2009年3月11日水曜日

オランダ人の見た幕末の長崎

大学図書館には、図書の閲覧や貸出しのほかにも、いくつかの重要な機能がありますが、貴重な資料や史料の収集・公開もその一つではないかと思います。特に歴史のある大学の図書館には、時代の変遷や当時の文化や風俗などをうかがい知ることのできる大変価値のあるものが多く保存されており、これらを一般に公開することによって、専門的な研究を進めるだけでなく、教養教育、生涯学習にも役立つことが期待され、各大学の積極的な取り組みが求められるところです。

幕末から明治期の激動の時代、開国の舞台の一つとなった九州・長崎にある国立大学法人長崎大学附属図書館には、貴重資料コレクションが保存されてあり、大学では所蔵しているコレクションを”電子図書館システム開発”の一環として電子化し、「長崎デジタルアーカイブズ」として公開しています。このうち特に印象深かったものを3つほどご紹介します。


1 幕末・明治期日本古写真コレクション

1860-1890年代(幕末から明治期)にかけて、上野彦馬やベアト等の写真家により日本各地で撮影された写真を収集したもので、その多くは当時の職業絵師により美しく彩色されています。時期的には、日本写真史の草創期にあたり、歴史的価値が高い資料であり、また当時の日本社会をうかがい知る貴重な史料といえます。内容は外国人居留地や観光地を中心に日本各地の風景・風俗を写した約7000点のオリジナル写真で、国内最大級のコレクションなのだそうです。



大浦川右岸の居留地建物群。丘の上のピンクの建物は東山学院。川沿いの建物の看板には「M. H. Cook, SAIL MAKER, Cooks HOTEL」と読める。この一帯には外国人のバーやホテルが立ち並んでいる。



中島川に架かる一覧橋(手前)と古町橋(奥)。橋の上に街灯が見え、人力車、シルクハットの男等が写っている。左手の寺は光永寺。中島川に架かる石橋群の二つが写されている。


2 幕末・明治期日本古写真超高精細画像データベース

上記「幕末・明治期日本古写真コレクション」には、極めて鮮明な写真が数多くあり、写真細部には、当時の都市・風景・風俗等に関する膨大な情報が埋め込まれています。

この古写真細部の情報を活用するため、コンピュータ画面上で、5倍から10倍に拡大しても鮮明に見ることができるように、 超高精細画像による「幕末・明治期古写真超高精細画像データベース」が構築され公開されています。

この画像データベースには、 長崎の写真201点、長崎を除く全国の写真300点が登載されるとともに、「地図上からの検索」や「各種条件による検索」、「全文検索」等が備えられ、 それぞれに詳細な日本語と英語の解説が付けられています。近代化しつつあった幕末から明治期の日本の姿を、鮮明な超高精細画像で見ることができます。


3 日本古写真アルバム ボードイン・コレクション

長崎大学が、長崎大学医学部の前身である養生所の第2代教頭アントニウス・ボードインの子孫から譲り受けた古写真アルバムで、去る平成20年10月3日~20日に長崎歴史文化博物館において開催された「オランダ人の見た幕末の長崎 長崎大学所蔵ボードインコレクション展」において展示されました。展示会は残念ながら既に終了していますが、代表的な古写真数点については、現在でもWeb上で見ることができます。

古写真アルバムは4冊からなり、アントニウス・ボードインが自ら撮影した写真や当時の代表的写真家が撮影した日本各地の写真が数多く含まれています。古写真を通して、オランダ人の目に映った幕末の長崎の光景と維新の息吹を感じ取り、日本の近代化とオランダとの友好関係の発展に長崎が果たした役割を再確認することができます。


左に見えるグラバー邸は文久3(1863)年に建てられた日本最古の木造洋風建築です。写真は完成後間もない邸宅の庭で椅子に座るグラバー(左)を中心にグラバー商会の関係者を撮影したものです。前後に貼られたベアト撮影の写真と同じ大きさなので、これらがベアトの作品であることが分かります。庭園の向うでは日本の職人が邸宅を拡張するために石垣の積み上げ作業を続けています。