2020年12月24日木曜日

記事紹介|コロナ禍における授業の在り方

大学が文科省に対して嘘の回答をするとは思いたくないが、12月24日の朝刊各紙に掲載されている標記の調査結果は、真実性にかなり疑問がある。大学からの回答に関して裏付けを取らずに、鵜呑みにしているからである。対面授業の割合が低いとする回答をしている大学については、一応、額面通りに受け取って構わないだろう。調査前に対面授業の割合が低い大学は名前を公表することがあるとされていたこと、それらの大学には、学長からのメッセージや学生の理解度など付加的な情報についても回答が求められたことから、大学の方針として、あえてオンライン教育を選択していることを明らかにしているからである。他方で、比較的小規模な大学で、後期には、感染対策を講じながらの対面授業を選択したという事情も理解できる。

恐らく真実性を問うべきは、規模が大きな大学で、「半々」という回答をしているところである。すべてを疑うわけではないが、オンラインか対面かは、教育に係る方針の問題なので、原則としてどちらかの方法を選択するはずである。したがって、基本的にどちらかに偏るのが自然であろう。「半々」というのは、対面への切り替え方針が、学部に浸透せず、まったく徹底できなかったという意味になるのであろうか? 私が調査を担当するならば、そのあたりの事情を詳しく聴くだろう。方針の転換に関する一連の経緯のほか、どういう授業科目で、何ゆえに対面に切り替えられなかったのか、確認する。主としてオンラインを選択している大学の付加的な記述の中にも、そうした学内事情らしいものが垣間見える。今はオンラインが主だが、次年度からは、対面を原則とするなどの方針を述べている大学も相当ある。文科省へのリップサービスかもしれないが・・・。「半々」と回答した大学に、付加的な記述を求めなかったのは、真実性の確保という意味で、調査側の手落ちとしか思えない。もっとも、真実性を重視しているならば、バイアスをかけておいて回答を求めたこと自体が、正しい手続きではなかった。大学名を公表されるのを避ける意味で、回答の担当者が平気で嘘をつく大学があるとは思わなかったのだろうか? あるいは、授業があった期間に、幾つかの大学を選んでキャンパスを訪問すれば、どの程度の学生が来ているか、容易に実感できただろう。大学の回答を信用しすぎると、真実性が低いデータを報道機関に提供してしまう。後で真相が明らかになって、文科省は責任を問われないのだろうか?

大学が対面授業を基本とすることは、大学という教育機関の成り立ちに鑑みて、関係者に大きな異存はないだろう。その上で、オンライン教育の可能性をどう生かすかが、経営戦略上、重要なのである。したがって、文科省が調査をするとすれば、第1に、オンライン教育の得失、可能性を対面授業との比較でどう認識しているかを問うべきだろう。オンラインか対面かという選択ではない。そもそも対面の教育の質が怪しい大学もある。オンラインを主としている大学には、その学習効果を聴いているが、対面への切り替えが進んでいる大学でも、対面の学習効果が高い保障はない。

第2に、オンライン教育にもピンキリがあるので、その実態に関して幾つかの問いを用意する必要があった。教員のスキル、学生のICT環境、学習指導のシステムなど、状況を把握したうえで、どのような対策を講じたのか、調査項目に加えるべきであった。調査目的が、対面授業への切り替え促進にあるからと言って、オンライン教育への取り組みの実態にも差があるので、その理解の上で、対面授業への切り替えを論じるべきであった。一般的にオンラインよりも対面が良いというのは、思い込みに過ぎない。私は、私学を含む多くの大学で、教員も学生も単に安きに流れるオンライン教育と称するものが行われていたのではないかと疑念を抱いている。教員は労働の面で楽をし、学生は単位取得の面で楽をしているので、アンケートを取っても、安きに流れる、なんちゃってオンライン教育には「満足」という回答が多くなる。調査により実態を踏まえて議論できるようなベースが得られなければ、行政調査としては役に立たない。

第3に、言わずもがなだが、調査結果の分析をまじめにしなければならない。大学からの回答を並べただけでは、あまりにもお粗末だろう。例えば、大学の機能別、所在地別、規模別に傾向を見るのは始めの一歩である。対面への切り替えを3割以上実現した大学を対象に、授業科目(科目によって履修者数が大きく異なる)と感染リスク管理の関係もデータを取って分析できたはずである。付加的な記述を見ても、大教室で行う授業はオンラインにするなど、現場では工夫をしているのが分かる。また、対面への切り替えのボトルネックについては、オンラインを主とする大学の付加的な記述を追っていけば、ある程度の仮説は抽出できるだろう。さらに、切り替えが先行している同じ条件の大学の手法を、他大学に横に展開することも考えたらよい。この種の調査をやって、詳しい分析らしい記述がないのは情けない。それとも、分析を考えて、調査を設計していないのか?大臣まで上げていく過程で、誰も、この資料にダメ出ししなかったとしたら、文科省はほとんど機能マヒしている。

第4に、大学において、今回の調査内容を関係者に情報提供しているのか、社会的な説明責任を果たしているのかも、重要な点であり、調査すべきではなかったか? 保護者はもちろん、卒業生を含む社会一般への説明をホームページなどで十分行っている大学は、恐らく信用できる。逆の大学は、やっていることに自信がないと見なしてよいだろう。その回答は鵜呑みにできない。文科省から照会があったので、仕方なく回答するというのでは困る。

最後に、2020年の年末に当たって、政府が、静かに家で過ごすことを求めていることと、文科省が大学に対面授業を促進することを求めていることは、方向として真逆な話であるので、例えば、大学の規模や所在地、在籍学生の能力を踏まえて、正統なオンライン教育により学習効果を担保できる大学は、早期の対面授業への切り替えに拘る必要がないのではないか? 調査結果を踏まえて、早く軌道修正した方がよい。もっとも、私学では後期の授業自体がほとんど終了してしまっているが・・・。少なくとも、来年度もワクチン接種が行きわたるまでは、対面授業への切り替えを急ぐ必要はなかろう。もしも、文科省が何か特別な施策を考えていないのなら、大学に口出しは無用で、状況を勘案しつつ、順次、自主的に対面授業へ切り替わっていくに違いない。

出典:文科省の対面授業に関する調査は信用できるのか?|NUPSパンダのブログ