東京大学は20年度入試で、「大学入学共通テスト」に導入される英語民間試験の成績提出を必須としないことを決めた。
具体的には、受験生に「CEFR(欧州言語共通参照枠)」の下から2番目の評価A2以上を求め、その確認方法として①民間試験の成績提出、②高校が「A2と同等以上の能力がある」などと調査書に記述、③民間試験を受けられない場合はその理由を提出-をあげた。現実問題としてA2以下では東大合格は難しい。民間試験を使うべしという国の方針に反しないが、限りなく”骨抜き”の案といえる。
今回の入試改革は、高校、大学の教育と大学入試を一体的に改革し、21世紀を生き抜くグローバル型人材を育成するという目的で始まった。理念自体に異論はない。是非とも進めるべき課題である。だが具体的な制度設計が進むにつれ、多くの課題にぶつかる。16年末の中教審答申は、共通テストについて①教科・科目の枠を超えた「合科型・科目型」「総合型」の出題、②段階別表示による成績提供、③記述式を導入、④コンピュータを使うCBTの導入、⑤年複数回の実施、⑥英語は4技能を評価できる出題や民間試験の活用-などを提言した。
だが、その後の文科省内の会議で売り物だった合科型・科目型や総合型、年複数回実施、CBTなどは立ち消えとなり、記述式と英語民間試験だけが残った。それでも入試に詳しい大学関係者からは異論や懸念が絶えない。そうした中での決定である。
東大の方針が他大学に与える影響は不明だが、実施まで2年余になっても迷走する事態は余りに受験生が可哀想だ。国大協での入試改革の議論に東大が消極的だったことも一因だが、理念先行で現場の声を聞かない文科官僚の責任は大きい。国と大学界の対話ができていないのだ。
話は変わるが文科省大学設置・学校法人審議会は10月初め、19年度に発足する「専門職大学・専短大」について、申請17校のうち1校のみの新設を認めると答申した。2校を保留とし、14校は申請を取り下げた。
専門職大学は、専門学校の要望や経済界の後押しを受け、約半世紀ぶりに誕生する新たな高等教育機関だ。ただ、この半世紀で専門学校を母体としたり、実践的職業教育に重点を置いたりする大学・短大が増えたことから、新制度に懐疑的な声も根強い。
設置審は今回の認可結果について「総じて準備不足。実習の実施体制、大学教育としての内容、施設や設備の面などで課題がみられ、社会的使命を十分に果たすとは認められないものが多い」とコメントした。
設置予定の学校法人は計画を練り直して再申請し、数年後には専門職大学・短大が全国に開校するのだろう。だが、初年度の審査結果が新学校種に冷や水を浴びせたのは確かで、威信は大いに殿損された。なぜ、こんなことになるのか。設置審は大学関係者が多いからなのか。ここでも気になるのは、国と大学界の対話の欠如である。
そんなことを考えていると知り合いの文科省OB からメールが届いた。「最近の高等教育政策(専門職大学、高等教育の無償化、将来構想部会・・・)の無策ぶりには目を覆うものがある」。思いは皆同じらしい。
国と大学の対話:日本経済新聞社編集委員 横山晋一郎|IDE 2018年11月号 から