私達が大学の経営改革を進めるに当たっての重要な指針になると考えられる論考「大学法人の組織的特徴(構造的陥穽)と改革の方向」(日本総研主席研究員 三宅光頼氏)のうち、今回はシリーズの第3回目として、「大学の情報共有やオープン化はどの程度進んでいるのか」に視点を当ててみたいと思います。
(第1回目)大学の存在意義と自治
(第2回目)戦略とイノベーション
1 情報共有機能と公開機能に欠けているもの
大学の情報共有やナレッジ共有(オープン化)はどの程度進んでいるのでしょうか。
何をもって情報開示か、どの程度であれば情報開示といえるかを決めることは重要ですが、大学の個々のレベルでそれを議論することは不可能でしょう。形式的に各大学の動きを見ると論文や特許以外では、単位の互換や就職情報など、サービスについての情報公開と共有は急速に進みつつあるといえます。知識のオープン化は進んでいますが、本当の資金のオープン化がまだまだです。
こうした状況を考えると、これからの課題は提供するサービス(授業と研究の成果)のさらなる公開と経営情報の公開ですが、株式会社でない限り投資家に対してコミットメントする必要性がなければ情報公開も限定的となります。
「顧客としての学生とその家族」に対して、「多額の授業料と子供の将来を預けるに足る経営を実施しているか、サービスを提供しているか」といった「健全な投資判断が可能なだけの情報」を提供する必要があります。この点で、もしネガティブ情報を隠すようなことが一度でもあれば、これまでのすべての情報に対する信頼が水泡に帰すことは間違いありません。ネガティブ情報はいくらでも隠し得る内容であり、今のところ、積極的な開示義務があるわけではないため、この点を強化していく必要があります。
こうした情報共有と公開に対しての取り組みにより、大学の経営品質を高めることができ、事業継続させるに足る大学の選別と育成につながり、公的資金や補助金をつぎ込む価値がある大学を選別できるようになります。
2 顧客の視点そして意思決定プロセスの近代化透明化の推進と反映
今の大学に欠けているものは、顧客(メインは学生とその家族)の視点と投資家や国に対する経営情報、経営品質の公開であり、このために実施しなければならないことは、評価の徹底と意思決定プロセスの近代化透明化の推進です。すなわち、マネジメントのオープン化です。すべての研究成果と研究プロセス、授業内容と満足度、大学事務局のサポート状況と情報提供度を評価し、評価結果を公開することです。
評価の方法は問いません。ただし、評価する人は、出資する人でありサービスを受ける人であり、中立な第三者です。すなわち、家族であり学生であり地域住民であることです。
この評価結果により、補助金の配分を変更していくことが望まれます。補助金は税金そのものですから、国は利害関係者の評価によりその配分を決定する仕組みが前提となります。特に補助金の約80%を占める教職員数に連動する「教職員割」を廃止(軽減)し、学生や生徒の規模に応じた「学校割」に評価を連動させて配分する仕組みが求められます(補助金についての詳細は省略)。
いきなりこうしたオープン化に移行することは実施的に不可能ですが、第一弾として、健全な内部評価と競争環境の整備から進めることが必要です。まずはオープン化の前に自分たちで自己評価し、判断基準と判断理由、判断結果を内部で公開し、処遇につなげることとを真剣に志向する必要があります。問われているのはサービス(授業と教育)の質であり、その低下を看過する経営の質です。