2)目標設定

海外大学における具体的な取組や、海外大学の研究分野別の状況などを踏まえたベンチマークを活用し、目標を設定します。この点を踏まえて、以下を確認します。

○分野融合や新たな学問分野の創出を含め、教育及び研究の卓越性に関して、「国際的な研究・人材育成拠点」となるための意欲的かつ戦略的な目標が設定されているか。

○世界及び我が国が抱える課題に対応するため、社会・経済に関する新たなシステムの変革への貢献に関して、意欲的かつ戦略的な目標が設定されているか。

(3)備えるべき要素

以下の6点について、必要な取組や目標設定がなされているかを確認します。

○人材育成・獲得
優秀な教員や学生を獲得するために必要な取組及び目標が設定されているか。優れた人材育成を行うために必要な取組及び目標が設定されているか。その際、優秀な博士課程学生の獲得及び育成のために、卓越した大学院を形成することを検討している場合には、その内容を含むことも可能。

○研究力強化
分野融合や新たな学問分野の創出を含めて研究力を強化し、国内外からの求心力を高め、強力な拠点(ハブ)を形成するために必要な取組及び目標が設定されているか。

○国際協働
海外大学や海外機関等との連携により、自らの教育研究分野の伸長や、海外への協力・貢献を行うために必要な取組及び目標が設定されているか。

○社会との連携
本格的な産学連携を含めて教育及び研究の成果を社会に還元するために必要な取組及び目標が設定されているか。産学連携の取組及び目標については、「産学官連携による共同研究強化のためのガイドライン」の内容を踏まえたものになっているか。

○ガバナンスの強化
目標及び上記の取組を実行するための取組や、人材育成を含めた組織体制の整備、経営上の工夫が設定されているか。

○財務基盤の強化
目標及び上記の取組を実行するために必要な財源の特定及び確保ができているか。
(スタートアップ経費が措置された場合を想定して、それも合わせて財源とする構想にすることも可能です。)

(4)海外大学のベンチマーク

上記の目標設定及び取組の設定にあたっては、当該大学が参考とすべき海外大学の取組や特徴が特定され、その海外大学が掲げる目標や行っている取組を踏まえたものになっているかを確認します。

(5)現時点では認められていない規制緩和が行われた場合に追加的に行うことが想定される取組

指定国立大学法人の構想を策定するにあたり、現時点では認められていない規制緩和が行われた場合、さらに進めることが可能な取組が想定される場合は、さらなる規制緩和の内容と想定される取組の内容を併せて提言してください。

5 選定方法等

(1)審査手順

指定国立大学法人を指定するための審査は、国立大学法人評価委員会に設置する指定国立大学法人部会において行い、文部科学大臣は国立大学法人評価委員会の意見を聴いて指定を行います。

審査は、提出された申請書類による「書面審査」、「ヒアリング審査」及び「現地視察」により行います。

なお、本審査に係るヒアリング審査及び現地視察は、概ね5月~6月頃に行われる予定です。指定結果の通知は夏頃に行う予定です。

(2)指定国立大学法人部会による意見等

指定にあたっては、ヒアリング審査の際に指定国立大学法人部会の委員との意見交換を行っていただく中で構想の改善のための意見をお伝えしたり、指定する際の条件として構想の改善を求めたりする場合があることを申し添えます。

6 中期目標・中期計画の変更及び評価

4.に掲げる目標、備えるべき要素については、第3期中期目標期間終了時における到達水準や到達すべき状態を中期目標及び中期計画に盛り込む必要があるため、本指定への申請と併せて、中期目標友び中期計画の変更案を提出してください。指定された指定国立大学法人は、これまでと同様、国立大学法人評価委員会で行われてきた年度評価及び中期目標期間評価の対象となりますが、指定国立大学法人としての目標や取組に係る中期目標及び中期計画については、国立大学法人評価委員会において、「戦略性が高く意欲的な目標・計画」として認定されることにより、中期目標及び中期計画に対する達成状況のみでなく、プロセスや取組の内容・成果についても併せて評価されることが考えられます。

7 提出書類

本指定への申請は、文部科学省への申請書類を紙及び電子ファイル(PDF以外形式)により提出することが必要です。詳細は以下のとおりです。

(1)申請書類

申請にあたっては、指定国立大学法人制度の趣旨を十分に踏まえて、指定国立大学法人構想調書を含む以下の申請書類を所定の様式で作成し、大学の設置者から文部科学大臣宛に公文書により申請してくだきい。なお、中期目標・中期計画の変更案については、提出すべき様式を後日お送りします。
・構想調書:本体(A4 15枚以内)
・構想調書:要約版
・中期目標・中期計画の変更案
・ヒアリング用資料(パワーポイント資料を想定)
※使用言語:日英

(2)提出期限・提出先

提出期限:平成29年3月31日
※但し、ヒアリング用資料については、ヒアリングの日程と併せて後日提出期限をお知らせします。
提出先:文部科学省高等教育局国立大学法人支援課法規係

8 情報の公表について

法人名については、各法人からの申請の段階及び指定が行われた段階で公表します。構想については、中期目標・中期計画の変更という形で文部科学省公式ウェブサイトにおいて公表します。併せて、指定される国立大学法人については、指定の公表の段階において、公表用の構想の概要の提出を依頼しますので、予めご準備ください。

9 スケジュール

平成28年11月30日 公募開始
平成29年3月31日 各大学からの申請〆切
4月~ 国立大学法人評価委員会指定国立大学法人部会における指定についての審査(5月以降にヒアリング審査及び現地視察)
夏頃 指定国立大学法人の指定

10 問い合わせ先(略)


別紙 申請要件

下記のく研究力>、<社会との連携>、<国際協働>の3つの領域において、それぞれ1つ以上の要件の国内10位以内に位置した国立大学法人であること。

<研究力>

○科学研究費助成事業における分野単位(※)で2分野以上、2012~2016年度における新規採択件数の累計が国内10位以内。
(※)情報学、環境学、複合領域、総合人文社会、人文学、社会科学、総合理工、数物系科学、化学、工学、総合生物、生物学、農学、医歯薬学の14分野
(出典)文部科学省HP「平成28年度科学研究費助成事業の配分について」より

○Q値(論文に占めるトップ10%補正論文数の割合)(2009年~2013年)が国内10位以内。(参考値10.9%以上)
(出典)科学技術・学術政策研究所、調査資料-243、研究論文に着目した日本の大学ベンチマーキング2015(2015年12月)

<社会との連携>

○経常収益に対する受託・共同研究収益の割合の2011~2015年度の平均値が国内10位以内。(参考値9.0%以上)
(出典)経常収益:各国立大学法人の財務諸表(平成23~27年度)より。受託・共同研究収益:各国立大学法人の財務諸表(平成23~27年度)より

○経常収益に対する寄附金収益の割合の2011~2015年度の平均値が国内10位以内。(参考値2.6%以上)
(出典)経常収益:各国立大学法人の財務諸表(平成23~27年度)より。寄附金収益:各国立大学法人の財務諸表(平成23~27年度)より

○経常収益に対する特許権実施等収入の割合の2010~2014年度の平均値が国内10位以内。(参考値0.05%以上)
(出典)経常収益:各国立大学法人の財務諸表(平成22~26年度)より。特許権実施等収入:文部科学省HP「大学等における産学連携等実施状況について(平成22~26年度)」より

<国際協働>

○国際共著論文比率の1999~2013年の平均値が国内10位以内。(参考値25%以上)
(出典)科学技術・学術政策研究所、調査資料-243、研究論文に着目した目本の大学ベンチマーキング2015(2015年12月)

○2010~2014年の学部における全学生に占める留学生及び日本人派遣学生の割合の平均値が国内10位以内。(参考値5.8%以上)
(出典)学部における学生数:「学校基本調査(平成22~26年度)」。留学生数及び日本人派遣学生数:独立行政法人日本学生支援機構「外国人留学生在籍状況調査(平成22~26年度)」・「協定等に基づく日本人学生留学状況調査(平成22~26年度)」より

○2010~2014年の大学院における全学生に占める留学生及び目本人派遣学生の割合の平均値が国内10位以内。(参考値23.5%以上)
(出典)大学院における学生数:「学校基本調査(平成22~26年度)」。留学生数及び日本人派遣学生数:独立行政法人日本学生支援機構「外国人留学生在籍状況調査(平成22~26年度)」・「協定等に基づく日本人学生留学状況調査(平成22~26年度)」より

※なお、以上のデータは文部科学省が把握している最新のデータに基づくものであるが、このデータでは参考値を超えない大学において、大学が保有する最新データに基づくと、参考値に相当するものがある場合は、12月末までに御連絡いただきたい。そのデータをもって指定国立大学法人部会に諮り、申請可能と認められた場合は、当該大学の申請を可能とする。

2016年12月3日土曜日

記事紹介|願望

なりたい姿や欲しいものが定まっていたとしても、それを手に入れるために日々努力するという具体的な情熱と、困難があっても努力を続ける信念の両方が備わっていなければ、願望を叶えることは難しい。

世の中は「原因と結果」の法則で成り立っているのですから、期待して口を開けて待っていても
棚からぼた餅は落ちては来ないのです。

そもそも具体的な困難よりも何かを継続するということ、そのものが最大の困難なのかもしれません。

そのときに大事なことは、努力そのものを楽しむこと。小さなゴールとご褒美を用意すること。

ツラいだけなら続けるのは難しいですからね。

脚下照顧(きゃっかしょうこ)の言葉の通り、まずは自分の足元をしっかりと固めることです。

2016年12月2日金曜日

記事紹介|運営費交付金

運営費交付金は実質的にそれほど減っていないし、各種補助金を合わせれば国立大学の収入は増えているため、教育研究活動を圧迫しているとの見方は正しくない。財政制度等審議会における財務省の説明である。確かに財務省の説明資料を見ると、そういった数字が並んでいるが、実際の現場の実感は全く異なるものであろう。

04年度と16年度を比較したケースで論じており、附属病院の運営費交付金は584億円がゼロに、退職手当が1149億円から645億円に減、一般運営費交付金は382億円しか減っていないというが、退職手当は毎年の退職者の数で決まるため比較する意味がないし、合計966億円のマイナスというのは経営的には非常に大きい。

その間には、電子ジャーナル等の価格が高騰し、法人化したことで労働安全対策関連経費が大幅に増加した結果、運営費を上げている。また、各種補助金等が増えているというが、そうした資金は運営費に充てることはできず、逆に電気代や環境整備費で運営費を増やしてしまった。もちろん間接経費が十分に措置されているわけではない。

さらに科学技術予算については、91年以降、他の主要国と遜色のないペースで拡充しているにもかかわらず、トップ10%論文の割合が低いとして、予算額が必ずしも研究開発の質に結びついていないと指摘している。しかし、この場合の科学技術予算というのは科学技術関係経費のことを指しており、基本計画が新しくなるごとに対象範囲が広がってきた、見かけ上の数字に過ぎない。もちろん、トップ10%論文割合の低さは課題ではあるが、その要因には予算構造そのものの問題もある。文科省には、正々堂々とした反論を期待したい。

2016/12/02 科学新聞社 コラム から


国立大交付金 野放図な減額は疑問だ|2016年12月2日北海道新聞社説

北大が人件費の大幅削減を検討している。削減額は2017年度から5年間で55億円に上る。教授に換算すると186人分だ。

主に人件費や研究費に充てられる、文部科学省の運営費交付金の減額が続いているためである。

北大だけではない。交付金減額は各国立大の大きな懸案だ。

一方で国は近年、すぐに成果が見込める研究に「競争的資金」を重点配分している。これでは短期的研究に偏り、腰を据えた研究にしわ寄せが出かねない。

財政状況を考えれば、運営費交付金も聖域ではありえまい。

しかし、研究者が資金集めに忙殺されては、研究や教育に落ち着いて取り組めない。大学の質の低下を来さないためにも、交付金の削減には慎重であるべきだ。

北大の15年度の運営費交付金は311億円で、04年度の346億円から10%以上も減少した。

本州では、教員の昇任見送りや新規採用を抑制する大学もある。人件費を抑えるため、任期付きの教員を雇う大学も多い。

こんな状況が続けば、教員一人あたりの負担増加にとどまらず、意欲の低下を招く恐れもある。

北大学長選も、交付金削減への対応が争点の一つになっている。

研究費確保も厳しい。国の競争的資金や企業、自治体からの外部資金に頼る研究者も少なくない。

しかも、競争的資金や外部資金を得るには、目に見える成果を期間内に上げる必要がある。任期付き教員も成果を出せなければ、次の職を得ることが難しくなる。

時間をかけた基礎研究などに取り組む研究者はますます減るだろう。実用化や応用ばかりが重視され、人文社会系の研究は理系以上に先細りが懸念される。

資金が欲しい一部の研究者が、軍事技術に応用可能な研究に資金を出す防衛省の制度に注目するのも、こうした背景があるからだ。

運営費交付金は、04年度の国立大学の独立行政法人化を機に削減が始まった。

そもそも法人化は、個性豊かな大学をつくることが目的だったはずだ。なのにこんなことでは逆に大学の多様性が失われかねない。大学自治を脅かす恐れすらある。

「『役に立つ』という言葉が社会をだめにしている。長い視点で科学を支える社会の余裕がなければ、日本の研究は貧しくなる」

今年のノーベル医学生理学賞に選ばれた大隅良典・東工大栄誉教授の言葉だ。国は重く受け止める必要があろう。

2016年8月21日日曜日

タコツボにこもる教員と逃げる学生

ガラス張りの研究棟」(IDE 2016年8-9月号)をご紹介します。大学の今を知ることができます。


あちこちの大学のキャンパスで、「ガラス張り」の研究棟を目にする。各階の廊下を歩くと、壁やドアが全面ガラス張りで、室内が丸見えの建物だ。そして、必ずといっていいほど廊下にいくつかテーブルが置かれ、人が集まりやすいよう工夫されている。

先日も、ある公立大学でそうした研究棟を訪ねた。案内役の教員によると、テーブル設置は、教員同士、あるいは教員と学生が集まり、議論する場として構想されたのだという。ご丁寧に給湯装置までついていた。

学部・学科の「タテ割り」の中で自分の専門という「タコツボ」にこもり、隣の研究室の人とすら意見を交わさない「相互不干渉」では、新しい知を創りだすことはできない。みんな出てきて、議論しようよ。アカデミックはそこからだーそんな思いを根底にした建物のようだ。

だが、なかなかそれは伝わっていない。「このテーブルで議論している教員や学生を一度も見たことがない」と教員は言う。よく見ると、ガラスの壁とドアの前に大きな書棚やホワイトボードを置いている部屋がいくつもあった。これでは出入りがしにくかろうに。多少の不便さは我慢してでも、タコツボを守りたいということなのか。

研究室をタコツボに見立てると、もっぱら責を負うべきはツボ主の教員のように感じるが、そうとは言い切れない面もあるようだ。社会と協働で学生を育てる試みを続けている教員がこのところ、「学生が逃げる」と嘆くことが多くなった。

九州のある大学教員は、数年前から地元の農家や漁協などの助けを得て、学生の力を引き出す活動をしている。例えば特産品のカキ養殖では、種付けから収穫、商品開発、販路拡大まで、漁師たちと共に行う。実際に作業をする中で、学生たちは、養殖に悪影響を与える環境の変化や漁業の未来などの大きな社会問題に行き当たる。同時に、現場では多様な考えを持つ人々とぶつかり、時に厳しい叱声も浴びせられる。これまでは、そうした実践を通して、見違えるほど成長していくのを感得できたという。

だが今は、「外部の人に少しきつく叱られると、(履修を)やめさせてください、と泣きを入れてくる」と話す。絶えず温かく励まし、褒め続けないと意欲が低下する。親にすら叱られた経験がないのかと疑いが湧く。一方で、そうした授業内容が、学生の授業評価アンケートで猛批判を浴びるケースも目立つように。教員は「社会に出て行くために力をつけておこう、という思いが通じないのか」と肩を落とす。

「逃げる学生」の存在は、日本特有の問題ではないようだ。『アメリカの高等教育』(デレック・ボック著)によると、宿題や厳しい成績評価は学生に嫌われ、授業評価アンケートでの評価を下げることにつながる。だから、ことに非常勤講師や任期付き教員は「学生による授業評価を上げようと宿題を減らしたり成績を甘くつけたりすることになる」と指摘している。

1966年の漫画「サザエさん」に、こんな作品がある。まず、赤ちゃんを背負ったおばあさんが足袋の爪先をつくろいながら、「あたしゃ女子大の英文科を一番で出た」と言う。庭で犬のノミ取りをするおじいさんも「東大出で銀時計をいただいた」と。そこで場面は再び室内に戻り、壁掛けの時計を気にしながらご飯をかき込むお父さんを横目に、おばあさんは「有名校出たけど、どうってこたアない」とつぶやく。そして、受験生の孫を送り出す。いわく、「きら一くにシケン受けといで」。

まだ大卒がそれなりの価値を持っていた時代でも、この程度。いわんや今は。まあ、大学に期待しすぎなのかもしれない。

水鏡してあぢさゐのけふの色  上田五千石

紫陽花は、「七変化」とも呼ばれる。はじめ白が勝っているが、次第に薄青、のち薄紫に。大学は、社会は、どうその色を変えていくのだろうか。

大学経営者の意識

職員問題のいま」(IDE 2016年8-9月号)をご紹介します。学長、理事など大学経営者に求められる意識改革を指摘しています。


一時ほどは教職協働という言葉を聞かなくなった。教員と職員が、それぞれの特質や能力を生かしつつ、協働して仕事をするのは当然のことだが、現実にはそれが当たり前ではなく、職員側から教職協働を進めようという議論が展開されてきた。特に熱心な大学職員は、忙しい合間をぬって、大学院で学び直したり、講習会型にとどまらない研修を受けたり、研鑽を積んでいる。プロフェッショナルとしての大学行政管理職員の確立を目指して設立された大学行政管理学会も来年には20周年を迎える。

筆者もこうした場に関わっているが、ここ最近、彼ら自身の関心も変化してきた印象を持っている。以前は、職員の役割の再認識、そのために職員の能力や専門性をいかに向上させられるか、というのが関心の中心があった。職員に対するアンケート調査が多く実施されたのもこうした問題意識を反映してのことである。

こうしたテーマが消えたわけではないが、最近は、大学の経営陣や教員の役割や意識を研究してみたいという職員が増えている。

教職協働のためには、職員だけでなく、教員の理解や変化も必要であること、そうしたきっかけを作り出すキーパーソンとして重要であるはずの経営陣の無理解に意識がシフトしていくのは自然のことであろう。より対等な関係での教職協働が進まない背景には、教員のお手伝いをしていればよいという職員自身の意識の問題も依然として大きいし、身につけるべき能力の問題もあるが、当然それだけではない。職員として頑張り、最終的に理事等での立場で経営の中核として参加できる道は開かれているのか、委員会等の長として職員が任命され、裏方メンバ一としてではなく、正式メンバーとして参加しているのかという機会の問題も大きい。機会があってこそ、成長へのインセンティブや責任感も出てくる。また、評価活動は典型だが、大学に求められる機能が広がる中で、各種委員会も増え、その準備にさく時間も増えている。こうした会議などの効率化は職員ではなく、管理側が対処すべき事柄である。

教職協働の議論で、よく「教員と職員が気軽に話し合える雰囲気」などの重要性が言われたが、そういう問題ではないのではと違和感を覚えていた。若い熱心な職員が、大学全体のマネジメントを向上させるための様々なアクターや諸要因の関係に目を向きはじめたことはよい変化であるが、経営陣の意識も同時に変えていかねば、バーンアウトするのではないかと危機感を抱いている。プロフェッショナルとしての大学経営者の確立をめざす動きも加速することを願う。

2016年8月20日土曜日

これからの学術研究の方向性

内閣府経済社会総合研究所総括政策研究官の大竹暁さんの論考「大学の研究活動と科学技術」(文部科学教育通信 No393 2016-8-8)をご紹介します(下線は拙者)。

学術研究の在り方については、国政レベル、研究現場レベルにおいて様々な考えがあるわけですが、このような政策担当者の意見を十分踏まえ行動していくことも大切なことかと。


日本を巡る課題と科学技術

日本にとって科学技術の持つ意味は何か、何故、政府が投資をするのか。これは必ずしも自明ではない。資源が少なく、国土も狭隆で、その70%が山岳地帯で、知恵で付加価値を生み出さないと1億2千万人の国民が持続的に生存できない、と言うのは真実だが、ならば何故科学技術か。その理由を再度検証したい。

(1)歴史的背景

一つには、我が国は科学技術で国を興してきた歴史的背景がある。日本は明治維新で開国し、同時に世界に追いつくために近代化を図った。折しも、イギリスの産業革命から一世紀を経過し、科学と技術は相互に依存性を高めていた。そこで、日本は大学に工学部を作り、科学の基礎、科学的な思考を中心に据えつつも、現実の課題を解決するために、基礎的な学理を組み合わせて新たな学理を生み出した。大学の工学部は、産業の基礎になる技術的基盤を固め、その発展に必要な人材を供給し、さらには新たに直面した課題を解決し、その結果を統合して学理として発展させてきた。

筆者は、工学部は日本の近代化に大きく貢献したことはもとより、戦後の高度成長期に最も顕著に効果を上げたと考える。金属工学、造船学、電気工学、化学工学等の工学は、成長期の日本の産業と対応して、その発展をもたらしたと言っても過言ではない。傍証ではあるが、1979年に米国で社会学者エズラ・ヴォーゲル氏がJapan as No.1と題する本を刊行し、日本の産業体制や勤勉さなどが日本の生産性につながっており、もっと学ぶべしとすると、日本に対する警戒心とともに日本の強みを習おうとする動きが各方面で起こった。科学の世界では米国科学財団(NSF)が1984年にEngineering Research Center(ERC)制度を発足させるが、これは大学に、革新的な研究、工学教育と産業の支援を結びつけたこれまでの学問分野を横断する研究センターを作ろうというもので、まさに日本の工学部の原点の発想と言える。日本のオリジナリティが世界的に評価されたのである。今日、ERCは米国における新たな工学拠点の創成に大きく貢献し、例えば医工連携ロボティックスでは手術ロボット・ダヴィンチ等の進展をもたらしている。

(2)国際競争力ランキング

第二に、世界各国の競争力ランキングがある。有名なものはスイスの国際経営開発研究所(IMD)や世界経済フォーラム(WEF)があるが、日本はIMDの総合競争力では1993年には調査対象国第1位であったものの、近年では約60力国中20位代と低迷しているが、科学技術インフラは常に第2位と評価されている。WEFでは2014-15年で総合競争力は144力国中第6位で、中でも科学者・工学者の能力は第3位とされている。つまり、日本の競争力の源泉の一つは科学技術であると世界は評価しているということである。

以上のような歴史的背景、世界的に見た日本の長所から見て、科学技術は日本の持続的な発展の大きな可能性の一つと言える。国と地方公共団体の科学技術投資は年間4兆円に達しようとしており、公共事業費が7兆円規模であることを考えると大変大きい。さらに、民問の投資はその4倍に及ぶ。では、科学技術関係者はこの期待にどう答えているのか。

日本の科学技術の特徴

(1)日本の科学技術の現状

-科学技術投資

先にも述べた通り、日本の科学技術投資は多額で、国の経済規模であるGDPに対して3.75%(2013年)であり、2011年に韓国に抜かれるまで世界第1位だった(韓国は4.36%(2012年))。その8割は民間負担であり、政府負担は3.5兆円で増対GDP比0.73%と、EU全体の0.69%、英の0.5%を上回るものの、米国、独の0.86%、仏の0.8%、韓国の1.04%に見劣りする。

-人ロ1万人当たりの研究者数

一方、人口1万人当たりの研究者数は実数で66.2人、大学教員等を専従換算をしたとしても51.5人と、米46.8人、英41.8人、独40.1人、仏37人と比べ、韓国の58.0人に次いで高い割合となっている。大学に限って言えば、24.5人(専従換算で10.5人)、米6人、独11.8人、仏10.1人、韓国8.8人となり、英25.2人に次いで割合が高い。

-大学の論文の生産性

大学の論文の生産性を見ると2004~6年の平均値で、日本が0.39件/人であるのに対し、米0.66件/人、英0.51件/人、独0.44件/人である。また、日本全体での論文の質を引用度で計ると、トップ10%及び1%に入る論文数の世界でのシェアは2000年以降急速に低下している。この間、世界では国際共著が増えているが、その伸びは世界に比して低い。ただし、2000年以降のノーベル賞の受賞者は米国に次ぐレベルで、画期的な成果として青色発光ダイオード、iPS細胞、ロボットスーツの開発なども出ている。ただし、これらは10~20年以上前の研究成果の結実であるものも多い。

-海外との交流

海外との交流では、日本人研究者の海外への派遣数は2012年では16万5千人を超えているが、大部分が30日以下の短期滞在で、30日を超えるのはわずか5千人である。世界の研究者移動のパターンを分野別に見ると、どの分野でも米国、台湾などと比べ研究者の出入りともに少ない。

-産学官連携

日本では産官学の各部門間の資金と人の動き(クロスフロー)が欧米に比して少ないとされる。資金に着目すると、民間研究資金から大学へ支出されるものの割合は日本0.7%に対し、米1.1%、独3.8%、仏1.0%、英2.3%、一方政府から民間に流れる資金の割合は日本3.8%に対し、米26%、独10%、仏14.5%、英18.8%となっている。

-学位の取得状況

人口百万人当たりの博士号取得者数は120人程度で、欧米の170~300人程度に比べ少なく、企業研究者に占める割合は4.3%と米国の10%に比して低水準である。

これらを概括すると、日本は民間企業が科学技術投資の8割を占め、産学官の間の資金及び人のクロスフローは少ないが、人口当たりの研究者は欧米に比べ多く大学の生産性は低い国際的な頭脳循環には遅れ国際共著など国際協力活動はまだ低調である。

(2)日本の科学技術の課題

では原因は何か。大学関係者等の科学コミュニティからは公的な資金の投入が伸び悩んでいることが問題だ、世界的な競争環境の中でしのぎを削っており、論文数を稼ぎたい、そのために国内に長くいたいなどの声がある。

しかし、現在の国の財政状況を考えると、資金の大幅な増額は望みにくい。納税者の視点から見ると、ノーベル賞等の顕著な成果の例はあるとしても、公共事業に次ぐ規模の投資に見合うと言えるか論文だけでなくもっと様々な成果があっても良いのでは、と問われる。多額の資金を使いつつも研究者数が多く、研究の質が上がっていないので、さらに資金の増加を、との声を上げる科学コミュニティが十分共感を得る環境にあるかは楽観視できない
民間からは、資金のクロスフローが少ないことに関しては日本の大学はスピードが遅く、サービスの質がコストに見合わない(ニーズを汲み取ってもらえない)と言われ、また博士人材に関しては専門性が狭く、幅広い活躍が望めないと言った声が聞かれる。

ただし、行政の側に対しても毎年新たな研究制度が出来、様々な制度変更が度々行われるので、その対応に追われ、じっくりと研究に望む時間が奪われている、との批判もある。

第5期科学技術基本計画と大学

政府の科学技術基本計画は1996年から5年ごとに策定されてきた。第2期基本計画では科学技術基本計画によって目指すべき国の姿が記され、第4期基本計画では重点分野を科学技術の分野から、国が直面する課題解決の観点へと整理するなど、社会のための科学技術の観点を強く意識するよう発展してきた。2016年4月から5力年の第5期科学技術基本計画では、来たるべき将来の社会を「超スマート社会」として、その実現のために科学技術が多様な局面で社会に深く関わっていくことを想定している。計画の基本的な柱としては、未来の産業創造と社会変革、経済・社会的課題への対応、科学技術イノベーションの基盤的な力の強化、人材、知、資金の好循環システム、の4つが挙げられている。

日本の英知と人材の源である大学にはこれらの全てで大きな期待がかかるが、特に基盤的な力の強化が中心になる。つまり、人材力の強化、知の基盤の強化とそれに関連するオープンサイエンスの推進、資金改革の強化が主として大学に大きく関わる

(1)人材力の強化

人材について言えば、若手研究者のキャリア問題があるが、これと絶えず表裏の関係にあるのは多様なキャリアパスの確立である。国立大学では、運営費交付金の削減による定年制ポストの減少と一部大学での定年延長が、若手のキャリアパスを不確実なものにする中、むしろシニア層を年俸制、任期制に移行し、若手に定年制のポストを振り分けることが重要で、それにより博士課程進学者の将来への展望を拓くべきである。一方、博士号取得者は本人及び社会が投資をしたとも言えるので、社会の多様な場所で活躍することが新たなイノベーションの展開には重要である。博士号取得者は年間1万5千人程度だが、もっとも楽観的に見積もってアカデミックポストに就ける者は3分の1以下であり、他は社会に出て様々な課題に挑戦することが求められる。そのためには博士課程教育の中で、専門性のみならず、科学的な思考を実践して高度な課題設定、解決の力を洒養していくことが求められる。博士は視野や専門性が狭く、修士課程修了者を採用して教育する方が良いとする企業の問題意識にも応えることができる

(2)知の基盤の強化

知の基盤の観点からは、イノベーションの源泉としての学術研究と基礎研究の推進に当たって、いかに社会の寄与する面を意識するかが課題ではないか。こう言うとすぐ実用化できる研究に偏重するのではないかとの疑義をもたれるが、そうではなく、常に研究の多様な可能性を意識し、その中で社会が直面する様々な課題と向き合う姿勢も重要ということである。その視点に基づいて、どのように研究の成果を産業界や他の社会の多様なプレーヤーにつないでいくかにもう少し考えを巡らすことが求められている

一方、世界的な潮流となりつつあるオープンサイエンスは、公的な資金を活用した研究については研究データなど公開して、人類共通の資産として活用していこうというもので、英国王立教会が科学雑誌を発刊した350年前から続いてきた科学の進め方、すなわち科学者自身が発想し、考案し、実験し、その結果を論文として公表するというやり方を大きく変え、互いにデータを公開して他者のデータも活用して、かつデータに語らせることも含め新たな成果を得ることになる。折しもICTの進展やビッグデータに伴うデータ駆動型科学(第四の科学)の進展とも重なる。ここで重要なことは、何をオープンにし、何をクローズにするかである。まず、安全保障、経済的な活動やプライバシーに関わるものは除外される。ただし、各国とも様々な戦略や戦術を持って対応し、どこを公開して、何をどういう理由で伏せるかは知恵を絞っていると思われる。まずは、地球観測などの世界的に共有した方がメリットの高いものから対応していくのが良いのだが、研究不正を防ぎ、国際共著などの質の高い国際協調を図る手段ともなる。

(3)資金改革の強化

研究資金の改革については、国立大学の運営費交付金、私学助成といった基盤的経費の重要性は唱えつつ、財源の多様化と一層の運営の効率化の改革を求めている。一方、公募型の、いわゆる競争的資金については間接経費30%の措置の徹底、各種研究費の合算使用や機器の共用化を促す等効果的な活用を唱えている。これとともに、メリハリのある配分など、大学の役割や実績に基づく配分が示唆されている。既に国立大学の運営費交付金の一部傾斜配分や指定国立大学への取組等が始まっているが、筆者は2つの点が課題であると考える。

一つは、現在上位校に集中する競争資金の配分を中位校にも回るような配慮である。これは競争的資金の中で、年間数百万円程度で、出口を意識した研究に対応するものを増やすことでかなり改善するものと見られる。科学技術・学術政策研究所の定点調査によれば、中位校は地元の産業界のニーズ等を踏まえた研究に力を発揮している例が多いからである。

次に、世界を相手に競える大学については、間接経費の措置の徹底が効果的だが、将来的には間接経費の比率を上げる必要があるのではないか。日本の大学はほとんどが国立大学である英国のシステムに近いと考えるが、運営費交付金が削減されている今日、連邦からの資金を研究費に頼る米国の大学のシステムとのハイブリッドにするしかないと思われるところ、米国では大学によっては6~7割と言われる間接経費の措置にならわざるを得ないのではないか。

社会と科学技術の関係

今日、科学技術は人々の生活や社会の隅々に深く浸透し、一時たりとも切り離せない状況にある。社会も人々も科学技術に社会が直面する課題、地球規模課題の解決策や新たな革新の提供を期待している。加えて、特に先進国では人々の教育の向上や情報通信技術の進展が科学技術へのアクセスを容易にしている。従って、一般の人々を含む社会の全ての関与者が科学技術による解決策の共創(Co-design Co-production)に参画することが現実的な時代となっている。先に述べたオープンサイエンスの流れもこれに呼応するものとなる。また、世界的にも、科学技術はかつては一部先進国間での協力を元に国際的な活動が行われてきたが、特に世界の人々に共通する課題について共創となれば、新興国や発展途上国もそれぞれの立場や特徴に基づいて、その設計や推進に関与できることになる。

このプロセスには従来の科学技術関係者だけではなく、一般社会の多くの関係者を巻き込むため、超学際的(Transdisciplinary)とされ、また、学問分野でも人文学・社会科学の役割も重要となる。1999年のブダペスト会議における「科学と科学的知識の利用に関する世界宣言」、いわゆるブダペスト宣言の精神、特に社会における科学と社会のための科学がまさに現実になりつつある。

この流れの中で懸念されるのは、日本の存在感である。従来の日本では、黙々と自らの問題意識を探求して、その成果を世界に問う実力指向の不言実行型が尊重されていた。例えば、国際標準化機構(ISO)の規格化への日本企業の対応では、標準規格など日本の技術力でいかにでも対応できると考え、欧米主導の規格化で辛酸をなめた。この共創の流れも、議論の段階から参画していかないと様々なことが決まってしまう可能性がある。ところが、日本の現状を見ると、科学者は細分化された分野に閉じこもり、社会的課題を意識して国際舞台で活躍する人は多くない。内向きかつ自らの狭い専門に執着する。これでは、科学技術は社会に寄与するどころか、存在意義を失う。今、科学者を始め関係者が高い視点と大きな視野で問題を考えないと日本は救われない。まさに、日本抜き(Japan Passing)となる。

おわりに

日本は開国時には欧米に追いつくため、実学的な工学部を創始して、世界の先進国を目指した。その精神の発揮が今求められていると考える。学問、分野、国の境を越えて、「越境」して日本そして世界の将来のために貢献する、それはまさに科学技術政策の目標であり、質の高い人を育て、最先端の科学技術の成果を生み出す大学に大きく期待されていると考える。(明治大学 特定課題研究ユニット「高等教育研究センター」研究会から)

2016年7月17日日曜日

大学は職員を育てない

近時、多くの大学で、多様なSD活動が展開されるようになりました。その必要性や意義は言うまでもありませんが、方法や効果については、未だ成長過程にあるのではないでしょうか。

今日は、学校法人工学院大学総合企画部長の杉原明さんが書かれた「「大学は人を育てない」と言われないために」(文部科学教育通信 No.391 2016・7・11)をご紹介(転載)します。多くの鋭い示唆が含まれているように思います(下線は拙者)。

大学は職員を育てていない

大学職員も人材の流動化が進んできたように思う。就職、広報、財務、国際などの部門を中心にさまざまな業界から優秀な人材が流入し、大学職員として活躍している。大学間での職員の異動(転職)も普通に見られるようになってきた。一方で、新卒で大学職員としてキャリアを積んだ者が、外の業界に転出して活躍する例をあまり聞いたことがない。業界の特殊性と言ってしまえばそれまでであるが、人材の育成を生業としているにもかかわらず、職場としての大学は人を育てておらず、「紺屋の白袴」と言われかねない状況である。

各大学が育成する学生の能力については、中央教育審議会の「学士課程教育の構築に向けて」答申以来、汎用的技能(コミュニケーションスキル、量的スキル、問題解決能力等)や態度・志向性(自己管理力、チームワーク、倫理観、社会的責任等)などをうたう大学が増えている。しかしながら、大学職員が他の業界の職業人に比べ、これらの能力で特に優れているということはなさそうである。そもそも、職務を通してこのような能力の開発を積極的かつ組織的に実施している大学は少数であろう。

本連載でも既に述べた通り、職員の育成は採用や評価・処遇を含めた人事制度全体の中で行われるべきものである。普段から職員が責任ある仕事を任される組織風土であれば、成長の速度は格段に速まる。しかしながら、職務の中心が教員の補助業務であったり、また部署長が教員であっても職員であっても、所属する職員の育成に関心を持たないもしくは、経験が乏しいなどの理由で、人事制度が実質的に機能しない大学が未だ多い

その結果、職員の育成に「SD」という看板を掲げたものの、初期のFD同様に、業界で名の知れた人の講演会を実施する「SD研修」でお茶を濁すことになる。一般的に大学職員の労働条件は良いと言われていることもあり、この状況が続けば大学職員は他の業界からの転職者で埋め尽くされかねない

研修・学会・大学院の効果

危機感を持って行動している職員も少なくない。大学職員を中心に構成する大学行政管理学会の正会員数は1291名である。多くの大学職員は成長したいと考えている。なんとなく成長できていない不安感が、意識の高い職員を組織の外の活動へ誘うのである。単発の研修・セミナー、学会の大会や研究会のほか、体系的な学習の場としては筑波大学大学研究センターが開講する履修証明プログラム「大学マネジメント人材養成」、さらに東京大学や桜美林大学などには大学職員向けの大学院のコースが存在する。

これらの外部での研修や学習は、大学職員の育成にどの程度役立つのであろうか。筆者は、これらに過度な期待は禁物で、参加する職員次第であると考える。

単発の研修は、組織に対してのフィードバックの効果はあまり見込めないが、負荷は少なく、本人の意識付けには有効である。研修記録を人事制度の一環として管理するしくみをつくり、本人の自主的な参加を促すのがポイントである。

筆者も所属する大学行政管理学会はどうであろうか。非常に熱心な職員によって組織化されており、若手から経営者層までの重要な情報交換の場となっている。職業としての大学職員の価値を高める一助となったことも間違いない。一方で、熱心に活動する職員がその経験を生かして所属する大学組織で活躍しているかというと、それは何とも言えない。そのような職員も多いが、所属する大学組織とは切り離し、純粋な自己研鑑として参加している職員が多いように見受けられる。大学は、参加している意識の高い職員の支援をする一方で、その成果を組織に適切にフィードバックさせる工夫が必要である。

大学院については、意欲の高い若手中堅職員には肯定的な意見が多い。大学は教育・研究を商品としており、その商品を深く理解するという効果は高いと考えられる。研究支援や、図書館など教育に直接かかわる業務を行う上では大変有効であり、実際に業界内に素晴らしい人材も育っている。しかし、費用も時間も膨大にかかるので、万人向けではなく、よほど意欲と目的意識が高くないと難しい。大学職員としての力をつけるには、大学院での学びよりも実務の場を充実させるのが本筋と筆者は考える。

部署長が育成計画を真剣に考える

強い組織を作るには、結局のところ、学内で人が育つしくみを作るしかない。外部研修等は、組織から見ればその成果を組織に還元させるため、個々の職員から見れば自身の能力向上に組織のバックアップを得るため、この両者の思惑が一致するように、組織的に運用されることで初めて効果が上がる。

そこで、中長期の人事計画が重要になる。幹部職員はどれだけの人数が必要なのか、財務や情報システムなどのスペシャリストはどの分野で何人程度必要なのか、当面不足するスペシャリストを中途採用で補うのか。学生対応やオペレーションは若手専任職員を中心とするのか、あるいはパートタイマーを中心とするのか。そして、幹部職員やスペシャリストを育成するにあたり、どのタイミングでどのような研修が必要になるのか、などである。これらの方針が不明確なまま、漫然と部署を異動させるだけでは、職員本人も展望が見えない

加えて、激しい時代の変化にともない、古い職員モデルは通用しなくなる。たとえば、昔の教務部門には時間割作成のスペシャリストが必要だったかもしれないが、IT化が進んだ現在は若手職員が二年もやれば十分の仕事である。英会話ができる職員は、留学生や外国人教員の対応に重宝がられているかもしれないが、それだけで10年後に通用するはずもない。情報システム部門であれば、以前は業務システムの設計やメンテナンスがメインであったかもしれないが、現在は情報セキュリティの専門家なども必要とされており、学内で専門人材を持つことは難しくなっている。こうした環境の中で、幹部職員となるにはどのような学習や経験が必要だろうか。すぐに陳腐化する知識・技能よりも、汎用的技能や態度・志向性が重視されることは間違いないであろう。

中長期の人事計画の策定にあたっては、現場の各部署の管理職が自部署の職務に必要な人材やその育成方法を考え、メンバーに示すことが肝要である。それによって個々の職員も自らのキャリアパスを真剣に考え、必要な学びを主体的に行うのである。

外部研修等の活用も、成長の機会と刺激を与え、モチベーションを高めるために有効である。ただし、あくまでも職場では得られない経験を補完するためである。思い返せば筆者も、本当に職場、仕事、上司に恵まれた時期には、外部研修をほとんど必要としなかったように思う。

職員の成長に一番重要なのは、人事制度、そして制度を活用し職員が育つ職場を作る上司の力である。表題の「大学は人を育てない」は、筆者が現在の職場に転職する際に、前職の上司に言われた言葉であるが、業界全体として何とか早く脱却したいものである。

2016年6月22日水曜日

参院選挙戦スタート

参議院議員選挙が今日公示されました。各紙の社説をご紹介します。



参院選がきょう公示される。最大の焦点は安倍晋三首相の3年半の政権運営と、なかでもアベノミクスへの評価だろう。日本の成長力をどう底上げし、国民の将来不安をいかに解消していくのか。国の針路を明らかにするような与野党の論戦を望みたい。

アベノミクスを問う

公示に先立ち、21日に日本記者クラブ主催の9党首討論会が開かれた。かなりの時間が経済再生と財政健全化をどう実現していくのかの議論にあてられた。

安倍首相(自民党総裁)は「就職率も有効求人倍率も高い水準となった。成果を出してきた」と述べ、2016年度の税収が国と地方をあわせて12年度より21兆円増加すると強調した。

公明党の山口那津男代表は「経済再生、デフレ脱却をさらに進め、その実感を地方や中小企業、家計へと国の隅々まで届ける」と訴えた。

民進党や共産党などは経済政策の大きな変更が不可欠だと主張した。民進党の岡田克也代表は「一人ひとりが豊かになっていない。働き方の大改革を実現していくなかで持続的な成長がはじめて可能になる」と批判した。

共産党の志位和夫委員長は「アベノミクスによる国民生活の破壊、格差と貧困を是正する」と力を込めた。

アベノミクスは円安や株高で企業収益をいったん押し上げたが、規制改革をはじめとする成長戦略はまだ十分な効果があがっていない。与野党は子育て支援や所得の格差是正などを重点政策に掲げている。「分配と成長」の考え方や必要財源をどう確保していくかといった具体策をもっと分かりやすく説明すべきだ。

安倍政権は17年4月の消費増税を2年半延期すると決めた。野党も増税先送りを容認する立場のため争点になりにくい。だが2度の増税延期で旧民主、自民、公明3党による「社会保障と税の一体改革」の合意は事実上破綻した。給付と負担のバランスをきちんと議論しないと、財政はさらに危機的状況に追い込まれかねない。

外交や安全保障では、立場の違いが際立った。民進党や共産党などは昨年成立した集団的自衛権の行使容認を柱とする安全保障関連法について「憲法9条の平和主義に反しており廃止を求める」との立場で足並みをそろえた。

民進党は環太平洋経済連携協定(TPP)に関しても、コメや麦など重要5品目の聖域が守られていないとして「今回の合意には反対」との立場を示している。

野党として「政府の対応は問題点が多い」と反対論を展開するのはたやすい。しかし民進党は政権を経験した幹部が多い野党第1党として、建設的な対案を示す責任がある。共産党などとの選挙協力を優先して基本政策の軸がかすむようでは困る。

憲法改正を巡っては、岡田代表が「改正は論点でないというのはおかしな話だ。しっかりと参院選で議論すべきだ」と指摘し、与党の争点隠しだと強調した。首相は「自民党はすでに改正案を示している。(衆参両院の)憲法審査会で冷静に議論し、集約していくべきだ」と述べるにとどめた。

次世代に何を残すのか

自民党では改憲で優先すべき項目として、大災害時などの政府の対応を定める「緊急事態条項」の新設が有力視されている。野党も「安倍政権での改憲論議には応じない」という態度ではなく、時代に合わせた憲法のあり方を議論していく必要がある。

首相は参院選の勝敗ラインについて「与党で改選定数の過半数(61議席)」と繰り返している。首相は「そんなに低い目標ではない。目標を定めた以上、責任が伴うのは当然だ」と語った。

民進党は本格的な初陣となる今回の選挙で、二大政党の一角を占め、将来の衆院選での政権交代を視野におく勢力を確保できるかがカギとなる。与党など改憲勢力が衆院に続き、参院でも改正案の発議に必要な3分の2以上の議席を確保できるかも焦点だ。

参院選では18歳と19歳が初めて選挙権を得る。日本は高齢者の声が政治に反映されやすい「シルバー民主主義」の問題点が指摘されている。与野党は互いに揚げ足を取るのではなく、次世代にどんな日本を引き継ぐのかという骨太の政策論争を展開してほしい。



参院選がきょう公示される。

安倍首相が前面に掲げるのは経済だ。一方、その裏に憲法改正があるのは明白だ。

首相は、必ずしも改憲を争点にする必要はないという。国会での議論がいまだ収斂(しゅうれん)していないというのが、その理由だ。

しかし、改憲に意欲的な首相自身がどこをどう変えたいのかをまったく明かさないのでは、有権者は判断しようがない。

こんな逆立ちした政治の進め方に弾みをつけるのか、ブレーキをかけるのか。この参院選には「政権の中間評価」ではすまない重みがある。

民意とのねじれ

安倍氏が2012年12月に首相に返り咲いてから、参院選は2度目になる。振り返れば「安倍1強政治」の出発点となったのは、政権交代から7カ月後に衆参の「ねじれ」を解消した13年の前回参院選だった。

この時に自民、公明両党に票を投じた有権者には、民主党政権の混乱にあきれ、安定した政治で景気回復に取り組んでほしいとの思いが見てとれた。

3年前のねじれ解消を受け、私たちは社説で「民意とのねじれを恐れよ」と書いた。中小企業や地方で働く人々の賃金は上がるのか、財源を確保して医療や福祉を安定させられるのか。首相がこうした期待に応えぬまま「戦後レジームからの脱却」にかじを切れば、民意を裏切ることになるとの趣旨だ。

昨年の安全保障関連法の制定からなお続く反対運動のうねりをみれば、この懸念は的外れではなかったと感じる。

消費増税先送りという「新しい判断」の信を問う。これが首相のいう争点だ。税収や就業者の増加といった経済指標を強調し、アベノミクスを前に進めるか後戻りさせるかと訴える。

首相は本来、増税を「確実に実施する」という約束を破った責任を取るべきだ。そうしない裏には、「苦い薬は飲みたくない」という多くの国民の率直な思いに乗じた計算が見える。

安倍氏は「与党で改選議席の過半数獲得」を勝敗ラインに掲げる。覚悟を示したかに見えるが、勝敗ラインを割れば退陣するのかは、はっきりしない。

低い投票率の結果

安倍氏率いる自民党と公明党が3連勝した12年以降の衆参両院の選挙には、共通の特徴がある。投票率が低いのだ。

12年衆院選で59%台、13年参院選と14年衆院選はともに52%台で、14年は衆院選として戦後最低を記録した。

民主党へと政権交代した09年衆院選の69%台と比べれば、その差は大きい。投票者数でみれば、09年の7202万人に対し14年は5474万人。単純計算で、1700万あまりの人が投票所に行くのをやめた。

自民党はこの間、野党転落と政権復帰の両方を経験したが、実は得票数に大きな変動はない。比例区では、いずれの選挙でも棄権を含めたすべての有権者の5人に1人に満たない支持で推移している。

つまり、安倍自民党は支持者をさほど増やしているわけではない。死票が出やすい選挙制度のもと、民主党支持の激減と棄権者の増加が、自民党に得票以上に多くの議席をもたらしているに過ぎない。

解釈改憲による集団的自衛権の行使容認。特定秘密保護法の制定や、放送法を振りかざした国民の知る権利や報道の自由への威圧。憲法の縛りを緩めるばかりか、選挙で問わぬままに改正論議に手をつけようという政権の危うさを目の当たりにした有権者に何ができるか。

「悪さ加減」を選ぶ

答えの一つが、自らの一票を有効に使う「戦略的投票」だ。

聞き慣れない言葉かもしれない。一例を挙げれば、最も評価しない候補者や政党を勝たせないため、自分にとって最善でなくとも勝つ可能性のある次善の候補に投票することだ。

首相もたびたび演説に引用する福沢諭吉は、こんな言葉を残している。

「本来政府の性は善ならずして、注意す可(べ)きは只(ただ)その悪さ加減の如何(いかん)に在るの事実を、始めて発明することならん」(時事新報論集七)。政治学者の丸山真男は、戦後にこれを「政治的な選択とは〈中略〉悪さ加減の選択なのだ」(「政治的判断」)と紹介した。

民主党政権の失敗は、なお多くの有権者の記憶に生々しい。その後の低投票率には、政治への失望や無力感も反映されているのだろう。

だが、このままでは民主主義がやせ細るばかりか、立憲主義も危機に瀕(ひん)する。

意中の候補や政党がなくとも、「悪さ加減の選択」と割り切って投票所に足を運ぶ。7月10日の投票日までに、選挙区と比例区2枚の投票用紙をいかに有効に使うかを見極める。

18、19歳の240万人もの若者を有権者として新たに迎える選挙だ。上の世代が、ただ傍観しているわけにはいかない。



参院選がきょう公示される。安倍晋三首相による3年半にわたる政権運営に対し、有権者が評価を下す選挙だ。

消費税率引き上げの再延期で揺れる社会保障の将来像など、政党が中長期的な課題で責任あるビジョンを示せるかが試される。同時に選挙結果は首相が実現を目指す憲法改正の行方にも大きく影響する。国の針路を左右する審判だと捉えたい。

参院選の直前、首相は消費増税の再延期を決めた。国民に約束していた来春の引き上げ方針を覆し、「新しい判断」だとして海外の経済状況を理由に2年半先送りした。

本当の国民の利益とは

この判断が今回の選挙で大きなポイントになっている。首相はその是非を仰ぐとしている。消費増税の延期を理由に衆院を解散した2014年衆院選パターンの繰り返しだ。

増税の先送りは短期的には国民にとって負担軽減だ。来春の引き上げは野党もそろって反対している。

だが、政権与党が2度にわたり増税を延期した事実はより重い。

社会保障の拡充にあてるはずだった約1兆4500億円の財源が失われた。しかも、19年10月に引き上げるという首相の再約束が守られる保証はない。人口減少や超高齢化に備える税と社会保障の一体改革の枠組みが崩れかねない局面だ。

だからこそ、政党がどこまで将来に責任を持った公約を掲げているかが厳しく吟味されるべきだ。

自民党は「成長と分配の好循環」を掲げる。だが、肝心の成長戦略は思い通りの成果をあげていない。

増税先送りに伴う減収分は「赤字国債に頼らず安定財源を確保」と説明するが、当面は税収増頼みというのではこころもとない。減収に伴い社会保障拡充策の何を後回しにするかも首相は明確にしていない。「すべてを行うことはできない」と述べるにとどまっている。

野党、民進党はどうか。「分配と成長の両立」を強調し、保育士給与の月額5万円アップなどを公約に盛り込んだが、施策には財源の不安がつきまとう。増税を先送りしても予定通りに社会保障は拡充し、財源は行政改革で生み出すと主張する。足りなければ借金の赤字国債でまかなうというのでは説得力に乏しい。

与野党が学生への給付型奨学金の検討や子育て支援など、格差是正や女性、若い世代に政策をシフトさせようとしている方向は正しい。

ただ、国と地方の借金が1000兆円を超すうえ、医療や介護の支出は増えていくのが現実だ。痛みを先送りするほど将来の不利益は増す。持続可能な社会保障の全体像を各党はより踏み込んで示すべきだろう。

国の将来にかかわるテーマに改憲問題がある。

衆院に続き、参院でも自民党を中心とする改憲派の勢力が改正案の発議に必要な3分の2以上の多数を制するかが焦点だ。今回の参院選は、従来にも増して改憲問題の行方に直結する。

ところが自民は公約で「国民合意の形成に努め、実現を目指す」などとあっさりふれただけだ。首相は次の国会で具体的に議論するとしている。きのうの日本記者クラブの党首討論でも「(改憲を)決めるのは国民投票だ」との理屈で争点化に慎重な姿勢を示した。 ◇憲法の議論を避けるな

だが、改憲案を発議するのは国会だ。その国会の構成員を選ぶ選挙である以上、首相の説明はおかしい。選挙に不利だから争点にせず、発議に必要な議員の数は確保しておこうというのだろうか。

安倍政権はこれまでも選挙で経済政策を争点として強調し、集団的自衛権行使を容認する憲法解釈の変更や特定秘密保護法などの基本政策の転換を正面から提起してこなかった。自らの政権で改憲を目指すのに、首相が中身について語らないというのでは筋が通らない。

首相は自民、公明両党で改選議席過半数(61議席)の獲得を目標に掲げる。自民が57議席以上を得れば1989年以来、27年ぶりに参院での単独過半数を回復することになる。

野党側は共闘で対抗している。民進、共産、社民、生活4党が32ある1人区すべてで候補を統一し、自民候補と対決する。「自民1強」をより強めるか、それともブレーキをかけるのかの構図は明確になった。

4野党は「改憲派3分の2阻止」や安全保障関連法の廃止を共通目標に掲げる。ただ、憲法観や安全保障をめぐりそれぞれの主張にはかなりの違いがある。共闘を優先するあまり、踏み込んだ政策論争を避けるようなことがあってはならない。

近年の国政選挙では投票率の低下傾向が深刻化している。

政権批判票が行き場を失っていることや、政治全体への不信感の表れだろう。だが、有権者が政治を人ごとのように感じて距離を置いては、民主主義は正常に機能しない。

参院選公示とともに選挙権年齢が「18歳以上」に引き下げられる。約240万人の新有権者の政治参加が期待される。

未来に責任を持てる政党や候補を選ぶ時だ。18日間の舌戦にじっくりと耳を傾けたい。


参院選きょう公示 危機克服への青写真競え 国と国民守り抜く覚悟あるか|産経新聞

国と国民守り抜く覚悟あるか

日本が直面している内外の危機は、深刻さを増している。きょう公示される参院選では、どうやって国家として生き残り、国民の生活を守っていくかの構想力が問われている。

21日の日本記者クラブ主催の党首討論会では、その問いに対する明快な答えを与野党から聞くには至らなかった。

不人気な政策、国民に痛みを求める政策であっても、必要なものなら正面から提示し、理解を得る必要がある。それなしには選挙を重ねても、現実の懸案解決にはつながりにくいからだ。

安保の現実に目向けて

国民の関心と懸念に回答しようという姿勢が特に希薄なのが、外交・安全保障の分野である。

中国の軍艦が、尖閣諸島(沖縄県)周辺の接続水域や口永良部島(くちのえらぶじま)(鹿児島県)周辺の領海に侵入した。中国は南シナ海で、国際法を無視し、人工島の軍事拠点化を進め、地域や国際社会にとっても大きな懸念となっている。

北朝鮮の弾道ミサイル発射の兆候があるとして、中谷元(げん)防衛相は21日、自衛隊に迎撃を認める破壊措置命令を出した。

こうした環境に日本があることを、各党はもっと強く認識すべきである。国と国民をどう守り抜いていくか、日本に有利な外交環境をいかに醸成すべきか。いずれも横に置いて済ませられる課題ではなかろう。

その観点からも、民進党の岡田克也代表が、自衛隊を「憲法違反」と断じた共産党の志位和夫委員長とともに安全保障関連法の廃止を主張しているのは、無責任のそしりを免れない。国民の生命と安全を守る責務を、初めから放棄している。

安保関連法は戦争を抑止して平和を維持する法制だ。集団的自衛権の限定行使を容認し、日米同盟の抑止力を強めた。安倍晋三首相が「日米が力を合わせられるようになり、日本の安全はさらに強化された」と語ったのは妥当だ。

岡田氏は「安保法ができる前の状態に戻すことで、日米同盟がおかしくなるという話は成り立たない」と語ったが、耳を疑う。

自衛隊と米軍がより守り合えるようになった安保法をもし廃止すれば、米政府や米国民は、日本を仲間の国だとどこまで思い続けるだろうか。

同盟関係が損なわれると考えるのが普通だ。そうなって喜ぶのが日米同盟を敵視する国々であることにもし気付かないなら、国政を語る資格があるだろうか。

安保法の是非にとどまらず、安保環境の現実を直視した上で、日本の平和を積極的に守っていく具体的方策が問われている。

軍事力による威嚇、挑発をためらわない中国、北朝鮮などにどのように対応していくべきか。自衛隊の態勢や外交政策に改めるべき点や一層力を入れるべき点はないのか。国民の前で具体論を語ってほしい。

将来へのツケ回避せよ

国民の関心が大きい経済政策や社会保障をめぐる議論の内容もいまだ低調である。

デフレ脱却による経済再生が最優先課題であることは言うまでもない。アベノミクスは道半ばだというなら、民間の活力を高める規制改革などの成長戦略を加速させる必要がある。

だが首相はそれには具体的に言及しなかった。有権者は、経済をどうやって底上げするかの方策を聞きたいのだ。

岡田氏は、平成32年度にプライマリーバランスを黒字化させる政府目標に関し「無理だ」と指摘し、首相は「簡単な目標ではない」と語った。どうしたら将来世代にツケを回さずにすむか、さらに突っ込んだ議論がほしい。

消費税増税の再延期で実施が危ぶまれる社会保障政策の財源に関し、首相は「税収を増やし安定財源を確保する」という。当面はしのげたとしても、それを安定財源と言うのは無理だ。

おおさか維新の会の片山虎之助共同代表が、社会保障・税一体改革を継続するのか、首相に問うたのは理解できる。

憲法改正について、首相は「自民党は結党以来、憲法改正を掲げてきた」と述べたが、遊説先でも堂々と訴えるべきだ。

「18歳以上」の新有権者に限らず、すべての有権者に高い関心を抱いてもらうには、各党が意味のある選択肢を示すのが先決だ。



経済改革の実効性を吟味したい

安倍政権の経済、社会保障、外交・安全保障政策などを信任するのか。あるいは、転換を求めるのか。日本の針路を左右する重要な選挙だ。

参院選がきょう公示される。

デフレ脱却と財政再建の両立、少子高齢化と人口減社会への対策の強化、不安定化する国際情勢への対処――。日本は今、多くの困難な政策課題に直面している。

各政党と候補者は、説得力ある処方箋を示し、積極的な政策論争を展開してもらいたい。

参院選の最大の争点は無論、アベノミクスの是非である。

2014年の衆院選と同様、安倍首相は消費税率10%への引き上げを延期し、その信を問う考えを示している。日本記者クラブ主催の9党党首討論会でも、経済政策が論争の焦点となった。

安倍首相は、アベノミクスについて「リーマン・ショックで失われた国民総所得50兆円を今年中に取り戻せる」と語った。税収増、雇用改善の成果も強調した。

公明党の山口代表は、「アベノミクスの成果が十分に及んでいないところに希望を広げたい」と述べ、地方や中小企業対策に重点を置く考えを示した。

重要性増す安保関連法

民進党の岡田代表は、「金融や財政(政策)で(成長を)膨らませるだけのやり方は限界がある」などと安倍政権を批判し、経済政策を転換するよう主張した。

消費増税の延期はやむを得ないが、景気の足踏み状況を早期に脱し、19年10月には確実に増税できる環境を実現する必要がある。

与党は、今秋に予定される当面の経済対策や、中長期的な成長戦略の強化策の骨格を示すべきだ。野党も、アベノミクスの批判一辺倒でなく、どう転換するかを具体的に明らかにせねばなるまい。

自民党の公約は「成長と分配の好循環」、民進党は「分配と成長の両立」をそれぞれ明記した。

成長と分配の順番が逆だが、保育士の待遇改善、最低賃金の引き上げなど、共通する政策も多く、違いが分かりにくい。両党には、さらなる説明が求められよう。

集団的自衛権の行使を限定容認した3月施行の安全保障関連法も重要な論点となろう。

首相は「日米同盟の絆を強くした。日本の安全は、さらに強化された」と意義を指摘した。共産党の志位委員長は「自衛隊を海外の戦争に出していいのか」と述べ、関連法の廃止を主張した。

北朝鮮は核とミサイルによる軍事挑発を続け、中国は独善的な海洋進出を拡大させる。安保関連法を効果的に運用し、日米同盟を強化する重要性は一層高まった。

憲法は冷静に話し合え

与党は、こうした実情を丁寧に訴え、国民の理解を広げる努力を尽くすことが大切である。

憲法改正について、首相は、参院選後に、衆参の憲法審査会で具体的な改正項目を絞る作業を進めたい考えを改めて示した。

岡田氏は、「お互い協力する姿勢が安倍政権にあるのか。立憲主義に対する認識が全く間違っていないか」と疑問を呈した。

与党は、憲法改正を参院選の争点に据えることに慎重な姿勢を示している。首相は街頭演説でほとんど触れず、公明党は公約に盛り込まなかった。

野党との対立を先鋭化するのは選挙戦術上も、選挙後に幅広い合意形成を目指すうえでも、得策でないと判断したのだろう。だが、少なくとも、どういう改正項目を重視し、優先したいのかを示さなければ、有権者は戸惑おう。

野党も、9条改正反対と唱えるだけでは無責任である。

憲法は、70年近く一度も改正されず、現実との様々な乖離かいりが指摘される。最高法規をより良いものにする観点から、冷静に議論することが求められる。

野党協力は実るのか

自民、公明の与党は改選議席の過半数の61議席を獲得目標に掲げる。さらに、憲法改正発議に必要な参院の3分の2を占めるため、改正に前向きなおおさか維新の会などとの合計で78議席を確保できるか。この点も注目される。

民進、共産、社民、生活の野党4党は、「1強」の自民党に対抗するため、32ある1人区のすべてで統一候補の擁立に成功した。憲法、安全保障など基本政策が異なる中、「野合」批判をかわし、選挙協力の実を得られるか。

新たに選挙権を手にした18、19歳の約240万人を含め、有権者は、各党の訴えをしっかりと吟味し、誤りなき選択をしたい。


参院選 きょう公示 「安倍政治」の信を問う|東京新聞

参院選がきょう公示される。安倍晋三首相は自らの経済政策を最大の争点と位置づけるが、問われるべきは三年半にわたる「安倍政治」そのものだ。

きのう行われた日本記者クラブ主催の九党首討論会。自民党総裁でもある安倍首相は自らの経済政策「アベノミクス」について「有効求人倍率は二十四年ぶりの高い水準になった。その成果を出してきた」と強調した。

首相は参院選を、来年四月に予定していた消費税率10%への引き上げを二年半、再び延期する「新しい判断」について「国民の信を問う」選挙と位置付けている。

成長重視政策の是非

首相自身が成果を上げたと自信を深めるアベノミクスを「最大の争点」にして支持を取り付け、政権運営の原動力としようというのが、首相の思惑なのだろう。

逆進性が高く、景気に悪影響を与える消費税の増税見送りは妥当だとしても、増税できる経済状況をつくり出せると豪語していた公約を実現できなかった「失政」を不問に付すわけにはいかない。

成長重視のアベノミクスは格差を拡大し、個人消費を低迷させたと指摘される。そもそも正しい政策だったのか、一方、野党側の経済政策に実現性や妥当性はあるのか。各党、各候補の主張に耳を傾け、公約を比較して、貴重な票を投じる際の判断材料としたい。

私たちの暮らしにかかわる経済政策は重要だが、それにばかり気を取られていてはいられない。今回の参院選は従来にも増して、日本の将来を大きく左右する可能性を秘めた選択になるからだ。

最大の岐路に立つのが、首相自身が二〇一八年九月までの自民党総裁在任中に改正を成し遂げたいと明言した憲法である。

憲法の争点化避ける

自民、公明の与党は衆院で三分の二以上の議席を有し、参院選で自公両党と「改憲派」のおおさか維新の会、日本のこころを大切にする党を合わせて三分の二以上の議席を得れば、衆参両院で憲法改正の発議に必要な議席に達する。

首相は憲法改正について「選挙で争点とすることは必ずしも必要はない」と、参院選での争点化を避けているが、安倍内閣の下での過去の選挙を振り返り、政権の意図を見抜く必要があるだろう。

例えば一三年の前回参院選。首相は「三本の矢」政策の成果を強調し、首相自ら「アベノミクス解散」と名付けた一四年の衆院選では、消費税率10%への引き上げを一年半延期して「景気回復、この道しかない」と訴えかけた。

首相は経済政策を掲げて二つの国政選挙に勝利したのだが、参院選後に成立を急いだのは公約ではひと言も触れていない特定秘密保護法である。衆院選後には憲法違反と指摘される安全保障関連法の成立も強行した。

選挙であえて争点化せず、選挙が終われば多くの国民が反対する政策を強行するのは、安倍政権の常とう手段とも言える。国の在り方を定める憲法で、同じ手法を採ることが許されるはずがない。

参院選では、政策はもちろん、野党を含めた合意形成の努力を怠り、選挙で「白紙委任」されたとばかりに数の力で押し切ろうとする安倍政権の政治姿勢や政治手法の是非も厳しく問われて当然だ。

「安倍一強」の政治状況に歯止めをかけるため民進、共産、社民、生活の野党四党は選挙の勝敗を大きく左右する三十二の「改選一人区」のすべてで候補者を一本化して選挙戦に臨む。

自民党を利する野党候補乱立を避けるため、「野党は共闘」と求めた市民の声に応えたものだ。

理念・政策の違いは残るが、歴代内閣が継承してきた憲法解釈を一内閣の判断で変えて安倍内閣がないがしろにしたと指摘される立憲主義の回復と、憲法違反と指摘される安保関連法の廃止は共闘の大義に十分なり得る。選挙戦では中傷合戦に陥ることなく、堂々の政策論争を交わしてほしい。

公職選挙法が改正され、選挙権年齢が「二十歳以上」から「十八歳以上」に引き下げられた。七十一年ぶりの参政権拡大だ。

自ら意思示してこそ

今回の参院選では二十歳になった人に加え、十八、十九歳の約二百四十万人が有権者に加わる。

高齢者層に比べて若年層の投票率は低いが、年齢に関係なく同じ重みの一票だ。多少手間がかかっても各党・候補者の公約を比較して、投票所に足を運んでほしい。

自分の考えに合致する投票先が見当たらなかったら「よりまし」と考える政党や候補者に託すのも一手だろう。棄権や浅慮の「お任せ民主主義」ではなく、自らの意思を示すことだけが、未来に向けた道を開くと信じたい。

2016年6月19日日曜日

平成29年度概算要求の方向性

国立大学法人運営費交付金の概算要求スタイルが前回(平成28年度要求)から大きく変わりました。

第三期中期目標期間の二年目に当たる平成29年度概算要求については、平成28年度における予算配分の仕組みを基に、評価方法等の改善を図りつつ、戦略の着実な実施に向けた継続的な支援、組織整備への重点支援、基幹経費化への取組を進めていくこととされています。

具体的には、

  1. 平成28年度から取組を開始している戦略に対しては、進捗状況等の評価を踏まえつつ、着実に配分額を確保して、中期目標期間6年間にわたる構想が実施されるよう継続した支援が行われます。
  2. 組織整備については、人件費相当額について、各大学からの拠出金額の再配分とは別に支援するなど、継続分、新規分ともに戦略の重要な役割を担う組織整備について支援されることになっています。
  3. 基幹経費化の仕組みが平成29年度から新たに導入されます。優れた実績のあるものについて、各大学等からの要望と、取組の進捗状況等をもとに基幹経費化を進め、大学における基幹経費の充実が図られることになります。
  4. 評価についても、事前に何が評価の対象となるのかを明確にするとともに、評価方法等の改善が図られます。
  5. このほか、WPIプログラムについては、支援終了後も、拠点の優れた研究システムの維持・発展を継続していくため、運営費交付金と補助金の両面から継続的な支援が可能となるよう、現在、文部科学省で検討が進められています。


参考までに、過日開催された国立大学法人学長会議で示された「平成29年度国立大学法人運営費交付金の重点支援に係る概算要求の方向性についての現段階での考え方」には次のように記載されています。

平成29年度の運営費交付金では引き続き、「3つの重点支援の枠組み」による戦略ごとの支援を行う。ポイントは次の3点。

1 戦略に対する支援の着実な確保と係数による財源を活用した重点支援

平成28年度当初に設定し、取組を開始している戦略に対する支援については、平成28年度に配分した戦略ごとの予算額の規模を踏まえつつ、進捗状況等の評価に基づき、予算編成過程において着実に配分額を確保。

加えて、基幹経費から機能強化促進係数による財源を確保した上で、2分の1程度を運営費交付金「機能強化促進分」として戦略ごとの支援に充て、残りの2分の1程度を活用して「新規の補助金」を創設。「新規の補助金」での支援内容は、各大学から要求される取組内容等を踏まえ、予算編成過程において決定。

2 教育研究組織整備に対する重点支援

戦略の下に位置付けられる教育研究組織整備の人件費相当額については、平成28年度から継続する取組について確実に支援するとともに、新たに実施される教育研究組織整備に対しても、機能強化促進係数による再配分とは別に支援。

3 基幹経費化の導入

「機能強化促進分」により既に取組を実施し優れた実績のあるものについては、各大学からの要望に基づき、取組の進捗状況等を踏まえ、人件費相当額を中心として、予算編成過程において基幹経費化。


なお、詳細については、今後文部科学省から各国立大学法人宛通知される「平成29年度国立大学法人運営費交付金の重点支援に係る概算要求の方向性について」をご参照ください(ただし、相変わらず、財務担当職員にしか解読できないほど難解な通知内容になっています。各大学の財務担当職員がいかにわかりやすく学内構成員に説明できるかが重要なポイントになると思われます)。


ちなみに、概算要求に係る今後のスケジュール(現時点)は以下のようです。

平成28年6月9日 国立大学法人学長・大学共同利用機関法人機構長会議開催
平成28年6月中下旬 「概算要求の方向性」の事務連絡発出
平成28年6月中下旬 「概算要求説明資料の作成依頼」の発出
平成28年7月上中旬 概算要求説明資料(特殊要因経費、収入見積額、共通政策課題分等)提出締切
平成28年7月下旬 概算要求説明資料(機能強化促進分)提出締切
平成28年8月下旬 「評価指標の実質化調書」提出締切
平成28年10月上旬 「進捗状況等調書」提出締切

国立大学法人学長等会議における文部科学省(研究3局)からの説明

去る6月9日(木曜日)に、国立大学法人学長等会議が開催されました。

研究三局(科学技術・学術政策局、研究振興局、研究開発局)関係の説明要旨を抜粋してご紹介します。

1 政府方針政府方針(次期成長戦略、ニッポン一億総活躍プラン、骨太方針)(H28.6.2)における科学技術・学術政策の位置づけについて

6月はじめ、政府全体の政策方針として策定された「骨太方針2016」や「ニッポン一億総活躍プラン」においては、誰もが活躍できる一億総活躍社会を創っていくための「GDP600兆円」、「希望出生率1.8」、「介護離職ゼロ」といういわゆるアベノミクス新・三本の矢の全体像が示されています。

これらの政策文書において、科学技術・学術政策は、主に新三本の矢の「第一の矢」である「GDP600兆円の実現」の中に位置づけられています。

成長戦略である「日本再興戦略2016」においては、GDP600兆円の実現のためには、日本を取り巻く人口減少に伴う人手不足を克服する「生産性革命」が必要であるとされ、この生産性革命を主導する最大の鍵として、IoT(Internet of Things)、ビッグデータ、人工知能、ロボット・センサーの技術的ブレークスルーを活用する「第四次産業革命」の必要性が謳われています。 

と同時に、新たな産業構造を支える「人材強化」に向けた取組の必要性も言われています。

このように、第四次産業革命を実現する鍵の一つとして挙げられているのが、イノベーションの創出と人材の強化です。

これらを担うのが、国立大学法人や共同利用機関法人であり、各法人に対する社会的期待は非常に大きく、そのことが政府全体の政策文書の中でも明記されていることをまず申し上げたいと思います。

特に、成長戦略の総論部分では、「いよいよ、大学改革、国立研究開発法人改革の実現に向けた『行動の時』である。」、「第四次産業革命を迎えオープンイノベーションの機運がこれまで以上に高まっている。」との認識が示され、「組織」対「組織」の本格的な産学連携の必要性が謳われています。

このようないわゆるオープンイノベーションの取組は、成長戦略のみならず、第5期科学技術基本計画においても、「産業界による技術の捉え方を研究者が経験を通じて学ぶことや、技術課題に取り組む中で新たな基礎研究のテーマにつながる発見が期待できるなど、主体的かつ積極的な取組が期待される」と明記されていることから、サイエンスの観点からも重要なものであるほか、同じく第5期科学技術基本計画で掲げられた「企業から大学・研究開発法人等への投資の3倍増」に向けた具体策としても必要不可欠です。

各大学等におかれましては、各大学等の経営戦略の中で位置づけ、御取組を進めていただきたいと思います。

なお、これらの政策文書には、今申し上げたこと以外にも、 
  • 指定国立大学制度や大学の機能強化の取組等の「大学改革」 
  • 間接経費の適切な措置等の「競争的資金改革」 
  • 若手研究者の独立支援や新審査方式の導入などの「科研費改革」 
  • 「基礎研究・学術研究の強化」や「世界トップレベル研究拠点の構築」 
等、これまでの施策を今後とも着実に推進することが、しっかりと明記されています。

引き続き、文部科学省としては、これらの政策文書も踏まえ、各大学や共同利用機関法人における教育研究の振興に努めてまいりたいと考えています。

2 第5期科学技術基本計画について

科学技術基本計画は、科学技術基本法に基づき、科学技術の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、10年程度を見通した5年間の計画として策定するものです。

平成28年度は、第5期科学技術基本計画(平成28年1月22日閣議決定)の初年度になります。

目指すべき国の姿の実現に向けて科学技術イノベーション政策を推進するに当たり、第5期基本計画では、基本方針として4つの柱を位置付け、強力に推進していくこととしています。

本日は、特に大学等との関連が深いものとして、第4章のうち、人材力の強化、第2章のうち、超スマート社会の実現の2つに絞って簡単に御紹介します。

まず、「科学技術イノベーションの基盤的な力の強化」では人材力の強化の取組として、
  1. 若手研究者のキャリアパスの明確化 
  2. 科学技術イノベーションを担う多様な人材の育成・確保 
  3. 女性の活躍の促進や人材の流動化の促進 
などが盛り込まれ、このための大学の改革・機能強化が強く求められております。

また、インターネットの普及や情報通信技術の発達等を通じた社会の情報化は、サイバー空間と現実空間が様々な形で相互に影響しあい、そこから新たな産業やサービスが生まれる段階に入っています。このため、第5期科学技術基本計画では、サイバー空間の活用等により、豊かな暮らしがもたらされる「超スマート社会」を世界に先駆けて実現するために、一連の取組を更に深化させつつ「Society 5.0」として強力に推進することとしています。

「Society 5.0」の主な取組としては、 
  1. 共通基盤的なプラットフォームの構築
  2. ビッグデータ解析技術やAI技術などの基盤技術の戦略的強化 
などが挙げられ、そのために必要な研究開発人材やこれを活用して新たな価値やサービスを創出する人材の育成等が大学に求められています。

なお、超スマート社会の社会像や求められる人材像については、平成27年版科学技術白書に詳述されていますので合わせてご覧ください。

3 科学技術イノベーション総合戦略2016について

本年5月24日、「科学技術イノベーション総合戦略2016」が閣議決定されました。本戦略は、先ほど説明いたしました「第5期科学技術基本計画」の中長期的な方針の下、今年度から来年度にかけて重きを置くべき項目を明確化したものです。

本戦略の中でも特に検討を深めるべき項目として、 
  1. 「Society5.0」の深化と推進
  2. 若手をはじめとする人材力の強化
  3. 大学改革と資金改革の一体的推進
  4. オープンイノベーションの推進による人材、知、資金の好循環システムの構築
  5. 科学技術イノベーションの推進機能の強化
の5つを掲げています。この5つを軸として、第一章から五章まで、基本的な認識と重きを置くべき課題及び取組が具体的に示されています。

第一章では、AI・IoT・ビッグデータの技術開発の推進や人材育成等を通した「Society5.0」実現に向けたプラットフォームの構築、基盤技術の強化など、新たな価値創出のために必要な取組を行っていくこととしています。

経済・社会的課題については、第二章で、環境・エネルギー分野、健康・医療分野、国家安全保障分野への取組等を挙げています。

第三章では、科学技術イノベーション創出のために、人材、知、資金面での基盤を強化するために取り組むべき方向を述べています。特に、
  • 卓越研究員制度や産学官協働等による人材育成
  • 国立大学改革と研究資金改革の一体的推進等による資金改革
に取り組むべきとしています。

基盤の強化とともに、人材、知、資金の好循環システムの構築について、第四章で述べています。その中でも特に、
  • 産学官連携の「場」の機能の向上
  • 中小・ベンチャー企業創出のための政策
を強化していくとしています。

第五章では、今まで述べた科学技術イノベーション創出のための各取組を推進していく機能の強化、具体的には、大学改革や国立研究開発法人改革及び機能強化等を掲げています。

以上、本戦略の着実な実行に対し、皆様方には引き続き御協力を賜りますよう、お願いいたします。

4 研究活動における不正行為及び研究費不正への対応等ついて

(1)研究活動における不正行為について

研究活動における不正行為は、国民の科学への信頼を揺るがすものであり、文部科学省としても研究不正の防止に全力で取り組むことが重要と考えています。

文部科学省では、平成26年8月に「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」を策定し、昨年度、ガイドラインに基づく履行状況調査を実施しました。

履行状況調査の結果、多くの研究機関において、ガイドラインを踏まえた取組を着実に進めていることが伺える一方で、ガイドラインの趣旨が十分に浸透しておらず、対応が不十分な研究機関も見られました。

不正行為に対する対応は、研究者自らの規律、及び科学コミュニティ、研究機関の自律に基づく自浄作用が基本ですが、これに加えて、研究機関が責任を持って、それぞれの研究機関の性格や規模等を考慮しつつ、実効性のある体制を整備し、構成員の研究倫理意識を醸成していくことが不可欠です。

今後、文部科学省では、研究活動上の不正行為防止に関する各機関でのガイドラインを踏まえた対応について、チェックリストの提出を求め、各機関における研究活動上の不正行為の防止等の取組状況を把握し、対応が不十分な機関に対して、助言等を行う予定です。

各機関におかれては、引き続き、公正な研究活動の推進に努めていただきたいと考えています。

(2)研究費の不正使用について

研究費の不正使用も、研究機関及び研究者への国民の信頼を失墜させる重大な問題です。このため、文部科学省では、平成26年2月に「研究機関における公的研究費の管理・監査のガイドライン(実施基準)」を改正し、不正使用の防止のための対策を抜本的に強化したところです。

しかしながら、多くはガイドライン改正前の事案ではありますが、依然として不正使用事案が生じていることは誠に遺憾です。

文部科学省としては、研究費の不正使用の根絶に向けて、「管理・監査」のガイドラインの内容をしっかりと実行し尽くすことが必要と考えており、各大学におかれても、ガイドラインを踏まえ、不正根絶のために万全の体制整備に努めていただくようお願いいたします。

なお、文部科学省では、各大学における体制整備の状況について、段階的に調査を実施しております。調査の結果、体制整備が不十分と判断された機関に対しては、間接経費の削減や資金配分の停止等の措置をとることとなりますので、十分御留意のうえ御対応いただきますよう、お願いいたします。

また、不正根絶に向けて、一人一人の研究者の意識変革が重要であるのは言うまでもありません。そのためには、不正使用を行うことで、研究費の返還、懲戒処分、刑事告訴、全府省の競争的資金への応募制限など、重大な結果を招くことを理解していただくことが有効です。

このため、文部科学省では、公的研究費に係る不正事例をはじめとしたコンプライアンス教育用コンテンツ等をホームページに掲載しております。各大学におかれては、これらも活用いただき、全職員への周知徹底を行っていただくことを期待します。

なお、文部科学省においては、科研費を含む競争的資金の使い勝手の向上に努めているところです。各研究機関においても、昨年4月にお知らせしております関係府省申合せ「競争的資金における使用ルール等の統一について」の趣旨も踏まえながら、引き続き、競争的資金の使い勝手の向上に向けて、機関内におけるルールの適切な見直しに取り組んで頂くよう改めてお願いします。

5 科学研究費助成事業(科研費)について

科研費は、持続的なイノベーションの創出や大学の研究力強化の観点からも極めて重要な役割を担っております。

現在、その制度の在り方について半世紀ぶりの抜本的な見直しを行い、
  1. 審査システムの見直し
  2. 研究種目・枠組みの見直し
  3. 柔軟かつ適正な研究使用の促進
の三本の柱に沿って改革を進めております。

改革の柱の一つである「審査システムの見直し」については、4月に改革案をとりまとめ公表しました。この案では、来年秋の公募から現行の「分科細目表」を廃止した上で、
  1. 細分化の進んできた審査区分の大括り化と
  2. 幅広い分野の審査委員による多角的な「総合審査」を導入
する方向です。

本改革案については、今年4月から1ヶ月にわたって意見募集を実施し、1,600件余りの多くの御意見を頂きましたが、改革の基本理念や方向については、大方の賛同・支持が得られているものと考えています。今後、頂いた御意見を踏まえて更に検討を深め、年内に結論をとりまとめたいと考えております。

研究種目・枠組みについては、当面「挑戦的萌芽研究」を発展的に見直し、新たに「挑戦的研究」を創設し、今年の9月から公募を開始する予定です。新制度では、より大規模な支援を可能とし、総合審査の先行導入などにより学術の体系・方向の大きな変革・転換を志向する研究を促進する方向で、検討しているところです。

このほか、「特別推進研究」及び「若手研究(A)」についても見直しを図っていくこととしています。

なお、各研究機関においては、科研費の役割はますます大きくなっており、新たな中期目標・計画では約4割の国立大学が科研費獲得に特化した数値目標等を定めている状況にあります。こうした戦略的な取組にあたっては、科研費制度の趣旨を鑑み、研究者の自主性に対する配慮も併せてお願いします。

各研究機関におかれましては、こうした改革への御理解と御協力を賜り、研究力の強化に向けて科研費を適切に活用くださるよう、よろしくお願いいたします。

6 学術情報ネットワーク(SINET)の整備及び情報セキュリティ基盤の構築について

SINETについては、大学のネットワーク需要の増大に対応するために高速化(100Gbps)し、平成28年度から運用を開始しました。

このネットワークの高速化に伴い、大学では情報システムのクラウド化をより進めやすくなる環境が整いました。あわせて、システムを運用する国立情報学研究所では、大学のクラウド化が容易になるような技術的支援を充実させる予定です。

各大学におかれましては、より質の高い情報システムをより少ない経費で提供することが可能となることから、クラウド化の推進に積極的にお取り組みいただくようお願いします。

また、こうしたネットワークに関し、大きな課題がセキュリティの確保です。情報セキュリティについては、国立情報学研究所において、各大学の情報セキュリティ対策を強化する経費を措置しています。

具体的には、①SINET上に機器を整備し、検知したサイバー攻撃の情報を大学に提供するとともに、②SINETの実環境において、大学の技術職員を対象とした研修を実施し、サイバー攻撃への対処能力の高度化を図ります。

情報通信技術の高度化に対応して、情報を適切に管理運営するための取組が一層重要となりますので、各大学等におかれましても、法人全体として組織的・計画的に取り組んでいただきますようお願いいたします。


今後の共同研究においては、「組織」対「組織」の共同研究を進め、これまでの小規模な共同研究から大規模な共同研究へ移行していくことが必要です。本報告書では、本格的な産学連携による共同研究の拡大に向けて、
  • 共同研究に必要な経費の透明性の確保及び明確化といった「費用の見える化」を図ることにより適切な費用負担を企業側に求めていくこと、
  • 成果へのコミットメントを前提としたプロジェクト提案力の涵養(かんよう)やプランニング、スケジュール管理の徹底を図ること、
  • 学内における産学連携の位置づけを高めることや本部機能はじめ、経理・財務体制を強化すること、
等の重要性について取りまとめています。

同報告書を受けて、経団連も平成28年2月に、軌(き)を一(いつ)にした提言を取りまとめており、上述の大学の取組を前提に、必要な経費は適切に措置していくとしています。

各大学においては、本報告書や提言等の内容も踏まえ、本格的な共同研究に向けた積極的な取組の検討をしていただければと思います。

また、こうした取組は、「『日本再興戦略』改訂2016」(平成28年6月2日閣議決定)に明記されている「2025年度までに大学等に対する企業の投資額を現在の3倍とする」ためにも必要です。文部科学省では、これまでの取り組みも踏まえつつ、更なる産学連携の深化のための環境整備や支援プログラムの充実に取り組んでまいります。

8 研究施設・設備・機器等の基盤の抜本的強化について

科学技術イノベーションによる優れた成果の創出を実現するためには、研究開発活動を支える先端的な研究施設・設備の整備・共用や基盤技術の研究開発等を強化していくことが不可欠です。

具体的には、最先端の大型研究施設(※)の整備・共用や研究施設・設備のネットワーク化を通じた共用の促進のほか、更なる研究資源の有効活用のため新たに競争的研究費改革等と連携した研究設備・機器の共用化に取り組んでいます。

(※)最先端の大型研究施設とは、共用法に基づく以下の4施設をいう。
・大型放射光施設「SPring-8(スプリング・エイト)」
・X線自由電子レーザー施設「SACLA(サクラ)」
・大強度陽子加速器施設「J-PARC(ジェイ・パーク)」
・スーパーコンピュータ「京(けい)」

中でも、平成28年度から競争的研究費改革と連携して新たに始まる「先端研究基盤共用促進事業」は、大学の多く(※)から関心が寄せられていますが、平成28年度政府予算に約11億円が計上されました。本事業では、研究開発と共用の好循環の実現に向けて、「新たな共用システム導入の加速」と「共用プラットフォームの形成」の2つの取組を支援いたします。

※「新たな共用システム導入の加速」は、35大学81研究組織から公募申請あり。

【新たな共用システム導入の加速】
「新たな共用システム導入の加速」は、大学及び研究機関等において競争的研究費等で購入し、研究室毎に分散管理されている研究設備・機器群を、組織の経営・研究戦略の下で管理・運営する共用システムの導入を支援するものです。

本共用システムの導入により、研究開発活動の効率化・高度化による研究開発投資効果の最大化とともに、学生への教育・トレーニングや若手研究者等のスタートアップ支援、分野融合・新興領域の拡大、研究機関の魅力発信といった効果が高いものへの支援を想定しています。

各大学におかれましては、既存の取組と併せ、学長のイニシアティブにより、単なる効率化に留まらない、研究開発と共用の好循環を実現するためのシステムの構築を期待しています。

【共用プラットフォームの形成】
平成25年度より開始している前身事業(先端研究基盤共用・プラットフォーム形成事業)では、研究機関毎の共用取組の促進とそれら機関間のネットワーク構築を支援してきたところですが、「共用プラットフォームの形成」は、ネットワーク構築に重点化を図り、産学官が共用可能な研究施設・設備等について、施設間のネットワークを構築することにより、イノベーション創出のためのプラットフォームの形成を推進するものです。
※既存プラットフォーム(平成25年度~平成17年度)
  • NMR共用プラットフォーム:理研、横市大、大阪大
  • 光ビームプラットフォーム :KEK、東京理科大、科学技術交流財団(あいちシンクロトロン光センター)、立命館大、大阪大、兵庫県立大、佐賀県地域産業支援センター(九州シンクロトロン光研究センター)、高輝度光科学研究センター(SPring-8)
【今後の予定】

本事業については、平成28年度新規採択機関の公募が終了しました。「共用プラットフォームの形成」については15件の申請があり、4件を採択、3件をFS採択しました。「新たな共用システム導入の加速」については、81研究組織35機関から申請があり、33研究組織16機関を採択いたしました。

今後とも科学技術イノベーションの創出に向けた世界最高水準の研究開発基盤の維持・高度化を着実に推進していく所存です。各大学におかれましても、本事業を含め研究開発と共用の好循環の実現に向けた取組へのご協力をお願い致します。