2008年3月11日火曜日

中教審答申(教育振興基本計画関係)素案


中央教育審議会で検討されている教育振興基本計画関係の答申の素案が、文部科学省のホームページに公表されています。

■教育振興基本計画特別部会(第13回)議事録・配付資料
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo7/shiryo/08030301.htm


このうち、高等教育関係部分(抜粋)をご紹介します。


第2章 今後10年間を通じて目指すべき教育の姿

(1)今後10年間を通じて目指すべき教育の姿

■社会を支え、発展させるとともに、国際社会をリードする人材を育てる

1)高等学校や大学等における教育の質を保証する

大学等の個性化・特色化を進め、それぞれの機能に応じた教育研究活動を促す。
また、大学等における教育の質の保証・向上に向けた制度を整備・確立する。これらを通じ、教養と専門性を養い、社会の各分野を支え、発展させていく資質・能力を確実に養うことを重視する。
あわせて、生涯を通じていつでも必要な学習を行うことのできる機会を充実する。

2)世界最高水準の教育研究拠点を重点的に形成する

国際的競争力を持ち、世界の英知が結集する教育研究拠点を重点的に形成し、知的な貢献ができる人材を育成するとともに、大学の教育研究の高度化を通じて「知」の創造・継承・発展を支える。また、「留学生30万人計画」を策定し、優れた学生を多数受け入れることのできる体制を確立する。


第3章 今後5年間に総合的かつ計画的に取り組むべき施策

(2)施策の基本的方向

《基本的方向3》 教養と専門性を備えた知性豊かな人間を養成し、社会の発展を支える

今後の「知識基盤社会」において、「知」の創造と継承・発展を担う高等教育は、個人の人格形成や、生涯にわたる学習活動の場としても、社会・経済・文化の発展・振興や国際競争力の確保等の国家戦略の上でも、極めて重要な役割を果たすこととなる。また、環境問題をはじめとする地球規模での課題への対応においても、人材育成をはじめ、高等教育に期待される役割は大きい。

このような中で、高等教育に対する様々な需要に的確に対応するためには、大学・短期大学、高等専門学校、専門学校が、各学校種ごとにそれぞれの位置付けや期待される役割・機能を十分に踏まえた教育や研究を展開するとともに、競争的環境の中で相互に切磋琢磨しながら、個々の学校の個性・特色を発揮していくことが必要である。

特に、改正教育基本法においては、新たに大学に関する条文が設けられ、その基本的な役割として、教育と研究とを両輪とする従来の考え方が改めて確認されるとともに、教育研究の成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与することが明確にされたことを十分に踏まえる必要がある。

今後、各大学等においては、それぞれが自律的に選択した教育理念に基づき、自らの個性・特色を明確化した上で、国内外の大学等や産業界、初等中等教育段階の学校等との連携も深めつつ、教育活動の質を保証し、また、不断に高め、豊かな教養と人間性、専門性を兼ね備え、地域から国際舞台まで幅広い分野においてそれぞれの立場で活躍できる人間を育成し、社会の期待に応えることが求められる。あわせて、国際競争力ある教育研究拠点として「知」の創造・継承・発展を担うことが期待される。

国は、各大学等における自主的な取組を促すため、評価制度の充実など必要な制度改正や各種の情報の提供、財政支援等に取り組む必要がある。

こうした基本的方向に基づく施策を通じて、例えば以下のような目標の実現を目指す。

  • 学士課程の学習成果として共通に求められる内容を明確化し、厳格な成績評価の導入等大学教育の質を確保するための枠組みを構築し、各大学における組織的な取組を推進する
  • 将来的に、国際的な競争力・存在感を備える教育研究拠点を各分野において形成することを目指し、条件を整備する
  • 地域再生の核となる大学連携群を形成することを目指し、条件を整備する



(4)基本的方向ごとの施策

《基本的方向1》 社会全体で教育の向上に取り組む

■人材育成に関する社会の要請に応える

一人一人の社会的自立を実現するとともに、我が国社会の活力の維持・向上の観点から、教育と職業や産業社会との相互の関わりを一層強化し、人材育成に関する社会の要請を踏まえた教育を充実する。このため、キャリア教育を支援するとともに、産業界と連携して、また、初等中等教育段階から高等教育段階に至る教育の連続性に配慮しつつ、職業教育を強化する。併せて、グローバル化に対応し得る国際的通用性のある高度専門職業人の養成を強化する。

【施策】

◇大学・短期大学・高等専門学校・専修学校等における専門的職業人や実践的・創造的技術者の養成の充実

国際的に通用する高度専門職業人の養成に向け、「大学院教育振興施策要綱」を改訂し、大学関係者と関連する業界や職能団体等との連携などによる専門職大学院等における教育の高度化への支援を充実する。また、ものづくり技術の継承・発展とイノベーション創出を担う実践的・創造的技術者を育成するため、平成20年中に高等専門学校の振興のための計画を策定し、地域と連携した教育内容・方法の開発をはじめとする取組の支援を充実する。

大学・短期大学における社会的要請の高い課題に対応する教育の取組に対する支援を充実する。あわせて、専修学校について、社会の変化に即応した実践的な職業教育及び専門的な技術教育を行う機能が発揮されるための取組を支援する。

◇産業界・地域社会との連携による人材育成の強化

人材育成に関する社会の要請に応えるため、大学等と産業界・地域社会とのより幅広い連携協力の下でのインターンシップの充実や教育プログラムの開発などの取組への支援を充実する。また、大学等と企業等との共同研究や大学の有する研究成果の提供、産業界・地域のニーズに対応した人材育成等を支援する。


《基本的方向3》 教養と専門性を備えた知性豊かな人間を養成し、社会の発展を支える

■社会の信頼に応える学士課程教育等を実現する

高等教育の大衆化が進行して同世代の過半数が進学する「ユニバーサル段階」、そして、少子化により18歳人口が減少し、いわゆる「大学全入」時代を迎える中で、大学等における教育の質の確保が重要な課題となっている。

このため、大学等が社会的ニーズや学習者の様々なニーズに的確に対応するとともに、それぞれの掲げる教育研究上の目的の下、教養と専門性を備えた人間を育成することができるよう、各学校の位置づけや期待される役割・機能を十分に踏まえた質の高い教育の展開を支援する。その際、それぞれの個性・特色を一層明確にする教育や大学教員の教育力向上のための取組を促す。

【施策】

◇社会からの信頼に応え、求められる学習成果を確実に達成する学士課程教育等の質の向上

学士課程で身に付ける学習成果(「学士力」)の達成等を目指し、各大学等において教育内容・方法の改善を進めるとともに、卒業認定も含めた厳格な成績評価システムを導入するよう支援する。さらに、教育環境の改善・充実を図り、すべての大学等において教員の教育力の向上のための取組が実質化されるよう、教員の教育業績の評価、学生による授業評価の結果を改善へ反映させる組織的取組等を促すとともに、優れた取組を行っている大学等を支援する。

こうした各大学等における教育改善の取組を推進するため、教員の教育力の向上のための拠点形成とネットワーク化を推進するなど、個別の大学等の枠を超えた質保証の体制や基盤の強化を支援する。

さらに、ICTを活用した教員の教育力向上・教材作成や、国内外の教育コンテンツ等の情報収集・発信、海外の中核的機関との連携強化等を支援する。

◇共通に身に付けるべき学習成果の明確化と分野別教育の質の向上

学生が教育分野にかかわらず共通に身に付けるべき学習成果について、国際的通用性の確保にも留意しつつ、明確化に取り組むとともに、分野別の教育の質の向上・保証を行うため、「学習成果」や到達目標の設定、教材の研究開発などの取組を支援する。あわせて、教育の分野別質保証の在り方について日本学術会議との連携を図りつつ、それぞれの質の保証に向けた枠組みづくりを進める。

◇高等学校と大学等との接続の円滑化

各大学等が入学者受け入れ方針の明確化を図りつつ、高等学校段階の学習成果を適切に評価する大学入試の取組を促すなど、高等学校と大学との接続の円滑化を図る。また、高等学校段階での学習成果を客観的に把握する方法の一つとして、高等学校の指導改善や大学入試などに幅広く活用できる新しい学力検査について、中央教育審議会の審議を踏まえ、高大関係者が十分に協議・研究するよう促す。また、高校生が大学教育に触れる機会等を充実するため、大学等の高大連携に関する優れた取組を支援する。大学への飛び入学については、「特に優れた資質」の判定や大学における指導体制など現行制度のより柔軟な運用を図り、各大学における積極的な取組を促す。


■世界最高水準の卓越した教育研究拠点を形成するとともに、大学院教育を抜本的に強化する

国際競争力のある世界最高水準の大学づくりのため、「大学院教育振興施策要綱」(平成18~22年)に基づき、世界的な卓越した教育研究拠点の形成を支援するとともに、大学院における優れた組織的な教育の取組を支援する。あわせて、意欲と能力のある若手研究者等が活躍できる環境づくりを支援する。

【施策】

◇世界最高水準の卓越した教育研究拠点の形成

博士後期課程の学生を含む優れた若手研究者の育成機能の強化や国内外の大学・機関との連携強化等を通じて国際的に卓越した教育研究拠点を形成するための支援を一層充実する。特に、平成23年度までに、世界的に卓越した教育研究拠点の形成を目指し150拠点程度を重点的に支援する。また、学術の発展と人材育成の充実のため、国公私立を通じた共同利用・共同研究拠点を整備し、重点的に支援する。

◇大学院教育の組織的展開の強化

産業界をはじめ社会の様々な分野で幅広く活躍する高度な人材を養成するため、コースワークの充実等、大学院における組織的・体系的な優れた教育の取組に対する支援を充実する。また、大学院修了者等の一層の活用や、国内外に開かれた入学者選抜や大学院への早期入学等を含め、より開かれた大学院入学を促進するための方策等について検討し、「大学院教育振興施策要綱」に適宜反映する。

◇若手研究者、女性研究者等が活躍できる仕組みの導入

若手研究者の自立的な環境整備のためのテニュア・トラック制の導入、多様なキャリアパスを切り拓くための人材養成等に組織的に取り組んでいる機関を支援する。あわせて、女性研究者がその能力を最大限発揮できるよう、研究と出産・育児等を両立するための支援等を一層充実する。


■大学等の国際化を推進する

海外の有力大学等との連携を通じ、我が国の大学等の国際競争力を強化するとともに、国際的な環境で学生や教員が学ぶことができる機会を飛躍的に充実する。

このため、「大学教育のグローバル化を目指した当面の施策についての基本的な考え方」(P)に基づく取組を推進する。

【施策】

◇留学生交流の推進

大学等の国際化や国際競争力の強化を図るとともに、諸外国との相互理解や我が国が安定した国際関係を築く上での基礎となる人的ネットワークを形成するため、中央教育審議会の審議を経て、新たに「留学生30万人計画」を策定する。この計画に基づき、我が国の留学生数を大幅に増加させることを目指すとともに、その質の確保を図るため、外国人留学生に対する支援を充実する。また、国際的に活躍できる人材の育成を図るため、日本人学生に対する海外留学の支援を充実する。

◇大学等の国際活動の充実

大学教育の質の向上と国際競争力の強化を図るため、国際活動のための事務局体制等の基盤強化や、海外の有力大学等との連携によるダブル・ディグリ一等の複数学位制や単位互換、英語等の外国語による教育、9月入学(秋季入学)、サマープログラム等の充実に向けて、大学等の取組を支援する。


■国公私立大学等の連携等を通じた地域振興のための取組などの社会貢献を支援する


地域社会においてニーズの高い教育や、地域の活性化等の社会貢献のため、国公私の大学の協同で行う取組を支援する等、各大学等がそれぞれの特色を活かして行う地域振興に貢献する取組を促す。

【施策】

◇複数の大学間の連携による多様で特色ある戦略的な取組の支援

各大学等の教育研究資源を複数の大学間で有効に活用し、地域人材の育成・イノベーション創出等の地域貢献機能の強化・拡大及び教育研究の多様化・特色化を図るための取組(国公私を通じたコンソーシアム)が、全国で展開されるようになることを目指し、200件程度を支援する。また、国公私を通じ複数の大学等が学部・研究科等を共同で設置できる仕組みを平成20年度中に創設する。

◇生涯を通じて大学等で学べる環境づくり

生涯学習へのニーズに対応し、大学等における社会人等受入れを大幅に拡大することを目指し、必要な環境の整備・充実を支援する。また、大学等と産業界等の対話や連携による取組を支援する。

◇地域の医療提供体制に貢献するための医師育成システムの強化

医療人養成の中核的機関である大学・附属病院の運営基盤を強化するとともに、地域の医療機関との緊密な連携体制の構築を通じた医療分野における大学等の地域貢献の取組を支援する。特に、地域医療、がんなど社会的要請の強い分野について、専門性の高い医療人の養成を促す。


■大学教育の質の向上・保証を推進する

高等教育の量的拡大や多様化の一層の進展を踏まえ、学習者の保護や国際的通用性の観点から、高等教育の質を保証する取組を充実する。その際、個々の機関の設置目的や使命等も踏まえ、それぞれの機能や役割に則して多元的な評価が行われるよう留意するとともに、個別の大学等の枠を超えた質保証の体制や基盤の強化を支援する。

また、大学等の設置認可や認証評価制度、情報公開を含めた包括的な教育の質保証の在り方について、中央教育審議会において検討し、認証評価制度の第2サイクルに向け、必要な措置を講じる。

【施策】

◇事前評価の的確な運用

我が国の大学等が国際的に通用するための最低限の要件を明確化する観点から、事後評価との適切な役割分担と協調を図りつつ、教員組織、施設・設備等に関して大学設置基準等の見直しを行うとともにその的確な運用を進める。

◇共通に身に付けるべき学習成果の明確化と分野別教育の質の向上

大学教育の質の向上・保証を推進する観点からも、共通に身につけるべき学習成果の明確化と分野別教育の質の向上を推進する。

◇大学評価の充実

大学評価システムの確立・定着に向け、認証評価(機関別、専門職大学院専門分野別)、自己点検・評価、分野別評価等の大学評価に関して、大学等と評価機関が行う効率的な評価方法の開発等を支援するとともに、参考となる多様な事例を集積・提供すること等により、認証評価等の大学評価の充実と質の向上を図る。


■大学等の教育研究を支える基盤を強化する

次世代をリードする人材の育成に向け、学術の中心である大学等の教育研究を安定的・継続的に支えるための職員や施設・設備を含めた基盤を一層強化するとともに、競争的環境の中で、各大学等が主体的にそれぞれの特色ある発展と教育研究の質の向上を図るための支援を充実する。その際、優れた教員の確保や教育力の向上のための取組と併せて、教育研究活動を支える人員や施設・設備等の条件整備に留意する。

【施策】

◇大学等の教育研究を安定的・継続的に支えるとともに、高度化を推進するための支援の充実

大学等における教育研究の質を確保し、あらゆる分野において優れた教育研究が安定的・継続的に行われるよう基盤的な経費(国立大学法人等運営費交付金・私学助成等)を確実に措置する。あわせて、人材の育成や大学の教育研究の高度化に資する科学研究費補助金等の競争的資金等の拡充に取り組む。その際、科学研究費補助金の間接経費について、30%の措置をできるだけ早期に実現する。

また、国立大学法人運営費交付金については、?教育研究面、?大学改革等への取組の視点に基づく評価に基づき適切な配分を実現する。その際、国立大学法人評価の結果を活用する。あわせて、企業や個人等からの寄付金、共同研究費等の民間からの資金の活用について、各大学の自助努力を後押しするための税制を含む環境整備等を検討する。

◇大学等の教育研究施設・設備の整備・高度化

優れた人材の育成と創造的・先端的な研究を進めるため、教育研究活動の重要な基盤である大学等の施設・設備について、安全性の確保だけでなく、現代の教育研究ニーズを満たす機能を備えるよう、重点的・計画的な整備を支援する。このため、「第2次国立大学等施設緊急整備5カ年計画」(平成18~22年)を着実に実施するとともに、平成23年度を初年度とする施設整備計画を策定し、計画的な整備を支援する。

◇時代や社会の要請に応える国立大学の更なる改革

国立大学の再編統合、学部の再編や学部入学定員の見直し、徹底したマネジメント改革、学部の壁を越えた教育体制など、時代や社会の要請に応えるための国立大学法人の自主的な取組を促す。また、一つの国立大学法人による複数の大学の設置管理等についての検討を行う。


《基本的方向4》 子どもたちの安全・安心を確保するとともに、質の高い教育環境を整備する

■教育費負担を軽減する

教育の成果は社会全体の共通の資産となるものとの認識の下、教育を受けることを望む人が、経済的な理由によりその希望を断念することなく、その意欲と能力を伸ばすことができるよう、家計の教育費負担の軽減に向け取り組む。

【施策】

◇奨学金事業等の充実

教育の機会均等の観点から、意欲と能力のある学生等が家庭の経済的状況によって修学の機会を奪われないよう、学生等の多様なニーズ等を踏まえて、奨学金事業等を充実し、教育費負担を軽減する。

◇学生等に対するフェローシップ等の経済的支援の充実

優秀な人材を育成するため、フェローシップやティーチング・アシスタント、リサーチ・アシスタント等の経済的支援を充実する。特に、博士課程(後期)在学者の2割程度が生活費相当額程度を受給できるようにすることを目指す。