(続き)
平成28年度予算の編成等に関する建議(平成27年11月財政制度等審議会)
財政制度等審議会は、平成27年10月の財政制度分科会における審議の内容が、国立大学をはじめとする大学関係業界に大きな波紋を拡げ、批判を浴びる中、11月に予算編成等に関する建議を取りまとめました。
財政制度等審議会は、平成27年10月の財政制度分科会における審議の内容が、国立大学をはじめとする大学関係業界に大きな波紋を拡げ、批判を浴びる中、11月に予算編成等に関する建議を取りまとめました。
国立大学及び科学技術関連の主な内容を抜粋します。関係者の努力の甲斐あってか、財務省の主張も相当トーンダウンしたように感じられます。
4 教 育
我が国の国立大学は、運営費交付金にその収入(附属病院収入を除く)の半分以上を依存している状況にある。18歳人口が減少し、先進国中最悪の状況にある我が国財政が益々厳しさを増す中で、国立大学がそれぞれの機能強化の方向性等(平成27年6月に公表された「国立大学経営力戦略」で示された3つの重点支援区分)に応じた教育研究の高い質を維持しながら、自立的かつ持続的な経営を続けていくためには、民間資金の導入などを進め、自らの収益で経営していく力を強化していく必要があると考えられる。
我が国の国立大学は、運営費交付金にその収入(附属病院収入を除く)の半分以上を依存している状況にある。18歳人口が減少し、先進国中最悪の状況にある我が国財政が益々厳しさを増す中で、国立大学がそれぞれの機能強化の方向性等(平成27年6月に公表された「国立大学経営力戦略」で示された3つの重点支援区分)に応じた教育研究の高い質を維持しながら、自立的かつ持続的な経営を続けていくためには、民間資金の導入などを進め、自らの収益で経営していく力を強化していく必要があると考えられる。
(2)国立大学法人運営費交付金
① 18歳人口の減少と国立大学の入学定員、教職員数
我が国の18歳人口は平成4年度の205万人をピークに急速な減少を続けており、平成26年度では118万人、34年後の平成60年度では74万人になると予想されている。それに伴い、大学と短大を合わせた進学率は平成26年度では56.7%となっており、28年前の34.7%に比べ、今では18歳人口の2人に1人以上が大学・短大に進学する状況となっている。国立大学の志願者数についても、11年前の45万人から平成27年度では39万人に減少しているが、その一方で、国立大学の入学定員は平成16年度の法人化以降横ばいで推移しているため、結果として、志願倍率は4.7倍から4.0倍と低下している。
今後も18歳人口が急速に減少していくと見込まれる中で、高等教育の質を保証する観点から、教育研究組織の在り方について再考すべきである。
また、平成19年度以来、国立大学の学生数は1.7万人減少しているが、教職員数は約2万人増加している現状を踏まえ、国立大学教職員の適正規模について検討していく必要があるのではないか。
② 国立大学の収入構造
国立大学の財務状況は、その収入の大部分を国からの支出に頼った構造となっている。平成25年度決算ベースでは、附属病院収入を除いたべ一スで約68%が運営費交付金や補助金などの国からの支出となっており、自己収入については全体で33%、その内訳は寄附金収入が4.3%、授業料等収入が14.7%、産学連携等研究収入が10.8%となっている。国からの補助金が概ね1割である私立大学と比べると、その違いは顕著なものとなっている。〔資料Ⅱ-4-13参照〕
国立大学の授業料については、ほとんどの大学が標準額(学部・大学院53.6万円、法科大学院80.4万円)に固定されており、平成19年度から標準額の120%までの引上げが可能(引下げの下限は未設定)となっているにもかかわらず、標準額と異なる額を設定している大学は7大学、そのうち標準額以上の授業料を設定している大学は僅か2大学(2専攻科)となっている。国立大学の自己収入構造を考える際、こうした授業料の引上げについても一定の議論が必要であると考えるが、その際、家計負担に十分配慮することが重要であり、全体の引上げと併せて、
③ 安定的な国立大学法人運営のための提案
18歳入口が急速に減少し、主要先進国中最悪の状況にある我が国財政も年々厳しさを増していく中にあって、今後も国立大学が、それぞれの機能強化の方向性等に応じた教育研究の高い質を確保しながら自立的かつ持続的な経営を続けていくためには、民間資金の導入などを進め、今よりも国費(渡しきりの運営費交付金)に頼らずに自らの収益で経営する力を強化していくことが必要である。
また、「経済・財政再生計画」において、社会保障の「自然増」を除き「増加を前提とせず歳出改革に取り組む」としている中で、国立大学法人についても聖域とはせず、運営費交付金の適正化を通じ、その改革を妨げない範囲で、できる限りの財政健全化への貢献を果たすべきである。
そうした観点から、運営費交付金の削減を通じた財政への貢献と、その再配分による改革の加速に関する実効性ある施策を、自己収入の増加による経営の自立性向上の取組を阻害しないよう配慮しつつ、第3期中期目標期間において実施していくことが必要なのではないか。
5 科学技術
官民合わせた研究開発投資について、我が国は過去20年以上にわたり、主要先進国の中で最も高い水準を維持してきている。また、科学技術振興費についても、同様に過去20年以上にわたり、杜会保障関係費以上のペースで拡充してきた。その間、我が国は、主要先進国中最悪の財政状況にあるなかで、科学技術に投資を続けてきたことになるが、現在の厳しい財政状況を勘案すると公的投資を抑制することは不可避であり、事業のメリハリをつけながら、一層「質」を高めることが求められている。
一方、科学技術関係予算の伸びに伴い、我が国の総論文数は伸びたものの、そのうち被引用度で世界トップ10%に入る「質」の高い論文の割合は他の主要先進国に比べ一貫して低水準にとどまっているなど、課題がある。したがって、以下のような取組により、「質」を高めることが必要である。
(1)成果目標への転換
科学技術の振興に関する基本的指針である「科学技術基本計画」(以下「基本計画」)においては、累次の指摘にもかかわらず、投資(インプット)目標が記載されているのみであり、科学技術分野においてPDCAサイクルが十分に機能していない可能性がある。投資(インプット)目標の下では、投資額を達成すること自体が目的化し、財政の硬直化を進めるとともに、非効率な事業であっても実施され、費用対効果が向上しないおそれがある。
そのため、具体的な数値目標含む成果(アウトカム)目標やKPIにコミットする形に転換し、費用対効果を高めるための創意工夫が生まれる環境を創出するとともに、検証可能な形でPDCAサイクルを機能させるべきである。このように国家として具体的にどのような研究成果を目指しているかを明らかにすることで、我が国の科学技術に対する姿勢を対外的に一層明確に示すことになる。
なお、過去の「基本計画」では政府投資総額目標として「対GDP比1%」という水準が掲げられている。水準設定に当たっては「欧米主要国の水準の確保」等を根拠としてきたが、米・独・仏等の欧米主要国の政府投資総額は「対GDP比1%」を下回っており(2011年平均0.7-0.8%程度)、この観点から、この水準に合理性はなくなっていると考えられる。また、「対GDP比1%」を実現するためには、科学技術関係予算の水準を現在よりも1兆円(25%)以上増額することが必要であるが、「経済・財政再生計画」における2020年度(平成32年度)までの「PB黒字化目標」との関係でも非現実的であると言わざるを得ない。
(2)産学連携の促進
大学が企業から受け入れた研究開発費は大学の研究開発費全体の2%程度と国際的に低い水準で推移しており、企業部門の研究開発費のほとんどは部門内に流れるクローズな状態となっている。企業部門の研究開発費の水準が国際的に高いことを踏まえれば、オープン・イノベーションによって研究の「質」を高めるためにも、産学連携による共同研究を拡大することが不可欠である。
それを実効的なものにするためには、既存の大学の産学連携本部機能の見直しに向けた科学技術行政と大学行政の連携強化や、「大学が企業から受け入れる研究開発費を5年間で5割増加」といったKPIを設定することが必要と考えられる。(文部科学省調によれば、受入額は10年間で約2倍に増加)
① 18歳人口の減少と国立大学の入学定員、教職員数
我が国の18歳人口は平成4年度の205万人をピークに急速な減少を続けており、平成26年度では118万人、34年後の平成60年度では74万人になると予想されている。それに伴い、大学と短大を合わせた進学率は平成26年度では56.7%となっており、28年前の34.7%に比べ、今では18歳人口の2人に1人以上が大学・短大に進学する状況となっている。国立大学の志願者数についても、11年前の45万人から平成27年度では39万人に減少しているが、その一方で、国立大学の入学定員は平成16年度の法人化以降横ばいで推移しているため、結果として、志願倍率は4.7倍から4.0倍と低下している。
今後も18歳人口が急速に減少していくと見込まれる中で、高等教育の質を保証する観点から、教育研究組織の在り方について再考すべきである。
また、平成19年度以来、国立大学の学生数は1.7万人減少しているが、教職員数は約2万人増加している現状を踏まえ、国立大学教職員の適正規模について検討していく必要があるのではないか。
② 国立大学の収入構造
国立大学の財務状況は、その収入の大部分を国からの支出に頼った構造となっている。平成25年度決算ベースでは、附属病院収入を除いたべ一スで約68%が運営費交付金や補助金などの国からの支出となっており、自己収入については全体で33%、その内訳は寄附金収入が4.3%、授業料等収入が14.7%、産学連携等研究収入が10.8%となっている。国からの補助金が概ね1割である私立大学と比べると、その違いは顕著なものとなっている。〔資料Ⅱ-4-13参照〕
国立大学の授業料については、ほとんどの大学が標準額(学部・大学院53.6万円、法科大学院80.4万円)に固定されており、平成19年度から標準額の120%までの引上げが可能(引下げの下限は未設定)となっているにもかかわらず、標準額と異なる額を設定している大学は7大学、そのうち標準額以上の授業料を設定している大学は僅か2大学(2専攻科)となっている。国立大学の自己収入構造を考える際、こうした授業料の引上げについても一定の議論が必要であると考えるが、その際、家計負担に十分配慮することが重要であり、全体の引上げと併せて、
- 意欲と能力がありながらも低所得で就学困難な学生に対する授業料免除の拡大(あるいは特に卓越した学生に対する授業料免除)
- 奨学金制度の充実拡充や所得連動返済型の奨学金の導入
- 多様な教育サービスの提供とそれに応じた多様な授業料の設定
③ 安定的な国立大学法人運営のための提案
18歳入口が急速に減少し、主要先進国中最悪の状況にある我が国財政も年々厳しさを増していく中にあって、今後も国立大学が、それぞれの機能強化の方向性等に応じた教育研究の高い質を確保しながら自立的かつ持続的な経営を続けていくためには、民間資金の導入などを進め、今よりも国費(渡しきりの運営費交付金)に頼らずに自らの収益で経営する力を強化していくことが必要である。
また、「経済・財政再生計画」において、社会保障の「自然増」を除き「増加を前提とせず歳出改革に取り組む」としている中で、国立大学法人についても聖域とはせず、運営費交付金の適正化を通じ、その改革を妨げない範囲で、できる限りの財政健全化への貢献を果たすべきである。
そうした観点から、運営費交付金の削減を通じた財政への貢献と、その再配分による改革の加速に関する実効性ある施策を、自己収入の増加による経営の自立性向上の取組を阻害しないよう配慮しつつ、第3期中期目標期間において実施していくことが必要なのではないか。
5 科学技術
官民合わせた研究開発投資について、我が国は過去20年以上にわたり、主要先進国の中で最も高い水準を維持してきている。また、科学技術振興費についても、同様に過去20年以上にわたり、杜会保障関係費以上のペースで拡充してきた。その間、我が国は、主要先進国中最悪の財政状況にあるなかで、科学技術に投資を続けてきたことになるが、現在の厳しい財政状況を勘案すると公的投資を抑制することは不可避であり、事業のメリハリをつけながら、一層「質」を高めることが求められている。
一方、科学技術関係予算の伸びに伴い、我が国の総論文数は伸びたものの、そのうち被引用度で世界トップ10%に入る「質」の高い論文の割合は他の主要先進国に比べ一貫して低水準にとどまっているなど、課題がある。したがって、以下のような取組により、「質」を高めることが必要である。
(1)成果目標への転換
科学技術の振興に関する基本的指針である「科学技術基本計画」(以下「基本計画」)においては、累次の指摘にもかかわらず、投資(インプット)目標が記載されているのみであり、科学技術分野においてPDCAサイクルが十分に機能していない可能性がある。投資(インプット)目標の下では、投資額を達成すること自体が目的化し、財政の硬直化を進めるとともに、非効率な事業であっても実施され、費用対効果が向上しないおそれがある。
そのため、具体的な数値目標含む成果(アウトカム)目標やKPIにコミットする形に転換し、費用対効果を高めるための創意工夫が生まれる環境を創出するとともに、検証可能な形でPDCAサイクルを機能させるべきである。このように国家として具体的にどのような研究成果を目指しているかを明らかにすることで、我が国の科学技術に対する姿勢を対外的に一層明確に示すことになる。
なお、過去の「基本計画」では政府投資総額目標として「対GDP比1%」という水準が掲げられている。水準設定に当たっては「欧米主要国の水準の確保」等を根拠としてきたが、米・独・仏等の欧米主要国の政府投資総額は「対GDP比1%」を下回っており(2011年平均0.7-0.8%程度)、この観点から、この水準に合理性はなくなっていると考えられる。また、「対GDP比1%」を実現するためには、科学技術関係予算の水準を現在よりも1兆円(25%)以上増額することが必要であるが、「経済・財政再生計画」における2020年度(平成32年度)までの「PB黒字化目標」との関係でも非現実的であると言わざるを得ない。
(2)産学連携の促進
大学が企業から受け入れた研究開発費は大学の研究開発費全体の2%程度と国際的に低い水準で推移しており、企業部門の研究開発費のほとんどは部門内に流れるクローズな状態となっている。企業部門の研究開発費の水準が国際的に高いことを踏まえれば、オープン・イノベーションによって研究の「質」を高めるためにも、産学連携による共同研究を拡大することが不可欠である。
それを実効的なものにするためには、既存の大学の産学連携本部機能の見直しに向けた科学技術行政と大学行政の連携強化や、「大学が企業から受け入れる研究開発費を5年間で5割増加」といったKPIを設定することが必要と考えられる。(文部科学省調によれば、受入額は10年間で約2倍に増加)
(3)競争的資金改革
研究の推進力である競争的研究資金について、「質」の向上を実現するためのシステム改革を進めることが急務となっている。
具体的には、国際的な視野での審査・評価の導入による国際競争力向上、研究時間・資源管理の徹底及び配分額の減額ルール策定による研究資金の最適配分、審査において「研究の仕会的インパクト」を重視することによる研究成果最大化、一部の競争的資金の間接経費割合引上げによる大学の経営力強化、といった方策を検討していく必要があろう。
(続く)