2022年12月1日木曜日

令和5年度予算編成等に関する財政審建議

令和5年度予算の編成等に関する建議(高等教育・科学技術関係抜粋)

令和4年11月29日 財政制度等審議会

Ⅱ.令和5年度(2023年度)予算編成の課題

4.文教・科学技術

(2)高等教育

高等教育やそれに対する財政支援の在り方について考える際においても、少子化の影響は第一に考慮すべき要素である。

18 歳人口は、ピークであった平成3年(1991 年)の 207 万人に比べて約半分(113 万人)となり、私立大学全体で見た定員充足率も令和3年度(2021 年度)には100%を下回っている。

私立大学には、環境の変化に即し、他大学との連携・統合や教育改革、学部転換も含めた積極的・戦略的な経営判断が求められている。

今後も入学者数の減少が予測される中、国立大学も含め、国の制度や支援の在り方については、量の拡大を追求するのではなく、学生の能力向上を実現できているか等の質の観点を重視していく方向に見直しを進めていく必要がある。




① 教育の質の更なる向上

高等教育の質については、大学等自身や文部科学省のこれまでの取組によって改善されてきていることが期待されるが、それを客観的な形で把握するのは困難な状況にある。

そのような中、学長自身も、授業内容に係る教員間の連携不足等を課題として認識しており、学生アンケートにおいても大学での学修チャンスが十分に活かし切れていない可能性が示唆されるなど、改善の余地があると考えられる。

文部科学省の既存事業においても、知識集約型社会を支える人材育成事業など、「学修成果・教育成果の把握・可視化」や「学修成果や教育成果、教育の質に関する情報の公表」等を評価項目とすることで教育の質の改善を促すものが存在するが、予算が措置された対象、期間だけの局所的な改善にとどまることのないよう、事業の成果を適切に分析し、制度等の改善につなげるべき。

更に言えば、構造的な改善につながることが期待できない事業については、予算措置は控えるべきである。



人材に関する競争力の国際比較においても、日本の評価は高くない。

大学の国際化は外国人も含めた学生による選別を通じて大学自身に教育力向上を動機づける環境作りに資すると考えられ、スーパーグローバル大学(SGU)創生支援事業(平成 26 年度(2014 年度)~)など、大学の国際化を進めるための施策も講じられてきているが、大学の国際化は道半ばである。

SGU のアウトカムとして掲げられている「大学の体質改善による組織文化の変化」(大学の国際競争力強化、高等教育の国際通用性の向上)について、具体的にどう改善されたかの分析等を通じ、真に有効なものに絞って施策を講じることで、国際競争の中で大学の教育力向上が実現していく環境を作るべきではないか。



また、大学による、学生の能力向上に係る取組状況等の比較可能な形での発信や、学生が学修成果を具体的に説明できるようにする取組等を、各種支援策のメリハリ付け、要件設置等によって後押しすべきである。

さらには、大学の教育面での取組の成果を、卒業後も含めた学生の成長に関係するアウトカムベースの客観指標等で把握することにより、質の向上を評価する仕組みを構築していくべきである。



② メリハリ付けの強化

ア)国立大学法人運営費交付金のメリハリ付け

国立大学に対する運営費交付金については、これまで、重点支援評価、共通指標に基づく配分等により、大学改革のインセンティブとしてメリハリある配分を目指してきたが、国立大学の法人化が行われた平成 16 年度(2004 年度)と令和4年度(2022 年度)の各大学への配分シェアはほとんど変わっていない。今こそ、大学改革のインセンティブを高めるための見直しを進めていくべきである。


共通指標に基づく配分については、令和3年度(2021 年度)に比べれば令和4年度(2022 年度)の影響がやや大きくはあるが、運営費交付金全体の配分に与えるインパクトは依然小さく、引き続き、再分配の幅を広げるなど、メリハリを強化していく必要がある。

また、多くの大学が達成している評価指標等については、簡単な目標になっているのではないか、努力を適正に評価できているか、等の観点から見直しを図るべきではないか。

さらに、メリハリ付けの結果への納得感を高めるためにも、例えば改革への取組状況関係の指標について、評価の高かった大学の取組を優良事例として横展開するなど、大学の取組の効果を高めるための工夫を引き続き行うべきである。




イ)私学助成のメリハリ付け

上記のとおり、少子化が進む中で私立大学の定員充足率は低下してきており、令和3年度(2021 年度)までの5年間で、3回以上、定員充足率が 90%を下回った私立大学等が約3割存在している。

また、学生現員数についても、令和3年度(2021 年度)まで3年連続で減少し続けている私立大学等が約2割にのぼっている。

私学助成については、近年、定員割れの度合いに応じた減額措置が導入されてきたものの、令和3年度(2021 年度)においても、一般補助、特別補助ともに、学生一人当たり補助額にメリハリが効いているとは言えない状態にある。

私立大学の教育の質を向上させていくためにも、学部ごとの不交付判定の例外の見直しや、複数回、定員充足率が一定水準を下回った場合の減額の深掘り、特別補助の要件・配分方法の見直し等により、メリハリを強化していくべきである。

また、執行スケジュールの前倒しによって、インセンティブ機能を改善することも検討すべきである。






③ 成長分野への転換

本年の文教施策の大きな動きとして、デジタル、グリーンなどの成長分野への大学等の再編促進の継続的支援策の導入がある。

近年の高等教育行政は、大学が社会的なニーズを踏まえつつ自主的・主体的に機能強化を行うことを期待して進められてきた中、学部転換を直接的に支援する今回の措置は特殊なものと捉えるべきである。

今回の支援を効果的なものとするためにも、大学が中長期的な観点から責任を持って経営判断を行う、という基本構造は維持する必要がある。

また、少子化の現実を踏まえる必要があり、理工系の学部を増やした結果、その質の低下を招いたのでは本末転倒である。

定員抑制の観点を踏まえた運用とし、大学による学生のニーズ把握や理系教員確保の状況等をしっかり確認するとともに、卒業後の人材供給先でもある企業や地域との連携などを求めること、文理融合教育などの関係する施策との連携を十分に図ること等により、教育の質をしっかりと確保することで、理工系の人材育成による効果を最大化し、限られた予算を最大限に活用する工夫が求められる。

さらに、本事業の施策効果をしっかりと把握できるようにしなければならない。



④ 教育費の負担軽減

高等教育における教育費負担軽減策(奨学金制度)については、現在、文部科学省において、教育未来創造会議の第一次提言等を踏まえた見直しについて、令和 6 年度(2024 年度)からの開始に向けて、検討が進められている。

奨学金制度の在り方を考える際には、給付型奨学金については高等教育を受けていない者も含めた国民全体の負担となること、貸与型奨学金については(無利子の場合等の国民負担に加えて)本人の返済負担となることを踏まえて検討する必要がある。

また、対象の拡大については、財源確保の必要性や再分配の観点も踏まえた検討が必要である。



(3)科学技術

① 日本の研究開発費総額と生産性

我が国の財政状況が極めて厳しい中においても、政府として科学技術に対して重点的な投資を行ってきており、この結果、政府の科学技術予算(対 GDP 比)は主要先進国と比べて高い水準で推移している。

また、官民を合わせた研究開発費総額で見ても、主要先進国と比べて遜色ない水準となっている。

このように科学技術に対する投資が重視されてきた一方で、被引用数が上位で注目度が高い研究論文(いわゆる Top 10%論文)の数が低迷しており、研究開発費当たりの注目度が高い論文の数、すなわち論文の生産性で見ると、他の主要国に大きく水をあけられているのが現状である。

こうした点を踏まえると、我が国における科学技術政策の課題は、科学技術に対する公的投資または官民を合わせた投資の規模ではなく、研究開発の投資効果を引き上げることであり、他の主要国に比して投資効果を低迷させている構造的な要因に対して適切かつ早急に対処することが求められている。



② 民間資金の活用による研究費の確保や研究環境整備

アメリカの大学などと比較すると、日本の大学における産学共同研究等の民間資金導入規模は小さいのが現状である。

日本の官民を合わせた研究開発費総額(対 GDP 比)の水準が主要先進国と遜色ないことに鑑みれば、民間部門が大学の研究力を十分に活用していない状況にあると言える。

民間資金の活用状況について更に分析すると、産学共同研究や受託研究等による民間からの研究費収入のみならず、ライセンス収入や寄付のいずれにおいても、日本の大学の受入額は他の主要国に比して低い。

大学の財源を多様化することを通じて、企業等とのプロジェクト型研究や寄付金等の自己収入による大学の裁量性が高い研究など、研究の多様性を確保していく視点も重要である。

日本の大学等における民間資金導入額の規模が小さい要因の一つは産学共同研究の1件当たりの規模が小さいことであるが、経営戦略として戦略的産学連携経費を設定している大学は、設定していない大学に比べて、大型共同研究の実施率が高いとの調査結果がある。

この結果を踏まえ、戦略的な産学連携等による民間資金獲得等に向け、実効性のあるガバナンス改革を行う大学を評価する仕組みを拡大するなどの政策誘導を通じ、民間資金の導入拡大を図るべきである。

さらに、国内外の企業等からの研究費獲得が主要国に比して出遅れていることも課題である。

大学ファンド事業により支援する国際卓越研究大学については、世界に比肩するレベルの研究開発を促進する環境や仕組み(イノベーション・エコシステム)の構築を実現するため、その認定過程において、国内企業等からの資金獲得にとどまらず、海外からの資金獲得も積極的に評価し、外部資金獲得額の成長を確実なものとしていくべきである。

また、先端大型研究施設の整備・運用に関しても、近年の好取組事例も踏まえ、民間資金活用を進めるべきである。



③ 研究活動の国際化

日本では、論文の執筆数に比して、注目度の高い論文(Top 10%論文)の輩出が少なく、この背景として、国際共著の少なさや人材の国際流動性の低さといった、研究活動における国際性の低さが指摘されている。

また、国際的な業績が国内で十分に評価される環境を整えていくことも重要である。

例えば、科研費などの研究費助成事業について、採択時の審査において海外研究歴を可視化して積極的に活用するなどの国際性評価を強化したり、採択後においても国際共著の学術論文等による研究成果の国際発信をルール化したりするなど、国際化の取組を促す政策誘導を、特定の国際共同研究事業に限らず、全体的に強化すべきである。



④ 研究人材の流動性・若手研究者の機会確保

国立大学教員について、毎年の採用数・在籍数ともにシニア層割合が増加しており、若手の割合が低下傾向にある。

また、大学間の人材流動性が低く、このことが論文の生産性低下の要因となっている可能性も指摘されている。

そのため、大学への研究支援を行う際には、優秀な若手研究者等が研究に専念できるよう、人事改革や経営改革等に取り組む大学を評価して採択するなど、政策誘導を通じて大学の人事・給与マネジメント改革を進めるべきである。

また、大学間にとどまらず、大学と産業界の間の人材流動性が低いことも日本の研究現場における課題である。

今後、優秀な研究者を確保していく上で、未来の研究者の卵である博士課程学生等に対して、博士課程修了後におけるキャリアパスの展望を示していくことも重要である。

産学連携の推進は、大学の民間資金獲得に加え、産学共同研究における若手研究者の活用を通じ、大学研究者や企業研究者など多様なキャリアパス開拓に繋がることが期待され、産学間の人材流動性拡大の観点からも重要である。



⑤ 科学技術政策の優先順位付け・整理

日本の科学技術政策上の課題に対して、個別政策を通じて政策誘導をかけていくことも有効であるが、各施策の部分最適化のみとならないよう、科学技術政策の全体像を 俯瞰しながら政策の総合調整を行い、関連政策全体で誘導をかけていく視点も重要である。

このような科学技術政策の総合調整については、内閣府の総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)の前身にあたる総合科学技術会議において科学技術予算の「メリハリ」付け(SABC 評価)が行われていたが、次第に形骸化し、平成 24年度(2012 年度)予算以降は行われなくなっており、現在は、毎年度の統合イノベーション戦略等により重点化施策を特定する、いわば「ハリ」だけを強調した仕組みとなっている。

他方、日本における研究開発の投資効果向上の観点からは、①日本の研究現場が抱える研究領域の硬直性などの課題の解決に資するよう、優先順位付けを通じて施策面から誘導をかけていくことが有効であること、②競争的資金が増加かつ複雑化する中、研究者目線に立って科学技術政策の全体像を整理し、限られた政策資源の効果を最大限高めることが重要であることを踏まえ、「ハリ」だけではなく「メリ」を通じた科学技術政策全体の見直しも必要である。

これらを踏まえ、CSTI 及び同事務局においては、科学技術分野における重点事項となる「ハリ」の分野等のみならず、事業の見直しなどの「メリ」の分野等も示した上で、施策の優先順位付け、さらには省庁間の縦割りを打破した施策の整理を進めるなど、本来期待されている関係省庁に対する司令塔機能を発揮することが求められる。