2017年6月1日木曜日

地方大学の生き残りのために

去る5月22日、政府の「地方大学の振興及び若者雇用等に関する有識者会議」による「地方創生に資する大学改革に向けた中間報告」が取りまとめられました。

やや産業界寄りの記述が多いように思いますが、このうち「地方大学の振興」に関する部分を中心に抜粋してご紹介します。

地方大学の生き残りが求められている中、当事者は何ができるかを真剣に考え、実行することが問われています。(太字は拙者)


1 はじめに

本中間報告は、「まち・ひと・しごと創生総合戦略(2016改訂版)」(平成28年12月22日閣議決定)に基づき、地方大学の振興、東京における大学の新増設の抑制及び地方移転の促進、地方における雇用創出及び若者の就業支援等についての緊急かつ抜本的な対策に向けた検討の方向をとりまとめ、地方を担う多様な人材の育成や産官学連携による地域の中核的な産業の振興を促進するとともに、東京圏への人口の過度の集中を是正し、もってまち・ひと・しごと創生の実現を目指すもの。

2 基本的な問題認識

(1)大学を巡る現状と課題

①地方の国立大学は、幅広い学問分野をカバーし総合的人材を育成してきたが、一方で「総花主義」「平均点主義」のため、どの分野に重点を置いて人材育成を目指しているのか、特色が見えないと言われている場合が少なくない。「総合デパート」としてだけでなく、地方のニーズを踏まえた組織改革等を加速し、それぞれの特長や強みをさらに強化する必要。

②大学の大衆化(大学・短期大学進学率は約6割)の現実と、「学術の中心」という教育基本法に掲げる大学の理念がかい離し、学術研究面でも、実践教育面でも、十分に応えきれていない大学が多いのではないかとの指摘。

③日本の大学が、産業構造の変化(産業のサービス化、知識集約化等)に十分対応できておらず、成長分野のビジネスや地方産業につながる人材育成、研究成果の創出といった面で、地域のニーズや期待に十分応えていないとの指摘。

④大学経営は企業側の人材の採用・育成、研究開発(オープンイノベーションの推進等)のあり方の改革と併せて考える必要。また、大企業中心の発想を地域密着型の中堅企業(大学発ベンチャーも含む)中心に変える必要。一方で、大学の自主性を生かしながら、各大学の機能等を強化・特化していくという視点も重要。

⑤日本の大学では、学長の予算や人事に対する裁量・権限が弱く、ガバナンスが発揮しにくいとの指摘や、国立大学においては、組織を監督する理事会に相当するものがなく、学長が理事を任命する仕組みとなっていることが問題であるとの指摘。さらに、ビジネスやベンチャーとの連携を軽視する風潮。

⑥ 大学に求められる新しい学問分野への対応は、新たな学部・学科を設置する方法以外に、柔軟に分野融合的な教育プログラムをつくれるようにすることも重要。

3 大学改革の方向性

(2)地方の特色ある創生に向けた地方大学等の対応

①「特色」を求めた大学改革・再編

国公私の設置者を越えた機能分担を進める。さらに国立大学にあっては、国立大学間の連携・協力の一層の強化を図るとともに、それぞれの地域ニーズに応じた学部・学科の見直し等を進める。その上で、この領域・分野ならこの大学といった「特色」にも配慮した大学改革を進め、各大学の強みのある学問領域・産業分野において、専門人材の育成、研究成果を創出

②地方創生に貢献するガバナンス強化

学長がリーダーシップを発揮して、地方のニーズに応じた学部・学科、研究室の再編・充実に関する取組を推進するなど、地方大学の機能強化に向けた組織改革を、スピード感を持って実施。

(3)大学の機能分化の推進

大学が、グローバル化や地方創生などの時代の要請に対応する観点から、大学の機能分化を推進していくべき。すなわち、各大学は、G型(グローバル型)大学として、世界水準の学術研究を目指す大学や学部、あるいは真に世界のトップ水準のグローバルトップエリート人材の輩出を重視するのか、L型(ローカル型)大学として、特色ある地域の中核産業を支える専門人材の育成・確保に取り組むとともに、地域に根差して地域を支える仕事(地域密着型の産業や企業で働く人々)に就労して生きていく人材に対して、実践的な基礎能力教育や最新の技能教育の実施を重視するのかを明確にする必要。

4 取組の方向性

(1)地方大学の振興

ドイツのフラウンホーファーの取組(全国 69 ヶ所、研究資金は産官学の三者が負担)の例にあるように、産官学の連携により、特色ある産業づくりへの貢献を目指す。

③地方大学が産官学連携の下で、産業等で地元貢献していくためには、大学自らが変われるようにするためのガバナンスを強化する仕組みを導入。

⑥上記については、特色ある大学への自己変革によるか、または、他の大学と連携等を行い新学部・学科を設置することによるか、検討が必要。

⑧大学への補助金(運営費交付金、私学助成)等については、その配分を見直し、より地方創生に資するメリハリの効いた配分にするよう検討。