2013年9月2日月曜日

法人化10年目の節目に

国立大学が法人化して、今年でちょうど10年目になります。この節目に法人化について考えてみることは大事なことだと思います。

「国立大学法人法コンメンタール《歴史編》第57回 国立大学法人法案の準備と国会審議《その⑰》」(文部科学教育通信 No321  2013.8.12)から、国立大学法人法案の閣議決定を受けて書かれた二つの新聞の社説を引用しご紹介します。

いずれの社説も、法人化に伴う大学関係者の意識改革を求めると同時に、大学の業績評価の仕組みに強い関心を示す内容になっています。現在の国立大学法人の状況に照らして考えてみることもいいのではないでしょうか。




国立大法人化自主運営は結果への責任を伴う(読売新聞)

今後の国立大学のあるべき姿がまとまった。

国立大学法人化に向けた一括法案が閣議決定され、国会に提出された。成立すれば来年4月から、すべての国立大学が、文部科学省の組織から離れ、それぞれ独立した法人になる。

国の規制は大幅に緩和され、大学は自らの責任で予算を決あ、運営できるようになる。大学運営や学長選出には、学外者も関与する。

国の保護と規制の下にあった護送船団方式から、大学の責任と競争重視への方向転換である。戦後の新制大学発足以来の改革となる。

各大学は明確な将来像を打ち出し、教育、研究などの活性化を図らねばならない。改革に失敗すると、国の運営費交付金の大幅な削減もあり得る。

国立大学の法人化は元々、国家公務員の定数削減のために求められた。だが文科省の調査検討会議などの論議で、法人化は、教育、研究の体制にも及ぶ、大学改革の契機としてとらえられた。

法人化に対しては、『全国一律』の保護を失う地方国立大学などから強い反対があった。だが、社会の賛同を得るものとはならなかった。

国立大学には自己改革の意欲に乏しいところがあった。意思形成の過程も不明確で、多くの教員は狭い研究分野に閉じこもり、社会貢献意識も希薄だった。

法人化反対論に、地方自治体などの反応が鈍かったのは、そうした大学の状況に対する批判の表れとも言える。大学関係者はそのことを心せねばならない。

変化の兆しは既に見え始めている。学外から学長を招いたり、研究に地域貢献や産官学連携の視点を取り入れたりする試みが見られるようになった。

法人化された大学は、6年ごとに、運営、教育、研究などに関する中期目標や計画を文科省に提出し、その達成度に応じて予算配分を受ける。目標や計画策定のため、これまでなかった全学的な論議をしている大学もある。

こうした流れを大切にし、大学人の意識改革を進めて行かねばならない。

法人化の成否は、大学の業績を判定する評価制度にかかる。公正で客観的な評価方法の早急な策定が求められる。

各大学には、6年の評価期間を生かし短期的な成果のみを求めるのではなく、長期的な展望による改革を望みたい。

『大学の自治』は戦後長く、大学内だけの閉ざされた自治だった。それは既得権擁護の手段ともされた。競争と評価にさらされる今後は、結果に責任のとれる開かれた自治のありようが問われる。(平成15年3月1日読売新聞社説)


国立大法人化で問われる第三者評価(日本経済新聞)

「国立大学の法人化へ向けた『国立大学法人化法案』など、関連する6法案を文部科学省がまとめて28日閣議決定された。

今通常国会に提出して来年4月の法人化を目指す。国が直轄していた国立大学や大学共同利用機関は統廃合などで89の国立大学法人、4つの大学共同利用機構法人に再編される。

法案では学長権限を強めて民間的な経営手法を導入する一方、国が6年ごとに示す中期目標をもとに各大学が策定する中期計画を第三者機関が評価し、資源配分に反映させるなど、「象牙の塔」を脱した新たな国立大学像を打ち出している。

ただこれまでの国立大学特別会計に代わる国費の配分の仕組みをはじめ、各大学が独自に定める学生納付金や余剰金の扱いなど、制度の設計が国の規制下の現状から大きな改革につながるかどうか、定かではない部分も少なくない。既得権益の踏襲に陥らない、公正で説得力のある評価や運用の基準が求あられよう。

法案が打ち出した大きな改革はまず、学長権限の拡大などを通した大学の経営力の強化である。『教授会自治』の下でひ弱だった大学の意思決定力と運営基盤を強化するため、学長と学外者を含めた理事らで構成する役員会が重要事項の決定に当たる。

『経営協議会』の委員は過半数を学外に求めるなど、企業統治の手法を法人の経営に導入する。

産学連携の強化へ向けて、技術移転機関(TLO)などを対象に想定してこれまで国立大に認められなかった出資規定を法案に盛り込んだほか、『大学債』の発行を通して外部からの資金調達の道も開いた。

13万人余りにのぼる教職員の身分は『非公務員型」を採用し、学長権限の下で人事や給与システムも各大学の責任に任される。兼職などの規制も撤廃されるが、大学が基本的に国費で運営されることに変わりはない。各大学は教育研究の質の向上と効率的な経営に向けて、今以上の重い説明責任が求められていることを自覚する必要があろう。

国立大学の法人化問題は当初、各大学の強い抵抗があり、学長選考や中期目標の設定で各大学の特性や自主性に配慮するなど、通則法が適用される一般の独立行政法人とは異なる独自の法人の枠組みができた。

国立大の法人化が改革の成果をあげる大きな鍵の一つは、各大学の業績を総合評価して資源配分に反映させる第三者機関の役割である。新設される『国立大学法人評価委員会』に大学全体の競争を高める新たな評価の仕組みを求めたい。(平成15年3月2日日本経済新聞社説)