2008年6月3日火曜日

高等教育政策の動向

前回に続き、文部科学省高等教育局が配信しているメルマガ「高等教育政策情報」(第31号 2008年6月2日)の主な記事をご紹介します。


中央教育審議会の審議状況について

(1)大学分科会留学生特別委員会(第4回~第7回)について

-「『留学生30万人計画』の骨子」取りまとめの考え方に基づく具体的方策の検討-

4月14日、4月25日、5月12日及び5月19日に、大学分科会留学生特別委員会(座長:木村孟大学評価・学位授与機構長)の第4回、第5回、第6回及び第7回会議が開催されました。
各委員会では、「『留学生30万人計画』の骨子」取りまとめの考え方が示され、これに基づく具体的方策の検討事項について、議論がなされました。
取りまとめの考え方においては、以下のような項目で構成されています。
  1. 留学生30万人計画の意義と期間
  2. 優れた資質を有する留学生を戦略的に獲得
  3. 留学生を引き付けるような魅力ある大学づくりと受入れ体制
  4. 留学生にとって魅力ある社会-日本の社会のグローバル化-
  5. 関係省庁・関係機関等の連携による有機的、総合的な推進
  6. 日本人の海外留学
委員会においては、主に以下のような意見が出されました。
  • 留学生の獲得戦略を立てる場合は、それぞれの地域や国の相違や事情等も勘案して、対策、戦略を立てる必要があること。
  • 戦略的に留学生を受け入れるために、労働政策や外交政策との連携が重要であること。
  • 留学生30万人計画を推進するにあたり、多くの留学生を受け入れつつ、優秀な留学生を獲得するためには、大学等が留学生を引きつけるような魅力を持つことが必要であること。
  • 日本の大学のグローバル化のために、1)大学側の組織的な受入体制の整備、2)各大学の取組をさらに組織的に支援していく施策について考慮すること。
(2)大学分科会(第68回)について

-制度・教育部会、留学生特別委員会等の審議状況について意見交換-

5月20日に中央教育審議会第68回大学分科会(分科会長:安西祐一郎慶應義塾長)が開催されました。
当分科会における教育振興基本計画に関する審議については、第29号で紹介したところです。この他、制度・教育部会、留学生特別委員会等の審議状況について報告・意見交換を行いました。
制度・教育部会(部会長:郷通子お茶の水女子大学長)は、学士課程教育の在り方について審議を深めており、次回の大学分科会では、「学士課程教育の構築に向けて」(答申案)の審議を行う予定です。
また、留学生特別委員会(座長:木村孟大学評価・学位授与機構長)の審議状況については、上記1に前述したとおりであり、大学分科会においては、「学士課程、大学院の質の向上を図ることが必要」、「大学院における支援の必要性」等について意見が出されました。
留学生特別委員会の議論は、適宜、大学分科会に報告される予定です。

(3)大学分科会制度・教育部会委員懇談会について

-大学教育の質保証についてヒアリング-

高大の接続の改善に関する提案について考えてみたい。
中央教育審議会の大学分科会制度・教育部会が「学士課程教育の構築に向けて」(審議のまとめ)の中で「高大接続テスト(仮称)」を提案している。
中教審では、「教育振興基本計画について」に関する答申の中でも、「高等学校段階の学習成果を客観的に把握し、高等学校の指導改善や大学入試などにも幅広く活用できる方法について、中央教育審議会の審議を踏まえ、高大関係者が十分に協議・研究するように促す」とされている。
今回の提案は、高校生の学習成果の評価について、大学入試に制約されず、高等学校側が主導権を握ってより適正なものへと変えていく好機ではないだろうか。
一昨年の必履修科目未履修問題の時に、多くの高等学校の校長先生から、高等学校の教育課程の運営がいかに大学入試に制約されているかという切実な訴えをお聞きした。
確かに、長らくの間、大学入試に関しては、進学希望者に比して大学の入学定員が下回り、いわば買い手市場の時代が続いてきた。
しかし、いわゆる大学全入時代を迎えて、この構造は大きく変化しようとしている。このような状況の中、全体としてみれば、大学入試が高校生の学習や学力に与える影響も弱まろうとしているように見える。
もちろん、一部の有力大学への進学競争は相変わらず激しく、高等学校以下の教育に影響を与え続けているが、その当事者である有力大学自身も、国際競争のうねりの中で、入学試験の現状を本当にこれでよしとしているのかは大いに疑問である。小・中学校の学力調査においても、知識だけでなく、活用力を問う問題が出題される時代。いわんや高等教育においてをや、である。

今後の議論に向けて思うことを二点記してみたい。
第一は、評価に当たって、高等学校、大学の多様性をどのようにして尊重するかということである。多面的・多角的な評価をどう実現するか。学力検査型の評価だけでなく、複数の水準で評価ができる技能検定型の評価なども考えられるのではないだろうか。
第二は、活用力をどう評価するかということである。学習指導要領の改訂の議論でも指摘されたが、知識と考える力は車の両輪である。教育課程や授業だけでなく、その効果測定についても、知識の体系であると同時に能力の体系に基づくことが求められる。初中教育から高等教育にかけて、教育学やテスト理論の専門家の力を借りながら、活用力の体系化・構造化を進めていく必要があるのではないだろうか。

大学入試に過度に支配されたブラック・ボックスの評価から脱却し、高校生の学習の現状やあるべき方向、さらには大学教育のめざすべき方向を十分に踏まえた学習評価の体系を作ることができれば、学校段階の枠を超えて、生涯学習社会の基盤を作ることにもつながっていく。やはり、好機ではないだろうか。


編集後記

イギリスの実験で、大勢の人が回転ドアから出る際、1)譲り合って出る場合と2)ドアに殺到してでる場合のスピードを比較した実験がありました。
結果は、1)の譲り合って出る場合が早かったそうです。意外でしょうか?
通勤電車で血相を変えて我こそは先にとドアに殺到して乗ると実は個人にとってもタイムロスなのです。

競争が行き過ぎたり個人の利益を追求すると、個人も社会全体の益が失われることを示唆する結果だと思います。効率性についてもしかりと考えます。
先日の新聞では、”日本が急激な競争社会になったために、相談できる相手がおらず、常に強さが求められて家族にも相談できないため精神疾患を患う人が増えている”と掲載されていました。
性急な効率ばかりにとらわれていると、足下から揺らぎ国家全体が揺らぐことになるかもしれません。

東京大学の小宮山総長は、インタビュー記事で以下のように語っていました。
「教育は、一瞬にして崩壊するが、再構築には30~40年かかる」
昨今の教育行政には、すばやく、わかりやすく、少ない予算で確実な成果を出すことが年々強く求められており、なおさら難しさを感じます。