2008年6月2日月曜日

がんばれ 文部科学省!

まず、文科省高等教育局が配信しているメルマガ「高等教育政策情報」(2008.5.28 第30号)の主な記事をご紹介します。

教育振興基本計画をめぐる動きについて-文部科学省原案を公表-

このたび文部科学省において、「教育振興基本計画」の原案を策定し、5月23日(金)に公表の上、各省協議を開始しましたので、その内容についてお知らせします。(略)
文部科学省としては、各省協議を経て、できるだけすみやかに閣議決定することを目指しています。
なお、教育振興基本計画に関連し、5月26日の新聞では、大学分科会の安西委員(朝日新聞)、郷委員(日経新聞)が、それぞれ高等教育への投資拡大を訴えています。
安西委員は、インタビューに答えるかたちで、2月に4委員連名で発表した意見書「大学教育の転換と革新」の趣旨に触れつつ、「高等教育は危機にある」、「大学の自助努力と国の財政支援は車の両輪」等の主張をされています。
また、郷委員は、財務省の主張にも「大学の教育研究環境の現状を直視していない」と批判を加え、「教育の「成果」や質の卓越性を追求することは、「投入量」の在り方と不可分で、相反するものではない。大学教育の「成果」を直接的に把握・測定することが困難であればこそ、OECD統計や国際的な大学評価などでは、「投入量」の指標が多用されている。」とした上で、大学分科会において、学士課程教育に関する審議を通じ、教育の質を問う真剣な論議を行っていることを強調しています。


財務省財政制度等審議会の動向について-文部科学省の見解-

財政制度等審議会は国の予算、決算及び会計の制度に関する重要事項等について審議するため、財務省に置かれている審議機関です。毎年、春と秋に財務大臣に予算編成に関する意見を述べており、今年は5月19日に文教・科学技術関係について審議が行われました。
高等教育関係の主要部分について、審議会で示された資料とそれに対する文部科学省の見解を簡略にまとめました。

財政制度等審議会資料掲載ホームページ
http://www.mof.go.jp/singikai/zaiseseido/siryou/zaiseib200519.htm

総論

審議会資料:
教育振興基本計画では、「投入量」ではなく「成果」で目標設定すべき。
文科省見解:
成果目標は重要だが、成果を実現するためには一定の条件整備が必要であり、そのための投入量目標も重要。「投入量」と「成果」の適切な組み合わせが必要。

私費負担

審議会資料:
私費負担の多寡だけを論ずることは不適切。私費負担も公的負担も最終的には家計が負担するもの。
文科省見解:
教育の受益者は、本人だけではなく社会全体である。学生や保護者が過度に費用負担している状況を踏まえ、教育の機会均等の観点から広く社会全体で負担する方向に転換していくべき。

高等教育支出

審議会資料:
我が国の高等教育に係る教育支出※(42.1%)は英・独・仏(36%~41%)と同水準。したがって、教育条件に遜色があるわけではない。(※学生1人当たり教育支出/1人当たりGDP)
文科省見解:
公費負担部分は、先進主要諸国中最低レベル(OECD平均25.8%に対し17.4%(「小さい政府」である米国と比べても低い。))。世界最高水準の教育研究環境を実現する上でのベンチマークは米国であるが、キャッチアップを目指す上で、これ以上、家計に負担を強いるのは限界。

国立大学運営費交付金

審議会資料:
国立大学の授業料を私学並みにし、設置基準を超える教員費を削減することによってできた新たな財源を大学の教育研究の高度化等に投資すべき。
文科省見解:
国立大学の役割は経済状況に左右されない進学機会の提供。現在でも主要国と比較して私費負担割合が高いところ、更なる私費負担の増大は不適切。設置基準は最低基準であり、各大学の教育研究の多様化・高度化の維持向上には、基準以上の教員数が不可欠。基盤的経費の大幅な削減による競争的資金の拡充では、基礎的な学問分野が衰退するなど、教育水準・研究水準・国際競争力が低下する。

奨学金事業

審議会資料:
受給者の家庭の半数近く(44%)が年間収入700万円(40歳~59歳以上の世帯の平均収入)以上であり、1,000万円以上の高収入世帯でも奨学金の貸与を受けている状況。延滞債権が大幅に増加している。
文科省見解:
親の収入が高くても学生の生活費は奨学金がなければ不足する状況。貸付金残高に占める延滞債権額の割合は低下。(平成3年度:4.8%→平成18年度:4.4%)


教育再生懇談会第1次報告「これまでの審議のまとめ」について-「留学生30万人計画」の具体化などを要請-

政府の教育再生懇談会(座長・安西祐一郎慶応義塾塾長)は26日、「留学生30万人計画」に国家戦略として取り組むことなどを盛り込んだ第一次報告を福田康夫首相に提出しました。
第一次報告では、「留学生30万人計画」の具体化のほか、小中学生の携帯電話所持規制、英語教育の小学校3年生からの早期必修化などを求めています。
教育再生懇談会は、この第一次報告を6月に策定する「経済財政改革の基本方針2008」に反映させたい考えです。
また、更に検討を深める事項として、大学全入時代の教育の在り方、大学入試の在り方等が挙げられました。
「留学生30万人計画」の具体化に関する第一次報告のポイントは以下の通りです。

●国家戦略としての「留学生30万人計画」の策定と実現
  1. 国は、「留学生30万人計画」のグランドデザインを策定する
  2. 質の高い留学生を受け入れる先進的な重点大学を30形成し、重点的支援を行う
  3. 留学生の就職支援の充実-卒業者の5割の国内就職を目標とする-
●世界各国から優秀な留学生を惹き付ける
  1. 海外での情報提供・支援体制の整備(日本版ブリティッシュ・カウンシル)
  2. 留学生の受入れ環境の整備
  3. 国際協力への戦略的対応
教育再生懇談会第1次報告掲載ホームページ
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouiku_kondan/matome.pdf


政策担当者の目

基本計画の案文の各省協議がようやく開始された。この協議のやり方は従来の慣例として、まず各省から文書で質問が出され、それに対して文科省から文書で回答し、必要があれば各省から文書で再質問が出され、それに対して文科省から文書で再回答するといった作業が続いた後に、各省から文書で意見が出されるといった流れとなる。

27日には各省からの文書質問が「紙爆弾」のように大量に出されたため、担当職員が徹夜で回答の作成作業を行い、28日には各省への文書回答を提出したところである。不眠不休で働く担当者の献身的な働きぶりには頭が下がる思いである。

さらに、いずれは対面折衝に入り、ハイレベルの調整が進められることになろうが、現時点では今後の展開について確たる見通しは立っていない。当面は厳しい各省協議が延々と続くものと我々は覚悟している。

4月18日の中教審答申で明確な数値目標を打ち出さなかったという経緯を踏まえて、今回の文科省案では対GDP比5.0%の教育投資という数値目標を打ち出して闘う以上、数値目標の設定という点において文科省としては不退転の覚悟で各省協議に臨んでいる。

ここで教育に投資せずに我が国が二流国に成り下がるのをやむを得ないとするのか、財政的には苦しくても教育への投資を拡大して今後とも我が国が国際的に主導的な地位を果たし続けることを目指すのか、今まさに重大な岐路にあると思う。この問題に関する国民的な議論を期待するとともに、高等教育関係者の果敢な行動を願っている。


編集後記

大学分科会委員の先生の新著では、「人的・物的ストックは時間をかけなければ形成されない」、「大学は一日にしてならず」と指摘されています(天野郁夫『国立大学・法人化の行方』)。

当然、一国の高等教育セクターの振興には、多くの時を要するでしょう。今回公表された教育振興基本計画の文部科学省原案では、10年後の教育投資の目標として、OECD平均の水準が掲げられています。

仮に実現すれば、高等教育については、学生一人当たりの公的投資のフローがアメリカ並みに達する可能性が開かれます。

前掲の書で引用されている高等教育研究の大家・トロウ氏によれば、日本のみならず「欧州も急速にアメリカモデルを目指している」とのことであり、その真因は「アメリカの高等教育が規範的にも構造的にも脱工業化の時代の諸要求に適合しているから」だそうです。アメリカに比肩し得る高等教育セクターを形成することを目指すならば、投資額というフローのキャッチアップは必要最低条件でしょう。

しかし、それでもストックの格差は容易に縮まるものではなく、例えば、2020年頃とされる「留学生30万人計画」の達成も容易ならざることです。

一方の財政当局は、教育投資拡大論に強く反発し、短兵急な効率化、歳出改革を要求しています。

その論は、フローの拡大を否定するのみならず、ストックの取り崩しも招来する恐れがあります。

政府部内で認識のギャップを埋めることができるのか、それとも「十年一日」の不毛な対立に終わるのか。

こうした議論を役所同士の「コップの中の嵐」と見る向きもあるようですが、そう受け取られるとすれば残念なことです。「脱工業化の時代」における日本の存立をかけた、幅広く、深い議論にしていかなければならないと念じます。


現在、教育振興基本計画の閣議決定に向けた数値目標記載を巡る財務省VS文科省の議論は山場を迎えています。上記「政策担当者の目」「編集後記」でも示されているように、文科省の担当者の方々は、不眠不休で、我が国の教育の将来をかけた闘いを続けておられます。

教育予算確保の問題は、かねてより国民的盛り上がりに欠け、文科省への応援が不十分な状態が続いてきました。しかし、我が国が国際社会の中で名実ともに先進国と肩を並べ、国民の教育レベルを向上させていくためには、先進国並に教育費の公的負担水準を引き上げ、国民の家計負担を軽減することを実現しなければなりません。今こそ、国民は、文科省とともに行動を起こすときではないかと思います。

そのためには、まず、教育関係者、教育関係団体がイニシアティブを発揮する必要があります。

先週、国立大学協会は、理事会を開き、教育振興基本計画及び平成21年度予算に関する以下のような文部科学大臣への要望書を検討したようですが、その文面からは、はっきり申し上げて現下の状況を踏まえた緊張感や切迫感はほとんど感じられず、例年ベースの陳情書となんら変わりばえのしない全く説得力のないものに思えました。これでは、国大協は、相変わらずの「学長サロン」的のんびり体質と揶揄されても仕方ないでしょう。

闘う相手、説き伏せる相手は、「文部科学大臣」ではなく、「内閣総理大臣」「財務大臣」なのではないのですか。
1、2枚の要望書を作って終わりとするのではなく、官邸、議員会館、議員事務所、財務省主計局、関係省庁に足を運んで、面と向かって要望書に書かれた高等教育の危機的状況を直接主張すべきではないのでしょうか。



教育振興基本計画について(要望)

貴職におかれては、日頃から国立大学法人について深いご理解と力強いご支援をいただいており、厚く御礼を申し上げます。

21世紀は「知識基盤社会」であり、高等教育は、個人の資質の向上と、社会・経済・文化の発展・振興、国際競争力の確保等の国家戦略の上で、極めて重要な役割を果たすものであります。特に大学は、社会人や留学生など多様な学生を積極的に受け入れつつ、教育の質を維持・向上し、学位の国際通用性を確保すること、イノベーションの創出にも道を拓く高いレベルの研究を遂行することなどを求められています。

大学が不断に改革に取組むのはもちろんのこと、国においても大学の自主的な改革を支援・推進されるよう切望します。特に、世界最高水準の教育研究環境を実現し、政府内諸会議からの大学に対する具体的な提案を実施するため、明確な資金投入の目標額を教育振興基本計画に盛り込み、出来るだけ速やかに高等教育への公財政支出をGDP比0.5%からOECD平均の1.0%を上回る規模へ拡充すべきであります。

以上ご要望申し上げます。


平成21年度国立大学関係予算の確保・充実について(要望)

貴職におかれては、日頃から国立大学法人について深いご理解と力強いご支援をいただいており、厚く御礼を申し上げます。

21世紀は「知識基盤社会」であり、「知識基盤社会」における高等教育は、個人の人格形成の上でも、社会・経済・文化の発展・振興や国際競争力の確保等の国際戦略の上でも、極めて重要な役割を果たすものであります。大学・大学院教育においては、留学生や社会人など多様な学生を積極的に受け入れつつ、教育の質を維持・向上し、学位の国際通用性を確保することが求められています。

このような中で、国立大学は、これまで、我が国における知の創造拠点として高度人材育成の中核機能を果たすとともに、高度な学術研究や科学技術の振興を担い、国力の源泉としての役割を担ってきました。

しかしながら、我が国における高等教育への公財政支出は、GDP比0.5%に過ぎずOECD平均の1.0%を大きく下回っています。

また、国立大学法人の財政的基盤である運営費交付金は、骨太2006に基づき、△1%の適用を受け、年々削減されており、各法人では各々が懸命の経営努力により対応しているものの、その努力も限界に近づきつつあります。

特に、医師養成等の国の重要な機能を担う大学附属病院には経営改善係数(△2%)の適用とも併せて大きな影響が生じています。

更に、国立大学の教育研究活動を支える施設・設備については、施設整備費補助金等の削減により、その老朽・狭隘が著しく進んでおります。

このような運営費交付金・施設整備費補助金等の削減が続けば、今後数年を経ずして教育の質を保つことは難しくなり、さらには一部国立大学の経営が破綻するばかりか、学問分野を問わず、基礎研究や萌芽的な研究の芽を潰すなど、これまで積み上げてきた国の高等教育施策とその成果を根底から崩壊させることとなります。世界のグローバル化に伴う国際的な人材育成競争に打ち勝つことも困難です。

つきましては、貴職に対して我々の意をお伝えするため、別紙の事項について、要望いたします。平成21年度の概算要求に向けて、国立大学関係予算の確保・充実について、ご理解をいただき、引き続きご尽力とご支援を賜りますようお願い申し上げます。

要望事項の要点

(要望事項1)運営費交付金の拡充(総額△1%の撤廃)

我が国の発展の基礎を支える高等教育機関に対する公財政支出を増大すること。特に、国立大学法人の教育・研究活動が安定的・持続的に図れるよう、基盤的経費である運営費交付金を拡充すること。

また、骨太の方針2006に盛り込まれた5年間の運営費交付金の総額1%削減方針は、今期のみならず次期の中期目標期間にわたり、大学の教育・研究の基盤に重大な影響を与えるものであることから、これを早期に撤廃すること。

(要望事項2)国立大学附属病院の経営に対する財政的支援等(△2%見直し)

経営改善係数の適用による△2%を見直すとともに、医師等の人材育成、地域医療の中核病院、地域医療体制の確立、高度先進的医療の提供など、国立大学附属病院特有の役割を果たすために必要な財政的支援を行うこと。

また、経営努力にもかかわらず、診療報酬のマイナス改定等、外的な要因による経営への影響については、特段の配慮を講ずること。

(要望事項3)教育・研究環境整備の予算の確保(施設・設備費の増額)

「第2次国立大学等施設緊急整備5か年計画」に基づき、国立大学法人の教育・研究環境を計画的に整備するために必要な予算を確保すること。

また、イノベーションの基盤となる大型の研究施設・設備の整備や老朽化した教育・研究及び診療用設備の更新に必要な財政措置を講ずること。

さらに、自然災害時に国立大学が病院を中心に地域の災害対策拠点としての役割を果たすことを踏まえ、必要な対策を講じるための財政的支援を行うこと。

(要望事項4)科学研究費補助金の拡充(予算の拡充、間接経費の措置)

第3期科学技術基本計画に従って、競争的資金、特に、大学等で行われる学術研究を支える科学研究費補助金の拡充に必要な措置を講ずること。

また、研究環境の向上、適正な資金管理等に寄与する間接経費30%措置の早期実現に必要な予算を確保すること。

(要望事項5)「留学生30万人計画」実現のための予算の確保

福田総理が提唱された「留学生30万人計画」を実現し、優れた留学生を多数受け入れるためには、留学生のための宿舎、奨学金等の充実等、魅力ある大学づくりと受け入れ体制が必要である。また、我が国の多くの学生に外国での研鑚等の国際体験を積ませる必要がある。そのために必要な予算を確保すること。