2008年3月31日月曜日

大学等における履修証明(certificate)制度

前回のブログでも少しご紹介しましたが、平成19年12月26日に施行された改正学校教育法により、大学が各大学の判断により学位に準じる「履修証明書」を授与できる制度が創設されました。
従来の科目等履修制度や公開講座をさらに発展させるため法律上位置づけられたもので、、大学院、短期大学、高等専門学校、専門学校も証明書を授与できることになっています。

具体的要件は、学校教育法施行規則(省令)において規定されており、証明を出せるプログラムを「120時間以上」に限定、また、開講する際に文部科学省に届け出る必要はありませんが、教育内容や受講資格などの情報の事前公表が義務付けられているようです。

制度の概要を文部科学省が作成した資料から少しご紹介します。


趣 旨

教育基本法第7条及び学校教育法第83条の規定により、教育研究成果の社会への提供が大学の基本的役割として位置づけられたことや、中教審答申の提言等を踏まえ、平成19年の学校教育法改正により、履修証明の制度上の位置付けを明確化

これにより、各大学等(大学、大学院、短期大学、高等専門学校、専門学校)における社会人等に対する多様なニーズに応じた体系的な教育、学習機会の提供を促進

制度の概要

以下の要件を満たす履修証明プログラムを大学等が提供できることとした。
  • 対象者:社会人(当該大学の学生等の履修を排除するものではない)
  • 内容:大学等の教育・研究資源を活かし一定の教育計画の下に編成された、体系的な知識・技術等の習得を目指した教育プログラム
  • 期間:目的・内容に応じ、総時間数120時間以上で各大学等において設定
  • 証明書:プログラムの修了者には、各大学等により、学校教育法の規定に基づくプログラムであること及びその名称等を示した履修証明書を交付
  • 質保証:プログラムの内容等を公表するとともに、各大学等においてその質を保証するための仕組みを確保
※学生を対象とした学位プログラムとは異なり、単位や学位が授与されるものではない

基本的考え方
  • プログラムの目的・内容として、多様かつ高度な、職業上に必要な専門的知識・技術取得のニーズに応じたもの、資格制度等とリンクしたもののほか、生涯学習二一ズヘの対応など多様な目的・内容のプログラムを想定
  • プログラムの目的・内容に応じて、職能団体や地方公共団体、企業等との連携を推奨
  • 履修証明のプログラムの研究開発、利活用促進のため、「大学・専修学校等における再チャレンジ支援推進プラン」(平成20年度予定額26億8,760万円)等により、各大学等における主体的取組を財政支援
※施行通知と条文が、文部科学省のホームページに掲載されています。
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shoumei/index.htm


制度創設の背景や経緯については不勉強にてここで説明はできませんが、法律を改正してまで導入された制度ですので、今後、各大学等は、その趣旨に沿った制度の活かし方、活かされ方を考えていかなければならないのだろうと思います。

報道の反応をご紹介しておきたいと思います。


根付く?「履修証明書」 社会人の能力向上 後押し (2008年3月4日付朝日新聞)


受講者「再就職に強み」

英国人講師が、絵本やおもちゃを使って子どもからスムーズに採血する方法を実演する。見つめるのは、育児や介護のために離職中の保育士や看護師ら。入院中の子どもや家族を相手に、遊びを通じて治療方法を説明したり、ストレスを減らしたりする「HPS」の知識や技術を学んでいる。

講習を行うのは、静岡市駿河区の静岡県立大短期大学部。2月25日から3月24日まで144時間かけ、日本ではまだ普及していないHPSについて教える。離職中の保育士らが新しい能力を身につけて現場に復帰できるよう支援するプログラムだ。

同短大部は修了した人に、学校教育法に基づく履修証明書を授与する。文部科学省が把握する限りでは最初のケースだ。その狙いを、短大部長の川村邦彦教授は「HPSを日本に定着させる第一歩となる講座なので、社会的な通用性を高めるためにも証明書を授与することにした」と話す。

受講者にも証明書の授与は好評だ。2人の息子の育児のために看護師を辞めた同市の望月美幸さん(32)は「証明書があれば、就職のときに他の看護師よりも強みになる」。実母の介護のために保育士を辞めた同市の中山陽子さん(55)も「証明書を励みにして、HPSの活動を社会に広めていきたい」と話す。

長く社会人教育に力を入れてきた産業能率大(東京都)も、新制度に関心を持つ。同大では現在、約350コースある通信研修で年25万人、約170コースある公開研修で年9千人が学んでいる。小林武夫理事は「数日の研修が大半で、すぐに履修証明書を授与する予定はない。しかし、企業や社会人に証明書のニーズが高まってくれば、制度に合った研修も作っていきたい」と話す。

講座の水準 確保が問題

履修証明の「先進地」米国では、70年代以降の不況で若者の失業者が増えた際、職業訓練がさかんになるにつれて広まった。離職者がITの基礎知識を学んだり、薬剤師が新しい薬の知識を学んだりする例が代表的だ。

日本では米国ほど資格が重視されずにきたため、導入の議論は進まずにいた。だが、バブル崩壊以降、終身雇用制は崩れ、能力向上のために大学で勉強する社会人が増加。折しも「大学全入時代」を迎え、社会人を呼び込もうと公開講座を始める大学も増えている。

06年5月には安倍前首相が力を入れた再チャレンジ推進会議が、離職者らの再就職を想定し、「履修証明を与える取り組みの普及を図る」と提言し後押しした。

だが、現在の公開講座の水準はかなりのばらつきがある。中教審でも「プログラムの質が保てるか心配だ」といった意見が続出した。このため文科省は、履修証明を授与できるプログラムを「120時間以上の体系的なもの」に限った。

同省は基準を満たすプログラムの例として、民生委員らの相談技術を向上させる165時間の講習や、介護福祉士らに135時間で園芸療法を教える講習などを挙げる。

経歴・資格示す 国の制度と連携

制度は始まったが、社会への浸透はこれからだ。

文科省も手は打っている。大学などで社会人向けの講座を増やそうと、07年度から「社会人の学び直しニーズ対応教育推進プログラム」の選定を始めた。07年度予算で約18億円を計上。大学や短大、高等専門学校の取り組み126件を選んだ。

また、フリーターらの就職を進めるために4月に始まる政府の「ジョブ・カード」制度とも連携。職業訓練の経歴や資格の情報をまとめたカードの中でも、履修証明書は中心的なアピール点になる見込みだ。

米国の履修証明に詳しい東京大学術研究支援員の林未央氏は、国や大学が社会や企業に制度の存在をアピールし、大学が新しい学習ニーズを掘り起こせるかが普及のカギとみる。「米国では履修証明向けの講習で得た単位を使って大学への編入を可能にしたことが、普及の一因になった。日本でも講習の質を確保しながら、勉強した成果に互換性を持たせるなど受講生にやる気を起こさせる工夫が必要だ」と話す。