「受け身」では大学への理解も支持も広がらない
社会・経済的環境を与件とし、それにどう対処するかという受け身のスタンスをとり続ける限り、大学に対する理解や支持は広がらないだろう。
一方で、現代社会が直面する諸課題はいずれも複雑で、難易度が一層高まる傾向にある。解決のためには、確かな知識・スキル、正確な情報、公平な立場などが強く求められる。
大学こそそれを担うに相応しい機関であり、社会的課題の解決に組織的・能動的に関わることで、より明確に存在価値を示すことができるのではないかと考える。
社会に解決すべき問題があるということは、ニーズがあるということであり、企業に喩えるならば成長機会があるということである。
「大学を取り巻く環境は厳しさを増しつつある」という常套句で、危機意識を持たせ、改革を促すことも一つの方法だが、環境を与件とせず、環境に働きかけることで社会の期待に応えることこそ、大学の持続可能性を高めるための確かな道筋ではなかろうか。
大学こそ社会的課題の解決に純粋に向き合える
①将来に向けた人口減少への歯止め、②当面の人口減少と少子高齢化の下での経済成長、社会保障と財政の持続可能性、地域活力の維持・向上、③量的ポジションが低下する中での、我が国の国際社会におけるプレゼンスの確保、④労働生産性の向上とイノベーション、⑤貧困・格差の解消と誰もが希望が持てる社会、⑥グローバル化がもたらす問題の克服と相互に価値を享受し得る枠組みの構築、など重要なテーマが浮かびあがってくる。
国、地方公共団体、企業・団体等は、これらを背景に日々持ちあがる問題に、錯綜する利害を調整し、時間を区切りながら、取り組んでいかなければならない。問題を多角的に検討し、長期的視点に立って解決策を導き出すためには、制約条件やノイズがあまりに多すぎる。
そこに大学の存在価値がある。
研究と教育を発展させる創造的な契機をくみとる
実際に大学教員の関心を社会の変化や社会的課題の解決に向けることは容易ではない。
そのためには、学長・副学長、学部長及び職員が、これまでにも増して社会の変化や社会的課題の解決に関心を寄せる必要がある。会議時間を半減させ、捻出した時間の一部を使って様々な分野の外部講師を招いて話を聞くことなど、決断次第で直ちに着手できることである。教員にも声をかけ、会議とは異なる率直なコミュニケーションの場を広げていくことが大切である。
また、社会的課題の解決をテーマとする共同研究を奨励し、そのためのインセンティブを付与することも検討すべきであろう。
大学は依然として内向きと言わざるを得ない。構成員の意識を内に向かわせるあらゆるシステムや慣習を見直し、組織全体を「外向き」に転換させることはトップマネジメントの役割である。
1971年6月の中央教育審議会『今後における学校教育の総合的な拡充整備のための基本的施策について(答申)』(「四六答申」)第3章「高等教育の改革に関する基本構想」に以下の一文がある。
このようなさまざまな要請を今日の高等教育全体の機能の中に生かすためには、複雑高度化した現代社会に対応する新しい制度的なくふうが必要である。とくに、学問研究の自由に対する保障は、あくまで人間理性の自由な活動から生まれる提言と批判を通じて大学が社会に貢献するための基本的条件である。しかし同時に、大学は、進んで歴史的・社会的な現実に直面し、そこから研究と教育を発展させる創造的な契機をくみとることができるような社会との新しい関係を作ることによって、その社会的な役割をじゅうぶんに果たすことに努めるべきであろう。(原文のまま)
この20年間に社会は大きく変化した。これからの20年間、変化はさらに加速するだろう。それに翻弄されることなく、社会的課題の解決に積極的に関与することで、大学は存在価値と持続可能性を高めていかなければならない。
吉武博通 筑波大学ビジネスサイエンス系教授 から抜粋