経産省と文科省が、産学官連携ガイドラインを公表した。
産との本格的な共同研究への学官の体制・システム整備が目的である。
内容を見れば、通常のガイドラインとは異なり、大学や研究開発法人の実態に合わせて、達成水準や実施方法には幅があっても差し支えない構成としている。
その意味で、規範性は弱く、事例集の内容を踏まえて現場で工夫することを求めている。
実施に当たって、更に踏み込んだ措置が必要であると私が考えるポイントについてコメントしてみたい。
第1に、大学の本部機能の強化については、現場では、金・人・ノウハウが絶対的に不足しており、基幹事業としての基盤の構築が不十分である。
この問題には、構造的な背景があり、大学経営全体の中で、産学官連携に金・人・ノウハウが集まるよう、発想を転換しシステム改革を実行しなければ、国が構想しているようなレベルアップは実現しない。
各機関の努力も必要だが、産学官連携の本部機能の抜本的強化には、機関を超えた連携組織による集中処理の仕組みを作ることが有効である。
つくばは、そうした超本部の実現に適した地域であるが、府省の壁、機関の壁に遮られて、共通認識も得られていない。
特に、専門人材として雇用されている者の質がばらついており、大半の機関は費用を上回る成果を得るに至っていない。
収益までのタイムラグもあるため、資金が循環する前に枯渇気味になり、活動全体が萎縮していく傾向にある。
大学経営の中で、少なくとも産学官連携の目的として、利益追求を正面から認め、内部蓄積を是とするのでなければ、基盤の構築は遅れる一方である。
また、プロボストのような人材が産学官連携に全権を持って取り組むという方式を貫くことを推奨すべきではなかったかと考える。
当然ながら、学長にも理解が必要だが、あらゆることが学長の責任と権限になっているので、必要を感じても十分に時間がないのが実態である。
対外折衝の総括、学内調整の権限を掌握した人材が存在することで、事務部門・部局間の複雑な調整がスムーズになる。
第2に、資金について見える化を促進するには、積算方式の標準を示すのが早い。
特に、上記の利益に相当する部分をどのように理論的に整理して組み込むのかが重要である。
なお、教員の質によって、直接経費に盛り込む単価を調整可能としている。
この部分で大学経営にとっての収支差額(利益)が確保できる可能性がある。
戦略的産学連携経費と記されているものも、私が考える利益に相当するようだが、議論に参加していない人にはわかりにくい。
財務基盤強化の観点からは、産学官連携に関する事業において、産官との共同事業への参加を可能にすること、当該事業への出資を可能にすることを早期に実現する必要がある。
国立大学法人は、収益事業ができない建前になっているため、産学官連携で稼ぐことを正面から認める政策変更を行うことを国に求めたい。
法改正に至らずとも、附帯事業等の解釈によって、道を拓くことが可能である。
そのことにより、大学経営の中で、産官学連携の戦略的な重要性が増し、この分野に、自ずと金・人・ノウハウの集中が進む流れができる。
こうした循環を作ることが当面の目標になる。
積算方式については、選択肢を示すに止めている。
一定率を間接経費として上乗せする定率方式は、小規模な共同研究には適用しても構わないが、「見える化」を徹底的に推進する観点からは、アワーレート方式等を標準として明記すべきだったと感じる。
方式までも現場に選択を委ねているので、この部分のガイドラインの記述は単なる事例に過ぎなくなっている。
第3に、知財マネジメントについては、金・人・ノウハウの欠如により、大学現場の実務を見れば、建前は組織管理、実態は個人管理に陥っているケースが多い。
知財収益から費用が支出できる理想のサイクルは回っていないため、予算が枯渇すれば、組織管理も不可能になる。
資金の内部蓄積を進める一方、ファイナンスに関して、国主導による安定的な支援システムを構築することが望ましい。
政府による取り組みについては、ガイドラインの別紙に簡単な記述はあるが、迫力不足である。
また、専門人材に関しては、事務職員からの転進を含めて、ある程度の層を形成する必要があるため、3段階程度の資格制度のようなものを新規に立ち上げて、マンパワーの強化を図る必要がある。
現状は、専門性、役割、位置づけ、処遇全てに渡って、中途半端である。
さらに、ガイドラインでは、雇用関係がない学生も共同研究等に参画することがあり得る前提となっているが、共同研究等に従事する学生は、すべて研究助手(RA)として雇用し、契約に基づいて守秘義務などを課するという筋道を明確にするとすっきりする。
雇用関係がないために契約で縛れない学生については、当該共同研究等から物理的に遮断することにしないと、大学等は組織として責任が持てないのではないか?
学生との在学契約の一環で、共同研究等に関する守秘義務をどこまできちんと課することができるのかは疑問である。
第4に、人材の循環について、クロスアポイントメントを民間企業との間で進めたいのは山々だが、当事者の研究者から見てメリットが乏しい。
また、クロスアポイントメントで優れた研究者の時間を切り売りするよりは、共同研究の枠組みで資金を受け入れる方が、実態に即している。
仮に、給与の40%に相当する額を負担してもらって、40%のエフォートを提供しないのであれば、実態は寄付になってしまう。
寄付講座ならば、別の枠組みになる。
要は、研究者、大学、企業等のそれぞれに明確なメリットを付与しなければ、民間企業との間での利用拡大は難しい。
名古屋大学の事例が紹介されているが、この程度の措置で急拡大するだろうか?
また、毎年度の国立大学法人評価においてガイドラインを活用することが記述されている。
運営費交付金の配分との連動には言及されていないので、一つの要素として評価すること自体には問題がないと思うが、運営費交付金は広範な使途が予定されているので、ある切り口での成果に着目して増減を行うことは適切ではない。
かりに、補助金のような性格の資金の配分であれば、評価に基づく増減は可能である。
ガイドラインの実行を促進する上で、そうした予算が確保されることは望ましい。