2009年11月24日火曜日

国立大学の命運やいかに

今日から、行政刷新会議による事業仕分けの後半戦が始まりました。今日は鳩山首相も視察に訪れたようで、益々熱気を帯びてくる事業仕分けです。

いよいよ明日には、「国立大学の運営費交付金」が舞台に上がります。「大学の先端的取り組み支援」、「大学等奨学金・高校奨学金」に関する事業仕分けも予定されています。

この国民監視下の事業仕分け、既にいろんな場所でいろんな意見が飛び交っていますが、最近では、科学技術予算の大幅削減に対する強い危機感の表れか、学長や学部長さんの集まり、学者さんの集まりによる抗議の連呼もますます盛んになってきています。

今日は、東京大学や京都大学など国立7校(旧帝国大学)と早稲田大学、慶応義塾大学の私立2校の総長・塾長さんが、東京都内で記者会見を開き、政府の行政刷新会議の「事業仕分け」によって学術・大学関連の予算が大幅に削減される恐れがあるとして、「大学の研究力と学術の未来を憂う」と題する共同声明を発表しました。

種を撒き育てる学術研究分野にメスが入る、一見無駄に見えても単純に成果だけを見て判断するのはどうか、経済界、ひいては町工場にも懸念が広がっています。

一方、将来のことよりも、まずは疲弊した国民生活を何よりも重視すべきだとの意見もあります。立場や生活環境で意見は随分変わってきます。なかなか難しい問題ですが、最終的には政治判断で決すべきことでしょう。

さて、本日の9大学の学長さん達の共同声明をご紹介したいと思います。これまでこの日記でも何度か申し上げてきたところですが、こういった声明は、大学に勤める人間にはよく理解できるものの、はっきり言って、自前主義といいますか、学者のご都合主義のような感じがしてなりません。したがって国民の耳には全く入らないと思います。

高額所得学者の目線でいくら偉そうなことを言ったって、グローバリズム(国際競争力)を主張したって、苦しい生活の中から税金を納めている国民にはほとんど無意味ですし、説得力はないと思います。国民生活には論文は不要なのです。なぜ学術研究は必要なのか、科学技術の進歩は国民の生活にどう関わるのか、どれほど重要なのかなど、国民目線に立ってもっとわかりやすく説明しなければ国民は納得できないと思うのです。

国立大学協会会員大学の皆様(抜粋)

御承知のとおり、政府の行政刷新会議における「事業仕分け」では、科学技術・学術関係予算事業、国立大学運営費交付金など、多くの大学関係予算事業が俎上に載せられております。

そのうち科学技術・学術関係予算事業に対しては、先般、大幅な削減方針が打ち出されました。これに対しては、すでに、日本学術会議、総合科学技術会議有識者、各種の学会など、大学関係者が各所で抗議の声を挙げ始めております。

以前より、これからの科学技術・学術研究の在り方について国立私立の枠を超えて懇談の機会を持とうというご提案があったところ、たまたまその集まり(国立7校、私立2校の9大学が集まりました)がちょうどこの大幅な削減方針が示された直後のタイミングとなったことから、上記のようにさまざまな抗議の動きが高まっている中で、とにかく、これらの大学だけでも早急に声明を出そうという話になりました。そこで、本日11月24日(火)に、添付ファイルのような共同声明「大学の研究力と学術の未来を憂う」を公表いたしましたので、ご報告申し上げます。

今週に行政刷新会議で審議される予定の運営費交付金などについても、同様の厳しい結論が出される可能性があることは決して杞憂ではなく、事業仕分けの動向を見定めながら国立大学協会としても迅速な意見表明などを行っていく必要があります。現在の政府方針の下では、利害関係者の団体である国立大学協会は、行政刷新会議に対する組織的な働きかけ等の自粛が求められており、その活動は制約されていますが、平成22年度予算編成について国立大学協会としての緊急アピールを行うことができるように、すでに理事会にて文案の検討を進めております。

最終的な予算決定まではなお曲折が予想されますが、国立大学としては今後、機を逸することなく、さまざまなレベルでの訴えを、繰り返し波状的に、政府や国民に対して行っていく必要があると考えております。例年とは大きく様相を異にした政治情勢の中で、定型的な団体の要望活動に止まらず、各学長の皆様にもそれぞれに、いろいろな形で各方面への積極的な働きかけをお願いすることになろうかと思います。また、その際は、従来にも増して、私立大学関係者等との連携協力も、取組の成果を挙げていく上で大切になるものと考えております。

大学の研究力と学術の未来を憂う(共同声明)-国力基盤衰退の轍を踏まないために-

学術は、国家としての尊厳の維持に欠くべからざるものであり、日本の国力基盤を支える科学技術の源泉です。とりわけ基礎研究の中心的担い手である大学の果たすべき役割や使命は益々重要となっています。世界的な教訓として、大学の発展が国富をもたらし、人類文明の高度化に寄与してきたこと、逆に大学の弱体化が国力基盤の劣化を招いた例は枚挙に暇がありません。

この観点から、諸外国では国家戦略として大学や基礎科学への公的投資を続伸させています。一方、日本では、大学への公的投資は削減されてきており、OECD諸国中、最低水準にあります。この上、さらに財政的支援の削減がなされるとすれば、科学技術立国の基盤の崩壊、学術文化の喪失に至ることを強く憂慮するものであります。

もとより、私たちは、国家財政の危機的な状況を理解しています。また、政策決定過程の透明性を高める試みの意義を否定するものでもありません。しかし、科学技術予算の大幅な削減の提案など、現下の論議は、学術や大学の在り方に関して、世界の潮流とまさに逆行する結論を拙速に導きつつあるのではないか、それによって更なる国家の危機を招くのではないかと憂慮せざるを得ません。大学は人づくりの現場であり、大学の土壌を枯らすことは次世代の若者の将来を危うくしかねません。このような情勢にあって、学術の中心であることを自らのミッションの要とする研究大学の長の有志9人の連名により、声明を発することとしました。

私たちは、科学技術立国によってこそ日本の未来が開けるものと信じています。激しい競争の中で、世界の知の頂点を目指すことを放擲するならば、日本の発展はありえません。幅広い国民からの声に耳を傾けつつ、大学界との密接な「対話」により、国の将来を誤らない政治的判断が下されると期待しています。政府関係者におかれましては、下記各事項の重要性をご理解いただき、国家百年、人類社会への日本の役割と責任を視野に入れ、学術政策の推進に当たられることを切に願うものであります。


1 公的投資の明確な目標設定と継続的な拡充

欧米や中国などの諸外国では、それぞれの国の未来をかけて、基礎研究に多額の投資を続けています。特にオバマ政権は、アメリカ史上最大規模の基礎研究投資の増加を決断しました。中国をはじめとするアジア諸国の積極的な国家戦略、学術面の台頭も看過できません。一方で、日本の投資規模は不十分であり、大学予算に至ってはOECD諸国中最低水準にあり、こうした事態が今後も続くようなことになれば、世界における日本の学術研究の地位の低下は必至と考えられます。そのような事態を回避し、学術の振興及びこれと不可分な大学の発展の振興に向け、公的投資を継続的に拡充していくことが必要です。政治のリーダーシップによって、明確な投資目標を掲げ、着実に実行することを期待します。

2 研究者の自由な発想を尊重した投資の強化

基礎研究に対する投資の中でも、あらゆる分野にわたって研究者の自由な発想に基づく研究を支援する科学研究費補助金の拡充を図ることは、学術振興の第一の基盤であり、これによって、研究の多様性と重厚性が確保され、イノベーションをもたらす科学技術の発展へとつながるものです。当面、概算要求どおりの規模を確保することを強く望みます。

3 大学の基盤的経費の充実と新たな枠組みづくり

基礎研究に対する投資については、科学研究費補助金等の競争的資金のみならず、大学に対する基盤的経費を含めて充実を図ることが必要です。国立大学に係る運営費交付金や施設整備費補助金、私学助成、さらには競争的資金における間接経費等を大幅に拡充し、大学における研究基盤を磐石なものとすることが不可欠です。基盤的経費を削減する旧来の政府方針の撤廃が必要です。

さらに、大学の機能別分化を促進するため、大学をシステム改革できる学長提案型の資金制度の創設が必要です。新たな枠組みづくりに当たっては、国家形成に重要な役割を担っている研究大学の活動基盤について、日本の学術政策上の位置付けに応じた適切な支援が検討されるべきです。

4 若手研究者への支援

学術振興に向けた公的投資に当たっては、次代の科学技術・学術を担う「人づくり」を併せて充実する必要があります。特別研究員事業など、若手研究者に対する支援、優秀な大学院生、特に多くの博士課程の学生に対する十分な給付型の支援の充実が望まれます。

また、優れた若手研究者が安心して研究を続けられるよう、大学間の連携で安定的な雇用を実現するための支援をお願いします。

5 政策決定過程における大学界との「対話」の重視

新たな政権の下、各年度の予算編成に止まらず、学術政策の基本政策がどのように審議・決定されていくかについて、私たちは十分な情報を持っていません。例えば、総合科学技術会議の見直し後、科学技術振興基本計画がどのように策定され、前述のような私たちの願いが反映されるのか、強い関心を持っています。政策決定過程において、大学界との「対話」の機会が十分に確保されることを希望します。


(関連記事)

事業仕分けに危惧と緊急提言 ”短期的成果主義”脱却を(2009年11月23日 共同通信)

行政刷新会議による事業仕分けで科学技術関連予算の凍結、削減が相次いだことに、全国の国立10大学の理学部長会議が23日、短期で成果が上がる研究や産業に直接結び付く研究を重視する「短期的成果主義」による拙速な判断を危惧するとの緊急提言を発表した。名を連ねたのは北海道、東北、筑波、東京、東京工業、名古屋、京都、大阪、広島、九州の10大学の理学部長。・・・

(関連)緊急提言 事業仕分けに際し、”短期的成果主義”から脱却した判断を望む-科学技術創造立国を真に実現するために-(国立大学法人10大学理学部長会議)

事業仕分けで予算削減警戒 9大学総長・塾長が共同声明(2009年11月24日 朝日新聞)

東京大や京都大など国立7校と早稲田大、慶応義塾大の私立2校の総長・塾長らが24日、東京都内で記者会見を開き、政府の行政刷新会議の「事業仕分け」によって学術・大学関連の予算が大幅に削減される恐れがあるとして、「大学の研究力と学術の未来を憂う」と題する共同声明を発表した。25日の仕分けでは国立大の運営費交付金などの予算が検討される。声明は、研究者の自由な発想を尊重した投資の強化▽政策決定過程における大学界との「対話」の重視――などを求めている。・・・