2016年12月23日金曜日

記事紹介|クリスマスの使者

去年のクリスマスはとてもつらかった。

家族も親友も、はるか遠い故郷のフロリダにいた。

私は一人、寒いカリフォルニアで働き続け、体調も崩していた。

私の職場は、航空会社のチケットカウンター。

その日はクリスマス・イブ。

私は昼夜のダブルシフトをぶっとおしで勤務していたが、 夜も九時をまわり、内心みじめでならなかった。

当番のスタッフは2,3人いたものの、乗客の姿はまばらだった。

「次のお客様、どうぞ」カウンター越しに声をかけると、 柔和な顔をした老人がつえをついて立っているのが見えた。

老人がそろりそろりとカウンターまで歩いてくると、 聞き取れないほどの小声でニューオリンズまで行きたいといった。

「今夜は、もうそっちへ行く便がありません。 明日までお待ちいただくことになりますが」 と言うとその老人はとても不安げな顔になった。

「予約はしてあるのですか」「いつ出発のご予定だったのですか」 などと聞いてみたが、聞けば聞くほどいよいよ困った様子で、 ひたすら「ニューオリンズに行けって言われたから」 と繰り返すばかり。

そのうち、いくつかのことがわかってきた。

老人はクリスマス・イヴだというのに、義理の妹に「 身内のいるニューオリンズに行きなさい」と車に乗せられ、 この空港の前で下ろされたらしい。

彼女は老人に現金をいくらか持たせ、「 中へいってこれで切符を買いなさい」と行って立ち去ったのだ。

私が「明日もう一度来ていただけますか」と聞くと、「 妹はもう帰ってしまったし、今晩泊まるところもない。このまま、 ここで待つことにします」と言った。

これを聞いて、私は自分が恥ずかしくなった。

私はクリスマスの夜にひとりぼっちのわが身を憐れんでいた。

でも、クラレンス・マクドナルドという名の天の使者が、 こうして私の元につかわされ、ひとりぼっちとはどういうことか、 本当の孤独とはどんなものかを教えてくれている。

私の胸は痛んだ。

私はただちに「ご安心ください。 万事うまくやってあげますからね」と彼に伝え、 顧客サービス係に明朝一番の便を予約してもらった。

航空運賃も年金受給者用の特別割引にし、 差額は旅費の足しにしてあげることができた。

一方、老人はくたびれ果てて立っているのも辛そうだ。

「大丈夫ですか」とカウンターの向こうに回ってみると、 片脚に包帯を巻いている。

こんな脚で、衣類をぎっしり詰め込んだ買い物袋を下げて、 ずっと立ちつくしていたのだ。

私は車椅子を手配し、みんなで老人をその車椅子に座らせたが、 見ると足の包帯に少し血がにじんでいる。

「痛いですか」と聞くと、老人は「 心臓のバイパス手術をしたばかりでね。 そのために必要な動脈を脚から取ったんだよ。」

なんということだ! 老人は心臓のバイパス施術を受けたばかりのからだで、 付き添いもなく、たった一人で!

こんな状況に出くわしたのは初めてだった。

なにをしてあげたらいいのだろう。

私は上司の部屋に行き、 どこかに老人を泊めてあげてほしいと相談した。

上司はすぐさま、 ホテル一泊の宿泊券と夕食と朝食の食事券を出してくれた。

カウンターに戻った私は、ポーターにチップを渡して「 この方を階下までお連れして、シャトルバスに乗せてあげて」 とたのんだ。

車椅子の彼の上に身をかがめて、ホテルのこと、食事のこと、 旅の段取りをいまいちど説明しながら、 彼の腕をとんとんと叩いて励ました。

「すべてうまくいきますからね。」

いざ出ていく段になると、老人は「ありがとう」と頭を下げて、 泣き出した。

私ももらい泣きしてしまった。

あとになって、上司の部屋に礼を言いに戻ると、 彼女はほほえんでいった。

「いいわねえ、こういう話。その人は、 あなたのためにやってきたクリスマスの使者だったのよ。」