2008年7月31日木曜日

国立大学法人の中期評価とは

国立大学には、現在、様々な評価制度が導入されています。法人評価、認証評価、自己点検評価、外部評価、教員評価、事務職員評価等々。ほとんどは法人化を機に導入されたものですが、今日はこのうち、私立大学にはない国立大学特有の「法人評価」についてご紹介します。

国立大学は、法人化された平成16年4月1日から、国立大学法人法第35条(独立行政法人通則法の準用)により、文部科学省に置かれた「国立大学法人評価委員会」(以下、評価委員会)の評価を受けることになりました。この評価のことを通称「法人評価」と言います。


■法人評価の目的と分類

法人評価の主な目的は、
  1. 評価により、大学の継続的な質的向上を促進すること
  2. 評価を通じて、社会への説明責任を果たすこと
  3. 評価結果を、次期以降の中期目標・中期計画の内容に反映させること
  4. 評価結果を、次期以降の中期目標期間における運営費交付金等の算定に反映させること
などが挙げられます。

法人評価は、国立大学の教育研究、業務運営、財務状況の継続的な質の向上に資するものとして行われるため、国立大学は、中期目標期間(現在は第1期で、平成16~21年度の6年間)における業務の実績についての報告書を提出し、評価委員会の評価を受けることが義務付けられています。

また、法人評価は、大きく次の2つに分類されます。

1 各年度終了時の評価(年度評価)

年度計画の実施状況等に基づく中期目標・中期計画の達成に向けた業務の進捗状況についての評価(年度評価)が行われます。各大学は、評価結果を業務運営や財務内容の改善・充実等に役立て、中期目標の実現を目指すことになります。なお、年度評価では、教育研究の状況についての評価は行われませんが、特筆すべき点や遅れている点についての指摘がなされます。

2 中期目標期間の評価(中期評価)

中期目標・中期計画の達成状況についての評価(中期評価)が行われます。なお、年度評価では行わなかった教育研究に関する評価については、「独立行政法人大学評価・学位授与機構」により専門的な観点から行われ、評価委員会はその評価結果を尊重することになっています。また、評価結果は、次期中期目標期間における各大学への運営費交付金の算定に反映させることになっており、今期中期目標期間の最終年度(平成21年度終了後)に評価を実施していては反映が困難なため、今(平成20)年度に前倒しで6年間を見通した評価が行われることになっています。

ちなみに、中期評価に係る業務実績報告書は、去る6月30日を期限として既に各大学から文部科学省に提出されており、現在、7月29日~8月11日の間で、評価委員会による各大学のヒアリングが東京霞ヶ関において行われているところです。

■業務実績報告書の実態

国立大学は、平成17年度以降毎年、「業務の実績に関する報告書」を評価委員会に提出し評価を受けてきたわけですが、この報告書は、次のような中期目標・中期計画に定めた事項の下に各大学が独自に定めた小項目によって構成され、各大学とも細分化された200を超える膨大な事項に従って計画の達成状況が記載されています。

1 中期目標の事項(国立大学法人法第30条)
  • 教育研究の質の向上に関する事項
  • 業務運営の改善及び効率化に関する事項
  • 財務内容の改善に関する事項
  • 教育及び研究並びに組織及び運営の状況について自ら行う点検及び評価並びに当該状況に係る情報の提供に関する事項
  • その他業務運営に関する重要事項
2 中期計画の事項(国立大学法人法第31条)
  • 教育研究の質の向上に関する目標を達成するためとるべき措置
  • 業務運営の改善及び効率化に関する目標を達成するためとるべき措置
  • 予算(人件費の見積りを含む。)、収支計画及び資金計画
  • 短期借入金の限度額
  • 重要な財産を譲渡し、又は担保に供しようとするときは、その計画
  • 剰余金の使途
  • その他文部科学省令で定める業務運営に関する事項
(参考)東京大学の平成18年度業務実績報告書
  http://www.u-tokyo.ac.jp/gen02/pdf/keikaku1804.pdf

特に、今回実施される中期評価については、「平成19年度評価」と「中期目標期間中の評価」を同時に行うことになるため、1)平成16~18年度の実施状況、2)平成19年度の実施状況、3)平成20~21年度の実施予定という区分ごとに整理した報告書を作成することが求められ、例年の数倍の分量となりました。

各大学はこれまで、各大学が定めた公約である中期計画の達成のために懸命に努力を続けてきたわけですが、諸般の事情により、どうしても100%の達成が困難な項目は少なからず生じます。

しかしながら、今回の法人化後初となる中期評価については、評価結果を各大学の次期中期目標期間の運営費交付金の額に反映させる、つまり「評価結果が思わしくない場合には運営費交付金を減額する」ことがあらかじめ決定しているため、各大学は、従来の年度評価とは全く異なる緊張感の下、未達成事項の消滅に向け懸命の努力が払われてきたのではないかと思われます。

このような状況の中、残念ながら未達成が確実と判断される事項について、報告書上、あたかも達成したかのような記述を採用したり、エビデンスとなるデータを少々有利に加工するといった「報告書の厚化粧」をしている大学があるとの話を耳にすることがあります。

これは、はっきり言って「報告書の偽造」です。しかも学長や役員の黙視の下に行われているという情報もあり、このような悪質な行為に基づく法人評価がまかり通るとすれば、極めて由々しき事態です。

中期評価の目的は「各大学が自ら公約として掲げた中期計画の達成に総力を挙げて取り組むこと」であり、「大学が受ける運営費交付金を減らさないため、できるだけ有利な評価が得られる報告書の作成に全力を尽くすこと」ではありません。このような本末転倒の事態を今後も許していけば、法人評価制度そのものの存在が危うくなるに違いありません。特に大学の公的性格を踏まえれば決して放置できることではありません。

大学における健全な経営の基本である「PDCAマネジメントサイクル」の実現のためには、「活動を目標と対比し達成度を評価し検証する」ことにより、更なるステップアップを目指すことが何より重要なはずです。未達成を指摘し合い、達成のための努力を互いに促すべきはずの教職員が身内の傷をなめあうような愚かな行為を是とするは、法人評価制度の趣旨に反するばかりか、国民に対して申し開きのできない恥ずべき行為です。

閉鎖性の強い、ともすれば社会から孤立しがちな大学は、これまで世の中に説明できないことを平然と行ってきたきらいがあります。今後とも前記のような所業を続けていけば、必ずや社会から淘汰されることでしょう。これまでの法人評価において心当たりのある大学、役員、教職員はこぞって大いに反省し即刻改めるべきです。

■次期中期目標・中期計画策定に向けた動き

法人評価を行うベースとなるのが、文部科学大臣が作成することになっている「中期目標」(実際は各法人が作成)と、各法人が作成する中期目標の達成に向けた具体的な行動計画である「中期計画」ですが、現在の第1期中期目標・中期計画は、法人化移行時の混乱期に作成されているため、様々な問題点や改善点を指摘する声が多いのは関係者の共通の認識です。

既に、国立大学協会を中心として、次期中期目標・中期計画の在り方についての検討や作業が進められていますが、最終的に決定する権限を有するのは文部科学省であり、文部科学省は、中期目標・中期計画の策定、年度計画の策定、目標・計画を達成するための様々な取組みや作業等々において、これまで多くの国立大学の教職員がどれだけ大変な思いをしてきたのか、その労苦に見合う評価システムだったのか、社会への説明責任という名の下に、結果として中央官庁の机上論に振り回されてきただけではなかったか、などよくよく検証した上で、効率的かつ効果的な評価システムへの改善を真剣に考えていただきたいと思います。

今後の法人評価の在り方に関連して、重要な示唆を与える記事をご紹介しておきたいと思います。

■21世紀の新たな夏の風物詩

暑い夏が来た。我が国の夏の風物詩の蚊帳、ブタの蚊遣り、かき氷などは、最近の生活の中ではあまり見かけなくなったが、誠に情緒豊かである。

公務員の夏の風物詩の一つに概算要求がある。毎年6月、7月は、忙しい業務の合間に概算要求のタマ込めに知恵と汗を出す。

概算要求に加え、21世紀に入り、新たにこの時季の風物詩になったものとして、独立行政法人、国立大学法人、大学共同利用機関法人の決算と業務実績の評価がある。

法人化により、各法人は6月末までの財務諸表等の提出を、新たに義務付けられた。また、各府省の評価委員会が、法人の前年度の業務実績を評価するという仕組も、法人化に伴い創出された。当初は、法人作成資料は少なくするなど評価に係る法人の作業負担を抑えるとの触れ込みであったが、完璧を求める公務員の性か、沢山の評価項目が設定され、山ほどのデータが求められ、法人の事業の向上を目指すような評価とは、かなり縁遠いものとなっているようだ。

もともと法人制度は、法人が創意工夫を促すよう、その裁量を大きくし、事後チェックを重視する趣旨で創られたはずだが、発足後7年経つうちに、給与は国家公務員と横並びが望ましく、人件費も国家公務員時代の定員削減よろしく毎年1%以上削減することとされ、随意契約の基準額も国と同様になるなど、結局、国家公務員時代と変わらない制約の中で自己収入を上げよという、公務員の発想らしい変な制度になってきた。

来年度以降の法人評価は、各府省の評価委員会ではなく、総務省に一元化されるという。評価の全てが無駄というつもりはないが、「角を矯めて牛を殺す」の譬えを、法人評価の関係者に贈りたい。(平成20年7月14日、文教ニュース「文部科学時評」から)